オレ、重要なことは何も教えてくれない人の養子になったんだけどやばくないかこれ? 作:Luke Black
歓迎会から一夜明け、オレたちはどんよりとした灰色の曇り空の下で朝食をとっていた。天気が魔法で変えられるなら毎日晴れにしておいてほしいものだ。
「もうふくろう便が届く時間だ。ばあちゃんが僕の忘れたものを何個か送ってくれると思う」
ネビルは今か今かとふくろうがくるのを待っていた。どんだけ忘れ物したんだネビル?
「エロール!」
ロンの老いぼれフクロウがこっちに目がけて突っ込んできた。そしてオレはタイミングよく自分のシリアルを退避させることに成功した。もし失敗していたらエロールとオレは牛乳まみれだっただろう。フラッフィーに舐め回されることは確実だ。
エロールは真っ赤な手紙を咥えていた。
もし今日がバレンタインだったら本気度高すぎて逆に義理かもしれないと思ってしまうくらいの赤さだ。
「ママが、ママが『吠えメール』を僕によこした!」
「ロン、それ開けた方がいいよ」
ネビルが震えながらそう言った。聞くと、ネビルもおばあさんからそれをもらったことがあるらしい。開けずに置いておくとひどいことになるそうだ。ただ、ひどいことの内容をネビルは教えてくれそうになかった。
ロンは渋々震える手を伸ばし、エロールの嘴から手紙をひったくった。そして開いた。
吠えメールは開けた瞬間ロンの手元から離れ宙に浮かんだ後、馴染みのある声で吠えはじめた。
「車を盗み出すなんて、退学処分になってもあたりまえです。首を洗って待ってらっしゃい。承知しませんからね。車がなくなっているのを見てわたしとお父さんがどんな思いだったか、おまえはちょっとでも考えたんですか! 昨夜校長からの手紙が来て、お父さんが恥ずかしさのあまり死んでしまうのでは、と心配しました。こんなことをする子に育てた覚えはありません。おまえもハリーもまかり間違えれば死ぬところだった……まったく愛想がつきました! お父さんは役所で尋問を受けたのですよ。みんなおまえのせいです。今度ちょっとでも規則を破ってごらん。わたしたちがお前をすぐ家に引っ張って帰ります!」
ふう、とんでもないボリュームだ。大広間中にウィーズリー夫人の声が響き渡った。スリザリンの席からは嘲笑が、その他の席からはヒソヒソ声があがりオレは関係全くないがなんだかとても居心地が悪い。
オレにもアルバスから赤い手紙が来ていないかあたりを見渡したが幸運なことに白い手紙しか来ていなかった。
『なんらかの手違いで馬車が全部行ってしまったようだ。すまない。無事辿り着けてなによりじゃ。新学期も楽しく過ごしなさい』
切符から馬車まで手違い多すぎだろ。せめて校長権限で罰則を回避させてくれよ、と思ったが間に合わなかったのは自分だ。
潔く諦めることにした。
というよりも、ハリーとロンのダメージが大きそうなので罰則くらい一緒に受けてやろうっていうオレなりの気遣いだ。
◆
2年生最初の授業は『薬草学』だった。
今まで一号温室しか使えなかったんだが、三号温室まで利用可能になったらしい。
より奇妙な植物を扱えるようになるのでオレはテンション爆上がりだった。なぜって? 別に植物マニアなわけじゃないが、なかなか個人で育てるには難しい植物を同じところで採取できるなんて幸せだろ? わざわざ危険を冒して森に行くこともない。
「今日はマンドレイクの植え替えをやります。マンドレイクの特徴がわかる人はいますか?」
そしてついに来た。待ちに待ったマンドレイクとのご対面。
オレの今日の任務はマンドレイクの葉っぱをバレずに採取することだ。そして、ついでに口の中に放り込めればオレの勝ちだ。
そんな計画を頭の中で練っている間にハーマイオニーがマンドレイクの完璧な説明を披露し5点もらっていた。
