【完結】妖精國に落ちた超越者が、妖精騎士たちにほんの少しだけ救いを与えるお話【挿絵有り】 作:ロウシ
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0.
その男は大きい男であった。
キャメロットへの移動中、男は馬車の荷台の上に寝かせていた。
何かあった時の対応のため、ガウェインが同席していた。
ボロクズのような男。
寝かせてみて改めて、その形と大きさ、そして重さがわかった。
男を荷台に持ち上げて、寝かせるまでに、部下だけで六人必要だった。
それでもあまりにモタモタしていたので、最後はガウェインが一息に持ち上げたのだが、男の肩に手を回した瞬間、両手にかかった異常な負荷を覚えている。
その特性上、自ら獲物を狩ることも多いガウェインである。
狩った獲物の遺体を手持つことも多かった。
力の抜けた、命の抜け落ちた生き物の身体が、見た目より重く感じることは知っていた。
しかし、それを込みに考えても、男の重さは異常と言うほかなかった。
普通、人間の場合も動物の場合も、身長と体重にはそれぞれに適正な比率がある。
その元々からして万能たる妖精はその限りではないが、妖精騎士の仕事上人間や動物を調教することが多いガウェインには、それはよく知るところであった。
人間の場合、だいたい身長から百か、百十の数字を引くぐらいがちょうどいい。
ガウェイン本人の好みで測るなら、身長と体重の数値差は少ない方がいいのだが。
しかし、人間の脆弱な関節や骨格では、太すぎる肉を備えると、途端に十全のパフォーマンスが発揮できないと知っている。
肉が大きいと、身体にかかる負荷は常に大きくなり、それだけ兵士としての寿命も短くなってしまう。
筋力が骨格に反して多すぎると、不思議なことに、却って動けなくなり、パワーも出ないし、体力も無くなってしまうのだ。
ガウェイン自身、そこに関しては充分理解しているつもりだ。
自身も、未だに成長が止まらぬ胸の脂肪には、中々困っているからである。
ガウェインの所感を述べるなら、男の重さは身長より遥かに重かった。
二メートルを超える程度の身長に対し、おそらく、体重は半トンを軽く超えている。
比喩抜きで鉛のような重さであった。
これでは、部下の手に負えないのは当たり前の話だ。
軋む荷台を心配しつつ、ごろんと寝かせた。
男は、途端に、その傷がみるみる治っていった。
治療の一切は受けなかった。
もっとも、普通なら、レクリエーションのためのあり合わせの治療キットでは到底治せない傷ではあっただろうが。
千切れかけていた腕は断面を合わせて支えているだけでくっつき、飛び出していた肉は巣に帰る動物のごとく皮膚の内側に潜り込んでいった。
折れ曲がった脚はバキバキと痛そうな音と共に元の形を取り戻し、ペシャンコの腕は男がふっ、と息を入れるとめり、めりっと元の形に膨らんでいった。
総じて異常な光景であった。
タオルを貸して、男が血を拭うと、血の通ったよく灼けた皮膚が現れた。
男は、言葉もなくそれを見守っていたガウェインに振り返る。
真摯な目つきで、精悍な声で、まっすぐそのガウェインの目を見つめて、言った。
ありがとう。
この恩は忘れない。
いつか、必ず返すよ。
──と。
1.
