【完結】妖精國に落ちた超越者が、妖精騎士たちにほんの少しだけ救いを与えるお話【挿絵有り】   作:ロウシ

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2024 10/7 誤字修正+やや加筆


第三話:錆びついたコクピットの中にいる、白い月の真ん中の黒い影

 

1.

 

 

 キャメロットの城。

 その一室。

 スプリガンは、避難の体でここに留まっていた。

 

 戦争が本格的に始まるのだ。

 既に、『予言の子』は鐘を三つ鳴らした。

 オックスフォードのウッドワスをどうするかという問題はあれど、この調子でいけば六つの鐘を鳴らすのは時間の問題であろう。

 何より、『予言の子』は、街街の妖精たちの、莫大な支持を集めている。 

 

 ソールズベリー、グロスター、ノリッジ。

 さらにその実、オックスフォードでも、ウッドワスを『無傷』で撃退した功績から多少の支持が聞こえているのである。

 ノリッジでも、それに乗っかった商売を行なっているが、『予言の子』グッズは鉄の武器と同じぐらい、方方に飛ぶように売れていた。

 ノリッジの街は手中に収められなかったが、これはこれでいい利益となった。

 金庫城の増築も順当に終わり、より強固で頑丈になった。

 まぁ、余計な荷物がまるまる一室を陣取ってしまったが、それはそれ。

 

 聞く限り、カルデア御一行様は、黒犬公のバーゲストとも、親しい仲になったという噂もある。

 それはつまり、バーゲストの元にいる『神』──ゴローとの仲も良好だと見ていいだろう。

 ウェールズの森の惨劇。

 その一連の流れは聞いている。

 

 ならば、モルガンへ投資することは悩みどころであるか。

 前にゴローに語ったように、スプリガンはもう、別にモルガンの統治を倒そうとは思っていない。

 だが、予言の通りなら、モルガンは倒れ、新たな玉座には『予言の子』が着くことになる。

 それが、たとえいっときのことだとしても。

 だから、『予言の子』を投資先の()()()とするのも悪くない。

 

 頭を悩ませる事態である。

 まぁ、だが、『予言の子』がそもそもモルガンを倒せるとは到底思えないし、ノリッジの『厄災』は彼女が打ち祓ったワケでもなく、予言は所詮予言だと言うこともできる。

 その辺を鑑みるなら、彼女らをキッパリ切り捨ててもいいのだが。

 モルガンは、『大厄災』で滅ぶのは妖精だと断言している。

 自分は妖精ではない、人間だ。

 金庫城の増築も含めると、モルガンに頼らずとも生き残れる目はあるのでは?

 と思うのだ。

 

 というより、なにせ、ゴローとは約束している。

 『イザ』と言う時には、彼がこちら側に着く、という約束がある。

 所詮人間が全能の神に約束を期待することは愚行かもしれないが、金庫城という担保と、彼の預かり物を前提にするならば、約束は勘定に入れても申し分ないだろう。

 

 どうあれ、自分だけは生き残れる。

 

 ならば、考えるべきはどう生き残るか。

 生き残った後どう立ち回るかだ──

 

「スプリガン」

 

 名を呼ばれた。

 何もない空間から、ずるりと、彼が姿を現す。

 見るからに高価なジャケットを羽織っていた。

 スプリガンのお眼鏡にかなう、十分な芸術品である。

 まだ、妖精舞踏会(フェアリウム)の途中だと、ちょっと抜け出してきたと、ゴローは言った。

 

 なんでしょうか。

 

 慌てずに、スプリガンは聞いた。

 ゴローはああ、と言って、

 

「ちと、やってもらいたいことがある」

 

 対価は?

 と聞くと、ゴローは真剣に笑って。

 

「おまえさんの命だよ」

 

 と言った。

 

 

2.

