ありふれぬ魔王が世界最強   作:合将鳥

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実は作者、前々から転スラが好きになれないのだが、何故そうなのか自分でも分からない。理由が説明できないのは、思った以上にモヤモヤする。なので、こういう所が嫌いなのかと考えてみる。
「転生」? 「トントン拍子で強くなる」? 「仲間が持ち上げすぎ」?
幾つかそれっぽい要素を上げてみても、それが理由で好きになった作品もある。じゃあ何が原因なのか、友人にも相談してみたが肝心のところは分からない。

ならば、と逆転の発想。自分の好きになった主人公の共通点(バトル系限定)を探してみる。

・物語開始時点である程度戦闘能力が個人が出来る範囲で完成している
・平和が好きだが、それと同じかそれ以上に戦いが好き
・人当たりがある程度良く、敵対者であっても軽口は叩ける位のコミュ力
・いざとなれば命を奪う選択肢も取る


……これ大体悟空では?



皆さんは「嫌いだけど何故嫌いかは説明できない、理解できていないもの」ってありますか?



第三十話 猿の王国

 

 時間は少し遡る。

 

 リリアーナが侍女や近衛達と共に郊外へ降ろされた後、一行はU・L・Gに積み込まれていた馬車と馬に乗って帝都へと入った。

 先に送り出した王国の使者や大使を大きく追い抜いて来てしまったので、帝国側はリリアーナが来訪する事を知らない筈だ。

 帝城の使用人や接待役の貴族達はさぞや慌てる事だろうとリリアーナは申し訳なく思いつつも、今は時間が惜しいので突撃訪問を敢行する。

一応近衛騎士を先行させて先触れを出しているので、それでご勘弁願いたいところだ。

 

「厳戒態勢で御座いますね」

 

 馬車に同乗している侍女──ヘリーナが、小窓から外を覗きつつ言った。リリアーナが痛ましそうな表情で答える。

 

「魔人族の襲撃のせいでしょう。ハウリア族の話は聞いていましたが、かなりの被害を受けた様ですね」

「本当に、あの御方がいて下さって幸いでした。本命でない帝国でこの有様です、あの状態の王国では助かる道は無かったでしょう」

「そうですね……」

 

 リリアーナ付きの専属侍女、ヘリーナ。幼少の頃よりリリアーナを陰に日向に支えてきた優秀な侍女だ。時々看過出来ない言動を取るのが玉に瑕だが、リリアーナにとっては心許せる友人の様な存在だ。

 

 

 そうこうしている間に、馬車は帝城へと辿り着いた。

 突然の来訪に一悶着あったものの無事に部屋へ通され、その日の夕刻にはガハルドへの謁見が叶う事となった。

 リリアーナが案内に従って謁見の間に通されると、そこには既にガハルドが実に楽し気な笑みを浮かべて待っていた。

 

 ガハルド・D・ヘルシャー。もうそろそろ五十代が見えてきそうな年齢にも係わらず、見た目は四十代前半。場合によっては三十代後半にも見える若々しさと、猛々しい覇気を纏った男。灰色に近い銀色の髪と、狼を思わせる鋭い目、服越しでも分かる極限まで引き絞られた肉体は些かの衰えも感じさせない。

 光輝達の実力を確かめるべく彼がお忍びで王国に来た時以来だが、数ヶ月程度ではやはり変わりはないらしい。

 魔人族に襲撃されたと聞いていたので、或いは怪我の一つでもしているかと思えばそんな様子も皆無である。

 

「よく来てくれたな、リリアーナ姫。随分と急な訪問だが、それだけの土産話があるのだと楽しみにしているぞ」

 

 リリアーナは「ご期待には副えないと思いますが……」と前置きし、先ず王国で起きた事件のあらましを語った。

 

 王宮内に蔓延った恐ろしい浸食から始まった一連の出来事。魔人族の大群による侵攻、‟真の神の使徒‟による暗躍と神の真意、聖教教会総本山の崩壊、中村恵里と彼女に唆された檜山大介の裏切り、そしてエリヒド‟前‟国王の崩御。

 

 口を挟まず黙って聞いていたガハルドは、リリアーナが口を閉ざすと同時に大きく息を吐いた。そして椅子に深く腰を預けると、片手で顔を覆って天を仰いでしまった。

 豪放磊落な皇帝をして、伝えられた事実の有様と真実の大きさには流石に動揺を隠せなかったらしい。

 気持ちは分かると、リリアーナがお茶に口を付けつつ待つ事暫し。

 

「そうか……エリヒド国王も、ロギンスの奴も、それにあの殺しても死ななそうな教皇の爺さんまで……皆逝ったか」

 

 特に感情は込められていない。けれど、何処となく寂寥を感じさせる声音。

 ガハルドは姿勢を戻すと、リリアーナに視線を合わせた。

 

「凄まじい状況だった様だな。偉大な国王と戦士達の死に、心からお悔やみ申し上げる。よく伝えに来てくれた、リリアーナ姫」

「いえ、こちらも大変だった様ですから……」

 

 ガハルドの見せた意外な態度に、リリアーナは少し驚きつつもそう言って返礼した。同時に、幾つか誤魔化した事をほんの少しだけ申し訳なく思う。

 先程の説明では教皇達総本山に居た面々は使徒に立ち向かって亡くなったと説明したが、実際にはソウゴ主導の下行われた宗教弾圧によって末端の血筋に至るまで粛清されたというのが真相だし、メルドに関しては王国内でも極秘扱いだが生きている。それにその他の死者達だって、現体制に異議を唱えそうな者を除いて生き返らせてあるのだから、実質的な損害は極めてゼロに近い。

 そして、そんなリリアーナの隠した本音に気付く筈も無く……

 

「しかし、そうか……教会は、神は……こりゃあ公表なんぞしようもんなら、世界がひっくり返るな」

「その割には、ガハルド陛下はそれ程ショックを覚えていない様に見受けられますが……」

「いや、結構な衝撃だったぞ? 生まれてより信仰していた対象がクソだったんだからな。だがまぁ、帝国は抑々実力至上主義。敵あらば殺す、欲しい物は奪う、弱者は強者に従えってのが信条だ。神の勢力がぶっ飛ばされたってんなら、そりゃぶっ飛ばされた方が悪い。そんな相手を、いつまでも崇めちゃいられんさ」

「そ、そういうものですか……」

 

 帝国の実力至上主義は筋金入りだ、何せ王位継承問題ですら決闘という対外的に分かりやすい方法で解決する位なのだ。とはいえ、今まで信仰していた神に対してまでその理念を適用するとは……豪胆というべきか、野蛮というべきか。

 本当にこの国の人間は……と、リリアーナは内心で呆れる。しかしガハルドは気付いた気配も無く、早くも気持ちを切り替えた様だ。

 

「しかしあれだな、そう考えると王国民の混乱はもっと凄まじかっただろう? なんせ総本山のお膝元、信仰心に関してはウチ以上だからな」

「それがですね。実は、我が国では新国王の方針により、既に国全体で決別の方向に舵を切っておりまして」

「……新国王?」

 

 先程の説明に出てこなかった聞き捨てならない情報に、ガハルドの目が細まった。

ガハルドが食いついた事を確認したリリアーナは、先程の説明で明言していなかったソウゴについて話す事にした。

 帝国に対して、教会や神、魔人族の力の秘密を共有する上でソウゴの存在を欠かす事は不可欠なので、事前にソウゴから許諾は取っている。

 

 それでも、話の流れによっては隠すつもりもあった。

 

