【完結】妖精國に落ちた超越者が、妖精騎士たちにほんの少しだけ救いを与えるお話【挿絵有り】   作:ロウシ

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最終章最終話前半です
まぁエピローグもあるんですケドね 
4/8 誤字修正 報告ありがとうございました
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第四話:そして東から昇ってくるものを、迎えに行くんだろ【挿絵追加】

0.

 

 

 いろんなことがあった。

 

 身の程をわきまえず殺されかけて、この世界に落ちた。

 辿り着いたのは、死と呪いが蔓延した世界。

 生まれ落ちるものの原罪を、原罪のまま抱え込んで、それを、破綻せぬように、ひとりの少女が決死で繋ぎ止めている世界。

 

 歪んでいて、醜い世界だった。

 だが、その世界にも、ヒトはいた。

 多くのヒトが、いた。

 人が、科学と社会の発展の末に、過去に捨ててきてしまった神秘と自己を携えた、定命の者たち。

 

 彼らの作り上げた世界は、例えようもなく美しい。

 罪深き世界にあって、その罪に、その実苛まれる彼らは、人間的苦悩と救済を待つ、泥臭く不器用な生命体であった。

 

 暗黒の深淵の中だからこそ、

 罪をいただくかりそめだからこそ、

 どんな世界でも、変わらず宇宙(ソラ)に浮かぶ星々の輝きが、より、美しいのだ。

 

 それを、わからぬ民たち。

 それは仕方がない。

 彼らの命を司る女王は、星を見ることをやめている。

 それも仕方がないと理解する。

 荒れ狂う嵐の中で、彼女を照らす星は、残酷なまでの使命の星だった。

 嫌なことに、そう言う人の心がないシステマチックな存在は、世界を跨ぐとよく見かけるものだ。

 この世界──数多に存在する宇宙の比率で言うならば、いわゆるヒトの占める割合など、大海の一粒にすら及ばないのだから。

 

 だからこそ、星々は奇跡であり、

 だからこそ、生命は神秘なのだから。

 

 だが、転んで起き上がる際に、人が空を見上げるように……

 この世界にも、星を見出す者がいた。

 

 慰み者にされ続け、長らく、()()()()ことに、疑問を持たなかった小さな命。

 命を守るために、悪逆たれと性質を反転させられても、その性根は死の間際まで、とうとう変わらなかった。

 なんと不器用な性格なのか。

 魂の髄まで『良い子』である。

 

 変わること、変わらないこと。

 

 彼女は懸命に、生きていた。

 すり潰された魂。

 それでも、自らを救った救世主のために。

 自らを見出して、愛してくれる者のために。 

 懸命に、生きていた。

 

 星を見上げ、その輝きを理解できた者。

 星を見上げ、その中に奇跡を見出した者。

 星を見上げ、そこに、暖かなる神の抱擁を感じた者。

  

 星の下で眠る彼女を覚えている。

 私の腕に寄りかかる、命の輝きを覚えている。

 ヒトが、星を見つけた瞬間。

 私はそれに立ち会えた。

 

 その奇蹟の瞬間を。

 生涯にわたって、私は忘れないだろう。

 

 

1.

 

 

 ケルヌンノスの呪い。

 一万四千年、積み上げられ蓄えられた、芳醇な怨嗟。

 それは、ケルヌンノスの腐った肉の(うち)に充満し、かの神を肥大化させ、脈動させる。

 

 戦士たちは、懸命に戦っていた。

 賢者グリムの左目が、跳ね返るその呪いを一身に受けて弾け飛ぶ。

 体勢を崩すも、『泉』は揺らがず。

 外見が大神に近づいたが故か、その魔力は一層冴え渡る。

 神霊たるカイニスの身体を、圧倒的な物理質量で押し潰さんと手が降り注ぐ。

 割り込んだマシュが、シールド展開で致命を防ぐ。

 だが、その質量は常軌を逸する。

 威力は削げても、のしかかる重さは変わりない。

 マシュの膝が砕けかけるのを、管制室から藤丸立香が魔力──生命力を削って送り込み、阻止する。

 彼は、すでにアンプル剤を何本も打ち込んでいた。

 ゴルドルフたちの静止を振り切って、叫んでいた。

 高機動を誇るメリュジーヌを撃墜せんと、細く絞られた呪いの手が、絡みつくように彼女の後を追う。

 コーラルの秘蹟を受けたバーゲストが、(けん)を振るい、その手を根っこから斬り飛ばす。

 朽ちて落ちる手の束を潜り抜け、ケルヌンノスの肉が怯んだ隙に、シールドを立てたマシュがその肉に突撃する。

 

「もらったァ!!」

 

 大穴から噴き出る呪いの手の束が、マシュを盾ごと打ち上げる。

 紙屑のように空を舞う彼女の肩を蹴って、カイニスが槍を突き立てた。

 

 肉が爆ぜ、呪いの血液が飛び散る。

 それはグリムの聖域に阻まれてボーダーには届かない。

 それで、ケルヌンノスの動きが止まる。

 

 倒した──?

