【完結】妖精國に落ちた超越者が、妖精騎士たちにほんの少しだけ救いを与えるお話【挿絵有り】   作:ロウシ

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第三章最終話です


第四話:痛みは初めのうちだけ、慣れてしまえば大丈夫

0.

 

 

 星が見えていた。

 

 風が強くなっても、

 雨が強くなっても、 

 吹雪の日も、

 星が見えていた。

 

 目が開けられなくなっても、

 炎に体が焼き尽くされても、

 刃が体に突き立てられても、

 

 星が、見えていた。

 

 炎が包んでいる。

 全てを飲み込む炎である。

 救世主トネリコが積み上げた世界を、塵芥とせん炎であった。

 

 炎の真ん中で、トネリコは倒れる人の頭を抱き抱えている。

 血を吐いていた。

 致死量の血である。

 内臓が溶けていた。

 既に、死んでいた。

 トネリコは手が、胸が、血まみれになることなど気にもせず、震える手で、その頭を抱き締めていた。

 その顔はぐちゃぐちゃに歪んでいた。

 まず、憤怒があった。

 次に、悲しみがあった。

 次に、混乱が脳をかき混ぜた。

 

 ──ウーサー。

 

 妖精國をひとつにできたはずの英雄。

 何ひとつ疑いなく毒酒を煽り、そのまま息絶えた愛する──愚かな人。

 トネリコは空を見上げた。

 次にトネリコを包み込んだのは、放心であった。

 

 終わった。

 全てが終わった。

 全ては徒労に終わった。

 こんどこそ、と思った。

 だが、無駄だった。

 

 妖精たちは、学ばない。

 原罪を抱えながら、その罪を知らぬ者たち。 

 原罪を抱えながら、今なお罪を重ねる者たち。

 

 それだけなら、

 その事実だけなら、

 あるいはまだ、トネリコは絶望に落ちなかったかもしれない。

 ウーサーの死を背負って、また歩き出せたかもしれない。

 まだ、彼女の意志で、立ち上がれたのかもしれない。

 

 トネリコは空を見た。

 そして、それを見てしまった。

 

 

 星があった。

 

 

 風が強くなっても、

 雨が強くなっても、 

 吹雪の日も、

 どんな時にも見えていた星が、変わらずに。

 こちらの想いなど、何ひとつ知ったことかと。  

 何ひとつ衰えず、輝いていた。

 

「うわああああああああッッ!!!」

 

 まだ、歩けというのか。

 まだ、救えというのか。  

 

 幾度も救った。

 幾度も道を示した。

 幾度も争いを諌めた。

 

 だが、妖精は妖精であった。

 だが、罪人は罪人であったのだ。

 

 それでも、まだ足りないと? 

 この身を文字通り粉にしても、まだ足りないと?

 ウーサーが死んでも、まだ足りないと?

 

 …………

 

 トネリコは泣いた。

 トネリコは泣いた。

 声が枯れるまで、

 その喉が裂けて血が出ても、

 泣いて泣いて、泣き続けた。

 

 そして、走った。

 ウーサーの額に、残った最後の理性でキスを重ねて、トネリコは走った。

 がむしゃらに。

 まだ、燦々と光る、あの星向かって。

 それしか、知らなかった。

 どんなに憎くなっても、どんなに怒りを覚えても。

 他に道があるとは、知らなかった。

 

 やがて、星は見えなくなった。

 

 ブリテンが落ち着いた頃。

 建てられた、罪人の罪を乗せた机を見た頃。

 円卓の騎士と、ウーサーの物言わぬ、半白骨化した首が並んでいるのを見た頃。

 

 星が、見えなくなっていた。

 

 ──お前たちを救わぬ。

  

 心に灯ったものは、増悪であったか?

 

 ──お前たちを許さぬ。

 

 心を殺したものは、悲哀であったか?

 

 ──ブリテンは全て私のもの。

 

 声の代わりに吐き出されるもの。

 それは、あの大穴の主と同じものであったか?

 

 それでも、なお、なぜ……

 

 なぜ、私は──

 

 

1.

