【完結】妖精國に落ちた超越者が、妖精騎士たちにほんの少しだけ救いを与えるお話【挿絵有り】   作:ロウシ

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第十章最終話です
2024 10/7 誤字修正


第四話:二人が夢に近づくように、キスして欲しい

0.

 

 

 ベリル・ガットは言った。

 

 ──キリシュタリア・ヴォーダイムを、助けちゃくれねえか?

 

 モルガンがギリシャ異聞帯、そこにいたはずのベリル・ガットに向かってロンゴミニアドを放った後。

 ゴローと、ベリルと、モルガンの三人で行われた密会。

 

 ベリル・ガットが、

 『全能の神』としてのゴロー、

 『異聞帯の王』としてのモルガンに、

 約束してほしいと語り出したこと。

 

 ベリルの言葉を、二人は遮らなかった。

 飄々と、その顔にいつも通りの笑顔を貼り付けて、ベリルは語る。

 

 オレは今、キリシュタリアを刺してきた。

 ギリギリ急所を外してやったが──たぶん、『異星の神』は、その状態のキリシュタリアに、ギリシャ異聞帯に攻撃を仕掛けただろうな。

 だから、いくらヴォーダイムでも……死んでるだろうよ。

 

「それで、なンでわざわざ、キリシュタリアを蘇生させるンだ?」

 

 ゴローは聞いた。

 ごくごく当たり前の疑問である。

 『異星の神』にトドメをさされることはともかく。

 自分で手にかけようとしたのは事実なんだろう?

 自分で殺しといて、やっぱナシ! 

 にする理由。 

 その矛盾。

 ぜひ、聞いときたいねぇ。

 

 ゴローの言葉に、ベリルはメガネをかちゃり、と押し上げて、

 

「まぁ、ただの気まぐれだよ」

 

 と言った。

 深く、息を吐くように。

 いつもの調子ではない。

 その言葉に、お調子者らしい、おどけた色はなかった。

 

「いやさ」

 

 と、一転して、花を咲かせるように、ベリルは笑みを作る。

 

「ホラ、キリシュタリアの願い、『人類神化計画』ってヤツは……ダンナの存在でいいワケもなく全否定されてるワケじゃん? だからさ、やっぱ殺すより、エリートの吠え面見てえなー! その方が楽しそうだって、思ったのさ」

 

 取り澄ましたツラの皮ァ、ひん剥いてやるぜ、ってかい? ……コワいねぇ。

 

 ゴローは言った。

 あの時と同じ言葉を、

 あの時とは違って、湿っぽい声で。

 

 まあな!

 と、ベリルは不自然なほど、明るい声で返した。

 

「対価は、オレの命」

 

 モルガンがなっ、と思わず言った。

 それは、無茶苦茶な対価ではないか?

 どういうことだ? 

 モルガンには、目の前のベリルが、今この場で死ぬ覚悟ができているようには見えなかった。

 この場で命を捧げる男の振る舞いには見えなかった。

 ゴローは、黙っていた。

 黒く、引力のある眼で、ベリルを見ていた。

 じっと、次の言葉を、待っていた。

 

「オレは……もう行く場所がねえのさ」

 

 カルデアには、戻れるワケもねえ。

 ──元から、嫌われてたしな。

 クリプターにも、戻れねえ。

 ──キリシュタリアを、刺しちまったしな。

 『異星の神』からは、見捨てられちまった。

 ──()()()()()()、アルターエゴが差し向けられないのが、いい証拠。

 ブリテンにも、オレは馴染めねえ。

 ──どのみち、いずれ、滅ぶ世界だからな。

 

 モルガンが、目を細めて沈黙する。

 抗議する気にはなれなかった。

 ベリルの言葉は、真実を告げている。

 真理を見通す、賢者の言葉であった。

 これを、今、モルガンの心象からして遮るのは憚られた。

 

「だからよ、だから。オレは、最期ぐらい、正直にぶちまけようと思ってよ」

 

 好きな女がいるんだ。

 ちっせえ身体で、ちいせえ命で、

 懸命に生きてて、その眼に、希望を──星を宿す女だ。

 

 まあ、嫌われる。

 十中八九、オレはフラれるだろうな。

 だって、いわゆるフツウに考えて、オレ、気持ち悪いじゃねえの。

 頬にビンタくらって、拒絶される。

 

 ……でも、それでもいいんだよ。

 

