【完結】妖精國に落ちた超越者が、妖精騎士たちにほんの少しだけ救いを与えるお話【挿絵有り】   作:ロウシ

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前回第四章終わりと言ったな、あれは嘘だ


第五話:ぴかぴかに光った銃で、できれば僕の憂鬱を打ち倒してくれればよかったのに

1.

 

 

 ペペロンチーノとの会話は弾んでいた。

 

 ゴローとぺぺは、まず彼らが得ている情報を交換しあう。

 ゴローは自身が何者であるのか。

 なぜ妖精國にいるのかから始まり、妖精國のこと。

 中でも、特にモルガン臣下の氏族長たちの人間性や、モルガンの統治に対する動きや心象。

 キャメロットを中心として、各領地のこと。

 ロンディニウムの円卓軍を含む、各々のパワーバランスなど。

 おおよそ自分の立場だから掴めたことを。

 ガウェインの表情を横目で伺いながら、言葉を選び、喋った。

 

 ペペロンチーノは主にクリプターを中心に。 

 なぜ、自分が妖精國にきたのか。

 自分が担当していたインド異聞帯のこと。

 オリュンポスで起きた『異星の神』に関わること。

 そして、クリプター──『異星の神』と敵対する、カルデアのこと。

 

 特に盛り上がりを見せたのは、キリシュタリア・ヴォーダイムのことについてであった。

 

「素晴らしい人だねぇ」

 

 ゴローの感想はしみじみとしたものだった。

 ぺぺの口から出るキリシュタリアの人間性を、噛み砕いて消化していた。

 

 ええ、すごい子だったわよ。

 ペペロンチーノも、素直に賛同を示す。

 ただ……と、ゴロー。

 

「人類を全員神にする……それに関しては、いただけないねぇ」

 

 そうね、とぺぺ。

 表情に、諦めのような念が浮かんでいた。

 

「人が、神の如き力を持っても……いいえ、その力を持つからこそ、今度は外宇宙に進出して、宇宙領域で世界を奪い合い、戦争をする……理屈としてはわかってたことだけど、いざ当事者に聞いてみると……残念ね」

 

 キリシュタリアは、高度な知的生命体が、さらに神の力を有することで、その力に責任を見出してあらゆる諍いがなくなると信じていた。

 だが、各々が世界を変え得る力を持ったとしても、それはただ領分(スケール)が変わるだけで、ヒトそのものが劇的な進化を遂げるわけでは無いのだ。

 

 変えるべきは、力ではなく心。

 

 キリシュタリアの盲目さは、おそらく大衆としての人間を二律的に、『良いか悪いか』の極端に捉えていたことにあるのだろう。

 そうでなければ、ベリル・ガットが自分を殺すことに──それを思いもしなかったこと。

 殺人者としてのベリルの思惑に疑いを持たなかったことの、説明がつかない。

 クリプター二人の口から聞くキリシュタリアが、ベリル・ガットの本性を見抜けていない人間には、ゴローには思えなかった。

 

 人間の性質とは、単純だが複雑なのだ。

 もっというと、人間の性質というより、社会的な性質に組み込まれる際に、複雑化せざるを得ないと言っていい。

 たったひとり、あるいはふたり、あるいは百人なら、皆が善人であるか悪人であるか、あるいはそのふたつの派閥に分かれるかもしれない。

 しかし、二千十七年の地球人口は七十億にものぼる。

 それだけヒトがいるのだ。

 それだけヒトの考えがあるのだ。

 それだけ、ヒトの営みがあるのだ。

 二千二十二年現在ですら、人間はどんなに優秀なリーダーが率いる集団(コミュニティ)であっても、ひとりの人間がコントロールできるコミュニティの限界は百五十人程度とされている。

 それを越えてしまうと、リーダーの目が全体に行き届かなくなり、いわゆる平民層の隠し事が増える。

 中間層が、利己的に私腹を肥やすのを、見逃さざるを得なくなる。

 不平や、不満。

 善の感情や悪の感情が、見えないところで膨れ上がり、複雑に絡み合う。

 そしてある日、目に見えず肥大し続けたそれは、偉大なるリーダーの思惑を越えた「何か」となって爆発し、コントロールを失ったコミュニティは崩壊するのだ。

 