 実力者大好きな帝国が、ソウゴにちょっかいを出すのを恐れたからだ。

 ソウゴ達がどうこう……ではなく、将来の同盟国──或いは従属国になるかもしれない帝国が、地図から消える事が無い様に。

 

 リリアーナからソウゴの存在とわかる範囲の詳細を聞いたガハルドは……

 

「……ちょっと待ってくれ、リリアーナ姫」

「はい。心中お察ししますので、お好きなだけ」

 

 ガハルドは眉間を指で揉み解しながら、必死に聞いた内容を吞み込もうとしている。

 

「何の冗談だと一笑に付したいところだが……」

「事実です。お義父様は、百万の大軍を殲滅し、王国・帝国間を僅か数時間で行き来するアーティファクトを所有する──比類なき超人です」

 眉は困った様に、しかし口元は勝ち誇った様な微笑みで断言するリリアーナ。ガハルドは眉間に深い皺を刻む。

 

「戦術級……なんてレベルじゃない、個人で戦略級たぁ本当に何の冗談だ? トキワ・ソウゴがその気になれば、個人で戦争……いや、このトータス全土を更地に出来るって事だろ。危険度は子供の精神に絶大な力を持った勇者の比じゃない、とても放置はできんぞ。人格の方はどうなんだ?」

 

 言外に、見返りとして無茶な要求でもされているんじゃないのかと尋ねるガハルド。リリアーナは苦笑しながら頭を振る。

 

「最初に国を明け渡せと言われた時は驚きましたが、その後は私を養子に迎えて下さりましたし、国にも個人的にも良くして頂いてます。それにお義父様は自由に世界を行き来出来るので、この世界に留まっているのは暇潰しだと常々申しておりました。……まぁ、それはそれとして邪魔やちょっかいはお嫌いな様ですが」

 

 リリアーナの評に、ガハルドは失笑しつつも顎を撫で思案した。

 

「ちょっかいを出すなという事か? 帝国の長たる俺に、また無茶な事を言う」

 

 あわよくば、手元に置いて管理したい。欲を言うなら、その力を利用したい。帝国の皇帝としては当然の考えだ。

 

「……とはいえ、当の本人がそんなとんでもない乗り物で世界を飛び回ってるんじゃあ、話も碌に出来やしない。約束を取り付けるにしても、相当後の話になりそうだしな。当面は様子見、後は独自に魔人族の力の根源、‟神代魔法‟の獲得に動く位か」

「それがよろしいかと。まだ陛下の墓前に花を供えるつもりはありませんので」

「ふん、言うじゃねぇか」

 

 今までのリリアーナからは想像出来ない、ソウゴに似た尊大な上から目線の物言いにガハルドは鼻を鳴らした。

 

 それを抜きにしても、大迷宮攻略の報酬が何か分かったのは僥倖だが、だからといって自分達が獲得できる可能性も著しく低そうだ。ならば、既に持っている者の勧誘が一番現実的だ。だが、それも可能性は低そうだ。なんとも歯痒い状況である。

 

「はぁ……、それで? 事情を伝えに来ただけではないんだろう? 協議の内容を聞こう」

「はい、今後の連携について方針を……」

 

 それから二人は、魔人族に対する方針を話し合った。一気に二人だけで決められる事でもないので、今のところは諸々の概算とそれに伴う各方面との具体的な協議内容の確認に留まった。

 

 その二日後の夜、協議を重ねるガハルドとリリアーナの下に、一報が飛び込んできた。

 

 

 

「以上で報告を終わります!」

「ご苦労、下がれ」

「はっ!」

 

 ツカツカと規則正しい足音を響かせて部下が出て行った扉を暫く見つめた後、ガハルドは目の前で澄まし顔をしているリリアーナに視線を転じた。

 リリアーナは、ガハルドの視線に気が付くと「大変そうですね?」と心配する様な、困ったような微笑みを向けた。隣国の王女として、先程報告された内容を憂いている様な、されど口出しは余計だと弁えている様なそんな表情だ。

 ガハルドはリリアーナから視線を外し、溜息を吐く。

 

「全く、困ったものだ。……ふざけた強さの魔物の次は、ふざけた強さの人型の異形四人組の襲撃か……この件、どう思う? リリアーナ姫」

「……私には、判りかねます。やはり魔人族、なのでしょうか?」

「どうだろうな。……ったく、コロシアム再建用の奴隷達は奪われた挙句、詰所に居た兵達は全滅ときた。四人組って情報も、現場にあった兵以外の足跡の種類から推測しただけで、本当に四人かどうかも分からねぇ」

「……恐ろしい事です」

 

 ガハルドが心底勘弁してくれと言わんばかりに天を仰ぐ中でも、リリアーナの表情は崩れない。

 リリアーナの笑顔という仮面は鉄壁だ。何せ、貼り付けたような笑顔ではなく、王族必須スキルであるその場の状況に応じて変幻自在に変わる笑顔なのだから。ソウゴが常に尊大な態度で思惑を悟らせず──抑々疑問を抱く事自体を過ちだと思わせるのと同じ様に、リリアーナは内心の小さな驚きをガハルドから隠す。

 

 ふと、ガハルドは何かを思い出したかの様に一瞬動きを止めると、次の瞬間には悪そうな笑みを浮かべて口を開いた。

 

「ところで、リリアーナ姫。さっきのトキワ・ソウゴの話で思い出したんだがな……実は最近、面白い亜人族を捕まえてな」

「はい?」

 

リリアーナは、突然の話題変更に目を瞬かせた。ガハルドはお構いなしに語る。

 

「特殊な……そう、あまりにも特殊な──兎人族だ」

「……」

 

 ブワッと毛穴が開く様な、鳥肌が立つ様な感覚。予想外の驚愕と……歓喜によって。リリアーナは思わず三日月を描きそうになる口角を、強靭な理性で抑え込む。

 

「樹海の外だってのに、帝国の兵士と真面にやりあいやがった。とても兎人族とは思えん殺意と覇気を持ってな」

「まぁ……! 温厚の代名詞の様な兎人族に、その様な部族もいるのですね」

「それだけじゃない。ソイツ等の装備がな、これまた凄かった。オルクス大迷宮でしか採れないような貴重な鉱石で造られたものばかりでな」

「それはそれは、フェアベルゲンの技術力も侮れませんね」

「そうだな。本当にフェアベルゲン内部の技術力のみで造ったんならな? あんな解析不能な装備の数々、俺には外から……それこそ“異世界”の技術が入ったとしか思えんのだが」

「そんな凄い装備でしたら、私も一度見せて頂きたいものですね」

 

 暫くの間、「ははは」「ふふふ」と皇帝陛下と王女の笑い声が応接室に響き渡る。その時、再び扉が叩かれる。

 

「入れ」

「ハッ、失礼します! 緊急の報告をお許し願いたく!」

「構わん。どうした、また異形が出たか?」

「い、いえ! それが、その……──地下牢のハウリア族が全員、行方を晦ませました!」

「……」

 

 ガハルドの視線がリリアーナに向けられる。彼にしては珍しく無表情だ。無機質な目が、ジッとリリアーナに注がれている。

 リリアーナは「あらまぁ、大変!」と言いたげな表情を張り付け、さも深刻そうな同情の視線を返す。

 それを受けて尚無表情のまま、ガハルドが無感情な声音で尋ねた。

 

「──そういえば、リリアーナ姫」

「はい、何でしょう?」

「トキワ・ソウゴには、異常な程に強い仲間がいるのだったな? その内の一人は、兎人族だとか」

「仲間……えぇ、確かにいらっしゃいましたね」

 

