現在は修正し、こっちが本当の淀む空です。
訂正してお詫び申し上げます。
そして今回から主役の出番が激減する事もお詫び申し上げます。
響はいろんな悩みを抱えていた。装者や二課の事について親友である未来に秘匿している事、その未来と今日お好み焼き屋であるふらわーに行けなくなったこと、そして瑠璃が攫われた事、多くの要因が重なり気が重くなっていた。
だがこれも人の為、世の為。響は今日も装者として活動していく。
少し前に二課のエージェント兼翼のマネージャーを務める緒川慎次から密かにメールを受け取っていた。翼のお見舞いに行ってほしいというものだった。
今までは瑠璃が毎日通っていたのだが、瑠璃が攫われ他に頼める人が響しかいなかった。なお今回助っ人として輪も同行するようなので、病院前で合流した。
「いやー前回はノイズに襲われて行けなかったからなー。っていうかまさか同じ病院に入院してたなんてねぇー。」
とても先日ノイズに襲われて死にかけた人間とは思えない程の精神の持ち主だった。
しかも何を隠そう怪我人である。一応リハビリのお陰で松葉杖での歩行は出来るようになり、無事退院した。
ただ今回は車椅子に乗っている。
「あの、輪さん。瑠璃さんの事で無理してませんか?」
聞きにくそうに輪に聞いてみた。
「ないって言ったら嘘になるかな。やっぱり瑠璃の事が心配だね。私、瑠璃がいないとやっぱ駄目みたいでさ。カメラを持ってきてもらったんだけど、何も写真撮ってないんだ。」
今日は自前のカメラを出している所をほとんど見てない事に気づいた響。
「私の撮る写真、瑠璃がいるから輝けるんだなって気付いたの。どんなに写真を撮っても、全然足りないっていうか、何を撮っても虚しさが残るんだよね。」
響はどこか共感できる所があった。
この人にとって瑠璃は自分でいう未来のような存在なんだと。
出会ったのがつい最近であっても、互いに理解し合い、喜びも悲しみも分かち合えるもう一人の自分のような存在。
「あの、よろしかったら撮った写真、見せてもらってもいいですか?」
「良いよ。ちょっと待っててね〜。」
鞄を漁るとデジタルカメラを出す。カメラの電源を起動して、撮影ファイルを映す。
「どれも瑠璃さんが写ってますね。」
「私の写真は瑠璃がいて、初めて彩るんだよ!」
図書館で本を読む瑠璃、夕焼けを背景に佇む瑠璃、体操着で50m走を走る瑠璃など、全部の写真に瑠璃が写っている。だが輪があることに気付いた。
「あれ?写真……ない!何で?!」
響からカメラをふんだくると撮っていた筈の写真がない事に気づいた。いくら探しても見つからず、輪は落ち込んでしまう。
「輪さん、あの……何の写真が?」
「ああ。あの時、殴られて気を失ったんだけど、目が覚めた時に、何か手掛かりを残すべく撮っておいたんだよね。けど……この様子だと消されたなこれ。」
つまり輪は瑠璃を探そうとしているという事になる。それに気付いた響はもの凄い剣幕で反対する。
ただ他の人の目と耳もあるので、聞かれない程度の小声で話す。
「輪さん、危ないですよそんなことしたら……!もしノイズに襲われでもしたら……!」
もしギアを持たない輪がノイズに襲われたら何も出来ず殺されてしまうだけだ。
「そんなの覚悟の上だよ。私は瑠璃を取り戻す為なら何でもする。例え、あの子が相手でも……」
輪の言うあの子は、ネフシュタンの鎧を纏った少女の事だと響は思った。輪を見れば、その決意の固さが伺える。だが、完全聖遺物を相手に一般人が勝てるわけがない。
「なら、私が瑠璃さんを取り戻さなくちゃいけませんね。」
「え?」
「輪さんの思いは分かりました。でもこれ以上、輪さんに危険な事はさせられません。だから私がこの力で絶対に瑠璃さんを助けます。瑠璃さんが一人で泣いているのなら、その手を差し伸べます。だから、輪さんは、ちゃんと怪我を治してください。瑠璃さんの事は私達に任せてください。」
そういうと響は自分の胸をポンと叩く。
「ありがとう。私、戦えないからこんな事頼むのも本来おこがましいんだろうけど……瑠璃を助けてください。お願いします。」
そういうと輪は頭を下げた。
「わ、分かりましたから顔を上げてください!」
今のやり取りを他の人に見られて反応は様々だったが羞恥心が隠せなかった二人であった。
響が咳払いをして仕切り直す。
「ですが、輪さんの思い、託されました!」
「託したぞ、後輩!」
