オレ、重要なことは何も教えてくれない人の養子になったんだけどやばくないかこれ? 作:Luke Black
オレたちの駒は黒、相手は白。つまり相手が先行だ。チェスというゲームは先手必勝ゲームだとだれかが言っていた。もしかしてこれって無理ゲーだったりする?
そうオレは思ってたんだが、ロンは強かった。
ロンが自陣のコマに指示している姿はさながら最高司令官だった。最高司令官なんて見たことないけど。
どんどんゲームは進んでいきもうどちらかが勝ち筋が見えてもおかしくない状況になった。ちなみに残念なことにオレは今のところいい方法が見えてない。何個か道はあるけどそれはハリーとオレが犠牲になるルートか、全員ここでリタイアと……
「これしか手はない……」
オレもチェスの嗜みとメリットデメリットを考える脳がある以上ロンが言いたいことはわかってしまった。そう、ロンは勝ち筋が今の段階で見えている。それが彼にとって厳しい決断であることも。
「このゲーム僕が取られるしかないんだ」
「ダメ!」
「これはチェスだ、ハーマイオニー。犠牲を払わなくちゃ勝てない。これから僕が一マス進んでクイーンに取られる。そうするとハリー、君がチェックメイトをかけれるようになるんだ。ここを逃したら僕たちは負ける。これが一番被害が少ないんだ、いいね」
「でも……」
ただ取られて場外に出るだけなら何の問題もないのだが、この身代わりチェスでは取られる時相手をぶん殴るという悪しき習慣がある。石の、自分よりでかい石像に殴られたら下手したら痛いどころじゃないかもしれない。ハーマイオニーが止めようとするのもよくわかる。ただ、ここを逃したらロンの言う通り賢者の石を逃すことになる。というかハリーがいなくなったらなんの集いかわからなくなる。
「じゃあ、僕いくよ……いいかい、勝ったらここでグズグズしてたらダメだぞ」
ロンは本日何度目かの勇敢さを見せ、一歩前に出た。
白のクイーンは残忍な笑顔を向けながらロンに飛びかかった。ロンは頭を石の腕で殴られ床に倒れ込んだ。そして気絶したであろうロンをクイーンは場外に引きずりだした。ロンはピクリとも動かず脱力状態だ。
オレは白のクイーンがロンを殺していませんようにと願うことしかできなかった。オレたちはロンの気持ちを背負ってゲームを終わらせ、新たに出現した扉を潜ることとなった。
◆
「これで、ハグリッド、スプラウト教授、マダムフーチってことはないだろうからフリットウィック教授、マクゴナガル教授、あと残りはスネイプ教授とクィレル教授だね。あー、もしかして3年からの選択って噂の占い学とかルーン文字とかマグル学もあったりする?」
「その先生方はいわゆる非常勤講師扱いだから……ないことを願うわ。ただマグル学とルーン文字なら私すこしはわかるわよ」
「あー、オレに占い学を押し付けようって算段は失敗だハーマイオニー。オレもその中だったら圧倒的にマグル学だ、占いはオレの保護者の方が好きそうな分野だな。出会った頃から予言やら運命やらが口癖だからね」
「使えないわね」
「二人とも早く行こう」
オレたちが次に入ったのは青い壁の迷路だった。分岐が入り口から見ても数個確認できる。そして道の中央に小さく光るよくわからないものが浮いている。
「なあ、この光近づいたら杖に吸収されてくぞ。なんだこれ?」
「それに嫌な臭いがするわね、この臭い私たち知ってるわ」
「ああ、懐かしの女子トイレの臭いだ。ハリー、オレたちまたトロールと対決しないといけないっぽいぞ」
「うん、ちょっと待って……僕この迷路なんか知ってるんだ……どっかで、昔見た気がするんだけど……」
「えっと、整理するわ。これはクィレル先生の試練よね? 今わかっていることは、この迷路を抜けること、トロールが確実にどこかにいること。そしてわかんないことはこのふわふわ浮いている光ね」
「光……回収……あっ! これアーケードゲームだ!! パックマンだよ! 何度かダドリーがやっているのを見たから知ってたんだ」
「パックマン? なんだそれ新種のモンスターか?」
「私知ってる! というか何度かやったことがあるわ! この光をモンスターから逃げながら全部あつめたらゲームクリアよ……ただ、なんでマグルのゲームなのかしら?」
「ゲームがリアルに再現されてるって事でオーケー? そういうお金がかかりそうなゲームのことはやったことがないからよくわかんないけど、ルールはわかった。トロールに会わないようにこの光を回収すればいいんだな。どうする一緒に行動する? 3手に分かれる?」
「3人バラバラで行こう。そっちの方が早い。トロールとは極力戦わないようにしよう。いいね、走れ!」
ハリーの合図でオレたちは3手にわかれて走り出した。できるだけ臭いの薄いところをはじめに回収していく。臭いで敵の居場所を判断するなんてオレたち実質警察犬だ。
