オレ、重要なことは何も教えてくれない人の養子になったんだけどやばくないかこれ? 作:Luke Black
体調不良(過呼吸嘔吐等)描写がありますので苦手な方は申し訳ありません
グリフィンドールの四年生はムーディ教授の初回授業が待ち遠しく木曜日の昼食がすむと教室の前に集まり、始業ベルがなる前に列を作っていたようだ。
俺は昼食後スネイプ教授にネビルがぬきだしたカエルのはらわたの選別を頼まれていたのでぎりぎりまでそれをやっていた。
「早くおいでよ、いい席がなくなる」
4人で素早く最前列の真ん中陣取り教科書を取り出して待っている。そんなハリーとロンの姿なんて一年生の初回以来だったから思わず口角が上がってロンにどつかれた。
「そんな物、しまってしまえ。教科書だ、そんな物必要ない」
みんな教科書をカバンに戻した。ロンが顔を輝かせている。
「よしそれでは、このクラスについてはルーピン先生から手紙をもらっている。お前たちは闇の怪物と対決するための基本をかなり満遍なく学んだようだ。しかし、遅れている。呪いの扱い方についてだ。そこでわしの役目は魔法使い同士が互いにどこまで呪い合えるものなのか、お前たちを最低線まで引き上げることにある」
魔法省の教育方針に盛大に逆らった授業がはじまった。
「さて、魔法法律により、最も厳しく罰せられる呪文が何か知っている者は?」
ハーマイオニーはもちろん、ロンも手を上げている。稀に見る積極性だ。それを察したのか、たまたまかロンが当たる。
「たしか『服従の呪文』とかなんとか?」
「ああ、そのとおりだ。お前の父親ならたしかにそいつを知っているはずだ。一時期魔法省を梃子摺らせたことがある『服従の呪文』はな」
ムーディ教授は立ち上がり机の引き出しを開け、ガラス瓶を取り出した。黒い大蜘蛛が三匹中でガサゴソ這い回っている。
俺は思わず椅子をガタンと鳴らしてしまった。
「どうしたルーク?」
「なんでもありませんムーディ教授」
冷や汗を拭い座り直した。呼吸が早くなるのを意識的に抑え、ひたすら落ち着くのを耐える。
拳を爪が食い込むまで握っていたのにハーマイオニーが気づいたようだ。ゆっくりと解された。
「インペリオ! 服従せよ!」
蜘蛛は細い絹糸のような糸をたらしながらムーディ教授の手から飛び降り、宙返りをし、タップダンスをし始めた。クラスは笑い声に包まれた。
もちろん俺は死んだ顔をしていた。何が楽しくて蜘蛛を眺めなくちゃいけないんだ。
「このクラスには深刻さを理解している者は一人しかいないようだ。面白いと思うのか? わしがおまえたちに同じことをしたら喜ぶか? 完全な支配だ」
ムーディ教授は盛大な勘違いをしたようだ。まあそれを進言する元気もなければそんなダサいことはしない。
「何年も前になるが多くの魔法使いがこの『服従の呪文』に支配された。誰が無理に動かされているのかそれを見分けるのは一仕事だった。だが『服従の呪文』は抗うことができる。これは個人の持つ真の力が必要でだれにでもできるわけではない。できれば呪文をかけられぬようにする方がよい。油断大敵!」
突然の大声にみんな飛び上がった。
「他の呪文を知っている者はいるか? お、ロングボトム答えてみろ」
「磔の呪文」
「そうだ、それがどんなものかわかるように、少し大きくする必要がある。エンゴージオ肥大せよ」
終わった。俺の顔は真っ青だろう。吐き気と悪寒から必死に耐えている。
「ルーク、大丈夫? 顔色が……」
ハーマイオニーの問いかけに俺は小さく頷いた。
「クルーシオ! 苦しめ!」
たちまち蜘蛛は脚を胴体に引き寄せるように内側に折り曲げてひっくり返り、七転八倒し、ワナワナと痙攣し始めた。
俺はちょっとこれ以上近くにいると無様な醜態をクラス中に見せそうだったので静かに席を立った。
「ルーク、どうした」
「体調がすぐれないのでトイレに。すぐ戻ります」
震える脚をなんとか動かし、男子トイレにたどり着いた。床が汚いとかそんなことを考えている間もなくへたり込んで便器に顔を突っ込んだ。壊れた蛇口という表現が正解だろう。昼食が白をよごした。
アドレナリンの大切さを実感した。アラゴグと対面できたのは奇跡だ。
息が制御できなくなり、肺がヒューヒュー言っている。
こういう時どうすればいいんだっけ? 頭も回らないし、苦しいし辛い気持ち悪い。
「そこで何をしている、今は授業中……ブラックどうした!!」
タイミングがいいのか悪いのか、現れたのは声からしてスネイプ教授だろう。背中に手を当てられ摩られる。
「落ち着いて呼吸しろ」
「はぁっ……は、っ……」
「ゆっくりだ」
「……っ」
「上手だ。まだ戻しそうか?」
涙目になりながら頷く。