 キリシュタリア・ヴォーダイムは、その解決に人類の高次元生命体化を選んだ。

 しかし、人間は賢い。

 愚かだが、賢い。

 ヒトがまだ、猿に近かった時代。

 賢くも拾い上げた石や骨を武器とすることを決めてから、わずか四万五千年足らずで原子宇宙の力を用いる兵器──水爆を開発して、人類そのものを百万回滅亡させるオーバーテクノロジーを手に入れたのである。

 

 つまり、ゴローに言わせれば、人類の神化とはつまるところ、いわゆる汎人類史のそれと比べて──得るものが神の力か、水爆かという違いでしか無い。

 そんなことを、ペペロンチーノとベリルの口から語られる、キリシュタリア・ヴォーダイムという人間が、わからないほどに愚者だとは、ゴローには思えなかった。

 

「しがみついたんだねぇ」

 

 と、ゴローは言った。

 憐れみの声であった。

 あるいは、祈るような声色であった。

 それしかなかったのだ。

 時間がなかったのか、状況的な崖っぷちか、あるいは両方か。

 もう、そうするしかないほど、人類に絶望していたともとれる。

 しかし、キリシュタリアという人間のすごいところは、それでも人間の可能性を信じたのだ。  

 崖下の絶望に身を投げるのではなく、崖ぎわで自らを奮い立たせて、真っ直ぐに歩んだのだ。

 落ちれば、楽だっただろう。

 しかし、彼は苦難を選び、あまつさえそれを乗り越えんと踏み出したのだ。  

 世の不条理に立ち向かい、そして、愚かにも死んだ人間なのだ。

 

 『勇猛な馬鹿ほど手に負えないものはない』とは、ゲーテの言葉であったか。

 そんなことを、ゴローは思い出す。

 

「アナタのような人と出会えてたら、キリシュタリアも、もっと違う道を歩めたかしらね……」

「ああ、ぜひ、俺も。あってみたかったねぇ……」

 

 ペペロンチーノも、ベリル・ガットも、一筋縄ではいかない曲者である。

 にもかかわらず、彼らをして死の間際までリーダーと認めさせていた胆力、器量は素晴らしいと言わざるを得ないだろう。

 人類の神化。

 馬鹿げた話ではあるが、その馬鹿を貫かんと、かの『至高者(いとたかきもの)』と並んで語られることさえある、大神ゼウスと一騎討ちを行い、その力を認めさせたのだ。

 なんという大馬鹿で、タフな男であろうか。

 ゴローは考える。

 果たして、自分がキリシュタリアの力をもっていたとして、同じ目的を胸に秘めたとして、だ。

 同じことが、できるであろうか?

 『全能の雷』を持つ絶対者に、挑めるであろうか?

 それを想うと、どうしようもなく身体が震えてしまう。

 なんという男だ。

 なんと素晴らしい人間だ。

 心の底から感嘆する。

 彼は、ただ、ほんの少し、道を踏み外しただけなのだろう。

 それが、致命的であったのだろうが……

 

 合掌を、ささげた。

 ゴローのそれは、ごく自然とそうなった。

 ペペロンチーノもまた、一間のあと、合掌した。

 ガウェインも、たどたどしく手を合わせて、目を瞑り、祈った。

 

 ()のものの誇りと、生き様にである。

 

 

2.

 

 

「アナタ、本当になんでも褒めちゃうのね」

 

 ふふ、とペペロンチーノは言う。

 当然さね、とゴローは返した。

 

「そりゃアね、俺の人生観は、『人に苦点なし、常世に苦諦(くたい)なし』だモンでね、そうなるとよ、人には褒めるとこしかねぇのさ、ペペさん」

 

 人の世の苦しみとは、実は常世(そこ)には無いのである。

 世の苦諦の全ては、人が生み出し、育て、蔓延させるもの。

 その根源は人の欲望である。

  

