オレ、重要なことは何も教えてくれない人の養子になったんだけどやばくないかこれ? 作:Luke Black
二月十四日が何の日か勘の良い人は気づいているかもしれない。
そうバレンタインだ。
ただオレはその日の朝勘が冴えていなかった。夜遅くまでクィディッチの練習をしていたハリーを叩き起こし、支度をさせ大広間に着いた時やっと思い出した。
大広間は壁という壁がピンクの花で覆われておまけに天井からはハート型の紙吹雪が舞っていた。お腹が空いたからと先に行ったロンは吐き気を催したかのような顔をして座っていた。ハーマイオニーはなぜかクスクス笑っている。
「これ何事?」
オレが尋ねる前にハリーが先にいた二人に聞いた。
ロンは口を動かすのも馬鹿らしいという顔で教授の席を指さした。指の先にはけばけばしいピンクのローブを着たロックハート教授が「静粛に」と言っているところだった。
「バレンタインおめでとう!」ロックハート教授はそう叫んだ。そしてこう続けた。
「今のところ四十六人の皆さんが私にカードをくださいました。ありがとう! そうです。皆さんをちょっと驚かせようと、私がこのようにさせていただきました──しかも、これが全てではありませんよ!」
ロックハート教授がポンと手を叩くと玄関ホールに続くドアから無愛想な顔をした小人がぞろぞろと入ってきた。全員が金色の翼を持ち、ハープを持っていること以外は普通の小人だ。
「私の愛すべき配達キューピッドです! 今日は皆さんのバレンタインカードを配達します。そしてまだまだお楽しみはこれからですよ! 先生方もこのお祝いのムードにハマりたいと思っていらっしゃるはずです! さあ、スネイプ先生に『愛の妙薬』の作り方を見せてもらったらどうです! ついでにフリットウィック先生ですが、『魅惑呪文』について私が知っているどの魔法使いよりもよくご存知です。素知らぬ顔をして憎いですね!」
フリットウィック教授は両手で顔を覆い、スネイプ教授は唇の端をひくつかせている。そして目はもちろん死んでいる。
「オレ、スネイプ教授に愛の妙薬教えてもらいに行こうかな」
「おいおい正気か? 絶対やめろって。ここ一年のグリフィンドールへのあたりが最悪になること間違いなしだ。それに君なら教わらなくても作れちゃうだろ」
ロンに全力で止められてしまった。オレはあのとんでもない才能の持ち主になんとか取り入って共同研究をしたいのだが道のりは長そうだ。
オレは知ってるんだからな。この間ハーマイオニーに飲ませた薬の論文の著者のところに『アイリス・ダンブルドア、セブルス・スネイプ』って書いてあるのを。
◆
結論から言おう。
オレはマクゴナガル教授の授業から追い出された。
教授が何かを説明しようとするたびにオレについてきた小人が歌い出すものだからオレも教授もたまったものではなかった。こんな感じだ。
「今日は大きなものを小さなものに変身させます。皆さんには今座っている椅子をインク瓶に変えてもら──」
「あなたが笑うだけで私の心がときめくの。あなたが悪戯をしている時の笑顔も、誰かを助けている時の笑顔も全てわたしに向いてくれたら幸せなのに〜」
「ミスター・ブラックその小人をどうにかしてください!」
「教授、さっきから消音魔法も金縛りの魔法も、なんなら爆発魔法も試していますがどうしようもありませ──」
「すてきなバレンタインを。たくさんの愛をこめて」
そもそもマクゴナガル教授がどうにもできないものをオレがどうにかできるわけがない。やっぱりロックハート教授はすごかったっぽい。尊敬したからこの小人を消し去ってくれ。
「はぁ。仕方がありません。ミスター・ブラック今日はあなたは自習で構いません。いますぐ教室から出て行きなさい。次の歌が始まる前にです。次の授業のフリットウィック教授にもそうお伝えしておきます」
オレの後ろには手紙を読む気満々の小人の列ができていた。
「……そうします」
オレは小人を引き連れて誰もいない廊下を歩くことになった。BGMはポエムだ。
「──次の手紙を読み上げます。全ての愛を──」
こうしてオレはその日の大半を談話室で小人の読み上げ機能をラジオにぼーっとすることに費やした。そしてオレはそのままソファーで気を失った。
最近疲れているっぽい。たまに食べるアンブロシアが健康を維持してくれているのがよくわかる。
◆