 

 だが、()()ケルヌンノスは動き出す。

 その肉が、ぐじゅぐじゅと蠢いて補填される。

 もう、何度目であろうか。

 動きを止めて、動き出す。

 それを繰り返す。

 キリがなかった。

 

「っそがァッ! 無限再生かよ!!」

 

 ボーダーに着地するカイニスが舌打ちする。

 その隣に、マシュが滑り落ちた。

 

「ダメです──対象の再生、止まりません!」

 

 このままでは消耗する一方だ。

 だが、グリムが叫んだ。

 

「いや、このままでいいんだ! オレたちのやることはケルヌンノスをここで足止めすることだ!!」

 

 そして、聡い者たちは気づく。

 この場にいない者を。

 使命を帯びた、彼女の存在──

 

 それが、何を成そうとしているのかを。

 

「どう言うことだオーディン!? オレにもわかるように説明しろ!!」

「賢者グリムだ、カイニス!!」

「カイニスさん!」

 

 グリムに食ってかかるカイニスを、マシュが呼び止めた。

 カイニスが振り向くと、マシュ・キリエライトは何かを覚悟したように目を閉じていた。

 そこに、さまざまな感情が浮かんでは消えていく。

 飲み込めない想いを、無理やり砕いている。

 カイニスはへっ、と笑った。

 

「しょうがねえな! 時間稼ぎでも足止めでも、やってやらあ!!」

 

 ただし、このオレにそれをやらせるんだ。

 それで勝てなきゃ、あの女をぶん殴ってやるからな!!

 

「大丈夫です──アルトリアさんは、やってくれます!!」

 

 マシュは、勝鬨を上げるように、その不安を噛み砕いて信頼を謳い上げた。

 

 彼女のシールドが、蒼い魔力光で包まれていた。

 

 

2.

 

 

 走る。

 がむしゃらではない。

 目的を持って、走る。

 

 キャメロットの城内は、さながら死の世界であった。

 妖精も、人間も、モースもいない。

 死体すら、ない。

 ただ崩れた瓦礫が散乱しているだけの道。

 息を切らせて、階段を駆け登る。

 

 アルトリアは、長く、入り組んだ道を振り返らない。

 止まらない。

 迷わない。

 自分に確信を持つ。

 

 あの人と、一度歩いた道だから──

 

 間違うはずがない。

 わたしの、ゆくさきを。

 

 辿り着いた玉座の間。

 崩れ果てたテラスの向こう。

 ケルヌンノスの意識が、こちらに向いていた。

 ボーダーは、すでにその正面から離脱している。

 彼らは、最後の一手を、アルトリアに託していた。

 

 ──良かった。

 

 信頼してもらえていること。

 こんなわたしを、この場においても、彼らは信頼してくれている。

 心の底から、真っ直ぐに。

 

 雑音はしない。

 静かな世界。

 厳かな世界。

 この時のために、モルガンが築き上げた世界。

 

 アルトリアは玉座の前に歩み寄る。

 そして、自身の魔力回路をそれに繋ぐ。

 

 ────!!

 

 入り込んでくる、無限に等しい情報。

 無限大に等しい魔力。

 当然だ。

 ここにあるものは、ブリテンの全て。

 ブリテンそのものを巨大ないちまいの礼装とするために編み込まれた魔力網。

 これは、その楔なのだから。

 

 弾き飛ばされそうになる。

 手先から入り込むそれに、アルトリアの皮膚は、爪は弾けた。

 

 だが、痛みよりも、その心に落ちた感嘆に息を漏らす。

 

 ──本当に、天才だ。

 

 モルガンは、神域の天才。

 疑いようもない。

 『楽園』の妖精をして、これほどの才人がほかにいるであろうか。

 魔力を編み上げて、それを破壊力に変換する。 

 その一点だけでいうなら、マーリンすら優に凌ぐだろう。

 

 だが、これを自分が扱わねばならない。

 自分しかいないのだ。

 

 再び、玉座と自分を繋げる。

 衝撃。

 体内に入り込む魔力が、アルトリアの魔力と相反して弾ける。

 そのまま、身体ごと玉座から跳ね飛ばされた。

 

 扱えない。

 しかし、それは当たり前だ。

 それはそうだ。

 

 これは、モルガンが一万四千年の呪いに対抗するために積み上げた力なのだ。

 

 ──人に、歴史あり。

 ──國に、歴史あり。

 ──呪いに、歴史あり。

 

 ここに備わる魔力は、単にモルガンの魔力だけではない。

 この玉座こそ、ブリテンの二千年における、奇蹟(歴史)の集積体なのだ。

 ならば、たがたが巡礼を一度終わらせただけの、『楽園(アヴァロン)』の残り滓の私が、扱えるはずもない。

 

 ノクナレア。

 あんた、こんなのコントロールしようとしてたんだね。

 すごいなあ。

 でも、きっとアイツのことだから。

 全部、承知の上なんだろうな。

 それで、この魔力を目の前にしても、

 

 ──上等じゃない! ブリテンの女王にふさわしい力だわ!!