 

 

 オックスフォード。

 昼。 

 今日は、特に風が心地いい。

 この街の、どこにでもあるレストラン。

 ウッドワスと、ゴローがいた。

 大きくも小さくもない、普通の丸いテーブル。

 テーブルクロスは薄い生地の布だが、悪いものではない。

 二人で、対面に座して、卓を囲んでいる。

 ウッドワスはジャケットを羽織っていた。

 装飾煌びやかで、パリッと張った良いジャケットである。

 毛並みもいい。最近の好調さが窺えた。

 ゴローは、いつもの黒いTシャツと黒ズボンに、頭には尾の長いバンダナ。

 いたってラフな格好である。

 ベクトルが真逆であった。

 だが、お互いに、街中のごく普通のレストランで食事をするには、些か似合わない格好であった。

 

「ウマいねぇ」

 

 ゴローは箸で摘んだ野菜を、慣れた手つきで口に運ぶ。

 ひとつ噛むたびにしゃくり、と音がした。

 しゃくり、しゃくり。

 ニンジンのようなもの、レタスのようなもの、かいわれダイコンのようなものが、口の中で同時に弾ける。

 みずみずしく、適度な歯応えがあった。

 それでいて、少し野生の味がする。

 その臭みを消すためか、ドレッシングが少し辛い気がした。

 だが、ウマい。

 米に合う強さをしている。

 この野菜は、米を引き立てられる。

 元は肉食を好むであろう、牙たちに合わせた故の、濃い味つけなのだろう。

 残念ながら、備え付け(セット)はパンであったが、当然ながらそれでも合う。

 

「幸いだ」

 

 ウッドワスは短く言った。

 だが、安堵の気持ちが詰まっている。

 ゴローにはよく、わかった。

 彼も、その口に、ゴロー以上に丁寧に、几帳面にフォークを使って野菜を運んでいる。

 ウマいものだ、と思った。

 同時に、それがどれほどの訓練を要してたどり着いた境地か、想像に余りある。

 

「良いお店だねぇ」

 

 素直な感想であった。

 キッチンと、カウンター。

 丸テーブルがいくつか。

 カウンターの裏には、酒棚。

 簡素な木作りの店だ。

 歴史は古そうだが、清潔感がある。

 店内の空気に独特の『味』がある。

 オックスフォードの道と、この店を隔てるのは一枚の壁。

 しかし、この中と外は、同じ時間に存在するだけの、まるで別空間であった。

 こういう空気が、ゴローはたまらなく好きであった。

 

「おまえは変に格式ばった所より、こういう所の方が好きだと思ってな」

 

 フォークを置いて口周りを拭く。

 動作はあくまで丁寧である。

 

「よく、見てるねぇ。流石だよ」

 

 余裕が窺える。

 今のウッドワスは、初めて見た時とは比べものにならないほど落ち着き──失礼な物言いをすると、知性を感じる。

 感情や本能を押し込めて、一生懸命そう振る舞っているのではなく、ごくごく自然に品格を纏っている。

 傍目からみて、何も問題はないように見えた。

 だから、聞いた。

 改めて。

 

「で、俺に用があるって……なんなのかねぇ?」

 

 ウッドワスはフォークを置いた。

 音もない。

 素晴らしい振る舞い(マナー)である。

 

「ああ、実は……陛下に、贈り物をしたいのだ」

 

 少し言い淀んだ。

 やましさからではなく、恥ずかしさからであろう。

 顔を近づけて、ボソリと言ったからだ。

 耳を傾けて、ゴローは聞いた。

 ほぉーと間伸びした返事を返した。

 わざとらしくとぼけた声で聞く。

 なんで、また?

 この時期に?