響が輪に拳を突き出す。輪もそれに応えるように、拳を合わせた。
翼の病室に着いた二人はそれぞれ異なる意味で緊張していた。二人とも深呼吸をしてノックする。
「翼さん、響です。」
だが応答がなかった。
「寝てるのかな?」
「失礼しま……うえぇっ?!」
響が戸を開けるとそこは無惨にも雑誌や下着が荒らされていた。
「響、これ!」
「あわわわ、まさか今度は翼さんまでもが敵に攫われるなんて……」
「何をしているの?」
後ろから当の本人がやってきた。
翼はまだまともに歩ける状態ではなく、点滴に繋がれたまま、松葉杖で移動をしている。
「翼さん大丈夫ですか?!」
「どこか怪我はないですか?!」
「入院患者に安否確認ってどういうこと?そもそもあなたも怪我人でしょう?」
話の意図が読めず怪訝な顔をしているが、二人は慌てたままだった。
「「だってこれ!」」
同時に部屋の状態を指差すと翼は顔を赤くした。輪はその表情を見て怪しげな顔をした。
「あの、まさかと思いますけど……。この惨状の犯人、あなたですか?」
その意味に響はようやく気づいたようで、これは翼がした事なのだと理解した。
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洋館では瑠璃が心身共に虐待され疲弊しきっていた。
今は拘束から解放されているが、とても逃げ出せるような状態ではない。
愛する父が、本当の父親ではないと告げられ、さらに自分は風鳴の役立たずだから隠し事をされ、偽りの人生のレールの上を歩かせられているのだとフィーネに吹き込まれた。
普段の瑠璃ならこのような戯言を信じはしなかった。だが数々の証拠、思い当たる節が幾つもあり、心身共に追い詰められている状態で考える余裕が無かった。
(助……けて……)
するとフィーネが戻って来た。
「よく耐えたわね、ルリ。さあ、これはご褒美よ。」
フィーネは手に持っていたペンダントを瑠璃の首にかける。
「その力があれば、あなたは本当の自分になれる。もう偽物でいる必要はないわ。」
フィーネが囁いたのと同時に何か浮かび上がってきた。
(これは……歌?)
「さあ、ルリ。あなたの歌を聞かせて。」
そういうとフィーネと瑠璃の唇同士が重なる。
そうして瑠璃の瞳は淀み、無機質なものへと変わり、次第に瑠璃の意識は闇へと落ちていった。
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翼の病室で散らかっていた私物を、響と輪で片付けると見違えるように整われており、足の踏み場がなかったあの悲惨な状況とはおさらばしている。
翼はそんな二人の背を見ながら顔を赤くしていた。
「もう、そんなのいいから……」
「私達、緒川さんからお見舞いを頼まれたんです。だからお片付けさせてください。」
「そうですよ。それに翼さんはみんなが憧れるトップアーティストなんですから、あんな惨状を見られてファンが離れるのは嫌ですし。」
さらに顔を赤くさせる翼。
「っていうか翼さん、これ今までどうしてたんですか?」
「普段は緒川さんがやってくれるんだけど、入院してからは瑠璃がやってくれてる。」
「緒川さん?」
「えぇっ?!男の人にですか?!」
「嘘ぉ?!」
輪は緒川を知らないが、男の人であると響の口から聞いたので唖然した。
「た、確かに、いろいろと問題ありそうなんだけど、それでも、散らかしっぱなしっていうのも、よくないから、つい……」
(駄目なやつだ……これ外に知られたら駄目なやつだ……。)
今回見た事は心の中に留めておこう、そう悟った輪である。
「叔父様から聞いたわ、瑠璃が攫われたって。」
翼に話を切り出され響は守り切れなかった事を、翼に謝る。
「すみません。大事な家族を守れなくて……。輪さんにも怖い思いをさせちゃって……」
「別に良いんだよ。まあ、確かに怖かったよ?でもさ、響はそれ以上に地獄を見てるんじゃないかなって、考えちゃうんだよね。それに翼さんだって、苦しんでたんじゃないんですか?」
図星だったようで2人は僅かだが驚いていた。
「どうしてそう思ったの?」
「だって、あの力を持ったからには死ぬまで戦わなくちゃいけないんでしょう?その上で、どうしても救えなかった命や、失ったものがあるのだとしたら、それこそ生き地獄なんじゃないかなって。翼さん、前にツヴァイウィングっていうユニット組んでましたもんね。天羽奏さんが亡くなるまで。今思えばもしかしてって思うんです。」
