WARNING!!!! WARNING!!!!
沖スズとその他諸々の独自設定がラーメン三ハロン並にメガ盛りマシマシとなっております。
それでも問題ナッシング☆ な8戦8勝合計着差61馬身平均7.625馬身舐めプ余裕のよっちゃんスーパーカー並怪物な先輩読者ニキネキ様方は是非とも読んでみてちょんまげ。
可能であれば、『transforming』のBGMverをバックにご一読ください。
――いつからだろう。
気付けばあの人を追いかけていたのは――。
――
「――――。――カ」
火照った身体を吹き抜ける、優しく穏やかな風。踏み締める柔らかな、細部にまで丁寧に手入れが行き届いていることを感じさせてくれる、美しい芝の感触。鼻腔をくすぐる、嗅ぎ慣れたトレセン学園の澄んだ空気。
そして、日本に戻ってから頻りに見るようになった、あの夢――――。
「スズカ、聞いてるのか?」
「え? あ……はい、すみません」
「らしくないな、まだ集中しづらいか」
上の空だった脳内に心地の良い声音が響くのも、どこか他人事のように感じてしまう。
目標だった渡米を果たし、慣れない環境に戸惑いながらも着実な成長を実感し、幸運にも多くのレースを勝つことができた。
そんな厳しくも充実した日々に不満はなかったけれど、どこか拭い切れない寂しさが付きまとっていたのも事実で。
今はこうして日本に戻り、当初の取材詰めも漸く落ち着きを見せ始めたのがここ1週間の話。向こうとは全く違う環境――とは言え住み慣れた日本の気候と馬場の感覚を取り戻しながらしっかり身体をケアして臨む、懐かしいスピカメンバーとのトレーニングはやっぱり楽しくて。
ただどういう訳か、心と体のちぐはぐな感覚が、日本に戻って来てからずっと続いているのは間違いなかった。
「いえ……そんなことは――」
「スズカさん! もしかして体調悪いんですか!?」
「だ、大丈夫だから。そんなに心配しないで、スぺちゃん」
「でも……スズカさん、アメリカから戻って来てからなんだか……」
「そうだな。タイムも向こうにいた頃に比べたら物足りない」
誰よりも明るく、優しく、元気一杯のスペちゃんが心配そうに耳を垂れ、気にかけてくれる。つい最近までは電話越しだった声が手の届くところにあるという事実に、帰って来たんだと強く実感できて――。
そして、伸び悩んでいた私の走る先を導いて、皆と一緒にあの日曜日の怪我を乗り越え、アメリカ遠征を叶えさせてくれたトレーナーさんが手元の資料と私を見比べながら、無精髭の生えた顎を撫でさすって考え込むその真剣な表情――。
耳先から爪先まで、余すことなく彼の視線が私の全身を流れていく度、トレーニング中で温まった身体が更に熱を帯び、自然と顔が俯いてしまいます。
「ご、ごめんなさい。でも本当に大丈夫なんです、体調もばっちりで――」
「そうなんですか? なんだか顔も赤いですし……」
「そ、そんなに……?」
「はいっ、茹でたタコさんみたいになってます!」
「た、たこ……!?」
妙に意気込んで涎を垂らしながらなスぺちゃんの言葉に、私は自分が茹蛸みたいに真っ赤になっているのかと思うと気になってしょうがなくなって。そんな顔を彼に見られているのかと思うと居ても立っても居られず両手で覆ってしまう。
端から見れば騒がしいことこの上ないであろう私とスぺちゃんの様子を暫く眺めていたトレーナーさんが、初めて会った時から少しも変わっていない快活な笑い声を響かせ、私は益々顔を上げられなくなってしまいました。
「ほんっと良いコンビだよな、スズカとスぺは」
「んもぉ~トレーナーさん! 笑いごとじゃありませんよぉ!」
「どうしたのーさっきから。このテイオー様をほっぽって楽しむとは何事だー!」
「まったく、うるさくてトレーニングに集中できませんわ」
「どーせまたトレーナーがデリカシーのないこと言ってスズカさんを困らせてるんでしょ」
「オイオイまたかよー。せっかく日本に戻って来たんだからちゃんとフォローしろよなぁ」
「なんでハナから俺のせいってことになってるんだよ……」
「おうおうおうおう!! そう騒がれると今ゴルシちゃんが必死に築き上げてるこのアルティメットヒュージジ〇スタウ〇イ号(オール割り箸製)が崩れちまうだろーが静まれい! 鎮まれぇい!!」
「貴方はトレーニングもせずに何をやっていますの……」
気恥ずかしくてどうにもこうにもならなくなっていたら、トレーニング中だったメンバーが集まって来てしまった。ゴールドシップのアレはトレーニングと言って良いのかわからないけど……。
スぺちゃんに抱き着いてじゃれつくテイオーはあの奇跡の復活と称えられた有馬記念以降、怪我無く着実に実績を積み重ねており、近々憧れのかの皇帝、シンボリルドルフ会長や同世代として伝説を築いたマルゼンスキーさんにミスターシービーさん、シリウスシンボリさん達とのマッチレースが開催されるのではないかと実しやかに囁かれています。
私達ウマ娘にとって不治の病と言われる繋靭帯炎を克服したマックイーンも無事レースに復帰し、同じく怪我からの復活を遂げたミホノブルボンさん、不振からの脱却を果たしたライスシャワーさんやBNW、パーマーさんにヘリオスさん、頭角を現したカノープスの面々、そしてテイオーまで交えた壮絶な一戦は、今なお語り草に。
スカーレットとウオッカの2人は世紀のライバル、永遠の宿敵と名打たれる程に何度も何度も激戦に次ぐ激戦、デッドヒートを繰り広げて名レースを演出し続けています。片やミスパーフェクト、片や常識破りの女帝と称される正反対の2人の勝負は人々を惹き付けてやまず、レース後のウイニングライブにも逸話が絶えなくてトレーナーさんは頭を抱えているみたい。
ゴールドシップは普段の破天荒ぶりに違わない豪快なレースで人々を魅了し続けており、時に呆気にとられるほどのレース運びを魅せたかと思えばゲートで暴れて台無しにしてしまったりと、話題に事欠かないウマ娘となっています。彼女が大舞台で走る際にトレーナーさんが隣で、「お願いします、走ってください」と祈っていた時は思わず笑ってしまいました。
そしてスぺちゃん。日本総大将として海外の強豪達を迎え撃ったジャパンカップでの激戦を見事制し、名実ともに日本を代表するウマ娘へと成長しました。その後も黄金世代と称えられる強力なライバル達と幾度となく激突し、時に笑い、時に泣きながらも日を追う毎に実力を伸ばし続けています。正直に言うと、私は追い付かれないようにするだけで必死で。それでも、これだけ背中を追い上げてくれるスぺちゃんの存在は本当に頼もしく、同じライバルとして誇りに思っています。
最近では彼女を慕うウマ娘も増えており、その中でも2人のルーキーが、まだデビュー前にもかかわらず話題になっています。
現在のスピカメンバーはその全員がトゥインクルシリーズを卒業し、ウィンタードリームトロフィー目指して切磋琢磨しているところで、私も負けていられないと意気込んでいるのだけど――。
「ま、心配すんな。スズカはまだアメリカから戻って日が浅い。すぐいつも通りの走りになるさ」
「……はい」
私の不安を悟ってか、そうでないのか。トレーナーさんがいつもしてくれているように、ぽん、と頭を撫でてくれる。安心するような、恥ずかしいような……その大きな、ごつごつとした手で。
「またそうやって――」
「スズカさんの頭撫でてんじゃ――」
「ないですわよっ!」
「セクハラだよトレーナー!」
「あだだだだッ!? 折れる! 折れるって!!」
ウオッカ、スカーレット、マックイーン、テイオーに羽交い絞めにされたトレーナーさんの手が離れてしまい、少し残念なような複雑な気持ちになって――、
「でもスズカさん、別に嫌がってな――」
「――えっ」
「おぉっとそこまでだぜスペ。ところでトレーナー、サンドバックに励んでるとこわりーんだけど」
「そう、思うんなら! 助けろよ――ってお前らほんとに殺す気かぁ!?」
「あの2人は何なんだよ」
スぺちゃんの言葉に心臓が飛び跳ねそうになったところでゴールドシップが遮り、ウマ娘4人にプロレス技をかけられるなんてと、ある意味器用なトレーナーさんを見遣る。
別段変わらず非難の声をあげるトレーナーさんにホッとするようなもやっとしたような……。そんな折に、ゴールドシップが顎で示した方向に皆が視線を向けると、少し前にトゥインクルシリーズで話題となっていた2人が、何やら微妙な距離感を保ちながら此方を見据えていた。