 

「最近、思うのだ。私は……お前と戦うより前の私は、陛下にいらぬ心労を強いていたのではないかと」

「うん、うん」

 

 ごもっともな話だねぇ。

 とは、口に出さなかった。

 

「だから、その謝辞を込めて……」

「なるほどねぇ。ウッドワス、おまえさんほんっと、根が真面目なンだねぇ。ガウェイン並みだよねぇ」

「……からかうな」

 

 気はずさしさが混ざったか、目線が少し、強く鋭くなった。

 悪いねぇ、つい。

 とゴローは言った。

 

「贈り物かぁ……うーん。普通、果物とか、花……? あとは、宝石……アクセサリーかねぇ?」

 

 ふと浮かぶのはその辺。

 ぶっちゃけ、モルガンならなんでも喜びそうだねぇと思った。

 それを、彼女が顔に出すかは別として。

 

「宝石か……」

「それなら、俺からスプリガンにひと声かけりゃあ、たぶんノリッジでいっとう良いのをもらえるかねぇ? たぶん」

「それでは意味がない」

 

 なんで、とあえて聞く。

 なんとなく、返ってくる言葉は予想できていた。

 

「それでは、私を通すだけの、おまえの贈り物になってしまうではないか」

 

 ぷっ、と吹き出した。

 

「マナーが悪いぞ」

「いや、悪いねぇ。ほんと、すまんねぇ。ただ、ちょうど昨日、全く同じ悩みを聞いたし、今のと全く同じ口を聞かれたモンで……思い出し笑いだねぇ。シンクロニシティだねぇ」

「しん……くろ? なんのことだ?」

「ひっひ。みんな、女王陛下のことが、ダイスキだってことさね」

 

 当然だろう。

 とウッドワス。

 

「女王陛下は、数多の戦いを乗り越え、その果てに今の妖精國をお造りになられたのだ。今日まで続く二千年の平和も、全て女王陛下の御力の賜物なのだぞ? それを……最近の妖精どもときたら……」

「はいはい、そこまでだねぇウッドワス。それ以上言うなら、俺ァ帰るよ」

 

 ぐい、と水を飲み干して、ゴローは言った。

 比較的力の篭った言葉であった。

 ウッドワスは、ふぅ、ふぅと気持ちを落ち着かせた。

 ゴローが水を差し出すと、すまない、と言って受け取った。

 

「おまえさんが女王陛下をダイスキなのは、わかってるよ、みんなね」

「み、みんなか?」

「いやぁ、そりゃあ……わかりやすいもンねぇ」

「そ、そうか?」

「その気持ちを、そのまんま伝えりゃア、良いんじゃないかねぇ?」

「いや、ダメだ。『ありがとうございます』や『おつかれさまです』では、この心を伝えきれるとは思えん……」

「ン──……一理、あるなぁ。それは」

 

 食べ終わり、皿を片付けられた。

 男二人、頭を悩ませる。

 空になったウッドワスのグラスに、店員がワインを注ぐ。

 食後の口直しということだろうか。

 ゴローは丁寧に断った。

 

「嗜まんのか?」

「いや、俺ァアルコール効かねンだよねぇ。速攻分解しちゃってさ……」

 

 難儀なものだな。

 とウッドワスは思う。

 強い肉体。

 おおよそ、この世界に──いや、物質領域に並ぶもののない肉体。

 で、あるならば、酒に酔えぬもまた道理。

 ウッドワスは思う。

 これほどの強者が、強者だからこそ、酒を味わうこともできない現実。

 それは、世の無常と。

 

「まぁ、仮に酔っ払って、加減間違えて地団駄踏んだら、惑星(ほし)、吹っ飛ばしちまうしなぁ……」

 

 強すぎるというのは、それはそれで困り物である。

 

 笑えないことでからころと笑うのは、そのまま住む世界(スケール)の差。

 すなわち、それは住まう世界の常識の差でもあるのだろう。

 ウッドワスはワインをちびりと口にした。

 笑みを浮かべる中で、あ、とゴロー。  

 思い出すように手を叩く。

 そうだ、と切り出した。

 

「あってみるかい?」

「何? ……何とだ?」

「俺がさっき言ってた、同じコト言ってきたやつと」

 

 なるほど、ウッドワスは頷く。

 同じ悩みを抱える者同士、話し合えば何かしらの名案が浮かぶかもしれない。

 しかし、これはどちらかというと秘密にしたいことでもある。

 だから、わざわざゴローを呼び出して相談を持ちかけたのだ。

 

 そこは、心配しなくていいよ。

 ゴローは言った。

 

「そいつも、ウッドワスがモルガン……陛下を愛してるって、知ってるからねぇ」

「ち、ちがっ……いや、敬愛であってな。情愛ではあるがな! その……汎人類史とやらでいうところのつがい的な意味では……」

「なンで、自分でベラベラ言っちゃうンだ。おまえさんは……」

 

 

2.

