【完結】妖精國に落ちた超越者が、妖精騎士たちにほんの少しだけ救いを与えるお話【挿絵有り】 作:ロウシ
第一話:永遠に君を愛さなくてもいいか、十字架の前で誓わなくてもいいか
0.
星の内海。
この世界には、ある意味時間がない。
朝と夜がない。
華やかそのものの楽園。
煌びやかな善しか、存在しない世界。
不変であり、不動であり、幸福である世界。
花の魔術師は、ようやくここに帰ってきていた。
モルガンの『庭』が破壊されたことにより、晴れて自由の身となった。
背伸びをひとつ。
窮屈で薄暗い世界にいたせいか、身体が凝り固まっている。
今、上は地獄の手前かなあ?
などと、呑気に思っている。
花の魔術師は、そこで、ひとり。
そう、ひとりの侵入者に気づいた。
楽園の──とりどりの花々の中に、その男は立っていた。
不釣り合いな男であった。
大きな男であった。
太い──男であった。
大きな肉をまとっていた。
首が、太い。肩が、太い。
腕が、太い。腹が、太い。
足も、太い。
吐く息すら、太かった。
しかし、人界を超越したその存在の力は、ある意味でこの世界にふさわしくもある。
顔に、幾つもの肉が削れた傷があった。
古傷と呼ぶには、いささか鮮度がある。
今にも新しい血が流れ出しそうである。
右の耳が、上半分ない。
右側の額にもえぐれた傷があるが、純白のバンダナが傷を隠すように占めていて、半分しか見えなかった。
バンダナは、尾が長い。
楽園の運ぶ暖かな風に我関せずと、地面に向かって伸びて、沈黙している。
眼を、閉じていた。
背中越しにも、その聖妙な表情が窺えた。
「おや、これはこれは『
花の魔術師は、特に驚くこともなく、飄々とその背に話しかけた。
彼がここにいることは、何ら不思議ではない。
彼にとって、ブリテンであろうが──たとえ他の異聞帯であろうが、汎人類史であろうが、たとえ太陽の向こう側であろうが──その歩みにして、一歩分の距離もない。
彼が認識できる限り、その認識範囲において、この世界はどこまで行っても彼にとっては『重なり合うひとつの点』でしかない。
他の場所に移動する、というのも、彼にとっては同一点から、同一点へ移動しているに過ぎない。
ならば、その歩みに時間などかかるはずもなく、その歩みに距離などあるはずもない。
ならば、認識される限り、次元を
「花の魔術師。すまない、お邪魔している」
構わないさ。
と花の魔術師──マーリンは言った。
というより、仕方ない、だね、この場合。
とも言った。
「『異星の神』の詳細を聞くに、彼奴の吸い上げた人理と、漂白した領分は地球上に留まる。つまり、次元を
「まぁ、私はどのみち逸話通りに、モルガンに囚われてしまったんだがね……」
はーやれやれと肩をすくめる。
つまり、とそれを無視して、『
「つまり、多層時間視を行うにあたり、この
「……未来を視るんだね」
「いや、多層規模での過去も含めてだ。いかんせん未来の私が複数のサンプルを必要としている。ただ一度だけ、この世界において、私は『神の俯瞰視点』を行使することにした」
尤も──と前置いた。
「視たいものしか、観ないつもりだ。干渉は最低限に留めることを約束しよう。私個人の存在強度は汎人類史のそれを凌ぐ。故に、無意な過去改変はひたすらに混乱の元だ、それぐらいは解っている」
「……そのために、それを僕に言うために、わざわざ僕の解放をここで待ってたのかい? おいおいカンベンしておくれよ。全能の神との約束なんて、僕にはちょっと、荷が勝ちすぎる」
──私は今、幻術をかけられているのか?
私の目には、不満を呟くきみの顔が、不遜な笑みで彩られているのが見えるが?