――
「あんな速い子達が2人もスピカに入ってくれるなんて! 凄いですよね、スズカさん!」
「うん、そうね――」
「私にもついに後輩ができちゃいましたし! うわー! なんまら嬉しいべー! お母ちゃんに報告しなきゃ!」
ベッドに腰掛けて心から嬉しそうに、眩しいくらいの笑顔で喜び跳ねるスぺちゃんを見ると、ざわつく心がさざ波を立てて揺れ動いた。
本当なら私も、スぺちゃんみたいに喜ばなきゃいけないのに……。
「……あ、あと! あの2人もスピカに入ってくれたらもっと嬉しいんだけどなー! それでそれで! あの子達ともライバルになれたら、とっても良いことですよね! スズカさん!」
「うん、そうね――」
本当に楽しそうに話すスぺちゃんの言葉を、聞いているのかいないのか。そんな思考の定まらない頭で想像する。
今日スピカに加入した2人の新メンバー。そしてスぺちゃんの言う、スぺちゃんを慕う話題のウマ娘の2人がターフを駆け抜ける姿。4人の走りに釘付けになり、子どものように目を輝かせて見守る、トレーナーさんの横顔――――。
それはとっても、でも、なんだか……。
「……スズカさん、何かあったんですか?」
それまでの、いつも通り元気一杯な声から打って変わって、真剣な色味を増したスぺちゃんの声にハッとして顔をあげると、大きく透き通った瞳が真っ直ぐに私を見つめていた。
なんだか咎められているような気がして、私は咄嗟に視線を逸らしてしまう。
「スズカさん。私、スズカさんが日本に戻って来てくれて、本当に嬉しいんです」
「う、うん」
「こうして同じ部屋で、また寝る前にお喋りも出来て、一緒に学校に行って、ご飯も食べて、トレーニングして……いっぱい、たくさん、一緒のレースにだって出られるって」
「うん……そうね。私も、スぺちゃんと走りたい」
「でも、今のスズカさんには……私、負けないと思います」
「――え?」
――
数時間前
トレセン学園 今日のチームスピカ割り当てトレーニングコース
「いってて……。ったく、もうちょっと手加減しろよお前ら……」
「そんなのいいからトレーナー! この子達って!?」
ついさっきまでウマ娘4人の力でプロレス技を決められていたのに、当のテイオーに"そんなの"で済まされてしまったトレーナーさんは盛大に溜め息を吐いた後、全身の骨をぽきぽきと鳴らしながら件の2人の傍に立ち、コホンと咳払いしてから話し始めます。
「今のスピカには、トゥインクルシリーズを走る奴がいなくなっちまったからな。方々駆けずり回って、お前らに匹敵する才能を探した結果、一先ずこの2人をスカウトしたって訳だ」
「……ねえ、この子達って別のチームに所属してたじゃない」
「うっわ……まーた余所から引き抜いてきたのかぁ?」
「う、うるせぇな! 別にやましいことはしてないから良いんだよ! んじゃ、自己紹介よろしく!」
胸を張って宣言するトレーナーさんを余所に、スカーレットとウオッカの何とも言えない非難の声に皆が同調したところで逃げるように促すトレーナーさんに、私は他人事ではないので苦笑するしかありませんでした。
そして――、
「初めまして。今日から同じチームになります、ディープインパクトです。ご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願いいたします」
「…………オルフェーヴル、ッス……」
どちらも小柄ながら、デビュー当初はトゥインクルシリーズを騒がせた期待の新星――、だったウマ娘の2人。
美しいダークブラウンの長髪をたなびかせ、八面玲瓏、英明果敢な優等生といった言葉がしっくりとくるウマ娘――ディープインパクト。丁寧な言葉遣いとその柔らかい物腰は、映像で見たレース中の様子とは随分と違う印象だった。
陽に照らされて金色に輝いて見える無造作な長髪と、顔半分を覆い隠すマスクが特徴的なオルフェーヴルは、視線を泳がせながら小さな声で、言葉少なく挨拶を終えた。彼女もまた、実際に会ってみると噂とは全く違うタイプのウマ娘のようで――。
「知ってると思うが、どっちも追い込みからの爆発的な末脚が武器のウマ娘だ。まだまだ発展途上だけどな」
「へえ……おもしろそーじゃん」
「ですわね。で、一体どんな裏取引がありましたの?」
「あのなぁ……人聞きの悪いこと言うなよ。ちゃんと正式な手続き踏んでるっての」
「……トレーナーさん、またズタ袋で攫って来たりしてませんよね?」
「してねーよ!?」
やいのやいのと盛り上がるトレーナーさんとスぺちゃんたちを余所に、普段のおかしな言動が鳴りを潜めてオルフェーヴルを見据えるゴールドシップに少し驚いていたら、件のディープインパクトが温和な笑みを浮かべながら私の前に歩み寄って来ていました。
「サイレンススズカさん、ですね。こうして同じチームになれるなんて……本当に光栄です」
「えっと、そんな……」
「まだまだ若輩者ですが、これからよろしくお願いいたします」
「え、ええ、こちらこそよろしく」
曇り一つない、スぺちゃんのそれと同じく真っ直ぐな瞳で見上げられながらのその言葉に狼狽え、先輩なのにと気恥ずかしい気持ちに駆られていると、差し出された小さな右手に手を添える――、
「貴方に勝つことが、私の夢ですから」
「――え?」
「よーし、親睦も深まったな。んじゃ、新メンバー歓迎ってことで、これから模擬レースを行う!」
「えっ」
「なるほど。それで身体を温めておけ、という指示だったんですね」
ディープインパクトの小さな、しかしはっきりと聞こえたその言葉に、私は素っ頓狂な声をあげてしまう。
いきなりの宣戦布告に戸惑っているとトレーナーさんの声が響き、その内容に今度はオルフェーヴルが心底驚いたという声をあげて目を点にし、ディープインパクトは合点がいったと頷き、握手を解いてストレッチを始めてしまった。
「と、トレーナー……本気で言ってるんスか……?」
「もちろん。お前らがどんなもんか、一緒に走るのが一番手っ取り早いだろ?」
「えぇ……」
だから体操服で来いって言ったんスか……、なんてぶつぶつ呟き俯くオルフェーヴルに、いつも以上にご機嫌なゴールドシップが彼女の首に腕を回して盛大に絡みに行った。
「なんだなんだオルフェちゃーん? ビビっちまってんのかー?」
「そ、そりゃビビるッスよ……。先輩たちはもうウィンタードリームに行ってるのに、ウチはまだデビューしたばっかッスよ……」
しかも最初しか勝ててないし……、と益々声のトーンが落ち込んでいくオルフェーヴルは、レースの時とはまるで別人で。
とにかくレース前から入れ込む、ゲートでも落ち着きがなく出遅れる、道中では競られた途端に掛かりまくるという3拍子が揃っていながら、それでも他を圧倒するスピードとパワーで1勝してしまえるポテンシャルを持った気性難のウマ娘――というのが、彼女が当初は話題となった経緯だったはずだ。その後も3重苦改善の兆しはなく負け続け、あまり話題に上らなくなっていたと記憶していたのだけれど――。
「オルフェーヴル。大丈夫です、貴方の実力なら」
「相変わらずの模範解答ッスね、ディープは……」
「ええ、本当にそう思っていますから」
「……普段は落ち着いてるのに、なんでレースだとああなっちゃうんスかね、ディープも」
「…………それはこれから直すんです」
ディープインパクトもまた、オルフェーヴルの評に違わない部分が課題として挙げられていた。彼女は普段の優等生ぶりからは想像もつかない程にレース中は冷静さを欠いてしまって先頭に立とうとし、道中を無茶苦茶なペースと出鱈目なスピードで走り回って最後はガス欠を起こすという、なんとも他人事とは思えないような走りをするのだと話に聞いたことがある。あと、スタートが結構下手だというのもちょっと意外だった。
2人に共通するのは、ウマ娘としては小柄なこと。とにかく頭に血が上って入れ込み掛かり、結果としてレースにならないこと。そして、底知れぬポテンシャルを秘めている、という点。
「――ふーん。ま、このゴールドシップ様が追い込みのなんたるかを教えて進ぜよーう! 有難く後塵に拝したまえよ? ふぉっふぉっふぉっ!」
「心配ですわ……」
―
「どう思う? スズカ」
