【完結】妖精國に落ちた超越者が、妖精騎士たちにほんの少しだけ救いを与えるお話【挿絵有り】 作:ロウシ
1.
カルデア一行はストーム・ボーダーに無事合流した。
中ではマリーンたちが慌ただしく忙しなく離水準備に動いている。
カルデアはゴルドルフ・ムジークの主導のもと、報告を受理する。
カルデアのマスターたちは、妖精國でのあらましを改めて説明した。
「う、うむ。だいたいミスターMの報告通りだ……経営顧問! 話はまとまったかね?」
「はい。対策……これからやるべきことという意味でなら」
ホームズは語る。
やるべきは、大きく分けて二つ。
地上に湧き出てブリテンを覆い尽くさんとするモースの討伐。
そして、『神造兵装』──つまり、『ロンゴミニアド』の確保。
だが、そこに賢人グリムが口を挟んだ。
あれは、使い手とセットで意味を成す。
『聖槍』だけてにいれたところで、意味はない、と。
ホームズはそれを聞いて、ふむ、そういうことか。
だから、ミス・シオンはブリテンにこだわっていたのか……とひとりごちていた。
「あの、ゴローさんは?」
カルデアのマスターが聞いた。
ゴローの姿がない。
あの巨躯を見逃すはずもないし、完全にストーム・ボーダー内にいないのだ。
マスターの疑問に、ホームズは答えた。
「彼は、ブリテンでまだやることがあると飛び去っていったよ。ご丁寧に、エンジンの出力に調節を加え、電算室の電子の流れまで、スムーズになるように手を加えてくれた上でね……」
だから、こうして合流までの時間が短縮できたし、離水、発進までの時間は予定の半分以下になった。
「あのやろ……せめて一発、殴らせやがれってんだ」
ありがたさを飲み込んだ上で、村正が納得いかないと口を尖らせていた。
「大変だよー大変だよー!!」
観測手のマリーンが泣き喚く。
キャプテンが素早くどうした? とレスポンスした。
うえーんと泣きながら、マリーンは言った。
「ブリテン北西部で大火災発生! おまけに『大穴』から超高密度の重力変動確認! まるでブラックホールだよー!」
ブリテンの北西部……
大穴の重力変動……
カルデアのマスターが頭を捻らせていると、はっ、となってアルトリアが言った。
「バーゲスト……!」
そうだ。
マンチェスターはバーゲストの領地。
そして、ゴローがお世話になっていた場所だ。
だから、ゴローはいなかったのか?
いや……
カルデアのマスターは、数多の理不尽と戦い抜けたその勘が告げていた。
たぶん、それとは違う。
もっととんでもなく、ヤバいことが起こっている気がした。
見過ごせない。
その言葉に、マスターと共にブリテンを駆け抜けたものたちは、賛同した。
ホームズは一応『大穴』の精査を先にするべきと言ったが、ゴルドルフはマスターの勘を信じて決断を下す。
二、三の言葉を交わして、いく先は決まった。
ストーム・ボーダーは、一旦進路を、マンチェスターにとり、そこからシャドウ・ボーダーを投下する。
シャドウ・ボーダーの運転手にはムニエル。
搭乗するのはマスターと、マシュ・キリエライト。
まず、これを先遣隊としてマンチェスターの状態を確認。
精査できそうならばそのまま一時間だけマンチェスターを調べ、それが無理そうならそのままシャドウ・ボーダーを回収して『大穴』へと直行する。
カルデアのマスターは救護室に飛び込んだ。
そこで、虎の子の『予備令呪』を補填する。
活性アンプル剤に手を伸ばして──やめた。
ゴローの言葉を思い出していた。
薬は、身体のバランスを崩して、無理やり動かすもの。
できる限り、使わない方がいい。
深呼吸をひとつ。
丹田に、意識を集中する。
アンプル剤をがしゃりとまとめてポシェットに入れる。
なんだかんだ言って、これは、いざという時のために使うために。
カルデアのマスターは覚悟を決めた。
2.
