要石防衛の任務は失敗した。弦十郎に通信で破壊された要石を見ながらそれを報告する。
『要石の防衛に失敗しました。申し訳ありません。』
「二点を同時に攻められるとはな……。」
『二点?!まさか!』
艦内ブリッジのモニターには深淵の竜宮内部の映像が映っており、そこには死んだとされていたキャロルがレイアを伴って、中を歩いている。
少し遡る。病室で弦十郎から事情聴取を受けていた輪。裏切り者だった輪の証言でキャロルが生きていたと証言していた。
『キャロルが生きていた……だと?!』
『うん……。あの時、確かにキャロルは自決したはず。遺体だって燃えてて、それで灰になってたのに。裏切り者だってバレて、あいつらの本拠地に連れてかれた時に……あの子が五体満足で生きてるのを見た。あの時……何か……よびくたい……って言ってた。』
その証言を元に、エルフナイン話は仮設を立てた。
『キャロルは事切れた時の為に、予備躯体、つまり換えの身体を用意してあったと思われます。ですが……キャロルは長い時を生きているので、思い出のインストールには相当な時間を要します。それがこんなに早く……。』
エルフナインも解せない点もあるようだが、いずれにしろキャロルは生きているという事に変わりはない。
そんな事があり、装者達もキャロル生存の情報を耳にしている。
「閻魔様に土下座して、蘇ったのか?!」
「奴らの策に乗るのは小癪だが、見過ごすわけにはいくまい。クリス君は、調君と切歌君と、一緒に行ってくれ。」
「おおよ!」
クリスは弦十郎の指令に応えた。
元々潜水艦は深淵の竜宮へ向かっていたので、すぐに到着した。弦十郎の指令によって、クリスは調と切歌を伴い、小型の潜水艇で竜宮の海底ドッグに入ると、そこに潜水艇を駐めた。
「ここが深淵の竜宮?」
「だだっ広いデス!」
深淵の竜宮は多くの異端技術が厳重に保管されている施設であり、その広さに調と切歌が驚く。
「ピクニックじゃねえんだ。行くぞ。」
クリスを先頭に調と切歌がついて行く。
一方本部の潜水艦でも装者3人をサポートするべく、情報収集に走る。そこに藤尭から報告が入る。
「施設構造データ、取得しました。」
「キャロルの目的は世界の破壊。ここに収められた聖遺物、もしくはそれに類する危険物を手に入れようとしているに違いありません。」
「敵の出方を知る為にも目星をつくなら都合がいいか。友里、秘蔵物のリスト化を急げ!」
「はい!」
敵の思惑を知り、目的を阻止する為にも友里はリスト化を急いだ。
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逃げてクリス!
きっと帰れる……。また……クリスと一緒に……。
だ……いや……いやだ……嫌……
いやあああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!
「あああああああああぁぁぁぁぁっ!!」
突如、瑠璃は悲鳴をあげるように起き上がった。息も荒く、脂汗が頬を伝う。周りを見るとここが八紘邸の部屋であり、自分がこの畳の上に敷かれた布団で眠っているのが分かる。既に夜になっており、月の光が僅かに庭を照らしていた。
「今のって……夢……?」
夢にしては妙にリアルで生々しかった。だが既にその見た夢は殆ど霞みかかってしまった。
そこに駆け込むような足音が聞こえてきた。
「大丈夫瑠璃?!」
「敵か?!」
瑠璃の悲鳴を聞き、駆けつけた翼とマリア。
「あ……大丈夫だよ。ごめんなさい……ちょっと悪い夢を見ていたみたいで……。」
それを聞いた二人は安堵した。
「瑠璃、翼のパパさんが呼んでたわ。」
「八紘叔父様が……?」
瑠璃は着替えて、八紘のいる書斎へと向かった。
「入れ。」
「失礼します。」
八紘の応答で瑠璃は書斎に入った。そこには緒川もいる。緒川が瑠璃の身を心配する。
「身体は大丈夫ですか?」
「は、はい……。問題ありません。」
「そうか。流石、弦の娘だな。」
瑠璃の返事に、八紘は表情は変えなかったが称賛した。
(お姉ちゃんにも同じ事を言ってあげてくれたって良いと思うのに……。)
内心呟く。八紘は山のように積まれている資料ファイルを手に取り、瑠璃に渡す。
「これは……?」
「アーネンエルベに頼んだ調査報告だ。二人にも既に伝えてある。」