イースターの休暇中、2年生は新しい課題を与えられた。3年生で選択する科目を決める時期が来たのだ。
「私たちの将来に全面的に影響するかもしれないのよ」
オレたちは選択科目にチェックをつけながらハーマイオニーの追加情報を右耳から入れていた。
「僕魔法薬をやめたいな」とハリー。
「そりゃ無理、これまでの科目は全部続くんだ。そうじゃなきゃ僕は『闇の魔術に対する防衛術』を捨てるよ」
「どちらもとっても重要な科目じゃないの!」
選択科目は、『数占い』『古代ルーン文字』『占い術』『マグル学』『魔法生物飼育学』って感じだ。
「ハーマイオニー、君全部取るの?」
「もちろん。学んでおいて損はないわ。学問ってどこで繋がるかわからないもの」
「君が取らない科目を取ろうかと思ったけどそれだと0個になりそうだ」
「どうして? 私と一緒に受けたくないの?」
「いや、知らない知識を補い合えればいいかなって思ったんだ。でも同じことを知っているのも話が早く進むから悪くないか。オレもとりあえず全部で申請しておくよ」
「そう、じゃあ三年生もよろしくね」
「ああ。主席は譲らないよ」
「そんなこと言って油断している間に足を掬ってみせるわ。今年はけっこう自信があるの、特に闇の魔術に対する防衛術」
「オレだって今年の魔法薬学はけっこうイケてるからトントンだな」
お互いニコニコの笑顔でそんな会話をしているからか隣にいるハリーとロンからあいつら頭おかしいってって目で見られている。
◆
日常が日常になってきたころまた非日常に引き戻されるハプニングが発生した。
ハリーがただの廊下で叫び声をあげた。あまりに唐突すぎてロンは飛び退き、ハーマイオニーはオレを盾にした。オレは咄嗟に杖を構えた。
「あの声だ!」ハリーがこっちに振り返った。
「また聞こえた──君たちは?」
「だからこの間も言ったけどハリー、ここにはオレたちの足音とホグワーツに迷い込んだ蟲やらの音だけだ。よくあることだろ。ほらっ、これはハエだ」
オレはいま握り拳の中で潰れてしまったハエをハリーに見せながらそう言った。
ロンもオレの返答に頷いている。が、ハーマイオニーがハッとしたように額に手を当てて言った。
「ハリー、わたし、たった今思いついたことがあるの! 図書館に行かなくちゃ!」
そしてハーマイオニーは風のように階段を駆け上がって行った。
「ハーマイオニー、一人行動はダメだって言っただろ! 二人ともごめん。オレも追いかける。ハリー、クィディッチ頑張れっ」
オレも階段を一段飛ばしで駆け上がった。後ろから「なんで図書館なんだ?」なんて声が聞こえてきた。
ちょうどハーマイオニーが図書館に着いた時にオレは追いついた。
「っハーマイオニー、君速いな。で、何がわかったんだ?」
「私、ずっとおかしいと思ってたの。ハリーがわかって私たちがわからない声って変じゃない? でも、彼パーセルマウスよ。蛇の声をもし人間と勘違いしていたら? そしたら辻褄が合うわ」
「つまり、怪物は蛇ってことか。スリザリンらしいな」
「そう。だから今からその怪物が載っている文献を探すわ」
「わかったオレも探すよ。こっちから見ていくから裏の棚を頼んだ」
「了解」
オレたちは二手に分かれて捜索を始めた。
「──やあ。君はどうしてクィディッチも見に行かず図書館で調べ物をしているのかな?」
静かな図書館でオレは後ろから誰かに話しかけられた。
振り向くとスリザリンのネクタイをした男子生徒が立っていた。オレよりも背が高くて威厳があるから多分上級生だ。
「クィディッチを見るか見ないかは自由ですよね? えーっと、オレに何か用事でも?」
「いや、君が何を調べているのか少し気になってね。僕にも教えてくれるかい?」
「魔法生物について少し」
「どんな書籍を探しているのか教えてくれたら探すのを手伝えるよ。僕はこの図書館のことをよく知っているから。遠慮しないで」
やけに馴れ馴れしい。まるで共に苦難を乗り越えた先輩と後輩みたいな関係とでも言わんばかりの雰囲気だ。
「あの、優しくしてくださるのは嬉しいのですがオレとあなた初対面ですよね?」
「警戒心が強いね、君は。でもそれは正解だ。──君が調べている生物を操っているのは僕だからね。君が彼をつれて早く僕に辿り着くことを期待しているよ。秘密の部屋でね」
今なんて言った?
自分が継承者だと明かした、よな?
