【完結】妖精國に落ちた超越者が、妖精騎士たちにほんの少しだけ救いを与えるお話【挿絵有り】   作:ロウシ

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はじまり はじまり


日曜日よりの使者
第一話:流れ星がたどり着いたのは、悲しみの沈む西の空【挿絵追加】


0.

 

 

 ──それは、大きな男であった。

 

 ブリテンの空が奇妙に弛み始めたのは、夜のことであった。

 その瞬間までは、ブリテンの夜はいつもと変わらぬ夜であった。 

 その夜とは、すなわち星々が瞬き、ただ明日に向かって過ぎて行く時間のことである。

 キャメロットの上級妖精たちも、街街に住む下級妖精たちも、各地を治める氏族の長たちも、牧場の人間も、妖精騎士たちも……女王モルガンでさえ、ただ眠りにつく時間。

 

 だから、初めにそれを発見したのは誰であったかはわからない。

 ただ、星あかりが異様な煌めきを発し、空間がそのまま大地に向かって伸びていく光景は、誰もが食い入って見ていた。

 ブリテン中の目が、突如変容した夜空に向けられていた。

 

 空間が割れる、裂ける、砕ける……

 そういった現象ならば、ここではありうることだ。

 女王モルガンの圧倒的な魔術は時空間に強い影響を与えることもできる。

 モルガンやその娘トリスタンなどの使役する『水鏡』の魔術は、たびたび空間を歪めることがあるのは妖精國では周知の事実だ。

 

 しかし、これは明らかにそれらとは違った。

 

 空間が、まるで雨露のようである。

 火で炙り、熱に溶かされた飴が垂れ下がっている。

 柔らかいゴム袋にひたすら重石を入れ続けて、限界ギリギリまでゴムが伸び切っている……

 例えるなら、そんなところだろうか。

 ともかく、空間そのものがはち切れんばかりに伸びるということは、普通あり得ない。

 特異な現象という他ない。

 

 何より、

 何より妖精たちが、

 何よりあり得ないと思うことは、

 そこに魔力の痕跡が一切無いことであった。

 つまりあれは、魔術的要素によるものでも、幻覚によるものでも、妖精の万能の力による悪戯でもなく、物理的な力で歪んでいるのだ。

 

 そのすぐ下、異様な空を見上げるものに、一人、騎士がいた。

 大きい女であった。

 長い金髪を靡かせている。

 厳しい銀色の鎧に身を包んでいた。

 妖精騎士のガウェインであった。

 

 彼女たちは、たまたま。本当にたまたま、モース討伐の帰り道、ここで野営をしていた。

 ガウェインは狼狽える部下たちに一喝し、武器を構えさせた。

 何もかもが未知であるため、陣形を整えさせることはできないが、せめて混乱を抑えようとしていた。

 何が起こっているのかはわからない。

 だが、これから何が起きるのかは、なんとなくわかる。

 

 何かが、落ちてくる。

 落ちてくるのだ。

 空間を突き破って。

 確信があった。

 ガウェインだけではない。

 空を見上げる妖精も人々も、同じ思いだ。

 落ちてくるそれはきっと、この妖精國にふさわしくない何かだろう、とも思っていた。

 

 とうとう、空間がはち切れた。

 重荷に耐えかねた空間が弾けた。

 ばちん、でもどかん、でもない。

 どういう音とも表現できない轟音が響いた。

 それは、妖精國全土に響いたであろう。

 

 穴の空いた空。

 そこから、ずるりとそれは落ちてきた。

 草地の上に、まるで空から吐き捨てられるように、ぼとりと落ちてきた。

 

 ガウェインは最初、能天気にもこれが隕石というものかと思った。

 宇宙空間を漂う石、岩。

 そういう類の物だと。

 しかし違った。

 その黒い塊は蠢いた。

 生きている。

 

 夜目に慣れたか、あるいは妖精騎士としての卓越した視力が、その輪郭を捉えた。

 

 人間だ。

 

 ボロボロではあるが、人間の男だ。

 倒れ伏すその体は、血まみれであった。

 凄まじい血臭を漂わせていた。

 肌の露出がないのだと錯覚するほどに、血まみれであった。

 肉が、骨が、いたるところからはみ出していた。

 胸の筋肉は内部から破裂して、繊維が摩り下ろされた断面を剥き出しにして、皮膚を突き破って盛り上がっている。

 右脚が、真逆にネジ折れていた。

 左脚は、腰から足首までジグザグな軌道を描いて伸びている。

 右腕は、かろうじて皮だけで繋がっていた。

 左腕は、皮膚と筋肉が裏返りつつ、そのままペシャンコにつぶれていた。

 腹が小刻みに震えているのは、まともな呼吸ができないからだろう。

 内臓が潰れているのか、

 骨が砕けているのか、

 おそらくは両方だ。

 それでも、男の目には光があった。

 左目はつぶれていた。

 だから右目だけだった。

 だけれども、ドス黒くグロテスクな体に対して、片方だけの目に、命の光があった。 

 