ゴローは、マーリンに
そこに、感情の抑揚はない。
ひどく、無機的な声であった。
マーリンはニコニコと、よくわからない笑みを浮かべていた。
「釈迦に説法というヤツだろうけど、あまり、やたらめったらいろんなところを覗かない方が良いことは、進言させてもらうよ」
「わかっている。それに、過去を改竄したとて、この世界はどうあれ『終わる』。神なき世界のまま一万二千年も続いたこと自体が……まぁ、そこそこある奇跡そのものだ」
この世界は、二千十七年目にして、未だに汎人類史で言うところの、創世神話を続けている世界だ。
アダムとイーヴが
ヒトは、汎人類史においてもブリテンの妖精と変わらぬ『原罪』を背負って生まれ、生きている。
そして、二千十七年まで、細かな破綻はありながらも、人類史を組み立てて来た。
そういう括りで言えば、両者は基本理念、存在の背負う罪の根本はそう変わらない。
ならば、汎人類史と妖精國ブリテン。
それが
セファールの襲来ではない。
それを止められなかったかどうかではない。
聖剣が作られたかどうかではない。
なんの理念の違いが、互いに『原罪』を抱えながらも、これほど剥離した世界を創り上げたのか。
ゴローの導き出した答えが、『神』の有無であった。
もっと言うならば、敬うべき存在の有無である。
もっと言うならば、畏れるべき存在の有無である。
──『神』はかく語りき。
妖精は万能だ。
願えば、それを叶えられる。
『求めよ、されば与えられん』
これはマタイ伝における、奇蹟を願うヒトの、神への祈りだが──
で、あるならば、形なき姿を敬い、愛する必要がない。
で、あるならば、姿なき力を畏れ、慄く必要がない。
ヒトは、どうだろうか?
ヒトは、
失楽園にあって、カイン──アダムとイーヴの息子は、『
神への敬愛と信仰のために、人類最初の殺人は起きた。
神への畏れと信仰のために、人類最初の嘘は生まれた。
ヒトは、楽園を追放されてなお、目に見えぬものを信仰した。
その雷を神のそれだと謳った。
神の力を、父のように畏れ、
神の名を、母のように愛した。
神の姿を星に喩え、その輝きに、未来へと歩む勇気を見出し、人生の
多くの妖精には、それがない。
雷が落ちても、天気が悪いなあ、としか思わなかった。
だから、他者を想うことができない。
力ある者に敬いも、畏れもない。
愛も抱かない。
それを前にして
自らの上に立つものに全能を求め、彼女は我々の上に立つ全能なのだから、きっと我々を無償で救うだろうと、希望的観測に縋り付く。
悪いことをしたら天罰が降る、という仏教的観念も無く、
悪いことを告白したら、罪を赦されるという、キリスト教的な観念もない。
だから、原罪を原罪のまま、この時代まで引き継いで、ただひたすらに積み上げてしまった。
ブリテンとはつまるところ、神なき故に『罪』だけを積み上げて、膨らませて、行使されぬ『罰』によってパンパンに腫れ上がった世界なのだ。
それが破裂せぬように、歪ながらに懸命に押しとどめていたのが、他ならぬ非全能の身である、モルガンなのである。
だが、やはり『
ならば、もう、いつ崩壊しても当然の世界なのだ。
カルデアや『予言の子』は、所詮キッカケでしかない。
彼らがいようがいまいが、運命はブリテンを終末へと誘うだろう。
例え今回を凌いだとしても、終末はすぐ近くの未来に先延ばしされるだけだ。
その運命は止められない。
その運命を止められたハズの『神』は、他ならぬ妖精が殺したのだから。
人の世に苦諦無し。
それが、ゴローの心情であるが、結局はそれも、宗教観念を下地にする。
つまり、神と宗教の生まれない世界には、必ずしも当てはまらないのだ。
──それを、『神』は、極めて実感のこもった声色で言った。
マーリンは、『神』の言葉を黙って聞いていた。
『神』の言葉を遮るわけにはいかない。
もし、その言葉を半端に止めようならば、自身の口は裂け、目は焼け爛れ、耳は破裂しているだろう。
だから──承知している。
と、さまざまな含みを込めて、
『
0-2.
