何故か目の前に現れたフィーネ。輪は突然現れた事に戸惑う。
「な、何で……あなたがここに?」
「そうね。まあ話せば長くなりそうね。ちなみに言っておくと、私はフィーネであってフィーネではないわ。」
フィーネが言った事に理解出来ない輪。どういう事かと聞く前に、フィーネが話す。
「正確には、あの子の世界の中に残った、私の意識の残留思念がフィーネとして形成された……言わばこの子の別人格ね。」
フィーネの意識は全て消えたわけではなかった。僅かに残ったフィーネの意識が、この精神世界の主が無意識の内にフィーネとして再形成されてしまったのである。端的に言ってしまえば、二重人格という事である。
「私がこの子の意識を支配する為に、私の一部をこの子だけの世界に侵入した。だけど最終的に、私の一部はあの子の意思によって弾かれて、再びこの世界は瑠璃ちゃんのものになった。」
「ちょっと待ってください?その子ってまさか……」
「お察しの通り、ここは瑠璃ちゃんだけの世界、つまりここは瑠璃ちゃんの精神世界よ。」
瑠璃の精神世界に放り込まれた事、瑠璃が二重人格者だった事に驚くが、それよりも何でこの世界に入れた事も謎である。
「あなたを呼んだのは私。バイデントの繋がる力を利用して、私があなたをこの世界に招いたの。あの頭突きがトリガーになってね。」
「どうして……私なんですか?他にも適任者が……」
「あなた瑠璃ちゃんを心無い言葉で傷つけたでしょう?それであの子イグナイトに失敗して暴走してるのよね〜。」
遠回しに輪のせいだと言っているようなものだが事実なので輪は否定出来ない。
「だからあの子を元に戻す為にはあなたの力が必要なの。」
「私の……?」
フィーネは闇の底へと通ずる穴を指す。
「この先に瑠璃ちゃんがいるわ。でも、私じゃ救えない。だからあなたを待っていたの。」
そう言うと、フィーネは輪の手を引っ張り、そのまま引き寄せてから輪の頬に触れて、顔を近づけると
「んっ……?!」
フィーネと輪の唇同士が重なった。輪は何が起こったのか理解出来ず、フィーネが唇を離すまで硬直していた。
「ここからはあなたの役目よ。」
「え……?!」
「私は……本当は存在してはいけないの。だから消え時を探してたの。まさか、こんな形であなたに力を与えちゃうなんてね。」
そう言うと、フィーネの身体は光に包まれていた。その意味を理解した輪は動揺する。
「何で……そこまでして……」
だが輪の疑問に答えてあげる暇はない。もう消えるまで間もなくとなったフィーネは遮って伝える。
「瑠璃ちゃんに伝えて。私が消えたら、この子を厄災から守る者がいなくなる。だからこれから先、あの子は残酷な運命に立ち向かわなくちゃならなくなるわ。けどこれだけは忘れないでほしい。誰かと繋がる事を、失う事を恐れないで、手を伸ばし続けて。絆は……そうやって強くなっていくものなのよ……。」
遂にフィーネの身体は足から光の粒子となっていく。徐々に身体は消えていき、手も、胴体も消えた。
「絆の力を……信じなさいってね……。」
そう言うと、フィーネは完全に消滅した。フィーネに教えられた、瑠璃がいる方へ、闇の底へと向かった。
頭突きをされた時、精神世界の瑠璃にも影響が出ていた。
(ナ、ナニ……?イタイ……。)
額を押さえて、擦る。それをやめると誰かが近づいてきた。その人には見覚えがあったが、ハッキリとは見えなかった。
(ダレ……?ダレテモイイヤ……。ワタシハ……モウナニモ……カンガエナイ……。)
すると瑠璃を覆う闇の一部が分離する。
輪は泳ぐように瑠璃へと近付いていた。その道中は本当に何もない闇そのものだった。だがその闇は、輪の精神を覆おうとしていた。フィーネの力がなかったら今頃、輪も闇に囚われていた。フィーネに感謝しながら先へと進む。
「いた!瑠璃!瑠璃起きて!瑠璃!」
闇に包まれた瑠璃を見つけ、呼びかけるが応答はしない。今度はもっと近づいて、今度はその手を掴むべきかと考え、さらに底へと向かう。
すると、何かが輪に近付いてきた。
「鏡……?」
鏡が、輪を映し出す。すると
「まさか……響?!」
鏡に映る響の目はどこか冷たかった。
「何で……何で響が……」
「本当に私達に絆なんてあると思いますか?」
突然鏡の向こうにいる響が喋った。後ろを振り返ると、今度は未来が映る鏡があった。
「少なくとも、私達はあなたの事が嫌いです。」
それだけじゃない。下から鏡が浮かび上がり、輪の前に立つと今度はそこに、クリスと翼が映った。
「あたしの事忘れてた癖に……何姉貴ぶってんだよ。」
「お前みたいに剣にもなれない役立たずが風鳴を名乗るとは、恥晒しめ。」
(そっか……ここは瑠璃の中の闇の世界。瑠璃の暴走を促したのって……!)