「あ……ぐ……や…………れ」

 

 ガウェインを見たわけではない。

 誰かがいるのを感じ取ったのか、血を噴きながら、空虚に向かって男が何かをしゃべっている。

 ゴポゴポと水音が鳴った。

 口の端から、血がこぼれている。

 ガウェインが男のもとに歩み寄った。

 事情は全くわからない。

 この男が誰で、何者かも知らない。

 だが、彼女が憧れる騎士道精神は、死に行くものの最期の言葉を聞くぐらいはするべきだと、彼女の胸の内で囁いたのだった。

 

「けん……かし……て……くれ……」

 

 男の右目がぎょろりとガウェインを見上げた。

 死に体の目にしては、力強い目であった。  

 

 けん、(けん)、つまり……剣か。

 

 ガウェインはてっきり、それは男が剣を抱きながら逝きたいのだということだと思った。

 死に際の、最期の力を振り絞った願いなのだと。

 だから、部下の剣を受け、それを男の胸の上に寝かせた。

 

 すると、信じられないことが起こった。

 男が、折れ曲がってちぎれ欠けているはずの右腕で、垂れ下がっているだけの右腕で、剣を掴んだのだ。

 掴んだのは刃の部分だ。

 ぶるぶる震える手でそれを眼前に掲げた。

 一間のあと、それを勢いよく喉に突き刺した。

 

「がぼ、がぼぼ!! ぐげぁ……ッ!!」

「なっ……!? 何をしているんだっ!!?」

 

 ガウェインが声を荒げた。

 自刃!? 

 意味がわからない。

 放っておいても死ぬだろう、その傷は。

 なぜ!?

 

 ガウェインの戸惑いをよそに、男が剣を首から抜くと、喉に溜まっていた一層ドス黒い血が、噴水のごとく空に昇った。

 この時、ガウェインたちは目の前の異常な光景に気を取られていたために気づかなかったが、男の体内から噴き出たものは、地面をぐすぐすと溶かしていた。

 

「げっ……ごぼおっ!」

 

 最後に、男は口からどばっと塊を吐き出した。

 熱した鉄のように黒い血塊のそれは、ごろっと地面に転がった。

 男がふう、と息を吐いた。

 

「助かったァ〜」

 

 たしかにそう言った。

 助かった? 

 この状態で……?

 そして、ガウェインたちの方を振り向いた。

 

「いやぁ〜……身体に毒が溜まりすぎてるわ、自分の血で溺れて呼吸はできないわで、危うく死ぬところだったワ……オェ! げっぷ……ああ、失礼。へへ……助かったよ、ありがとうさぁ」

 

 男は、血まみれの顔でにこりと笑った。

 屈託ない笑顔であった。

 本気で、自分は助かったのだと思っている顔であった。

 ガウェインたちはただただ唖然としていた。

 すると、男の笑みが悪戯な色を浮かべはじめた。

 男はガウェインたちの反応を、嬉しそうに、嬉しそうに、その双眸()で眺めていた。

 

「あの……ガウェイン様……」

「寝ている兵を起こせ、夜だが仕方あるまい。キャメロットに……陛下のもとに急ぐぞ」

 

 

1.

 

 

 キャメロット。

 妖精國の女王、モルガンの城。

 玉座の間に続く通路を、妖精騎士ガウェインと、男が歩いている。

 

 男は、大きな男であった。

 身長、二メートルを優に超えている。

 単純な高さだけで、妖精国でも男女を交えてなお長身を誇る、妖精騎士ガウェインの頭二つは高い。

 だが、何より体の大きさが──太さが尋常ではなかった。

 肉が大きい。骨が太い。

 大きくて、分厚くて、丸い。

 正面から見たシルエットと、横から見たシルエットの大きさに差異がないと感じるほどである。

 上下共に黒い服を着ていた。

 上はTシャツ。下は黒いズボン。

 履いているのは、黒い革の靴。

 全て無地である。色気もへったくれもない。

 その服はなんてことない普通の布のようだが、それ故か発達した筋骨にパンパンに引き伸ばされている。

 良く灼けた色の肌は、男の存在感を一層重く見せていた。

 とにかく、大きい。

 何もかもが、大きい。

 首が、顔より大きい。

 首と、盛り上がった僧帽筋の境目がほとんどない。

 肩周りの筋肉がごろりとした岩のようであった。

 そこから伸びる腕も、丸太の如く太い。

 何より手が大きかった。

 広げた掌の大きさが、本人の顔をすっぽり包めるほどはある。

 指も太い。

 小指の太さと長さだけで、小妖精の胴体ぐらいはあるかも知れなかった。

 腰も太い。尻はよく引き締まっている。

 外見だけでは上腿と下腿の肉の太さに違いが見られない。

 そして、当然の如く足が大きい。

 身長百九十センチメートルはあるガウェインの足の、およそ二倍近い大きさであった。

 一目で、人間の規格を超えているとわかる外見をしていた。

 

 歩きながら、ガウェインは頭の中に疑問が湧いて仕方がなかった。

 ──なぜ、こんなに大きい?

