【完結】妖精國に落ちた超越者が、妖精騎士たちにほんの少しだけ救いを与えるお話【挿絵有り】 作:ロウシ
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第一話:僕の話を聞いてくれ、笑い飛ばしてもいいから
0.
愛など、知らねばよかったのだ。
ベリル・ガットの人生は、一言で言えば孤独であった。
人に、社会に決して相容れぬカタチで生まれた。
人の世に、深い嫌悪を抱く魔女に育てられた。
人の世に、必要のない技術ばかり教えられた。
だが、そう生まれ、そう育ったからベリル・ガットは孤独だったのではない。
ベリル・ガットは、たとえ普通の家庭の、普通の人間として生まれたとして、この時間、この瞬間にはこうなっていただろう。
それが嫌だとか、生まれなければとか、そんなことを思っているわけではない。
自分は決して人に理解されない。
自分は決して人を理解できない。
それならそれで、よかったのだ。
ベリル・ガットという人間は、世の真理を掴んでいた。
人間は、ただの容れ物である。
もっと言うと、いけとし生きるもの全てが、彼に言わせればそうである。
飯を食って、出すものを出して、寝て、起きて、年老いて、そして、いつか死ぬ。
ただそれだけの生き物だ。
生まれたからには、死ぬ。
それは生物の必定である。
魔術師の中には、不老不死を願う者もいる。
なんなら、吸血種などのその不死性は、度々語り草でもある。
人の姿形を捨ててまで、愛する者を贄に捧げてまで、それを求めるヤツはいる。
不死を得るために、人生を捨てるのだ。
ミイラ取りがミイラになる──なんてことわざは、実に的を得ていると思っていた。
ベリルは、目を闇色に輝かせて、そういうことを語るヤツを見るたびに、心中ではゲラゲラとした笑いが止まらなかった。
本当に、人を超えた力を得るとしよう。
本当に、無限万能の命を得たとしよう。
──それで、そいつは、ゼウスやオーディンより、強いのかい?
全知全能の神。
神話における主神クラスの存在のことだ。
自らの
まさしく、人理万象を超越した神だ。
彼らの存在は、語られる範囲でも、人の域を悠に越える。
──じゃあ、今、二千十七年は、
違う。
断じて違う。
今の世界は、人の世だ。
いらない者をどんどん捨てて、人の世になった。
それどころか、霊長のトップになって、今、七十億もの数に膨れ上がっている。
ゼウスは全能だ。
オーディンも、全能だ。
少なくとも、世界を作り、雷で破壊し、未来を見通す程度はできたはずだ。
それでも、どの神話の世界も、ある時期に、必ず終末を迎えて人の世が始まった。
いらないのだと。
おまえたちは、この先の未来にはいらないモノだと、この世界を構成する、抗いようのない何者かに、捨てられたのだ。
それは、根源とか、ガイヤとか、アラヤとかって言ったりするらしい。
まぁ、それがなんなのかは、ぶっちゃけどうでもいい。
大事なのは、それが真実だと言うとこだ。
それは事実で、それが事実だ。
だというのに、ヤツらは、人の身を捨ててまで、人の領分で手に入る程度の不死性や万能性に、過剰なまでの価値を錯覚しているのだ。
食いたいモノを食わず、
抱きたいモノも抱かず、
やりたいコトもやらず、
とうに、いらないと打ち捨てられたモノに執着する。
あまつさえ、それがこの世の至上であり、それを発見し探究する自分は如何に価値のある人間かを霹靂と語るのだ。
これが、滑稽以外のなんだと言うのか。
そいつらひとりひとりに聞いて回りたい。
──それで、お前はゼウスやオーディンよりすぐれてんの?
──それで、お前はゼウスやオーディンより強いので?
その質問に、なんて答えるだろうか。
歴史を知らぬバカ。
神話の本質を見抜けない間抜け。
そいつらに、歴然たる真実を突きつけてやる。
つまり、すぐ目の前にある西暦二千十七年という、人類史を叩きつけるのだ。
どんな顔を、するだろうか。
たぶん、間抜けヅラだ。
とんでもなく、間抜けヅラさ。
聖杯?