 だって、ベリル・ガットは、ベリル・ガットを辞められない。

 オレは、最後の最期まで、オレであるしかない。

 元々、どっかのドブに頭突っ込んで死ぬと思ってたんだ。

 だから、好きな女に告白して、フラれて、世界の終わりに共に死ぬ。

 ……なんてよ、ロマンチック? ってヤツだ。

 上等上等。

 やりたい放題生きた、オレの死にザマとしちゃあ、ちょっと贅沢すぎる最期じゃねえか。

 今までオレが殺してきたやつに、ちょっと申し訳ないくらいだ。

 

 だからよ、どうあがいても、オレはこの世界で死ぬ。

 この世界で死ぬんだ。

 もう、どこにも行けないからな。

 間違いなく……

 だから、対価はオレの命だよ。

 むちゃくちゃ言ってるよな。

 わかってる。

 ワンチャン通れば儲けもんぐらいの、甘い考えさ。

 もちろん、オレはオレを辞められないから、カルデアの妨害もしまくるし、ダンナやモルガンにとって、良いことばかりするワケじゃねぇ。

 身勝手だろ?

 でも、これがベリル・ガットなんだ。

 ワガママだろ? 呆れ果てるだろ?

 だけど、ダンナがいいなら、よ……

 頼むわ……

 

 ゴローは、うん、うんと頷いて。

 それからふふ、と太い笑みを浮かべた。

 こぼす息が、しょうがないねぇ、と言っていた。

 

「これほどの賢者の頼みだもの。その命を受け取れる……こんなに光栄なことは、そうそうないよねぇ」

 

 ベリルは、大袈裟に喜ばない。

 ただ、いつもの調子で、いつもの笑みで、

 

「ありがとよ、ダンナ」

 

 と言った。

 

「そんでよ、モルガンに対する頼みは、ブリテンに来るだろうキリシュタリアたちを、見て見ぬふりしてて欲しいんだな」

 

 あいつ、たぶん。

 ブリテンの終末を、絶対そのままにはしねえ。

 キリシュタリアのことだ、カルデアが苦戦してるところで颯爽と現れる。

 内心ウキウキで助けに入るさ。

 それは、間違いなくブリテンのためになる。

 

 だから、見て見ぬふりをしてくれ。

 

 ベリルはモルガンに頭を下げた。

 不恰好な姿勢であった。

 人に、今まで碌に頭を下げたことなどない、男のそれであった。

 

 モルガンは、静かに口を開いた。

 吐き出す言葉は了承の意。

 

 続けて、モルガンがゴローに語ったことが、バーヴァン・シーの蘇生の約束の取り付けであった。

 

 

1.

 

 

「ベリルさんが……」

 

 マシュ・キリエライトがつぶやいた。

 反射的な、戸惑いであった。

 カルデアでの彼は、表向きは誰に対しても友好的な素振りを見せていた。

 誰とでも話を合わせていた。

 その実──偏執的な性格であることは、マシュにはよくわかっていた。

 誰とも、一定以上の距離を保つ。

 休み時間に賭け事を勤しむほどに仲良くつるんでいた、Aチームのメンバーとすらベリルは本当のところ、すれ違っていた。

 

 それは、シミュレートで実感していたキリシュタリアも気づいたことであり、

 唯一の同類でもあった、ペペロンチーノも理解していたことである。

 

 ベリル・ガットという人間の孤独。

 しかし、彼は人間は孤独で元々だという、人理万象の本質、真理に気づいた故の振る舞いであったのだ。

 

 人間が、すべからく本質は()()()()のであれば、人間たるオレも()()()()()

 

 そうあれかし、

 そう在れ化し。

 

 だから、ベリル・ガットはそうあった。

 常に、そうあることを戒めていた。

 

 ベリル・ガットは賢者であった。

 ただ、彼の慧眼と深慮は、人の世に存在するには、あまりにも早すぎた──あるいは遅すぎたのだ。

 

 人は、死ぬ。

 孤独に生まれ、

 孤独に死ぬ。

 

 誰もがわかりつつ、

 誰もが口にしない事実を、

 常に体現している男であったのだ。

 

「だから──俺ァ、キリシュタリアくんを蘇生させた。ブリテンに連れてきた」

 

 対価は、払ってもらってる。

 とてつもなくでかいものだ。

 賢者の言葉をいただいた。

 多くの真理を、改めて授かった。

 

 俺が、まだ。

 ベリルくんに学んだ時間とモノに報いるには、全然願いを叶え足りないぐらいさ。

 

「ゴローちゃん」

 

 声をかけたのは、ぺぺロンチーノであった。

 

「その……ありがとうね」

 

 それは、唯一の同類。

 唯一、ベリルと同じ世界を共有し得る者だからこその、言葉であった。

 

 いンだよ。

 むしろ、俺の方が、礼をしなきゃァ、いけねンだぜ?