私は、ブリテンを流れる時間を視る。
一歩、二歩。
過去から未来へとつながる因果の軸線から、その身を外す。
まずは、未来。
溢れ出す神の呪いを堰き止めたカルデアたち。
崩壊の決まりきったブリテン。
赤い空が見える。
終末の世界に相応しい、ゴローにはよく見覚えのある色であった。
眼下を見る。
モルガンは死に、バーゲストは死に、メリュジーヌは瀕死、バーヴァン・シーは死に、人も妖精も、その大地そのものが『奈落』に落ちていく。
カルデアのマスターと、マシュ・キリエライトが空を舞うストーム・ボーダーの上で、『それ』と対峙している。
黒い爪、黒い髪。
翅は羽根となり、白くて、黒い──呪い。
ブリテンが、神秘の國ブリテンである限り、それを滅ぼさんと産まれ続ける呪いの具象。
私はその場に、マシュ・キリエライトの隣に立つ。
彼女たちは私に気づかない。
今の私は時間軸を超越している。
数多の次元──時空間に跨って存在する状態の私は、量子を観測する際の『あやふやさ』そのものである。
今、私はこの時間に存在しているが、存在していない。
物質ではなく、確率の存在なのだ。
箱の中に毒と一緒に入れられた猫。
それを、箱の外から見て、考察する。
生きているのか?
死んでいるのか?
箱の中で重複する、大きく分けて二つの可能性。
今の私は『それ』なのだ。
箱の外から見て、箱の中の猫が生きている可能性──あるいは、死んでいる可能性がある限り。
あるいはどちらかの可能性に百パーセント振り切れない限り、私の存在は物質領域において、不変不滅となっている。
だが、『
明確に、私に、意識を向けていた。
……見えている。
あるいは、存在を感じているだけか。
真贋を見抜く妖精眼。
それは、アルトリア・キャスターとモルガン──救世主トネリコが持っていることは、既に知っている。
だが、目の前の『彼』も、同じ眼を持っているのだと、まず理解する。
考察に時間が必要になる。
私は時間の進行を極めて遅らせることにする。
一秒の六百十五乗分の一まで、時間の流れを遅延させる。
ほぼ静止した『彼』の眼前に立ち、その魂を、触れることなく探る。
その上で、私は妙蓮寺鴉郎の言葉を思い返していた。
彼は、
絶えず変わりゆく存在。
外界の、どこにも本質を留めない流体。
概要を聞くに、極めて不安定な存在だ。
不安定だが、確かな個を備えた存在。
こうして魂を基盤から探ると、その言葉がより理解できる。
『彼』は、英霊の規格として極めてあやふやな存在である。
……いや、逆か。
あやふやな流体の本質を、英霊という規格に収めることで、存在を無理やり安定させている、と言った方が正しいかもしれない。
それはつまり──あやふやそのものでありながら、単一個人でもある量子状態の私と重なる部分がある。
だが、彼が私の存在に気付いた理由は、それだけではないだろう。
どうやら、彼は対峙する者の運命力を、ある程度視ることができるようだ。
この妖精國において、それができる存在は、原始竜アルビオンの分体である、メリュジーヌだけだと私は思っていた。
対峙する存在の運命力を感じ取り、自分が関わる範疇において、その未来を視る。
私や、マーリン。
あるいは汎人類史におけるらしい、魔術王ソロモンやギルガメッシュ王のように、ある種の絶対性がある未来視ではない。
つまり、これはこの種の生物の持つ、生態に近いのだろう。
これは、この世界の竜種の特性なのか?
私は汎人類史へと時間流を移動して、その世界のアーサー・ペンドラゴンに視点を移す。
決死に剣を振って敵を廃す彼女の眼を視る。
見えないはずの弓を躱し、感じることもできない剣閃を捌き切る。
来るとわかっている魔術を、先んじて斬り飛ばす。
その血に竜を宿す彼女もまた、未来予知に等しい直感を持っていた。
続いて、より興味深いサンプルとして、特異点である魔都平安京を視る。
地獄界曼荼羅、と言うらしい。
凝った名前だ。
『異星の神』の使徒たる蘆屋道満は、ブリテンのモルガン同様に、この世界の蘆屋道満と自身の存在を重ね、空想樹もどきを作り上げている。
そして、伊吹童子という小さき神を降臨させていた。
私は、この世界では女性であるカルデアのマスターと、坂田金時の横を通り抜けて、注意深く彼女を観察する。
そして、核心……確信を得た。
伊吹童子もまた、多少ではあるが、運命力に干渉する力を持っている、と。
次に私は、さらに三歩下がって、この世界を
この世界によく似た別世界。
そこに存在する、アカシャ記録書を読める少女をサンプルとして観察する。
彼女は、愛するものの空白の未来/過去を、
視点を、『彼』に戻す。
これまでのサンプルと比較するならば、彼もまた、運命力にある程度干渉する力があるのは間違いないと結論する。
