オレ、重要なことは何も教えてくれない人の養子になったんだけどやばくないかこれ?   作:Luke Black

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ルーク、嫌われる

 

 ドラコは木曜日の昼近くまで現れず、スリザリンとグリフィンドール合同の魔法薬学の授業が半分ほど終わった頃に姿を見せた。包帯を巻いた右腕を吊り踏ん反り返って教室に入ってくるさまは、ハリーやロンを大層イラつかせている様だ。

 

「座りたまえ、さあ」スネイプ教授は気楽にそう言う。もし俺があんなふうに登場したら数秒後に寮の点数はゼロになるに違いなかった。

 

 今日の授業は「縮み薬」だ。今回は個人作業だから進捗はまちまち。

 

「先生、僕雛菊の根を刻むのを手伝ってもらわないと、こんな腕なので──」

「ウィーズリー、マルフォイの根を切ってやりたまえ」

 

 スネイプはそうロンに指示し、ロンの顔は赤煉瓦色になった。

 

「お前の腕はどこも悪くないんだ」

 

 ロンは歯を食いしばってドラコに言うもドラコはニヤニヤしてこう返す。

 

「ウィーズリー、スネイプ先生がおっしゃったことが聞こえただろう。根を刻めよ」

 

 ロンはナイフを掴み、マルフォイの分の根を引き寄せめった切りにした。根は大小不揃いに切れていた。

 

「せんせーい、ウィーズリーが僕の根をめった切りにしました!」

「ウィーズリー、君の根とマルフォイのとを取り替えたまえ。いますぐだ」

 

 こんな調子でドラコはハリーにイチジクの皮を剥かせロンに芋虫を輪切りにさせている。

 

 なぜ俺にはその役目が回ってこないかって? 俺は自分の縮み薬を作りながら、バジリスクの皮を10g片にわける作業をしているから。教授から直接バジリスクとは言われていないが、緑色の皮なんてそうでしかないだろう。つまり研究のための下準備を授業中に並行している。

 

 そもそもの原因はネビルの調合を手伝っているのがバレて、そんなに余裕があるのならと渡されたトートバッグでも作れそうな蛇皮だったってわけだ。これが素手で触ったら手がズタボロになるっていう厄介な特性を持っているので面倒くさい。

 

「オレンジ色。ロングボトム、教えていただきたいものだが、君の分厚い頭蓋骨を突き抜けて入っていくものがあるのかね? 吾輩ははっきり言ったはずだ。ネズミの脾臓は一つでいいと、聞こえなかったのか? ヒルの汁は少しでいいと、明確に申し上げたつもりだが。ロングボトム、一体吾輩はどうすれば君に理解していただけるのかな?」

 

 俺はネビルの鍋を覗き込んで、匂いを嗅ぐ。

 

「雛菊の根をすりつぶして小さじ1杯、水1カップ、萎びイチジクのエキス3滴が妥当なラインかな。色は、ネズミの膵臓のせいでどうしようもないか……いや、芋虫もすりつぶして入れればもしかしたら戻るか? あー、間違ってはないだろうけど……いい方法が思いつかないな。材料を無駄に使いすぎる……

「ブラック! 自分の知識をひけらかす許可はしていない。昼休みに薬棚の整理と授業準備の手伝いにくるように。ロングボトム、最後にその薬を君のヒキガエルに数滴飲ませてどうなるか見ることにしよう」

 

 は? 昼休みっていつだよ。今が昼休み前最後の授業だから、数占いを受けた後か? このまま残って昼休み終わりに砂時計を三回回して、数占いを受けて昼飯を食べれば……いや、でももし未来の俺がここに戻ってくるのなら同じ空間に俺がいるのはおかしいよな? 未来の俺もこんな思考をするんだろうな。

 

 頭のなかパニックなやつが俺の下にもう一人集まってきた。ネビルの手伝いが終わったらしい。ハーマイオニーにどうアレンジしたか聞いたらその配合が的確すぎて俺は絶賛した。

 

「ところでルーク、次は私たちなに?」

「落ち着け、俺もいまこんがらがってる。ただ昼休憩じゃないことは確かだ」

「マグル学はもう受けたかしら?」

「それは魔法薬学の一個前だ。課題は明後日。そうだ! 次は数占いだろ?」

「違うわよ。それは明日……よね? あっ、今思い出した。次は古代ルーン語よ!」

「まじか。教科書を寮に置いてきた。課題は……たぶん持ってる。ポケットを整理する時間が必要だけど」

「しわくちゃになっていないことを願っておくわ」

 

