【完結】妖精國に落ちた超越者が、妖精騎士たちにほんの少しだけ救いを与えるお話【挿絵有り】 作:ロウシ
4/1 誤字修正 報告ありがとうございます(報告はやくない? すごくない?)
第一話:生きているのがすばらしすぎる
1.
ノクナレアが死んだ。
毒杯を飲み干し、タイミングを見計らったかのような告発。
忠誠を削がれ、力を削がれ、ノクナレアの腹に剣が食い込む。
アルトリアの腕の中で、力も、自我も、命も抜け落ちて、彼女は死んだ。
その光景、その落差は、混乱と憤怒でさらに掻き乱れる。
ノクナレアの側近も、ソールズベリーの──オーロラの近衛兵になんなく薙ぎ倒された。
怒りと悲しみに震えるアルトリアたちにも、彼らは容赦なく襲い掛かった。
「待ちなさい! 彼女たちは──!?」
止めに入ろうとしたコーラルの口を、何者かが手で塞いだ。
全く気配なく、背後に忍び寄られていた。
何者か問うこともできなかった。
抵抗するいとまもなかった。
いかなる薬であろうか、
毒であろうか、
あるいは魔術なのか、
彼女は瞬時に昏睡し、その場で倒れた。
力の抜けたコーラルの身体を、その何者かは軽々と抱き上げて、騒動のドサクサに紛れて、ソールズベリー大聖堂を裏口から立ち去った。
スプリガンも、さっさと撤退していた。
というより、彼は氏族の代表として、ノクナレアに口上を述べたのち、脇目も振らず、止める声もきかず、すぐさま馬車を出してソールズベリーから離脱していたのだった。
「逃げるぞ!」
村正が叫んだ。
グリムが炎の壁で、衛兵の魔手と剣を遮っている。
アルトリアは、血に塗れて、眠るように死んでいるノクナレアの瞼を優しく閉じると、その額に親愛の意味でキスを落とした。
別れのキスであった。
かつて、トネリコがウーサーにしたように。
ソールズベリー大聖堂には、ノクナレアの仇を討たんとする王の氏族が押し入り、それを迎え撃ち、叩き潰さんとする南部の妖精でごった返した。
コーラルがいなくなったとこを好機とばかりに、オーロラの私兵たちが勇んで剣を抜く。
新たな王の出立。
記念すべき日を穢したエディンバラの妖精たち。
彼らにとっては、もはや戴冠式だけでなく、オーロラの外聞を叩き潰したものたちでもある。
お互いがお互いに、コトを穏やかに収めようと言う気は、毛頭なかった。
──正門は無理だ。
妖精が詰まりすぎている。
どいつもこいつも殺意に塗れすぎていやがる。
村正は、いっそ壁を破壊して横から出ることを考えた。
特別な作りかもしれないが、知ったことか。
命が大事だ。
なにより、このままだとアルトリアがやべえ!
その時──天井が崩れ落ちた。
がしゃああん! と重力によって鐘楼が落ちた。
支えを失ったのだから、造作もない。
それは、アルトリアたちの目の前で、簡単に砕けた。
かつてアルトリアが鳴らした、あの気高き音ではなく、ガラクタが岩に叩きつけられて壊れるような、不細工な音を断末魔として。
遅れて、衝撃波が飛ぶ。
音が後から達する。
それに、団子になっていた妖精たちが薙ぎ倒される。
重装兵の軍団に潰されて、そのまま何人かが死んだ。
腕が折れたもの、内臓が破裂したもの、目がはじけたもの。
倒れ込んで手を離れた剣を、腹から生やすもの。
弱ってへたり込む妖精の頭部を、背後から衛兵が剣で殴りつける。
それを行った衛兵を、妖精がその秘蹟をふるい、甲冑の中から破裂させて殺した。
血を撒き散らして、バタバタと倒れていく。
倒れたものを、もう死んでいるにも関わらず、手に持った鈍器で集団で殴っている。
空間が、あっという間に血臭で満たされていく。
ここは、元々美しい音と光で空間を満たすためにつくられていた。
外部から入るそれらの反響を計算して作られたソールズベリー大聖堂は、哀しいことに、その作りが相まって悲鳴と怒号が乱反射していた。
怒り、怒り、怒り、怒り。
さながら、ひとつの地獄の縮図であった。
だが、村正はそれどころではない。
アルトリアも、それどころではない。