例え、この推測が間違っていたとしても、元々終末という指向性のある運命力の具現体でもある彼ならば、このブリテンにおいてそれを持ち合わせることは、やはり何ら不思議ではない。
私は、終末時間帯の時間の流れを正常に戻し、その世界を去る。
その途中──汎人類史の時間流を眺める最中、ことごとくの時間点から外れた宙域を見つける。
こういった時間外領域は神々の世には珍しくもない。
かつて私が世話になっていた、『宇宙の観測者』たちも、単一の次元の中で、これによく似た時間軸のズレた惑星に住んでいた。
だが、その宙域は、明らかに
降り立った私を迎えたのは、突き出した岩肌と荘厳な玉座。
さながら、神殿の趣きを備えた、小さな世界だった。
「『
そこにいるのは、汎人類史と呼ぶ世界の、ソロモン王の派生者である。
「用はない。ただ、なかなか珍しい世界だと思って、つい、立ち寄らせてもらった」
同時に、それは理解する。
「キサマ、未来から来たな……」
「そうだ……が、落胆の必要はない。終末が勝つ世界もありふれて存在する。必ずしも、世界に正しき人理万象が勝つわけではない。ましてや、私の起点は、今──少し、きみたちの言うところの汎人類史とは、時間層のズレた未来に存在する」
ここにおける私の存在は、きみの未来が
だが、確かなことは、ここできみの対峙する者は、必ず、きみの齎した苦難苦闘を乗り越えた者だろう。
それが、マシュ・キリエライトとロマニ・アーキマンと並び立つ、カルデアのマスターであるか、キリシュタリア・ヴォーダイムであるか、デイビット・ゼム・ヴォイドであるか……その程度の差異はあるだろうが──それだけだ。
まさか、戦う相手を選んで、
おまえだから、私は負けたのだ!
おまえだから、私は勝ったのだ!
などと、微小の時間歴の誤差はあれど──二千万から五百万年の人類の積み立て。人理を焼き払おうとするものが、そんなつまらぬ問答をするつもりもあるまい?
「…………」
「だが、小さきを侮るは大海を渡る者にはありがちなミスだ。責めるつもりも貶すつもりも毛頭ない。船底のミクロの穴を見逃したばかりに、大海に呑まれ船は沈む。なればこそ、敵対者には初手から全身全霊を持っての駆逐を薦めるが──」
神たるゴローは、会話を終えた時点で、そこから消えていた。
いや、初めから存在していないのだから、消えていた、というのは間違いである。
「…………」
ゲーティアは思考する。
特異点を乗り越えたカルデアに、座標は特定され、また、こちらからもカルデアを特定できた。
カルデアのマスターたちは、彼にとっての運命の瞬間は、すぐそこまで迫っていた。
1.
スプリガンは不安であった。
まもなく、全ての鐘が鳴る予定だと、ゴローに聞いていた。
だから、その前に、バーヴァン・シーを確保してほしい。
そう言われていたのだ。
訪れたニュー・ダーリントンの街は、控えめに言って荒廃していた。
あらゆる要素から、何ひとつ、秩序が感じられない。
崩れた蝋燭のような廃墟が立ち並んでいる。
血の臭いが漂い、目に見えて空気が澱んでいた。
街には犯罪者が溢れ、氏族長である自分が、護衛の騎士を並べて歩いているのに、構わず襲ってくる。
それは、そのまま領主であるトリスタン──バーヴァン・シーの衰えを現していた。
領主館に辿り着き、モルガンの勅命でバーヴァン・シーの部屋を守護していた衛兵に突き当たる。
彼らにモルポンドと食い物を握らせて、バーヴァン・シーの部屋に入る。
「──うっ!」
漂ってきたのは、腐臭であった。
閉じ切っていたために、それは部屋中に蔓延していた。
ランプをつけると、おぞましいものが、ベッドの上に転がっていた。
手足が溶けている。
皮膚の上に気泡を噴き出し、肉がどす黒く変色し、四肢は関節から、ちぎれかけていた。
小さく胸が上下するたびに、呼吸をしているので生きているのは分かる。
だが、その度に、腐り果てた息が漏れていた。
内臓も腐っているのだ。
瞳に光はなく、代わりに汚水が溜まってブヨブヨになっている。
髪の毛はガサガサで、毛先は化石のように固まって、灰色に変質していた。
「す、スプリガン様……こ、これはもはや、人質としての価値もないのでは……?」
お付きの衛士がそういうのも無理はない。
スプリガンもそう思っていた。
ボロクズの肉人形。
これに比べれば、まだ、本来の役割の果てにボロボロとなった雑巾の方が、モノとして幾分かマシである。
スプリガンは、グロテスクすぎるそれを、正直見ていたくなかった。
これを、キャメロットまで持ち帰ると考えただけで、胃が重くなる。
だが、これは『神』との約束であり、秤に乗るは自身の命である。
背に腹は変えられない。
「誰か、袋を持ってきなさい。それに詰めて、運びますよ……」
到底、生きているいち個人への所業ではない。
だが、その場にいる誰もが、スプリガンに文句は言わなかった。
2.
