綾小路side
バレンタインデーの日の放課後、杏樹と一緒に寮にもどっているとき。
「清隆君はいこれ、あげる」
「ん?」
渡されたのはレジ袋、中には棒突きチョコレートとレシートが入っている。87円だ。
「バレンタインのチョコレート。わたしからチョコもらえる人今年二人だけだからすっごく貴重だよ!」
「それは光栄だ。たとえ渡してくるのがアン○ンマンチョコだとしてもな」
ぱっと見、義理チョコと思われてもおかしくないチョイスに普通にショックだ。オレ達付き合ってるよな? 欲を言えば、手作りが食べたかった。それに二人ってオレを差し置いて誰だよもらったやつ。
「だって可愛いしお手軽量じゃん。清隆君どうせ山程もらうんだろうなって思ってたから」
「残念ながらオレがもらったのは今、杏樹からだけだ。で、杏樹から貴重なチョコがもらえる二人目って誰なんだよ」
オレは杏樹という恋人がいる中で他の女子からチョコをもらうなんてどうなのかと考えた末、全部理由をつけて断ったというのに杏樹にそんな気遣いは不要だったようだ。むしろ、不思議そうな目で見られた。
「あはは気になるんだ。でも意外だったな、清隆君のモテ具合なら紙袋でチョコレート収集するタイプだと思ってたんだけど」
杏樹はいつものあの笑顔でオレの質問から逃れた。その顔すればなんでも許すわけじゃないからな。
「それは杏樹の方がもっとだろ。それ何袋目だ?」
「まとめるとスクバ、サブバック、追加の紙袋2個って感じかな。でも半分は女子だよ」
杏樹はバレンタインという女性が渡すのが主流のイベントでも人気は絶好調だった。半分は女子って、半分は男子ってことだろ。なんでそんなに人気なんだよ。
「それ全部食べるのか?」
「市販品で未開封はね。手作りとか空いてるのはちょっと怖いじゃん」
「オレは手作りちょこなんて貰ったことないから、そんなふうに怖い目にあったことないな」
ちょっと今のは卑屈だったかもしれない。そう思って杏樹の顔を見ると、満足そうな笑顔をみせた。
「そっか、手作りの食べたことないんだ。うちくる?」
「それは手作りチョコを期待してもいいってことか?」
「いいよ」
杏樹がもとからそのつもりだったのか、今急に思いついたのかわからなかったけど結果オーライだ。
オレは自分の部屋に帰ることなくそのまま杏樹の部屋に直行した。
「オレはなんかすることある?」
「じゃあ、作ってる間お花、花瓶にいい感じに刺しといてくれる? 適当に茎切っちゃっていいから」
何が楽しくて彼女に好意を寄せている異性からの花束をオレが生けなきゃいけないんだ。そう文句を言いたかったが、これからのご褒美におまけをつけてもらうためにも懇切丁寧に仕事を全うした。オレって超えらいんじゃないか?
「うわーきれい。ありがと清隆君、じゃあわたしのバックの中のチョコも仕分け頼んでもいいかな? 市販品とそれ以外って感じで」
どんどんお願いがエスカレートしてる気がするのはオレの気にしすぎなのか? 彼女のもらったチョコを仕分けする彼氏なんてこの世界でオレしかいないだろ。むしろいるなら仲良くなれそうだ。
大量のチョコやら菓子らを選別しているといい匂いが鼻腔をくすぐった。
「焼けた! 清隆君それもうあとは自分でやるから大丈夫だよ。ありがとう。これ焼きたて一緒にたべよ?」
杏樹がミトンで取り出したのはハート型で掌サイズのガートーショコラだった。そう、オレはこういうのが欲しかった。アンパ○マンチョコじゃない。
「おいしそうだな」
「試作いっぱい作ったから配合は完璧だとおもーーなんでもない。清隆君フォーク出して早く食べよ」
今試作いっぱい作ったって言ってたよな? オレの聞き間違いじゃないよな? つまり杏樹はちゃんとオレにずっと前からこれを渡す準備をしてたってことでいいんだよな? オレの彼女かわいすぎないか??
「杏樹、このケーキ2個しか焼いてないよな? そのもう一人あげる人の分はいいのか?」
「え? だから2個焼いたんじゃん。清隆くん用とわたし用」
オレの心配は全くの杞憂だったらしい。はじめからオレ以外に渡す気さらさらなかったってことじゃないか。確かに杏樹の性格を考えたら平気な顔してああいうのはわかってただろオレ……まあオレも人間ってことだ。
この後おいしくケーキを頂いたし、今日一日やられた分仕返しもした。
「ホワイトデーは清隆君専用だからね、お返し期待してる」
確かに杏樹が今日チョコを渡した人がオレだけなら、お返しをする人もオレだけってことか。真剣に考えないとな。