カルデアのマスターと、マシュ・キリエライト、そしてパーシヴァルはすでに、降り立ったそれを前に、戦闘態勢を整えていた。
音速で天井を崩し、落ちてきたもの。
妖精騎士ランスロットであった。
着地する否や、彼女は荒っぽくバイザーを投げ捨てた。
その目が、澱んだ光を放っていた。
そして、大股で村正たちに歩み寄った。
敵意が丸出しであった。
殺意に溢れていた。
村正が、反応に遅れるほどに。
槍を構えながらも、パーシヴァルが、あれは本当に姉なのかと、唖然とするほどに。
マシュが覚悟を込めてシールドを構える。
グリムがサポートの態勢に入った。
メリュジーヌは、彼らを無視して通り過ぎた。
「──なっ!?」
村正が、声を漏らす。
思わず、である。
まさか、完全無視されるとは思わなかった。
パーシヴァルもまた、呆然と槍を構えたまま、固まってしまった。
そのまま、メリュジーヌはカルデアにも村正にも、アルトリアにも、パーシヴァルにも目もくれず、大聖堂の階段を上がっていった。
「チャンスだ、逃げるぞ!!」
賢者グリムが彼らを現実に叩き戻す。
メリュジーヌが天井に開けた大穴は、マシュや村正、グリムであれば容易く飛び出せる程度の高さだった。
彼らは全速でその場を離脱した。
アルトリアは、涙で顔をぐちゃぐちゃにしながら、最後までソールズベリー大聖堂に目を向けていた。
2.
ブリテン中にモースが溢れていた。
さながら、島を俯瞰して、一望できるなら、各所で死の臭いと鉄の臭いの立ち上りを感じることができただろう。
堰を切ったように、妖精たちがモースへと変化していく。
それは、場所も、時間もとわず。
ランダムで、見境なく。
キャメロット、グロスター、オックスフォード、ソールズベリー、エディンバラ、ロンディニウム……
それだけではない。
小さな
キャメロットの場内。
玉座の間。
バーゲストと円卓軍の人間の兵士たちは、それを見る。
大穴から湧き立つ、黒い靄。
吹き昇る『何か』を──
混乱する兵士たち。
自身もその瘴気にアテられつつも、モースへと変わりゆく妖精を果敢に斬り捨てる。
バーゲストは彼らを一喝した。
「キャメロットは棄てる!
人間の兵たちは速やかに実行した。
バーゲストの守護あれば! と言って。
去りゆく背中は勇敢であった。
バーゲストはそれに、強く、気持ちの良いものだと感想を持つ。
「──ッ!」
心臓が脈動する。
内部から、外へと、力が溢れようとしている。
膝をついた。
ああ、と実感する。
私は、もう、ガウェインではないのだな。
改めて、我が身の呪いを恨めしく思う。
黒犬公。
妖精食いのバーゲスト。
だが、なにも、こんな時に……
いや、こんな時、だからこそか。
時がきた。
それだけだ。
だが、その前に、
そうなる直前まで、私は私の役目を果たす。
妖精たちを、人間を、護る。
そして、ゴ……
──アドニス。
「ぐえぇっ! げっ……がはあっ!!」
それが頭に浮かんだ瞬間、バーゲストは恥も外聞もなく吐き散らした。
嗚咽に喉を鳴らす。
目が血走るのを実感する。
涙と、鼻水と──よだれが止まらなくなる。
まただ。
また、その名前。
ゴローの名を呼ぼうとすると、それが先に割り込む。
そして、そのたびに、立っていられないほどの吐き気を催す。
よだれが止まらなくなり、肉と血の味が口内に広がる。
なんだと言うんだ、一体……?
しっかりしろ!
自分の顔を叩く。
思い切り。
ゴローは今、ここにはいない!
アドニスが何かはわからない!
ゴローなら、こう考えるハズだ。
──コトを難しくするのはいかん。
──やるべきことを、ひとつひとつやるんだ。
そうだ。
やるべきことを、やるんだ。
ひとつ、ひとつ。
はっきりしていることは、私にはもう時間がないということ。
残された時間の限り、城の中のモースを全て片付けて。
キャメロットの城下のモースも全て片付けて。
そして──マンチェスターに向かい、領主として責任を果たすことだ。
そして、そして……
できれば、彼に会いたい。
私が私でなくなる前に、彼に会いたい……!