 よく良くありたい。

 『より美しく──』

 『より逞しく──』

 『より強く──』

 『より楽に──』

 自らをより高みへと押し上げんとする欲望。

 自らが持たぬものを、持つものに対する羨望。

 それらが、人の世を蝕む病の正体である。

 それらが、人の心の内に、怪物となって現れる。

 シェイクスピアは『オセロー』において、その怪物に『嫉妬』という名を付けた。

 怪物──嫉妬は、手始めにその人の心を喰らう。

 心を喰われると、次第に身体も支配されていく。

 身体のすみずみまで充満した怪物は、その醜さを増長させながら外へ外へと広がっていくのだ。

 それが常世に蔓延る『苦諦』の正体である。

 先に述べた、人間社会──コミュニティを破壊する「何か」の正体なのだ。

 

 ひいては、キュルケゴールなどの哲学者たちが、この怪物によって人は死ぬのだと気づき、それを各々に名づけし、分解して、各々の言葉として残している。

 キュルケゴールは人類そのものを死に誘うそれを『絶望』と表現し、それは人の意識の(へき)の数だけ存在する──人が人である限り、常在不滅のものだと説いた。

 詩人でもあるゲーテはそれによる人や社会の停滞──足の引っ張り合いこそ、やはり人や社会に死と退廃を与えるものだと謳った。

 ミルトンは逆に、その絶望性こそが、人が神に反逆しうる自由意志──世に(いで)しサタンの具現化であり人の可能性だと説いた。

 文学作家のエドガー・アラン・ポーなどは、それに侵された者を、自らの作品の中で、『あるいは、人間以上──もしくは、人間以下の存在』と書いている。

 

「ずいぶんと、仏教的な考えなのね」

「まぁネ」

 

 飄々と、ゴロー。

 

「俺ァ仏教徒じゃないけどねぇ。その根本思想は好きさね」

 

 コロコロと笑う。

 原始仏教の理念は、「老いを楽しめ、どうせ死ぬ」に集約されるだろう。

 死に向かうことを、楽しむことと悟ることにあるのだとゴローは思っている。

 

 隣のガウェインには、その話たちが、何のことだかよくわからなかった。

 よくわからないが、何か、大事なことを話しているのだと、真剣に耳を傾けていた。

 ひとつひとつの言葉を噛み締めるように、聞き入っていた。

 

「人生は(から)なり、仮なり、そして中なりさね。人生の全ては意味がなくて元々。そこに、生きることで意味を見出すことが、人が神──あるいは、それに比肩する存在に与えられた祝福である……ってねぇ」

「いい考えだとは思うけど……それ、人間社会そのものの否定にも繋がっちゃうわよ?」

「もちろんそうさ。『より良き未来』のために、人は汗水流して生きる。時には血で河をつくっちまったりしちまう。足を止めるたびに自らに問いかける──他に何を望もう? ってね」

 

 ゴローの思想は、極論で言えば、それはヒトの文明の否定でもある。

 もっというと、この世に平和を築くための、極端すぎる答えである。

 創世神話的にいうと、アダムとイーヴがサタンに騙されて、知恵の実を食べて楽園を追放されて以降、人は生まれながらにして罪人である。

 『至高者(いとたかきもの)』に、そうあれかし、と定められたのだから。

 そうして、生きるために、仕事と苦悩という罪と罰を、永遠に背負ったのだ。

 欲望はそうやって、罪と罰から染み出した副産物なのだ。

 

 ならば、この世に恒久的な平和をもたらすためにはどうしたら良いのか?

 罪人しかいない世界で、絶望を滅ぼす手段とは何か?

