私、出水輪はS.O.N.G.の皆を裏切った。動機は風鳴翼の破滅。一度は誰かを憎む事をやめた私が、キャロルによって、再び燃え上がらせてしまった……ううん……違う。本当は、心のどこかで踏ん切りをつけてなかったんだ。じゃなきゃ……あの時、ガリィに連れて行かれた時から……ちゃんと断る事が出来たはず……。
授業を終えた放課後、瑠璃はクリスと本部へと行ってしまい、帰りは私一人だけだった。小夜姉、今日は夜勤だから今日は晩御飯は一人で済ませなくちゃいけなかった。せっかくだから久々にふらわーに行こうとした時だった。人が倒れているのを見つけた。
「大丈夫ですか?!分かりま……っ!」
既に死んでいた。顔を見ると、血でも吸われたのかのように肌や髪が白く、痩せ細っていた。しかも、他にも2人、同じように倒れている者がいた。
「一体……何が起きてるの……?」
「うわあああぁぁ!」
悲鳴が聞こえた私はすぐにその方へと向かった。そこで私が目にしたもの……
「何あいつ?」
あの人間……いや、人間なのかも怪しい風貌だったあの青いドレスを着た奴が犯人なのか?私は建物の陰に隠れ潜んだ。
「いただきまぁ〜す☆」
な、何してんのあいつ?!こんな白昼堂々と男の人とキスなんて……え?嘘……あいつが人とキスしたら、相手の人がまるで生気を失ったように動かなくなって倒れた……?!しかもあれ……さっきの遺体と同じ……じゃあ犯人はあいつ?!どうしよう、オジサンに知らせないと……!こんなの……
「あらあらぁ?な〜んかコソコソネズミがいると思ったら〜?」
「ひっ……!」
い、いつの間に隣に……?!逃げなきゃ……っ!
「恨みはありませんけど、ごめんなさいね。」
もう一人?!こいつの仲間?!
「はぁい捕まえた〜。」
「放して!放してよ!」
掴まれた腕を振り解こうとしても、こいつ力が……!
「私はファラとは違って遠慮はしないから、恨まないでね☆」
「た、助け……んぅっ……!」
駄目だ……私死ぬんだ……あの人と同じ運命に……そんなの……
「ぅっ?!」
「どうしたのガリィ?」
「おぉえっ!何なのこいつ?こいつの思い出……」
え?助かった?突然やめて……何が起きてるの?
「待てよ……こいつS.O.N.G.と関わりある奴……。良い事考えちゃったぁ〜!」
何こいつ?あいつの下卑た笑みで良からぬ事を考えてるのは確かだよね。
「一緒に来てもらうわぁ。も・ち・ろ・ん、拒否権なんてねーから。」
「え?」
それからあっという間だった。さっきまで外にいたのに、気付いたら建物の中にいた。城なのか屋敷なのか、分からないけど日本の建築物でないのは分かる。しかも、ガリィとファラってやつ以外にも仲間が3人もいた。そして、玉座のような椅子に座ってる小さい女の子がこっちを見下ろしてた。
「ガリィ、何だそいつは?目撃者なら始末してしまえ。」
「違うんですよマスタ〜♪この子、S.O.N.G.と繋がりのある子なんですけど〜こいつの思い出を覗いたら面白い過去があるので、アイツらをメチャクチャにするにはうってつけの人材なので連れてきたんですよ〜♪ガリィちゃん頭良い〜!」
「ほう?なら少し覗かせてもらおうか?」
「え?まさかまた……んぅっ……!」
またキスされた!既にファーストキスがこの人外なのに、またなの?!何なのこの人達?!
「ぷはぁっ……。そういう事か……。出水輪と言ったな。お前の望みを叶えてやる。」
「私の……望み?」
「その代わり、奴らの知っている情報を全て吐け。」
まさか瑠璃達を裏切れっていうの?!冗談じゃない!私がそんな事するわけないじゃん!
「嫌だね……あんたみたいなちんちくりんに命令される筋合いは……がぁっ!」
痛っ……お腹を蹴られた……。一体誰に……
「人間ごときがマスターにそのような口を叩けると思うな。」
こいつか……。まるで騎士気取りな部下だね……。
「お前、あのライブにいたそうだな。」
「は?いきなり何?それに何の関係が……」
「哀れな奴だな。真実も知らずに、他の人間から虐待され、家族を失っても、それでも元凶を信頼するとは。」
それってどういう意味……?真実って何……?