万能の願望機?
馬鹿言うなよ。
その聖杯を作り上げた救世主サマは、どうなったよ?
弟子に裏切られて、裁判もぶっ飛ばして、十字架に架けられて、イバラの冠被って、死んだじゃないか。
いや、蘇生したんだけどな。
その救世主サマがよ、じゃあ現世に留まったのかい?
聖書に倣うなら、現世からとっくにサヨナラして、今頃天国で豪遊してんじゃないの?
下界で苦しむ人間に、祈るだけ祈らせてさ。
信仰と愛だけ、受け取りながらさ。
そんなもんなんだ。
魔術師たちが、ありがたがってかき集めて、群がってる奇蹟なんて、そんなもんなんだ。
ベリル・ガットは、誰よりも賢者であった。
たぶん、自分は、ここままだと、どっかのドブに投げ込まれて、死ぬだろうな。
顔の皮膚どころか、顔の肉ごと剥ぎ取られて。
顎も全部吹っ飛ばされて、腕も足もちぎられて、ドブ川にぷかぷか。
死んだことすら、気づかれない。
浮浪者が不審死したところで、気にする人間はいない。
良くて、新聞の、誰も読まない部分にちっこく書かれて終わりだ。
魔術協会だとかが、介入する必要もない。
明日には捨てられる。
新聞はゴミ箱に、オレの人生は奈落の底に。
治安がいいらしい日本でも、年間三万人自分から死んで、その三倍の数が行方不明になってんだろ?
だったら、世界のどこでも、そんな死体がドブ川に浮いたところで、誰も気にしたりしないさ。
家で、テレビでも見ながら、ケーキとチキンを囲んで、ロウソクの火を一息に消して、ハッピーバースディ!!
誰かがむごたらしく死んでる時間に、誰かが愛と希望に祝福される。
それが、人の世じゃねぇか。
それが、捨ててきた結果じゃねぇか。
だったら、適当に楽しんでいいじゃん。
だったら、適当に死んでもいいじゃん。
マリスビリーに拾われても、やることは変わらない。
ちょっといい部屋に住めて。
ちょっといい飯を食えて。
ちょっと便利なだけ。
何も変わらない。
ヘラヘラ笑ってやり過ごせばいい。
どうせ死ぬんだ。
世界に色があろうが関係ない。
空に浮かぶ星なんか見えなくても、どうでもいい。
それが、ベリル・ガットの世界であった。
灰色の世界。星のない世界。
たったひとりの世界だった──
──
デミ・サーヴァントを作る。
容れ物の肉を作って、そこに英霊の魂を入れて、まぁそんな感じ。
ベリルの口からしても、非道な話である。
泣けてくるねえ。
人類を守るため、という大義の前じゃ、ご立派な倫理観なんてどこ吹く風。
やっぱり、カルデアも、世の中ってやつと大して変わらねえじゃん。
そんなことを思って。
でも、少し哀れに思ったのか。
それを、見に行った。
──そして、目を奪われた。
小さい。
身体が、ではない。
その存在が、である。
チープな表現だが、今にも消えそうな蝋燭。
死にかけの小動物。
そんな喩えがぴったりの、小さなやつ。
色素が薄い。
肌が白くて、髪の紫も薄くて。
手も足も細くて、ひょろひょろしてて。
突き飛ばしたら、そのまま死にそうである。
それでも、目に光があった。
その光の名を、ベリル・ガットは知らない。
見たことがない光であった。
懸命に手足を動かしている。
震えながら、物を掴む。
今にも折れそうな命そのものが、飯を食っている。
吐きながら、食べる。
懸命に生きていた。
ベリル・ガットの胸に、かつて味わったことのないときめきがあった。
綺麗だ。
あの目、ああ、なんて綺麗なんだよ。
生きようってしてる。
短い命だぜ?