「吐くことに集中していろ」
ひたすら俺の体を支えながら背中で手を摩ってくれた。何分なのか何十分なのかは定かじゃないが、吐き気はやっと治まり手の震えもなくなった。どっと疲れた。俺は洗面所に支えられて向かい、口を濯いだ。スネイプ教授は片手間で俺のローブと床とその他諸々は魔法で綺麗にしてくれた。
「ありがとう、ございます」
「何があった」
「闇の魔術に対する防衛術で……すこし気分が、悪くなって」
「まさかお前が呪文に恐怖を抱くような性では……蜘蛛か?」
「なっ、なんでそれをっ」
「学生時代お前の母親と長い時間を過ごした。恐怖症まで遺伝するとは。待て、どこに行く」
「授業に戻らないとなので」
「その青白い顔で行くつもりか。残念ながら吾輩は教員として医務室にお前を連れていく義務がある」
「はぁ、わかりました」
よくよく考えたら自立歩行が困難なのに授業を平然と受け切るには相当な猫被りが必要だ。大人しく休むのが正解かもしれない。
医務室にほぼ引きずられるように入るとマダムポンフリーがいつもの顔をした。
「今度は何があったというのです!!」
「防衛術の授業で刺激的なものを見てパニックに陥ったようですぞ。偶然にも吾輩が男子トイレからのうめき声に気付きましてね」
「外傷はないのですね。熱は? 嘔吐は?」
あれよあれよといつものベッドに移動させられ、隣には洗面器が積まれた。ネクタルにストローをブッ刺してちびちびと飲んだ。ココアのような、ブラウニーのような味に体が芯から温まっていく。もうこれなしではマジで生きていけない。
「体調が悪くなったらこれで吾輩を呼び出せ。あと……ムーディには気をつけろ」
もらったのはベルだった。遠くに離れていても共鳴して相手のベルもなるらしい。距離が近くなると音が大きくなるらしい。なんとも珍しいものをスネイプ教授は持っているようだ。
医務室には泊まることになり静かな夜を過ごしていた。一人の来客が現れた。
「気分はどうだルーク」
「……もうすっかり良くなりました。ムーディ教授」
「まさかお前がそこまであれに反応するとは思わなかった。ポッターやロングボトムが反応するのはわかるが」
「あはは」
「だが、どんなに拒絶反応があれども君にはあれらの魔法を身につけてもらわねばならぬ」
「……防衛術ではなく?」
「防衛術も重要ではあるが、あれらの魔法もブラック家の当主ならば必要な技術だ。わしは残念ながら今年一年しかお前に教えられない。この一年でわしが知る技術をお前に詰め込む」
「なんで俺なんですか?」
「お前には期待している。優秀さは他の先生のお墨付きだ。本来ならお前が三大魔法学校対抗試合にでればいいのにと思われるほどにな」
「ご冗談を、4年生の俺が上級生に比べ知識も経験も足りないのは明らかでしょう」
「本当にそうだろうか? まあいい、ゆっくり休め」
俺の左前腕をなぞってそのまま去っていった。
◆
それから数週間いろんな人に心配されながら過ごした。俺の印象が『病弱な王子様』になったと聞いた時は頭を抱えた。
ハリーと父さんは頻繁に手紙のやりとりをしているようだ。傷跡が痛むことの相談らしい。俺は父さんに手紙を出すとか小っ恥ずかしくてできてない。
闇の魔術に対する防衛術はより難しく過酷になってきた。
ムーディ教授が「服従の呪文」を生徒一人ひとりにかけて呪文の力をしめし、果たして生徒がその力に抵抗できるかを試すと発表した。
「でも、でも先生、それは違法だとおっしゃいました。たしか、同類である人にこれを使用することは」
「ダンブルドアがこれがどういうものかを体験的におまえたちに教えてほしいというのだ。もっと厳しいやり方で学びたいというのであれば、だれかがお前にこの呪文をかけて完全に支配する。そのときに実践的に学びたいというならわしは一向に構わん」
ハーマイオニーは貴重な体験とルールを天秤にかけて貴重な体験をとることにしたらしい。
ムーディは生徒を一人ずつ呼び出し呪文をかけ始めた。皆呪いのせいでおかしなことをし始めた。
ディーンはケンケンで教室を三周し、ラベンダーはリスの真似をした。ネビルは見事なバク転をやってのけたのを見て、これは非常に有効な魔法だなと思った。自分の能力以上のことを服従している間は引き出せるということだ。面白い。
誰一人抵抗できた者はいない。ムーディが呪いを解いて初めて我に返るのだった。
「ポッター、次だ」
ハリーもインペリオと言われた瞬間に跳躍の準備を始めた、そして飛ぶのかと思いきや思いっきり机にぶつかった。
「よーし、それだ! それでいい! おまえたち見たか! 抗ってもう少しで打ち負かすところだった! 最後ルーク。こっちにこい」
