【完結】妖精國に落ちた超越者が、妖精騎士たちにほんの少しだけ救いを与えるお話【挿絵有り】   作:ロウシ

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反撃開始の第二話です


第二話:もう動けない朝が来ても、僕はあなたのそばにいるから

1.

 

 

 カルデア一行はストーム・ボーダーに無事合流した。

 

 中ではマリーンたちが慌ただしく忙しなく離水準備に動いている。

 カルデアはゴルドルフ・ムジークの主導のもと、報告を受理する。

 カルデアのマスターたちは、妖精國でのあらましを改めて説明した。

 

「う、うむ。だいたいミスターMの報告通りだ……経営顧問! 話はまとまったかね?」

「はい。対策……これからやるべきことという意味でなら」

 

 ホームズは語る。

 やるべきは、大きく分けて二つ。

 地上に湧き出てブリテンを覆い尽くさんとするモースの討伐。

 そして、『神造兵装』──つまり、『ロンゴミニアド』の確保。

 

 だが、そこに賢人グリムが口を挟んだ。

 あれは、使い手とセットで意味を成す。

 『聖槍』だけてにいれたところで、意味はない、と。

 

 ホームズはそれを聞いて、ふむ、そういうことか。

 だから、ミス・シオンはブリテンにこだわっていたのか……とひとりごちていた。

 

「あの、ゴローさんは?」

 

 カルデアのマスターが聞いた。

 ゴローの姿がない。

 あの巨躯を見逃すはずもないし、完全にストーム・ボーダー内にいないのだ。

 マスターの疑問に、ホームズは答えた。

 

「彼は、ブリテンでまだやることがあると飛び去っていったよ。ご丁寧に、エンジンの出力に調節を加え、電算室の電子の流れまで、スムーズになるように手を加えてくれた上でね……」

 

 だから、こうして合流までの時間が短縮できたし、離水、発進までの時間は予定の半分以下になった。

 

「あのやろ……せめて一発、殴らせやがれってんだ」

 

 ありがたさを飲み込んだ上で、村正が納得いかないと口を尖らせていた。

 

「大変だよー大変だよー!!」

 

 観測手のマリーンが泣き喚く。

 キャプテンが素早くどうした? とレスポンスした。

 うえーんと泣きながら、マリーンは言った。

 

「ブリテン北西部で大火災発生! おまけに『大穴』から超高密度の重力変動確認! まるでブラックホールだよー!」

 

 ブリテンの北西部……

 大穴の重力変動……

 

 カルデアのマスターが頭を捻らせていると、はっ、となってアルトリアが言った。

 

「バーゲスト……!」

 

 そうだ。

 マンチェスターはバーゲストの領地。

 そして、ゴローがお世話になっていた場所だ。

 

 だから、ゴローはいなかったのか?

 

 いや……

 

 カルデアのマスターは、数多の理不尽と戦い抜けたその勘が告げていた。

 

 たぶん、それとは違う。

 

 もっととんでもなく、ヤバいことが起こっている気がした。

 見過ごせない。

 

 その言葉に、マスターと共にブリテンを駆け抜けたものたちは、賛同した。

 ホームズは一応『大穴』の精査を先にするべきと言ったが、ゴルドルフはマスターの勘を信じて決断を下す。

 

 二、三の言葉を交わして、いく先は決まった。

 ストーム・ボーダーは、一旦進路を、マンチェスターにとり、そこからシャドウ・ボーダーを投下する。

 

 シャドウ・ボーダーの運転手にはムニエル。

 搭乗するのはマスターと、マシュ・キリエライト。

 

 まず、これを先遣隊としてマンチェスターの状態を確認。

 精査できそうならばそのまま一時間だけマンチェスターを調べ、それが無理そうならそのままシャドウ・ボーダーを回収して『大穴』へと直行する。

 

 カルデアのマスターは救護室に飛び込んだ。

 そこで、虎の子の『予備令呪』を補填する。 

 活性アンプル剤に手を伸ばして──やめた。

 

 ゴローの言葉を思い出していた。

 薬は、身体のバランスを崩して、無理やり動かすもの。

 できる限り、使わない方がいい。

 深呼吸をひとつ。

 丹田に、意識を集中する。

 

 アンプル剤をがしゃりとまとめてポシェットに入れる。

 なんだかんだ言って、これは、いざという時のために使うために。

 

 カルデアのマスターは覚悟を決めた。

 

 

2.