練習用コースに簡易ゲートを設置し終えた後、脇に立った私にトレーナーさんが問いかけてきます。早くこのレースが見たくて堪らない――。彼の気持ちが手に取るようにわかる、そんな声色で。
「……そうですね。2人ともゲートに入った途端、相当入れ込んでいるのがわかります。スピカのメンバーと競り合うには、まだまだ経験不足……だと思います」
「だろうな」
その通りだと大きく頷き、トレーナーさんの視線はゲートに収まるあの2人に注がれます。
「スズカも走りたかったか?」
「いえ……別に」
自分でも驚くほど憮然とした態度をとってしまったことに困惑しながら、それでも此方を伺う気配を見せたトレーナーさんの方を向く気にはなれませんでした。
そんな私の様子に苦笑したらしいトレーナーさんは、少し困った風に言葉を繋げます。
「悪いな。スズカが万全じゃない以上、極力走らせたくなかった。それに、スズカの見る目は間違いない。傍で一緒に見てもらえると助かる」
「――そ、そうですか?」
労わるような口調で急に褒められてしまい、私は心が浮つくのを抑え切れずにトレーナーさんに目を向けてしまいました。きっと、耳もせわしなく動いてしまっていたと思います。
まるで見透かしているかのように悪戯っぽく笑うトレーナーさんを見た途端にそっぽを向く私は、全身が熱を持ってしまい、気恥ずかしさでいっぱいで。
くつくつと笑う彼に文句の一つでも言ってやろうとした時、ゲートの勢い良く開く音が、雲一つない晴天下のコースに響き渡りました。
―
―
スピカが新メンバーを迎えて模擬レースをする。
どこからか聞きつけて来たウマ娘達が歓声をあげ、トレセン関係者や記者が熱心な視線をぶつける中、ディープインパクトとオルフェーヴルはこれまで通りに出遅れてしまう。ワザとなのかそうでないのか、ゴールドシップもいつものように出遅れていた。
ハナを切ったのはダイワスカーレット、それを追走するメジロマックイーンと少し控えてトウカイテイオーが先行、スペシャルウィークとその真後ろにウオッカが差し位置、そして出遅れた3人が追い込み。
現トレセン内でも屈指の豪華メンバーを誇るスピカと新入り2人という模擬レースに、運良く居合わせた野次ウマたちは割れんばかりの歓声を送る。
追い込み勢が出遅れた以外は淀みないレース運び――かと思われていたが、1000mの標識を超えた辺りでそれは起こった。
それまで最後方を走っていたゴールドシップが一気に加速し、その前を並走していたディープインパクトとオルフェーヴルの間に強引に割って入ったのである。しかも、遠目から見ても明らかに煽るように舌ペロしながらのオマケ付きで。
これにスイッチが入ったのか、はたまた無理矢理入れられたと言うべきか。それまで抑えてレースを走れていたディープインパクトとオルフェーヴルは見る見るうちに表情が歪み――オルフェーヴルに至っては自らマスクを剥ぎ取って捨て、追い込み勢が3人揃ってとんでもないロングスパートを仕掛け出してしまった。
突然の競り合いに前を走っていたスペシャルウィークとウオッカが驚くほどの大外まくりを見せ、ハナを突き進むダイワスカーレットに迫ろうとしていたメジロマックイーンとトウカイテイオーに一気に並びかける。
2000mの標識を迎える頃には逃げ先行勢とともに一団となってラストスパートに入ったが、道中の無茶苦茶なスピードでの大外ぶん回しが祟って流石にスタミナが切れたか、ディープインパクトとオルフェーヴルは加速無く沈み始め、しっかり折り合いを付けていたスペシャルウィークとウオッカに並ぶ間もなく差し切られてしまう。
そのままベテラン勢が全く譲らずのデッドヒートを繰り広げ、芝2400mの模擬レースはハナ差での大接戦となった。
全くもって模擬レースと呼ぶには贅沢が過ぎる
レース後のスピカメンバーは互いの健闘を称え合いつつも、その表情は抜き身の刃のそれであった。
特に、新人2人に仕掛けて驚異のロングスパートに持ち込んだゴールドシップに普段の面影など欠片もなかった。
そして、そんなレースを見守っていたサイレンススズカの表情もまた――。
―
―
「クソッッッ!! また負けたッッ!!」
「…………くっ……!」
全身から汗を噴き出し、湯気すら見えそうなほどに肩で息をするオルフェーヴルが吼え、似たような状態で天を仰ぐディープインパクトも口には出さないけれど、固く引き絞られた表情が彼女の心の内を激しく物語っています。
「……とんでもないわね」
「ええ……これはうかうかしていられませんわ」
「どうしよう、ボクまだ身体が疼いてしかたないよ……!」
「テイオーの言う通りだ、マジでゾクゾクした……!」
「これでデビューしたてだなんて……! お母ちゃん、中央はやっぱり凄いべ……!」
「…………おもしれえ」
悔しさに震える後輩2人を見つめるスピカメンバーの眼差しは、レース前とはまるで別物になっていました。
何よりあのゴールドシップが肩を上下させ、レース後も息の入りに時間がかかっているなんて光景があまりにも鮮烈で、とんでもない新人がやって来たのだという実感に背筋を冷たいモノが伝い、心が震える。
「皆、お疲れ様。凄いレースだったわ」
レースを終えたいつものメンバーにタオルとスポーツドリンクを手渡し、興奮冷めやらぬ彼女たちのレース批評に耳を傾けながら、目は自然とトレーナーさんを追っていた。
「お疲れさん。ほれ、オルフェ」
「…………あ、ありがとッス」
「どうだった?」
「…………全く届きませんでした」
トレーナーさんもタオルとスポーツドリンク、オルフェーヴルにはマスク――ウマ娘用の、後頭部でかけ紐を結ぶタイプ――も渡し、2人に話しかけている。
心から悔しそうにする彼女たちを前に、いつもの飄々とした、それでいて優しく見守り耳を傾けるトレーナーさんの姿が、何故だか無性に心に引っ掛かっていました。
――
「今の私には負けないって、どうして――」
彼女の予想外の言葉にさざ波立っていた心が俄かに揺れ動き、思わず聞き返してしまう。
確かに、どんどん実力を伸ばしてくるスぺちゃんに追い付かれないようにするのは大変だけど、私もアメリカで力をつけて来た。
そう簡単に負けるつもりは――。
「なんだか、今のスズカさんは……その……。グラスちゃんに負けちゃった時の私みたいで……」
「……ぁ」
スぺちゃんは力なく耳を垂れて、不安そうに枕を抱き締めながらも、私に真っ直ぐにそう言ってくれた。
その経験があるスぺちゃんから見て、今の私はレースに、走ることに集中できていない――。
「……そう、見える?」
「……はい。スズカさん、気になることがあるなら、私に話してみてくれませんか? あの時も、スズカさんとトレーナーさんに想いをぶつけられたから、私は今こうして、凄いウマ娘さんたちと走れています。きっと、スズカさんも……」
少し震えながら、それでも真剣そのものな、いつもの彼女の真っ直ぐな瞳が私を捉えて離さいない。
なんだか1人であれこれ考え込んでいるのが可笑しくなってしまった私は、心に降り積もったもやもやを、素敵な、本当に素敵なライバルに打ち明けることにしたのでした。
―
「つまりスズカさんは、トレーナーさんのことが気になってしょうがないんですか?」
「う……そ、そうなの……。どうしてなのか、私にもわからないんだけど……。す、スぺちゃんは、どう思う……?」
いざスぺちゃんに話そうとしたものの何やら恥ずかしてしょうがなくて、結局10分以上言い淀んでいたらスぺちゃんに詰め寄られ、「大丈夫ですスズカさん! 私が絶対! なんとかしてみせますから! 私にドーンと任せてください!!」と言い切られてしまい、顔から火が噴き出そうなくらいに恥ずかしい思いをしつつようやく言葉にすることができた。
トレーナーさんの目をしっかり見ることができない。トレーナーさんに話しかけるのが恥ずかしい。トレーナーさんが話しかけてくれると嬉しくてしょうがないのに上手く返事ができない。トレーナーさんが他のウマ娘の子達と仲良くお喋りしているのを見たり、気にかけているのを見ると心がもやっとしてしまう。スピカのメンバーは大丈夫だったのに、あの2人――というより、ディープインパクトの場合は凄くもやっとする。一緒にご飯を食べたり、買い物に行ったりしてみたい。一緒にトレーニングウエアやシューズ、メンコを選んで欲しい。トレーナーさんが――。トレーナーさんに――。トレーナーさんと――――……etcetc..