 それが何か? と可愛らしく首をコテンと傾ける。誰がどう見ても、本当に不思議に思っている様に感じる顔だ。

 ガハルドの無表情以上に内心が読めないリリアーナの百面相は、結局その日の会議を終えても終ぞ暴かれる事は無かった。

 

 

 

 

 その翌日。

 

 その日のリリアーナは、今夜行われる両国間の協力体制発表を兼ねた歓迎パーティの準備の為に、朝から慌ただしく動いていた。

 そんな彼女の耳に、一報が届く。

 

「リリアーナ様。……その、門の所にですね。リリアーナ様を尋ねて来ている方々がいるそうなのですが」

 

 門番の兵士から伝言を預かった使用人が、困惑した様に伝えてくる。

 予定に無い来客かと身構えつつ、リリアーナは小首を傾げて尋ねた。

 

「どなたですか?」

「はぁ……何でも、勇者を名乗っていらっしゃるとか」

 

 途端、リリアーナは安堵する。

 予定外ではなく、内々で決めていた来訪だったからだ。

 

「直ぐにお迎えに参りましょう。先ず私の部屋の応接室に通して下さい」

「は、はい」

 

 伝令の使用人が退室すると同時、ヘリーナを筆頭として連れてきた侍女達が一斉に動き出す。

 リリアーナもまた、最大限の礼儀を以て父王を遇す為に準備を進めるのだった。

 

 

 

 

 【ヘルシャー帝国】を象徴する帝城は、帝都の中にありながら周囲を幅二十メートル近くある深い水路と、魔術的な防衛措置が施された堅固な城壁で囲まれている。水路の中には水棲の魔物すら放たれていて、城壁の上にも常に見張りが巡回しており、入口は巨大な跳ね橋で通じている正門ただ一つだ。

 帝城に入れる者も限られており、原則として魔術を併用した入城許可証を提示しなけばならない。跳ね橋の前には仏蘭西県の凱旋門に酷似した巨大な詰所があり、ここで入城検査をクリアしないと、抑々跳ね橋を渡る事すら出来ないのだ。不埒な事を考えて侵入を試みようものなら、魔物が蔓延る水路にその場で投げ入れられるとか……

 詰所での検査も全く容赦がない。たとえ正規の手続きを経て入場許可証を持っている出入りの業者などであっても、商品一つ一つに至るまできっちり検査される。なので荷物に紛れ込んでの侵入等も勿論不可能だ。

 

 つまり何が言いたいのかというと、帝城に不法侵入する事は至難中の至難であるという事だ。

 

 そんな今更な事実を、凱旋門の前で入城検査の順番待ちをしながら考えていた光輝は、チラリと肩越しに背後を振り返った。そこにいるのは、いつものパーティーメンバーにして幼馴染である雫と龍太郎、そして鈴、それに加えてソウゴ達である。

 

 光輝達は、堂々と正面から帝城に入るために再び帝都にやって来たのだ。

 

 帝城の威容と厳しい検査を見て、光輝は思う。

 自分達が陽動をしていたとは言え、よく何の騒ぎも出さずにカム達を脱獄させる事など出来たな、と。

 勿論、ソウゴには空間転移の手段があるので侵入・脱出はそれ程難しくはないだろうが、入るだけでこれだけ厳重な警備がなされているなら、帝城内の警備は言わずもがなだ。

 予め地下牢の位置を聞き出していたとは言え、正確な位置が判らなければピンポイントでの空間転移は使えない筈だ。なので、侵入後は徒歩で捜索した筈である。それでも全く見つからずに事を成し遂げたのだから脱帽する他ない。自分との‟差‟を再び感じて、光輝は思わず「はぁ」と溜息を吐いた。

 

 因みに光輝達の陽動に対しては外の部隊が担当しており、態々帝城内の部隊が出張る事は無かった為殆ど役に立っていない。多少「何があったんだ?」と、疑問を感じさせたかも、という程度である。

 

 そうこうしている内に、光輝達の番がやって来る。

 

「次ぃ……見慣れない顔だな、許可証を出してくれ」

 

 門番の兵士が光輝達を見て訝しげな表情になる。

 帝城内に入る事の出来る者が限られている以上、門番からすれば大抵は知っている顔だ。そして、たとえ初めての相手であっても帝城に招かれる様な人物は、大抵身なりが極めて整っているのが普通である。なので、光輝達の様にどこぞの冒険者の様な装いの者は珍しいのだ。それこそ胡乱な目を向けてしまう位に。

 

「いや、許可証はないんですけど、代わりにこれを……」

「は? ……ステータスプレート? 一体なんだというんだ?」

 

 当然、ソウゴ達は誰一人として帝城に入るための許可証など(幾らでも偽造出来るが)持ってはいない。

 だが、ここで光輝の立場が役に立つ。

 何せ、彼は‟勇者‟。世間一般では対魔人族戦に於いて神が遣わした人間族の切り札であり‟神の使徒‟なのだ。

 

 ──たとえ、実力が伴っていなくとも。

 

 許可証を持っていない時点で剣呑な目付きになった門番だったが、渡されたステータスプレートに表示された天職“勇者”の文字に目を瞬かせ、何度も光輝の顔とステータスプレートを交互に見る。その門番の様子に、周囲の同僚達が何事かと注目し始めた。

 

「えっと……勇者……様、ですか? 王国に召喚された神の使徒の?」

「あ、はい、そうです。その勇者です。こちらにいるリリアーナ姫と一緒に来たのですが……ちょっと事情があって」

「は、はぁ……」

 

 門番の呟きに、同僚達が光輝の正体を知って俄にざわつき始めた。その表情は、当然の事ながら「何故リリアーナ姫と別に来たのか?」「何故事前連絡がないのか?」等疑問に溢れていた。

 とはいえ、相手は自分達が信仰する神の‟使徒様筆頭‟だ。根掘り葉掘り詮索するのは失礼に当たるのではと躊躇してしまう。その為、きっと秘密の使命でも帯びていたに違いないと勝手に納得して、取り敢えず上に取り次ぐという判断になった様だ。

 流石に勇者と言えど、入城者の予定表にない者を下っ端門番の一存で通す様な勇気は無いので、確認の為待たせる失礼に戦々恐々としながら数人の門番が猛ダッシュで帝城の方へ消えていった。ソウゴ達は詰所にある待合室の様な場所に通される。

 

 それから待つ事十五分。

 

 「リリアーナの部屋に入ったら顔を出す」と言い残してソウゴ達が消えた為に、却って耐性の無い者達ばかりとなった光輝達。緊張感からか忙しなく歩いたり座ったり、或いは貧乏揺すりをしていると、跳ね橋からドタドタと足音が聞こえ始めた。

 

「こちらに勇者殿一行が来ていると聞いたが……貴方達が?」

「あ、はい、そうです。俺達です」

 

 そう言って姿を見せたのは、一際大柄な帝国兵で、周囲の兵士の態度からそれなりの地位にいる事が窺える。

 彼は、応対する光輝を無遠慮にジロジロと見ると、光輝のステータスプレートを確認しながら、他のメンバーにも探る様な視線を向け始めた。

 

「えっと……ふん、ふんふん……はい、確認しました。自分は第三連隊隊長、グリッド・ハーフと申します。勇者様方のご来訪は、既にリリアーナ王女殿下の耳にも入っております。お部屋でお待ちですので、部下に案内させましょう」

「は、はぁ……、わかり、まし…た?」

 