バーゲストは立ち上がった。
視界が幾分かはっきりしている。
手に力が入る。
まだ、
「やるぞ! 私は、私のやるべきことを!!」
バーゲストは目の前のモースの群れに飛びかかった。
3.
ソールズベリーから脱出したカルデア一行とパーシヴァルは、モースの群れを蹴散らして近くの森に隠れた。
グリムの使い魔たちの報告で、ブリテン島中にモースが発生し、『大厄災』が始まったことを知る。
『聖槍』の取り外しは間に合わない。
パーシヴァルはロンディニウムに戻ることを決めた。
そこに、ストーム・ボーダーからの連絡が入った。
しかし、開口一番に聞こえた声は、ホームズのものではなかった。
『パーシヴァルくん。ロンディニウムに行くのは、取りやめてくれるかい?』
聞き覚えのある声。
太く、低く、染み渡るように広がる声。
まだ伝えていないこちらの話を、すでに承知している摩訶不思議。
「ご、ゴローかい!? なんで!?」
ダ・ヴィンチの戸惑いに、おお、無事みたいね! と安堵を返す。
コールの向こうで、失礼、と小さな声。
ホームズであった。
『ワトソンかい。こちらベイカー街二二一B。通信感度は良好のようだね。さて、もうわかるだろうが、今こちらにはミスターMが来てくれている。おかげで、ブリテン島の状態はおおむね把握できている』
ホームズは言う。
ブリテン島の崩壊が始まった。
つまり、『崩落』が始まったのだと。
「それで、ゴローはなぜパーシヴァルを引き止めるんだい? 彼は円卓軍の団長だ。ロンディニウムの指揮を……」
『そっち行っても無駄だからだよねぇ。ダ・ヴィンチ』
──どういうことですか
愕然と、パーシヴァルが聞いた。
通信の向こうから、ゴローは淡々と答えた。
ブリテンのどこに行っても、もう終わりさね。
ロンディニウムにパーシヴァルが行ったところで、なンも変わらンよ。
無駄に死ぬだけだねぇ。
それより、『大厄災』と、その前の二つのどデカい『厄災』を止めンのに、猫の手も借りたい状況さね。
戴冠式は
『厄災』は膨れ上がり、とうとう呪い──いや、『神』は目覚める。
だが、俺ン予想より……ひと回りほど、事態がワルくてね。
だから──
「
声を挟んだのは、アルトリアであった。
震えていた。
声も、身体も、杖を握る手も、その目の光も。
そこにいる皆が、押し黙る迫力があった。
「ノクナレアが死ぬことも、予想してたってこと? おまえは……」
そりゃァねぇ。
とゴローは何事もなく、それが当たり前のように答えた。
「これァ、俺が全能とか以前の問題さね。ブリテンの歴史をちゃんと知ってりゃァ──」
「ふざけるなっ!!!」
アルトリアの怒号であった。
その場にいる全員の視線が釘付けになる。
動きが止まる。
「ノクナレアを、あの子を、見殺しにしたのかあっ!! おまえっ! おまえはあっ!!」
なぜだっ!!
どうしてっ!?
『だって、俺ァ、ノクナレアを救う義理、ないンだモン』
叫ぶアルトリアと対象的に、ゴローの声は氷の冷たさであった。
義理……
義理……だと……
そんな、そんな理由で見殺しにしたの……?
助けられたのに。
知ってたら、止められたのに──
アルトリアの膨れ上がる怒りが言葉になる前に、ゴローは先制する。
『アルトリア、おまえさんの怒りは、それ、ただの感傷だよねぇ』
ゴローは、言う。
あくまで、淡々と。
ノクナレアが友達だから、救えなくて怒ってる。
そンだけでしょ?
でも、アルトリア。
イタいとこ突くケド、おまえさん、全部わかってたンじゃあないの?
『楽園の妖精』の、おまえさん。
鐘を全て鳴らし終えた、おまえさんなら。
妖精たちの性格。
妖精たちの、歴史。
トネリコの悲劇。
そのどうしようもなさ。
ぜんぶ、知ってたでしょ?
その上で、モルガンと対峙したんでしょ?