ハリーが抵抗をしているのを見て、抵抗が可能だということはわかったが難しそうだ。コツも何も知らない状態で挑戦は心細すぎる。やっぱり知識の鎧を先に纏ってくればよかった。
「いくぞ、インペリオ! 服従せよ!」
一気に気分が良くなる。高揚感はたぶんクスリに近い。安心してくれ、試したことはない。
そして脳内に響く声『跪いて忠誠を誓え。靴を舐めろ』。
ただその気持ちが良い命令はよく知る声によってかき消された。
『ルーカス、何をやっている。忠誠は私に誓ったであろう。その者に従うのならば冥界に縛り付けようか』
メンヘラな祖父だった。
『ハデス王に誓ってそのようなことは』
『ならば杖を掲げよ。そしてハデス一族の威厳を見せろ』
俺は杖を引き抜きムーディ教授に向けた。
ここで高揚感は解かれてどっと疲れが溢れ出た。
「よくやった!! 一発でここまで完璧とは。抵抗力が極めて高い。ポッター次だ、今日で完璧にしてやる」
俺はすでにハデス王に生まれながら忠誠を誓っているから服従の呪文はハデス王が忙しくない限り、または俺が見限られない限りは効かないのかもしれない。いいのか悪いのか。その代わり祖父の命令は絶対だからもうすでに服従の呪文にかかりっぱなしと言っても過言ではないが。オキニにはオキニの辛さがあるってことさ。
ハリーはその後4回も繰り返し術をかけられ見事抵抗していた。
「ムーディの言い方ときたらまるで、僕たち全員が、いまにも襲われるんじゃないかと思っちゃうよね」
「ウン、その通りだ」
ロンは一歩おきにスキップしていた。ロンは呪いに弱い体質だったらしい。
「ルークはなんて命令されていたの?」
「跪いて靴を舐めろだってさ。絶対にやりたくない命令だったよ」
「わー、僕スキップでよかったよ。あー『服従の呪文』への抵抗について何か読めだなんて何を読めばいいんだ? ただでさえ忙しいのに」
「今年は昨年より暇だろ?」
「「それはルークだけだよ!!」」
四年生はたしかにやらなければいけない宿題の量が増えているっぽい。俺からしたら去年の無茶振りな時間割に比べたら綺麗に時間割がバラけているおかげで全然快適だ。逆転時計はハーマイオニーと一緒にまだ使っているけれど。
「皆さんはいま、魔法教育の中で最も大切な段階の一つに来ています! 『『O・W・L』普通魔法レベル試験が近づいています、皆さんは十二分に準備をしないといけません。このクラスでハリネズミをまともな針山にかえることができたのはミス・グレンジャーとミスター・ブラックのみです。ミスター・ブラックの針山を認めるには抵抗がありますが」
俺の針山は人型でお尻に針が刺さる仕様になっている。昔ドイツのお土産屋で見た気がするのを再現した。
占い学では毎月の予言、魔法史では小鬼の反乱についてのレポート、魔法薬学では解毒剤の研究課題、呪文学では呼び寄せ呪文の参考書三冊、魔法生物学では尻尾爆発スクリュートの観察日記となかなかに楽しい宿題が揃った。
ちなみに小鬼の反乱レポートは一年の時にまとめたものがあるし、呼び寄せ呪文は習得済みな俺は余った時間を毒薬作りに捧げている。既存の毒薬の解毒剤じゃおもしろくないだろ?
解毒剤は生徒で実験するとスネイプ教授がニヤニヤしながらおっしゃったからか皆真剣に取り組んでいる。
玄関ホールに着くと大理石の階段の下に建てられた掲示板の周りに大勢の生徒が群れをなして右往左往していた。
『三大魔法学校対抗試合:ボーバトンとダームストラングの代表団が10月30日午後6時に到着する──全校生徒はかばんと教科書を寮に置き歓迎会の前に城の前に集合し、お客さまを出迎えること──対抗試合の運営を若干名募集中、教員が声をかけたらぜひ引き受けてほしい』
「たったの一週間後だ! セドリックのやつ知っているかな? 僕しらせてやろう!!」
ハッフルパフのアーニーが目を輝かせて群れから出てきた。
「きっと対抗試合に名乗りを上げるんだ」
「あのウスノロがホグワーツの代表選手?」
「ロン、あの人はウスノロじゃないわ。クィディッチでグリフィンドールを破ったものだからあなたがあの人を嫌いなだけよ。あの人とっても優秀な学生だそうよ、その上監督生!!」
「君はあいつがハンサムだから好きなだけだろ」
「お言葉ですが、私誰かがハンサムだというだけで好きになったり致しませんわ」
ハーマイオニーは憤然としている。
ロンは大きな空咳をしたがそれが「ロックハートとルーク」って聞こえたのは気のせいだろうか。
長らくお待たせしました。なんというか新生活が思ったよりも忙しくてという言い訳を残しておきます。書き置きがしばらくあったのを思い出したのでそれをちびちび投稿できればなと思っています。