淀みなくペンを走らせる。
マンチェスターの領主館。
ガウェインは報告書を書いていた。
男に関する報告書である。
あの謁見のさいに、陛下に賜った言葉。
男はマンチェスターに連れて行くこと、面倒を見ること。
その意味を、ガウェインはしっかり汲み取っていた。
要するに、監視だ。
男のやることを監視して、必要なら命懸けで止めること。
他の任務を差し置いてでも、それはやるべきことだと。
事実、その後に組まれていた妖精騎士としての仕事がごっそりと減らされていた。
他でもない、陛下の御命令によって。
大役を任されたのだ。
男──ゴローは強い。
大きくて、強い。
それはこの数日で、嫌と言うほど理解した。
指を動かすだけで特異点を作り出すパワー。
ランスロットですら追いつけないスピード。
それを制御する力の精密な操作。
瀕死から回復する驚異的な自己治癒能力……
…………
ぼたり。
書類に、水塊が落ちた。
大きな水塊だった。
強い粘り気があった。
紙にじわりと染み込んで、インクが滲んだ。
それは、ガウェインのヨダレであった。
ハッと意識を取り戻す。
慌てて口元を拭う。
腕がべちゃべちゃになってしまった。
すごい量のよだれが出ていた。
全く気づかなかった。
無意識の内の行い。
つまり、本能的な肉の働きだった。
頭を振った。
バシバシと頬を叩く。
しかし、頭の隅にそれを追いやっても、ゴローのことについて書いていると、徐々にそれは頭の中に充満して、ガウェインの思考を支配しようとする。
おいしそうだなぁ。
とうとう、ボソリと呟いてしまった。
あれだけ強くて大きい男なんだ。
あれだけの傷が、なんともない男なんだ。
ひょっとして、死なないんじゃないか。
私が少し食べたぐらいじゃ、死なないんじゃないか……
「おおおおおおおお!!!」
机に頭を叩きつける。
バリバリと机は真っ二つ。
報告書がバサバサと宙を舞う。
インクが床に撒き散った。
「領主さま、うるさーい!!」
「今何時だと思ってんですー?」
どこからかそんな声が聞こえてきた。
言うまでもなく、マンチェスターの妖精たちの声だ。
「す、すまない!! ちょっと足を滑らせてしまいましたわ……」
慌てて報告書を拾い上げる。
べしゃり、と膝がインクだまりに突っ込んだ。
「うえっ!? ひゃあ!!?」
反射的に立ちあがろうと踏ん張った先で紙を踏んづけてすべり、後頭部を壊れた机の角にぶつけて、そのまま尻から床にダイブした。
ゴン! と鈍い音が響いた。
ネグリジェはインクまみれ。
その顔にもべっとり。
腕は相変わらずヨダレでべっとべと。
腰座りになって、ガウェインはプルプルと震えていた。
なんだか、とっても恥ずかしかった。
2.
「おはようさぁ」
朝。
テーブルには既にゴローが座っていた。
座って、片手に紅茶がある。
机上には本を広げていた。
大きな本だ。キャメロットの資料室からそのまま持ってきた本だった。
それを、となりに文字の書かれた紙を置いて、定期的に見比べながら読んでいる。
文字の書いた紙は、ガウェインお手製である。
ゴローがキャメロットの資料室に向かった日。
ガウェインは別件をこなしていた。
他ならぬ、ゴローのために無くなった予定の帳尻合わせと、ゴローをマンチェスターに住まわせるための準備だ。
帰ってきたゴローは、本をいくつか布袋に入れていた。
大きな袋にぱんぱんになるほど借りてきていた。
だが、ガウェインの目を引いたのは、赤く腫れ上がった目であった。
何かあったか?
そう聞くと、ゴローは。
奇跡に出会ったンだ。
と言った。
部屋に案内して、食事でもといそいそと動いていると、水場まで出てきたゴローに言われた。
「あの、よ……」
「キャメロットは、楽しかったですか?」
「ン? ……まぁ、よく出来た首都だとおもうよ。妖精たちともそこそこお話しできたしねぇ……アレで二千年、モルガンは國を統治してるんでしょ? 苦労が計り知れなくて、ため息がでちゃうねぇ」
「そうですか……」
そうそう、んでね。
とゴロー。
「あの、さ。すンげえ恥ずかしいんだけどさ」
コリコリと頭をかいていた。
恥ずかしそうに。俯いていた。
一転して、目線を逸らしていた。
なんでしょう。とガウェインは聞いた。
「じ……」
じ?
「字、半分ぐらいしか読めねンだわ。教えてくンねぇかなぁ……?」
口をすぼめて、
チラリとコチラをみて、言った。
ガウェインはしばらく固まった。
そして、
「ふふ……」
と微笑した。
「確か、あなたは全能ではなかったのですか?」
「ベッキャヤロウ。文字ぐらい、本くらい、力ァ使わずに普通に読みてンだよ! 本一冊読むのにいちいち力使ってたら、肩、凝っちまうだろ。おまえさん。おまえさんだと、よくわかるんじゃないかい? 肩が凝る痛み、煩わしさってぇ、やつぁさぁ」
「セクハラ、と言うものでしょうか、これは……」
ガウェインはやれやれと息をついた。
水場から離れて、すぐにカンタンな単語表と、いくつかの例文を載せた紙を作ってあげたのだった。
3.