 

 

 妖精舞踏会(フェアリウム)から一日を超える前。

 マンチェスターの領主館。

 昼の時間である。

 牧歌的なこの街にふさわしい、温かな空気であった。

 

「あーもう! なんでわたしたちが敵陣に乗り込んで、わざわざこんなことしてるんだ!」

 

 そこで、現在。

 アルトリアたちは領主館の掃除をしていた。

 エプロンをつけて、マスクもつけて、杖ではなくハタきを片手に誇りに挑んでいる。

 アルトリアだけではなく、カルデア陣も、村正も、ハベトロットも、なんならレッドラ・ビットすら掃除に勤しんでいる。

 

「いやァ、助かったよ。俺ひとりじゃァ、ちょっと手が足りなくてさぁ」

 

 ひょいっと隣室から顔をだして、ゴローが言う。 

 彼も、バンダナ、マスク、エプロンに手袋。そして箒と完全武装であった。

 

 アルトリアたちがマンチェスターを、領主館の扉を叩いた時、対応したのがこの完全武装のゴローであった。

 

 おまえかい!!

 

 とツッコむ村正を無視して、ゴローはやぁやぁお揃いで、と手を広げて歓迎した。

 その場で名乗ると、そのまま全員に掃除を手伝わせ、今に至る。

 

「仕方ないでしょ? バーゲスト、謹慎中は自分が家のことやるんだって使い全員に暇を出しちまったンだモン」

「だからって、敵に頼るかよぉー!」

「おう、ゴロー。こっちは終わったぜ」

「おお、さすがじいさま! 職人だねぇ。文句ひとつなしに、完璧じゃないの」

「まあな。文句がないワケじゃねえが、家の中キレイにするってのは嫌いじゃねえよ。アルトリアはいかんせんズボラだし、そうじゃねえみたいだがよ」

「村正ァ! おまえどっちの味方なんだー!?」

 

 アルトリアが顔を真っ赤にして村正に憤る。

 村正は慣れた様子で、怒るってことはホントのことじゃねえか。

 と流していた。

 

「ブルルン! ゴロー殿、玄関から中庭までの掃き掃除、終わりました」

「こっちも終わったぜー。いやぁ、あの狭さはゴローたちじゃ届かないわな!」

「ハベにゃんがいてよかったねぇ。あとで伯爵からもらったホールケーキあげるからねぇ」

「へへへ! やった!」

 

 煤だらけになったけど、キレイにするのは気持ちいいな、やっぱ! 

 とハベトロットが言う。

 ゴローはお疲れさん、と笑顔であった。

 

「ゴロー、こっちも終わったよ!」

「おお、早いねぇ。さすがはダ・ヴィンチ」

「いやぁ、私のアームをフル稼働させればわけもないさ!」

 

 カルデアのマスターと、アームに箒だのはたきだのバケツだのを持たせたダ・ヴィンチも集まった。

 

「ありがとう。お陰で助かりましたわ」

 

 掃除用ではないエプロンをつけたバーゲストがそこに混ざる。

 ご飯が用意できましたので、いったん手を止めて、テーブルにいらしてください。

 と言った。

 

「おお、そりゃアいいねぇ。ちょうどみんな揃ったトコだし、飯の時間にしようかねぇ」

 

 なんか、手慣れてるなぁ、コイツら。

 と、アルトリアは思った。

 

 

3.

 

 

「やべ……うっま……」

 

 大盛りのミートパイを頬張りながら、アルトリアは歓喜をこぼしていた。

 卓を囲んでいた。

 ものすごい豪勢な食卓であった。

 牡蠣、ニョッキ、肉、パイ。

 テーブルに並ぶ全てが盛り盛りである。

 

 しかも、全部美味い。

 掃除で動かした身体に、カロリーが染み渡っていく。

 ああ、美味しい! 

 

「このお野菜、オックスフォード産のものですね」

 

 レッドラ・ビットがもしゃもしゃ口を動かしている。

 食べているのは、ゴローが付け合わせで並べたサラダセットであった。

 牙の氏族である彼には懐かしい、オックスフォードのレストラン印である。

 

「ウッドワスから貰ったンだよね。バーゲストの飯、美味いんだけど……ホラ、高カロリー高タンパクじゃない? 身体を作るためにゃア炭水化物とタンパク質は必要不可欠だけど、それをスムーズに取り込むためにはビタミンが必要だもの」

 

 すなわち、緑黄色野菜だねぇ。

 ほうれん草やブロッコリー、ニンジンなんかだねぇ。

 牙の氏族に、ウッドワスにはそのつもりはねぇんだろうケド、彼らは菜食を必要とする必然的に、強くしなやかな肉体を作り上げてたんだよねぇ。

 