そう、瑠璃が見たものの正体は鏡に映る幻影だった。瑠璃を闇へと引きずりこもうとするダインスレイフの呪い、それが根源だった。
そして、マリア、調、切歌、弦十郎の幻影鏡が瑠璃の前に立つ。
「この偽善者……!」
「お前なんか役に立たないデス!」
「貧弱なお前に戦う資格などない。」
「お前は所詮、ただの赤の他人だ。父親呼ばわりされる筋合いはない。」
絆を大事にする瑠璃が、こんな事言われたら闇に堕ちてしまうのは仕方のないことだ。ましてや、追い詰めたのは他でもない、輪だ。自分のした事に怒り、拳を握る。
「ごめん……瑠璃。苦しいよね……辛いよね……。全てを否定される痛みは……本当に地獄だもん……。」
そう言うと響が映る鏡を、拳で叩き割った。
「もし……あんたを否定する奴がいたら……私がそいつを壊してあげるから……!」
立て続けに翼、クリスが映る鏡を割っていく。叩き割っても精神世界であっても、鏡を割れば破片で指を切って出血する。痛くても、輪はどんどん割っていき、最後の一枚を破壊した。
「趣味の悪い鏡……。」
そう吐き捨てるとそのまま瑠璃の方へと近付いていく。そして、目と花の先の距離になると、輪波再び呼び掛ける。
「瑠璃!瑠璃!帰ろう!皆が待ってる!もうあんたの悪口を言う鏡はもうないよ!だからこんな暗い所にいないで、帰ろう!」
そう言って手を伸ばそうとした時、それを拒まれたかのように弾かれた。
「な、何……?」
瑠璃を覆った闇と同じものが、輪と瑠璃の間に集まり、それが人の形となって姿を現す。だがその姿というのが
「私……?!」
漆黒の全身が、人と同じ柔肌の姿へと変わる。その風貌は紛れもなく自分自身である。だがその目は無機質で、輝きなんてものは感じ取れなかった。
「あんた!一体……」
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暴れ狂うジークに手がつけられない状態となってしまっており、装者達は既にボロボロだった。6人で戦っているにも関わらず、戦況は幸い呪いに飲み込まれた瑠璃は何故か大人しくなっていた。だが同時に輪も動かなくなっていた。
「どう足掻こうとも、人間ごときが私に勝てるわけがないのだ!」
もはや自らの勝利の為に、己が作られた目的を忘れてしまっていた。
「ジークめ……。やはりこうなったか……。」
キャロルはシャトーの玉座からジークの戦いを眺めていた。こうなる事は想定していたようだ。まさにその様は戦車の暴走だ。
「この程度も止められないようなら……奴らはそこまでだったという事だ。」
だがキャロルは止めようとはせず、不敵な笑みを浮かべながら眺めたままだった。
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自分の写し鏡というべき姿をした幻影が目の前にいる。しかも輪を模した幻影は、沈みゆく瑠璃の身体に、その腕を絡めるように抱き、笑みを浮かべている。輪はそれを見せつけられ、嫌悪感を示す。
「何のつもり?瑠璃から離れ……」
「よくのうのうと来れたね。裏切り者。」
突然裏切り者と呼ばれ、たじろいでしまう。だが本当の事なので否定出来ない。
「楽しかったでしょう?復讐の時間。楽しそうだったもんね。分かるよ。」
「あんたには関係ない!瑠璃から離れて!」
「関係あるよ。私はあなた、あなたは私。だからあなたの事は全て分かる。」
「嘘だ!そんな嘘、私は……」
「世界なんて無くなっちゃえばいい。そう言ったのはどこの誰かな?」
あの火災が起きた日、ガリィと密会していた時に、先程のセリフを呟いた。覚えているが故に言い逃れが出来ない。
「風鳴翼に復讐したかったんでしょう?怒りや恨みは理屈ではどうにもならない。その通りだよ。だからやってしまえばいいじゃん。」
「でも……そんな事をしても……」
「瑠璃は悲しむ?もう悲しむことはないよ。瑠璃は闇の中で静かに眠っているよ。絆を断ち切ったこの子にあるのは闇だけ。つまり……もう私だけのもの。」
そういうと輪の幻影は闇に染まった瑠璃を強く抱きしめ、心臓がある場所を、大きな胸も揉むように触れる。
「瑠璃に触るなぁ!」
輪の幻影を突放そうと手を伸ばすが、その右手には禍々しい鎖が絡みつく。右手だけではない、四肢に鎖が巻き付き、胴体にも絡みつく。
「ここは瑠璃の世界。裏切り者のあなたは受け入れられないんだよ。」
輪は鎖を引き千切ろうとするが、動けない。しかもその鎖は瑠璃と輪を引き離そうとしており、徐々に距離が開いていく。
