オレ、重要なことは何も教えてくれない人の養子になったんだけどやばくないかこれ? 作:Luke Black
鏡を3人で見に行った翌日、まだ雪は溶けていなかった。
「ハリー、チェスしようぜ」
「しない。相手役ならロンがいるでしょ」
「下に降りて、ハグリッドのところ行かない?」
「ルークと2人で行ってくれば」
「ハリー、あの鏡のことを考えてるんだろう。今夜は行かない方がいいよ」
「どうして?」
「わかんないけど、なんだか悪い予感がするんだ。それに僕たち危機一髪だったろ? ルークまで鏡を見てたら3人でフィルチに捕まってたよ。見えないからってぶつかったりひっくり返したりしたらそこにいたのがバレるだろ」
「ロン、いつから君はハーマイオニーみたいになったんだい?」
「本当に心配してるんだって。ルーク、君も今夜いくことに乗り気だけど見ない方がいいって。絶対あれやばいからさ」
「ロンの言ってることは十分わかるけど、オレ一人なにが映るかわかんないままってのもおもしろくないからさ。今日はオレとハリーでいくよ。これで終わり。それならみんな納得だ」
「ルークまでおかしくなったら僕どうしようもできないよ」
「心配すんなってロン。その時はオレをぶん殴ってくれれば十分だ」
こうしてオレは二日連続で夜間外出をすることになった。
ハリーは何を焦っているのかどたばた足音を立てて歩くのでオレは毛糸なんかなくても余裕でついていくことができた。ハリーはまたしてもマントをかなぐり捨てて鏡の真ん中に座った。
これはオレに譲ってくれる気さらさらないな。
オレは鏡をうっとりと眺めているハリーを壁に寄りかかりながら眺めていた。ハリーはまるで水面に映った自分に恋したナルキッソスみたいだ。強いて言うならハリーは自分の顔を見ているわけではないってところがまだ救いかもしれない。社会的に。
ただ、このままじゃハリーは自分の顔面にキスしようとして溺死しかねない。鏡の場合は撃死か? いやずっと見続けて餓死の方が確率が高いな。 30分くらいしたら声かけてやるか。
おどろきはいつも唐突に訪れる。
「っーー」
オレは本当にびっくりしたら声が出ないことを今日理解した。まじで『う』も『あ』もでない。
何に驚いたかっていうと、いつの間にかとなりにアルバスがいてオレの帽子のツバをひょいっとつかんで脱がしたことだ。まさか見つかるとは思っていなかったし、帽子を取られるまで気配も全く感じなかった。証拠にハリーはまだ鏡を眺めている。
「わしからのプレゼント、気に入ってくれたようじゃな」
「……あー、はいもちろん。重宝してます」
「本の方もおもしろいからベッドの上に放置していないでページをめくってみなさい。感想を手紙でおくってくれるのを楽しみにしておる」
うわー全部バレてる。このサンタ心読めるんじゃないのか?
「わしはサンタじゃないと言っておるではないか。たしかに一昨日は何人かのサンタクロースじゃったがな」
オレたちが話をしている間もハリーはこっちを振り向きさえしなかった。まじであの鏡やばいのか? いやでもアルバスが鏡ぶち壊すとかハリーを投げ飛ばすとかしてないしやばくはないのか。
「ルーク、わしはそんなに武闘家ではない。ハリーそろそろいいかのう?」
「えっ、ぼ、僕気付きませんでした」
ハリーは驚きすぎて、オレとアルバスの顔を交互に見てる。オレもオレで直立に固まっているから見る価値ないぞ。
「透明になるとずいぶん近眼になるんじゃのう」
つまり老眼で悩み始めたら透明マントをあげればいいってことだ。
「君だけではない。何百人もがきみと同じように『みぞの鏡』のとりこになった」
「先生、僕、そういう名前の鏡だと知りませんでした」
「この鏡が何をしてくれるかはもう気がついたじゃろう」
「鏡は……僕の家族を見せてくれました」
「そして君の友達ロンには首席になった姿じゃった」
なんでそんなことまで知ってんだよサンタ。
「どうしてそれを……」
よく聞いたハリー。
「わしはマントもキャップもなしに透明になれるのじゃ」
キャップは頭にはいらなそうだもんな、あー、めっちゃ見られてる。違います優秀な人の頭は大きいって言うし、そもそもこのキャップ女性ファン向けだからサイズの規格が小さめなだけです。すみませんでした。
「それで、この鏡はわしたちに何をみせてくれると思うかね? ルークも変な顔をせずに一緒に考えなさい」
あーなるほど、さっきまでのこと全部顔にでてたってことか。さすがに心読むとかメンタリストにしか無理だよな。
「オレそんな推理パズル得意じゃないです」
「ではヒントをあげよう。この世で一番幸せな人はこの鏡は普通の鏡になる。おっ、ハリー、わかったかの?」
「……何か欲しいものをみせてくれるとか?」
「あたりでもあり、はずれでもある。鏡が見せてくれるのは心の一番奥底にある強い『望み』じゃよ。君は家族を知らないから家族に囲まれた自分をみる。ウィーズリー君はいつも兄弟の影で霞んでいるから誰よりもすばらしく堂々とした自分を見る。さて、ルーク。君は何をこの鏡で見るか試してみなさい」
ダンブルドアはオレの肩をもって鏡の正面にスライドさせた。
オレが鏡の中に見たのは『アルバスとちょっと大人っぽいオレがお酒か何かを飲みながら楽しそうに話している姿』だった。