 本当に人間なのか。

 ──なぜ、傷が治っている? 

 治療はしていないのに。見る見るうちに傷は癒えていった。

 ──なぜ、歩く音がしない? 

 これだけ体が大きく、歩き方も悠然としているのに。

 ──なぜ、キャメロットの魔力……つまり、モルガン陛下の絶大な魔力をその身に味わいながら、こうも威風堂々としていられるのだ?

 

 自身のきっちり三歩後を歩く男を、ガウェインはたびたひ一瞥する。

 男はガウェインの視線に気づくたびに、にこりと口角を広げて笑みを浮かべ、返した。

 しかし、どれも目が笑っていない。

 半目で、どこを見ているのかよくわからない目であった。

 目の形は額から両開き、八の字に垂れ下がっていて、その上で半目である。

 何を考えているのか読み取れない目である。

 黒目が大きく、不気味に感じる。

 吸い込まれそうな力を感じる。

 ガウェインは目線をずらす。

 男の顔を見る。

 深い傷がある。

 左の頬から鼻を貫いて、右の頬までと、額の右側の肉が削げている。

 右の耳が上半分ちぎれていた。

 かなり古傷のようで、もう皮膚が断面を覆ってそういう形になってしまっている。

 頭にバンダナを巻いていた。

 すっぽりと頭頂部を覆い隠す、尻尾の長い白いバンダナだ。

 治療を拒否した男がどこからともなく取り出して、真っ先に巻いたものだった。

 ガウェインはそれの意図を、なんとなく理解する。

 あれは、とてつもない傷跡を隠すためのものだ。

 あれは、とてつもない戦いの跡を隠すためのものだ。

 その存在感、その大きさ、その力強さ。

 要素を並べて考えるなら、男の所作は紛れもなくずば抜けた戦士のそれである。

 ならば、古傷を隠す気持ちはわからなくもない。

 しかし、それまで。

 ガウェインが男の所作から掴める情報は、それまでだった。

 隙がない。

 付け入る部分がまるでない。

 すべて、太くて大きい肉で包み隠されている。

 

「しかし……なんだかなァ……」

 

 男は太い指で、コリっと頬をかいた。

 目線は斜め下にある。

 わざとらしい動作であった。

 

「キャメロットって言ってたね、ここのこと」

「そうだ。モルガン陛下の居城だ」

「んで、おまえさんは、ガウェインと……」

「ああ、私は妖精騎士ガウェイン。陛下より着名されしもの」

 

 男はんんんと唸った。

 

「なんか、どっかで聞いたことあるンだよなァ……なんだっけか?」

 

 己の記憶を探っているようであった。

 どうやら、取り替え(チェンジリング)した人間にありがちな心神喪失をしているわけでも、記憶が無くなっているわけでもないらしい。 

 確固たる自分を持っている。

 

「ま、いいかな。考えても思い出せねぇってことはよ、俺にとって大したモンでもないんだろう」

 

 あっけらかんと言い放った。

 ころころと、太い笑みを浮かべていた。

 

 

2.

 

 

 玉座の間にたどり着いた。

 広く、荘厳な空間である。

 全体を寒色で染め上げて、象徴的に曲線で作られたものが玉座以外に何一つなかった。

 それが、部屋全体に厳格で引き締まったイメージをもたらしている。

 ガウェインたちの真正面の玉座に、モルガンはいた。

 玉座へ道を作るように、両側にオーロラを除く氏族長たちが、姿勢正しく揃っていた。

 

「いいねぇ、壮観だねぇ」

 

 男はそれを見て、感嘆の声を漏らした。

 しかし、少しだけ、小馬鹿にするような(いき)が滲んでいる。

 

「いい趣味、してるねぇ」

 

 男は真っ直ぐに玉座を見た。

 女王に対し、あまりにも無礼な物言いである。

 あまりにも無礼な態度である。

 ウッドワスが怒りに顔を歪めている。

 他の氏族たちは、興味深く男を見ていた。

 男はあろうことが、女王を指差した。

 正確にいうと、女王の座す、玉座を。

 

「それ、玉座、『ヴィーナスの誕生』のアレ。アレがモチーフでしょ? オマージュ? ホラ、貝殻がさ、パカって開いてて、そこに素っ裸の女神が突っ立ってる絵のヤツ。雰囲気がそっくりだよ」

「貴様……」

 