「ウマイ」
目の前に出された山盛りの料理の数々。
それを迷わず口にしたゴローの感想一発目は、目を見開いた感動だった。
「やっぱウマイよ、これ。めちゃくちゃウマイ」
「お口に合うようで、なによりですわ」
「量も申し分ないし、なンか、申し訳ないねぇ……」
「ふーん……あなた、人には散々無礼な振る舞いをなされているのに、ご飯となるとずいぶん消極的なのですね」
「そらァね。男ってのは単純だからね。胃袋掴まれたら即、ノック・アウト。無条件降伏のTKOだものね」
「てぃー……けい……? とにかく、よかったですわ」
ナイフとフォークを巧みに使って、ガツガツといい食べっぷりである。
山盛りの料理があっというまに減っていく。
見た目通りの大食い。
良かった、とガウェインは胸を撫で下ろした。
「ごっそさんでした」
手を合わせて、一礼する。
込められるのは、食に対する感謝と、それを作ったガウェインへの感謝だ。
「お粗末様でした」
にこりと、ガウェインも笑った。
気持ちいい食べっぷりと、綺麗に完食してくれたことは素直に嬉しかった。
「あー……食器、どこに持っていきゃあいいかねぇ?」
「私が片付けますわ、そのままでも……」
「とりあえず水場にもってっときゃあ、いいか」
重ねた大皿を軽々と持ち上げて、のそりと動き出す。
ガウェインはテーブルに座ったまま、その背中を眺めていた。
本当に、大きな背中だと思った。
本人は気づかない。
テーブルを打ち付ける音に。
熱っぽい視線を向ける一方で、自身の口から溢れ出した、大きなよだれがぼとぼとと、テーブルに落ちていることに。
4.
夜。
ベッドの上。
ゴローは用意された部屋を存分に堪能していた。
柔らかくて弾力のある、いいベッドだった。
彼の体重を支えるために、特注品を用意していた。
別件、のひとつがこれである。
ゴローは端的に言ってアホヅラで寝ていた。
口の端からたらりとよだれが垂れていた。
お腹もいっぱいで、しかもウマかった。
柔らかいベッドで眠るなんて、果たしていつぶりなのだろうか。
ぎぃ……
小さな音と共に、扉が開いた。
ガウェインだった。
だが、目がいつもの彼女と違っていた。
目の黒い部分が小さく、細くなり、白眼の部分が圧倒的に広がっていた。
血走っていた。
はぁ、はぁ、と息が荒かった。
そのくせ、ゴローのベッドに近づく足取りは緊張感のある忍び足であった。
ランプもつけない。
当然である。
ゴローに起きて欲しくないからだ。
食べたい……
ゴクリと喉が鳴った。
食べたい……
その頭からは、モルガンの命令はどこかに消えていた。
その振る舞いからは、彼女の敬愛する騎士道は、どこかに消えていた。
おいしいよね……
ひと口ぐらいなら、いいよね……
すり足のように一歩踏み出すたびに、口の中にまだ見ぬ味が予想として広がっていく。
大きな肉だ。
太い肉だ。
噛みごたえが、あるんだろうなぁ。
繊維がぷつりぷつりと口の中で弾ける感触を想像する。
舌を、喉を潤す血の味を想像した。
粘っこいよだれが、だらりと落ちた。
あと、二歩。
その時。
──ありがとう。
ゴローの声であった。
ガウェインの足が、ぴたりと止まった。
ありがとう、助けてくれて。
いつもの低音ではなく、間延びした口調でもなく、さわやかな青年のような声だった。
ありがとう、■■■■■。
こんな俺を、助けてくれて。
あ、あ…………
ガウェインは後ずさった。
彼が、自分の真名を呼んだからだ。
教えていないのに。
わかるはずがないのに。
なんで、知っているんだ──
全能。
──そ。たぶん、全能の神に値するんじゃないかなぁ……? いつ言っても、自分で言っててケッコウ恥ずかしいんだケドね、これ。
あ、あ、あ、あ……
全部、バレていたのだろうか。
全部、知られていたのだろうか。
出会ったあの瞬間から。
あの時から。
ガウェインの背中から、ゾッとするものが這い上がった。
それは、そのまま上へ上へと登っていき、耳の中から頭の中にするりと入り込んで、ガウェインの脳内をめちゃくちゃに掻き回した。
普段、その肝の中に堰き止めている、暗い暗いものだった。
あ、あ、あ、あ、あっ、
あああああああああっ!!!!!