 

 

 マンチェスター。

 牧歌的だった街は、炎と、死と、狂気でいっぱいだった。

 

 その地に一歩踏み出した瞬間。 

 誰を隠そうバーゲスト自身がそれを感じ取った。

 

「なん──だ、これ、は……?」

 

 目の前で繰り広げられるのは、殺戮であった。

 モースによるものではない。

 領民たちによる、人間の殺戮である。

 

 手足を縛られて、吊るされて、身動きできないその身体に一本一本槍を突き刺せていく。

 ぴゅるぴゅると吹き出る血をなめ取って、妖精たちは赤子のようにはしゃぎ回った。

 手足をもいで、地面に転がしている。

 もぞもぞと這う人間を、集団で噛みちぎる。

 おいしいね!

 おいしいね!

 そう言いながら。

 ワザと、人間たちに逃げる時間を与える。

 遠くなる背中に向けて、剣を投げる。

 背中には、数字が書いてあった。

 剣は、ものすごいスピードで心臓の位置に、吸い込まれるように突き刺さる。

 やった! 百点だ!

 オレの勝ちだ!

 くっそう、負けた!!

 

 悔しさに手を叩く言動。

 喜びに笑いあげる感情。

 演技ではなかった。

 嘘ではなかった。

 彼らは、心の底から、楽しそうに遊んでいた。

 誰もが、笑顔であった。

 心の底から、その殺戮を、楽しんでいた。

 

「おま、え……たちっ! おまえたちぃーっ!!!」

 

 モース毒に侵され、自らの呪いに足を引き摺られ、力の有り余ったバーゲストは前のめりになって無様に転がった。

 

 それを見て、妖精たちは笑った。

 

 バーゲストが、帰ってきたよー!

 みんな! みんな! 

 バーゲストが、アソビにまざりたいって、帰ってきたよー!

 食いしん坊のバーゲスト!

 素敵なアソビを教えてれてありがとう!

 だから、特別に混ぜてあげるね!!

 しょうがないなあ。

 あ、またバーゲストが泣いてるよ!

 お屋敷の奥でも、泣いてたね!

 むしゃむしゃしながら泣いてたね!

 人間の子供を食べてたね!

 でも、それで、そのおかげで。

 ボクたち、人間を殺すのが楽しいって知ったんだよね!

 ぼくたちを楽しませてくれるなんて、バーゲストはとってもいい領主サマだったね!!

 

 恋多きバーゲスト!

 黒犬公のバーゲスト!

 でも、ボクらにはとってもいい領主!!

 

 バーゲスト、バンザーイ!!

 バーゲスト、バンザーイ!!

 

「なにを、してるんだ……なにを、言ってるんだ、おまえら……っ!!?」

 

 わたしが、これを教えた?

 人間を、虐殺することを?

 人間を、捕食することを?

 無抵抗な弱者を、いたぶって、殺すことをか……?

 

 ──バーゲスト

 

 困惑に顔を歪めるバーゲスト。

 その時、脳内で声が聞こえた。

 自分を呼ぶ声。

 弱々しい枯れ木のような声。

 知らない声。

 

 ──バーゲスト。

 ──ほら、庭をみて。

 ──きみが植えた花は、とってもきれいだ。

 

 あ、あああっ! 

 うあああああああああっ!!