 ガウェインは、うまく言葉も出ないほどに憤った。

 しかし、女王の御前で角を抜くわけにはいかない。

 ウッドワスもまた、怒りを噛み殺していた。

 女王の御前を血で汚すなど、あの穢らわしいトリスタンのような真似をするわけにはいかない。

 対照的な反応としては、グロスターのムリアンなどは男の単語に興味を示していた。

 『ヴィーナスの誕生』……間違いなく固有の何かを表す単語だ。

 しかし、聞いたことがない。

 極端なことを言えば、これが指し示す事実は一つ。

 男は明確に、妖精國の外から来た男であるということだ。

 

「ワルいね、不躾で。でもさ、俺は彼女の臣下じゃあないじゃないの。別に、俺は彼女からなんの恩恵も受けてないんだぜ? まぁさ、最低限、敬意は払うけど、彼女……ええと……」

「モルガン陛下だ! 不埒者が!! その喉を噛み切ってやろう!!」

「元気のいいワンちゃんだねぇ。残念だけど俺は今、かじらせる骨は持ってねンだわ。んん……モルガン……?」

「貴様ァ!!」

「静まれ、ウッドワス」

「陛下! しかし……」

「ウッドワス。陛下のご命令だぞ? 聞けないのかい?」

「…………クッ、ふっ、ふぅ〜っ! ふぅ……」

 

 氏族長たちのやりとりを他所に、男はああ、とひらめきに手を叩いた。

 

「モルガンで、キャメロットで、ガウェイン……つまり」

 

 くるくると人差し指を立てて回す。

 その動作に特に意味はないのだろう。

 

「モーガン・ル・フェイか」

 

 あーね、はいはい。と頭を掻いた。

 モーガン、モルガンの別の読みだ。

 

「つまり、『モンティ・パイソン』。ぱからぱから。アーサー王伝説か。ってえこたぁ、ここはエゲレスかい? なんだか、俺の知っているどのエゲレスとも、どのモーガンとも違うみたいだけどよ」

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 エゲレス? 

 なんのことだ。ここはブリテン。

 昔からそうだった。

 妖精國ができる前、一万四千年より前から、この土地はブリテンだ。

 

「汎人類史から来たか」

 

 モルガンが、やっと口を開いた。

 ヴェールの下の表情は読めない。

 しかし、確信めいた口調であった。

 それに対して、男は……

 

「はんじん……なんだって? そりゃあどこの星の、どの国のことだい? あるいは、どっかの神さまかい?」

 

 知らない?

 

 エゲレスとは、イギリスのことだろう。

 イギリスとは、汎人類史において栄えたブリテンの国の名のはずだ。

 アーサー王伝説が二千十七年にも伝承として語られる国。

 自らの生きる歴史のことを、汎人類史と呼ぶことを知らぬのは、取り替え(チェンジリング)で迷い込んだだけの人間ならばあるだろう。

 だが、この男は明らかに違う。

 知らぬ間に迷い込んだだけの、普通の人間では断じてない。

 ここが異界であると認識している。

 自分の世界ではないと確信している。

 それが、そんな男が、汎人類史という言葉を、その意味を知らないのか。

 

「ニホンを知っていますか?」

 

 声を上げたのはスプリガンであった。

 王室の視線が集まると、失敬、と彼は氏族長たちとモルガンに頭を下げた。

 

「スプリガン、陛下はお前に発言を許していないぞ」

「ええ、もちろん承知しています。ですが、それをいうのなら。陛下の許しなく声を上げたのはウッドワス殿、あなたが先ではないですか?」

「スプリガン……!」

「よい、下がれウッドワス。スプリガン、発言を許す」

「寛大なお言葉、ありがたく頂戴いたします。では……改めて。あなたはニホンをご存知ですか?」

 

 ああ、と男は答えた。

 

「どの地球にもある。小せえ島国でしょ? ……あれ? ひよっとして、ひよっとするとだよ。この惑星(ほし)にはないの、日本……?」

 

 男は目を丸くして、キョロキョロと周りを見回した。

 にやり、とスプリガンは笑った。

 彼の笑みはいつも、企みを含むものだったが、この時の笑みはしてやったり……とでもいうべき、微かな喜びも溢れていた。

 男はそれに気づいた。

 モルガンもそれに気づいた。

 しかし、他の氏族長たちは気づかなかった。

 ガウェインも気づかなかった。

 スプリガンの表情の機微よりも、先ほどから男の発言が、ことごとく異様なことが気になっていた。

 

「ねぇ、あなた。()()星とか、()()地球とか、まるで世界がたくさんあって、そのたくさんの世界を知っているみたいに聞こえるわ」

 

 ホログラムの先から美しい声が訪ねた。

 その声に違わず、美しい女性がいた。

 風の氏族長、オーロラである。

 彼女は子供のように、無邪気に聞いた。

 どういうことかしら?

