「図書館って、強い能力だよな」「お前は何を言ってるんだ」   作:クラウディ

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嬉しさのあまり、明日がテストだということを忘れて投稿してしまいましたぁ!





ジャンヌと管理人

「ここが……兄さんの……」

「そうだ。何千年、何万年と昔から続く、僕の図書館だ」

 

 兄さんに案内された場所には、巨大な城のような建物が建っていた。

 いや、正確には城ではないのだが、それに近い荘厳さがある建物だということだ。

 その建物の中に入ると、まるでおとぎ話に出てくるような世界が広がっていた。

 天井まで届くほどの本棚が並び、中には空中に浮いている本棚も存在する。

 しかも、ただ浮いてるのではなく、きちんと整理整頓されているのだから驚きだ。

 それだけじゃない。

 床には不思議な文様が描かれていて、淡く光っているのだ。

 明かりなんてどこにもないはずなのに……。

 これが兄さんが持ちうる魔術……私とは次元が違う力。

 そのすさまじさに圧倒されていると、兄さんはこの広い空間の中央部とでも言うべき場所を進んでいく。

 

「ここで作業するんだ。こっちへ来てくれ」

 

 言われるがままについて行くと、そこには大きな机があった。

 その上には大量の本が積み上げられ、紙やインクが散乱している。

 だけど、不思議と汚い感じはしない。

 むしろ、兄さんらしいとでも言うべきなのか……そんな感じがする。

 兄さんが私達の村にいたときから、この人はいつもこうだった。

 朝早くに起きても、私達が呼びに来ない限り食事すらとろうとしない。

 その時はたいてい本を書いているのだ。

 それが、兄さんの日課。

 兄さんの頭の中には、一体どれだけの知識が詰め込まれているのか……。

 

「さてと、これを動かさないとね」

 

 懐かしい気持ちに浸っていると、兄さんの方でも動きがあった。

 大きな机――おそらく作業机に手を触れると、机がひとりでに動き出して、どこかへと飛んでいく。

 え?

 どういうことですか?

 魔術を使った形跡はない。

 つまり、あれはそれ以外の力で動かしているということだ。

 信じられない光景に驚いていると、今度は兄さんが合図をするように腕を振るう。

 すると、どこからともなく本棚が飛んできて、兄さんの目の前で止まる。

 

「に、兄さん? 今のは一体……」

「図書館の基本機能の一つ。そもそもこの図書館は僕とリンクしているもので、要するに僕の体の一部。腕を動かすのに大して複雑なことを考えないように、僕の図書館内ではこんなこともできるんだ」

 

 そう言って、兄さんは次々と本を移動させていく。

 その様子を見ているだけで、私の中にある常識というものが崩れ落ちていった。

 だって、おかしいでしょう?

 こんなの人間にできることじゃありませんよ!?

 

「ま、僕人間じゃないからね。気にしたら負けってやつだよ」

「人の思考を読まないでください! それに、そういうことは思わないようにしてるんです!」

「ごめんごめん」

 

 まったく……兄さんは時々こういう意地悪をしてくるのですよね。

 少しむっとしていると、兄さんは苦笑しながら謝ってきた。

 その顔は相変わらず優しい笑顔で、あの時と変わらない。

 それだけに申し訳ない気持ちが湧いてきた。

 

「兄さん……ごめんなさい」

「? 何故、謝るんだい?」

 

 突然謝罪の言葉を口にした私に対し、兄さんは首を傾げる。

 だけど、私は言わずにはいられなかった。

 

「兄さんの忠告も聞かず、戦争に参加してしまいました」

「……そのことか」

 

 私の言葉に納得がいったのか、兄さんは小さく息を吐いた。

 それから、私はゆっくりと口を開く。

 

「私がサーヴァントになる前。まだ私がただの人間であった頃、私は神のお告げを聞きました」

 

 それは戦争の開始を告げるもの。

 始まりは唐突であり、そして必然だった。

 