そんな思いの丈をぶちまけた相手のスぺちゃんは、もともと大きな目を更にまん丸大きくしてきょとんとしていた。
スぺちゃーん……。
「んー……。んん~……?」
「す、スぺちゃん?」
何やら腕を組んで頻りに唸りながら考え込んでしまったスぺちゃん。こんなこと言ってる場合じゃないんだけど、スぺちゃんって腕組みが妙に似合う……なんでだろう。
何度か名前を呼ぶと、「ちょっと待っててくださいね!」と凄く良い笑顔で言い切られ、なんとも居たたまれない気持ちでそわそわしながら返事を待つことに。あぁ……くるくる左回りしたい……。
「あっ! 思い出しました!」
「えっ?」
ようやく返事が返ってくるのかと思いきや、スぺちゃんの口から飛び出た言葉は"思い出した"。
どういうこと……? と困惑する私を余所に、スぺちゃんは自分の机に駆け寄ると、引き出しを次から次へとひっくり返し始めてしまいました。
「あれー? どこやったかなー?」
「す、スぺちゃん……?」
「スズカさん! もうちょっと待っててくださいね!」
「え、えぇ……」
もう何が何やらなスぺちゃんの行動に内心で「ウソでしょ……」と呟きながらも、どうにも自信満々なスぺちゃんに押し切られてしまう。
ダメ、もう我慢できない、待ってる間はくるくるしてよう……。
―
「あ、あった! ありましたよ、スズカさん! ――てあれ、なんでくるくるしてるんですか?」
「えっ? あ、ううん、ちょっと気晴らしに、ね?」
そうなんですね! と、どこまでも明るいスぺちゃんに振り回されながら、どうやらお目当ての物を見つけたらしく、太陽のように華やかな笑顔で駆け寄ってくる。可愛い。
「これです! お母ちゃんがくれた手紙!」
「スぺちゃんのお母さまの……?」
「はい!」
さっきの話の流れでどうしてお母さまの手紙が……。
なんて思っていた矢先、ベットに腰を下ろした私の隣にスぺちゃんも腰掛けて、「一緒に読みましょう!」と意気込んで開いた手紙を恐る恐る覗き込みます。一体どんな内容が……。
そして、便箋の一番上の、とても個性的な文字で書かれてあるその言葉の羅列を理解した途端、私は気が遠くなるような感覚に襲われたのでした。
―
「つまりスズカさんは、トレーナーさんのことが"本当に"好きなんですね!」
「」
「あれ、違いました? もしかしてスズカさん、トレーナーさんのこと、嫌い……なんですか……?」
「――えっ? あっ、いや……その……き、嫌いじゃない、けど……もちろん…………」
「わあっ! 良かった! じゃあやっぱり"本当に"好きなんですね!」
「そ、そんな大きな声で言わないで……」
「え、でも良いことじゃないですか! 私はスズカさんもトレーナーさんも、皆さんのことも大好きですよ!」
「そ、それはそうだと思うけど……そうじゃなくて……」
何やらとんでもない流れで、自分の気持ちに気付かされてしまったのでした。
―
※お母ちゃんの手紙に書いてあった内容(意訳)
☆男の人が気になるようになったら読みなさい。
⒈目を見るのが難しくなったり、話しかけ辛くなったり、他の女の子に対してもやもやしたり、2人きりで人参ハンバーグを食べたくなったりしたら、それは、その男の人のことが"本当に"好きだからです。
⒉そうなると、自分の気持ちの整理が凄く大変だと思います。レースより難しいかも。
⒊でも、そんな時こそ根性! 女は度胸!
⒋当たって砕けろ!
⒌自分から好きだと言え!
⒍他の人には頼るな!
⒎差し切れ!!
以上
――
「もぉ~! スズカさーん! どうして言えないんですか~!?」
「だ、だってそんな……いきなりは難しいわ……」
「ダメですよスズカさん! 当たって砕けろ! です!」
「砕けたらダメだと思うんだけど……」
「大丈夫です! スズカさんは当たったくらいじゃ砕けません!!」
「ウソでしょ……」
「それに、逃げちゃダメです! 差し切るんですよ! 逃げて差す! の逃げてをなくして差し切るんです!!」
「む、むーりー!!」
「あー!? 待ってくださーい! スズカさーん!!」
「……何やってんだアイツら」
「賑やかッスね……」
「?」
「ねえ、あれって……」
「スぺ先輩、まーたなんかやらかしたのかぁ……?」
「……怪しいですわね」
「スぺちゃんってほんっと天然だよね。ライスの時もそうだったけど」
「――っし! しゃーねえ、いつものアレやるかぁ! 後輩どもにも伝授するいい機会だしな!」
『おー!』
――
朝から様子のおかしかったスズカ先輩とスペシャル先輩が気にはなりましたが、トレーナーさんが、「ま、アイツらなら大丈夫だろ」と仰ったので、特に気にせず今日のメニューをこなした後。
メンバーの皆さんとシャワーで汗を流して寮に帰ろうとしたら、ゴールドシップ先輩にオルフェーヴルと一緒に呼び出された時は、追加の特別トレーニングかと期待していたのですが……。
「あの……先輩方、これは一体……」
『しっ! 静かに!』
「アッハイ……」
何故かスズカ先輩とスペシャル先輩を除いたスピカメンバーでサングラスをかけ、マスクをし、両手に枝木を持ってトレセン学園の正門に続く正面通路脇の植栽に隠れるという、謎の放課後を過ごしています。これも何かのトレーニングなのでしょうか……レース中に気配を消す的な……。
オルフェーヴルに至っては突然の事態にオロオロするばかりです。あと、何故か彼女は普段つけているマスクの上にさらにマスクを重ねられています。どうして……?
「…………その――」
「あっ、来たよ!」
テイオー先輩の声の先に皆が視線を向けると、何やらきょろきょろと辺りを見回すスペシャル先輩が、「んもぉ~……どこ行っちゃったんですかースズカさーん」と、良く通る可愛らしい声を発しながらこちらに向かって歩いて来ていました。
え、っと……。皆さんの目的は、スペシャル先輩? でも何で隠れる必要が……さっぱりわかりません。
あと、どうして私はズタ袋を持たされているんでしょうか……。
「うし、合図したら飛び出すぞ」
『えっ』
困惑してオルフェーヴルと顔を見合わせていたら、ゴールドシップ先輩の言葉の意味がわからず、2人して疑問の声をあげ――、
「今だっ! 野郎ども! 出あえい! 出あえーい!!」
『――えぇっ!?』
今度はスペシャル先輩も含めた3人で素っ頓狂な声をあげると、先輩方が勢いよく植栽から飛び出して行ってしまいました。
と、とにかく先輩方の後に続きます!
「えっ、えっ……?」
「スカーレット! ウオッカ! テイオー! マックイーン! ディープ! オルフェ! やぁっておしまい!!」
「な、なんだかすっごく久しぶりな気が……!? ――――……あ、あれ?」
…………。
これは本当になんなんでしょうか……?
「おいディープ、何やってんだ? さっさとそれをスぺに被せろよ」
「えぇ……」
―
「なしてー……? なしてー……?」
先輩方の無言の圧力に促され、オルフェーヴルには可哀そうなモノを見る目で見つめられ、なぜか逃げないスペシャル先輩におずおずとズタ袋を被せ、袋詰めになったスペシャル先輩を見て他の先輩方は満足そうに頷き、そのまま無言で担ぎ上げてえっほえっほと走り出し、頭がどうにかなりそうになりながらもついていった先はスピカの部室でした。
部室内の年季が入ったパイプ椅子に縄で縛られたスペシャル先輩は、まるで漫画のキャラクターのように滝のような涙を流しながら延々冒頭の言葉を繰り返しています。スペシャル先輩って、方言を話されるんですね。
オルフェーヴルに至ってはもう頭が追い付いていないのか、完全に思考が停止しているようでうんともすんとも言いません。
……あれ。もしかして私、入るチーム間違えた……?
「悪りぃなスぺ。でもちょぉ~っと聞きたいことがあってなぁ?」
「な、ななななんですか!? 私! 悪いことなんてしてませんよ!? ちょ、ちょっと部室のにんじんとお菓子を黙って食べちゃってたくらいで!!」
『は?』
「…………あっ」
多分間違えましたね、これ。
―
スペシャル先輩が見事な自爆で先輩方――特にマックイーン先輩にめっためたにされた後、ようやく本題に入ってその話を聞いたときは驚きました。
なんでもスズカ先輩は、トレーナーさんに想いを寄せているのだとか。
当のスペシャル先輩はいまいち理解されていないようでしたが、先輩方には余計な口出しをしないよう、きつく言い含められていました。オルフェーヴルはウオッカ先輩と一緒に頭から湯気を噴き出しそうな勢いで顔を真っ赤にしていました。
――正直、意外でした。スズカ先輩は私と同じで、走ることにしか興味がないのだと勝手に思っていましたから。
ただただひたすらに走ることが好きで、好きで、好きでしょうがない。
ゴール板前を先頭で駆け抜けるあの快感に支配された、そんなウマ娘――。
でも、どうやらそれだけではなかったようです。
私にはまだ、異性を好きになるというのがどういうことなのか、良くわかりません。
ただ――。
あのスズカ先輩が、私の目標であるウマ娘が、異次元の逃亡者と称えられるサイレンススズカが、走ること以外に関心と好意を寄せる相手というのに興味を惹かれたのもまた、事実だったのだと思います。
そして、あの夢も――――。
―――
私が曲がりなりにもトレーナーさんへの好意を自覚してから、もう2ヶ月が経とうとしていた。
あの日の翌日、妙に落ち込んでいたスぺちゃんに話を聞いても答えてはくれず、他のメンバーからは心配いらないと言い包められてしまい、以来スぺちゃんが私に鞭打つようなことはなくなりました。その時は、正直ホッとしてしまって……。
結局、望まぬ答えが返ってくるかもしれないという恐怖から逃げているだけだったんです。今もずっと、逃げるばかりで……。
それに、トレーナーさんならきっと……。
この間から見るようになっていた夢の内容も日に日に鮮明になっていき、私の心に暗い影を落としていました。
ターフに倒れ、完治したはずの左脚に激痛が走り、全く動けない私。またあんなことが起こってしまう暗示なの?