自分で理解してんだぜ?
利用されて、捨てられるって、わかってるんだぜ?
なのに、ああ。
あの目を見てくれよ。
キラキラしてるよ。
ああ、あのキラキラ。
なんて言うんだろうな?
どっかで、聞いたことがある気がするんだ。
どっかで、見たことがある気がするんだ。
もっと近くで見れば、思い出せるかも知れねぇ。
もっと、近くで……
ベリル・ガットは、それの部屋に入った。
マシュ・キリエライトの病室に。
半ば押し入るカタチであった。
だが、ベリル・ガットは気にしない。
見えていない。
その目──マシュ・キリエライトの、その光以外は。
綺麗だなぁ。
オレを見てる。
ああ、なんて綺麗なんだよ、これ。
──ああ、色がわかるよ。
世界に色が塗られていくよ。
これが、なんて言うのか、オレにはわかったよ。
思い出したよ。
知ってたんだ。
忘れてただけなんだ。
星だ。
星があるんだ。
こいつの目の中には、命の星が輝いてるんだ。
星って、こんなに綺麗だったのか。
知らなかったなぁ。
知らなかったなぁ。
このオレが、
このオレが、ヒトに、殺したくねぇって、思えるなんて。
このオレが、愛せるものが、存在していたなんて──
そこまでだった。
彼は、唐突に激しい衝撃を受けて、吹き飛んだ。
頬を殴られて、そのまま壁に飛んだ。
後頭部を激しく打ち付けた。
凄まじい力だった。
ベリルが見ると、マシュを担当するドクターが、肩を上下させ、目を血走らせて、鼻息荒く、見下ろしていた。
──なんだよ。
なんで、邪魔するんだよ?
あんた、ドクター。
そんな人間じゃ、ねぇだろ?
オレは、知ってるんだぜ?
あんた、ドクター。
あんたが、実は
あんた、ドクター。
カルデアの中で、人気あるよな。
誰にでもひと当たり良くって、笑顔を振り舞いて。
健気に仕事して、しかも優秀。
みんな、あんたのこと、好きだよ。
でも、あんた。
あんたは、みんなのこと、どうでもいいんだろ?
あんたは、カルデアのスタッフのことなんて、実はどうでもいいと思ってるんだろ?
どうでもいいから、誰にでも笑顔を振りまくんだろ?
どうでもいいから、誰の頼みもそれとなく聞いちゃうんだろ?
どうでもいいから、自分の身体を顧みずに、むちゃくちゃに働くんだろ?
知ってんだぜ、オレは。
だけどよ、ドクター。
あんた、そんな顔、するんだな。
初めて見たんじゃないか?
オレが。
あんたのそんな顔。
カルデアでは。
いや、マリスビリーのやつも、この顔、知ってんのかな?
ああ、そんなことより。
マシュ。
なんで、そんな目でオレを見るんだよ?
オレは、オレのやり方でだけど。
愛を、与えたんだぜ?
今、オレの、ベリル・ガットの唯一の愛を、おまえに捧げたんだぜ?
なんで、そんな、おぞましいものを見る目をしてるんだ?
ダメだぞ、マシュ。
お前の目は、もっとキラキラしてないとダメなんだ。
星の光を、ずっと宿してなきゃ、ダメなんだぞ?
ベリル・ガットが、カルデアの中で、マシュ・キリエライトに触れたのは、それが最後であった。
彼は無断で部屋に押し入り、被験体──マシュ・キリエライトの指を折ったことで、一年間の隔離を言い渡される。
そうしているうちに、レフ・ライノールによるレイシフト中の爆発事件があり、ベリル・ガットは死んだのだった。
1.
「オベロン? シェイクスピアのかい?」
ゴローの言葉に、ペペロンチーノはええ、と答えた。
「おそらくは、ね」
曖昧な口調であった。
何がおかしいのか?