「おいっ待て! ステューピファイっ!」
オレの呪文は無言で弾き返された。しかも杖なしだ。
「その呪文は僕が教えたんだ、そう簡単にはやられないよ。そうだ、僕にたどり着いたら特別に僕が開発した魔法を教えてあげよう、君そういうの好きだろ? 君には僕の志を受け継ぐ後継者になってもらいたい──おっと、危ないな。今の君に僕を捕まえることはできないよ。なぜって? 僕と君は繋がっているから君が圧倒的に不利な状況だ」
魔法をかけようとするといつも以上に体力を使う。体が重い。
大量の汗が背中をつたっている。心臓が限界まで働いている。貧血っぽい症状が体を襲う。オレは足の力が抜けて地面に尻餅をついた。血の気が戻るのをただ座って待つしかできない。
彼はオレに手を振って図書館の奥に行ってしまった。
思考がクリアになった時にやっと裏にいるハーマイオニーのことを思い出した。
「ハーマイオニー!」オレは大声で叫んだ。
返事がない。
無理やり立ち上がって本棚の裏に回るとハーマイオニーが倒れていた。周りには本が数冊と鏡が落ちている。駆け寄って肩を揺すろうと肩に触れると彼女は石のように固く冷たくなっていた。
判断を間違えたんだ。
本なんて隣でハーマイオニーと探せばよかったんだ。
なんで手分けしようと思ったんだ。
オレの叫び声にマダム・ピンズが怒りながらやってきた後、この状況を見てすぐに顔を青くした。
「生徒ですね、誰か教授を呼んできます。あなたはそこから動かないように」
それだけ行ってマダム・ピンズは走り出した。
オレは人が来るのを待っている間とてつもない罪悪感に苛まれていた。
ハーマイオニーが石になるなんて信じられない。
オレはさっき会ったあいつにこの苛立ちを頭の中でぶつけると同時にいや、それ以上に落ち込んでいた。オレがあの時手分けなんかしたから、あの時あいつを逃したから。
ハーマイオニーが石になったのはオレのせいだ。
「何ということでしょう!」
マクゴナガル教授が駆け寄ってくる、アルバスも後ろからスネイプ教授を連れてやってきた。
「まずは彼女を医務室に運ぶことが先じゃ。わしが運ぶからマクゴナガル教授とスネイプ教授は各寮の談話室に生徒を集めなさい。決して一人で生徒が行動することのないように」
二人は頷いて図書館から走って行ってしまった。
「ルーク、君も医務室に一緒に来なさい。あと君にあげたあれを今すぐ食べなさい」
怪物はなんだったんだ。音すらなく襲える蛇の怪物……ゴルゴンか、コカトリスか……。オレは咀嚼しながらぼんやりとそんなことを考えていた。
「──ルーク、聞いておるかね? 何があったのかわしに教えてくれんか?」
「ぁあ、はい。オレたち怪物の正体が蛇なんじゃないかって調べに図書館に行って……二手にわかれて探したんです。オレがスリザリンの歳上の男子生徒に話しかけられて、その間に彼女はもう襲われていました。その男子生徒が自分が怪物を操る者だと言っていました。オレ、オレがあの時彼を捕まえられたら……」
「自分を責めるでない。その男子生徒の特徴を教えてくれんか?」
「色白、黒髪で黒い目。背が高かったです、オレよりも。俺は彼のことを見たことがないけど知っている……」
「わしは一人その特徴に当てはまる人物と50年前に会ったことがある。名前はトム・リドルじゃ」
「……つまり、オレが会ったのはやっぱり日記のトム・リドルってことですか? でもなんで学生の姿を? 今60歳くらいでしょう? 変身術ですか?」
「それはわからぬ。今わかっているのは不審な人物がホグワーツに入り込んでおるということじゃ。君が少し前に言っていた日記を利用したのかもしれん」
「どうすれば、オレは何をすればよかったんでしょう。オレは友達を守れなかった」
「少し昔話に付き合ってくれんかのう?」
アルバスはオレに50年前について語り始めた。
「50年前にも秘密の部屋が開かれた。わしは当時変身術の教師をしておった。その時にいた生徒が、トム・リドル。そして君もよく知っているハグリッドじゃった。50年前は誰も石になんてならんかった。そのかわり一人の女子生徒が命を落としたのじゃ。結局トムがハグリッドの飼っていた蜘蛛のペットを騒動の原因として糾弾した。トムは功労賞を魔法省からもらい、ハグリッドは退学になった。じゃがわしはあの頃からトムを疑っておった、そして今君の発言からその確証を得た」
「つまり、トム・リドルはハグリッドに自分の罪を着せたということですか?」
「そういうことじゃ。もともとトムは優等生でハグリッドは問題児じゃった。誰もわし以外トムの言葉を疑わんかった。それにハグリッドが危険生物を飼っておった事実は曲げられぬ──」
オレとアルバスが話していると扉がガンと音を立ててパタパタと足音が近づいてきた。
「「ハーマイオニー!」」
ロンとハリーだ。後ろにはマクゴナガル教授もいる。
「ルーク、君はいくつもの強さを引き継いでおる。故に弱き部分も多い。一人ですべてを成そうとせんように。君には多くの神の加護がついておる」
そうオレの耳元で囁いたあとアルバスは静かに立ち上がり、医務室から出て行った。
どういうことだ? オレは多神教徒ではない。
それを見たマクゴナガル教授は重苦しい声でこう言った。
「グリフィンドール塔まであなたたちを送っていきましょう。私もいずれにしろ生徒に説明しなければなりません」
オレはトム・リドルへの恐怖と復讐心が心で渦を巻いていた。