 と。

 男は答えた。

 

「そりゃァ、もう……()()()美しい人だね。ああ、うん、そりゃあね。いろんな歴史があれば、いろんな星のカタチがあるのは普通のことでさぁ。大方……この世界もどっかの並行世界か……歴史改変の矛盾点(パラドクス)の穴埋めで派生した世界じゃあないのかい?」

 

 既に、そこまで理解している。

 いや、異聞帯から異聞世界となったこのブリテンは、正確には並行世界でもなければ改変の際に生じたパラドクスの世界でもない。

 だいぶ違う解釈ではあるのだが、かなり近い考察である。

 だとすれば、

 

 モルガンの疑念は深まる。

 

 だとすれば、なおのこと、なぜ汎人類史を知らないのだ?

 

「何者だ?」

 

 ようやくの、要約した質問であった。

 モルガンの問いかけと共に、王室の重力がぐわりと増した。

 立っている者の膝を折り、地面に縫い付けるような強い力だった。

 氏族長たちは耐えている。

 ガウェインも耐えている。

 流石である。

 この場に、ほぼ数合わせのためだけにいる上級妖精たちは、軒並み膝を折っている。

 許しを乞うものもいる。

 男は平然としていた。

 平然と立ち、平然と首を傾げた。

 降り注ぐ力に困っているのではなく、返す言葉に困っている様子だった。

 

「困ったね。違うんだよなぁ、見方で違う。()()()()()()()()、俺は。俺は人間のつもりだけど、たぶん……この世界の尺度で測るなら、俺は、俺の力は神とかになるんじゃないの?」

「──神だと」

「そ。たぶん、全能の神に値するんじゃないかなぁ……? いつ言っても、自分で言っててケッコウ恥ずかしいんだケドね、これ」

「ハ──!」

 

 その言葉に、真っ先に反応したのは、ウッドワスであった。

 

「いうにことかいて、全能だと!? 笑わせてくれる!」

「ウッドワス!」

 

 モルガンの叱責が飛ぶ。

 普段から無機的な言葉を好むモルガンにしては、強い感情が込められていた。

 

「おまえが全能の神ならば、なぜここに……我が國に来た?」

「来たくて来たんじゃないんだよね。俺ァいわゆる敗残兵でさ。『戦場』から落ち延びた先がここだったんだよねぇ」

「敗残兵だと……」

「そ。俺たちさ、宇宙を創ったり壊したりする全能の神々相手にハデに戦争やってたんだけど、いかんせん、インフレがひどい戦場なモンだから、俺なんかじゃあ、たちまちクソの役にも立たなくなっちゃってさ。このままだと死ぬだけだからって、リーダーたちの手で戦場から追放されちゃったんだよねぇ」

 

 冗談を言っているように見えた。

 照れ隠しのように笑うそれが、大袈裟すぎて演技のように見える。

 男は構わず続けた。

 俯いて、はは。と自嘲した。

 

「悲しいよねぇ。我が身の無力がさ」

 

 男の意味不明な言葉を、モルガンは噛み砕く。

 

「つまり、お前はここにブリテンがあろうがなかろうが、ここに落ちてきていたということか」

「その通りだねぇ。ここが仮に『無の領域』だったとしても、俺はここの無の領域に投げ出されて、数千年数万年、傷が癒えるまで孤独に過ごしてたと思うねぇ」

 

 まぁ、無の領域だから、その場合時間はないんだけども。

 と笑う。

 

「ということは、あなたの妖精國に対するスタンス──それは女王陛下を脅かすものではないのですね?」

「……スプリガン」

「ああ、申し訳ありません陛下。陛下のお言葉を遮るつもりは全く、これっぽっちもありませんが、どうやら彼は汎人類史からの取り替え(チェンジリング)ではなく本当の意味での『異邦人(ストレンジャー)』のようで、私めも多少興奮しておりまして……」

「……構わぬ。私も同じことを問うつもりであった。お前はこの國に留まり、傷を癒すのか」

「『異邦人』て、カミュだね。まぁ俺はあんなサイコじゃないつもりだけども……そうさね、外見(そとみ)は回復したんで、俺もさ。余計なことせずさっさとオサラバしたいんだけどねぇ……」

 

 男は言い淀んだ。

 失礼、と言った。

 左手の人差し指を立てて、それをくるくると回し始めた。

 氏族たちがなんの真似だと問いかける前に、

 

 ぐぎぎぎぎぃっ

 ぐじぎじぃじいぎぎぃっ

 

 と軋む音。

 何が軋んでいるのか?