そして、そんな私の名前を必死に呼び続ける、聞き慣れたような、懐かしいような、そんな声……。
あれはスぺちゃん? トレーナーさん? それとも――――その声も、顔も、靄が掛かってしまってはっきりとはわからない。
貴方は、誰――?
―
2ヶ月という期間は、ともすればあっという間に過ぎてしまう時間ですが、ウマ娘にとっては十分すぎるくらいに長く、貴重です。
ウマ娘に限らず、激しく身体を酷使するスポーツの世界に身を置くアスリートにとって、現役として全力を出せる期間は決して長くありません。
それは、ヒトを遥かに超える身体能力を有する私達ウマ娘にとっても――――……だからこそ、全く例外ではありません。
「2人とも、良いタイムだ」
「……うん!」
「っし……!」
デビューから間もなかったディープインパクトとオルフェーヴルは、トレーナーさんの指導の下、周囲の誰もが驚くほどの勢いで実力を伸ばしていました。
それを裏付けるように、この2ヶ月間で出走したレースは負けなし。しかもその殆どが大差勝ちで、次のクラシックの目玉だと学園内外でこぞって話題となっています。
チームスピカに、新たな怪物現る。
そんなタレコミが瞬く間に世間に広がっていました。
そして、リギルにもカノープスにも、次々と頭角を現す新世代のウマ娘たちがトゥインクルシリーズを賑わせている中、私は――――。
「スズカさん、大丈夫ですか……?」
「――大丈夫よ、スぺちゃん。ありがとう」
心から心配そうに声をかけてくれるスぺちゃんに、私はそう答えるしかなくて。
そして、その日のトレーニング終了時。
トレーナーさんの口から、明日、改めてチームスピカ内で、模擬レースを実施する旨が伝えられました。
――
(私、何してるんだろう……)
あの後、漠然とした――――ううん、違う。
明確な不安に駆られた私は、真っ直ぐ寮に帰ることなんて到底できず、1人でがむしゃらに誰もいないコースを走りに走って――。
それでもやっぱり、思うように走れなくて……。
気付けば私は、トレーナーさんのいるトレーナー室の前に立っていました。
ジャージも靴も、走った直後で汚れてしまっていて……髪も顔も、きっと酷いことになってる。
でも、心に巣食った不安に今にも押し潰されそうな私は、縋るようにドアノブに手を掛け――、
「こんな時間まですみません。ありがとうございました」
部屋の中から、彼女の――ディープインパクトの声が聞こえた瞬間。
私はまた、逃げ出してしまっていました。
――
「…………本当に何やってるの、スズカ……」
頭が真っ白になって、また逃げて、逃げて、逃げて――気付けば私は、さっきまで走っていたコースに戻って来てしまっていた。
ここだと誰かに見つかって、早く寮に帰れと言われてしまうかもしれない。今は誰にも会いたくない。スぺちゃんに、こんな姿は見せられないのに……。
何より、あの人が来てしまったら――、
「やっぱりここだったな」
「トレーナー……さん……」
一番聞きたくて、一番聞きたくない。
その声の主が少し息を切らせたように、ぼやける私の視界の中に立っていました。
―
トレーナーさんが羽織っていた上着を私に着せてくれて、隣に腰を下ろしてからしばらく、2人して何も話さない時間が続きました。
話したいことも、聞きたいこともたくさんあったはずなのに、何も言葉として浮かんでこない。
「ディープがな、凄い勢いで走っていくスズカを見たってんで、探してたんだ」
何ともないように言う彼の言葉が、今の私には無性に苛立ちの募るものでした。
「……そうですか」
「なあスズカ、一体どうし――」
「あの2人、凄く調子が良いみたいですね」
だめ、スズカ。こんな話、したくないのに――。
「――あぁ」
「だったら、私になんて時間を使っている場合じゃないんじゃないですか」
頭ではわかっていても、一度堰を切った言葉を止めることはできなかった。
「ディープインパクトもオルフェーヴルも、本当に凄い子たちです。まだデビューしたばかりなのに、全然そんなレベルじゃない。これから、もっともっと伸びると思います。私なんて、すぐに追い抜かれてしまいます。タイムは元に戻らなくて、この前のレースも全然ダメで……。ニュース、見ましたか? サイレンススズカは、アメリカで力を使い果たしてしまったんだそうです。――確かに、その通りかもしれません。私はもう、ピークを過ぎてしまったんですよ。このまま明日走ったって、きっと――」
「スズカ」
自分でも何を言っているのかわからない。でも、次から次へと湧いて出ている言葉は、きっと聞くに堪えないものだろう。
全く制御できない感情に何もかもぐちゃぐちゃになっていたら、不意に頭を包む感覚に、荒れて荒んでいた心がウソみたいに静かになって――――都合の良い自分に、殊更に腹が立ってしまう。
「……離してください」
「悪かった、気づいてやれなくて」
「今更です」
「すまん」
「……どうして、優しくしてくれるんですか」
「……すまん」
「…………ずるいです、こんな」
「…………すまん」
結局私は、押し退けようと思えば簡単にできた筈なのにそうはせず、子どものように泣きじゃくってしまいました。
―
「なあ、覚えてるか。初めてスズカと話した時のこと」
「……」
一頻り泣いて落ち着いた後。
私は自分が言ってしまったことややってしまったことを思い返すと情けなくて恥ずかしくて……。
顔をあげられない私が指で芝生をくるくると弄る隣で、トレーナーさんが話しかけてきます。
「あの時の俺は――とんでもないウマ娘を見つけたって、もう気持ちが抑えられなかった。走っている姿がとにかく綺麗で、速くて……ああいうのを一目惚れっていうんだろうな。こいつなら、俺の夢を叶えてくれる。本気でそう思った。それで……俺のせいで散々苦労させちまったし、今もさせてるが……。スズカは本当に、俺の夢を叶えてくれた。俺が鍛えたウマ娘が、国内のGⅠも、ウィンタードリームトロフィーにも名を連ねて、海外のGⅠすら掴んでくる――。凄いウマ娘だよ、スズカは。俺にはもったいないくらいだ」
…………。
なんてことを本人の前で言ってるんだろう、この人は……。
「確かに、ディープもオルフェも大した奴らだ。もちろん、他のメンバーもな。――でもな、スズカ。俺にとってスズカは、特別なんだ。逃げて差す。あんな出鱈目な走り方を実現できる奴なんて、世界中探し回ったっていやしない。だから――」
「も、もういいです。わかりましたから……」
もうダメです、これ以上は耐えられない、私の心が爆発してしまいます。
うぅ……左回りしたい……。
「――――だから、本当にすまなかった」
トレーナーさんはそう言うと私に向き直って、深く頭を下げてしまいました。
「え、あの、トレーナーさ――」
「スズカなら大丈夫だって、高括ってた。甘えてたんだ。それに、お前たちが皆ウィンタードリームにまで行って、あの2人もチームに迎えられて、俺は天狗になっていたのかもしれん。――本当にすまん」
私の目を真っ直ぐに見つめて謝るトレーナーさんの表情は真剣そのもので、後悔の色が滲み出ていました。
……やっぱりずるいです、トレーナーさんは。
いつも私……ううん、私達ウマ娘を一番に考えてくれるトレーナーさんの姿が、あの夢に重なって――――、
「似ています、トレーナーさんは」
「……?」
不思議そうに首を傾げる彼の表情に、自然と肩の力も抜けてしまって。
この人は、こんなにも簡単に、私の迷いを取り払えてしまう。それがなんだか、妙に悔しくて。
だから少し、ほんの少しだけ――意地悪することにしたんです。
「……そうですね。確かに私、凄く傷つきました。恥ずかしいところもたくさん見られてしまいましたし」
「す、すまん……」
「なので、お仕置きをします。目を瞑ってください、トレーナーさん」
「お、おう……わかった」
私にそう告げられて固く目を瞑り、肩に力を入れて待ち構えるトレーナーさんの姿が、なんだか可愛くて――。
「――はい、お仕置きです。ちゃんと髭、剃った方が良いですよ」
「――――お、おまっ……!?」
「何をされると思っていたんですか、もう」
茹蛸みたいに顔を真っ赤にしたトレーナーさんを見て、やってやった気持ちに満たされた瞬間、今度はやってしまったという反動で顔から本当に火でも噴き出しそうになっていたら――、
「ひゃわーーーー!?」
「ぴえぇーーーー?!」
「うひゃーーーー!?」
「ひえぇーーッス?!」
「わっ?! 馬鹿スペ!! お前っ!?」
「て、テイオー!? なんで声を出してしまうんですの?!」
「こンの馬鹿ウオッカ! 大声出すんじゃないわよ!!」
「お、オルフェーヴル……」
まるで地獄の宣告のような声がした方向にぐりんっ! と首を回すと、そこには陰から覗き見ているメンバーの姿が。
えっ……いつから見てたの……? ていうか確実にさっきのも…………?