確か、ゴローの知る限りでは、ブリテンには、いわゆる汎人類史における、他国の妖精が迷い込むことはあったはずだ。
妖精王オベロン。
シェイクスピアの作り話の存在であるが、一定の知名度と確たる物語を備えたそれであれば、ブリテンだからこそ顕現するのはおかしくないのではないか。
「ここ二ヶ月ほどまえから、ソールズベリーやグロスターで、演劇を行って妖精たちの話題になってるのよ」
「そいつが、何か問題なのかい?」
こくり、とペペロンチーノは頷いた。
ゴローの表情が、緊張感を持ち始める。
「たぶん、汎人類史のサーヴァントなのよ。その子」
「ン? どう言うこって?」
話が違う。
先程ペペロンチーノは、『汎人類史のサーヴァントは、ブリテンでは存在できない』と言った。
そして、だからこそ、カルデアではマスターとその、マシュという子しか出てこれないだろうと。
そうなのよね、とペペロンチーノは困ったように眉をひそめる。
「私も、確信があるわけじゃないわ」
「何事にも例外はある──それじゃ、片付かない直感……ってやつかねぇ?」
動きも、ヘンなのよ。
とペペロンチーノは言う。
「主に、ソールズベリーとグロスター、それとロンディニウムの円卓軍。そこで『予言の子』に関する演劇を行ったり、オーロラやムリアンや円卓のひとたちにお話したり、調べ物をしてるみたいなんだけど……これって変じゃないかしら?」
「……たしかに、ヘンだねぇ」
「あのっ……」
二人の間に、ガウェインが割り込んだ。
二人の視線がガウェインに集まる。
なんだがどきどきしつつ、ガウェインは言った。
「わ、私には何が変なのか、さっぱりで……」
話についていけないことに、恥ずかしさを覚えているのであった。
人差し指を突き合わせて、もじもじと動かしている。
隠しきれない恥ずかしさが、顔に動きに現れていた。
すまんねぇ。とゴロー。
ごめんなさいね。とペペ。
素直に謝られると、余計に罪悪感が募る。
あう、と短い悲鳴をあげて、俯いた。
「拠り所が偏ってるし、その拠り所が、拠り所にするにゃあヘンって話なのさね」
「?」
ゴローの口から出た言葉は、やっぱりよくわからない。
ソールズベリーは人と妖精が並んで歩く街だ。
気風は穏やかで、争いごとは滅多にない。
ヒトのそれを模しただけとはいえ、食事どころも、芸術鑑賞の場もある。
今は、ランスロットの機転でロンディニウムの円卓軍とは休戦協定も結んでいるため、オーロラの紹介で円卓軍に顔も効くだろう。
グロスターは、ことさら平等だ。
そして、さまざまな氏族が交わり、さまざまな物が集まる場所だ。
かくいう、このデパート。
まさに今、三人がいる場所がグロスターではないか。
だから、その二つをメインに行き来することの、何がおかしいのだろうか。
そもそも、ガウェインには、なんだかオベロンという名前がすごく、なんだか、嫌な感じであった。
いや、嫌悪ではなく、なにか、引っかかるというか……
否定したくないというか。
その名を聞くたびに、心が何がざわつくのだ。
「『予言の子』の演劇をするってこたァ、予言の中身をオベロンは知ってんだよねぇ」
「……? そうですわね。そうなると思いますけど……」
「じゃア、なンで真っ先に『ノリッジ』にいかねぇのさ?」
「……あっ!」
ガウェインはその気づきに、驚いた。
予言どおりであれば、鳴らす鐘は六つである。
そして、予言において、『予言の子』が認められる? 最初の街が、おそらくノリッジである。
モースの発生が増え、『大災厄』が近いとされる街だ。
予言の信憑性はともかくとして、間違いなく重要度は高い。
「俺がオベロンなら、まず何がなンでもノリッジに行って、スプリガンを口説き落とすがねぇ。スプリガンの人となりを知ってンなら、なおさらさね」