 それは、氏族たちの目にカタチとなって現れた。

 男の背後の空間が歪んでいる。

 この場の圧力であったモルガンの魔力が、その歪みに飲み込まれていく。

 空間そのものが歪んで、擦れて、削れている。

 ウッドワスの体毛が逆立った。

 玉座から、女王の兵士たちの装備品から、カタカタと音が鳴る。

 金属が細かく震えだす。

 分子、霊子、魔力──この空間を、ブリテンを形成する全てが震えている。

 小さな火花が立ち上がる。

 プラズマのような、青い電気が歪みに向かって立ち上っていく。

 それは引力に耐えきれず分解されゆく粒子だ。

 その小さな火花が、男の背後の空間、その小さな歪みに吸い込まれていく。

 

「な、なんだこれは……っ!」

「引き寄せられる……!!」

「妖精領域!? いや、違う……あの男から魔力は感じない! どういうことです、これは!?」

「まぁ! すごいわ!」

 

 男が人差し指を折りたたむと、歪みはすっと消えた。

 宙に浮かんでいた装飾品たちががしゃりと床に落ちた。

 

「宇宙の特異点か……」

 

 モルガンがつぶやいた。

 

「そ、特異点(ブラックホール)。俺たちにとっては、移動用のね」

「特異点を、自由に作れるのか」

「そらあねぇ、あなた。だって、ブラックホールの発生原理なんて、それこそどこの地球の西暦、王歴、新暦でも二千年代にはほぼ解明してるでしょ? アインシュタインとかホーキングとかって天才科学者(バケモン)のせいで。要は無限小の力場(フィールド)に無限大の質量を注いでやりゃあ、時間と空間が質量に耐えきれず破けちまうってだけでさ。原理が分かってンなら、あと必要なのはそのエネルギーと範囲の制御だもの」

「……」

「実験的な話なら、粒子加速器だので陽子を衝突させなきゃできないし、人が通れる規模を作るなら恒星をぐるりと巻けるサイズじゃないと難しいけど、俺はそんな手間暇いらなくてね。移動用って言っても、普通にブラックホールだから、皆さま方は中に入っちゃダメよ。超重力で一瞬でペシャン! ……コだからね」

 

 ブラックホールには、入口と出口がある。

 入口はブラックホール、吸い込む穴。

 出口はホワイトホール、吐き出す穴。

 時空に穴を開ける特性そのものがブラックホールでもある。

 超重力圏に耐えられるのならば、別の時空に移動する手段としては悪くないだろう。

 それでなくとも、時間と空間を任意的に破り、時空の外へと出てから、同じ方法で時空間を破り、別の時空へと出る。

 これらが男の言う、次元間の移動方法ということか。

 理には適っている。

 理論はわかる。

 だが、理屈が通らない。

 少なくとも、モルガンには飲み込みきれていない。

 無限大の質量を、無限小の力場に注げるということは、だ。

 事実を事実のまま受け取ると、目の前にいる男は人間の身にありて無限大のエネルギーを有しており、それでいて、その宇宙における最大スケールのエネルギーを、宇宙における最小のスケールにまで細かく行き届かせることができているということだ。

 その中で活動できると言うことは、無限大の質量エネルギーの重力圏内で、この男は自由気ままに動けることになる。

 無限大のエネルギーを行使し、それをその身に受けることが、この男にとっては何でもないことだと言うことになってしまう。

 

 全能。

 先ほど、男の口からでた言葉だ。

 そのままの意味で捉えるならば、不可能はないということ。

 ありとあらゆる全ての能力を行使できるということだ。

 モルガンの知るギリシャ異聞帯の神々ですら、その言葉はその意味の通りではなかった。

 事実、彼らはカルデアに敗北する。

 ギリシャの機神たちが、大神ゼウスが全能に等しいという言葉に相違はないだろう。

 しかし、彼らですら宇宙を創造することは叶わず、自らの世界(テクスチャ)を創造し、存続し、安定させるためには『空想樹』などという異物に頼る他なかった。

 それも仕方のない話だ。

 全能に等しいということは、明確な全能ではないということでもあるのだから。

 

 この時点で、モルガンにははっきりと分かっていた。

 この男は、異物だ。

 『予言の子』ではもちろんない。

 予言の子に寄り添う『異邦人』でもない。

 ブリテンの歴史に現れるはずがない、汎人類史にも、他の異聞帯にも現れるはずがなかった、完全なる異物なのだと。

 すなわち、『異邦人(ストレンジャー)』。

 その力は、少なくとも妖精國の手には余ると。

 

 官司の妖精たちがざわめいている。

 無理もない、とモルガンは思う。

 そんな空気の中で、

 

「はてさて、疑問をよろしいかな? つまり、ええと……」

 

 乱れた髪を整えながら、最初に男に声をかけたのはやはりスプリガンであった。

 彼の目に怯えはない。

 恐怖を乗り越えたとか、繕っているのではなく、単に怯えがない。

 

「ゴロー」

 

 男は答えた。

 短い名前だった。

 

「ゴロー……ですか」

「そうさね、名前なんかなんでもいいんだけど……ないと困るからねぇ。とりあえずゴローでいいや。苗字はキシベでもタニグチでもイナガキでもマミヤでも、なんでもいいさぁ。ゴロー。そう呼ばれりゃあ反応するよ」

「ではゴロー。ひとまずお聞きしたいのは、異界に渡る手段を既に持っているのに、なぜこの妖精國で傷が癒えるのを待つのでしょうか?」

 