マンチェスター。
牧歌的だった街は、炎と、死と、狂気でいっぱいだった。
その地に一歩踏み出した瞬間。
誰を隠そうバーゲスト自身がそれを感じ取った。
「なん──だ、これ、は……?」
目の前で繰り広げられるのは、殺戮であった。
モースによるものではない。
領民たちによる、人間の殺戮である。
手足を縛られて、吊るされて、身動きできないその身体に一本一本槍を突き刺せていく。
ぴゅるぴゅると吹き出る血をなめ取って、妖精たちは赤子のようにはしゃぎ回った。
手足をもいで、地面に転がしている。
もぞもぞと這う人間を、集団で噛みちぎる。
おいしいね!
おいしいね!
そう言いながら。
ワザと、人間たちに逃げる時間を与える。
遠くなる背中に向けて、剣を投げる。
背中には、数字が書いてあった。
剣は、ものすごいスピードで心臓の位置に、吸い込まれるように突き刺さる。
やった! 百点だ!
オレの勝ちだ!
くっそう、負けた!!
悔しさに手を叩く言動。
喜びに笑いあげる感情。
演技ではなかった。
嘘ではなかった。
彼らは、心の底から、楽しそうに遊んでいた。
誰もが、笑顔であった。
心の底から、その殺戮を、楽しんでいた。
「おま、え……たちっ! おまえたちぃーっ!!!」
モース毒に侵され、自らの呪いに足を引き摺られ、力の有り余ったバーゲストは前のめりになって無様に転がった。
それを見て、妖精たちは笑った。
バーゲストが、帰ってきたよー!
みんな! みんな!
バーゲストが、アソビにまざりたいって、帰ってきたよー!
食いしん坊のバーゲスト!
素敵なアソビを教えてれてありがとう!
だから、特別に混ぜてあげるね!!
しょうがないなあ。
あ、またバーゲストが泣いてるよ!
お屋敷の奥でも、泣いてたね!
むしゃむしゃしながら泣いてたね!
人間の子供を食べてたね!
でも、それで、そのおかげで。
ボクたち、人間を殺すのが楽しいって知ったんだよね!
ぼくたちを楽しませてくれるなんて、バーゲストはとってもいい領主サマだったね!!
恋多きバーゲスト!
黒犬公のバーゲスト!
でも、ボクらにはとってもいい領主!!
バーゲスト、バンザーイ!!
バーゲスト、バンザーイ!!
「なにを、してるんだ……なにを、言ってるんだ、おまえら……っ!!?」
わたしが、これを教えた?
人間を、虐殺することを?
人間を、捕食することを?
無抵抗な弱者を、いたぶって、殺すことをか……?
──バーゲスト
困惑に顔を歪めるバーゲスト。
その時、脳内で声が聞こえた。
自分を呼ぶ声。
弱々しい枯れ木のような声。
知らない声。
──バーゲスト。
──ほら、庭をみて。
──きみが植えた花は、とってもきれいだ。
あ、あああっ!
うあああああああああっ!!
バーゲストは、思い出した。
それを、
魂に閉じられていた記憶が、ぎりぎりと蓋をこじ開けていく。
歩けないぼくのために、きょうも一輪、新しい花を添えてくれたんだね。
そう言って、泣きはらす私を慰める彼を──
そう言って、杖をつく、小さな小さな人間を──
私は、
私は、泣きながら、
私は、十七年前。
ベッドの上で、その
「うああああああああああああっ!!!!」
バーゲストは、頭を地面に叩きつけた。
何度も、何度も。
夢であってくれ!
嘘であってくれ!
そう願うような動きであった。
だが、頭皮が抉れて血を撒き散らすほど行っても、それは現実だと思い知る。
「うえっ! ぐええっ! げ……げはぁっ!!」
バーゲストは、自らは吐き出す吐瀉物を認識して、さらに絶望した。
殆どが、唾液であった。
血混じってはいるが、それは、粘ついて、酸味があって、口の端からぼたぼたとずっと、ここに来るまでにもずっと、垂れ流し続けていたものだった。
うあ、あああっ!
悪妖精化した妖精たちが、その様子を見て手を叩く。
おもしろいね!
おもしろいね!!
だが、バーゲストはそれどころではなかった。
最悪の想定が、頭をよぎっていたからだ。
──彼は、これを、知っていたのか?
脳裏に、大きな男が浮かぶ。
おおきくて、ふとくて、やさしくて。
彼は、この一年。
マンチェスターに、自分より長く滞在していた。
毎日のごとく行われる、住民による人間の殺戮。
いかに隠されていようと、アレほど察しのいい彼が、その事実に気づかないとは思えなかった。
知って、いたのか?