 

 バーゲストは、思い出した。

 それを、

 魂に閉じられていた記憶が、ぎりぎりと蓋をこじ開けていく。

 

 歩けないぼくのために、きょうも一輪、新しい花を添えてくれたんだね。

 

 そう言って、泣きはらす私を慰める彼を──

 そう言って、杖をつく、小さな小さな人間を──

 私は、

 私は、泣きながら、

 

 私は、十七年前。

 ベッドの上で、その少年(アドニス)を貪ったんだ。

 

「うああああああああああああっ!!!!」

 

 バーゲストは、頭を地面に叩きつけた。

 何度も、何度も。

 夢であってくれ!

 嘘であってくれ!

 そう願うような動きであった。

 だが、頭皮が抉れて血を撒き散らすほど行っても、それは現実だと思い知る。

 

「うえっ! ぐええっ! げ……げはぁっ!!」

 

 バーゲストは、自らは吐き出す吐瀉物を認識して、さらに絶望した。

 殆どが、唾液であった。

 血混じってはいるが、それは、粘ついて、酸味があって、口の端からぼたぼたとずっと、ここに来るまでにもずっと、垂れ流し続けていたものだった。

 

 うあ、あああっ!

 

 悪妖精化した妖精たちが、その様子を見て手を叩く。

 おもしろいね! 

 おもしろいね!!

 

 だが、バーゲストはそれどころではなかった。

 最悪の想定が、頭をよぎっていたからだ。

 

 ──彼は、これを、知っていたのか?

 

 脳裏に、大きな男が浮かぶ。

 おおきくて、ふとくて、やさしくて。

 彼は、この一年。

 マンチェスターに、自分より長く滞在していた。

 毎日のごとく行われる、住民による人間の殺戮。

 いかに隠されていようと、アレほど察しのいい彼が、その事実に気づかないとは思えなかった。

 

 知って、いたのか?

 知っていて、黙っていたのか?

 なんで──

 なんで──

 

「知ってたに決まってるだろ?」

 

 そんな声が聞こえた。

 それは、外からの声ではなかった。

 タガの外れた記憶のるつぼから、脳内に湧き出たものであった。

 

 ──バーゲスト。

 彼はぜんぶ、知っていた。

 その上で、黙っていたんだ。

 

 なん、で……

 

 その声は、続けた。

 とりあえず、バーゲストの疑問は無視して、自分の言いたいことだけを重ねる。

 

 だって、彼、最初っから、キミの本名を知ってたじゃないか。

 あの夜。彼はキミのことを、妖精騎士ガウェインではなく、バーゲストと呼んだでしょ?

 

 ────!

 

 『──ありがとう、■■■■■(バーゲスト)

 『──こんな俺を、助けてくれて』

 

 あ、あ……あ………!!

 

「そしてさ、ここからが大事なんだけど。彼、一度だって、()()()()()()()()()()って、言ってないぜ?」

 

 実はね。

 と、声は言う。

 悪戯っぽい言い方であった。

 

 性格悪いよなあ、あいつ。 

 本当は、キミのことなんてどうでもよかったんだ。

 ま、それも仕方ないさ。

 だって、相手は星より長生きの神だ。

 こんな見窄らしい星の、どうしようもない世界の原住民に。

 気持ちの悪い黒犬の、呪われた娘なんかに、本気になるわけないだろ?

 

 バーゲストは、放心していた。

 記憶を、もうはっきりと動かない頭で、懸命に記憶を、遡って、探って──

 

 一緒にご飯を食べた。

 釣りに出かけた。 

 ガーデニングをした。 

 一緒に踊って、笑いあって──

 

 そして、彼が、いちどたりとも。

 どんな時でも、自分を『愛している』と言っていないことに、気づいた。

 

 ──崩壊。

 それを自覚した瞬間から。

 バーゲストの自我が、崩壊していく。

 

 うあ、あああ……っ! ああああああっ……!?

 

 バーゲストは、もはや自他共に見て、訳がわからない動きをしていた。

 地面を転がり、炎に突っ込み、それでも止まらず納屋にぶつかり、それを崩しながら、崩落するそれの中で立ち上がる。

 おもしろいおもしろい! 