 単純な話だよ。

 とゴローは言った。

 

特異点(ブラックホール)作って俺がそこを通るだけなら、それはできるさ。それだけはねぇ。けどね、発生させた特異点を制御するパワーが今の俺にはないのよね。だから、行きで開けた特異点を固定できないし、閉じれない」

 

 何度も確認するが、この場合の特異点はブラックホールだ。

 その中は超重力空間。時間と空間の三次元領域を破壊し、光すら落ちゆく宇宙の底穴。

 電子ひとつ分だとか、指先ほどの大きさならともかく、人ひとりが通れる大きさのそれを作るということは……

 

「ンなことしたらさ。その特異点は周りを飲み込んでデカくなっちまって、しまいにゃこの惑星(ほし)を飲み込んじまう。下手すりゃ消えるまでデカくなり続けて、恒星系全域を飲み込むだろうねぇ。幸い、ざっと見た感じ……範囲三〇兆キロメートル以内に生物のいる星はねぇみたいだけども……ここ以外ね」

 

 黙って聞いていた。

 スプリガンも、他の氏族長も、モルガンも、ガウェインも。

 妖精の官司たちが、相変わらずざわめいている。

 

「全く無関係の惑星(ほし)滅ぼして俺だけサイナラってのは、まぁ、俺の心持ちとしてむちゃくちゃ気持ち悪りィもんよ。明日食う飯は美味い方がいいに決まってら。だから、とりあえず、ここで傷を癒やし体力を回復させるのよねん」

「なんと。あなたはこの星そのものを破壊できると……」

「スプリガン────」

 

 呼んだのは、モルガンであった。

 重く、静かに、スプリガンを呼んだ。

 荘厳な部屋。

 響く声。

 空間に溶けてゆく声。

 男……ゴローに支配されかけていた空気が、女王モルガンのものへと目に見えて変わっていく。

 

「し、失礼いたしました陛下。私、少々調子に乗りすぎたようで……ご、ご容赦いただければ……」

「わかれば良い。ゴロー」

「なんだい、女王陛下?」

「…………」

 

 微笑を携えて、ゴローはモルガンを見た。

 

「確認だ。傷が癒えれば、おまえは私の國から立ち去るのだな」

「なンか、嫌われてるみたいだねぇ、俺」

「……答えよ」

「ン──……そうだね、俺は別に、生きるためにこの世界に寄り添う必要はないし、この世界も、生きるために俺に寄り添う必要ないみたいだし、まぁ、そうだねぇ」

 

 曖昧な返事であった。

 ゴロー自身、何か後ろめたいことでもあるのか。

 ちらり、と彼は首だけを振り返った。

 彼の視線が呆然と彼を見ていたガウェインとかち合った。

 

 ガウェインはどきりとした。

 助けを求めるような、弱々しい目であった。

 何かを確認するような、睨めつくような目であった。

 

「女王陛下! 斯様な詐欺師に騙される必要はございません!」

 

 声を荒げたのは、ウッドワスであった。

 氏族たちの中でも、牙の氏族は特にその力に自負と責任を課す。

 彼からしたら、ゴローの言うことは耳障りであるし、その耳障りな音に女王陛下までもが真剣に耳を傾けている現状が気に食わなかった。

 

「貴様が強いことはわかる。だが、この大地を破壊できるだと? 法螺吹きも大概にしろ! 大地がなくなれば我々も死ぬだろうが、貴様も死ぬだろう!」

「いンや? 俺は星の爆発ぐらいじゃなんともないけど……」

 

 あっけらかんと言い放つのは、それが彼にとっては事実だからか。

 それとも、威風堂々と振る舞うことこそが、実は詐欺に置いて相手を騙すための常套句だからであろうか。

 官司の妖精たちも半信半疑である。

 スケールの大きさがあまりにも馬鹿馬鹿しすぎてついていけない。

 そうだ。馬鹿馬鹿しい。

 だから、ウッドワスは敢えて挑発してみせる。

 ここに至って、ゴローの強さが少なくとも法螺の類でないことに感付いているものは、女王モルガンを除けば何を隠そうウッドワス本人だと言うのに。

 

「そうだなァ……三分間」

 

 ゴローが、指を三本立てて、ウッドワスに言った。

 ウッドワスがそれを見たのを確認して、次にモルガンの方へ向いた。

 

「こういうのはどうだい? 三分間。俺はなんの力も使わないし、手も出さない。三分間サンドバッグになるよ」

「何……?」

「その間、なんだって使うといい。拳も、爪でも、牙でも、剣も、槍も、斧も、弓も、鉄砲も、爆弾も、ミサイルでも、核でも、毒でも、魔法でも魔術でも、呪いでも、なんだっていい。悪意でも善意でもいいさ。数に頼ってもいい。ずるい手も卑劣な手も、何したっていい。この世界にあるありとあらゆる敵を殺す方法を、使用(つか)うといい」