知っていて、黙っていたのか?
なんで──
なんで──
「知ってたに決まってるだろ?」
そんな声が聞こえた。
それは、外からの声ではなかった。
タガの外れた記憶のるつぼから、脳内に湧き出たものであった。
──バーゲスト。
彼はぜんぶ、知っていた。
その上で、黙っていたんだ。
なん、で……
その声は、続けた。
とりあえず、バーゲストの疑問は無視して、自分の言いたいことだけを重ねる。
だって、彼、最初っから、キミの本名を知ってたじゃないか。
あの夜。彼はキミのことを、妖精騎士ガウェインではなく、バーゲストと呼んだでしょ?
────!
『──ありがとう、
『──こんな俺を、助けてくれて』
あ、あ……あ………!!
「そしてさ、ここからが大事なんだけど。彼、一度だって、
実はね。
と、声は言う。
悪戯っぽい言い方であった。
性格悪いよなあ、あいつ。
本当は、キミのことなんてどうでもよかったんだ。
ま、それも仕方ないさ。
だって、相手は星より長生きの神だ。
こんな見窄らしい星の、どうしようもない世界の原住民に。
気持ちの悪い黒犬の、呪われた娘なんかに、本気になるわけないだろ?
バーゲストは、放心していた。
記憶を、もうはっきりと動かない頭で、懸命に記憶を、遡って、探って──
一緒にご飯を食べた。
釣りに出かけた。
ガーデニングをした。
一緒に踊って、笑いあって──
そして、彼が、いちどたりとも。
どんな時でも、自分を『愛している』と言っていないことに、気づいた。
──崩壊。
それを自覚した瞬間から。
バーゲストの自我が、崩壊していく。
うあ、あああ……っ! ああああああっ……!?
バーゲストは、もはや自他共に見て、訳がわからない動きをしていた。
地面を転がり、炎に突っ込み、それでも止まらず納屋にぶつかり、それを崩しながら、崩落するそれの中で立ち上がる。
おもしろいおもしろい!
と、そばに駆け寄った悪妖精の頭を、片手で握りつぶす。
乱心だ!
乱心だ!
バーゲストが壊れちゃった!
おかしくなっちゃった!
やっぱり、呪われてたんだ!!
黒犬公のバーゲスト!
呪われた醜い妖精のバーゲスト!
誰も、キミなんか好きじゃない!!
あの人間も、キミのことなんか好きじゃない!!
言いたい放題叫ぶ悪妖精たちに、バーゲストは飛びかかり、順番に噛み殺していく。
ぼりぼりと、その頭から、食べていく。
涙を流しながら。
血と、混ざり合った涙を、流しながら。
よだれを、こぼしながら。
その身体から、呪いが溢れ出ていく。
溢れ出した呪いは、バーゲストの身体を包み込む。
それどころか、周囲に炎を撒き散らし、その炎に炙られたものたちを、
死体から巻き上がる炎を、その魔力ごと食らい、その身体を大きく大きく変えていく。
ああああああああああ────!!!
空に向かって咆哮するそれは、
もはやバーゲストではなかった。
モース王の残した『厄災』。
ブリテンを滅ぼすものであった。
3.
「おお、ゴロー! ご無事でしたか!!」
スプリガンらしくない言葉であった。
冷静さを欠いている。
金庫城の最奥。
ブリテンで、今、最も頑丈で、最もタフな部屋だった。
そこに、入るなり、ゴローは膝をついた。
「──っ!? ど、どうされたのです!? 本当に!!?」
ゴローは肩に手を回すスプリガンに、いいよいいよと、優しくその手を払った。
よいしょっ、と言って立ち上がる。
俺も、ちと、疲れてンだ。
流石に、
と笑顔で言った。
スプリガンには、これ以上聞くなと言ってるように思えた。
だから、口を閉じる。
話題を変える。
「預かり物を──受け取りにきたのですね?」
オウさね。
とゴローは言った。
流石に、待ちくたびれたでしょ?