「……あなたが報連相をしっかりオレにしてくれているところが映りましたよ」
「ふぉっふぉ、そうか。わしはのう、手作りの毛糸の靴下を両足分手に持っておるのが見える」
ハリーは目を見開いた。ついでにオレも目を見開いた。
「靴下はいくつあってもいいものじゃ。なのに今年のクリスマスにも靴下は半足しかもらえんかった。わしにプレゼントしてくれる人は本ばっかり贈りたがるんじゃ。唯一の例外も左足分しか贈ってくれなかったからのう」
そう言ってアルバスはウィンクしてきたのでオレは目を逸らした。悪かったな、片足分しか編み上がらなかったんだよ。
◆
『みぞの鏡』を2度と探さないようにオレたちは約束させられて、クリスマス休暇中ハリーが透明マントを使うのを見ることはなかった。オレはキャップをよくかぶったけど。
なんのためにって? もちろんニコラス・フラメルを探すためだ。ただ、それ以外にもまぁ色々と物色してたりする。
ハリーはあの鏡を見なくなったからってすぐ症状が良くなるわけではなかったらしい。あれからほぼ毎日両親が緑色の閃光とともに消え去る夢を何度も繰り返しているらしい。ちなみにオレはサンタクロースと酒を飲む夢など一回も見ていないし、靴下をもう一足編めと脅される悪夢も見ていない。
新学期が始まる1日前にハーマイオニーが帰ってきた。
ハーマイオニーに休暇中あったことを話したら、夜中抜け出したことは説教されたが、どうせならニコラス・フラメルについてなにか見つければよかったのにとも言われてしまった。
「で、ルークその本は何?」
「クリスマスプレゼントでもらったんだ。こんど感想を書いて手紙を送らなくちゃなんだ。興味もないのに」
「あなたがオペラなんて変な感じだわ。というか、その本すごく古そうね」
「んー、1608年にニコラ・フラメールが書いたって書いてある。オペラって意外と歴史あるんだな」
オレは本の裏表紙を確認しながら答える。
「……ルーク、あなた今なんて言った?」
「ん? 意外と歴史あるんだなって」
「違う、その前よ」
「1608年にニコラ・フラメールが……ん? ニコラ・フラメール?」
「それ! ニコラス・フラメルのことじゃない?! フランス語ならニコラスはニコラになるわ!」
「えっ嘘、オレら探してたのオペラ愛好家? じゃあ隠されているのオペラ初期のペアチケットとか?」
「……とりあえず詳しいことはまだわからないけど、ニコラス・フラメルが近代の魔法使いじゃないことはわかったわ。私たち探す範囲を完璧に間違えていたみたい。他に何か書いてないの?」
「いや、興味なさすぎてぜんぜん読んでないよ。まだ15ページ、つまり残り500ページ強。先に読む?」
「いいの? 今日中に読み終えて返すわ」
「ついでに感想を教えてくれると助かるんだけど」
「それは自分でやって」
ハーマイオニーはさっそくソファーに腰掛けて爆速でページをめくっていった。あっというまにオレが読了したページを追い越して行った。
「わかった!!」
ハーマイオニーが叫んだので、となりでチェスをやっていたハリーとロンが垂直に跳ねた。ハーマイオニーはポカンとするオレたちをおいて女子寮に走って行ってしまった。
まだ3人で首を傾げていると、オペラ愛好家の本の何倍も分厚い本を持って帰ってきた。
「フラメルが載っている本を思い出したわ! 軽い読書をしようと思って、ずいぶん前に図書館から借り出していたの……ここだわ! このページよ!」
「ハーマイオニー僕たちにもわかるように言ってくれ。ちんぷんかんぷんだ」とロン。
オレもロンが言わなかったらそう言おうとおもってた。
「ニコラス・フラメルは、我々の知る限り賢者の石の創造に成功した唯一の者!」
「待って賢者の石って不死の石でニコラスってニコのこと??」
「そうね、前者はたぶんそうよ。『賢者の石は飲めば不老不死になる『命の水』の源でもある』って書いてあるから。ルークがニコラス・フラメルのことをニコなんてあだ名で呼んでいるのは知らなかったけど。なにはともあれ、あの犬はフラメルの『賢者の石』を守っているに違いないわ! フラメルがダンブルドアに保管してくれって頼んだのよ。だって二人は友達だし、フラメルは誰かが狙っていると知っていたのね。だからグリンゴッツから石を移して欲しかったんだわ!」
「それならスネイプが狙うのも無理ないよ。誰だって欲しいもの」とハリーが言った。
んー、アルバスは寝る前にニコと不死の石について話してくれたんだけどなんて言ってたっけ。あの時は作り話だと思ったんだよな。
「ニコラ達はすでに次の冒険に臨む準備はできておるんじゃよ、ルーク。あとはタイミングだけじゃ」
「タイミングって?」
「何事にも変化を起こす時、最適のタイミングがあるんじゃよ」
「んー、どうやって最適ってわかるんですか?」
「予言であったり星であったりそういうものじゃ」
「結局毎回恒例、運とか神頼みですか」
「そうであり、ちがう。ルークにはまだ難しいようじゃ。もう遅い、今日はちと話し過ぎてしまったようじゃ。寝なさい」
「はーい」
こんな会話がオレの脳裏に浮かび上がってきた。
結局思い出したものの、思い出す前と何も変わらなかった。
つまりアルバスが何を言っていたかオレは全く理解できてないってこと。
いつもそうだ。