あのライブの惨劇から翌日、私は病院のベッドで私の意識は覚醒した。
あの後、ノイズの脅威は去ったけど、私は透だった炭を覆うように泣いていた。それを救助隊の人達に引き離されて、病院へ運ばれた。足の骨は折れていたみたいで、私はしばらく入院する事になった。怪我した右足はギプスで巻かれて、それを巻くように私の足を挙げていた。
「輪!」
「輪!」
「輪姉ちゃん!」
ベッドの近くに、両親と旭がいた。両親は私の無事を知ると、喜ぶように泣き出した。旭は既に泣きそうになっていた所を、泣かせてしまったようだった。
それから私はあのライブで起きた事を話した。その中には、透が死んだ事も話した。
「あの透君が……」
「良い子だったのに……ん?」
そこに早歩きの足音が聞こえるが、その主はすぐに病室に入って来た。
「小夜姉……!」
大阪から小夜姉が来てくれた。私が生きているのをその目で確認すると、小夜姉は安堵した。
「ほんまに心配やったんやで!寿命が縮まったと思うたわ!」
こんな形だけど家族が揃いったのが嬉しかった。皆で笑っていると、そこに病室の戸が開いて入って来る家族がいた。
「透のお父さんとお母さん……それに……お兄さん……!」
その家族は透の両親と透のお兄さんだ。透のお兄さんは大学生でよく勉強を教えてくれた優しい人だった。私が透の最期を家族に伝えると、ご両親とお兄さんは涙を流した。
「ありがとう輪。透は最後まで立派に……。」
「ふざけるな……。」
お兄さんとのやり取りを遮ってそう言ったのは、透のお父さんだった。拳を握っていて、私を見る目はまさに憎悪だった。
「何でお前が生きていて透が死ななきゃならなかったんだ?」
「おい親父……」
「透は良い子だったんだ!俺なんかと違って、あの子は優しい子だったんだ!それをお前が!」
「もういいから親父その辺で……」
「お前が死ねば良かったんだ!透じゃなくてお前が!!」
「親父!!」
まさかそんな風に思われていたなんて、私はショックを受けた。でも、その通りなのかもしれないと内心思ってた。透は運動も出来て、誰にでも優しい本当に出来た人だった。それに比べれば私は平凡。本当に天と地ほどの差がある。
透のお父さんを先に退出させたお兄さんは、私達に頭を下げて謝ってくれた。
「申し訳ありませんでした。父が娘さんを侮辱した事、父に変わってお詫びを……」
「良いですから……お兄さん。お兄さんが謝る必要はありません。」
結局、ピリピリしたムードを変えられず、お兄さんはすぐに帰る事になった。けどその前に、透が死んで悲しいはずなのに、私に優しく語りかけてくれた。
「輪。透の分まで、精一杯生きてほしい。透も、それを望んでるはずだ。」
そう言って頭を撫でてくれると、お兄さんは帰って行った。小夜姉も新幹線で大阪へ戻った。それから私は透の分まで生きると決めて、辛いリハビリに励んだ。たまに透のお兄さんとメールでやり取りしていくうちに、始業式は既に過ぎた4月に退院する事が出来た。
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リハビリを乗り越えて、怪我も治った私は退院した。その翌日に私は走って登校した。だけど何か視線が妙に気になっていた。私に気付くと、皆楽しげだった雰囲気が急に静かになってヒソヒソと話をしていた。気にはなっていたけど、わざわざ何の話をしているのか、もしかしたら透の事で心配してくれているのかな?確かに、透が亡くなったのは悲しいし、同情してくれるのは嬉しい。けど、透の事で気を使わないでほしい。そう思っていた。
既に始業式は過ぎてしまっていたけど、入院中に新しい担任の先生がお見舞いに来てくれて、私の新しいクラスを教えてくれた。だから私は新しい教室にすんなりと辿り着いくと、3人の女子生徒がその出入り口を塞いでいた。