とスプリガンの背後に投げかけた。
四つの影が、ゆらりと、ゴローの前に立った。
外の、紅い空に照らされた凛々しい顔が、ゴローの目に入る。
その表情は、すっかり力を取り戻し、希望にみなぎっていた。
いつでも行けると、無言で情熱的に、ゴローに伝えていた。
「ゴローさま」
退出する際に、スプリガンはゴローを呼び止めた。
ゴローが振り返ると、スプリガンは恥ずかしそうに口を揉んで、手で髪をいじって、言った。
「お気をつけて」
ゴローはにっ、と笑った。
「また逢おう、スプリガン」
と言った。
4.
カルデアのマスターの報告。
マンチェスターの火災の原因はバーゲスト。
『厄災』と化したバーゲスト。
生存者はいない。
あの街は、完全に崩壊した、と。
ホームズはバーゲストを、その『厄災』を『獣の厄災』と命名した。
雷雲を生み出し、その稲妻を食らい、その熱を食らい、莫大な魔力を延々と高める獣。
だが、その歩みは遅い。
少なくとも、今この瞬間に解決するべきではないと、隅に置いた。
こういう時に、スムーズに解決への優先順位をつけれることが、ホームズを名探偵たらしめる、強みのひとつであった。
「で、あれば、あの『大穴』──」
しかし、ホームズの言葉は遮られる。
『大穴』から出土したそれに、言葉を失った。
ケルヌンノス。
賢者グリムが、その名を呼んだ。
穴の底に半身を沈めながら、既に、キャメロットの城の何倍もの巨躯を誇る、呪いの神。
マスターと、ダ・ヴィンチは、そしてパーシヴァルは、アレが壁画に描かれていた本人だと察する。
ケルヌンノスは、大穴から特大質量の呪層を吐き出しながら、その手でキャメロットを押し潰していく。
湧き出した手の数は、二百を超えた。
ブリテンに、ケルヌンノスの纏う呪いが解放を待っていたかのように、嬉々として地面を這いずって、空を埋め尽くして、この
呪いが強すぎて、ボーダーでは近づけなかった。
かといって、もはや地上に降りることもできない。
立ち尽くすカルデア。
立ち尽くすストーム・ボーダー。
そこに、さらなる『厄災』が降り注ぐ。
ボーダーを焼き尽くさんとする熱線。
それに、マリーンが気づいた。
ぎりぎりでそれを回避する。
船内がガクンと揺れた。
立っていられない。
転がりながらも、ゴルドルフは言った。
「な、何があったのかね!? 今の熱線は一体……何が起こったと言うのだね!?」
キャプテンがマリーンに指示を飛ばす。
熱線の元をモニターに映す。
それを見て、一同は愕然とした。
映り込んだものは、戦闘機であった。
竜のカタチをしていたが、生命体とは言い難い。
背後にブースターを備え、紺色の羽を広げ、熱波を広げて音速で旋回する。
その正体を、パーシヴァルだけが瞬時に把握した。
「姉さん──いや、メリュジーヌ!!」
パーシヴァルは叫ぶのと同時に、甲板に走り出した。
礼装を着込みながら、カルデアのマスターが後を追った。
その後を、マシュ・キリエライトもほぼ同時に追いかけた。
パーシヴァルの視線の先。
接近する竜。
間違いない、あれは姉だ。
彼女が、あの姿でここにいるということは──
最悪の結末を、パーシヴァルは想像した。
そして、おそらく、それは事実だと。
「ダメだ! 速すぎる!! ふ、振り切れねぇっ!!」
操縦桿を握るムニエルが叫ぶ。
あの竜の速度は、音速をゆうに超えている。
それでありながら、慣性を無視した軌道を描き、追ってくる。
その力も、秘めるエネルギーも桁違いである。
そのまま。
この状態のアレは、そのままで、あのギリシャ異聞帯の機神たちとですら、がっぷりやりあえるほどのパワーとスピードを持っている。
無造作に熱線を放った。
少し深い呼吸をするかのように、簡単に。
『神造兵装』にも劣らぬほどのパワーと熱が、真っ直ぐにボーダーに伸びてきた。
「エンジンに連絡! トリトンを一機潰してもいい! 全速で回避、離脱するんだ!!」
「んがあああっ! ダメだ、間に合わねぇ!! 躱せねぇ!!」
光が全てを飲み込まんとする一瞬。
誰もが、破壊の熱波を浴びることを、覚悟した刹那。
熱線がねじまがって、明後日の方向に飛んだ。
遅れて、ばちん! と破裂音がする。
響く轟音、炸裂するエネルギーがボーダーをぐらつかせる。
目が開けられないほどの熱と光。
凄まじいエネルギー同士が、ボーダーのすぐそばでぶつかり合ったのだった。
最初に目を開いて、状況を確認できたのは、さすがのキャプテン・ネモ。
その次に、ホームズが。
そして、ダ・ヴィンチが。
続々と
「ゴローさん……!」
──スマン、だいぶ遅くなっちまった。
顔だけ、視線だけ甲板のマスターたちに振り返り、ゴローは言った。
「あの熱線を、は、弾き飛ばしたのか!?」
「まぁ、やっこさんならできるだろうさ」
「──っ! ほ、本当に、『神』なんだ、あいつ……」
ムニエルが驚き、グリムは納得し、アルトリアは悔しそうに眉を顰めた。
「ゴローさん、戦ってくれるんですか……?」
マスターの問いに、うんにゃ?