 グリッド・ハーフと名乗った男はステータスプレートを返すと、先程とは打って変わってへこへこしながら光輝達に対応する。

 さっきまでいた筈のソウゴ達──自分達も含めた九人の内五人が消えたというのに全く触れない事を不思議に思いながら、光輝達は案内役に従って巨大な吊り橋を渡っていった。

 

 

 

 

「お待ちしておりました皆様。それで……お義父様は?」

 

 光輝達を待ち構えていたリリアーナからの第一声がそれだった。見事なカーテシーを決めつつ、姿の見えないソウゴの事を探す。その表情には光輝達には分からずとも微かに、しかし確かな疲れを感じさせていた。

 恐らく、帝国側との協議で死ぬ程多忙なのだろう。この訪問も、兎人族の行方不明も、それに伴う帝国側から自分への問答も、ソウゴから事前に予知され教えられていた通りに動かせている。全てが想定通りに進んでいたとしても、未だ幼さの残るリリアーナにとっては体力気力共に疲弊を齎して当然のもの。

 そうなれば、無意識の裡に庇護者の姿を探し甘えたくなってしまうのも仕方ないというものだ。

 

「ここだリリィ」

「うおっ!?」

 

 そんな娘の姿に応える様にソウゴ達が光輝の影の中から現れ、光輝は驚きに飛び退く。

 

 ソウゴは驚く光輝達に構う事無く、優し気な顔でリリアーナの頭を撫でる。ユエやシア達が羨ましそうな目で見てくるが、それも無視だ。チラリと部屋の隅に控えるヘリーナに「ご苦労だった」と労いの言葉を掛けてから、ソウゴは手を放して座り込む。それに合わせて、ユエ達以下八人も同じく席に着いた。

 

「お疲れ様ですお義父様。本来なら此方から出向くべきところを……あの、シアさんはどうされたのですか? ご様子が……」

「何、そう気にする事ではない。思わぬところで因縁に出会って、少々昂っているのだ」

「因縁?」

 

 リリアーナからの疑問と視線を受けたシアは、何かを堪える様にグッと唇を噛み締めていたが、俯かせていた顔を上げると「大丈夫」という様に笑顔を作った。

 

 シアの情緒が少し不安定になっているのは、先程城門で光輝達の対応をしていた男、グリッドが原因だ。

 

 実はあの男、ソウゴと出会う前にシアの一族を虐殺、奴隷に堕とした張本人であり、その後【フェアベルゲン】に向かう途中でソウゴに全滅させられた帝国兵達の上官である。

 だが、別にシアは彼に対する恐怖などで不安定になっていた訳ではない。

 

 ──逆だ。溢れ出す殺意を抑えていたのである。

 

 グリッドはシアの家族を大勢奪った憎き相手だ。トラウマさえ乗り越えてしまえば、あとに来るのは強烈な殺意だけ。

 しかし、ここに来た目的を考えると、早々に殺してしまう訳にはいかなかった。だから、必死に我慢していたのだ。

 

 事情を知らない者の為に掻い摘んでグリッドとシアの関わりを話すと、皆一様に悲痛そうな表情になり、次いで光輝達は当然の如く憤り、リリアーナは暗い表情で俯いてしまった。

 リリアーナとしては、亜人族の奴隷化はこの世界の常識であり容認して来た事なので、自分が憤るのは余りに筋違いだと思ったのだ。

 

 教会と神の真実を知った今、彼等に対する偏見は急速に薄れている。

 ‟亜人とは神に見放された種族‟──その神こそ人類の敵であるのに、亜人族を差別する事のなんと滑稽な事か。リリアーナに限らず、真実を知った王国の者は同じ想いを抱いていた。

 

 そうして暗く沈み始めた空気を、ソウゴがパンッ! と手を叩いて霧散させる。それによって部屋の全員の視線が集まったところで口を開く。

 

「さて。これ以上あの猿について思考を割くのは時間の無駄だ、終いにしよう。それにどうせ、その全ての命運はこの数日、或いは今日決するのだ」

 

 ソウゴのその説明に、ユエ達とリリアーナが「あ~」と納得した様な顔を、光輝達は何が何やら分からずとも「良くない事なんだろうなぁ」という顔を浮かべるしかなかった。

 

 それから暫く思い思いに過ごしていると、不意に部屋の扉がノックされた。どうやら謁見の時間が来たらしい。事前情報よりも増えている人数に首を傾げる案内役に追従し、ソウゴ達はガハルドが待つ応接室に向かう事になった。

 

 

 

 

 通された部屋は、三十人位は座れる縦長のテーブルが置かれた、殆ど装飾の無い簡素な部屋だった。

 

 そのテーブルの上座の位置に、頬杖をついて不敵な笑みを浮かべるガハルドがいた。

 

 彼の背後には二人、見るからに手練れと判る、研ぎ澄まされた空気を纏った男が控えている。

 そして部屋の中に姿は見えないが、壁の裏に更に二人、天井裏に四人、そして閉まった扉の外に音も無く二人が控えているのをソウゴはしっかりと感じ取っていた。ガハルドの背後に控える男二人程ではないが相当の実力者の様である。

 どうやら謁見は、完全包囲された状態で始まるらしい。

 

「お前が、トキワ・ソウゴか?」

 

 ソウゴ達が部屋に入るなり、リリアーナによる紹介も、勇者である光輝への挨拶もすっ飛ばして、ガハルドはそう問いかけた。視線は鋭く細められ、真っ直ぐにソウゴを射抜いている。放たれるプレッシャーは、今にも戦闘が始まりそうな強さだ。

 

 数十万もの荒くれ者共を力の理で支配する男の威圧。成程、半端なものではないらしい。光輝達は息苦しそうに小さな呻き声を上げ、思わず後退りをする。

 

 しかし、そんな強烈なプレッシャーの中でもソウゴ、ユエ、シア、ティオ、香織、そしてソウゴの王気(オーラ)を体感したリリアーナの六人は平然としていた。

 一番経験の少ない香織ですら【メルジーネ海底遺跡】では頗る付きの狂気を耐え、太古より生きる不死身の怪物と相対して生き残ったのだ。

 

 皇帝の威圧とは言え、大迷宮攻略者にとっては微風に等しい。

 

 そんなソウゴ達を見て増々面白げに口元を吊り上げるガハルドに、促されるより前にさも当然の様に席に座ったソウゴは……

 

「フッ……」

 

 思わずといった風に小さく笑いを溢した。その様にリリアーナが「お義父様?」と声を掛けると、「あぁ済まない」と一言入れながら、その視線をガハルドに向ける。

 

「失礼。いや何、少し不安だったのでな」

「ほう?」

「この【ヘルシャー】は【ハイリヒ】に比肩する‟人間族の国‟と聞いていたのだがな、兵や幕臣達の立ち居振る舞い……よもや‟猿の亜人族の国‟に間違って入ってしまったのか、とな」

「「「「「ぶっっ!!!!!????」」」」」

「……ほぉぉぉう?」

 

 途端、ユエ達どころか光輝達やヘリーナ、リリアーナ付きの衛兵達すら噴き出した。

 

 確かに、これまでに出会った帝国兵の面々は粗野・下卑た言動が目立ち、またその様な自身の欲求のみに従って生きている者を‟猿の様‟と表する事があるが、傲岸不遜・天上天下唯我独尊の代名詞の様なソウゴであっても、まさか全国民を含めた国全体を指して【猿の亜人族の国】などと、彼等が蔑視する亜人族と同列に語るとは思わなかったのだ。

 

 そして当然、それが本音から来る挑発だと理解した帝国側。護衛の面々は最早そのまま血管が破裂するのではないかと思う程青筋を立てながら顔を真紅に染め、彼等程露骨ではないながらもガハルドも頻りに眉目をヒクつかせている。