スプリガン。
腹に一物抱えた男。
曲者であり、口が達者で、頭も回る。
女王陛下に対してすら言葉を選んでは意見する男だ。
それだけに、他の氏族長からも良くも悪くも、なにかしら一目置かれている存在でもある。
ガウェインですら、嫌悪感であったとはいえ──彼の手練手管の雰囲気には凄みを感じていたほどである。
敵に回せば鬱陶しいが、味方にすれば心強い存在なのだ。
「でも、オーロラやムリアンから先に話をして、その後に……」
「それにしては、二ヶ月は時間をかけすぎよ。独占欲も強いオーロラはともかく、ギブアンドテイクな関係を尊重するムリアンなら、もっと早く話を通せるはずだもの」
「あぅ……」
ぐうの音もでない。
たしかにその通りである。
では、やはりオベロンという存在は、狙ってソールズベリーとグロスターにだけ足を運んでいるのだろうか。
「『予言の子』を後押ししてぇンなら、ウッドワスんとこに行かねぇのはワカるがね」
「まぁ、それはね。というか、ロンディニウムに関しては、円卓軍の資金繰りをしてるのが、そもそもオベロンだって話もあるのよ」
「──そいつァ、初耳だねぇ」
そもそも、という言い方。
つまり、円卓軍というものの創設期に、オベロンが関係しているということか。
それほどの大物にしては、あの時──ランスロットとロンディニウムに赴いた時、名が出なかったのはどういうことか。
いや、たしかにあの場ではパーシヴァル以上の責任者がおらず、また前線に立ち血を流しながら活動する円卓軍に対し、資金繰りをしているだけならば、円卓軍の決定に口を出す権利がそれほどなかっただけなのかもしれないが……
そもそもあの時オベロンいなかったし、たぶん。
「今のところ、表立って変なことはしてないんだけどね、なぁんか妙に気になっちゃってさ。ゴローちゃんはどう思う?」
「俺ァ、サーヴァントとやらのシステムはてんでど素人だもの。プロ中のプロたるぺぺさんが、違和感を感じるってンなら、その直感を信じるさね」
「うふふ、ありがとね」
今ある情報だけでも、だいぶ人柄は絞れたしねぇ。とゴロー。
うぇ? とガウェインが驚く。
へぇ? とペペロンチーノが微笑む。
聞かせてくれるかしら?
そう言われて、ゴローは語り出した。
「まず、ヒトタラしだと思うね」
オーロラと、ムリアン。
それに、パーシヴァル。
各長たちの特徴は、何かしらに素直だということだ。
自分であったり、物欲であったり、そもそもの人間性であったり。
各々の方向性は違えど、自らの欲求を叶える存在に出会うと、ほいほい言うことを聞いてしまうタイプである。
「いや、それ、ゴローが言えた義理じゃないですわよね?」
「ホントよねー! 泣かした女は星の数! みたいなツラしてるくせによく言うわー!!」
「マイったねぇ、大ピンチだぜ。二対一たァ……日頃の行いがでちまったよ……」
うへぇうへぇと頭を掻く。
ねーっとペペとガウェインは顔を見合わせで頷き合った。
「けど、たぶん。一線を見定めてるヤツさね」
超えてはいけないライン。
もう戻れなくなるそれを踏み越えること。
片道切符の見切り発車。
そういうことを、心から嫌うタイプ。
なぜ、とガウェインが聞くと、
「リカバリーが効く範囲しか手を出してねぇモンよ」
言い換えれば、セカンド・チャンスを備えている。
用心深い性格だと言った。
オーロラは、煽ている限り味方であろう。
オーロラより目立たなければ、輝かなければ、決して敵にはならない。
「だから、オーロラは意外と、アレで実はコントロールしやすいもんねぇ。なにせ、人のことなど心にもねぇ。吐き出す言葉も心がねぇから、ヒトの言葉の真贋を見抜けねぇもの」
