「図書館って、強い能力だよな」「お前は何を言ってるんだ」   作:クラウディ

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ランキング20位<やぁ!

( ゚д゚)



ランキング9位<やぁ!

( ゚д゚)<……マジデ……?





第一特異点 終幕

「すぅ……すぅ……」

「眠っているね。まるで小さな子供のようだ……」

 

 管理人さんの腕の中で眠る『オルタ』は、とても安らかな顔をしていた。

 そして、そんな彼女の頭を撫でながら言う管理人さんも穏やかな笑みを浮かべている。

 

「……この子はどうなるんですか?」

「このまま眠らせてあげよう。この子は殺戮をしたいわけじゃない。ただ自分の存在意義を証明するために暴れていただけだったんだ。だったら、これからは自分の為に生きていけば良い」

「……わかりました」

 

 私が質問すると、管理人さんはすぐに答えてくれた。

 多分、彼の中ではある程度予測がついていたんじゃないかな?

 

「……」

「あぁ、大丈夫だよ。僕は彼女の存在を否定するつもりはない。そもそも、彼女は『ジャンヌ・ダルク』であって、ジャンヌ・ダルクではない。ただ、その記憶を持った別人なんだ。だから、彼女という人格はちゃんと尊重するつもりさ」

「はい。ありがとうございます」

 

 私の視線に気づいたのか、管理人さんは少し慌てながら説明してくれた。

 そして、彼は『オルタ』のことをジャンヌ・ダルクと呼んだ。

 それって、どういう意味なのかな?

 

「さて、まずはこの子を起こさないとね」

「起こす?」

「うん。彼女が持っているであろう聖杯を渡してもらわないとね。でも、今のままだと彼女にとって不都合なことがたくさんあるから、ちょっと手を加えないといけないけど」

「……あの、一体何をするんですか?」

「あぁ。それは――」

「ううっ、んっ……」

 

 管理人さんが言葉を続けようとして、そこで意識を失っていたはずのジャンヌ・オルタが起き上がった。

 

「あれ、ここは……」

「おはようオルタ。気分はどうかな?」

「ふぇっ!? お、お兄さま!? どうしてここに!? それに、その、私は何故こんな格好を……」

 

 ジャンヌ・オルタは管理人さんの顔を見ると驚いていたが、管理人さんに膝枕されていることに気が付いて慌てて起き上がろうとした。

でも、すぐに力が抜けてしまったのか、そのまま再び倒れ込んでしまう。

 

「無理しないでいいよ。今は、ゆっくりと休んでほしい」

「あっ……」

「君の体はそうでなくとも、精神の方はかなりボロボロだ。しばらくはまともに動けないだろうね」

 

 管理人さんは、優しく微笑みながら言った。

 その表情からは、心の底から彼女を心配している気持ちが伝わってくる。

 

「さて、その体勢のまま聞いてくれオルタ。君の状態を正直に言うと、英霊の座に登録されていないハリボテの状態だ。そんな君は霊基の消失と同時に存在も消滅してしまう。すでに記録されているジャンヌ達とは違って、君はこの異常事態に生まれてしまった『イレギュラー』な存在なんだよ」

「そ、そんな……」

「まぁ、今の状態なら特に問題はないんだけどね」

「えっ?」

 

 管理人さんの言っていることの意味がわからず首を傾げる私。

 だけど、管理人さんはそのまま話を続けた。

 

「簡単に言えば、今のオルタの体は一時的に存在しているだけの仮初めの存在だ。本来であれば、このまま消え去るはずだったところを特異点という普通ではない状況で。そして、君が目覚めるまでの時間を使って、君の存在を補強するために処置を施したんだ」

「ファッ!?」

 

 何それ!?

 この短時間でそれだけのことを!?

 

「驚くのも仕方がない。普通ならこんなことできないさ。『魂の物質化(第三魔法)』を疑似的に再現しているからね。でも、これくらいなら僕にもできるんだ」

「えっと……」

「君の存在は固定された。ジャンヌ本人ではなく、ジャンヌの『贋作』でもなく、ジャンヌではない『別人』として『書き換えた』。だから、もう大丈夫だよ」

「……っ!」

 

 管理人さんの言葉を聞いた瞬間、ジャンヌ・オルタの目が大きく見開かれた。

 そして、そのまま彼女は管理人さんにしがみついて泣き始めた。

 

「ああっ~! うわあぁ~んっ!!」

「よしよし。怖かったよね。辛かったよね。よく頑張ってきたね」

「うぅ~!! ひぐっ……、ひっく……」

 

 まるで子供のように泣くジャンヌ・オルタを、管理人さんは優しく抱きしめる。

 その姿はまるで、お母さんみたいだった。

 

「これで、一件落着……なのかな?」

「おそらくは……」

「はぁ~……。なんか、一気に疲れちゃった……」

「同感です……」

 

 私とマシュはその場に座り込みながら大きく息を吐いた。

 

「あははっ、おつかれ」

「笑い事じゃないですよぉ……」

「まさか、こんな結末になるとは思っていなかったからね。笑いたくもなるもんよ」

 

 そんな私たちの様子をマルタさんが苦笑しながら声をかけてくれた。

 