 なンせ、学んでたのは、俺なンだもの。

 

 ゴローは太い笑みを浮かべた。

 微笑みなどではなく、心の底から、感謝と喜びを大きくのせて、ほんのひとつまみ、寂しさでトッピングした顔であった。

 

「これで、納得してもらえたかねぇ?」

 

 誰も、言葉を返すものはいなかった。

 それを一望して、さて、とゴローは言った。

 

「予定じゃァ、ここにあとひとりいたハズなんだが、どうやらそいつァ重役出勤決め込むハラだ。だからまぁ、しゃァないとして……」

 

 メリュジーヌには、キリシュタリア。

 お前さんとカイニス、ペペさんとコーラル。

 そんでもって、パーシヴァルくんで当たる。

 

「おうッ! 相手は惑星(ほし)の最強種、原始竜アルビオンの力! 相手にとって不足はねぇ!!」

 

 カイニス。

 トドメは、パーシヴァルくんに、空気読んでね。

 

「ヘッ、オレがそんなえんり──」

「心配しないでくれ、そうなりそうになったら、私が責任持って止めるから」

「キリシュタリア!? なんだテメェあいつの味方すんのか!!?」

「あの……な、なんだかすみません……」

「ちょっと、カイニス! パーちゃんしょぼくれちゃったじゃない!」

「アァ!? ペペロンチーノまでオレの敵かよ!!?」

「人間たちのやりとりは理解できませ……パーシヴァル!? なんであなたがここに!?」

 

 てんやわんやとするキリシュタリアたちをふふ、と見て、ゴローの隣まで駆け寄ったマスターが言った。

 

「メリュジーヌがキリシュタリアたちなら、俺たちはバーゲストを……!」

 

 いや、とゴローは言った。

 

「おまえさんたちとアルトリアは、星の内海に行ってもらう」

 

 星の内海?

 

「『楽園(アヴァロン)』のことです。マスター」

 

 ホームズの声である。

 その単語から連想するものに、マスターは思い至る。

 

 それって、アルトリアの……

 

 そうだ、とゴローは言った。

 

「湖水地方のアルビオンの竜骸から、星の内海に入れる洞窟があンだ。この世界はそのおかげで、本来は次元を(たが)うはずの地上と星の深層との境界が薄いンだよねぇ」

「じゃあ、湖水地方の真上、そこまでボーダーを飛ばそう!」

「いや、キャプテン。時間短縮も含めて、星の中層の情報集積領域までは、俺が瞬間移動で四人を連れて行くワ」

 

 ろ、ロマンもへったくれもねぇな……

 

 とはムニエルのつぶやきである。

 キャプテン・ネモはうぐっ、とショックを受けていた。

 

 ゴローはワルいワルいと、ボーダー内部にその顔は届かぬと知りつつ、キャプテン・ネモに微笑みながら──

 

「マーリン! 花の魔術師どの!? どーせこれ、全部見とるンだろ? そろそろ姿なり声なり投げてくれンかね?」

 

 ゴローが中空に叫ぶと、ぼわりとその姿が浮かび上がる。

 ボーダーの内部と、甲板に、それぞれ一体ずつ、それは現れた。

 

『ちょっとォ!? せっかくタイミングを見計らって。『やったあマーリンだ! やっと来てくれた! これで勝てるぞ!!』 みたいな雰囲気出そうと思ってたのに。呼び出されたら焦って出てきちゃったみたいで、全部台無しじゃないか!!』

 

 『超越者(ビヨンダー)』殿にはロマンが足りなさすぎると思うんだけど!?

 『楽園』への瞬間移動(ショートカット)といい、ホントに神秘もへったくれもないな、本当に!

 これだから科学だの潜在パワーだのを極めて、人のまま神の頂に昇った類のモノは……もっと神秘に敬意を払い給えよ!