真贋を見分ける妖精眼のない妖精。
オーロラはその代表格と言っていい。
全てにおいて自分。
妖精の世界にあってなお、自分の世界しかないために、ヒトの言葉の裏など読み取り用もない。
イザという時ですら、命乞いをしてオーロラを讃える言葉をひねり出せば、オーロラはそのものらを『まだ使える』と。
ここは、私の輝きを増すチャンスとばかりに、考えなしに生かすだろう。
自分を見るものに、慈悲深き愛を与える、輝ける妖精と見せるために。
「ムリアンは言うまでもねぇ。基本自分が上ならギブアンドテイクだし、命懸けなら相応の対価を払ゃあ、生かすタイプだ」
その価値観は、グロスターそのものである。
自分が上位、唯一存在であるならば、対価を払えば相応のものをお出ししてくる。
「パーシヴァルは……まぁ、俺ァ大好きだ」
「ちょっと!?」
「まぁ! 衝撃の告白!? ちょっとまって、私、心の準備ができてないわ!! いやだドキドキしちゃう!!」
パーシヴァルはそこにいるだけで人を奮い立たせる男だ。
いい男だ。
目を閉じて頷き、ゴローはしみじみと語る。
人に裏切られても、それを己の未熟と恥じることはあれど、裏切ったものを攻めはしないだろう。
円卓軍を、壊滅させるとかしなければ……だが。
逆に、ウッドワスや北のノクナレアなどは、言葉ひとつ間違えれば首が飛びかねない。
ノクナレアは反女王派ではあるが、それは玉座に座るのは自分であるという意志からである。
予言通りなら、『真の王』として玉座に座ることになる予言の子の話は面白くないだろう。
ゴローとしても、特にいく興味も感じないのか、北の大地には全く足を運んでいない。
鏡の氏族はとっくに滅んでいる。
「だから、口は軽薄、心は慎重で繊細。内部に増悪を溜め込むタイプだろうね。顔は笑ってても、心の中で相手をボロクソに貶しやがるタイプ」
俺ァ、あんまり好きなヤツじゃないねぇ。
爽やかじゃ、ないモンねぇ。
とカラコロと笑って言う。
「だから、スプリガンのこと避けてるし、ぺぺさんも避けてンじゃないかねぇ? 二人とも、相手の心もある程度見透かせる知恵者でしょ?」
あら、こんな時にも褒めてくれるのね。
とペペは笑う。
と、ここまで、とゴローは言った。
「ワルいけど、ここまでだねぇ」
「あら? ……そういうこと、ごめんなさいね」
ゴローはすっ、とソファから立ち上がった。
凄まじい負荷から解放されたバネが、バインと盛り上がる。
申し訳なさそうに苦笑するペペロンチーノの視線の先には、頭がバクハツしそうに湯気を吹いているガウェインがいた。
「元々、俺たちはガウェインの休みのためによったのさね。だから、これ以上はカンベンしてもらえると、ウレシイんだけどね」
「ええ、モチロンよ。ごめんなさいね、ガウェイン。私としたことが、せっかくのデートを邪魔しちゃったわ」
「ででででっ、デートなんて……いえ、そんな……」
おかまいなく、と言うが、小声すぎて聞き取れないほどである。
ゴローはガウェインの手を取って立ち上がらせると、ペペロンチーノに深々と一礼をした。
「ペペさん、楽しかった。掛け値無しにさ。このちょっとした時間に、多くの真理と学びがあったよ」
「あらやだ。帰り際までカッコいいのね、もう! ちょっとずるいわ」
そう言って、二人はオーナールームから退出した。
……もっとも、一度ペペロンチーノに呼び止められ、クーポン券を山ほどいただいて、それでデパートでの買い物を心から楽しんだのであったが、
それはまた、別の話である。
挿絵入れた話の閲覧がめっちゃ伸びてますね…
挿絵、これからもちょいちょいいれていきます
ちなみに全部自分で描いてるので
更新がない日は挿絵描いてると思ってくださいな