「おはよう出水さん。」
そう言うと、腕を組んでいるリーダー格みたいな人が挨拶してきた。
「おはよう。あの、ちょっとそこ退いてもらえるかな?私、このクラスの……」
「ふーん。そうやって透君を押し退けて自分だけ助かったのね。」
「は?」
そのセリフに耳を疑った。だってそれじゃ、まるで私がまるで透を殺したみたいな言い草じゃん。
「まあ良いわ。どうぞ。」
そう言うと3人の女子生徒が道を開けてくれた。ちょっと気に入らないような言い草だけど、ここは我慢我慢。私は教台の上に置いてあった席順の図を確認して、私の席を探した。でもそこで私は目を疑った。その机には大きな文字でこう書かれてあった。
「人……殺し……?」
意味が分からなかった。私がいつ人を殺したのか、何を根拠にこれを書いたのか検討もつかない。
「誰?これ書いたの?」
私が周りの人達に聞いても、皆は目を逸らして答えない。そこにさっきのリーダー格の女子生徒が言う。
「事実なんでしょう?出水さん、あのライブて自分が生き残りたいが為に、透君を見殺しにして!」
「そうよそうよ!」
「人殺し!」
「ちょっと待ってよ!あんた達さっきから何を根拠に私が透を殺したって……」
「これを見てもまだ白を切るつもり?」
そう言って私に見せつけたのは、週刊誌だった。そこには『ライブ会場の惨劇の犠牲者は人為的なもの!』と大きな見出しで書かれていた。
「これによると、ノイズで亡くなったのは全体の3分の1。つまり半分以上の人が人の手によって亡くなったものなの。しかもそれか将棋倒しによる圧死、避難経路を巡って殴り合いになったっていうじゃない。確か生き残った人達って、国から補償金が貰えるよね?どう?人殺しで得たお金で食べるご飯の味は?」
リーダー格の女子生徒が私を指して糾弾した。
「待ってよ!私はそんなことしてない!本当よ!」
「人殺しは皆そう言う!あんたのせいで透君は死んだのよ!あんたが殺したのよ!!」
「人殺し!!」
「あんたが死ねば良かったんだよ!!」
教室どころか隣の教室にまで聞こえるくらい、そのヒステリックな叫び声は大きかった。それは違うと何度も何度も言ってもやめなかった。次第にクラスメイトのみんなは、その女の言う事を信じるようになって私を冷たい目で見るようになっていた。
しかも、それだけじゃ終わらなかった。
「おいこっちだこっち!」
「あいつが人殺し?」
「よく学校に来られるよなあいつ。」
「死んだ方が良いんじゃねえの?」
他のクラスの生徒も私を人殺しと罵倒するようになっていた。下校している時も、男子生徒達が私の周りをウロチョロして手を叩きながら「人殺し」と歌っていた。それを無視すると
「おいシカトこいてんじゃねえぞ人殺し!」
私は男子生徒に背中を蹴られて倒された。
「被害者面しやがって!そんな危ない奴がこの学校にいるとかあり得ねえんだけど!」
「ひょっとしてこいつサイコパスって奴じゃねえの?」
言っておくけどサイコパスっていうのは周りに対して思いやりや道徳的価値といった感情が欠落している人の事であって、全てのサイコパスが殺人を犯すわけじゃない。でもこの男達はサイコパス=殺人鬼って間違った固定概念で私をそう呼んでるんだろうね。私は立ち上がって
「あんた達、ちゃんと国語の勉強した方が良いんじゃないの?」
「は?」
「ちゃんと調べてからそういう言葉を使いなよ。それに、なんの証拠があって私を人殺しっていうの?調べもしないで人をそう呼ぶなんて、馬鹿丸出しだよ。だからもうやめてくれる?」
私はついカッとなってそいつらに言い返したけど、それが彼らの癇に障ったみたいだった。
「ウゼえんだよ!」
襟元を掴まれた私は、男に引き寄せられて頬を殴られた。