 

 そう言って、カッコよく、啖呵切っちゃうんだろうな。

 

 幼馴染。

 ライバル。

 この腕の中で息絶えた、ブリテンの唯一のともだち。

 

 彼女の死に顔を想う。

 彼女に落としたキスを想う。

 アルトリアは立ち上がった。

 

 ──そこに、足音が、

 

 誰だろう。

 いや、ほんとうに誰だ!?

 ここには、わたししかいないはず。

 ブリテンには、もう、生き残りなんて──

 

 それは、言った。

 

「本当に不器用なのですね、アルトリア。汎人類史でも、異聞帯でも、あなたは変わらない」

 

 聞き覚えのある、声だった。

 荘厳で、冷静で、発したその場を、その空間を、飲み込んでしまう声だった。

 

 アルトリアは振り返った。

 そして、目を疑った。

 

 そこにいたのは──

 

「モルガン……!!」

 

 ()()()()()()()()()()、モルガンであった。

 

 

3.

 

 

 マシュのシールドの光。

 退避に移ったボーダーの甲板で、その輝きが強くなる。

 

 蒼い、魔力であった。

 それは、召喚される際に発するものではない。

 

 管制室に飛び込んだハベトロットが、飛び上がって、モニターを見た。

 マシュ・キリエライトは、一筋だけ、涙をこぼした。

 賢者グリムが、やれやれと、息を漏らしてゴローを見た。

 

 ゴローは、

 

「重役出勤ご苦労サマだねぇ……」

 

 と、血を吐きながら、言った。

 

 光の収まりと共に甲板に現れたそれは、アルトリア・キャスターであった。

 いや、違う。

 だが、そう錯覚するほどに、にていた。

 シルエットが同じだ、格好が同じだ。

 

 違うのは髪の色。

 水色の髪。

 手に持つ杖が、アルトリアより禍々しい。

 そして、その雰囲気が、落ち着いている。

 

「──トネリコ!」

 

 ハベトロットが言った。

 本人が、言ったことを理解していないそれであった。

 

「トネリコさん!!」

 

 マシュが言った。

 ほとんど、叫び声であった。

 それに応答するように、モルガン──救世主トネリコが目を開く。

 

「ルーラー、モルガン。ブリテンを救いしものたちの呼びかけに応え……」

 

 フリーズした。

 その顔が、真っ赤に染まって、口を弛ませて、プルプルと震えている。

 

「──おい!」

 

 粗暴な口ぶりであった。

 

「おい、ゴロー! これはどういうことですか!?」

 

 そして、大股でずかずかと、ゴローの元に歩き出した。

 となりのバーゲストが、思わず後ずさった。

 すごい迫力である。

 メリュジーヌも、若干引いていた。

 

 グリムははぁ、とため息をこぼした。

 

「なンだい、モルガン? タイミング良く重役出勤しといて、なンか文句でもあるのかい?」

「ありますよ!! なんでトネリコの格好なんですか!!? あの娘(アルトリア)とペアルックになっちゃって、私が恥ずかしいじゃないですか!!」

 

 そこかよ……

 

 と、みんな思った。

 マシュと、ハベトロット以外は。

 

「いや、知らンよ。俺ァ英霊召喚システムは解析できてるけケド、召喚されるヤツがどんな姿カタチで来るかまでは手ェだしとらンわ」

 

 顔を真っ赤にして異を唱えるモルガンを見て、

 

 なんだよ、アルトリアそっくりじゃねーか……

 

 とムニエルやゴルドルフは思っていた。

 キリシュタリアは一生懸命笑いを堪えていた。

 ペペロンチーノは微笑ましくそれを眺めていた。

 コーラルは混乱に次ぐ混乱に、目を回して青ざめていた。

 

「まァ、アレでしょ」

 

 ゴローは言った。

 

「おまえさんのその姿と縁あるモンが、この場に多いンでしょうね」

 

 と、ゴローはマシュに向けてウインクを飛ばした。

 マシュはどきっとした。

 決して色気を感じたのではない。

 図星のようなものをつかれてしまった。

 

 モルガンはその説明に、ぐぅ、と唸った。

 そのあと、コホンとワザとらしく咳をして、

 

「とにかく、私も玉座に向かいます。あの子を手伝ってやらねば──」

「あ、コレ返すわ」

「──はい? うごぅっ!?」

 

 ゴローが、その右手をモルガンの胸に突っ込んだ。

 あまりに無造作で自然な動きであった。

 周りはびっくり仰天である。

 ゲホゲホと、今度は本気でモルガンが咳き込んだ。

 生きている。

 

「な、な、なな、何をしたんですの!?」

「返したンだよ、霊基を」

「!?」

 

 ゴローは言った。

 あ、そういや言ってなかったっけ?