「天使様が私に言ったのです。『人のために戦え』と」

 

 私は田舎に住む人間にしては珍しく、熱心な信者でした。

 毎日教会に通い、神様に祈りを捧げる日々。

 そんな私の日常を壊したのは、たった一つの予言だった。

 その日も私はいつも通り教会で祈っていました。

 そこでふと、天啓のように頭に思い浮かぶ言葉。

 

 ―――汝、戦場に赴きて人のために尽くすべし。

 

 その瞬間、私は自分が選ばれた存在であることを自覚しました。

 それと同時に理解する。

 この道を歩めばもう元の生活には戻れないと。

 

「ですが、あの時の私は、それでもいいと思っていました。いえ、むしろ進んで戦いに身を投じたと言ってもいいでしょう。私は誰かの為に戦うことができるのだと、その時確信できたのですから」

 

 でも、結果はどうでしょうか?

 私は火あぶりにされ、「魔女」というレッテルを付けられた。

 挙句の果てには、私とは別の『私』がこのフランスを傷つけているという。

 許せないという気持ちはあります。

 でもそれ以上に、心にはあることが燻っていました。

 それは、

 

「兄さん。あなたが私を助けようとしていたのを知っています。神のお告げを聞いたあの日も、天使様を私から遠ざけようとしてくれました。あの火あぶりの場でも、騎士に取り押さえられながら、最後まで私に手を伸ばしていました。こんな私を、見捨てなかった。……どうしてなのですか? 何故、兄さんは私にそこまでしてくれるのですか?」

 

 兄さんの優しさに触れるたびに、ずっと疑問だったこと。

 兄さんなら、私みたいな愚か者なんかより、もっと相応しい人がいくらでもいたはずなのに……。

 それこそ、シャルルマーニュ十二勇士とか。

 兄さんほどのすごい人ならば、私よりも優れた人と出会うことも出来たはずだし。

 何より、兄さんは歴史に名を遺したほどの人物だ。

 だからこそ分からない。

 一体、兄さんはなんで私に優しくしてくれたのか。

 その答えを聞くために、私はじっと兄さんを見つめます。

 ……すると、兄さんは小さくため息をつき、困ったような表情を浮かべました。

 やっぱり、迷惑だったんだろうか……。

 そう思っていると、兄さんはこう言いました。

 

「なんか浮かない顔をしているなぁ……とは思っていたけど、そんなことか。別に理由なんてないよ。ただ僕は君が大切な存在だから助けたかっただけさ。……手は届かなかったけどね」

「……え?」

 

 今、なんて?

 聞き間違いじゃなければ、確かに聞こえた気がする。

 大切だって、言ってくれた?

 思わず自分の耳を疑ってしまいました。

 ただ、私が呆けている間に、兄さんは次の行動に移っていました。

 本棚から様々な本を取り出す作業を再開させながら、話を続けていく。

 

「そもそもの僕の行動原理は、素晴らしい人と出会い、それを忘れないように記録すること。まぁ、簡単に言えば日記をつけていたようなものかな」

 

 そう言うと、今度は別の本を取り出して開き始める。

 そこに書かれているのは、見たこともない文字。

 フランス語とは全く別の文字で題名を書かれている本を何冊か取り出し、空中に浮かせていく。

 

「僕がまだ()()姿()をとる前、いうなれば、まだ僕が図書館である前――生まれたばかりの話になる」

「に、兄さんが生まれたばかりの話ですか?」

「そう。こことは違う世界での出来事だ」

 

 兄さんの言っている意味がよく分かりませんでした。

 生まれ変わりとかそういうことなんでしょうか? 兄さんはそんな私の思考を読み取ったのか、苦笑しながら説明を始めました。

 

「そこでの思い出は、はっきりと覚えているけど、一番最初の記憶は、とある人物が僕を拾ってくれたところから始まるんだ」

 