「殺人鬼が生意気こきやがって。正義の鉄拳でもくらえ!」
そう言って私は殴られ続けた。何度やめてって言ってもやめてくれなかった。しかも私を殴るのが楽しいのか笑ってた。
「助けて……誰か……」
側を通る人達に助けを求めても、みんな知らん顔。自分達も酷い目に遭いたくないんだ。誰も助けてくれない。私はそのまま殴られ続けて、私が声をあげなくなると、満足したように帰って行った。
「何で……何で……」
私が何をしたって言うの……?あのライブから生き残っただけで、誰も殺してないのに、目の前で透がノイズに殺されたのに、何で?誰か教えてよ……助けてよ……。
痛みを押し殺して立ち上がって、何とか家に帰ろうとするけど、我が家は変わり果てていた。壁には「人殺し」「税金泥棒」「お前らが殺した」他にも心無い罵詈雑言が書かれた張り紙が貼られて、塀にはスプレー缶で落書きされてた。
私はそれを無視して、鍵を開けて家に入った。
「ただいま……。」
玄関に置かれたローファー。先に旭が帰って来ていたみたい。自分の部屋に行こうとした時、リビングからすすり泣く声が聞こえた。リビングのドアを開けると、お母さんと旭がいた。だけど旭の制服はびしょ濡れで、泣いていた。
「お母さん……旭……?」
「輪姉ちゃ……っ!」
「輪、どうしたのその怪我……?!」
「気にしないで、私は平気だから……。それより旭こそ、どうしたの?」
旭によると、学校で虐めに遭ったみたいで、帰りにトイレに連れ込まれて、水を掛けられたと言っていた。さらに、大事なキーホルダーや私物を壊されたんだと言う。虐めの理由が私なのは予想出来る。
「そっか……ごめんね。私のせいで楽しみにしていた中学校生活が……」
「輪姉ちゃんは悪くないよ。だって輪姉ちゃんだって死にかけてたんだから……。」
「それよりも、輪。おいで、手当してあげる。」
「ありがとうお母さん。」
お母さんが救急箱を持って来て、手当してくれた。鏡を見たら頬に絆創膏や湿布、腕や脚には包帯、まるで重傷患者みたいになってた。
そこにお父さんが帰って来た。まだ17時だというのに早い帰宅だった。お母さんが急いで出迎える。
「おかえりなさいあなた。」
「ただいま……。」
リビングに入って来たお父さんに元気な様子はなかった。まさか会社で何かあったのか?
「お帰りお父さん。」
「ただいま……輪!旭!どうしたんだ二人とも?!」
私達の惨状を目の当たりにして慌てるお父さんに、今日起きた事を話した。
「そうか……そっちでも……」
「そっちでも?」
「ああ、いや。何でもないよ。」
お父さんはそそくさと自分の書斎へ行ってしまう。あの様子じゃ何かあったのは誰でも分かる。結局お父さんは話してくれないまま、一緒に夕食を食べたけど、どこかバラバラだった。
私達を中世の魔女狩りのように、周りの人が攻撃する日々が続いていく。教科書は破り捨てられていたし、頭を泥水に押し付けられたり、石も投げつけられたりした。先生は何をしていたのかって言うと……本当に何もしてくれない。多分、先生達も皆と同じ事を思ってる。止めないどころかお咎めなしなんだもん。
しかも旭は長い髪をオシャレしてやるって言われて無理やり切らされて、それがショックで学校に来れなくなってしまった。でも旭は学校に行かなくて良いのかもしれない。あの子が学校に行くのが苦痛なら、それで良いんだと思う。
私は受験生だから、少しでも遠くの良い学校へ行く為には休む事はできない。同時に、あいつらに負けたくないしね。もちろん、大阪で働いている小夜姉にはこの事を言ってない。せめて小夜姉にだけは心配かけたくないから。
次回予告しておくと、グロ耐性が試されます。
もちろんR-18に抵触しないように書きますが、上手く書けるかな……