「ウソでしょ」
「あ、す、スズカさん……こ、これはそのぉ……」
「逃げるぞ!!」
「あぁー!? 置いてかないでくださいー!!」
「絶対逃がさないから」
『むーりー!?』
「…………敵わねえな」
全力で逃げるメンバーを片っ端から捕まえたところで、騒ぎを聞きつけたエアグルーヴや寮長さん達に捕まってしまい、トレーナーさん含めスピカメンバーは盛大に怒られてしまったのでした。
――
「なあ南坂」
「奢りませんよ、先輩」
「まだ何も言ってねえだろ……」
あの騒ぎの後、生徒会メンバーに寮長さん達やたづなさんにこっぴどく叱られた俺は、南坂を呼び出していつものバーに来ていた。
もちろん、金は無いから南坂にツケとくんだけどな。
「サイレンススズカさんですか。先輩も変わりませんね」
「……お前に言われたかねーよ」
つくづく思うんだが、なんでコイツはトレセンでトレーナーやってるんだ?
バーボンのロックで唇を湿らせながらいきなり言い当てて来た南坂に恐れおののきながら、その通りだと頷き返す。
ちなみにコイツはザルだ。マジでどんだけ飲んでも酔わない。トレーナー同士の親睦会やらなんやらで飲むことになると間違いなくどんちゃん騒ぎになるが、南坂は最後の最後までいつもの調子だ。結果、潰れたろっぺいさんや北原、お花さんに小宮山、最近だとあの理事長代理の世話もしてやってるらしい。ちなみに黒沼と小内は酒が飲めない。
「前にも言いましたけど、先輩は誰に対しても対等過ぎるんですよ。長所だとは思いますが」
「……そうだっけか」
「ええ、そうです」
そういや言われたような気がするな、とは口に出すはずもなく、無意識に左頬を撫でていたことに気づいてハッとした。
……髭、もうちょい剃った方が良いんだろうか。
「頬へは厚意を示すそうですね」
「」
コイツほんとにやべーわ。
「……眺めてられりゃ、それで良かったんだけどな」
「どうしたんですかいきなり。もう酔いました?」
「やかましい、こっちは真剣なんだよ」
茶化されて年甲斐もなく顔が熱を持つのを酒のせいにして、生意気な後輩に悪態をつく。
失礼しました、と悪びれもなく言う南坂が癪に障るが仕方ない。金出してもらえないと困るし。
南坂は手に持ったロックグラスを軽く揺らして、半分以上残っていた中身を一息に飲み干した。丸く削られたロックアイスが質の良いグラスを小突き、俺と南坂しかいない小さなバーに小気味の良い音を響かせる。
「ただ眺めているだけでは、届くものも届かない。――うちのチームは、できることを証明してくれましたよ」
噛み締めるように言う南坂の横顔は、大層誇らしげだった。
先輩もそうしてきたんじゃないんですか、と憎らしい笑みを浮かべながら痛い所を突いてくる後輩を余所に、やけくそ気味に残った酒を流し込む。
「――そうだっけな」
「時間と神様が許してくれれば、という条件付きですけどね」
ああ、本当にコイツの言う通りだ。
フライングも、タイムオーバーも、いるのかすらわからんような奴も。
――
「その……話って?」
「はい。昨日はすみませんでした、あの……あんな真似をしてしまって……」
そう言って深々と頭を下げるディープインパクトに、私は慌てて顔をあげるように促した。
昨夜あんな騒ぎになってしまったのは、そもそも私に原因があったのだから。まあ、そこはかとない不満もまだありはするのだけど……何もあんな時に覗き見なくたって……。
「その話はもう終わりにしましょう? ほ、本当に恥ずかしいから……」
「そ、そうですね、そうします」
私とディープインパクト以外にまだ誰もいない、早朝のトレーニングコース。
お互い顔を真っ赤にして俯いてから暫く、気持ちよさそうに囀る鳥達の歌声と、風に揺られて爽やかな音色を奏でるターフの音だけが、雲一つない晴天に溶け込んでいった。
「話は、それだけ?」
「あ、いえ、すみません。本題は、その……別にあって」
歯切れ悪く言う彼女の横顔を伺うと、言い淀んでいるのか耳が忙しなく動き続けていた。
そうして意を決したかのように小さく頷くと、「変なことを聞いてしまいますが」と前置きしてから、私に真っ直ぐ向き直って口を開いた。
「スズカ先輩は、夢を見ますか?」
「……夢?」
その質問に反射的に首を傾げるが、すぐに自分も、最近妙な夢を見ていたのだと思い出した。
そういえば昨晩は、久しぶりにあの夢を見なかったことに気付く。
「デビューしてから、私は良くその夢を見るようになりました。不思議な夢です。私は誰かを追いかけていて、でも絶対に追いつけない。どれだけ走ろうと足掻いて藻掻いても、足が言うことを聞いてくれなくて……その人には届かないんです。そして、その人も必死に走っていて、その先には――――スズカ先輩、いつも貴方がいました」
「私が……?」
「はい。倒れ込んでいるような時もあれば、凄い速さで駆け抜けて、あっという間に見えなくなってしまう時もありました。まるで、どこまでもどこまでも、二度と手の届かない所まで走って行ってしまうように――」
話しているうちに、ディープインパクトはその透き通った瞳を、真上に広がる青空に向けて話し続ける。
「その人も、絶対にスズカ先輩には届かなくて――。手を伸ばすことしかできない私を自覚する頃には、目が覚めていました。夜中に飛び起きたこともあります」
変な夢ですよね、本当に。
困ったように目尻を下げて呟く彼女の横顔は見惚れるくらいに綺麗で、そして――複雑な色をにじませていた。
「――私も、夢を見ていたわ。日本に戻って来てから、ずっと」
自然と口を割って出てきた言葉をそのままに、私は続ける。
「天皇賞秋――。あの日曜日みたいに、私はまたコースに倒れて、脚が痛くて動けなくて……。誰かが私の名前を呼んでるの。ずっと、ずっと――」
「……そう、ですか」
結局、あれが誰だったのかは今もわからない。
でも――――、
「でもね、昨日はその夢を見なかったわ。そんな夢を見てたことだって、忘れてた。なんだか不思議だけど、もう大丈夫なんだって――今は勝手にそう思っていて、自然と不安もなくなってるの」
久々に、びっくりするくらい身体が、心が軽い。
朝の澄んだ空気の中で、この綺麗なターフの上を、思いっきり駆け抜けたい。
そして、昨日まではあんなに怖くてしょうがなかった彼女――隣で不思議なモノでも見るように、大きな目を見開いて私を見つめるディープインパクトと、走りたい。
「あなたの夢がなんなのか、どうして私が出てくるのか、その人は誰なのか――私にはわからない。でもきっと、走っている内に、答えは出ると思うわ。悩んで考え込んでいたって仕方ない。だって私達は、走って、走って、走って――走ることが大好きだから。あなたもそうでしょう? ディープ」
トレーナーさんは、私が現役の内は答えを出してくれない。
でも、その後なら……きっと――――。
―
目の前をゆったりとしたペースで走るスズカ先輩の背中を見上げながら、私はこっそり溜め息を吐いた。
この先輩は、思った以上に走ることに対して盲目的だった。
私の悩みなんて走っていれば解決するだなんて、なんというか、戦闘民族か何かなのだろうか。昨日まではあんなに思い詰めて走りにも全くキレがなかったのに、今は随分と軽やかな様子で走っていて……なんというか、納得いかない。
スズカ先輩が夢を見なかったことと関係があるのか、私が昨日見た夢も、今までと違っていた。
どれだけ走っても届かなかったあの人は、ついにスズカ先輩に追い付いた。そして、そっと触れるようにスズカ先輩の背中を押した途端、光になって消えてしまって――。
悲しさと寂しさと、悔しさと嫉妬と……色んな感情に襲われて潰れそうになった時、しゃがみ込む私の肩を、温かい何かが触れて、軽く叩いた気がした。
その瞬間、私の魂が囁いた――。
ああ。この夢は、もう見ないんだ。
きっと明日も、明後日も、明々後日になっても、あの夢を見ることはないだろう。
朝に弱い私が、今朝は随分と早く起きれて、こうしてスズカ先輩と誰もいないターフでトレーニングをしているのも、きっと無関係ではないと思う。
引き摺るのかと思ったけれど、全くもって晴れ晴れとした心に、私はあまり驚かなかった。
それよりも何よりも、今は目の前を走る彼女とのレースが、楽しみでしょうがない。
夢では全く追いつけなかった。追い付ける気がしなかった。
でも、今走っている私もサイレンススズカも、夢じゃない。
走って、走って、走り続けて。いつか必ず異次元の逃亡者を追い上げて、捕まえて、追い越して――ゴール板を先に通過してみせる。
「スズカ先輩」
「? なに、ディープ」
隣につけて見上げると、本当に気持ちよさそうに走る大先輩に、私は珍しく悪戯心が湧いてくるのを抑えられなかった。
うん。やっぱり私、入るチーム間違えたんだ。
「トレーナーさんって、ズボラで不器用でお金も無くてだらしないですけど」
「――え?」
「それでも魅力的だと思いますよ、私も」
「――――えっ、えぇっ!?」
さて、今の言葉は冗談か、本心からだったのか。
爪が割れやすかったり、風邪もひきやすい私の調整をしっかりしてくれて、この短期間でここまで仕上げさせてくれたあの人には、本当に感謝している。
自分でもよくわからないまま私は一気に加速して、面白いくらいに動揺してくれたスズカ先輩を置き去りにしていく。
と思ったら、気付けばすぐ背後にまで追い付かれていて、背筋に冷たいモノが走り、血が騒いで収まりが効かない。
「負けないから! 私、逃げるのは得意なの!」
「そうですか! 私は、追い上げるのが得意なんです!」
「そう簡単には……抜かせない!!」
速い……!
