男女の2人だけでダンジョンに挑む勘違いした無謀な若者、そんな少し経ったら忘れる様な存在だった。
最年少&最短で上級冒険者になった侯爵家のご令嬢、辺境で起きた魔物のスタンピードで覚醒し教会に聖人として認定された少年、竜騎士の家系に生まれ先代では成し得なかった竜を眷属にした才媛、精霊の愛し子と噂される深窓の令息、など真偽が定かでない噂が蔓延っており、それに感化され夢見た少年少女が冒険者を目指し、訪れて来るのは最早ギルドにおける恒例行事だった。
その様な若者たちが現実の壁に当たり、それでもと奮起し、似たようなものたちで仲間として手を組んだり、先達に師事し成長する。また珍しいところでは才能を見出され先達のパーティの一員として認められるといったこともある。そのためにギルドは経験豊富な冒険者を雇って授業や訓練などの交流の場を設けるといった支援体制を充実させていた。
そんな流れの中で2人組の少年少女――アルバとライラは異質であった。最低限の授業や訓練を受けたら、続きは実地でと言わんばかりにダンジョンに挑み始めたのだ。多少の失敗はあれど、大きなヘマなどはなく着実に成功を重ねていった。
連日のようにダンジョンに挑んでいたが、合間の時間で他の冒険者たちともコミュニケーションをとっていた。特に先輩冒険者達からは可愛がられていた。
その甲斐があってか半年という比較的早い期間で中級冒険者の仲間入りをした。
アルバ達は少し目立っていた、半年で中級冒険者になったという事よりも、むしろアルバが男性冒険者であるという点で。
そもそも冒険者はほぼ女社会であり堅気でないという印象のため、冒険者稼業をしている男というのは非常に少なく、男性と関わる機会があるものは少ない。もちろん娼夫などを買う機会は冒険者としてならば当然の嗜みと言わんばかりにあるが、それはそれでこれはこれ。
端的に言えば冒険者の大多数は男日照りで男性との関わりに飢えていた。その中で現れた新人の男性冒険者であるアルバ。お遊びだとか失敗したり辛くなったらすぐにやめるという周囲の予想に反し、冒険者として確実に経験を積んでいた。
これでアルバが生意気なオスガキであったり優秀さによる周囲からのやっかみがあった場合、女冒険者によるわからせ案件が発生したが、現実は違った。
その様な事態になることを知ってか知らずか、彼は冒険者同士による交流を多く持っていた。
冒険者の中でも、自分より下の者に抜かれそうになる焦りや面目を気にして彼を苦手に思っていたり、更に言えば嫌っている者、中には男なんて気に入らねぇ冒険者は女がするものだ、と嘯き拒絶する女性もいた。だがそんな人たちとも彼は交流を図っていた、素直に慕ってくる男性、そんな彼に対して後ろ向きな意識や態度を続けるのは難しく、結果としてアルバはわからせ案件を無事回避することが出来た。
それは酒の席で挙がった真実を含まないはずの冗談だった。
ある女冒険者が「アタシはアルバと寝たぞぅ」とほざいてた、もちろんそんな事実は存在せず、この女性は先輩冒険者として自分を慕ってくるアルバに対し「こいつもしかしてアタシのことが好きなんじゃね?」という勘違いと悪酔いにより出来た悲しい妄想であった。もちろん周囲の仲間たちもそれに気づきながらも二重の意味で酔っている彼女を囃し立てる。
「あいつはいい男でなぁ、そんなあいつが迫ってくるもんだから私が満足させてやった。らいらぁ?ああ、いつも一緒にいるやつか。そいつからアルバを助けてやったんだ、寝取ったんだぁ。幼馴染だとか言ってたがそんな筈はない、何か裏があるはずだぁ、きっと。今度頼んだらあんないい幼馴染を捕まえる方法教えてもらえないかなぁ、男が欲しいぃ。あぁ、そういえば今はアルバがいるからいいかぁ??」
支離滅裂な内容をぶちまけ、女性は気絶した。少し大きな声で語っていたがこんなのは日常茶飯事、夜は何事もなく過ぎていく。
※
アルバ達が授業や訓練を最低限しかしなかったのは、出発前の準備で備えていたからというのもあるがアルバがビビっていたため。
具体的には田舎者だと舐められるかもという心配だったが、普通に地方出身も多く全くの見当違いだった(やさしい世界)。
それが判明した時にはダンジョン攻略の方が順調だったため、一段落着いたらと後回しにしていたら昇級しちゃった。
そこには初心者冒険者の授業や訓練に混ざる
そんな事情を相談し、自分の動きにライラを付き合わせてしまったと思っており。
せめて代わりになればと思って、積極的に冒険者同士の交流を行った。
なおライラは家族に訓練を受けており、特に必要だと感じてなかった模様。
よかった、最初の段階でつまずいてる子は(アルバくん以外)いなかったんだね。
※
ライラはギルドで時間を潰していた。
その日は各々用事があるという事でアルバとは別行動だった。
用事が済んだら食事に行こうと約束しており、比較的早く用事を済ませてしまったライラはアルバが合流するまでの間、手持ち無沙汰になってしまっていた。
知り合いを探して雑談などで時間を潰そうかとも思っていたがこんな時に限って見つからず、取り敢えずとギルドの酒場で一人物思いにふけっていた。
「(アルバの方に着いてけばよかったな、魔道具の店に行ってるんだっけ?1人でいるとナンパとかされても簡単についていきそうだし、抜けてるところがあるからなぁ。)」