マンドレイクってのは鳴き声さえ耳に入れなければなんの害もない、むしろ強力な回復薬や解呪に役に立つ。オレ達は配られた耳当てで音を遮断し、鉢植えの前に立った。
スプラウト教授のハンドサインとともにマンドレイクの幼生を引き抜いた。しわくちゃの赤ん坊に葉っぱと根っこが生えた感じだ。見ていて安らかな気持ちになるものではない。
オレはスプラウト教授から死角になるようにマンドレイクを持ち、ペティーナイフで葉っぱを一枚切り取った。すかさずポケットに入れ、そのまま泣き喚くマンドレイクを鉢植えにぶち込み土で蓋をした。ちょっと綺麗に切りすぎたかもしれない。切った断面が真っ直ぐだ。
周りは結構手こずっているようで蹴り飛ばされたり殴られたりして泥まみれになっている。オレはその間にマンドレイクの葉を口の中に含んだ。
「っうぇ……ぅ……」
オレは思わずしゃがみ込んでしまった。
クソまずい。変な汗が止まらない。不味くて血の気が引くことなんてあるんだということを初めて知った。でも吐き出したら次いつチャンスがくるかわからない。
オレは温室の端で壁に背中を預け、ひたすら慣れるのを待った。時間ってこんなにすぎるの遅かったっけ。
ようやく、全員の作業が終わって耳当てを外した時1番死にそうな顔をしていたのはオレだろう。
「あなた顔が真っ青よ! どうしたの? 授業前はそんなんじゃなかったわ」
「問題ない」
ハーマイオニーのありがたい心配に対して、オレは返事すらもおろそかだった。なにせ、口を動かすだけで吐き気を催す味が口内を蹂躙する。
こんなに味がやばいならもっと味を抑える研究をしておけばよかった。ちょうど学期末に書いたレポートを応用してたら今日の苦痛は軽減できていたかもしれなかったのに、計画をもっと綿密にするべきだった。なんてどんどん襲ってくる後悔と戦っているうちに次の授業の教室まで移動していた。
次の授業は『変身術』だった。
オレは誰よりも先に黄金虫をボタンに変え、残りの時間は俯いて時間を過ごした。少しでも動こうものなら胃の中のものが逆流しそうだ。とりあえずオレの舌の裏の原因はまだ元気に味を放っている。
ロンは暴れ柳に突っ込んだ時に折れた杖をテープでくっつけたものを使って呪文をかけるものだから魔法をかけるたびに爆発を引き起こしていた。そのおかげで教授も生徒もそっちに目が行き、オレの方を見ているのはハーマイオニーくらいだった。ハーマイオニーもロンの方を見てくれていいんだぞ。
魔法がうまくいかないことでロンの機嫌も最悪だったが、オレの機嫌も最悪だった。これは自業自得なので完璧なやつあたりだ。
午後の授業は『闇の魔術に対する防衛術』つまりロックハート教授の授業だ。
授業内容は普段のオレだったら楽でラッキーと思っていたが、ただいま機嫌マイナス値のオレにはただただ最悪だった。
「マーリン勲章勲三等、闇の力に対する防衛術連盟名誉会員、『週刊魔女』5回連続『チャーミング・スマイル賞』受賞、もっとも私はそんな話をするつもりはありませんよ。バンドンの泣き妖怪バンシーをスマイルで追い払ったわけではありませんから。全員全巻揃えたようだね、ん? ミスターブラック。君手持ちがいくらか足りないようだが?」
「保護者の意向です」
「ふーむ、君の保護者はナンセンスなようだ。なら君はその三冊の知識で小テストを解きなさい。わからないところは今日にでも友達の教科書を借りて復習するように、いいね?」
オレは言い返すのも面倒で小さく頷いた。ちなみにオレの保護者はお前の雇い主だ、このやろう。
「30分です。よーい、はじめ!」
ペーパーテストの内容は予想外のものだった。いや、一周回って納得してしまった。
『1、キルデロイ・ロックハートの好きな色は?