 

「お前、随分なご挨拶じゃねぇか……?」

「そうかね? 最強などと持て囃されながら、こうして相対しても彼我の実力差も理解出来ん様な尻の青い坊やにはこれで十分じゃないかね? ……おっと、猿なら尻は赤いか」

「坊や、だぁ?」

「私の1/1000も生きておらん小僧を坊やと呼んで、何か間違いがあるか?」

「……どうやら見た目通りじゃないらしいな」

 

 ソウゴの得体の知れなさの一端を感じ取ったか、ガハルドは舌戦を切り上げソウゴ以外の者達の着席を促した。

 それを見て漸くソウゴから視線を外したガハルドが、ソウゴの傍に陣取るユエ達を興味深げに観察し、特にシアに対しては意味深げな視線を向ける。次いで、光輝達の方に視線を向けると……光輝をスルーして隣の雫に目を向けニヤリと楽しげな笑みを浮かべた。

 

「雫、久しいな。俺の妻になる決心は付いたか?」

「陛下! 雫は既に断ったでしょう!?」

 

 ガハルドの言葉に雫が何かを言い返すより早く、光輝が反応する。

 チラリと光輝を見たガハルドは、ハッと鼻で笑うと雫を真っ直ぐに見つめだした。あからさまな“眼中にない”という態度を取られて、額に青筋を浮かべる光輝。

 そんな二人に嘆息しながら、雫は澄まし顔をして答える。

 

「前言を撤回する気は全くありません。陛下の申し出はお断りさせて頂きます」

「つれないな。だが、そうでなくては面白くない。元の世界より、俺がいいと言わせてやろう。その澄まし顔が俺への慕情で赤く染まる日が楽しみだ」

「そんな日は永遠に来ませんよ。……というか、皇后様がいらっしゃるでしょう?」

「それがどうした? 側室では不満か? ふむ、正妻にするとなると色々面倒が……」

「そういう意味ではありません! 皇后様がいるのに他の女に手を出すとか……」

「何を言っている? 俺は皇帝だぞ? 側室の十や二十、いて当たり前だろう」

「ぐっ……そうだったわ。と、とにかく、私は陛下のものにはなりません。諦めて下さい」

「まぁ、神による帰還が叶わない以上、まだまだこの世界にいるのだろうし、時間をかけて口説かせてもらうとしようか。クク、覚悟しろよ、雫」

 

 どうやら相当にガハルドは雫を気に入っているらしい。強欲な皇帝陛下らしく、断られた位では諦めない様だ。その鋭い眼光が完全に雫をロックオンしていた。

 雫は、心底嫌そうな表情でそっぽを向いているのだが、全く気にした様子もない。

 

 と、その時。そっぽを向いた先で雫の視線が、偶然ソウゴと合う。その時のソウゴの眼差しには、「何をしているのだ貴様」という明らかに興味無さ気な色が含まれていた。

 

 少し申し訳なくなってきた雫は話題を切ろうと、つい用意された紅茶を一気飲みしてしまった。急いで飲んだ為案の定咽てしまった雫は、今度は苦笑と共にソウゴに介抱される。

 

 そんな様子を見ていたガハルドは、改めてソウゴに鋭い視線を向ける。色んな意味で値踏みするような眼差しだ。

 

「ふん、面白くない状況だな。……トキワ・ソウゴ。お前には聞きたい事が山ほどあるんだが……先ず、これだけ訊かせろ」

「何かね?」

「お前、俺の雫はもう抱いたのか?」

「「「「ぶふぅーー!?」」」」

 

 唐突にとんでもない事を真剣な表情で尋ねるガハルドに、雫を含めた数人が吹き出した。

 ガハルドの背後に控える護衛達ですら「陛下……最初に聞くのがそれですか……」と頭の痛そうな表情をしている。彼等も苦労人のようだ。

 

「ちょっ、陛下! いきなり何をっ……」

「雫、お前は黙っていろ。俺はトキワ・ソウゴに聞いてんだよ」

 

 当然、雫が泡を食ってガハルドにツッコミを入れようとするが、ガハルドはそれを無視してソウゴに視線を向けている。それに対してソウゴは愉快顔だ。

 

「未だ自身のモノでもあるまいに“俺の”などと正に子供……その上、品性の無さが猿である事を証明しておる。それも“盛りのついた”と前置きされる様な、な。で、何故その様な問いを投げる?」

「お前、一々一言多いな。……どうやら、雫はお前に心を許しているようだからな。態度から見てないとは思うが、念の為だ」

「生憎と私は妻一筋でね」

「……ふむ、嘘はついてないな。では、雫の事はどう思っている?」

 

 その質問に、部屋中の視線がソウゴに集まった。

 光輝の視線が厳しい。龍太郎や鈴は、どこかハラハラしている。ユエ達からも様々な意味が込められた視線が突き刺さる。

 

 ソウゴは何となしに雫に視線を向けた。雫の表情が大変面白い事になっていた。ソウゴは腕を組んで雫を見つめる。若干、雫の耳が赤くなり始めている気がするが……

 

 取り敢えず告げたソウゴの答えは……

 

「……戦力にはならんが、娘の弾除け位にはなるだろう」

「……は?」

 

 ソウゴ、戦闘力的視点でしか見ていなかった。既に、先程までの微妙な雰囲気は微塵もない。ソウゴ以外の全員が困惑の表情になっている。

 

「……まさかの回答だが……まぁ、いい。雫、うっかり惚れたりするなよ? お前は俺のものなのだからな」

「だから、陛下のものではありませんし、常磐さんに惚れるとかありませんから! いい加減、この話題から離れて下さい!」

「わかった、わかった。そうムキになるな。過剰な否定は肯定と取られるぞ?」

「ぬっぐぅ……」

 

 ガハルドの物言いに思わず呻き声を上げてドカッと座り直す雫。苦笑いしながら鈴が宥めて、光輝は何故かソウゴを睨む。

 

「トキワ・ソウゴ。お前も、雫に手を出すなよ?」

私は(・・)手は出さんさ。……さて、無駄話は終いにしよう。坊やもこれが本題ではあるまい?」

「無駄話とは心外だな。新たな側室……あるいは皇后が誕生するかもしれない話だぞ? 帝国の未来に関わるというのに……まぁ、話したかったのは確かに雫の事ではない。わかっているだろう? お前の異常性についてだ」

 

 雫を絡めてソウゴを観察する時間を稼いでいたガハルドだが、そろそろ潮時と判断してガラリと雰囲気を変える。今までの覇気を纏いつつもどこかふざけた雰囲気を含ませていたのとは異なり、抜き身の刃の様な鋭さを放ち始める。

 ガハルドは、ソウゴ達との謁見の時間をとった最大の理由に切り込んだ。

 

「リリアーナ姫からある程度は聞いている。お前が大迷宮攻略者であり、そこで得た力でアーティファクトを創り出せると……魔人族の軍を一蹴し、二ヶ月かかる道程を僅か二日足らずで走破する、そんなアーティファクトを。真か?」

「大筋間違ってはおらんな」

「そして、そのアーティファクトを帝国に供与する意思が無いというのも?」

「私の配下になるなら、下賜してやらんでもないがな」

「ふん、一個人が、それだけの力を独占か……そんな事が許されると思っているのか?」

「おいおい、子供が大人の行いに口を挟む気かね?」

「……」

 