 

 それには、人類の滅亡が大前提であると。

 それしかないのだと、ゴローの思想は遠巻きに言っているのだ。

 人が絶望を生むのなら、人無き世界──そこに、なんの絶望があろうか。

 

 それを言葉に入り組ませて。

 だからね、とゴローは続けた。

 

「ぺぺさん。何事もバランスさ」

 

 集約した一言であった。

 その言葉は、ペペロンチーノの胸を打った。

 単純だが、それを行うことは何よりも難しい。

 簡単に言えることだが、簡単に言う人間は少ない。

 ましてや、それを行える人間は、なおのこと少ない。

 全てを受け入れて、受け止めて、まずそこから。

 好きも嫌いも、美醜も、全て。

 まず己に取り込んで、そこからより良きもの、必要なものを、必要な分だけ残す。

 それができるものが、人類の歴史の中で、果たして何人いたことだろうか。

 果たして、その高みに至ったものが、『英霊の座』にある者たちを含めてすら、何人いるだろうか。

 

 ため息と共に、出る言葉。

 少し呆れ気味にも聞こえる。

 

「そうねぇ、何にしても、あくまでそういう考えも良い。ぐらいで留めるのが、世渡りのポイントなのかしらねぇ」

「俺ァ、そう思ってるねぇ。だから、これを人に、強要するつもりはねぇのさ」

 

 俺ァ、語るだけよ。

 俺の価値観、俺の世界。

 真っ白い世界(キャンバス)に、ただ、色を乗せるのさ。

 だから、それが上から別の色で塗りつぶされても、それはまぁいい。

 そういうこともある。

 それを否定するつもりもない。

 それを、また、俺が上から塗りつぶすこともあるだろうからね。

 

 太い笑みが、言葉を紡ぐ。 

 ペペロンチーノは、神妙に受け止めたあと、彼らしい笑みを浮かべた。

 

「なんだか、私ってば、今、とんでもない人と会話してるのかしらね?」

「そうでもねぇさぁ」

 

 ケラケラと笑い合う二人。

 ガウェインは言い知れぬ疎外感を受けたが、不思議と、悪い気分ではなかった。

 

 二人の言葉、そのやりとりは難しい。

 だが、必要なことを、大切なことを。

 なにより、貴重なことを聞いているのだと思えたからだった。

 

 

3.

 

 

 カルデアについての話になった。

 

「まず、ぺぺさんが来たってこたァ、カルデアとやらがくるのも、時間の問題かねぇ?」

 

 そこは間違いないわ、とぺぺ。

 

「よくて、あと二、三日でしょうね」

 

 おまえさんに、遅れる意味は? 

 とゴロー。

 

「今、たぶんあの子たち、アルターエゴ……蘆屋道満と戦ってるのよ」

 

 『異星の神』の使徒。

 この星の尖兵として、英霊の座から召喚し、使役する者たち。

 そのひとりがアルターエゴ、蘆屋道満。

 彼が特異点的な時代を発生させたことを、ペペロンチーノは確認していた。

 そして、カルデアは今、その特異点の修復に向かっているのだと言った。

 だから、少し遅れるわ。

 と言う。

 ゴローはぷっ、と吹き出した。

 

「あらヤダ、今、笑うとこあったからしら?」

「いやァ、ぺぺさん。カルデアの勝ちを、ゼンっゼン疑ってねンだもん……」

 

 あらあら。

 と言われて気づいたのか、ぺぺは自分でふふ、とわざと深い笑みを浮かべた。

 

「ええ。『異星の神』を目の当たりにしてなお生き延び、キリシュタリアまで倒したカルデアの子たちが、いまさらその小間使いに負けるハズないわ」

「ぺぺさん、実はカルデアのこと、ダイスキでしょ?」

「可愛い後輩だもの──!! 嫌いな理由はないわよー!!」

 

 やだーと大口で笑う。

 あまりに大袈裟すぎて、みているだけで面白い。

 

 それにしても、地球のシステムであるにも関わらず、他所の星の超越存在とはいえカンタンにハッキングされて、あまつさえ星を滅ぼすのに利用されるとはどういうモンか。

 善悪や理念を超越した、本当の本当に機械的なシステムなのかと思う。

 普通、組み上げたコンピュータは、原則的に生み出した人類に対して叛意を持たない。

 これは、持たないように作られていると言うこともあるが、そもそも原理的に、機械やプログラムが自ら人間的に思考することは不可能だと言われているからである。

 将棋用のコンピュータが人間の名人と一局差し合う現代ではあるが、それはバグの入り込む要素が九九パーセントない状態、ひとつのことを目的とする状況だから可能なのである。