 二人ともここ数日、1日が長すぎて食事も睡眠もまともに取れてない。そろそろキツくなってきている。それはお互い理解していた。これが一人だったら絶対耐えられなかったと思う。

 

「ロングボトムのヒキガエルがどうなるか、よく見たまえ。なんとか『縮み薬』が出来上がっていれば、ヒキガエルはおたまじゃくしになる。もし作り方を間違えていれば、吾輩は間違いなくそっちだと思うが、ヒキガエルは毒にやられるはずだ」

 

 スネイプ教授はネビルに渡された()()()()()をトレバーに流し込んだ。一瞬あたりが静かになり、ポンと軽い音がしてスネイプ教授の手の中でおたまじゃくしが跳ねた。

 

 グリフィンドール側は拍手喝采した。スネイプ教授はローブのポケットから小瓶を取り出しトレバーに数滴かけカエルに戻した。

 

「グリフィンドール5点減点。誰が手伝っていいと言ったブラック、グレンジャー」

 

 いや、俺手伝ってないから。スネイプ教授の減点に文句をいいながら教室を出た。

 

「あー、……俺トイレ行ってから大広間行くよ。先に行っておいてくれ」

「あっ私も!」

 

 こうしてハリーとロンからうまく抜け出したと思ったが、ルーン語を受けていたら自分達がトイレに行っていたことなんてすっかり忘れていた。

 

「君たちトイレ行くんじゃなかったの? 戻ってくるの早くない?」

 

 なんて尋ねられてやっと思い出した。

 

「ピーブズがいてね、後にしようかなってさ」

 

 こんなことじゃいつかマジでバレそうだ。

 

 昼飯を詰め込んで、俺は一人魔法薬学の教室に戻った。午後は逆転時計を使わないから離れても大丈夫だ。

 

「ブラック、遅いぞ。まずこれを飲んでから作業に入れ」

 

 差し出されたのは匂いも見た目もココアだ。疑うようにスネイプ教授を見ると「何をしている、早く飲め」と言われるから覚悟を決めて口をつけた。

 

「えっ……ココアだ」

「それ以外になんだと? 君にはこれがタールにでも見えたのかね?」

「いや、想定外だったので」

「無駄口を叩いていないで作業に移るぞ。今日は前回言った通りバジリスクの胴体の一部を細かく解体をする。手袋は持ってきたか?」

 

 机の上にはバジリスクの体の一部が乗っている。人間三人分くらいの大きさだ。

 

「あれ? 耐火手袋ですよね?」

「馬鹿者。今からの実験のどこに火を使う要素があるのか教えていただきたいですな」

「あー、毒の方か。すみません、少し顔を洗ってきてもいいですか?」

「時間がないから駆け足でいけ」

 

 知ってるか? 共同実験してる時の教授は普段の100倍は寛容なんだぜ? 口調は変わらずだけど。

 

 俺は蛇口を捻り冷たい水を頭からかぶった。ひんやりとした感覚は目を覚ましてくれる。タオルで水滴を拭いて急いで戻るとスネイプ教授はもう先に作業を進めていた。

 

「血液が固まらないようにヒルの唾液を」

「了解です、蓋はしても?」

「そうだ、そうしたら吾輩の保管庫の下から2段目に、鍵はこれだ。おいてきたら骨と筋肉を引き剥がすのを手伝え」

 

 こうしてちゃくちゃくと作業を進め、大きかったバジリスクの一部は綺麗に細切れになった。

 

「今日はこれで終わりだ。実験レポートは週末までに出すように。あとトリカブトの毒とバジリスクの毒の違いについて説明できるように」

「教授、その課題の量は……」

 

 ただでさえ今いろんな課題で頭がパンクしそうなのに。

 

「その代わり通常授業のレポートは免除していることをミスター・ブラックは忘れているようだ」

 

 通常授業のレポートなら1時間で終わるが、これは3時間コースってことを教授は理解していないようだ。

 

「ふぅ。わかりました。今年は個人的に魔法薬を部屋で試作する暇がありませんよまったく」

「それが教員の総意だ」

「問題を起こす暇がないくらい課題と授業を重くしようと。校長は俺のことを本当によくわかっているな」

 