と言っても全ての光を集めるには危険なところにもいかなければならない。それに鼻も麻痺してきた。
「っとあぶねえ、今目合いかけたぞ。トロールがパワーバカでよかった」
オレは何回かトロールに鉢合わせそうになったがなんとか回避した。いや、していた。
「あー、これまずくね?」
角の先には中肉中背トロール 、後ろにはガリノッポトロール。挟まれた。
「ハリー、ハーマイオニー、あとどんくらい?! オレのエリアはたぶん終わりだ! ついでにトロール2匹に挟まれた!」
オレはトロール2体の耳がまともに機能していないことを祈りながらそう叫んだ。ただその願いは3秒ほどで打ち砕かれ、二人の返事は二本の棍棒を避けながら聴くことになった。
「私はあと一本道で終わり! ルーク逃げて!」
「僕も角まがったら終わるはず! それまで耐えて!」
つまりこの迷路の大きさ的にオレは10分程度耐え切ればミッションクリアってことだ。
「よーし、2人一緒にかかってこい。オレは毎朝トロールを食べてるからな。お前らなんて余裕だよ」
オレは口ではそう言っているが内心死ぬんじゃないかって恐怖がオレを覆っていた。前回一体でも超大変だったのを思い出して足は震えるわ、呪文は急に思い出せなくなるわで散々だ。
オレはひたすら降ってくる棍棒から逃げ回り、たまに攻撃呪文を発射したがトロールの肌は硬すぎて擦り傷程度だ。ルーキーがボス戦に挑んじゃいけないってこういうことだ。
とうとう避けきれずノッポの棍棒がオレの背中にぶち当たり、中肉の足元に叩きつけられた。手に持っていた杖は遠くに吹っ飛び、オレはあまりの衝撃に呼吸が一瞬止まった。
「……クッ」
オレが最後にできることはそう小さく呟くことだけだった。杖もなければ戦う武器もない。
そう思った瞬間オレの脇腹になにかが突っ込んできた。
「……ナイフ?」
オレの元にはご丁寧に持ち手の方をオレに向けながらナイフが突っ込んできた。逆だったら今頃死神と挨拶中だ。
オレは考えるより先に体が動いていた。ナイフを左手にもち、立ち上がった勢いで中肉トロールの足を切りつけた。
トロールは呻き、切った部分からはどろっとした血が溢れ出てきた。
全部の動きがスローモーションに見える。アドレナリンって偉大だ。
なんで攻撃がクリティカルヒットするのかよくわからないが、一つ言えるのはオレはナイフの使い方がよくわかるし、得意ってことだ。将来の夢の一つに狩人って入れるべきかもしれない。
オレは中肉を壁にしてノッポから見えないように位置取りながら中肉にどんどん切り掛かった。全身トロールと自分の血でべったりだったがそんなことはどうでもよかった。肋骨が数本逝ってそうだが痛くもないし体が軽い。
ようやく中肉が倒れ死んだ時、迷路の壁が一気に消えノッポトロールも突然眠りだした。あたりには5匹のトロールが大殿籠もられている。
トロールの動きが止まった事でもっと早く寝てくれたらって思えるだけの余裕ができたことには感謝だ。くそ。
「っ終わったのね……ルーク!! ルーク! あなた大変! 血塗れじゃない!」
「はぁ……はぁ……っ大丈夫かルーク!」
まあ2人が全力で走ってくれたお陰でもうロックオンされたノッポ一体を倒す必要も、逃げ回って他のトロールに遭遇する可能性もなくなった。
二人の心配そうな声はちゃんと聞こえたが、それを笑って大丈夫だと伝える体力も、なんなら体を起こす体力もオレにもう残っていなかった。
「……大丈夫、たぶんあばらが数本ヒビ入ってるだけ……ふぅ、とりあえず扉の前までオレを引きずってくれ……さすがにこいつらがもう一回起きたら……オレ死ぬ」
「わかったから、無理して喋らないで。エピスキー癒えよ」
ハリーとハーマイオニーの表情から見るにオレの体は酷いことになっているっぽい。意識したら右肩も痛くなってきた。
せっかくかけてくれたハーマイオニーの呪文はオレの怪我にあまり効果はなかったようだ。それはハーマイオニーがまだその呪文を習得していないからか、それともひどく動揺しているからかそれ以外の理由かはよくわからないが。
オレは2人に引っ張ってもらい迷路のスタートであった場所に横たえられた。
「よし、2人とも……先に行くんだ。っまだあとスネイプ教授の……試練も残ってる」
「……わかった、僕たち行くよ。君は誰かが助けにくるまでここを動かないで。絶対だ。あと死ぬなよ」
「ああ、そのつもりだ。致命傷は避けたつもり」
ハーマイオニーとハリーは心配そうな顔をしながらも次の部屋へと行ってしまった。
残されたオレは目をつぶる。頭は疑問でいっぱいだ。なんでナイフが急に出てきたのか、なんで習ったこともないナイフがスムーズに使えたのか……ただそれを考える力はオレにもう残されていなかった。
オレの意識は暗闇の奥深くへと落ちていった。
ルークが持っていたナイフは30cmです。