あっという間に加速し追い越され、どんどん差を拡げられていく。
これが……夢と謳われたウマ娘。異次元の逃亡者、サイレンススズカ!
やっぱり貴方には、運命的ななにかを感じます!!
「スズカ先輩に勝つには! 飛んで見せるくらいはしないといけませんね!!」
「――ふふっ。楽しみにしてるわ」
追いかける背中越しに、一筋の飛行機雲が、雲一つない青空を真っ二つに切り裂いていた。
―――
Binary star
連星。2つの恒星が両者の重心の周りを軌道運動している天体のこと。
stargazing
放心状態。星を眺めること。
―――――
DA☆SO☆KU
―――――
「……なあ」
「なんですかトレーナーさん。それより今日のレース、ちゃんと見ていてくださいね? 私が勝ちますから」
「トレーナーさん。私、飛べるくらいには速くなりたいので、しっかり問題点を洗い出して後で指摘してください」
「お、おう……」
なんだかスズカさんとディープちゃんの、トレーナーさんに対する距離が近いような……。
2人で両脇に立って、いつもとは何かがすごーく違うような雰囲気に私は戸惑うばかりで、他の皆に聞いても、「ほっとけ」で終わってしまいました。
うーん……これが男の人を好きになるってことなの? お母ちゃん、良くわかんないよぉ……。
「あー……あのな? これから模擬レース始めんだから、2人はストレッチを――」
「大丈夫です。朝にディープとたくさん走りましたし、今もしっかり温まってますから」
「そうですね。ただ、負けっぱなしは性に合わないので早くやりましょう」
「おぉ……? 随分仲良くなったんだな……」
お、お母ちゃん、スズカさんとディープちゃんの間に火花が見えます……!
これは凄いライバルになっちゃうのか、も……?
「と、とにかく! 模擬レースをする前に、また新メンバーの登場だ! んじゃ、自己紹介よろしく!」
(逃げた)
(逃げましたわ)
(逃げたわね)
(目の前でくっつきまわってんじゃねーよー……)
(たっぷり油を注いでやるでゴルシ)
(ディープ……なにがあったんスか……)
「あー!?」
陰から飛び出してきたウマ娘を見て、思わず大声出しちゃいました!
だってあの子は――――!
「はじめまして! わたしっ、ブエナビスタっていいます!!」
―――――
新生カノープス
ウインバリアシオン
カミノクレッセ
オフサイドトラップ
サウンズオブアース
カレンブーケドール
キンイロリョテイ
新生リギル
シーザリオ
ハーツクライ
ジェンティルドンナ
クロフネ
ジャングルポケット
シンボリクリスエス
デュランダル
キングカメハメハ
ドリームジャーニー
ロードカナロア
モーリス
ドゥラメンテ
リスグラシュー
アーモンドアイ
グランアレグリア
新生スピカ
ブエナビスタ
ディープインパクト
オルフェーヴル
ヤマニンゼファー
サニーブライアン
ジャスタウェイ
フェノーメノ
コントレイル
―――――
「遂にこの日がやってまいりました! 年末最後の大一番! ウィンタードリームトロフィー! 今年の頂点に立つのは果たしてどのウマ娘なのか!? 今回も超豪華な出走メンバーが揃っております!!」
「まさに夢のようなウマ娘! いつまでもどこまでも先頭を駆け抜ける! 1枠1番! 異次元の逃亡者! サイレンススズカ!!」
「このウマ娘には海図もコンパスも無用! 今日も規格外の末脚で何をしでかすのか!? 1枠2番! 黄金の浮沈艦! ゴールドシップ!!」
「この強さ、それこそが事実! 異次元すら乗り越えて、真の実力の証明なるか! 2枠3番! サニーブライアン!!」
「そよ風というには強烈すぎる! 西風の神は、今日も彼女に追い風を吹かせるか!? 2枠4番! ヤマニンゼファー!!」
「帰って来た日本総大将! 粒ぞろいの新星たちに、偉大な背中を見せつけることができるか! 3枠5番! スペシャルウィーク!!」
「遂に実現した夢の姉妹対決! 姉より優れた妹など存在しない! 3枠6番! 夢への旅路! ドリームジャーニー!!」
「進化する王者! 世界の主役! 英雄殺しのその叫び! 心あらばとくと聞け! 4枠7番! ハーツクライ!!」
「決してあきらめない大輪の花! 自分を信じ、遅咲きの百合を今一度咲き誇らせろ! 4枠8番! リスグラシュー!!」
「どれほどまでに強いのか!? 超良血のおてんば娘は、今日もターフを猛然と駆け抜ける! 5枠9番! ドゥラメンテ!!」
「史上初のダブル連覇達成ウマ娘! この大一番においても、最強を証明できるか! 5枠10番! シンボリクリスエス!!」
「勝利に愛されたその瞳に夢を! まっすぐに、頂点を目指して! 6枠11番! 史上初の9冠ウマ娘! アーモンドアイ!!」
「遂に現れた世紀の大王! どこまでもクールに、今日もターフに絶対王政を敷く! 6枠12番! キングカメハメハ!!」
「苦悩からの復活を遂げた無敗の三冠ウマ娘! アフターバーナー全開で、その憧れを飛び越えろ! 7枠13番! コントレイル!!」
「このウマ娘に、ヒトはどこまでも夢を見る! 奇跡に最も近い英雄! 7枠14番! ディープインパクト!!」
「アメリカ帰りのスーパースター! 絢爛たる男装の麗人は、今日もターフを美しく舞う! 7枠15番! シーザリオ!!」
「ここにまた、新たな物語が刻まれる! 強さを極め、美しさを誇れ! 8枠16番! 絶景! ブエナビスタ!!」
「尽くを蹴散らす女王! 鬼婦人は、今日もその豪脚で他を圧倒するか!? 8枠17番! ジェンティルドンナ!!」
「黄金色の芸術が、今日もターフの緑を金色に染め上げる! 大外18番! 金色の暴君! オルフェーヴル!!」
「さあ、全ウマ娘ゲートに収まって…………今、スタートですッ――――!!」
―――――
劇場版 ウマ娘 プリティーダービー
甦る伝説(存在しない記憶)
海外からの出走UMA Girls()
Flying Childers
(1714〜1741。フライングチルダーズ。1マイル=約1608mを1分で走ったとか走ってないとか。因みに同距離のJRAレコードは2019年、GⅢ京成杯オータムハンデキャップ戦で牝馬トロワゼトワルが叩き出した1:30.3。ウッソだろお前)
Eclipse
(1764〜1789。エクリプス。生涯戦績は18 or 26戦全勝、らしい。余りの速さと無類の強さから諺にまでなってしまった歴史的駿馬。強すぎてさっぱり勝負にならないので、一頭立てレースが8回以上もあったという。現在のサラブレッドの95%以上の父系祖先であり、元祖気性難。Eclipse first, the rest nowhere.)