「アーネンエルベ……。あのレオン事務局長の……」
「ああ。お前を相当買っている様子だ。お陰であいつに色々と頼みやすくなった。」
レオンとの思い出はろくなものがないのだが、決して悪い人ではなかった。むしろ良い人なのだろうが、瑠璃にとってあの褒め殺しパレードは公開処刑なので、忘れようとしていたのだが、その名前が出た事で思い出してしまい苦笑いをする。
八紘が咳払いをする。
「話を戻そう。報告によると、赤い物質は『プリマ・マテリア』。万能の溶媒、アルカ・ヘストによって分解・還元された、物質の根源要素らしい。」
「えっと…ぷりま?あるか……へす……と?」
瑠璃は八紘の口から次々と出る単語の理解が追いついていない。
「理解が追いつかぬのも無理はない。それについては、然るべき場所で分析させて知ると良い。」
「は、はい。」
瑠璃と緒川は段ボールでそれらの資料ファイルを詰め込む。それが終わると、これらを瑠璃と緒川で運ぼうとした時
「瑠璃。」
「は、はい。」
八紘に声を掛けられ、そちらに向く。
「翼を頼むぞ。」
その一言は瑠璃を驚かせた。翼に対してあれだけ冷遇してきた人とは思えない口ぶりに、瑠璃はもしかしたらと思った。そこで、ここに訪れた時、言えなかった事を、今ここで言う。
「あの、八紘叔父様。」
「何だ?」
瑠璃の方に向き直る八紘。瑠璃は一呼吸置くと
「その前に……お姉ちゃんと一度……真剣に向き合って話してください。」
「何を話す必要がある?あれは私の……」
「お願いします。」
瑠璃が頭を下げた。緒川も瑠璃の突然の行動には驚いたが、制止せずあえて見守る。
「余計なお世話だって事は分かってます。ですが……お姉ちゃんに……その優しさを少しでも良いので、見せてあげてください。お姉ちゃん……ずっと一人で頑張ってたんです。自分を押し殺して……。」
瑠璃は拳を握って続ける。
「どんな人間でも……言葉にして伝えなきゃ……伝えられません。お姉ちゃんが一人で苦しむ姿は……見たくないんです……。だからお願いします……!お姉ちゃんにとってのお父さんは……たった一人なんですから……。」
翼から以前、出生の事で話を聞いていた。翼もそれを知る切っ掛けが現当主である風鳴訃堂は、次の跡取りとして八紘や弦十郎を差し置いて、産まれたばかりの翼を選んだ事だったという。何と訃堂が八紘の妻、つまり翼の母親に己の血を色濃く絶やさぬように孕ませられ、産まれたのが翼だというのだ。
それを聞いた時、何故八紘があれだけ翼に冷遇するのか、何となくではあるが察した。だが今回の八紘が見せた翼を気遣う気持ちを見て、その冷遇が偽りである事に気付いた。血は繋がってなくても家族である事には変わりはない、それを一番よく理解している瑠璃だからこそ取った行動だ。
「瑠璃……。」
初めて邂逅した時の、内気だった瑠璃とはまるで違かった。八紘は顔には出さないが、その成長ぶりに内心驚いていた。
(弦……お前の娘には驚かされるな……。)
そこに外から破壊音が聞こえた。
「もしかして……!」
だが要石を破壊した以上、ここにはもう用はないはず。
「すみません、行ってきます!」
真偽を確かめる為に瑠璃は急いで書斎から出て行き、破壊音がした方へと向かう。
瑠璃が翼達と合流して現場に到着した時、嫌な予感は的中した。ファラが再び襲撃を仕掛けて来た。
「目覚めたようね。」
「要石を破壊した今、貴様に何の目的がある?!」
「私は歌が聴きたいだけ……。」
翼の問いかけに、ファラが全てを語ろうとしないのは見て分かった。ならばやることは一つ。
Seilien coffin airget-lamh tron……
マリア達はそれぞれの起動詠唱を唄い、ギアを纏う。翼が先陣を切り、マリアが複製した短剣を投擲し、瑠璃が黒槍のお先からエネルギー波を放つ。
しかしファラはそれらを軽々と避け、ここまで来いと言わんばかりの立ち振る舞いで惑わす。マリアと瑠璃はファラを追おうとするが、ファラが生み出した竜巻によって、翼と分断されてしまう。
マリアは強引に突破しようと短剣を、蛇腹剣へと形を変えて振り下ろす。
【EMPRESS†REBELLION】
しかし、要石防衛の時と同じくアガート・ラームも剣と定義されてしまった以上、蛇腹剣も呆気なく砕かれ、竜巻はそのままマリアの方へと向かう。