 と、そばに駆け寄った悪妖精の頭を、片手で握りつぶす。

 

 乱心だ!

 乱心だ!

 バーゲストが壊れちゃった!

 おかしくなっちゃった! 

 やっぱり、呪われてたんだ!!

 黒犬公のバーゲスト!

 呪われた醜い妖精のバーゲスト!

 誰も、キミなんか好きじゃない!!

 あの人間も、キミのことなんか好きじゃない!!

 

 言いたい放題叫ぶ悪妖精たちに、バーゲストは飛びかかり、順番に噛み殺していく。

 ぼりぼりと、その頭から、食べていく。

 涙を流しながら。

 血と、混ざり合った涙を、流しながら。

 よだれを、こぼしながら。

 

 その身体から、呪いが溢れ出ていく。

 溢れ出した呪いは、バーゲストの身体を包み込む。

 それどころか、周囲に炎を撒き散らし、その炎に炙られたものたちを、黒い犬(ブラックドッグ)に変えていく。

 死体から巻き上がる炎を、その魔力ごと食らい、その身体を大きく大きく変えていく。

 

 ああああああああああ────!!!

 

 空に向かって咆哮するそれは、

 もはやバーゲストではなかった。

 

 モース王の残した『厄災』。

 

 ブリテンを滅ぼすものであった。

 

 

3.

 

 

「おお、ゴロー! ご無事でしたか!!」

 

 スプリガンらしくない言葉であった。

 冷静さを欠いている。

 金庫城の最奥。

 ブリテンで、今、最も頑丈で、最もタフな部屋だった。

 

 そこに、入るなり、ゴローは膝をついた。

 

「──っ!? ど、どうされたのです!? 本当に!!?」

 

 ゴローは肩に手を回すスプリガンに、いいよいいよと、優しくその手を払った。

 よいしょっ、と言って立ち上がる。

 俺も、ちと、疲れてンだ。

 流石に、

 

 と笑顔で言った。

 

 スプリガンには、これ以上聞くなと言ってるように思えた。

 だから、口を閉じる。

 話題を変える。

 

「預かり物を──受け取りにきたのですね?」

 

 オウさね。

 とゴローは言った。

 流石に、待ちくたびれたでしょ?

 とスプリガンの背後に投げかけた。

 

 四つの影が、ゆらりと、ゴローの前に立った。

 

 外の、紅い空に照らされた凛々しい顔が、ゴローの目に入る。

 その表情は、すっかり力を取り戻し、希望にみなぎっていた。

 いつでも行けると、無言で情熱的に、ゴローに伝えていた。

 

「ゴローさま」

 

 退出する際に、スプリガンはゴローを呼び止めた。

 ゴローが振り返ると、スプリガンは恥ずかしそうに口を揉んで、手で髪をいじって、言った。

 

「お気をつけて」

 

 ゴローはにっ、と笑った。

 

「また逢おう、スプリガン」

 

 と言った。

 

 

4.

 

 

 カルデアのマスターの報告。

 マンチェスターの火災の原因はバーゲスト。

 『厄災』と化したバーゲスト。

 生存者はいない。

 あの街は、完全に崩壊した、と。

 

 ホームズはバーゲストを、その『厄災』を『獣の厄災』と命名した。

 雷雲を生み出し、その稲妻を食らい、その熱を食らい、莫大な魔力を延々と高める獣。

 

 だが、その歩みは遅い。

 少なくとも、今この瞬間に解決するべきではないと、隅に置いた。

 こういう時に、スムーズに解決への優先順位をつけれることが、ホームズを名探偵たらしめる、強みのひとつであった。

 

「で、あれば、あの『大穴』──」

 

 しかし、ホームズの言葉は遮られる。

 『大穴』から出土したそれに、言葉を失った。

 

 ケルヌンノス。

 

 賢者グリムが、その名を呼んだ。

 穴の底に半身を沈めながら、既に、キャメロットの城の何倍もの巨躯を誇る、呪いの神。

 

