惨劇に晒された日輪
ツヴァイウィング、私はあの二人が大嫌いだった。
切っ掛けは、中学生2年生の時だった。当時付き合ってた恋人、透からの誘い。透はツヴァイウィングのファンで、私にも勧めるくらい夢中だった。当時、ツヴァイウィングは突如彗星の如く現れた期待のボーカルユニットとしてその名を轟かせた。よく音楽番組なんかでも取り上げられていて、天羽奏と風鳴翼、その二人の名前を知らない人は周りにはほとんどいなかった。でも私は名前を聞いたことがあるくらいで曲は殆ど聴いてなかった。だから女友達にももったいないって言われた事があった。
「ツヴァイウィング?」
「うん。輪も聴いてみなよ。ほら、CD貸してあげるから。」
学校に関係ないものは持ち込み禁止の校則を破ってまで持って来た、ツヴァイウィングのCD。透からそれを借りて家に帰った私は、それをCDプレイヤーでその歌声を聴いていた。
「凄い……。」
私は圧倒された。こんなに澄んだ声で唄うんだ。そりゃあ誰もが夢中になるよね。
あっという間に私もツヴァイウィングの虜になってた。CD、ライブのDVD、グッズも買って、気が付いたら買う予定だったカメラの費用が無くなってた。
両親と妹の旭との食事の時も、ツヴァイウィングの曲が頭から離れなかった。
「輪?どうした?食欲ないのか?」
「違うよお父さん。輪姉ちゃんツヴァイウィングにハマっちゃったみたいでさ。でもこのだらしない顔は見てらんない。おーい、輪お姉ちゃん!」
私の眼前で掌を叩いた音で私は我に返った。
「ふぁっ!な、何?!」
「輪姉ちゃんってば食事の時くらい普通の顔でいてくれる?」
「いや普通の顔って何?私そんな変な顔してないでしょ?」
「駄目だ……こいつ早くなんとかしないと……。」
「お姉ちゃんに向かってこいつ呼ばわり?!」
旭はアニメオタクでいつも色んなアニメを見てはそのキャラクターの台詞を言ったりしている。今のセリフも分かる人には分かると思う。
そんな日々が続いて季節は冬、期末テストという憂鬱なイベントが迫って来ていた。けど私はツヴァイウィングの歌を聴いて、透と一緒にいて、私は毎日を楽しく過ごしていた。
そんなある日、私達はレストランで勉強していると、透が思い出したようにバッグから2枚のチケットをテーブルに出した。
「それってツヴァイウィングの?!当たったの?!」
「そう!かなりの倍率だったんだけどようやくゲット出来たんだ!輪も行くだろう?」
「行く行く!私達もう次の年は受験生なるし、最後の思い出を作りに行こうよ!」
嬉しかった。あのツヴァイウィングのライブに行ける。生であの二人のライブを見に行けるんだ。そう思えるだけで期末テストなんて辛くなくなった。無事に乗り越えて、三学期が終わるのが楽しみで仕方なかった。そして、修了式の次の日、私達はあのライブ会場へと向かった。
会場には多くの人で混み合っていた。私達も早めに電車に乗ってここまで来たんだけど、それでも既に長蛇の列が出来ていて、なかなか入れそうになかった。
「やっぱ人気だねぇ……こんなに人がいるんだもん。」
「そりゃあ、あのツヴァイウィングのライブだからね。皆、あの二人の歌を生で聴きたいから、あんな熾烈なチケット争奪戦になったんだろうね。」
「そんな大袈裟な……。」
でも透の言う事も間違いじゃなかった。以前何かの人気アイドルユニットの偽のチケットを作って入ろうとしたっていうニュースがあった事を思い出した。犯人は熱狂的なファンだったんだけど……いやでも犯罪は駄目でしょ。
とにかく私達はこの長い列で順番を待っていると、とうとう私達の番が来た。チケットを係員の人に見せて、荷物チェックを受けた後、ゲートからライブ会場へと入った。ちなみに、カメラは家に置いてきた。ライブは写真禁止だからね。もしこの場に旭がいたら……『カメラは置いてきた。ハッキリ言ってこの戦いにはついていけない。』って言いそうだなぁ。
中に入った私達は今度はグッズを買う為にまた長い並ぶ事になった。また並ぶのかと苦笑いしていたら突然透が前に押し出された。
「おわっ!」
「透?!」
「あっ!ごめんなさい!」
どうやら女の子が透とぶつかってしまったようだった。その女の子が慌てて頭を下げて謝った。
「ああ、大丈夫だよ。君、一人?」
「はい……。本当は親友も来るはずだったんですけど、何か親戚の人が急にって……」
それは同情するわ。それで透は女の子に優しく注意する。
「ここは人が集まってるからね。ぶつかるのはしょうがないけど、他所見してぶつからないようにね?」