オックスフォードの鐘が鳴る。
それを、カルデアのマスターと、マシュ、ダ・ヴィンチにパーシヴァル。村正とハベトロット、そして、賢人グリム──そして、ウッドワスが見届けた。
アルトリアの体表に、煌びやかな魔力が瞬いて現れ、ひと間をおいて、彼女の身体に飛び込むように吸収されていく。
目を開いたアルトリアの魔力は、かつてのそれとはもはや別次元にあった。
それを、喜びの目で見る。
ウッドワスと、ハベトロット、そして賢人グリム以外は。
「……本当に、似ている」
ウッドワスの呟きに、ただ頷いたのはハベトロットであった。
ただし、それはウッドワスには気づかれぬように、声もなく、動作も小さかった。
グリムも、首を少しだけ傾けて、同意を示していた。
「これで、準備は全て終わった。既に、円卓軍とノクナレアの軍は合流している……ここからが正念場ってやつだな」
グリムの物言いは、歯に骨が詰まったようだった。
何か、納得いっていない。
何か、気になる点がある。
不安を拭いきれない口調であった。
「……ちょっと、いいか」
そのグリムを、村正は呼んだ。
アルトリアたちに伺いを立てて、鐘撞堂から出る。
二人、オックスフォードの用意された個室に入る。
「なんだい、村正? 愛の告白なら受け付けねえぞ?」
洒落てる場合か。
……いや、おまえさんらしいんだろうが。
とツッコミを入れる村正の表情には、影が差している。
「あの男……ゴローは結局何モンなんでえ?」
「なぜ、オレが知ってると思うんだ」
ふざけろ。
と村正。
「おまえさんの中にいるのは『
「…………」
村正が聞きたいのは、あの男の正体ではない。
あの男が、結局のところ敵なのか、味方なのかだろう。
マンチェスターでは、バーゲストはスタンスを中立とする言質はとった。
だが、あの男はどう立ち回るのか、何も言わなかった。
悪いやつではない。
そのぐらいのことは、村正にも分かる。
だが、戦局を一変させる力を持つのは明白だ。
事実、あの男はロンディニウムの戦いで、たったひと踏みで戦局を変えて見せている。
最後の最後、あの男の立ち位置が予測できないことが、村正には不気味であった。
どちらにも手は出さない、という言葉は、やはりロンディニウムでウッドワスと円卓の戦いに手を出している以上、どこまで信用できるかわからない。
特に、妖精國を──モルガンを倒せたとして、その後にあの男がどう振舞うかが見当もつかない。
あるいはバーゲストがいる限り、おとなしくしている可能性もあるが……
あの力だ。
襲い掛かられたら、こちらは容易く全滅するだろう。
「『
「他には?」
「さあな、オレにはこれ以上、主神クラスの神の真言を聞き取る『格』はねえよ、耳が破裂しちまう」
「…………わかった。今は、とりあえず『智慧の神』さんを、信じるとするぜ」
だが、と村正は言う。
「もし、あいつが敵になるんなら、いの一番に挑むのはオレたちだ。アルトリアやマシュには、荷が重いなんてもんじゃねえからな」
「わかってるさ。戦地でも平時でも、先んじて死にゆくべきは老兵だと、相場が決まってるからな」
二人の戦士は、お互いに拳を作り、叩き合った。
覚悟を示す行いである。
ふっ、と笑い合っていた。
とても、他のメンバーの前では見せない笑みであった。