 

 生徒たちが座って教科書と羽ペン羊皮紙を取り出しおしゃべりをしているとやっとルーピン教授は教室に入ってきた。俺が彼を見たのは逆光下と壇上。どちらもしっかりと見るには難しかった。今良く見てみると、若いだろうに持っているカバンはくたびれローブはみすぼらしく、頬はこけている。苦労人という言葉がしっくりくるそんな見た目をしていた。

 

「やあみんな。教科書はカバンに戻してもらおうかな。今日は実地練習をすることにしよう。杖だけあればいいよ」

 

 その言葉に皆怪訝そうに顔を見合わせる。いままで防衛術の授業で実地訓練などほとんどなかった。唯一あったのはピクシーを一籠持ち込んだ愚か者くらいだろう。幸運なことに俺はその授業は回避したが。

 

「よし、それじゃ。わたしについておいで」

 

 なんだろう、面白そうだとみんな立ち上がってルーピン教授に続いて教室を出た。そうして案内された先は職員室だ。中に入るとスネイプ教授のみそこにいらっしゃった。「さあ、お入り」なんてルーピン教授が言うので生徒は遠慮がちに中に入る。最後に扉を閉めようとするとスネイプ教授が口を開いた。

 

「ルーピン、あけておいてくれ。我輩はできれば見たくないのでね」

 

 スネイプ教授は立ち上がり、黒いマントを翻して大股でみんなの脇を通り過ぎていった。そして俺の近くで「気をつけろ」なんて小さな声で言うものだから俺は唖然としてしまった。どの口が俺を心配しているんだ。

 

「ルーピン、たぶん誰も君に忠告していないと思うが、このクラスにはネビル・ロングボトムがいる。この子には難しい課題を与えないようご忠告申し上げておこう。ミス・グレンジャーかミスター・ブラックが耳元で指図を与えるだろう。昔の彼らのように」

 

 ネビルは真っ赤になり、生徒はスネイプ教授を睨みつけた。

 

「術の最初の段階で、ネビルに僕のアシスタントを務めてもらいたいと思ってましてね。それに、ネビルはきっと、とてもうまくやってくれると思いますよ」

 

 スネイプ教授はその言葉を聞くか聞かないかで扉から出ていった。バタンと閉まる音の後、一瞬静けさに包まれた。

 

「さあ、それじゃあこの箪笥の周りに集まろう。心配しなくていい、中にはまね妖怪──ボガートが入っているんだ。まね妖怪は暗くて狭いところを好む。さて、最初の問題です。まね妖怪のボガートとはなんでしょう?」

 

 ハーマイオニーが手を挙げた。

 

「形態模写妖怪です。私たちが1番怖いと思うのはこれだと判断すると、それに姿を変えます」

 

 そう、まね妖怪は不生不死かつ非存在の妖怪だ。つまり死ねないやつら、たとえば吸魂鬼や俺が言う『怪物』と同じ分類。

 

「わたしでもそんなにうまく説明できなかったろう。だから、中の暗がりに座り込んでいるまね妖怪は、まだなんの姿にもなっていない。箪笥の扉の外にいる誰かが何を怖がるのかまだ知らない。彼らが一人の時どんな姿をしているのか誰も知らない。しかし、私が外にだしてやると、たちまち、それぞれが1番怖いと思っているものに姿を変えるはずです」

「ということは、つまり初めっからわたしたちの方がまね妖怪より大変有利な立場にありますが、ハリー、なぜだかわかるかな?」

 

 となりでハーマイオニーが手をあげているのをちらっと見た後ハリーは答えた。

 

「僕たち、人数がたくさんいるのでどんな姿に変身すればいいかわからない?」

「その通り、まね妖怪を退治するときは誰かと一緒にいるのが1番いい。向こうが混乱するからね。まね妖怪を退治する呪文は簡単だ、しかし精神力が必要。こいつらをやっつけるのは、笑いなんだ。初めは杖なしで練習してみよう」

 

 こうして呪文の発音を練習したあと、ルーピン教授はネビルに怖いものを聞き出した。彼が答えたのはスネイプ教授。ルーピン教授は続けてネビルに彼のお婆さんの服を思い出させる。

 