 

 

「で!? 同じ悩みを抱える同志が……なんっでこのクソ犬なんだよえーっ!?」

「それはこっちのセリフだ! よりにもよって貴様とは……どう言うことだゴロー!? 貴様謀ったか!?」

 

 似た者同士だよねぇ。

 自分に飛ばされる怒号を軽く流しながら、ゴローは隣に立つ男に同意を促す。

 

「なんで私の部屋でやるんですかね……?」

 

 隣に立つ男。

 項垂れる声の主はスプリガンである。

 ウッドワスとトリスタンの合流場所は、ノリッジであった。

 もっと言うと、合流してからゴローが連れてきたのが、スプリガンの金庫城の私室である。

 

「いやァ、キャメロットでやったらモルガン……陛下に、筒抜けじゃない? その点、ここなら大丈夫さぁ」

「マンチェスターでやってくださいよ!? あなた建前とはいえガウェイン卿の預かりでしょうに!!」

「いやねェ……今、あっちじゃ騒ぎにくいンだよねぇ……」

「いやいやいや! 遠回しに『私の部屋なら騒いでもいいや』って言ってますよねそれ!?」

「だって、ここ、頑丈じゃない」

「あなた方のために頑丈なワケではありませんよ!?」

 

 はぁと頭を抱えるスプリガンを余所に、トリスタンとウッドワスの睨み合いは続く。

 

「断じて認めんぞ! 貴様の常日頃からの軽薄な振る舞いが、陛下の信用をどれほど失墜させていると思うのだ!?」

「へっ! お母様にしっぽふりながら、オーロラのムネとケツに目移りしてる好色ジジイに言われたかねぇーよ!! 綺麗なオンナなら誰でもいいんだろぉ!?」

「なんだとぉ……!」

「なによぉ……!」

 

 同レベルですね。

 とスプリガン。

 似てるよねぇ。

 とゴロー。

 

「はいはいはいはい。二人ともその辺にしときなさいな。二人が二人とも、モルガン陛下を愛してるってこたァ、よーっくわかったでしょ?」

「認めん!」

「わかんねぇよ!!」

 

 堂々巡りですね。

 とスプリガン。

 ハラを決めたらしく、表情は死んでいるが言葉は冷静であった。

 

「まぁ、ひとの心にゃア、四つの層があって、本人じゃあ気づかない自分ってモンが、絶対、あるからねぇ」

「心理学ですか?」

「ウン、それ」

 

 ひとりの人間には、大きく分けて四つの自分がいる。

 それは、ひとりの人間に内在する多面性を、領域ごとに大まかに分けたものだ。

 表層、中層、深層、最深層の四つである。

 

 表層とは、自分が認識する自分である。

 自分はこう言う人間であると言う、自己認識である。

 中層とは、他人が認識する自分である。 

 この人はこう言う性格なんだ、という他者からの認識である。

 深層とは、自分にも他人にもわからない自分である。

 自己に内在する認識不可領域のことであり、感情が追い詰められたりすると表面化する、いわゆる本性の部分である。

 最深層とは、本能に近く、しかし理性にも似る『何か』である。

 私生活では決して見ることができない。

 死に面するような極限状況が続くと、ようやく顔を出す領分である。

 修験者や悟りを目指すものがたどり着く境地でもあり、平和な世界に身を置く人間では、たどり着くことは決してない場所である。

 

「確かに。自分で自分のことは、案外見えていないものです。私もオーロラに目が眩んでいた過去を、実感したばかりですしね……」

「ありゃあ、しょうがねぇさぁ。オーロラちゃん、見た目もそうだけど、口、ウマいんだモンよ」

 

 たぶん、行動力もあるでしょ?