 

 ゴローは笑顔だった。

 悪戯っ子のように、コロコロとした笑顔だ。

 心の底から楽しんで喋っていた。

 

「だが、そうだなァ……三分すぎたら、そうだなぁ……三分間で俺を殺せなかったら、俺はこの惑星(ほし)をその場で破壊する。木っ端微塵にしてやる……ってのはどうだい?」

「なにっ……!?」

 

 挑発したウッドワスにとっても、まさかの言葉だったのだろう。

 ゴローは胸に手を当てて、うんうんと頷いている。

 

「俺がこの星にお世話になっている間は、ずっとそうしよう。いつ、どこでもいい。飯食ってる時でも、便所に行ってる時でもいい。寝てる時でもいいぜ。俺を殺したくなったら、その瞬間に殺しに来るといい。俺は三分間、誰が相手でもどんな状態でもサンドバッグになろう。だが、誰が相手でも、三分間で俺を殺せなかったら、俺はこの星を消す……ウン、いいな、これ。これでいいな。そういうことにするよ」

 

 むしろ──

 

「今、この場で始めても良いんだぜ? むしろ、これが最初で最後のチャンスだ。俺がまだ、なんとなくでしかこの世界の力を掴めてない状態だからね。主だった戦力は、ここにいるみたいだし……ああ、笑いが止まらねぇよ。俺が知らない初見殺しで、この俺があっさり死んじゃうかもしれないって考えるとよ」

 

 顔を掌で叩いて、目を覆って空を仰ぐ。

 あちゃあと笑う。

 本気だ。

 この男は本気で、今この瞬間から、殺し合いをやっていいと考えている。

 この場にいる全員を相手取って、なお赤子の手をひねるが如く、全滅させられると確信している。

 空気が、ピリピリと張り詰めていく。

 気のせいか、ゴローの身体が、大きくなっている。

 むくり、むくりと音を立てて、その肉が熱を持ち、膨れ上がっている。

 熱気のせいか、大きさのせいか、ゴローという男の存在感のせいか、この場にいる誰もが、我と彼の距離感がおかしくなっていた。

 

「まぁ、ざっと見た感じだけど、この世界に俺と戦えるヤツはいないし、俺を殺せる武器はないケドね……たぶん」

 

 ──静まれ

 

 吐いた唾の行き所に迷うウッドワスを、モルガンは救った。

 杖と共に打ち鳴らす女王陛下の言葉は、なんと心に染み込むことか。

 その心の焦りを、戸惑いをかき消すことか。

 

「よく分かった。ゴロー、おまえは我々から攻撃しない限り、この世界の誰もを傷つけるつもりがないということが」

「スゲェな。そう言う解釈するんだ」

「ならば、私からおまえにあれこれ指図することはせぬ。部屋の用意ぐらいはするが、あとは勝手にするがいい」

「痛み入るぜモーガン……いや、モルガン・ル・フェイ」

「モルガンだ」

 

 

【挿絵表示】

 

 

 どしん、と彼女は杖をついた。

 怒りがあった。

 

「私は、モルガンだ。妖精國の女王。それ以上ではない」

「……こいつァ失礼」

「では、話もまとめられたようですし、ゴローさま。好きになされるのでしたら、是非私の治めるノリッジにおいでください。煤臭く、鉄と商業の街ですが……できる限りのおもてなしをしましょう」

「あ、ずるいわスプリガン。ねぇねぇ、ソールズベリーにいらっしゃって。外のお話、たくさん聞かせてほしいの」

 

「ガウェイン」

「え、はひゃい!?」

 

 はしゃぎたてる氏族長たちを無視して、モルガンはガウェインを呼んだ。

 当の本人は、すっかり蚊帳の外に置かれていたためか、突然の呼び掛けに驚いて、うっかり舌を噛んだ。

 

「ゴローを最初に発見し、手当てしたのはおまえだったな」

「はっ! ……手当はしていませんが」

「ならば、マンチェスターに連れてゆくが良い。あそこの気風はそのものには良く馴染むであろう」

「私が……面倒を見るのですか」

「不服か?」

「い、いえ……陛下のご命令です。承りました」

 

 

3.

 

 

 王室から出る前に、ゴローは言った。

 

「スプリガンと……オーロラちゃん? だっけ? おまえさんたちの力は把握したから、後で寄らせてもらうよ」

 

 そう言って、ゴローはガウェインに連れられた。

 王室の出入り口の前でゴローは振り返り、頭を下げた。

 出入り口から直線状に、玉座はある。

 つまり、ゴローは部屋の全員に。

 なにより、モルガンに対し丁寧に頭を下げたのだ。

 

「お騒がせしました……そして、ありがとう」

 

 ──んでもって、よしなにね。

 

 それだけ言うと、びしりと背を伸ばして胸を張って、踵を返した。

 




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