 マスターと、ダ・ヴィンチは、そしてパーシヴァルは、アレが壁画に描かれていた本人だと察する。

 

 ケルヌンノスは、大穴から特大質量の呪層を吐き出しながら、その手でキャメロットを押し潰していく。

 

 湧き出した手の数は、二百を超えた。

 ブリテンに、ケルヌンノスの纏う呪いが解放を待っていたかのように、嬉々として地面を這いずって、空を埋め尽くして、この世界(ほし)そのものに広がっていく。

 

 呪いが強すぎて、ボーダーでは近づけなかった。

 かといって、もはや地上に降りることもできない。

 立ち尽くすカルデア。

 立ち尽くすストーム・ボーダー。

 

 そこに、さらなる『厄災』が降り注ぐ。

 

 ボーダーを焼き尽くさんとする熱線。

 それに、マリーンが気づいた。

 ぎりぎりでそれを回避する。

 船内がガクンと揺れた。

 立っていられない。

 

 転がりながらも、ゴルドルフは言った。

 

「な、何があったのかね!? 今の熱線は一体……何が起こったと言うのだね!?」

 

 キャプテンがマリーンに指示を飛ばす。

 熱線の元をモニターに映す。

 それを見て、一同は愕然とした。

 

 映り込んだものは、戦闘機であった。

 竜のカタチをしていたが、生命体とは言い難い。

 背後にブースターを備え、紺色の羽を広げ、熱波を広げて音速で旋回する。

 その正体を、パーシヴァルだけが瞬時に把握した。

 

「姉さん──いや、メリュジーヌ!!」

 

 パーシヴァルは叫ぶのと同時に、甲板に走り出した。

 礼装を着込みながら、カルデアのマスターが後を追った。

 その後を、マシュ・キリエライトもほぼ同時に追いかけた。

 

 パーシヴァルの視線の先。

 接近する竜。

 間違いない、あれは姉だ。

 

 彼女が、あの姿でここにいるということは──

 

 最悪の結末を、パーシヴァルは想像した。

 そして、おそらく、それは事実だと。

 

「ダメだ! 速すぎる!! ふ、振り切れねぇっ!!」

 

 操縦桿を握るムニエルが叫ぶ。

 あの竜の速度は、音速をゆうに超えている。

 それでありながら、慣性を無視した軌道を描き、追ってくる。

 その力も、秘めるエネルギーも桁違いである。

 そのまま。

 この状態のアレは、そのままで、あのギリシャ異聞帯の機神たちとですら、がっぷりやりあえるほどのパワーとスピードを持っている。

 

 無造作に熱線を放った。

 少し深い呼吸をするかのように、簡単に。

 『神造兵装』にも劣らぬほどのパワーと熱が、真っ直ぐにボーダーに伸びてきた。

 

「エンジンに連絡! トリトンを一機潰してもいい! 全速で回避、離脱するんだ!!」

「んがあああっ! ダメだ、間に合わねぇ!! 躱せねぇ!!」

 

 光が全てを飲み込まんとする一瞬。

 誰もが、破壊の熱波を浴びることを、覚悟した刹那。

 

 熱線がねじまがって、明後日の方向に飛んだ。

 遅れて、ばちん! と破裂音がする。

 響く轟音、炸裂するエネルギーがボーダーをぐらつかせる。

 目が開けられないほどの熱と光。

 凄まじいエネルギー同士が、ボーダーのすぐそばでぶつかり合ったのだった。

 

 最初に目を開いて、状況を確認できたのは、さすがのキャプテン・ネモ。

 その次に、ホームズが。

 そして、ダ・ヴィンチが。

 続々と()()を見て、熱線が曲がった理由を理解した。

 

「ゴローさん……!」

 

 ──スマン、だいぶ遅くなっちまった。

 

 顔だけ、視線だけ甲板のマスターたちに振り返り、ゴローは言った。

 

「あの熱線を、は、弾き飛ばしたのか!?」

「まぁ、やっこさんならできるだろうさ」

「──っ! ほ、本当に、『神』なんだ、あいつ……」

 

 ムニエルが驚き、グリムは納得し、アルトリアは悔しそうに眉を顰めた。

 

「ゴローさん、戦ってくれるんですか……?」

 

 マスターの問いに、うんにゃ?