 ソウゴの簡潔な返しに、ガハルドが目を細める。

 帝王の覇気が更に増し、ガハルドの背後にいる護衛達がガハルドに合わせて殺気を放ち始める。併せて、部屋の周囲に隠れている者達の気配が更に薄まっていった。正に一触即発の状態だ。

 視線をソウゴに捉えたままのガハルドを、リリアーナが可哀想なモノを見る目で見ている中、緊迫する空気に光輝達が顔を強ばらせ臨戦態勢をとる。

 

 しかし──

 

 

「不快」

 

 

 ソウゴはただ一言、共に指で机を叩く。

 ただそれだけで護衛達が声を上げる間も無く青黒い炎に包まれ、ものの数秒と経たずに灰すら残らず燃え尽きた。その炎は護衛達だけを焼き、立っていた床に焦げの一つも残していない。まるで最初からそこに誰もいなかったかの様に。

 一瞬の事で反応出来ないユエや光輝達を他所に、瞠目するガハルドに言い聞かせる様に口を開くソウゴ

 

「ガハルド坊や。私は子供には優しいつもりだが、そう何度も我儘を言われては折檻せねばならん。……あまり大人を困らせるなよ」

 

 まるで胸を開かれて直接心臓を握られている様な感覚。自分の様に覇気や凄みすら出さず、殺意や悪意も無く、ただただ自然体でこの状況をやってのけるソウゴの恐ろしさ──否、悍ましさに、流石のガハルドも覇気が消し飛び、指一本動かせない。冷や汗どころか脂汗すら流れ始めた時、再びソウゴの愉快気な問いが刺さる。

 

「どうした、膝が笑っているぞ? どうやら坊やの脚は、余程面白い事があったらしいな」

「……フン、気のせいだろ。……それにしても、お前が侍らしている女達もとんでもないな。おい、どこで見つけてきた? こんな女共がいるとわかってりゃあ、俺が直接口説きに行ったってぇのに……一人ぐらい寄越せよ、トキワ・ソウゴ」

「やめておけ。私には足りんが、かと言って坊やには過ぎた代物だ。値打ちの分からん者が手にしても身を亡ぼすだけよ」

 

 まるで誤魔化す様に、話題の中心を‟ソウゴ自身‟から‟ソウゴの周囲‟へと移すガハルド。だがそれでもソウゴの嘲りから逃げられない。

 

「テメェ……!」

「坊やはもう少し、身の丈に合った振舞いを覚えた方がよかったな。それが出来んから、今日の様に破滅を呼ぶ」

「今日の様に……? 何の話だ?」

「此方の話だ。気にするものではない」

 

 どこまでも自分を子供扱いで真面に相手にしないソウゴに、何度も青筋を立てるガハルド。だがここで憤慨しても思う壺だと、咳払いをして気を取り直す。

 

「俺としては特に、そちらの兎人族の方が気になるがね? そんな髪色の兎人族など見た事がない上に、俺の気当たりにもまるで動じない。その気構え、最近捕まえた玩具を思い起こさせるんだが、そこのところどうだ?」

 

 ガハルドの‟玩具‟発言に、シアの目元が一瞬ピクリと反応する。隣のユエが、テーブルの下でそっとシアの手を握った。

 

「子供らしく玩具遊びが好きとは、可愛らしいところもあるではないか」

「ッ…! ……心当たりがないってか? 何なら、後で見るか? 実は、まだ何匹かいてな、女と子供なんだが、これが中々──」

 

 ガハルドの言葉ははったりだ。カムを通じて、捕まった者全員を連れ出した事は確認済みである。カマをかけているのだろう。それに対するソウゴの返事は……

 

「おやおや坊や、嘘を吐くのはよくないな」

 

「は?」

「大人には子供の嘘なんてすぐに分かる。そのお気に入りの‟玩具‟、失くしてしまったのだろう? 欲張りな坊やの事だ、きっとどこかから盗んだものだから、罰が当たって取り上げられたのだろう」

「ぐ、ぐぐぐぐっ……、そうかいっ……。……ところで昨日、地下牢から脱獄した奴等がいるんだが、この帝城へ易々と侵入し脱出する、そんな真似が出来るアーティファクトや特殊な魔法は知らないか?」

「子供の秘密基地に入るのに、その様な大仰な物は必要あるまい」

「…………、聞きたい事はこれで最後だ。何を得られれば帝国につく?」

「坊やは私におむつの世話をしてほしいのか?」

「あぁぁぁぁぁぁぁもうっ、結構だっ!!!」

 

 ガハルドはガリガリと頭を掻き、卓を叩きつけて悪態をつく。歯が砕けんばかりに食いしばるその表情には、‟苦虫を噛み潰した‟という表現では足りない程の不快感が張り付いている。

 ただ‟自分に抗う相手‟というだけなら良かったかもしれない。だが剰え此方を子供扱いして小馬鹿にして来る上に、自身の護衛を務められる程の手練れを手段も理屈も不明のまま一瞬にして焼き殺してしまう程の実力と躊躇いの無さ。それを理解してしまったが故に、生物としての‟本能‟と一国の主であるという‟理性‟、その両方がこの場でソウゴに剣を向ける事を躊躇わせた。

 結局のところ、力尽くでは敵わず、権力を翳しても馬鹿にされるだろうと帝城から追い出す事も出来ず、ガハルドは腹の中でイライラを溜め込むしかなかった。

 

 そこで時間が来たのか、ガハルドは徐に席を立った。

 

「フゥ……まぁ、最低限確認すべき事は出来た。……今のところは、このくらいで良しとしておこう。ああ、そうだ。今夜、リリアーナ姫の歓迎パーティを開く。是非、出席してくれ。姫と息子の婚約パーティも兼ねているからな。真実は異なっていてもそれを知らないのなら、‟勇者‟や‟神の使徒‟の祝福は外聞がいい。頼んだぞ?」

 

 ガハルドは突然落とされた爆弾発言に唖然とする光輝達を尻目に、憎々し気な視線をソウゴに向けると、そのまま部屋から出て行った。

 バタンと扉の締まる音が響き、それによってハッと正気を取り戻した光輝達がリリアーナを詰問する。

 

「リリィ、婚約ってどういう事だ! 一体、何があったんだ!」

「それは……たとえ、狂った神の遊戯でも、魔人族が攻めてくれば戦わざるを得ません。我が国はお義父様が属領とした事で盤石となりましたが、他の国はそうではありません。そして我が国に並ぶ大国でありながら決定打の無い帝国には、我が国との関係強化は必要な事なのです」

 

 なんでもない様に語るリリアーナに、光輝は絶句する。

 代わりに雫が厳しい表情で尋ねた。

 

「それが、リリィと皇子の結婚という事なのね?」

「はい。お相手は皇太子様ですね。ずっと以前から皇太子様との婚約の話はありました。事実上の婚約者でしたが、今回のパーティーで正式なものとするのです。魔人の侵攻で揺らいでいる今だからこそ、という訳です」

「王国には? 協議が必要ではないの?」

「ルルアリア様には事後承諾ではありますが、反対はないでしょう。元々、そういう話だったわけですし」

 

 リリアーナは極めて冷静だ悲劇のヒロインの様な雰囲気は微塵も無い。ただ自分の役目を全うすべく全力を注いでいる、という様子だ。

 光輝は、苦虫を噛み潰したような表情をしながら口を開いた。

 

「……リリィは、その人の事が好きなのか?」

「……好き嫌いの話ではないのです。国同士の繋がりの為の結婚ですから。ただ、次期皇帝陛下候補ともなれば側室も多く娶る必要があって、現在の愛人の方々の中からも選ばれる方がいると思いますが……ふふふっ、私の立場上彼女達を差し置いて正室になるのですよ。凄いでしょう? まぁ、後宮内の調整に関しては私が最年少ですし、胃がシクシクしちゃうのですが……」