「ありがとうございます」

「いえ、こちらこそ。あなたのお陰でこの特異点を解決することができました。感謝します」

「ううん。私は何もしてないよ。みんなのおかげで倒せたんだよ」

「それでも、アンタがいたから……アンタがあいつを連れてきてくれたから、皆無事だったのよ」

「そうだね。本当にありがとう」

「うん。どういたしまして」

 

 改めて礼を言うマルタさんに、私は笑顔で応えた。

 

「さて、これからどうしようかなぁ……」

「そうね。とりあえず、カルデアに連絡を取って、それから……」

『こちらも聞いていたよ。第一特異点の攻略お疲れ様。大変だっただろう?』

「ダ・ヴィンチちゃん!」

 

 私が悩んでいると、投影された映像からダヴィンチちゃんの声が聞こえてきた。

 

「はい。そちらの方は?」

『こちらは無事に終わったよ。帰還の準備も整っている』

「わかりました。管理人さんに伝えてきますね」

「お願いね」

「はい」

 

 私はすぐに管理人さんたちのところへ向かった。

 

「管理人さん。カルデアから連絡が来ています」

「あぁ、わかった。……と、言いたいんだけど、まだあと一人残っているよ」

「一人……?」

「うん。ほら、そこにいるよ」

 

 管理人さんはそう言って、誰もいないところを指差した。

 周囲は、サーヴァントの皆の戦闘で地盤がめくれあがっており、酷い有様だ。

 しかし、そんな状況とはいえ、敵対していたサーヴァントはオルタだけのはず。

 どうしたんだろう……?

 

「出てきなよ。ジル」

「……やはり、貴方にはこの程度の隠蔽は見破られてしまいますか……」

 

 管理人さんの言葉に応じるように、めくれ上がった地盤の陰から這い出してきた人物。

 それは、本を持った男性だった。

 

「なっ!? どうしてここに!?」

「ジルッ! あなたが、黒幕なのですか!?」

「はい……お許しくださいジャンヌ。この特異点は私の我がままによって引き起こされたのです」

「どういうことですか?」

 

 そう聞かれたジルと呼ばれた男性は、ゆっくりと語り始めた。

 

「私はとある者によって召喚されたサーヴァント。この特異点を形成及び維持することを命じられた『人類の敵』です。そして……聖杯を所持しているのは『ジャンヌ』ではなく、この私です」

「やはり……。オルタがマスターではなく、君がマスターなのか」

「そうです我が友人よ。私が召喚されたことでこの特異点は始まりました」

「……ちょっと待って。それじゃあ、オルタは何のために現れたんですか!?」

「簡単な話ですよ。ジャンヌ・ダルクという存在を否定したこの国への復讐という私のわがままが『ジャンヌ』を召喚した理由です。愚かですよね。ジャンヌはそんなことを望んでいないというのに……」

「……」

 

 自嘲するように笑うジルさんに対して、管理人さんは何も言わなかった。

 

「ですが気づいたのです。彼女は本物ではない。道しるべを持たない迷い子のようだと……そんな『望まれざる子』を生み出してしまったことに、気づいてしまったのです」

「……そうか……」

「だからこそ、私はここで消え去りたかった。ジャンヌの願い、そして、貴方が受け入れた事実を踏みにじってしまった私など、存在する価値はないと思ったから……」

「それで、今この場に出てきたんですね。自分が消えるために……オルタを連れて行ってもらうために……」

「えぇ。私が消えれば、この世界は消える。そうなった時に起きるであろう『ジャンヌ』の未来を予測した上での行動です」

「でも、それは……」

「わかっています。これは私の身勝手な行動です。ですが、このままでは『彼女』は救われない。ならば、せめて最後に救いを与えたかった……信頼のできる管理人……貴方の手によって……」

「…………」

 

 管理人さんは黙ったまま、ジルさんの話を聞いていた。

 

「ありがとうございます……。これでようやく私は楽になれます。私の過ちを……この世界を救ってくれて……本当に感謝しています」

「いいよ別に……これが今の僕の仕事だからさ……」

「……そうでしたね。それでは、私は消えます。貴方達のこれからに祝福を……」

「うん。ジルこそ、今度こそ間違えないように」

「ご忠告、痛み入ります……ジャンヌ……オルタ……私のわがままに付き合わせてしまい、申し訳ありません……」

 

 

 管理人さんとジルさんは、短く言葉を交わすとジルさんは光の粒子となって消えていった。

 その光景を見て、ジャンヌさんもオルタも涙を流していた。

 

 こうして、第一特異点の戦いは終わりを迎えた。







・管理人のちょっとした秘密

 ジャンヌが聖女として活動していた際の遠征には時々ついてきていた。

 その際に、ジルとは知り合いになっており、よく話していたのだとか。

 ジャンヌの最後については管理人から聞かされており、史実以上の憎悪を生むことはなかった。

 そのため、周りからの認識による精神汚染はそのままだが、素の精神はだいぶ真っ当なものとなっている。



 本当なら、友人である管理人に裁いてもらいたかった……。

 私は許されざることをした……。

 だからこそ、地獄に落ちるのは私だけでいい……。

 『ジャンヌ』……。

 あなたは生きてください……。


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