「瑠璃、聞いて!私は……本当は瑠璃が大好きなの!確かに出会った頃は騙してたし、チョロいなって思ってたよ!でも、一緒に過ごす内に私は瑠璃の綺麗な心に惹かれたの!だから、そんな瑠璃を裏切った自分が許せなくて、こんな醜い私じゃ……もう友達じゃいられないと思って、あんな酷い事を言っちゃったの!」
輪の偽らざる本音を瑠璃にぶつける。
「許してくれるなんて思ってない!だけど瑠璃……私は……」
『もう友達じゃない。この子は風鳴翼に復讐する為に利用したただの駒。都合の良い女。』
出鱈目と反論は出来なかった。それは最初に感じていた事だったからだ。だがもう今は違う。そう言いかけた時……
『私は瑠璃を盾に復讐を一度はやめた。けど、キャロルと会って、あのライブが聖遺物の起動実験だったと知って、復讐の炎が燃え上がった。だから私は友達より復讐を選んだ。友達を捨てたあんたが……また友達になりたい?都合が良すぎるよ。』
自分が犯した罪を突きつけられ、俯いてしまう。瑠璃の幻影は笑みを浮かべた。鎖によって少しずつ引き上げられ、離れていく。
「ハハハ……ハハ……アハハハハハハ!」
突然笑い出した。その笑い声は例え聞いているものがいなくても、この空間にいたとしたら全員聞こえてしまう程に馬鹿笑いが止まらない。
『何がおかしいの?!』
「あんた、あたしの事を知ってると言う割には何にも分かってないんだね!そうだよ!それが私だよ!私は自分の為なら何でもする!最低な超悪い子!だから私はもう一度瑠璃の隣に立ちたい!本当の私を知ってほしい!」
あまりにも身勝手な輪に、幻影もたじろいだ。こんな我儘な奴が友達だというのかと。
『そんな……そんなこ瑠璃が受け入れるはずがない……!そんなの身勝手な……はっ……!おまえ……!』
一瞬、輪の威圧がフィーネを彷彿とさせた。しかも鎖にヒビが入っている。フィーネが輪に力を与えていた事に気付いた。
「受け入れてくれるよ。あの子の事はよく知ってる。いい?!一度しか教えないからよーく聞くことね!この子は真面目で!臆病で泣き虫で!すぐに人の言う事を信じるお人好し!いっつも自分に厳しくて他人には超激甘!極度のファミリーコンプレックスで、胸もやたらデカい!そんてもって経歴も滅茶苦茶だけど世界で一番可愛くて美人で肝が座った女の子なんだ!」
瑠璃に対して思っている事を全てぶちまけた。自分でも恥ずかしくなるくらいだが後悔はしていない。
「何にも知らない、理屈ばっかな幻影が、私と瑠璃の絆を語るな!さっさと消えろ、この大馬鹿野郎がああああああああぁぁぁぁぁぁ!!」
輪が叫ぶと、鎖が粉々に砕け散り、辺りが光出して輪の幻影が塵のように消滅した。もうこれで二人を阻む者はいない。
輪は再び近づいて、瑠璃の右手首を掴む。
「瑠璃……起きて。」
すると、闇に包まれた瑠璃の赤い目が開いた。
「リン……?」
「おはよう、瑠璃。」
輪は優しく微笑む。
「ナンデ……ナンデ……ココニ……?」
瑠璃の問に輪は唐突に抱きしめた。すると、瑠璃の顔を覆う闇が祓われ、その素顔がさらけ出している。
「ごめんね瑠璃。私は瑠璃を利用して、あんな酷い事を言って悲しませた。今更許してくれないかもしれないけど、私は瑠璃の友達でいたい。また一からやり直したい。駄目かな?」
偽らざる思いを伝える。今度は嘘じゃない。本当の自分を瑠璃に伝える。
「リン……。イイノ?まタ友ダチとしテ……一緒ニ……いてくれるの?」
「当たり前だよ。私達は……親友でしょう?」
「うん……!」
瑠璃は涙を流しながら、答えた。
精神世界の闇によって黒く染まった瑠璃の身体が、闇から解放されるかのように生まれたままの姿に戻った。
「瑠璃は、私がもう戦わなくて良いって言ってくれたよね?私、もう逃げないよ。でも一人じゃ不安だから……一緒に戦ってほしい。私も、瑠璃と一緒に戦うよ。」
「うん。今度は二人で。」
「「私達の絆の力で!」」
二人は笑い合う。両手を重ねて、二人の額はそっと触れ合うと、二人を中心に眩い光を発し、暗い闇の底は払われた。
G編の時に見た夢、実は残っていたフィーネの意識を通じて一時的に調と同調していました。
本編では語られませんでしたが調も瑠璃と一時的に同調して、クリスの名前を読んだことがありますが、気のせいだと思い、そのままにしてました。
そして艦内の独房で瑠璃は調にレズキスされた事で、瑠璃は調の中にフィーネがいると確信しました。