 とゴローが言うと、スプリガンは黙って頷いた。

 

「それより、止めなくていいんですかと言うか、そろそろ力ずくでも止めてもらいたいのですが……」

「ン? ああ、そうだ──」

 

 言葉を断ち切った。

 ゴローがばっ、と窓に目を向けた。

 スプリガンがどうしたかと同じ方を見る。

 何もない。

 ゴローは窓ではなく、『その先』を見ているようであった。

 

 遅れて、ウッドワスとトリスタンも、同じ方を見た。

 二人とも、驚愕に目を見開いていた。

 

「──なんだ?」

 

 ゴローが言った。

 間延びも訛りもない。

 普段とは明らかに、違う声色だった。

 

 三人は、外に飛び出した。

 遅れてスプリガンも飛び出し──それを、見た。

 

 キャメロット城から伸びる、大きくて、白い光を。

 天を貫く光。 

 直視できぬほどの光。

 遠くだと言うのにここまで熱波が届く。

 それは茜色の空を歪め、次元を貫いていく。

 

「な、なにが起こっているのですか……!?」

 

 腕で目を庇いながら、スプリガンは瞼の狭間からそれを眺める。

 トリスタンも、ウッドワスも、息を呑む。

 

 ただ、ゴローだけ。

 

「大したパワーだ」

 

 と感心していた。

 

「ロンゴミニアド……か……!」

 

 ウッドワスが、光の正体をつぶやいた。

 トリスタンは震えている。

 恐怖だ。

 気圧されたか、

 あの光から感じる力は、間違いなくモルガンのものだった。

 そして、指向性のある光の伸び方であった。

 つまり、偶発的な魔力の暴発ではないだろう。

 モルガンは、空の果ての『なにか』を狙撃するために、意図的にあの大魔力を放ったのだ。

 

「陛下ァ!!」

 

 金庫城からそのまま飛び降りるウッドワス。

 ゴローはトリスタンを抱えた。

 震えていた。

 

 大丈夫だ。

 

 優しく声をかけた。

 まだ震えは治らない。

 だが、トリスタンは弱々しくも、こくりこくりと頷いてみせた。

 

「今から、キャメロットに飛ぶ。一緒に行こうな」

 

 同意を促す言葉は、柔和であたたかであった。

 トリスタンの心を少しでもほぐす。

 そう言う意図を込めていた。

 

 また、こくりと頷いた。

 声はなかったが、ゴローはにこりと笑った。

 トリスタンが、ゴローを見上げた。

 

「スプリガン」

  

 呆気に取られていたスプリガンが、名を呼ばれて我に帰る。

 

「ちょっと、女王様に会ってくる」

 

 お、お気をつけて……

 かろうじて発した言葉が、身を案じるそれであった。

 ゴローはにっ、と笑った。

 太く、分厚い微笑みであった。

 

 そして、トリスタンを気遣いながら、キャメロットに向かって飛んだ。

 

 

 おそらく──

 

 ゴローの脳裏には、似たような光景が浮かんでいた。

 何億何兆何京もの戦闘経験から、()()の意図を察する。

 意味は、いくつかあるだろう。

 だから、間違い無いだろうと思うものをまず、挙げる。

 

 あれは、狼煙だ。

 

 つまり、宣戦布告に等しい。

 誰に対してかは、なんとなく見当はつく。

 

 だが、やりすぎではないか。

 あの光は、あの熱量と速度ならば、ひとつの惑星(ほし)にあるものでは、到底耐えられないだろう。

 その惑星上に存在する程度の、物質領域の存在であるならば、ほぼ全てのものを灼き貫くであろう光だった。

 

 誰を狙ったか。

 あるいは、どこかの世界(ほし)を破壊する気だったか。

 

 空を飛ぶ中で、さらに。

 ゴローは気づく。

 

 ブリテンの果て。  

 この世界(ブリテン)の、どんな物質より大きな樹が、その内側から燃えていることに。

 

 なにが起こっている?

 あるいは、モルガンが何かを起こしているのか。

 

 モルガンは馬鹿ではない。

 暗愚でも、暴君でもないとゴローは確信している。

 

 だが、あの光に関しては、愚かしい『なにか』の引き金になることを予感していた。

 

 ブリテンに良くない何かをもたらす光の狼煙だと、確信していた。

 




第四章、青空へと続く
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