 と、とぼけたように否定を返した。

 

「今のだけは、サービスさね。メリュジーヌがああなっちまった一因は、実ァ俺にあるモンでね……不本意なンだが、まァ、こンくらいはいいでしょ」

 

 そ、そうですか、と落ち込む声。

 だが、まてまて、まちンさい。

 とゴローは言う。

 

「アレの相手をするべきは、俺より適任が、ここにおるじゃないの」

 

 ゴローの視線は、マスターの背後に。

 その視線を、追う。

 

 パーシヴァルであった。

 パーシヴァルは、目を見開いていた。

 驚きに、そして、ようやくの気づきに。

 

「まさか、ゴロー殿。あなたは……」

 

 な!

 とゴローは笑った。

 太い──笑みであった。

 

「槍、ウッドワスに使わンで、よかったでしょ?」

 

 愛のために、使える時が、きたでしょ?

 

「──あなたは、どこまで、見えていたんですか……」

 

 呆然と、それでいながら、泣くような声で、パーシヴァルが言った。

 あっけらかんと、ゴローは返す。

 

 宇宙の誕生と最果てから、そのオワリまでさね。

 なンせ、俺ァ、『神』なモンでね。

 

 冗談めかして、ゴローは言った。

 パーシヴァルは目を閉じた。

 ──大きい。

 なんて、大きな人だ。

 

 あの時、少しでも、惜しんだ自分が恥ずかしい。 

 ()の言葉を疑い、あまつさえ、ひと握りの怒りさえ覚えていた、自分が。

 

 いンだよ、別に。

 そンなこたァ、愛のまえじゃァ小せえ小せえ!

 気にすンねぇ!!

 と、ゴローは言った。

 パーシヴァルの心を見透かし、その凝り固まった懸念を溶かす、暖く、強くて、大きくて、太い言葉であった。

 

「──しっかり、抱きしめてやンな」

 

 甲板に降り立ち、ゴローはパーシヴァルの背を、その大きな掌でバン! と叩いた。

 

「はい!」

 

 パーシヴァルの顔には、もはや一点の曇りもなく、その目は、その言葉は、力強さに溢れていた。

 

「──とと、いっけね」

 

 パーシヴァルの覚悟に、あえて水を差すように、ゴローがおどけた。

 

「忘れるトコだったわ」

 

 その言葉に、疑問符を浮かべる。

 おーい、こっちさ。

 とゴローが彼方に向かって手を振る。

 

 マリーンのひとりが、叫んだ。

 

「報告! 報告!! なんかすごい魔力がこっちに飛んできてる!! あれ、でもこれ……」

「もう目視で確認できてる! モニター、映して!! プロフェッサー、解析──」

 

 するまでもないよ!

 とダ・ヴィンチが言った。

 

 ああ、あの火の鳥は!

 ああ、この神霊の霊基は──

 

 それ、は。

 それは、優雅に力強く、甲板の上に降り立った。 

 炎をまとっていた翼。

 現在進行形でブリテンを焼く、悍ましいそれとは違う、神々しい炎だ。

 

 その背から、カルデアたちにとって、懐かしくも恐ろしい人影が降り立った。

 

 それは、言った。

 

「みんな! 感動的な話の最中にすまないが──」

 

 靡かせる長い金髪。

 強い意志と、どこか愛嬌のある瞳。

 しゅっとした顔つき。

 純白のローブ。

 魔力で装飾された杖。

 

「──私だ! キリシュタリア・ヴォーダイムだ!!」

 

 き、きききききき!!?

 

「キリシュタリア・ヴォーダイムぅー!!?!?!?」

 

 ゴルドルフの声は、天を貫かんとするほど甲高く、ブリテンの空に響いた。

 

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