「ジーク。こやつを牢に閉じ込めておけ。少し話し合いでもすれば気が変わるだろう。」
「はっ……。」
私はジークに牢屋に放り込まれた。何度もジークに殴られ蹴られて、身体には痣が出来てた。その上、ご丁寧に首輪と手枷に足枷、相当厳重に監禁されちゃってる。しかも、これ鍵穴がどこにもない。あいつらの意思でしか外せないと思う。
「虫けらごときが随分と立派な態度を取るな。既に奴らから裏切られているというのに。」
さっきから言ってる意味が分かんないよ……裏切りだの元凶だの……何のことか分かんないし……。
私を痛めつけて満足したのかジークが行ってしまった。そしたら今度は入れ替わるようにキャロルが来た。
「無様だな。」
キャロル……ちんちくりんのくせに、見下ろすのが好きみたいだね……。ムカつくけど……今の私には何も出来ない。
「聞き分けの悪いお前に分かりやすく教えてやる。あのライブは、隠れ蓑に過ぎん。」
「隠れ蓑……?」
「その下では、ある聖遺物の起動実験が行われていた。当時の二課の主導の下でな。」
突然何を話しているの?あのライブが隠れ蓑だの、起動実験だの……何のことなのか分からないし、何でその話が出てくるの?二課って確か……
「聖遺物というのは大量のフォニックゲインがなければ起動しない欠陥品。奴らはツヴァイウィングのライブを使って、お前達観客達からも発せられるフォニックゲインを使って起動したというわけだ。だが……その聖遺物は暴走、上にいた観客を巻き込む爆発を起こした。」
そうだ……あの時の爆発した所からノイズが……でもその爆発が原因でノイズが出現したわけじゃ……あっ……。
「ルナアタック、フロンティア事変を目の当たりにして来たお前なら察しているだろうな。それはソロモンの杖によって呼ばれたノイズ。つまりあのノイズの出現は偶然ではなく……」
「人為的なもの……。」
「ああ。フィーネがその聖遺物を横取りする為にな。そしてその聖遺物、お前にも覚えがあるだろう。雪音クリスの装者とフィーネが纏った完全聖遺物を。」
「ネフシュタンの鎧……!」
じゃあ透は……その起動実験に巻き込まれて死んだようなものじゃない!何で……何でそんな事の為に透が……!それならフィーネが悪い……けど……皆も皆だよ……!何で誰も教えてくれなかったの?!あのライブの裏で……そんな事を……!
「ツヴァイウィングの二人もそれを知っていただろうな。天羽奏もその実験の為に命を落とした哀れな人間の一人。そして風鳴翼……」
やめて……その名前を出さないで……!あの地獄の日々を思い出すから……今あいつを思い出させるような事をしないでよ!
「そうだ、怒れ。隠す必要はない。あのライブがなければ、お前達の家族は破滅せずに済んだのだ。」
ああそうだよ!あのライブがなかったら、私の家族は今も生きていたんだ!今頃みんなで笑って過ごせたはずなんだよ!なのに……なのに……
「お前の望みを言ってみろ。そうすれば叶えてやる。」
聖遺物の起動実験だか知らないけど、みんな同じだ!大義の為なら何人死のうがどこかの家族が破滅しても隠し通すそのやり方!許せない……そんな事の為に透や家族を失う事になるなんて……皆知っていながらそれを黙っていたなんて!特に……風鳴翼!あんただけは……あんただけは絶対に許さない!