誰にも、何も伝えずに。
だから、ここまで
だったら、ノクナレア『
「──ッ!」
だん、と足踏み。
森を揺らすほど強い踏み込みであった。
土埃が舞うほどの、怒りがこもっていた。
村正のそれであった。
眉間にシワを寄せて、集めて。
眉を吊り上げて、顔に、目に、怒気を滲ませている。
アルトリアが責められる空気を、ひと踏みで破壊した。
「画面の向こうから言いたい放題、いいご身分だなおい。テメェそもそも全能なんだろうがよ。だったら、全部知ってて元々で、何も話さなかったのはテメェもじゃねぇのか?」
じいさま。
ヒトを、すぐにチートパワーに頼るロクデナシみたいに言いなさんな。
……まぁ、言いすぎたよ。
スマンね。
俺ァ俺で、想定を下回る終末なモンで、気が立ってたンだ。
本当に、すまない。
許してくれ、アルトリア。
「……許せません。だけど──あなたの言葉に、納得してるわたしがいるのも、事実です……」
口籠もりながら、アルトリアは言った。
怒りもある。
だが、理性もあった。
村正の表情は、まだ曇りがかっている。
だが、アルトリアはもう、わかっている。
過去の怒りに囚われて、前に進めないのではダメだ。
それじゃあ、ノクナレアの死が本当に無駄になる。
私たちは生きている。
この終末を、止めなきゃいけないと思っている。
今度は、自分の意志で。
なら、先に進まなきゃいけない。
『まァ、そンために色々、俺も手ェ回してンだ。
「だから、じっさまはやめろってーの。なんだい、『
俺ァこれからボーダーの稼働を手伝って、そっから、ちと寄り道すンだよね。
つまり、しばらく合流できン。
だから、それまでその子たち、護ってやってくれンかい?
「……おまえ、そりゃあ、『全能の神』としての頼みごとかい?」
違うねぇ。
とゴローは言った。
画面越しに伝わる、太い声であった。
『人として。ゴローという、ひとりの人間としての頼みさね』
賢人グリムは目を瞑った。
その言葉は、真摯であった。
自分は、ぶっちゃけこの場の全員を護るためにいるワケじゃあない。
オーディンから託されたものは、『楽園の妖精』にその使命を完遂させること。
そもそも、なぜコイツが今更カルデアにつく?
理由はなんだ?
それを、目を開いて、意を決したように。
グリムはストレートに訪ねた。
すると、ゴローは惜しげもなく、言った。
『愛のためさ、オーディン』
愛する女のため。
俺の、すべてを捧げる価値のある女のため。
その子に、笑っていて欲しいのさ。
はっきりと、そう言った。
マシュの顔が、紅色する。
ダ・ヴィンチはぽかんと口を開ける。
村正は、呆然とする。
パーシヴァルは、強く頷いていた。
アルトリアは──なぜか、泣きたくなっていた。
ゴローは続けた。
オーディン。
おまえさんも、
あの子を愛するが故に、色々仕込んでるじゃないンかい?
……にしちゃァ、エラくまどろっこしい愛を向けてるみたいだケドさ。
「ヒトサマ──……いや、神サマのプライベートをホイホイ暴くんじゃありません!」
画面の向こうから、けらけらと天邪鬼な、太い笑い声がする。
どういうこと?
えっ?
どういうこと?
とダ・ヴィンチやマシュがハテナマークを浮かべていた。
ハテナマークが、だんだん断定系のそれに変わっていく。
画面の向こうから、ホームズの「フム、そう言うことでしたか……」という声が聞こえて来る。
「ちょっとォー!? ほらァー空気読まない名探偵とかいるんですよーカルデアには!!」
『ごめんって。でも、
愛ってヤツァ、ちゃぁんと、口で伝えた方がいいよ?
みんな、俺やじっさまみたいな全智の眼はもってねンだから。
今回、俺ァ
これ終わって帰れたら、すぐ言いなさいな。
あの子の目を見て、ハッキリとね。
「ねぇ、グリム? これってまさか──」
「あー……聞かないでくれる? マスター。一応そこ、『
「やっぱり、スカディのことなんだね!」
「あっ! ……おい、『
さぁね、なんのこった?
俺にゃァなぁんもワカらんねぇ〜ッ!
げたげたと、少し下品な笑い声。
そこで、ダ・ヴィンチは話をまとめた。
まず、自分達はこのまま南下して、ストーム・ボーダーに向かう。
そっちは、準備でき次第ブリテンに向かう。
待ち合わせは霧の海岸。
ブリテンをどうするのか。
我々が何をするべきか。
その先の話はボーダーで行おう。
タイミングを見計らって出てきてくれたレッドラ・ビットに運ばれて、カルデア一行は南を目指す。
4.