「はい、ありがとうございます!」
そう言うと女の子は手を振って、行ってしまった。
「あの子、大丈夫かな。」
「何?気になるの?」
「あ、いや!そういう意味じゃないよ?!ただあの子慣れてないみたいだし、ちょっと心配っていうか……」
「分かってるよ。ちょっとからかっちゃっただけ。」
ちょっとしたハプニングはあったけど、無事にグッズも買った私達は、指定された席へと向かう。既にどこもかしこも人だらけ。もうほとんど席が埋まっていた。私達はチケットに書かれた席の番号を確認して、それに座る。
「透、開始まであとどれくらい?」
「あと10分くらいだよ。」
その10分が待ち遠しかった。たかが10分かもしれないけど、この日を待ちわびていた私の心を焦らすには充分だった。
しばらくして、会場の照明が落ちた。するとイントロダクションが流れ始めると、その時点で会場の客も、私達も席を立ってサイリウムを振り始めた。ステージのセットが曲に合わせて点滅すると、この会場の中央のステージが照らされる。そこにはステージ衣装に包まれた天羽奏と風鳴翼がいた。二人が最初に唄う曲は『逆光のフリューゲル』。
歌に合わせて観客達はサイリウムを振り、時には間の手を入れながら、盛り上がる。
だけどサビに入ろうとした時、会場の屋根が開き、露わになる外の夕陽。同時に観客の盛り上がりに熱が増し、さらに夢中にさせた。私も透もその一人。逆光のフリューゲルが歌い終わると、私は透に
「ねえ透。」
「何だい?」
「歌って……良いね。」
「ああ。」
本当に来て良かった。でもそう思えたのは、ほんの一瞬だった。あの爆発が起きてからは……。
次の曲、『ORBITAL BEAT』のイントロダクションが流れ始めると、突然アリーナの中央席が爆発した。これには悲鳴を挙げる人達もいて、曲もすぐに止まった。
「な、何?!どうしたの?!」
「分からない。事故でもあったのかな?」
戸惑う私を落ち着かせようと抱きしめてくれたけど、そこへ私達を地獄へ落とす凶報が響いた。
「ノイズだああああぁぁぁ!!」
ノイズがこの会場に現れた。爆発して、空洞が出来た床から巨大なノイズが咆哮をあげる。そして、口から粘液を吐き出すと、そこから人型ノイズが大量に現れた。そのノイズ達は近くにいる人間達を次々と襲い、捕まった人間諸共炭素化していった。
「助けてくれええぇ……」
「死にたくない!!死にたくない!!嫌あああぁぁ……」
どんなに助かりたくても、ノイズに命乞いなんて聞き入れるつもりはない。大人も子供も関係なく、ノイズ達は人間を次々と炭素化していく。さらに空からも飛行型のノイズが現れて、身体をドリルのように回転しながら急降下すると、人間の身体を貫いて炭素化させた。
「輪!早く逃げよう!」
「う、うん!」
私達も急いで危機から脱する為に避難行動に移そうとした時だった。
「邪魔だ退け!!」
「きゃあぁっ!」
私は隣の席にいた男がの客が逃げる為に押し退けて逃げて行った。しかもその後ろの人達も助かる為に会場の出口へと走って行ってしまうから誰も助けてくれなかった。しかも転んだ時に、運悪く右足を痛めて上手く立てなかった。
「痛っ……!」
「輪!大丈夫か輪!」
透が逃げる足を止めて私に駆け寄ってくれた。運悪く足を痛めた私を助けてくれた。
「しっかり掴まって!」
「ありがとう……透。」
透は私を背負って出口へ走った。その途中で私のように押し退けられて、そこにノイズに襲われて炭素化された人もいれば、身体を踏まれて圧死してしまった人もいた。透はその人達の遺体を踏まないように避けて進んで行った。だけど、私を抱えながらで進むから、遺体に足を引っ掛けてしまって転んだ。その拍子に私も放り出されてしまった。
「痛た……っ!輪、ごめん!怪我は?!」
「私は大丈夫。それより透だけでも早く……」
「そんなの出来るわけないじゃないか!逃げる時は、輪も一緒……」
透が私の所へ駆け寄った時、透の身体はノイズに貫かれた。
「え……透……?」
突然の出来事に、私は理解が追いつかなかった。気付いたら、透の身体は炭になって崩れてしまった。
「嘘だよね……?透……!透!」
もうそこに透はいない。あるのは透の身体だった炭だけだった。
「嫌あああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーー!!」
このライブ会場で死者、行方不明者の総数が12874人。その中に透と天羽奏が含まれていた。
輪の過去編はまだ続きます。
ちなみに透にぶつかった女の子こそ立花響です。