ガウェインは走り出した。
背を向けて、逃げるように。
実際、逃げていた。
そのまま、自分の部屋に飛び込んで、ベッドに飛び込んで、布団にくるまって、枕を噛み締めて、泣いた。
込み上げてきた哀しみに、鳴いた。
「うううううううううううっ!!!」
その日、マンチェスターには珍しく雨が降っていた。
それは人の目には見えない。
妖精眼無き妖精たちでは感じることもできない雨。
己の絶望が具現化した、ガウェインの大粒の涙だった。
5.
「おはようさぁ」
「……あぁ。おはよう……」
朝の再会はどんより曇り空。
もっとも、それはガウェインから見た世界。
ゴローはパンを片手に紅茶を飲んでいる。
「…………」
ガウェインは向かい側の席に座った。
何から切り出せばいいのかわからなかった。
あの時、ゴローは本当に寝ていたのか。
起きていて、ワザと言ったんじゃないのか。
私のことを、心の底では軽蔑しているんじゃないのか。
「……流石の俺でもよぉ、睨まれてると飯、食いにくいんだけども」
本人はこの様子だ。
ふざけているのか。
いや、ふざけているな、これは。
私の、気持ちも、考えずに。
私の……
「あああああっ!!!」
バァン!
と立ち上がった。
ゴローからしてみたら、いきなり鼻息荒く訳も分からず叫び出したのだから、びくりと肩を震わせた。
「はっ……す、すまない……」
ガウェインはいそいそと椅子に座った。
体を縮こめている。
それを見ながら、もぐもぐと、ゴローはパンを食べている。
「キャスマック・ウォームって、なんでしょう?」
「えっ?」
紅茶を飲み干して、カップを置いて、ゴローが言った。
訳の分からない単語だった。
「なんだと思う? キャスマック・ウォームだよ」
「…………」
なんのことだかわかるわけもない。
からかわれているのか、私は。
「さぁ、知りませんわ。初めて聞く、単語ですもの……」
「ミミズのことなんだよねぇ」
ミミズ?
あの、畑の近くとかの土の中にたまにいる、ニョロニョロした虫のことか?
「そう。ミミズの超でっかい、怪獣みたいなやつ。宇宙ミミズのことでさぁ」
…………?
「こいつが、トンデモないヤツでねぇ。最小サイズで全高、五百万キロメートル。全長、一億二千万キロメートル。確認されてる最大サイズに至っては、全高、百三十三光年(百三十三兆キロメートル)、全長が三千八十光年(三千八十兆キロメートル)あって、主食は地球規模の惑星から、木星規模の巨大惑星。人がいようがかまいやしねぇ。丸ごとモリモリ食べちまう。デカいやつは、たまに恒星にも手を出すグルメときたもんだ。だもンで、一回の食事で下手すりゃ何百億、何兆の人間が死ぬ。っていうか、恒星系丸ごと滅びる。オマケに移動するだけで、宇宙空間を音速の三十万倍で動くンだ。トンデモねぇ怪物さ」
……嘘だろう?
いくらなんでも嘘だろう、それは。
「嘘じゃないんだよなぁ。いや嘘であってほしいぐらいだよ。色々事情があって、駆除するのも割と面倒なんだよなぁ、そいつら。ともかくさぁ、ちょっと、想像してみてくれよ。太陽系の四.四倍のデカさで、銀河系の百分の一の長さの、全身ぬめぬめのミミズをよぉ。惑星の上に現れたら、ぬめぬめしたデカいやつが、汁を垂らしながら、空一面を覆い尽くすンだ」
……悪いけど、想像できませんわ。
「だが、なによりやべぇのは……朝っぱらから失礼な話だけどよ、そいつの糞だよ。どんなに小さくても一万km以上の大きさで宇宙を漂う。しかも、いかんせんデカくて重いから、周辺の糞やチリやガスなんかを集めて、もっとデカくて硬くなる」
……なにを言いたいんですの?
「短気は損気よ。まぁ聞けって、最後まで。チリやガスや、同じ糞同士で集まったデカい塊は、そのまま引力に引っ張られて公転し始めて、重力で球状に固まって、自転し始めて、今度は余計なものが削れて行って小さくなって……やがて、一万年もすると惑星になる」
…………!
「んで、面白いことにねぇ。その惑星、大人気なのよ。星間規模のオークションなんかがあると、めちゃくちゃ高額で取引されるの。なんでだと思う?」
……土が、いいからですか?