「S.O.N.G.の……風鳴翼の……破滅……!良いよ……あんた達に手を貸すよ!」
「随分と良い顔になったじゃないか。」
そうしたら、首輪も枷も外してくれた。私はキャロルに迎え入れられた。S.O.N.G.の情報を流す、裏切り者として。その証として、奴らが使っている転移するアイテム、テレポートジェムを4つ渡された。
「世界なんて……なくなってしまえばいい。」
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装者達の行動パターンを全てキャロルに教えた。どの道を通るか、今どこにいるのか、使うギア、私は何でも教えた。S.O.N.G.のブリッジに盗聴器も仕掛けた。あと、思い出を搾取する為に、また犠牲にする人間を探していた。流石に無関係な人は巻き込みたくないけど、よくいるヤクザの人達、あの人達なら良いよね?私は近くを通りかかったいかにもっていうビルの方に案内した。そしたら思い出が大量に搾取出来たって上機嫌だった。まあ私はそんなのどっちでもいいけど……。
その内、翼とクリスのギアが破壊されたって聞いた。それを知った翌日、瑠璃とクリスの姉妹は落ち込んでいた。クリスは何も話そうとしなかったけど、瑠璃は悩んでいた。裏切り者としてではなく友達として、どうしたのかと話を聞聞こうとしても、結局あまり話さなかった。
「困ったなぁ……。姉妹揃ってあれじゃあ……この先どうなるか分かんないや。ま、今は静観するしかないか。」
聞こえてるのね?あのチフォージュ・シャトーってとこから見てるんでしょう?全然報告できるようなものはないから、そこよろしく。
でもその内、あいつらがノイズを出している所を見てしまった。ノイズを使うなんて聞いてない。何なのあいつら?!
「信じられない……。」
瑠璃が何とかそいつらを倒したけど、どこか様子がおかしかった。いつもならノイズ相手にここまで疲弊しないはずなのに……。もしかしたら、この時からなのかもしれない、私の中で罪悪感を感じ始めたのは……。だけど私はそれを見て見ぬふりをし続けた。
でもそれが、こんな事になるなんて思わなかった。私が自分がやっている事に恐ろしさを感じ始めたのは、瑠璃が発電所でジークと戦っている時だった。響のギアも破壊されて、制約無しでまともに動けるのは瑠璃だけ。だから瑠璃が一人で戦っている。それをモニターで見ていた私は、心が苦しくなった。自分がやっている事は、瑠璃を苦しめている。でも私はそれを理解したくなくて、目を逸らした。
だけど、ジークが瑠璃の……バイデントのギアを破壊したら……あいつ瑠璃を痛めつけて……
『ぎゃあああぁぁ……!!あぁぁっ!!』
違う!私は瑠璃を傷つけるつもりなんてない!!こんな事を私は望んでない!!お願いやめて……瑠璃が傷つく姿なんて見たくない!!
「もうやめてよ!これ以上瑠璃を傷つけないでよ!誰か……誰か瑠璃を……助けて……!」
その懇願が、届いたのか風鳴翼とクリスのギアが復活を果たした。一番憎んでる奴のギアが直って瑠璃を助けた。正直、安心した。私のせいで友達を失いたくなかった。
次に奴らに情報を渡す為にチフォージュ・シャトーに来た時、キャロルは亡くなっていた。あんなに偉そうに見下していたのに、死ぬなんて……いや、それよりも瑠璃を痛めつけた事について……あれは本当に納得していない。
「ふざけんな!私はただ風鳴翼を破滅させたいだけなのに……瑠璃まで痛めつける事はないじゃない!」
「ああ。約束した。風鳴翼を破滅させる為に、その妹を叩き潰す。」
「話が違う!私は瑠璃までやれなんて……」
「輪姉ちゃん……」
その声、その呼び方、忘れるわけがない。私の事をそう呼ぶのは一人しかいない。でも、もうあの子は既に……何で……何でいるの?
「旭……?」
旭が後ろに立っていた。どういう事……?
「輪姉ちゃん。ズルいよ。」
「旭……」
「輪姉ちゃん、ずっと嘘ついてる。いつもそうやって他人を騙し続けて生きてきたんだ。友達にも家族にも、私にも。」
「私は家族を騙すような事は……」
「違うっていうの?じゃあ何で今ものうのうと生きてるの?死を望んでいるのに何で今も無様に生きているの?」
「それは……」
「気付いてないようだけど、そうやって他人を騙している自分が大好きなんだ。だからあの日、輪姉ちゃんだけ生き残ったんだね。あんな地獄から逃げる為に死にたがってたのに……私は死にたくなかったのに……この裏切り者。」
裏切り者……そう言われただけで、私は震えが止まらなかった。私がしたい事……復讐に走れば、それは瑠璃を裏切るという事……何でそれに気付かなかったのか。とんだ間抜けだ……私……。あの時……瑠璃が傷ついたのは私のせいだ……!それを旭に言われるまで気付かないなんて……どうしよう……!
思いの外長くなったので後編へ続く。
なお今回出てきた旭の正体はシャトーの防衛機能が映し出した偽物です。