「あなたって、まるで探偵みたいね。」
「恐縮です。」
輪には翼に一礼する。
「そうね、奏も私と同じ装者だった。血反吐に塗れながらも掴み取った奏を、私は尊敬していた。でも、奏はあのライブで歌いきって死んだ。そしてその力は彼女、立花に受け継がれている。」
最初は真剣に聞いていたが、その言葉の意味を理解した輪は驚きながら響を見た。
「あれ……?もしかして響って……あのライブにいたの?」
「はい。あの時のライブにいました。」
勘の良い輪でもそこまでは読めなかった。
あの事件では確かにノイズによる犠牲者が多かったと聞いているが、全体の死者数の割合では人災的なものによるとされている故に、生存者の多くがバッシングに遭っていると報道されていた。
(そうだったんだ……じゃああのライブ……何か……。)
「出水さん?どうしたの?」
「え?いや、ちょっと響があのライブにいたのがちょっとビックリしたっていいますか。アハハハ……!」
「それって……」
「あ、そうだ!私、二課の外部協力者としてオジサンに認めてもらえたんです!」
無理矢理話題を変えるように報告した。
外部協力者といっても外部協力者が出来る事はノイズが発生した時に住民がパニックにならないように避難誘導だけだが、それでも二課の協力が出来るだけでも十分だと輪は了承したという。
「え、ええ……それについては報告書で知ったわ。私が抜けた穴を、立花さんがよく埋めているということもね。」
「そ、そんなこと全然ありません!いつも二課の皆に助けられっぱなしです!」
響が慌てる顔を見て可笑しかったのかクスリと笑う翼。
「そう、だからこそ聞かせてほしいの。あなたの戦う理由を。」
途端に真剣な顔になる。
「ノイズとの戦いは遊びではない。それは、今日まで死線を超えてきたあなたならわかるはず。」
翼の問答に何て答えればいいか分からず、一度は俯く。だが、輪が背中を強く叩く。
「難しく考えなくて良いんだよ。響は響らしく、正面から向かっていきなよ。」
「輪さん……。」
まだ何て言ったら良いか分からないが、それでも自分の思いを打ち明ける。
「よくわかりません……。私、人助けが趣味みたいなものだから、それで……」
「それで、それだけで……?」
「だって、勉強とか、スポーツは誰かと競い合って結果を出すしかないけど、人助けってだれかと競い合わなくていいじゃないですか。私には特技とか、人に誇れるものがないから。せめて、自分のできることでみんなの役にたてればいいかなぁって。えへへ……」
最初は笑っていたが、徐々に声も表情も真面目になっていく。
「きっかけは、きっかけはやっぱり、あの事件かもしれません……。私を救うために、奏さんが命を燃やした二年前のライブ。奏さんだけじゃありません、あの日、たくさんの人がそこで亡くなりました。でも、私は生き残って、今日も笑ってご飯を食べたりしています。だからせめて、誰かの役に立ちたいんです。明日もまた笑ったり、ご飯食べたりしたいから……人助けをしたいんです!」
それが響が戦う理由であると知った翼は、目を瞑る。
「あなたらしいポジティブな理由ね。だけど、その思いは前向きな自殺衝動かもしれない。」
「自殺衝動?!」
そこに輪も翼の発言に同調する。
「確かにそうかも。」
「輪さんまで?!」
「だって、まるで自分を犠牲にする事で自分が生き残った罪悪感から救われたいっていうような感じがするから。」
「そうね。ある意味自己断罪の表れかもしれないわね。」
響は二人が何か共感している姿を見て、何でそんなに笑っているのか分からず置いてけぼりを食らっている。
「出水さん、悪いけどここからは二人きりで話がしたいから……その……」
装者としての話に輪は関係ないので、二人きりになりたいが、上手く言葉に出せず申し訳なさそうな顔をする。
「ああ。ですね。じゃあ今日の所は帰ります。また来ても良いですか?」
「ええ。でも怪我に障らない程度にね。」
「はーい。」
事情を察した輪は病室から出る。戸を占める前に
「あの。瑠璃の事、よろしくお願いします!」
そう一礼して、病室の戸を閉めた。
やっとここまで来た……。
いよいよだぁ……。
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