その一方で先ほどから感じている視線についても考えを巡らせていた。
最初は気にしていなかった、そもそもアルバと行動を共にしている中で物珍しさや嫉妬などといった感情を向けられるのは慣れてしまった。
だが今向けられているのはもっと刺々しく周囲に人がいなければこちらに武器を向けかねない雰囲気すらある。
特に思い当たりはないし、ならばアルバ関連かとあたりをつける。取り敢えず情報収集がてら周囲の会話を拾おうと意識を向ける。
するといろんなことが分かった。
自分がアルバに命じて他人と性交渉をさせ金を稼いでる。
ギルド職員にも賄賂として送り昇級させた。
泊まってる宿屋ではあまりにも激しいため部屋の退去をさせられた。
パーティーメンバーを増やさないのは自分だけに依存させるため。
実はもう寝取られている。
などと、他にも多くあったが自分に対する悪評がほとんどであり耳を疑った、一部真実が紛れているのが性質が悪い。
机に突っ伏してどうしたもんかと悩んでいると対面に誰かが座った。
「相席、失礼する」
こちらの反応を待たずして座った女性を観察してみる。
「(上等な装備、かといってお飾りじゃなくて使える奴か。今後ろに回って席に着いた奴も仲間、いや護衛?)いきなりだね、どちら様?」
「ファリスだ、よろしく頼む」
少し不機嫌そうな雰囲気を出してみたが、意に介さず返事を返してきた。
「君はライラか?」
確信しているのか、自信満々な様子で聞いてきた。
「そうですよ、でも初対面のはずだけど?あなたを見たことないし何の用で?」
「ここしばらくは忙しくて他の街に行ってたから無理もない、君等に関しては噂があった」
噂、と聞いて少し身構えてしまう
「用件は噂の確認だ」
「先に言っておきますけどあんなのほとんど嘘っぱちですから」
「そうだろうな、だけど実際に噂の人物に会って確認したかった。」
「はぁ、会ってみた感想は?」
「やはり噂は間違いなのだろうと思った。」
なんというかお堅いけど素直な人だ、噂による誤解は解けただろうし結局何しに来たのか。
「だが私の印象のみで判断を下すべきでないとも思う。悪事を行う者が皆、悪意だけで行動するのではないからな。私にはそこまで相手のことを読み取れる自信がない。」
(そですか、いっそ逃げようかな後ろの護衛の人だけだったら何とかできそうだし、でも
あれこれと考えるが妙案は浮かばず、ファリスの方も何事か考え中なので浮かんだ疑問を声に出す。
「結局噂を確認してどうしたいんですか?」
「どうしたい。とは?」
「噂では諸悪の根源の私を成敗したいとか、いやまるっきり嘘ですけど。噂通りにアルバを一晩貸してくれとか、いやさせませんけど。」
途端にファリスは挙動不審になり頬を赤らめながら弁解する。
「いや、あの、全然そのつもりはないのだ、もしかしたら端から見たらそのような話をしにきた女に見えてしまうのだろうか。」
早口でしどろもどろに話す様を見てみると先ほどまでのお堅い印象が崩れて愉快になってきた。
イニシアチブを握れた気がして畳みかけようとしたその時、声をかけられた。
「ライラお待たせ、この人は?」
話題の人であるアルバだった。なんてタイミングで出てくんだよコイツ。
突如乱入してきたアルバにライラが今までの経緯を説明する、アルバは「はえー」「だからあんなに声かけられたのか」「全然気づかなかった」等と相槌を打っていた、やっぱこいつ鈍いな。
「両名そろったので改めて確認をしたい、噂が真実なのかどうか。私はこの噂のような理不尽がないのか知りたい。理不尽を前に泣いてる者がいるならば救いの手を差し伸べたいしそうあるべきだと考えている。これは私ファリス・ラビス・ベルウッドの名に誓おう。」
アルバ達は驚き固まった。ベルウット侯爵家といえばこのダンジョン都市を治める貴族であるからだ。
「アルバ、君が私に保護を求めるのならば応じよう。たとえ脅迫や契約によって縛られていようと、私がそのようなものから守り抜こう。もちろんライラについても同様だ。」
真摯な女性だと思った。本気でアルバ達を心配していることがその態度から伝わってくる。
――その、ベルウッド様
「ファリスでいい」
――では、ファリス様
そう固くならないでいいとこちらを気遣いファリスは笑みを浮かべる。
――自分たちにその噂のような事実はありません、ですので保護をしていただく必要もないです。
予想通りだったのか、深く息を吐きながら質問を重ねる。
「君等はこの噂に関して思うところはあるか」
――いいえ、所詮噂なので時間が経てば忘れられますよ。
「ではこの件で泣いてる者はいないのだな」
――はい。
「そうか…そうか。」
今度こそ安心したのか肩の力が抜けたようだ。
「噂を聞きつけ自分なら救えると鼻息荒くしてた奴が、ただの勘違いした女だったとはな。だが笑い話で良かったよ。」
おそらく自虐なのだろう、恥ずかしそうにしながら笑っていた。
――そうですね。でもこんな俺を助けてくれると言われた時はとても嬉しかったですし。他人のために行動して笑ってあげれる人は素敵だと思います。
素晴らしいものを見ると、こっちまで良いものになれた気がして素敵やん。同意を求めようとライラの方を見てみると、呆れたような目で俺を見ていた。なんで?