2、キルデロイ・ロックハートのひそかな大望は?──』
こんな感じのが全部で54問あった。オレはこの際憂さ晴らしにと、全部古代ギリシャ語で書いてやった。今年の夏、古代ギリシャ語を勉強してたんだが、意外とオレに合っている言語っぽい。すぐに習得できた。次はラテン語に挑戦する予定だ。
大丈夫。ロックハートの著書の後書きに古代ギリシャの遺跡の解読をした話がのっていたから問題なく読めるはずだ。
30分後ロックハートは答案を回収しペラペラとめくった。
ハーマイオニーは全問正解だったらしく、10点をもらってた。
「ミスターブラック、あなたはふざけているんですか? いくら、私の人気に嫉妬しているからってこんな記号で答案を書かれても困りますよ。せめてゴブリンの文字ならわたしも解読できますがね」
「ギリシャ語の解読もしたと書いていらっしゃったので」
オレは口の中の苦味を我慢しながらそう発言したため、まわりの人からは眉を顰めて教授に反抗しているように見えただろう。
それを見かねたらしいハーマイオニーがオレのローブを強く引っ張った。オレはまさか引っ張られるとは思ってなく、普通に重心がずれて机にぶつかった。
「あっ、ルークごめんなさい。そんなに強く引っ張ったつもりはなかったの」
「いいよ」
オレはそう呟くのが精一杯だった。というか揺れて吐きそう。
「先生、彼体調が悪いみたいなので医務室に連れて行きます」
「そうでしょう、そうでしょう。そういうこともあります。むしろそうでないとおかしい。今回はミスターブラックの体調不良に免じてお咎めなしです。次からは気をつけてくださいね、はい私の好きな色は──」
ハーマイオニーがオレを半ば引きずる形で教室から引っ張り出した。ロックハートファンの彼女には悪いことをしたな。
「ごめんハーマイオニー」
「あなたが体調が悪いことを知ってたのに、わたしこそごめんなさい」
「いや、君は悪くないよ」
足取りがおぼつかず顔色が悪いオレはマダム・ポンフリーに貧血の生徒と思われたらしい。すぐにベッドに横にさせられ足をあげさせられた。
「増血剤をつかうよりも、こうして頭に血をいかせる方がよくなります。何かショックなことでもありましたか? 脳貧血は心因性でなることが多いですから」
「あー、マンドレイクの授業ですかね?」
「あぁ、耳当てがきちんとついてなかったんでしょう。気絶しなかっただけよかったですね」
オレは初日から実質さぼりをすることになった。ハーマイオニーはオレを送り届けた後、走って戻っていったから授業には出ているのだろう。
◆
しっかりと睡眠をとったおかげで気分はすっきりした。ついでに口の中も数時間たったら慣れたようだ。もちろんまずいものはまずいが耐えられるようになった。顔色がましになった(土気色であることには変わりないっぽいが)オレをみて、マダムポンフリーはオレにチョコレートを一欠片食べさせたあと退室を許可してくれた。
晩御飯を食べに大広間に向かうと疲れた顔のハリーとロンそしてイキイキとしたハーマイオニーがいた。
「どうしたんだい? オレより君たちのほうが体調がわるそうだ」
「いや、どっこいどっこいだね。聞いてくれよ。ルークが医務室に行った後、ロックハートはオレらに何をやらせたと思う?」
ロンがもううんざりだ、みたいな顔をしてオレに尋ねてきた。
「あー。教科書の段落読み音読とか?」
「それならまだいいさ。カゴに入れられた30匹くらいのピクシーを一気に解放したんだ。しかも解放した本人は逃げて、全部の後始末を僕達3人にやらせてきたんだ。ありえないだろ?」
「ピクシーってたしか面倒臭い妖精だろ? 噛んだり飛んだり捕まえるのが難しいのを一気に30匹とか学年設定間違ってるぜロックハート教授」
「あれは私たちに体験学習をさせたかったのよ。私たちは期待されていたに違いないわ」
「結局ハーマイオニーが、なんだっけ、時間を止める魔法みたいなやつをかけて一件落着だったんだ。正直言ってロックハートよりハーマイオニーのほうが100倍優秀だね」
ハリーもため息をつきながらそう言い切った。
「ハーマイオニーお手柄じゃん。オレだったら迷わずフラッフィーを呼んで捕まえさせるな。あいつ動く小さいものが好きなんだ」
「あなた生徒まで一緒に殺す気?」
「まさか。オレの指示に従うようにしつけてあるから問題ないさ。もう一年前のあいつじゃない」
「あの三頭犬よ?! 信じられないわ。今年ホグワーツで事件が起こったらあなた犯人予備軍になるわよ」
「僕も信じられないよ。あいつ僕達を何回か噛み殺しかけた前科があるんだぜ」
「普段はオレにしか解けない魔法で子供を丸呑みするには程遠いサイズだし、番犬なだけあって賢いからな」
「一応、あなたがフラッフィーをペットにすることをダンブルドアが許可したのよね。なら大丈夫かしら」
「そうそう、なにもないだろうけど。それにあいつ影に隠れられるから見られたくないやつがいる時は隠れてもらうから問題は起きないさ」
オレは3人にフラッフィーの安全さを説きながら晩御飯をすませた。
口の中の味は相変わらず最悪だったが、もう顔にでることはないだろう。