 

 冗談めかしてドヤ顔をしたり、わざとらしく腹を摩ったりして雰囲気を明るくしようとするリリアーナ。

 その気遣いの態度に、光輝は逆に声を荒らげた。

 

「な、なんで、そんな平然としているんだよ! 好きでもない上に、そんな奴と結婚なんて、おかしいだろ!」

「光輝さん達から見ればそうなのかもしれませんが、私は王族で王女ですから。生まれた時から、これが普通の事です」

「普通って……リリィだって女の子なんだ。ちゃんと好きになった人と結婚したいんじゃないのか?」

 

 納得できず言葉を重ねる光輝に、リリアーナはただ困った様な笑みを浮かべる。

 

 リリアーナとて、ロマンチックな恋愛に憧れたりも当然する。特に、親友となった異世界の女の子達、香織や雫達とガールズトークをすればなおさら。

 だが憧れは憧れだ。王族として、果たさねばならない責務がある。

 だからどうか、あまり自分で自分の憧れを否定する言葉を言わせないでほしいなぁという顔を作り、目で訴えてみるのだが……

 光輝は納得できない感情のまま、なお言い募ろうとする。

 

 その寸前、ソウゴが席を立った。

 

 思わず言葉を止める光輝。ソウゴに注目が集まる。

 ソウゴは一度リリアーナの頭を撫でると、そのままユエ達を伴って部屋を出ていこうとする。

 その行動に、光輝が行き場のない感情を吐き出す様に突っかかった。

 

「おい常磐! アンタは、何とも思わないのか!?」

「……小僧、何度も言ったかもしれんが、現代日本の感覚を持ち込むな。抑々これは政治の話、そして私とリリィで決めた事だ。素人の貴様が口を出すでない」

「なっ、アンタが決めただと!? で、でも……」

 

 ソウゴとリリアーナで事前に決めていたという事は、光輝達はおろかユエ達ですら初耳だった様で、大なり小なり驚く面々を他所にソウゴはそれだけ言うと、止まった足を進める。そして控えていたヘリーナの肩に手を置き何事かを話すと、さっさと退出してしまった。

 元王族という事もあってか、ユエやティオ等は同情しつつも、リリアーナの決意を応援する様な眼差しを向けてからソウゴに追随する。シアは複雑な表情であったが、心配そうにしながらもユエに促されて退出した。

 

「クソッ! アイツ、いつもいつも簡単に……っ」

「光輝、落ち着きなさい。それに、常磐さんが事前に決めていたのなら、多分リリィの件はそこまで深刻な事にはならないと思うわよ?」

 光輝が、雫に愕然とした表情を向ける。心配じゃないのかと、責める様な目を向ける。

憤る光輝を宥めながら、これから起こることの結果次第では……と、雫はどこか疲れ気味に天を仰ぐのだった。

 

 

 

 

 光輝達と別れた後、リリアーナも今夜のパーティの準備の続きをする為部屋に戻った。ヘリーナを筆頭に、帝国側の侍女達を交えてドレスの選別等に精を出す。

 

「まぁ、素敵ですわ、リリアーナ様!」

「本当に……まるで花の妖精の様です」

「きっと、殿下もお喜びになりますわ!」

 

 帝国側の侍女達が挙って称賛の言葉を並べた。

 決してお世辞だけではない純粋な称賛である事は、彼女達のうっとりした表情が証明している。

 十四歳という、少女と女の狭間にある絶妙な魅力が、淡い桃色のドレスと相まって最大限に引き立てられていた。正に花の精と表現すべき可憐さだった。

 

「ふっ、当然でしょう」

「ヘリーナ、どうして貴女が胸を張っているのですか?」

 

 何故かドヤ顔のヘリーナに小さく笑ってから、リリアーナ自身も自分のドレス姿に納得した様で一つ頷く。

 

 いくらこれが政略結婚であり、皇太子が父親に似た極度の女好きで、過去何度か会った時も、まだ十にも届かない年齢のリリアーナを舐める様な厭らしい視線で見やり、王国に来た時も下級騎士を‟稽古‟と称して悪戯に嬲るなど、強さをひけらかす嫌な人間であったとしても、夫になるかもしれない(・・・・・・)相手である事に変わりはない。

 

 であるから、パートナーとして恥を掻かせる訳にはいかないし、自分の婚約パーティでもある以上、リリアーナも最大限に着飾ろうと思っていた。

 

 と、その時。突然部屋の外が騒がしくなった。かと思った次の瞬間にはノックもなしに扉が開け放たれ、大柄な男が何の躊躇いも遠慮もなくズカズカと部屋の中に入ってきた。

 リリアーナに付いてきた近衛騎士達が焦った表情で制止するが、その男は意に介した様子もない。

 

「ほぉ、今夜のドレスか……まぁまぁだな」

「……バイアス様。いきなり淑女の部屋に押し入るというのは感心致しませんわ」

「あん? 俺は、お前の夫だぞ? 何、口答えしてんだ?」

「……」

 

 注意をしたリリアーナに、粗野且つ横暴な言葉で返した者こそ、この国の皇太子バイアス・D・ヘルシャーだった。外見は父親であるガハルドに似ている。年齢は二十六。

 王族同士の付き合いで一年程前にも顔を合わせているが、相も変わらず、度の過ぎた横暴振りだ。他者を見下した態度も、嗜虐的な雰囲気も、リリアーナをまるで玩具を見る様な目で見てくるところも、まるで変っていない。

 上から下まで舐める様に見てくるバイアスの目に、リリアーナは悪寒を感じてぶるりと震えた。

 

「おい、お前ら全員出ていけ」

 

 バイアスは、突然ニヤァと口元を歪めると侍女や近衛騎士達にそう命令した。

 帝国側の侍女達は慌てて部屋を出ていったが、当然近衛騎士達は渋る。ヘリーナなど露骨に不審と憤りを瞳に浮かべている。

 それを見てバイアスの目が剣呑に細められた事に気がついたリリアーナは、何をするか分からないと慌ててヘリーナ達を下がらせた。

 

「陛下は仰っていました、『猿に娘はやらん』と。何かありましたら、必ず大声をお上げください」

 

 去り際にヘリーナが小さく耳打ちし、リリアーナは小さく頷いた。

 最後まで心配そうにしながら全員が部屋を出て扉が閉まる。

 

「ふん、飼い犬の躾くらい、しっかりやっておけ」

「……飼い犬ではありません。大切な臣下ですわ」

「……相変わらず反抗的だな? クク、まだ十にも届かないガキの分際で、一丁前に俺を睨んだだけの事はある。あの時からな、いつか俺のものにしてやろうと思っていたんだ」

 

 そういうと、バイアスは顔を強ばらせつつも真っ直ぐに自分を見るリリアーナに心底楽しげで厭らしい笑みを浮かべると、いきなり彼女の胸を鷲掴みにした。

 

「っ!? いやぁ! 痛っ!」

「それなりに育ってんな。まだまだ足りねぇが、それなりに美味そうだ」

「や、やめっ」

 

 乱暴にされてリリアーナの表情が苦痛に歪む。その表情を見て、増々興奮した様に嗤うバイアスは、そのままリリアーナを床に押し倒した。

 リリアーナが悲鳴を上げるが、外の近衛騎士達は気が付いていない様だ。

 