二か所で、殺戮があった。
ひとつは、キャメロットの城下。
息も絶え絶えに、城内のモースを片付けたバーゲストがたどり着く。
そこは、すでに屍の山であった。
モースたちが、貪るように。
倒れ伏した円卓軍の人間兵士の身体に群がっていた。
「あ、あ──……!」
バーゲストは、返り血と浴びた相当量のモース毒に蝕まれながらも、
「うあああああっ!!」
その群れに向かって、
もうひとつは、ソールズベリー。
未だ混乱冷めやらぬ街と、打って変わって静けさのある大聖堂。
その上階。
オーロラは、微笑みを浮かべたまま、死んでいた。
彼女は、最期に、下手人に優しくも──
引き裂かれた天井からのぞく茜空を見上げて、最後まで微笑んでいた。
下手人──メリュジーヌは、死にゆくオーロラを見下ろしていた。
その腹を何度も刺し貫いたアロンダイトは、その小さな全身は、オーロラの血でベトベトになっていた。
いても大して変わらなかっただろうが、なぜかコーラルはいなかった。
それを、オーロラは気にも留めていなかった。
だから、思うよりすんなりと、殺せた。
全身に返り血まみれ、その顔にも。
それでも、メリュジーヌはいびつに微笑んでいた。
──これで、終わった。
──オーロラ、ああ、オーロラ!
「なんで、オーロラ……あぁ! う、ぁあ……」
最後を越えて、彼女をその手にかけてなお、彼女への愛が溢れ出す。
だからこそ、彼の温もりが恋しかった。
はやく、
はやく、彼に、会わなきゃ。
会って、頭を撫でてもらうんだ。
抱きしめてもらわなきゃ……!
ああ、オーロラ。
どうしてきみは、最後までそうだったんだ……
わた、私は……うぁぁ……
助けて、助けて……!
さびしいよ……つめたいよ……はやく、彼のところに……
「すごいじゃないか! 本当にオーロラを殺せたんだね!」
そこに、歓喜の声が降り注ぐ。
メリュジーヌの背後から。
錆びついた、機械的な動きで、メリュジーヌは振り返った。
そこに、■■■■・■■■■■■■■がいた。
笑顔であった。
最初だけ、すこし、意外そうに目を見開いていたが、いかにも演技くさかった。
「おめでとう」
彼の、その言葉に心はない。
だが、それはオーロラとは、また違う。
心にもない言葉だからこそ、彼は口に出せるのだから。
わた、私──彼は、どこ──?
「おめでとう! これで、ようやくきみは、
──えっ?
「おや、何を驚いてるんだい? ただの事実だろ?」
キミは、自分の愛を貫くためだけに、生みの親を殺したんだ。
これが、自分の愛のために殺戮をおこなっていたオーロラと、何が違うんだい?
「!? う、うぁ……あ、ああぁっ!!」
おめでとうメリュジーヌ。
これで、キミは名実ともに妖精國で最も美しく、最も輝ける妖精になったんだ。
──つまり、キミはさんざん彼を苦しめた、オーロラと同じモノになれたんだ。
自己愛の化け物にね。
いやぁ、汎人類史では、『子は親に似る』って言うけど、まさかそれが、妖精國でも見れるなんて思ってもみなかったよ!
ほら、早く彼のところにいきなよ?
彼、今、カルデアたちと一緒にいるよ?
南にずっと下ればカチ会えるよ。
その血まみれ手で、醜い身体で彼の胸に飛び込みなよ。
大丈夫さ。
彼は、ちゃあんと受け止めてくれるさ!
なにせ、キミは今、妖精國で最も
「う、あ、あ……あ……」
メリュジーヌの身体が、彼女のうちから湧き出てきたモヤに包まれていく。
それは、メリュジーヌの身体に纏わり付き、彼女を細胞の構成から作り変えていく。
変身している。
変質している。
それだけで、この
それだけで、大聖堂だけではなく、ソールズベリーの街そのものが沈むほど、広範囲の大地が歪んでいく。
変質していくメリュジーヌを、その声が絶望に彩られて死にゆく様を。
それを見て、『奈落の虫』は笑っていた。
「おっとっと、このまま虫のように、ガレキに潰されて退場はごめんこうむるよ。さて、主演女優
そう言って、■■■■・■■■■■■■■はその場を去った。
紺色の翼が、絶望を糧に広がっていく。
それは、空に向かって産声を上げると、真っ直ぐ南に向かって飛び立った。