「そうなのよ。ミミズの糞が原型だから、土の状態がすごく、イイんだなぁ。土がイイってことは、野菜がめちゃくちゃ育つだろ? ってことは、野菜を食べる家畜がめちゃくちゃよく育つ。つまり、肉もウマい。しかも、元手が元手だから、安く売れる。糞から染み出した水分が海になるんだけどよ、それも栄養価が高くて、こっちも高額で取引される。こっちは闇取引の定番商品さ。加工すればナンにでも使えるからね。あんまりに闇取引が横行したモンで、しまいにゃあ売買そのものが取り締まられてた時期まである」
……ちょっと、想像できませんわね。
その、スケールが、大きすぎて……
「でも、オモシロイだろ? 元はミミズの糞だぜ? ミミズの糞の塊を、金持ちが『われ先に、われ先に』と、こぞって競り落とすんだ。こぉんなに笑える字面はねぇさ、クハハハハハッ!」
あなたの、空想……とは、言い切れないんでしょうね、これも。
「もちろん、信じるかは任せるさ」
それで……何をおっしゃっりたかったのですか。
「食事に、貴賎はねェって話で。この世に、意味のないモンはねェって話さ」
──!
「だって、そうだろう? 生き物なら、他者を取り込んで強くなる、食って大きくなる。当たり前だ、そんなの。そんで、その恩恵がどっかに出てくるモンなのさ。ミミズの糞にすら、大いなる意義がある。だったら、俺たちの苦難にも、意味ぐらいあるさ」
ゴローはぐっ、と腕を曲げた。
見事な力こぶができている。
それだけで、ガウェインの顔の大きさぐらいはある。
「俺の体、大きいだろ? ここまでくるのに何億何兆と命を食ってきたんだよねぇ。だが、俺はその行為をひとっつとして、何ひとつとして後悔はしてねンだ。むしろ、そいつらには、俺の血肉になってくれて、過去の俺を、今日の俺まで繋いでくれて、感謝してるぐらいだもの」
…………。
「まぁ、食う側が、食われる側に対する思い入れで、貴賎が生まれるってのもワカるけどねぇ。えっと、つまりよ……ン……つまり……ン──……なんか、ワルい。ウマいこと言おうと思ったンだが、上手く言えねぇや」
いえ、
「スマンね、もっと言いたいこともあるけど、俺はアタマよくねえしさ。沈黙は金で多弁は銀ってことで、今回は……この辺でカンベン、してくれねぇかなぁ?」
……いえ、あなたが何を言っているのか、全ては分かりませんわ。
でも、
でも、励まして……くれてるのは、わかります。
「へへ……なァに、時間はいっぱいあるンだ。お互い、たくさん話をすりゃあいいさ。飯でも食いながら、ね」
にっこりと笑う。
ガウェインのぴったり正面から向けられた、屈託のない笑顔。
さわやかな笑顔。
なんの黒さも孕んでいない。
ガウェインも、少し間を置いて、しかし、徐々に釣られ初めて、腫れた目のまま、ほんの少しだけ口角を上げて、
目を、頬を緩めて、笑った。
ぎこちないが、笑顔は笑顔だ。
そっちの方が、いいねぇ。
笑ってる方が、いいよ。
おまえさん、普段から騎士道に憧れて、ムッとしてるみたいじゃない。
自分を律してるんだろ?
えらいよ、それは。
でも、せめて、家の中でくらい。
朝、飯を食う時ぐらいは、
笑ってた方がいいよ。
自分のために。
「なァに。イザって時は、俺がかるぅく、撫でてやるよ。おまえさんの、頭をな。俺は、おまえさんよりだいぶデカいんだし。撫でるのに人より苦労しねぇさ。いっちゃあなんだが、おまえさんなんか……さっきの話のバケモノミミズに比べりゃ、ガチのマジで、可愛いもんだからねぇ。あいつらは、頭ァ撫でても、止まンねぇからねぇ……」
■■■■■は、ぷっ、と吹き出した。
「微妙に、慰めになってませんわよ、それ」
「やっぱり?」
二人は向かい合って、テーブルを挟んで、ころころ、けらけら、笑っていた。
第二章、終わらない歌 へ続く
※挿絵を描いてるので二章の投稿は少し遅くなりまする、ご了承ください。デザインが…デザインが難しい……!!