 それから兄さんは語り始めました。

 自分が生まれた世界のことを。

 そして、その世界に住う人々との出会いを。

 

「僕は、そもそも人ではなかった。分かりやすく言うなら、『兵器』というべきものの残骸。誰が何のために作ったのか分からず、そしてなぜ放棄されたのかもわからない。ただ分かったことは、僕は『記録する』ということに長けていたことだけ。そして、それ以外の機能がほとんどない僕は捨てられていた場所――拾ってくれた人曰く、『次元の狭間』で、ただ『何もない』ということを記録するだけだった」

「次元の……狭間……」

 

 そんなところがあるんですね。

 ちょっとびっくりです。

 でも、それがどうしたというのでしょうか?

 私の疑問に答えるように、兄さんは言葉を続ける。

 それは、今まで聞いたことのない内容でした。

 

「その場所は並行世界や別世界を隔てる『無』によって構成された海。並の手段じゃ、渡ることすらできない。そんな場所にいれば、いずれ『無』に飲み込まれて消える」

「消え……!?」

 

 思わず声を上げてしまいました。

 でも、それって、つまりどういうことでしょう?

 困惑する私を他所に、兄さんは淡々と話を続けて行きます。

 まるで、他人事に話すかのように。

 だけど、その瞳だけは真剣そのものでした。

 

「僕としてはなぜそんなところに放棄されたかというより、その後のことの方が気になった」

「な、なんですかそれは……?」

「並の存在じゃ、飲み込まれて消えるという『次元の狭間』を()()()()()()()()()()()()()という存在がいたんだ」

「!?」

 

 思わず息を飲み込んでしまいました。

 だって、兄さんの話はそれだけ突拍子もないものだったのですから……。

 そんな私に、兄さんは笑いかけながらこう言いました。

 どこか自慢げに。

 誇らしげに。

 そして、大切なものを友人に語るように。

 

「彼が拾ってくれなかったら、僕はただ『(0)』を記録するだけの哀れな機械だったよ。彼もまた、最初はただの人間だったらしい。でも、彼はある目的の為に自らを鍛え上げ、ついには次元の壁を超えることに成功した」

 

 兄さんの言葉は続いていきます。

 私はそれを黙って聞くことしかできません。

 それくらい衝撃的な話でした。

 

「そして、彼と旅を続けていくうちに、彼は僕にこう言ってくれたんだ」

 

「『お前は、これからも素晴らしいものを見てこい。それがでっかくても小さくても。そして、記録しろ。忘れないためにな。んで、また会う時には、それを俺に見せてくれ。それを話しているお前の笑顔を絵に描いてやるからさ!』ってね」

 

 …………あぁ。

 私はこの時、ようやく理解しました。

 兄さんが何故、こんなにも優しいのか。

 兄さんにとって、私がどんな存在なのか。

 私はその人のようには大きくはないけれど、兄さんにとっては、きっと、とても大事な人だったのでしょう。

 だからこそ、兄さんはその人のようになりたくて、今もこうして頑張っているのかもしれません。

 そう思った時、ふと胸の奥が熱くなるような感覚に襲われました。

 この感情が何なのか、よくわかりませんでした。

 ただ、一つ言えることがあるとするならば。

 私は、やっぱり、兄さんの妹で良かった。

 

「兄さん……私の霊基の改造をお願いしてもらえますか?」

「ん? なんで君を助けようとしたのかは聞かなくていいのかい?」

「ええ。また次の機会に聞こうと思います。そのためには一刻も早く問題を解決しなければなりませんからね」

「そっか……それじゃあ始めようか」

 

 兄さんの返事を聞いて、私は服を脱ぎ、兄さんが持ってきたテーブルのようなものの上でうつ伏せになり、目を閉じました。

 すると、兄さんは何かの準備を始めたようで、魔力の流れを感じました。

 おそらく、私の改造を始めるのでしょう。

 兄さんの魔力は膨大で、様々なものが混じった黒のようでありながら、本を書くためのインクのような印象を与える。

 やがて、準備が終わったのか、兄さんは口を開きました。

 

「それじゃ、実際に霊基に手を加えていく。これをやるのは久しぶりだから、変な感覚があったら遠慮なく教えてくれ」

「お願いします」

 

 そう言うと同時に、私の意識は徐々に遠のいて行ったのでした。

 夢見心地のような感覚に包まれる中、誰かの声が聞こえてきました。

 

――俺のダチを頼むぜ。お嬢ちゃん?