「いくらでも泣き叫んでいいぞ? この部屋は特殊な仕掛けがしてあるから、外には一切、音が漏れない。まぁ、仮に飼い犬共が入ってきても、皇太子である俺に何が出来る訳でもないからな。何なら、処女を散らすところを奴等に見てもらうか? くっ、はははっ」

「どうして……こんな……」

 

 リリアーナが、これからされる事に顔を青ざめさせながらも気丈にバイアスを睨む。

 

「その眼だ。反抗的なその眼を、苦痛に、絶望に、快楽に染め上げてやりたいのさ」

 

 バイアスは‟醜い‟と表現すべき表情を浮かべて語る。

 

「俺はな、自分に盾突く奴を嬲って屈服させるのが何より好きなんだ。必死に足掻いていた奴等が、結局何もできなかったと頭を垂れて跪く姿を見ること以上に気持ちのいい事などない。この快感を一度でも味わえば、もう病みつきだ。リリアーナ。初めて会った時、品定めする俺を気丈に睨み返してきた時から、いつか滅茶苦茶にしてやりたいと思っていたんだ」

「あなたという人はっ……」

「なぁ、リリアーナ。結婚どころか、婚約パーティの前に純潔を散らしたお前は、どんな顔でパーティに出るんだ? あぁ、楽しみで仕方がねぇよ」

 

 リリアーナは悟ったのだ。目の前の、今にもこぼれ落ちそうな涙を必死に堪えるリリアーナを見てニヤニヤしている男は、ある意味、正しく‟帝国皇太子‟なのだと。

 

 バイアスに恥をかかすまいと選んだドレスが、彼の手により引きちぎられる。シミ一つない玉の肌が晒され、リリアーナは羞恥で顔を真っ赤にした。両手を頭の上で押さえつけられ、足の間にも膝を入れられて隠す事も出来ない。

 バイアスはニヤついたまま、キスをするつもりなのかゆっくりと顔をリリアーナに近づけていった。まるで、リリアーナの恐怖心でも煽るかの様に目は見開かれたままだ。片手で顎を掴まれているので顔を逸らすことも出来ないリリアーナは、恐怖と羞恥で遂にホロリと流れた自身の涙にすら気づかずに、ふと思った。

 

 

 ──助けて、と。

 

 

 その時だった。

 リリアーナは、迫るバイアスの肩の向こうに、まるで標的を探すかの様に宙を泳ぐ銀の触手が見えた。「えっ?」と驚きながら目を見開いたリリアーナの眼前で、銀の触手は狙いを定めると、そのままバイアスの首を貫いた。

 

「グボォッ!? ……、ッ? …!?」

 

 首に走った熱と痛みを認識する暇もなく、バイアスは泡と血を吐きながら数度痙攣し程無く事切れる。

 

「えっ? えっ?」

 

 混乱するリリアーナの前で、刺し貫いている触手に放り投げられる様に、バイアスの死体が壁に叩きつけられる。そうなると覆い被さっていたバイアスの身体が無くなった為、彼を刺した触手の根元が見えてくる。

 

「……どなた…ですか?」

 

 その触手は、扉の前に立っている二足歩行の人影から発生していた。隠密や暗部を思わせる黒装束と暗器の様な突起が一体化した様で、且つどこか非生物的な姿。なのにその口周りだけは人間のそれに似ていて、そのアンバランスさがより不気味さを感じさせる。

 その人影はリリアーナに目──があるであろう部分──を向けると、数歩近づいて傅いた。

 

「この猿を仕留めるタイミングを窺う為とはいえ、遅くなり申し訳ございません姫殿下」

「……、あっ! もしかして、貴方は……」

「私は陛下より、今回の護衛を承ったロイミュード434、アサシンと申します」

 

 アサシンと名乗った彼は再びバイアスに触手を刺す。するとバイアスの死体が突然ドロドロに溶け始め、一分と経たず跡形も無くなってしまった。続けてアサシンの身体が複雑な模様の光に包まれ、バイアスの姿になる。

 

「今夜のパーティ、私はこの猿に化けて姫殿下の護衛を務めさせて頂きます。事が始まるまでの間、他の者にはバレませぬ様お願い致します」

 

 破れたドレスの前を寄せて肌を隠しながら座り込むリリアーナは、漸く事態を把握して、微笑みを零しながらポツリと呟く。

 

「有難う御座います……お義父様」

 

 

 

 

 ガハルドとの謁見を終えた後、部屋へ案内されたソウゴ達。

 ソウゴは自分とユエ達の分身を部屋に置くと、気配を消して城下に出た。「ずっと猿山の中では息も詰まるだろう」との配慮だ。普段の装いからお忍び用の衣装へと姿を変えた一同は、昨晩騒動が起きた──というより起こさせたコロシアム周辺で、軽食片手に兵士達の現場調査を眺めていた。

 

「アサシンの奴、上手くやったようだな……」

「……ソウゴ様、何かあった?」

「いや、何も」

 

 独り言の様なソウゴの呟きにユエが訊き返すが、特に何もないと食事の手を止めない。すると今度は香織が尋ねる。

 

「帝城は、やっぱりトラップは多いのかな?」

「私の見地から見れば、量としては平均的なものだろう。それに全て昨晩の内に掌握済み、いつどう発動するかは私が決められる。障害ではない」

「ふむ、今夜がパーティというのは幸いじゃの。人が固まれば、色々動きやすいのじゃ」

「最終的にはパーティ会場に集まる事になりそうですね。……上手くいくでしょうか?」

 

 シアが、少し不安そうな表情になる。

 

 何せ、これから自分の家族の未来が決まる一世一代の大勝負が始まるのだ。緊張しない方がおかしいだろう。そんなシアのウサミミをユエがモフり、ティオが頬をムニり、香織が髪をナデナデする。

 

 微笑む仲間に、シアは込み上げるものを感じる。

 

 しかし、涙は流さない。たとえ、それが嬉し涙でも、まだまだ流すのは早いからだ。

 代わりに、いつものようにニッコリと輝く笑みを浮かべた。自分は一人ではない。家族もいる。恵まれ過ぎな位だと、その思いを隠さず露わにした笑顔。ユエ達が好むシアの魅力だ。

 

 シアの笑顔を確認したソウゴは、殊更何かする必要は無いかと判断しユエ達に告げる。

 

「さて。今宵のパーティに招かれたとはいえ、今日の役目は害獣駆除と地上げの手伝いだ。主役達が万全に踊るの為、精一杯舞台を飾るぞ」

 

 その言葉に、ユエ達は笑みを浮かべて力強く頷いた。

 

 






さて皆さん、弓の冠位戦は進んでいますでしょうか。

筆者はバーヴァン・シーを冠位弓兵にしたかったのですが、大騎士勲章が足りずスキルレベルが足りませんでした。冠位戦とキャメロットを反復横跳びです。

・バーヴァン・シー 宝具5・絆10 (温泉球争)
・ツタンカーメン(冠位) 宝具1・絆6 (黒の聖杯)
・水着ティアマト 宝具1・絆6 (魔性菩薩)

この編成で研鑽戦Vを周回しています。
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「私が天に立つ(※友達たくさんできるかな。)」▼現代日本で平凡な生活を送っていたはずが、目を覚ますと『BLEACH』の絶対的ラスボス・藍染惣右介(5歳)に転生していた。▼霊力も斬魄刀もない『よう実』の世界で彼に与えられたのは、完璧な肉体と頭脳、そして普通の言葉が勝手にラスボス風ポエムに変換される理不尽な呪いだった。▼※Geminiを利用して加筆修正しています…


総合評価:8770/評価:8.35/連載:21話/更新日時:2026年05月08日(金) 19:08 小説情報


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