と、とぼけたように否定を返した。
「今のだけは、サービスさね。メリュジーヌがああなっちまった一因は、実ァ俺にあるモンでね……不本意なンだが、まァ、こンくらいはいいでしょ」
そ、そうですか、と落ち込む声。
だが、まてまて、まちンさい。
とゴローは言う。
「アレの相手をするべきは、俺より適任が、ここにおるじゃないの」
ゴローの視線は、マスターの背後に。
その視線を、追う。
パーシヴァルであった。
パーシヴァルは、目を見開いていた。
驚きに、そして、ようやくの気づきに。
「まさか、ゴロー殿。あなたは……」
な!
とゴローは笑った。
太い──笑みであった。
「槍、ウッドワスに使わンで、よかったでしょ?」
愛のために、使える時が、きたでしょ?
「──あなたは、どこまで、見えていたんですか……」
呆然と、それでいながら、泣くような声で、パーシヴァルが言った。
あっけらかんと、ゴローは返す。
宇宙の誕生と最果てから、そのオワリまでさね。
なンせ、俺ァ、『神』なモンでね。
冗談めかして、ゴローは言った。
パーシヴァルは目を閉じた。
──大きい。
なんて、大きな人だ。
あの時、少しでも、惜しんだ自分が恥ずかしい。
いンだよ、別に。
そンなこたァ、愛のまえじゃァ小せえ小せえ!
気にすンねぇ!!
と、ゴローは言った。
パーシヴァルの心を見透かし、その凝り固まった懸念を溶かす、暖く、強くて、大きくて、太い言葉であった。
「──しっかり、抱きしめてやンな」
甲板に降り立ち、ゴローはパーシヴァルの背を、その大きな掌でバン! と叩いた。
「はい!」
パーシヴァルの顔には、もはや一点の曇りもなく、その目は、その言葉は、力強さに溢れていた。
「──とと、いっけね」
パーシヴァルの覚悟に、あえて水を差すように、ゴローがおどけた。
「忘れるトコだったわ」
その言葉に、疑問符を浮かべる。
おーい、こっちさ。
とゴローが彼方に向かって手を振る。
マリーンのひとりが、叫んだ。
「報告! 報告!! なんかすごい魔力がこっちに飛んできてる!! あれ、でもこれ……」
「もう目視で確認できてる! モニター、映して!! プロフェッサー、解析──」
するまでもないよ!
とダ・ヴィンチが言った。
ああ、あの火の鳥は!
ああ、この神霊の霊基は──
それ、は。
それは、優雅に力強く、甲板の上に降り立った。
炎をまとっていた翼。
現在進行形でブリテンを焼く、悍ましいそれとは違う、神々しい炎だ。
その背から、カルデアたちにとって、懐かしくも恐ろしい人影が降り立った。
それは、言った。
「みんな! 感動的な話の最中にすまないが──」
靡かせる長い金髪。
強い意志と、どこか愛嬌のある瞳。
しゅっとした顔つき。
純白のローブ。
魔力で装飾された杖。
「──私だ! キリシュタリア・ヴォーダイムだ!!」
き、きききききき!!?
「キリシュタリア・ヴォーダイムぅー!!?!?!?」
ゴルドルフの声は、天を貫かんとするほど甲高く、ブリテンの空に響いた。