 

 それは、男でもなく、女でもない。

 まるで中性的な声でした。

 ……誰なのでしょう?

 でも、不思議と嫌悪感はありませんでした。

 むしろ、太陽のように温かい声。

 

――分かりました! 兄さんは私に任せてください!

 

 そう答えると、次第に体が深く沈んでいく感覚に包まれる。

 

 次の光景は、真っ暗な空間にポツンと一人 眠っている私の姿があります。

 そんな私の体は、壊れた人形のように所々壊れていました。

 そんな私の側に立ち、体に手を触れて欠落した情報――霊基()を、兄さんが魔力(インク)修復していく(書き加えていく)

 不思議なことに痛みはなく、ただ情報だけが頭の中を駆け巡っていくのです。

 まるで、体の奥底にあるものが表に出てこようとしているかのように。

 でも、それは決して嫌なものではありませんでした。

 むしろ、暖かく、優しく、懐かしい。

 これが兄さんの――。

 

「書き込み終わり! もう起きていいよ」

「……んっ」

 

 兄さんに肩を叩かれ、ゆっくりと目を開くと、そこには心配そうな顔をしている兄さんの姿がありました。

 どうやら、かなり長い間眠っていたみたいです。

 兄さんは私に上着をかけてくれながら、こう言いました。

 

「一応、この時代以降の英霊の座に登録されている君の情報を複製して書き加えたが、変なところはないかい?」

「はい。大丈夫だと思います」

 

 体の調子を確かめるように動かしてみますが、特に違和感はありません。

 それどころか前よりも体が軽く感じられました。

 やはり、感じていた空虚感――霊基の欠落がなくなっています。

 流石に令呪はないですが、それでも戦う分には問題ありません。

 私は兄さんに向き直り、深々と頭を下げました。

 

「ありがとうございます、兄さん。貴方のおかげで私はまた戦えるようになりました」

「……感謝されるほどでもないよ」

 

 お礼を言うと、兄さんは照れ臭そうに頬をかきました。

 本当に謙遜屋さんですね。

 

「さて、事件は始まったばかりで、相手は君を名乗る誰か。ワイバーンを召喚する術を持ち、敵戦力は計り知れない。それでも行くかい?」

 

 兄さんは真剣な表情で尋ねてきました。

 私はその言葉に対して、迷うことなく即答しました。

 何故なら…………。

 

「もちろん行きます! 私は私の道を進み続けなければなりませんから! それが、兄さんと協力して乗り越えられるなら尚更です! だから、どうか私を連れて行ってください!」

 

 私の返事を聞いた兄さんは笑みを浮かべると、手を差し出しました。

 私も同じように笑い返すと、兄さんの手を掴み返しました。

 

「それじゃ、皆のところに戻ろうか?」

「そうですね。それと、エミヤさん……でしたっけ? 彼の作っていたシチューは非常においしそうでした! 早く食べに行きましょう!」

 

 そう言って、私は兄さんと一緒に歩き始めました。

 

 これからも色んなことが起きるでしょう。

 

 でも、きっと大丈夫。

 

 だって、こんなにも頼れる人が側にいるんですから。







・管理人のちょっとした秘密

 彼が様々な人と会うのは、一番最初に彼を拾ってくれた『誰か』の教えで、図書館をくれたのは、その後にとある世界で出会った職人たちが造ってくれた。


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