だが瑠璃がすかさずその前に立ち、風には風をぶつけようと、連結させた槍を高速回転させて、竜巻を発生させる。
【Harping Tornado】
槍であればソードブレイカーの餌食にはならない。竜巻を相殺させ、すぐに翼の援護に周る。
「来るな!」
突如、翼に援護を拒否されてしまった事に理解出来なかった。
「この身は剣!私が切り開く!」
翼は単騎でファラに挑む。だが、相手は剣殺しの哲学兵装である。
「その身が剣であるなら、哲学が凌辱しましょう。」
ファラがソードブレイカーを振り上げると、そこから暴風を発生させ、翼を襲う。翼は刀を構え、踏ん張ろうとするも、その風によって刀が崩れ去った。
「砕かれてしまう……剣と鍛えた、この身も……誇りも……。」
そのまま押し切られてしまい、翼は吹き飛ばされた。
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同じ頃、竜宮の深淵のセキュリティシステムを艦内のコンピューターにリンクさせると、保管リストがモニターに並べられる。それらを一つずつ見ていくと、エルフナインがあるものを見つけた。
「ヤントラ・サルヴァスパ……!」
「何だそれは?」
弦十郎がエルフナインに問いかける。
「あらゆる機械の起動と、制御を可能にする情報収集体。キャロルがトリガーパーツを手に入れれば……『ワールド・デストラクター・チフォージュ・シャトー』は完成してしまいます。」
つまりキャロルはヤントラ・サルヴァスパを手に入れる為に竜宮の深淵に現れた。急いでそれが保管されている区域を調べたが、既にキャロルはヤントラ・サルヴァスパを手にしていた。
「クリス君!急いでくれ!キャロル達は既にヤントラ・サルヴァスパを手中に収めている!」
『焦ってんじゃねえ!あたしの目では、もうロックオン済みだっての!』
急行していたクリス達は既にキャロルを捉えていた。クリスは腰のアーマージャッキを展開させると小型ミサイルをキャロルに向けて放った。
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ソードブレイカーによって倒れた翼は起き上がろうとするが、その身に襲う痛みが、翼を起き上がらせないようにしている。
「そんな……たった一撃で……!」
瑠璃の言う通り、あれだけなら翼は立ち上がるはず。だが今の翼は己を剣としている以上、ソードブレイカーによって通常のダメージより多く受けている。
「夢に破れ……それでもすがった誇りで戦ってみたものの……くぅっ……!どこまで無力なのだ、私は……!」
全霊を持ってしても勝てず、地に這いつくばっている事に悔しさを滲ませる。
「お姉ちゃん!」
「翼!」
「翼さん!」
瑠璃、マリア、緒川の声も届かず、悔しさに打ちひしがれている。もはや勝機がない、そう思った。
「翼!」
翼は声がした方を向く。瑠璃でも、マリアでも、緒川でもない。では誰か?
「お父様……?」
声の主は八紘だった。戦線であり、身を守るものがないにも関わらず、ここに現れた。
「唄え翼!」
「ですが私では、風鳴の道具にも、剣にも……」
「ならなくていい!」
風鳴の習わしに長く生きた八紘らしからぬ物言いに、戸惑った翼。
「夢を見続ける事を恐れるな!」
それは剣にではなく、娘に掛けた言葉だった。
「私の……夢……?」
「そうだ!翼の部屋、10年間そのまんまなんかじゃない!」
翼の私室は服や下着、本や開けっ放しのCDカバーなど、散らかっていた部屋だった。だがマリアはある事に気付いていた。
「散らかっていても、塵一つなかった!お前との想い出を無くさないよう、そのままに保たれていたのがあの部屋だ!娘を疎んだ父親のすることではない!いい加減に気付け馬鹿娘!!」
あの部屋の真意に気付いた翼は涙を流した。
「まさかお父様は……私が夢を僅かでも追いかけられるよう……風鳴の家より遠ざけてきた……?それが、お父様の望みならば……私はもう一度、夢を見てもいいのですか……?」
八紘は何も告げずに頷く。
(本当に余計なお世話だったかな……。でも……それで良かったのかも……。)
やっと八紘が翼に父親として語り掛け、翼がその真意に気づいてくれた。瑠璃はそれが自分の事のように嬉しくなった。