「君はあいつが箪笥から出てきたら素早く呪文を唱えてお婆さんの服装に精神を集中させるんだ。すべてうまくいけばスネイプ教授が緑のドレスをきてハゲタカ帽をかぶっているだろう」

 

 教室は大爆笑に包まれた。すると箪笥が一段と激しく揺れた。

 

「ネビルが首尾よくやっつけたらその後は君たちに向かってくるだろう。みんなちょっと考えてくれるかい? 何が1番怖いかって。そしてその姿をどうやったらおかしな姿に変えられるか想像してごらん」

 

 部屋が静かになった。

 

 1番怖いものか。やっぱり蜘蛛か? 一生涯、生理的に嫌悪するのは蜘蛛だろう。でも、俺はアラゴグと対面して今生きている。克服とまではいかないが、最も怖いからはこの経験によって外れた気がする。じゃあ人の死? いや、それは違う。死は俺にとって身近な存在で恐怖の対象ではないだろう。闇や孤独だって慣れている、いやむしろホームだ。では空や海? そこに行くことに恐怖はあるが、それが存在することには特になにも思わない。1番と考えると難しい。

 

「みんないいかい? 次の生徒は前にでるようにわたしが声をかけるから……みんな下がって、さあ、ネビルが間違いなくやっつけられるように」

 

 俺はできるだけ箪笥から離れた場所に待機した。まだ考える時間が欲しいなと思った。ハリーも同じ気持ちだったのか俺の隣についた。

 

「三つ数えてからだ、いーち、にー、さん、それ!」

 

 箪笥の扉が勢いよく開き、スネイプ教授が現れた。ネビルは杖をあげ、口をぱくぱくさせながら後退りした。スネイプがローブの懐に手を突っ込みながらネビルに迫った。

 

「り、り、リディクラス!!」

 

 ネビルはうわずった声で呪文を唱えた。まね妖怪は徐々に衣装替えをおこない、とうとう赤いハンドバッグまで手にした。教室はどっと笑いがおこる。

 

「パーバティ、前へ!」

 

 こうして、パーバティは血まみれのミイラ、シェーマスはバンジーと続き、ガラガラヘビ、目玉、切断した手首と続きロンが続いてアラゴグを出しやがった。

 

「あー、やっぱこれが1番脳を支配されるな」

 

 遠くから見ていても手の震えがとまらない。ロンは勇敢に大きな声で「リディクラス!」と叫んだ。蜘蛛の足は消え、ゴロゴロと転がり出し、目の前のラベンダーが金切り声を上げて退いたせいでハリーの前にやってきた。

 

「ルーク! 次だ!」

 

 俺? まじで? ハリーだと思っていたから油断していたが、気を取り直して俺はしっかり木の杖を構える。パチンと音がした。

 

 そして俺の目の前には人が、いや瞬きをしたらいなくなった。

 

「は?」

 

 俺は思わず自分の杖を見た。間違って鉄の杖を出してないか。もしそうだったのなら俺は彼らを冥界にウーバーしてしまった可能性もあるかなと思った。でもそんなことはなかった。

 

「ルーク、君はいったい何を?」

「……俺が聞きたい」

 

 ハリーに聞かれて俺はそう答えるしかなかった。

 

「ほう、まね妖怪は箪笥に戻ったようだ。不思議なこともあるね。もう弱っている証拠だ、こうなったらしばらく出てこないだろうから今日のクラスはこれで終わり。いいクラスだった。そんな君たちに一人5点あげよう。ハーマイオニーとハリーも最初に質問を答えてくれたから5点だ。宿題はまね妖怪の章を読んでレポートを提出すること、月曜日までだ」

 

 みんなが興奮してぺちゃくちゃ言いながら職員室を出たが、俺とハリーのテンションは高くなかった。ハリーはどうしてもまね妖怪と対峙したかったんだろうか……悪いことをしたな。

 

 やっぱり俺、生物と仲良くなれないのかもしれない。フラッフィーで安心しきっていたけどそういえばあいつ地上の生物じゃなかったし、蜘蛛とは相嫌相悪だし、ヒッポグリフには避けられるし、ボガートには逃げられるし、スキャバーズは俺の手に乗ってくれないし。

 

 それか俺の恐怖は祖父だったのかもしれない。まね妖怪がかの神に化けるのは少し憚られるだろうから。

 

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