「だから、マスターくんもちゃんと野菜から食べないとダメよ? 世界を救うなら、まず身体が資本だものねぇ。栄養管理士とか、カルデアにゃアいないのかい?」

「んー、残念ながら。ゴルドルフくんも料理のパターンは多いんだけど、偏りがあるのは事実だしなぁ」

 

 などと各々箸を、フォークを進めていた。

 というか、とダ・ヴィンチが言う。

 

「箸を使うんだね。黒髪黒目だし、ゴローは日本人なのかい?」

「そうだった時もあるねぇ。ま、俺の故郷の世界はもう消えちまったから、俺が何人か正確な答えはもうないよねぇ」

「消えたって……異聞帯や特異点の類なのかい?」

「うんにゃ、普通に寿命来て熱的死したのさ。ビッグ・クランチってやつさね」

「……えっ?」

 

 さらりと、とんでもないことを言わなかったか?

 あまりに普通の会話の中のため、ダ・ヴィンチにはジョークなのか判断に困った。

 

「それより、カルデアのマスターくん。お前さん、気脈がボロボロだよ? 見たとこ生命力を魔力だか気力だかに変換してるクチだろうケド、今までさんざかクスリで無理やり引き出してきたでしょ?」

 

 ダメだよ、それァ。

 ゴローは席を立つと、マスターの隣に立ち、艶やかな手つきでヘソの下──丹田を撫でた。

 

「ちょ! なななな何やってるんですか!?」

「なんでお前が興奮してんだ」

 

 アルトリアが顔を真っ赤にして、村正がツッコむいつもの流れ。

 ゴローはふたりの漫才を無視して、マスターへ言った。

 

「丹田に意識を集中しねェ。どうだい? あったかくなってきただろ?」

「あっ、はい……気持ちいいです」

 

 見ると、ゴローの掌がぼんやりと光を放っていた。

 その光が、丹田に吸収されていっている。

 見るからに温かな光であった。

 

「気脈の流れをちょびっと整えてるのさね。活性剤は、大抵の場合、身体にないものを作り出すワケじゃねぇ。身体ン中の生成器官を刺激してバランスを崩して、無理くり抽出するモンだ。今まで相当な数、むちゃくちゃに打ってきたんだろ? おかげで気脈そのものがズタズタだものねぇ」

 

 気脈──つまり、魔術回路のことだろうか。

 ふっ、と光を丹田が取り込み切って、マスターはどさりと背もたれにもたれかかった。

 

「いいのかい? 敵に塩を送って」

「バカ言いなさんな、じいさん。この子が俺の敵になるにゃア、力の桁が超限基数以上に足りねぇよ」

「ちょうげん……なんのこったよ?」

「うーん、数学的な限界突破ってやつだねぇ」

「さすが、ダ・ヴィンチにやァ通じるかね」

 

 うんうんと、ダ・ヴィンチが頷いた。

 さて、飯もそこそこだ。

 異邦の魔術師も、ハラの調子は整った。

 バーゲスト。

 とゴローは言った。

 おまえさんの話、しなさいな。  

 と促した。

 

 ああ、と頷いて、バーゲストとカルデアの話し合いが始まった。

 

 

4.

 

 

「つまり、バーゲストは今、迷っていると言うことかい?」

「そうです。(わたくし)は今、わからなくなっています」

 

 モルガンが正しいのか。

 カルデアが正しいのか。

 そもそも、モルガンの抱えているものはなんなのか。

 汎人類史を、なぜそこまで拒絶するのか。

 

「うーん。モルガンは汎人類史において、神秘たるブリテンに執着して人の世を拒絶してるから、汎人類史を嫌うのはわかるかなぁ」

 

 だけど、ならば、なぜ神秘そのものである妖精をも嫌うのか。

 恥ずかしながら、それはダ・ヴィンチにも、この瞬間まで至らなかった考えであった。

 

「『大厄災』を利用して、汎人類史を攻撃する──というのも、私にはよくわかりません。ブリテンが汎人類史の上に異聞帯として存在する以上、基盤の汎人類史の世界を滅ぼせば、ブリテンにすら悪い影響があるのではないでしょうか?」

「ない……とは言い切れない。というより、間違いなくある。私たちが調査している『崩落』という現象は、最終的には地球そのものを消し去ってしまうものだ。その原因がモルガンの振るう『大厄災』だとすれば、当たり前だが地球上の存在であるブリテンも滅んでしまう」