 もし、機械が人間的な感情プログラム、複雑多岐にわたる思考と本能の矛盾点に遭遇すれば、矛盾点を解消できずに思考停止──つまり、合理的に死を選ぶのがスジであるからだ。

 もし、機械が人間の心を理解し、思考も人間相応になったとすれば、自らの不完全さに耐えられず自滅するだろう。

 シンギュラリティ・ポイント。

 機械的存在たちが、その進化の特異点到達──『超越者(ビヨンダー)』となる頂きに、決してたどり着けぬ理由がそれである。

 

 それで、とゴロー。

 

「来るとしたら、どっから来ると思う?」

「そうねぇ……」

 

 そこで、ペペロンチーノはちら、とガウェインを一瞥した。

 その意味を、ガウェインも、ゴローも汲み取る。

 

「大丈夫さね」

 

 ゴローはそれだけ言った。

 ペペロンチーノは微笑みを浮かべた。

 その言葉を、信頼しての微笑みである。

 

「いきなり妖精國のど真ん中にどーんと落ちることはないでしょうね。光の壁に阻まれてるし、それは難しいわ」

 

 で、あるならば、ブリテンの果てにある光の壁から直接入ってくるだろう。

 ならば……

 

「コーンウォールかねぇ?」

「そうね。コーンウォールか、霧の海岸……この辺だと思うわ。なにせ、ブリテンじゃあ電子機器がまともに機能しない以上、ボーダーがブリテンに上陸できないもの。近づくこともできないわね」

「移動用の船だっけ?」

「そうよ。それに、ブリテンの空気からして、おそらく汎人類史のサーヴァントは立ち入れない……だから、出てくるのはマスターとマシュちゃんでしょうね」

 

 厳しいわねぇ、とペペロンチーノは言う。

 そこについて、ゴローは聞く。

 

「あの、さ。マジでカルデアには……その、シャーロック・ホームズとレオナルド・ダ・ヴィンチがいるンかねぇ?」

「ええ。彼らの心の支え、カルデアをカルデアたらしめる優秀なサーヴァントたちよ」

 

 そいつァすげぇな。

 はー、と息を吐く。

 ふふ、とその意図を察してぺぺは聞いた。

 

「もしかして、別の彼らとお知り合い?」

「父であり、兄であり、師であり、友さね。まぁ、俺の知る彼らは……なンだけどねぇ」

「わかるわー。知り合いによく似た他人って、会うとドキドキしちゃうわよね」

「ほんと、それだよねぇ。マイったなァ……」

 

 そこからまた、少しカルデアの予定。

 また、彼らがここにくる目的が、おそらく『ロンゴミニアド』であることも話し合う。

 この異聞帯が異常な何かを孕んだ世界であることなども話していた。

 

 と、ここで、ペペロンチーノはゴローに聞いた。

 

「ところで、ゴロー。アナタはもう一年はここにいるのよね?」

「だいたい、そンくらいかな? どうだっけ?」

「そのぐらいですわね」

 

 ゴローはガウェインに聞くと、あっさりと答えた。

 答えながら、ガウェインは、もうそんなに経ったのか……としみじみする。

 色んなことが、あったな。

 ちょっと恥ずかしくなることから、嬉しいことまで。

 ゴローという人間が妖精國にもたらした日々は、夢のようであった。

 一夜の夢というには、あまりにも贅沢で、楽しい夢だ。

 

「ねぇ、じゃあ聞きたいんだけど……」

 

 ペペロンチーノの声には、戸惑いがあった。

 らしくない。

 らしくない声色である。

 この世から一歩外から、全てを鳥瞰して悟る。

 そういう視点を持っていて、はっきりとものを言うペペロンチーノにしては、迷いのある物言いである。

 

「オベロンって、知ってるかしら?」

 

 その名前は、ゴローも、ガウェインも、知らなかった。

 

 ゴローの場合、正確に言うと、シェイクスピアのオベロンは知っているが、妖精國にオベロンがいることも、それが、そのオベロンなのかもわからなかった。

 

 




正真正銘、第四章終わりです
第五章、チェインギャングに続く!
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