「そ、そうか…それならよかった。」
む、まだ恥ずかしいのだろうか、更にフォローしようと思ったらライラに「これ以上何も言うな」と止められた。解せぬ。
その後、噂に関する対応について協力してくれるとのことでなんやかんや話し合って別れた。
なんかどっと疲れた。アルバの方を見てみると「流石貴族、冒険者に伝手とかあるんだな」と暢気なことを。
まさかまだ気づいていないのだろうか。あ、護衛さんもいつの間にかいなくなってる。
「あのさアルバ、あの人のこと知ってるよね」
――自己紹介されただろ、ベルウッド家のご令嬢で、その伝手で冒険者に噂を流して噂の上書きとか行うって。しかも上級冒険者の言うことだから信頼度が違うとさ。上級だよ上級、そんな伝手があるとは貴族って凄いと思いました(小並感)。
「いや違くてあの人自身が上級冒険者だよ、ほら前に受付さんから聞いたじゃん最年少最短で上級になった貴族のご令嬢。あれ多分ファリスさんのことだよ。」
アルバはファリスが先ほどまでいた席と出口を交互に見た後、理解が追いついたのか崩れ落ちた。
うわ、ガチで泣いてるとこ初めて見た、なんか「サインが…握手が…」とか言ってるし。
しばらくすると落ち着いたらしい。
――いやここで待ち続ければワンチャン会える可能性が…
やっぱりまだ混乱している。
あまりの落ち込み様にふと気になってアルバに聞いてしまった。
「あのさ『現在までずっと一緒!以心伝心一心同体最強無敵幼馴染ちゃん』と『ちょっとポンコツ女貴族上級冒険者』のどっちがいい?」
――『上級冒険者』で。
迷いのない無慈悲な返答に拳をテーブルに叩き付けた。
くそァ!!!
アルバ:糞鈍感ミーハー野郎。最後の二択はオプション爆盛りなのが怪しかったので緊急回避、普段ならノータイムでライラ一択。ちょっとポンコツ高貴お嬢様が嫌いな男の子はいません!!
ライラ:風評被害ガール。今回の件で寝取らせに興味が…?「アルバの初めてはこのライラだ!」「最後にはこのライラの横にいればよい!」の精神に目覚めつつある。
ファリス・ラビス・ベルウッド:ベルウッド家次女。両親と姉を尊敬し妹を可愛がってる家族大好きガール。姉が当主になったとき補佐できるように勉強を頑張ったが出来が悪く、逆に武芸の才能があふれていた。悩んでたところに心配した姉が「私程度の補佐ではなく自分のしたいことをやりなさい」と発破をかけ、吹っ切れた。大好きな家族が治めるダンジョン都市を盛り上げようと冒険者になり記録更新を達成。そんなファリスに家族もにっこり。実は祖先が転移者だったとか(死に設定)
ダンジョン都市ラビス:いい加減、名前を付けなきゃと考え出したものの、結局本文では名前が出てこない悲しみ。ダンジョン→迷宮→ラビリンス→ラビス、俺の答えはコレや!偉い貴族は名前が長いっしょ、とミドルネームとして使いまわした。
侯爵が都市を治めるのは正しいのかわからないけどこまけぇこたぁいいんだよ!俺のシマではノーカンだから、ごちゃごちゃうるさいんじゃい!の精神で押し切る予定。
エルデンリングが発売されるので失踪します。