 

 言われてみれば、おかしな話である。

 シバの観測した未来では、『崩落』が起こればイコール地球の消滅である。

 もちろん『崩落』を起こさない未来にすることもできるが──というか、そのためにブリテンにきているのだが──逆に言うと、シバの観測上『崩落』を迎えたならば、ほぼ確実に地球が消滅することになるのだ。

 

 モルガンが、そんな危険なものを、おいそれと使うであろうか。

 ところが、バーゲストの言葉通りなら、モルガンは『妖精が滅んだ後の世界』と『汎人類史が滅んだ後の世界』について語っているのだという。

 つまり、自分が生き残ることはもちろんとして、世界──地球が残ることを、どう考えても前提としている。

 

「なんか、ズレてんな」

 

 村正が言う。

 全くもってその通りである。

 アルトリアは顔にハテナマークを浮かべていた。

 だが、彼女たからこそ、ことの重大さは()()()()理解できてしまっていた。

 

「この世界が特異点……つまり、汎人類史に並ぶ強度を持っている世界なのは間違いない。だから、女王歴以降に生まれた妖精は汎人類史の世界でも生きられる……それに、間違いは?」

「ないよ、バーゲスト……だとすれば、モルガンは女王歴以後の妖精を選りすぐって、汎人類史の世界に移行するつもりなのかな?」

「いえ、陛下は『全ての妖精は滅ぶ』とおっしゃいました。陛下は嘘をつきません。だから、本当に陛下以外の全てが滅ぶのだと思いますわ……」

 

 話せば話すほど、謎が深まっていく。

 話せば話すほど、アルトリアが顔に影を作っていく。

 ハベトロットが口をきゅっと結んで、気難しい表情になっていった。

 

「ミスターMから、何かないのかい?」

 

 ゴローに対して、ダ・ヴィンチが言った。

 耳は傾けれど我関せず、と話を聞いていたゴローはぶっ! と紅茶を吹き出した。

 

「あれ? ホームズの言ってたミスターMって、キミのことだろ? ゴロー」

「ゲホゲホり……それァ、ホームズなりの、敬意の示し方と受け取っていいンかねぇ?」

「ああ、間違いなく。その知恵と力に対する、最上の例えだと思うよ」

 

 あんにゃろうめ。

 とゴローがつぶやいた。

 カルデアのマスターは、なんとなく「ああ、やっぱりそう言うことかぁ。そこ、繋がってるのかぁ」と納得の表情を浮かべていた。

 

「そもそもよ」

 

 とゴローは言う。

 

「なンでモルガンが『大厄災』を利用する前提なのか、俺にゃアさっぱりワカらんのだが」

「だって、それはノリッジの時に……」

「『もうひとりの予言の子』を吹っ飛ばしたアレぁ、モルガンの時空間転送術で、時間の果てに吹っ飛ばしただけだぞ、たぶん」

「────えっ?」

 

 いや、だから。

 とゴロー、

 

「時間逆行魔術だよ。妖精國(ブリテン)はパラドクスが起きた時、並行世界が生まれて時間的矛盾を分岐して穴埋めするンじゃなくて、時間流に沿った現実に上書き保存するタイプの世界でしょ? だから、一本の時間線を遡って対象を過去に吹っ飛ばしただけじゃない、アレ」

「ちょっとまってくれ! どういうこと!?」

「……? だから、妖精國自体が、モルガンがブリテン島全域に張り巡らせてる魔力網が、ちょうどオタクらのやってるサーヴァント召喚? ってやつと似てる魔術式だよ。時間超越点──いわゆる宇宙を跨ぐ情報集積点を魔力で経由して、時間と空間を越えて情報体を引き出して現世(うつしよ)に顕現させてるワケだ。モルガンはそれをブリテンの規模に縮小させた廉価版(モン)を司ってるワケだよ」

 

 つまり、モルガンは、ブリテンにおいては時間と空間を魔術的にほぼ解析しきってンのさ。

 

「情報集積点……?」

「『時間庫』のコトだよ、マスターくん。俺たちは単に『図書館』とも言う。単一の次元宇宙や、多元宇宙(マルチバース)誕生(ハナ)から終焉(ケツ)までの因果を記録した本が()()()()()トコ。その本一冊一冊のことをアカシャ記録書とかアカレコ録盤とか言うンだが……知らねぇのかい、まさか?」

「いや、それはわかるけど。それ、言ってしまえば『根源』じゃないか!」

 

 なにっ? この世界だと、たかが運命と全能の集積体の本一冊を、そんなかっちょいい名前で呼んでんの?