翼は立ち上がる。
「ならば聴いてください!イグナイトモジュール、抜剣!!」
翼はイグナイトモジュールを用いて、漆黒のギアを纏う。再びファラに単騎で攻撃を仕掛ける。
「味見させていただきます。」
翼は跳躍し、そのまま黒く染まった刀を振り下ろして、エネルギーの斬撃を放つ。
【蒼ノ一閃】
ファラのソードブレイカーによって受け流されるも、再び蒼ノ一閃を放つ。
同じタイミングでクリス達もキャロルと交戦を開始した。クリスがキャロルを、切歌はレイア、調はアルカ・ノイズを担当し、それぞれ攻撃を仕掛ける。
アルカ・ノイズの方は数も多くなく、調が単騎で全て葬った。レイアの方も、戦闘特化のミカの火力、ジークの搦手と比べればレイアはそういったものは備えていない分、やりやすかった。
調はアルカ・ノイズを殲滅させた後、標的をキャロルに変えて、アームを開いて無数の小型鋸を放つ。キャロルは片手で形成したバリアでクリスの弾幕と調の鋸を防ぐ。これくらいは容易い。はずだった
「ぐっ……!」
このタイミングで拒絶反応が起きてしまい、一瞬バリアが解け、その右手に持っていたヤントラ・サルヴァスパが調の鋸によって真っ二つにされた。
「ヤントラ・サルヴァスパが!」
「その隙は見逃さねええぇ!!」
クリスが大型、小型のミサイルを一斉掃射した。
【MEGA DETH QUARTET】
「地味に窮地……!」
流石のレイアも追い詰められているのか、表情に焦りが見えているが、弾いたコインで無数のミサイルを撃ち落とす。しかし必要なコインが足りず、大型のミサイルが一本キャロルにそのまま向かった。
「マスター!」
レイアは叫ぶが、キャロルは拒絶反応で苦しみ、防御が間に合わない。ミサイルがキャロルの眼前に迫った。
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高く飛翔した翼はエネルギー剣を無数に放った。
【千ノ落涙】
「いくら出力を増したところで……」
ソードブレイカーによって全て弾かれ、さらにもう一本、ソードブレイカーを出し、二刀流になった。
「その存在が剣である以上、私には毛ほどの傷すら負わせることは敵わない。」
たとえエネルギーでも剣と定義されてしまう以上、ファラの言う通り、毛ほどの傷も与えられない。ファラは右手に持つソードブレイカーの剣先を翼に向けて、接近する。
翼は八紘が語りかけた言葉を思い出した。
夢を見続ける事を恐れるな!
「剣にあらず!」
そう言うと、翼は逆立ち、脚を広げて脚部のブレードを展開させると高速回転する。2つの刃がぶつかった時、ソードブレイカーがへし折られた。
「あり得ない……!哲学の牙が何故?!」
あり得ない事態に、ファラは狼狽える。翼は脚部のブレードに炎を纏わせ、それぞれの手に刀が握られている。
「貴様はこれを剣と呼ぶのか……?否!これは、夢に向かって羽撃く『翼』!」
翼は星が煌めく夜空を高く飛翔する。
「貴様の哲学に、翼は折れぬと心得よおおおぉぉ!!」
今まさに、この瞬間から剣ではなく、『夢へと羽撃く翼』となった翼。身体を高速回転させながら、翼となった刀で、ファラへと接近した。ソードブレイカーで迎え撃つも既に剣ではなくなった翼によって、哲学の牙は自身の身体も真っ二つに両断された。
【羅刹・零ノ型】
ファラは狂ったように、高らかに笑った。
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誰もが勝った、そう思った。だがここに招かれざる客が現れた。その者は自らの意思でネフィリムの左腕へと変貌させ、その手でミサイルを片手で受け止めた。クリスは驚愕を隠せなかった。
「何がどうなってやがる……?!」
「ハハハハハハ!久方ぶりの聖遺物……この味は甘く蕩けて癖になるうぅぅ!」
そう言うとミサイルを吸収した。
「嘘……」
「嘘デスよ!」
忘れもしないこの狂気の声。調と切歌にとってはジャンヌとナスターシャを死に追いやったマッドサイエンティスト。
「嘘なものか。僕こそが真実の人ぉ……!」
その者は座り込んで、目が点になるほどに驚いているキャロルを背後に、ポーズを決めながら叫んだ。
「Dr.ウェルゥゥゥ!!」
今回こんなに多機能フォームの種類を使ったのは初めてかも……。