Potoooooooo
(1773〜1800。Pot-eight-os.で、ポテイトーズ。ふざけた名前だが上記Eclipseの実の息子であり、通算28 or 30 or 34勝したとかいうクソ強名馬。加えて、現代競走馬の凡そ90%がコイツの直系子孫に当たり、血統表を遡って行けば大体このインパクト抜群の英名を見つけることができてしまう)
Kincsem
(1874〜1887。キンチェム。ハンガリー語で「私の宝物」の意。当時の欧州内に於ける7つの競馬先進国を汽車で渡り歩き悉くを蹂躙し尽くした。その生涯戦績なんと54戦54勝。ルーデル閣下やシモ・ヘイヘ、船坂弘並のリアルチート。現在でもハンガリーの誇りであり、国民的英雄。心温まるエピソードも多い伝説的名牝)
St. Simon
(1881〜1908。セントサイモン。10戦10勝。「煮えたぎる蒸気機関車」の異名をとったイギリス競馬史上多分最高の競走馬であり、世紀の大種牡馬。現在のサラブレッドでコイツの血を引かない馬はいない。そして、後述のSSが余裕で可愛く見えるほどに頭が常時イっちゃってた究極の気性難)
Man o’ War
(1917〜1947。マンノウォー。21戦20勝。アメリカ競馬史上最高の馬。ベーブ・ルースなどと並び称される「時代を代表する英雄」。20世紀のアメリカ名馬100選1位。20世紀北米トップアスリート100では馬なのに84位。レースで100馬身差をつけたこともある。......??? 渾名は"Big Red")
Nearco
(1935〜1957。ネアルコ。「ドルメロの魔術師」の異名を持つイタリアの調教師、フェデリコ・テシオが世に送り出した空前の大種牡馬。近代競走馬の血統を文字通り塗り替えた。ただ、魔術師曰くネアルコはスタミナ不足で、競走馬としてはそれほど強くないらしい。でも生涯戦績は14戦14勝。なんなんすかこれ)
Citation
(1945〜1970。サイテーション。20世紀米名馬100選3位、20世紀北米トップアスリート100で97位、米三冠馬、史上初の100万$獲得ホース、38連続連対、年間20戦19勝内連勝15、生涯戦績45戦32勝。わけがわからないよ。馬名は「表彰状」の意。愛称は"Big Cy")
Native Dancer
(1950〜1967。ネイティブダンサー。22戦21勝。"Gray Ghost","Gray Phantom"とも呼ばれ愛された芦毛の名馬。その強さは勿論のこと、白黒テレビの普及で競馬中継が始まり芦毛の彼は大いに目立って全米で大人気に。終いにはあのタイム誌の表紙すら飾った。因みに母馬の名前が「Geisha」。あのシーバードやオグリキャップの祖父に当たり、彼らの凄まじい強さとその人気はおじいちゃん譲りだったのかもしれない)
Kelso
(1957〜1983。ケルソ。1歳時に去勢された
Northern Dancer
(1961〜1990。ノーザンダンサー。18戦14勝。20世紀で最も成功した馬の一頭であり、カナダの象徴。後に後述のニジンスキーや秋川理事長ノーザンテーストなど、他にも枚挙に暇がない程に優秀な子ども達を多数輩出した。のだが、彼は幼少期から気性難で去勢を検討されたこともあったという。しなくてよかったね、ほんと)
Nijinsky II
(1967〜1992。ニジンスキー。13戦11勝。1975年に、実に35年ぶりとなるイギリスクラシック三冠を達成した名馬。彼以降、この英国三冠を制した馬はいない。この馬も父と同じく多くの優秀な産駒を輩出し続け、ニジンスキー系という一大勢力図を築き上げた。因みにかのスーパーカー、マルゼンスキーのお父さん。そら強いわ)
Mill Reef
(1968~1986。ミルリーフ。14戦12勝。20世紀世界の平地競走馬トップ200で8位。これまでに紹介した気性難達とはかけ離れた穏やかな性格で、走るのも大好きだったという。その性格と、美しいが別段立派ではない馬体からは想像もつかない程の強さで数々のレースを大差で圧勝し、「この馬に騎手の技術など関係ない」「誰が乗っても勝てる」とまで言わしめた)
Secretariat
(1970~1989。セクレタリアト。21戦16勝。1973年に25年ぶりの米三冠達成。20世紀の米名馬100選2位。20世紀の北米トップアスリート100では数多の偉人を押し退けなんと35位。前述のマンノウォーに並び称されるアメリカの二大巨頭であり、2代目"Big Red"。とんでもないタイムを叩き出しまくったリアルチートで史上最強馬論争にも必ず名前が挙がり、伝説のベルモンドステークスでは2着馬に31馬身もの差をつけての"2:24.0"は永久に更新不可能とすら言われている。彼を主役として映画化もされた)
Dancing Brave
(1983~1999年。ダンシングブレーヴ。10戦8勝。1980年代欧州最強馬との呼び声高い名馬。見ている誰もが、「ダメだこりゃ」と思うような隊列最後方から重い欧州の芝を全く物ともせず、切れ味抜群のとんでもない豪脚で並み居る強豪を撫で斬りまくって伝説を作った。その後、種牡馬として期待されるも病気がちとなってしまうが、結果としてこの歴史的名馬が日本に来たことにより、キングヘイローなどの後継種牡馬が日本を沸かせることとなる)
Black Caviar
(2006~存命。ブラックキャビア。この時代に25戦25勝内GⅠ15勝とかいうとんでもない戦績を残した、オーストラリアのすんごい名牝。レーティングも古馬牝馬史上最高の136ポンドを記録し、歴代牝馬の中でも最強との呼び声もある。馬体も滅茶苦茶デカく、あのヒシアケボノ並の重さがあったとか)
Frankel
(2008~存命。フランケル。14戦14勝内GⅠ10勝。えぇ……。3歳の時点で既に前述のダンシングブレーヴとすら比べられた化け物であり、殆どのレースを基本5馬身は離して圧勝しまくった。主戦場のマイル・中距離で圧倒的強さを示し続け、現役時代は世界最強、近代欧州競馬史上最強馬とも称されたリアルチート)
Treve
(2010~存命。トレヴ。13戦9勝。父があのモンジューだが、小柄な牝馬であったり兄弟に活躍馬がいなかったりと、当初は全く期待されていなかった。しかし走らせてみるとまあ走る走る。GⅠコースレコードを更新するなど大躍進し、2013年凱旋門賞ではオルフェーヴルとキズナを相手に圧勝、日本の悲願を完膚なきまでに打ち砕いた。翌年もゴルシがフランス旅行してた同レースを制して歴史的連覇を成し遂げてしまった、驚異の下克上娘)
American Pharoah
(2012~存命。アメリカンファラオ。11戦9勝内GⅠ8勝。37年振りの米三冠馬。とにかくとんでもない競争能力を誇った名馬であり、気分良く先頭を走ってしまえばもう誰も追いつけなかったという、近代米国競馬における絶対的王者。因みに名前の綴りが間違ってしまっているが、これはダイユウサクよろしく電子登録の際に間違えてしまったから。王様なのに……)
Easy Goer
(1986~1994。イージーゴア。20戦14勝内GⅠ9勝。20世紀の米名馬100選34位。兄弟にも活躍馬が多く、後述のSSとは正反対の超良血馬。そして、その生涯における宿命のライバルであった。SSさえいなければ米三冠もエクリプス賞も年度代表馬も最優秀3歳牡馬も3代目"Big Red"襲名もまず間違いなく彼の物だったのに……どうしてこうなった。プリークネスステークスでの彼とSSがバッチバチにガン飛ばし合いながらのデッドヒートは最早伝説)
Sunday Silence
(1986~2002。サンデーサイレンス。14戦9勝内GⅠ6勝2着5回=連対率100%。20世紀の米名馬100選31位。血統的になんでこんなに強かったのかさっぱり不明、生まれた時の評価がもう最悪、結局誰も買い取り手がいなかったという、ライバルとは正反対の雑草馬で突然変異種。そんな落ちこぼれからの英雄街道はまさにアメリカンドリームそのもので、現役時代はオグリキャップと似た人気を博した。しかしこれだけの活躍があっても、母国アメリカは徹底的な血統至上主義であり種牡馬として全く人気が無く、紆余曲折を経て日本にやって来た。そしてこれが日本競馬界の運命を変えることとなる。彼の産駒でウマ娘となっているのが、フジキセキ・マーベラスサンデー・サイレンススズカ・キンイロリョテイ・スペシャルウィーク・アドマイヤベガ・エアシャカール・アグネスタキオン・マンハッタンカフェ・ゼンノロブロイ。いやーヤバイでしょ)
おかしい……曲がりなりにも俺はR-18オリジナルSS書きだったはず……。
沖スズが好き過ぎる結果供給足りんので自給自足すれば良いやってなったからね、しかたないね。