 

「モノによっちゃあハニトラに引っかかって『庭』に封印された色ボケのクセに、なーに言ってんだ」

『それは資料によって解釈が異なるものだから僕には当てはまらないからね!? そろそろお兄さん、本気で訴訟起こしちゃうよ』

「訴訟起こすぐらいだったら、おまえさんは、もっと人の心をわかってやりなさいな……これでも女の方よりはマシみたいだケドねぇ」

 

 出てくるなりぎゃーぎゃーと口論する二人。

 だが、マーリンの予想通り、その姿を見て、その声を聞いたカルデアのマスターとマシュ・キリエライトの心には、確かな希望の火が灯っていた。

 

「花の魔術師どのですね。お初目にかかります」

 

 キリシュタリアが粛々と頭を下げた。

 ぺぺも、コーラルも、それに倣ってお辞儀をする。

 マーリンはそれを感じて、ふぅ、と気を持ち直す。

 

『キリシュタリア・ヴォーダイムくんだね。お噂はかねがね。今、キミが味方にいるという事実が、カルデアにとってこの上ない希望だよ』

 

 キリシュタリアは、無言で、しかし、嬉しそうに微笑んだ。

 

「よっし、各々やるこたぁ決まったねぇ! マスターくん、指示の確認お願いねぇ」

 

 大役を投げかけられて、しかし、マスターはそれを動じずに受け止めた。

 ほぅ、とゴローが声を漏らす。

 やるねぇ、やっぱり。と感心していた。

 

「キリシュタリアとぺぺさん。カイニスとコーラルとパーシヴァルは、向かってくるメリュジーヌとの戦闘」

 

 お任せください!

 とパーシヴァルは揚々と答えた。

 自身に喝を入れる、よく通る爽やかで力強い声であった。

 

「俺たちは……」

 

 アルトリアと、村正、それにマシュだね、とマーリンが言う。

 

「俺と、マシュ。村正とアルトリアはゴローさんと星の内海に!」

 

 ボーダー内部にも通信が届く。

 アルトリアはぐっ、と顔を沈めた。

 その手を、隣に立つ村正が、力強く握った。

 熱があった。

 鍛治士特有の、ゴツゴツとした分厚い手が、アルトリアの柔らかくて小さな手をすっぽりと包みこんだ。

 アルトリアが顔を上げる。

 村正は、微笑気味に顔を作って、

 

 心配すんな。

 

 と短く、小さく言った。

 アルトリアは口をきゅっと結んで、うん、と頷いた。

 

「ボーダーはメリュジーヌに見つかるまではなんとか安置を見つけて待機。メリュジーヌに襲われたらその場で迎撃……で、いいかな?」

「んで、俺ァ四人を送った後、ボーダー帰ってきてちょっと寝るわ」

 

 ──!?

 

 は!?

 

「いやっ、その、寝るの!? この状況で!?」

「ちょっ! バーゲストは!?」

 

 たからかなゴローの宣言に、ゴルドルフは戸惑いを、ダ・ヴィンチは疑問をぶん投げた。

 ゴローはちょっとめんどくさそうに。

 ポリポリと、その太い指で頭を掻いた。

 

「いや、俺、チョット働きすぎじゃない?」

 

 誰も、言い返せなかった。

 流石に疲れてンだわ。

 バーゲスト、今この瞬間に対応しなきゃ行けないモンでもねぇ。

 明確にこっち狙ってきてるメリュジーヌはともかく、ケルヌンノスとバーゲストをどうにかすンのは、アルトリアが星の内海から()()()()()()()でいいでしょ。

 

 あっちこっち同時に手をつけるなァ良くないねぇ。

 『二兎を追うものは一兎も得ず』さね。

 なぁんかノリが軽くなってるケド、ワンミスしたら俺以外全員死ぬって状況だからねぇ、今。

 

「そうだな。『超越者(ビヨンダー)』の言う通りだ。楽観的になるのもムリはねぇ戦力増強だが、相手は惑星(ほし)を滅ぼす『呪いの神』だ。一手ミスったら全滅すんのは変わらねえ」

「う、うむ! クー……賢人グリムの言うことはもっともだし、なんだかんだ言ってもそっちも流石は自称『全能の神』。言うことはもっともだ! 我々もほら、なんだっけ……経営顧問! あの東洋のことわざは……アレを締めて、ほらやらなきゃいかんだろう! あれ、なんだったかね……?」

「ふんどしを締め直す、ですね、総司令……まぁ、女性の多いこの場で使うには、いささか雄々しすぎると思いますが」

 

 そうだ!

 とゴルドルフは言った。

 

 ただいまから、ゴルドルフ・ムジークの名を持ってブリテンの終末を押しとどめる終末回避大作戦を開始する!

 ミスは許されない! 

 かと言って死ぬことも許さん!

 全員、気合を入れて挑むように!!

 

 おおーっ!!

 

 全員が一致団結して叫ぶ!

 

 その中で、なんだかんだで場を纏めてしまったゴルドルフに、キリシュタリアは心底敬意を示していた。

 




第十章終わり
最終章、日曜日よりの使者②に続く
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