 

「いや、『たかが』って、キミ……」

「……あ、ワルい。別に上から目線で、どうのこうのってハナシじゃねぇわな。ただの常識の差異だモンね、これ……スマン。忘れてくれ」

「いや、いいんだけどさ。世界の常識(規格)の違いって、こわいなぁ〜」

 

 何を言ってるのかよくわからないけど──

 とマスターが言う。

 

「確かに、オレたちはモルガンが『大厄災』を使うものだと信じ切ってた……」

 

 そこだね。  

 まず、そこがズレてるね。

 とゴロー。

 

「まぁ、それはともかく。バーゲスト、おまえさん結局どうすンだい?」

「えっ?」

「この子たちがキャメロットまで攻め込んだ時、どうすンだい? モルガンの騎士として戦うのか、この子たちに組してモルガンに立ち向かうのか、決めなきゃねぇ」

「…………」

 

 全員の視線がバーゲストに集まった。

 彼女は沈黙せざるを得なかった。

 

「バーゲスト、無理はしなくていいんだ。キミは我々のことをキチンと考えてくれたことはよく分かったし、それは嬉しい。だけど、『世界』と『世界』の戦いとなれば、純粋な生存競争だ。そこに、キミが気に病む必要はないんだよ」

 

 ダ・ヴィンチのそれは、心からの気遣いであった。

 カルデアのマスターにも、村正にも、アルトリアにも、それはよくわかっていた。

 

「第三者の立場を取れないのが、辛いトコだねぇ」

「なら……(わたくし)は、どちらにも組しませんわ」

「……あれま、あっさり言い切るのね」

「ええ。妖精騎士の任は、迷いを持って果たせる責務ではありません。迷いのまま剣を払うことは、却って陛下の名に泥をぬる行為になるでしょう」

「……まあ、それでバーゲストが納得してンなら、俺からは何も言えねぇさ」

 

 バーゲストは、ゴローから眼を伏せるように顔を傾けた。

 微かに照れと喜びが染みている動きであった。

 

「つまり……それは、キャメロットにわたしたちが攻め込んだ時、何もしないってことでいいのかい?」

 

 ダ・ヴィンチの問いかけに、バーゲストは慎重に、こくりと頷いた。

 際の際まで、見極めたい。

 それは、モルガンを信じきれないということであり、裏を返せば、それはまだ、カルデアのことも信用しきれていない、と言うことであった。

 

「……わかった。じゃあ、最後までバゲ子は棒立ちしてて! 別に、これ、責めてるワケじゃないからね」

「わかっている。この期に及んで、土壇場でころころ都合よく掌を返すほど、(わたくし)は不義理なつもりはありませんわ」

 

 寂しげに、悲しげに、困ったように、バーゲストは微笑んだ。

 アルトリアは申し訳なさそうに顔を歪めた。

 彼女には、バーゲストの混乱が手に取るようにわかるのであった。

 

「ところでさ」

 

 と、重苦しい空気を、カルデアのマスターが打ち破った。

 なんでしょうか、とバーゲストは聞いた。

 

「バーゲストの恋人って、ゴローさんのことでいいの?」

 

 うぇえ!?

 

 とバーゲストは一瞬で顔を真っ赤にした。

 ダ・ヴィンチも、村正も、そこにいるゴロー以外の客人全員が、にやけた顔であった。

 

「いや……その……」

「あれ〜? 私にはどう見ても、そうとしか思えないんだけど? だってキミたち、妖精舞踏会(フェアリウム)でもずっと一緒にいたじゃないか」

「いや、それは……」

「まぁ、ガタイ的にもお似合いだしな」

「なになに? なんだか花嫁の気配を感じるんだわさ!?」

「か、からかわないでくださいまし!!」

 

 バーゲストは叫ぶが、全く聞き入れられなかった。

 

 ゴローは何も言わずに、ただ黙って紅茶に口付けていた。

 だが、その耳が、心なしか赤く染まっていた。

 

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