 続ける。

 

「ブリテンのモルガンって、異聞帯のモルガン──つまり、トネリコと、ベリルに召喚された、汎人類史のモルガンの霊基が重なって存在してたンだよね」

 

 二周目、という単語が、マシュたちの頭に浮かぶ。

 そう、滅ぶはずだったブリテン。 

 二千年前、ベリル・ガットに召喚された汎人類史のモルガンは、自らにレイシフトを行い、情報となって異聞帯のモルガンに取り込まれていた。

 これを、ベリルは『変身』と評したが、原子以下の領分(スケール)を肉眼で視認できる、ゴローの分析は違った。

 モルガンは二つの霊基を重ねている。

 それは、量子の揺らぎ。

 つまり、箱の中で毒と共に入れられた猫が、死んでいる状態と生きている状態が現世において重複しているのと、同じことだと。

 

 さらに、()()()()()()()()()集めたもの。

 それは地獄界曼荼羅における、蘆屋道満に近いとも確信した。

 蘆屋道満は、地獄界曼荼羅の後、元の二人に分離している。

 つまり、ゴローは、異聞帯のモルガンもまた、汎人類史のモルガンと重なりあった霊基を二つに分けることができると、確信していたのだ。

 

 汎人類史のモルガンは、退去と同時に英霊の座に戻る。

 そこで記憶を洗われて、また別のモルガンとして顕界できる。

 だから、ゴローはモルガンを殺す際に、異聞帯のモルガンの霊基を抜き取り、その情報と魂を己が内に保存していたのだ。

 

「い、一体いつから、そんな考えを……」

 

 最初っから。

 とゴローは言った。

 

「あの西の牧場でのどんちゃん、俺、見てたじゃン。そン時、汎人類史のトリスタンを見て、俺ァわかったンだ。『ああ、この世界も、土地にゆかりあるなら汎人類史のサーヴァントも召喚できるンだ』って」

 

 実ァ、ちょびっと不安だったンだがね。

 ケドね、バーゲストン時に、俺の()()()()ガウェインと、知らンランスロットが土地とバーゲストに引っ張られて召喚されたのを見て、俺ァ確信が持てた。

 

 だから、この土地にゆかりどころか因縁しかねぇモルガンなら、必ず召喚できる──ってねェ。

 

「そうして、私はまんまと召喚されたわけです」

 

 説明は、もういいですね。

 とモルガンが言った。

 

 いってらっしゃい、とゴローは言った。

 

 モルガンは、飛び立つ前に、バーゲストとメリュジーヌに目を向けた。

 二人はかしこまって、膝を折った。

 

「バーゲスト、メリュジーヌ。面を上げろ」

 

 二人は、恐る恐る、顔を上げた。

 

「これまで、よく、私を支えてくれた。礼を言う」

 

 二人は、何もいえなかった。

 

「トネリコー!!」

 

 ハベトロットが、甲板に上がってきた。

 ずるずると、足を引きずって。

 モルガンは、トネリコとして、彼女を見た。

 

 そして、微笑んだ。

 言葉は、いらなかった。

 それは、グリムに対しても──

 

 妖精騎士ギャラハッドに対しても、そうだった。

 

「いってきます」

 

 そう言った。

 その顔に、少しばかりの嬉しさと、寂しさを滲ませて。

 

 ゴローは遠くなる背中を見ながら、

 

「あ、あいつ、イチバン頑張った俺に、挨拶してねェンだけど……」

 

 と心から笑いながら、マイったマイったと、愚痴をこぼしていた。

 

 

4.

 

 

 ロンゴミニアドが解放される。

 

 魔力を練り上げるのを、モルガンが。

 それを、打ち出すのが、アルトリアであった。

 

 パーシヴァルの『白光』に負けぬほどの蒼い輝きが、黄金色に変わる。

 

 その光につつまれながら、モルガンは言う。

 

「アルトリア! 全部出し切りますよ!!」

「はい!!」

 

 並び立つ二人は、手を握る。

 アルトリアは、初めてだった。

 モルガンも、初めてである。

 

 同じ力を持つものとして、彼の者と並び立つのは。

 

 モルガンの魔力。 

 ロンゴミニアドに装填する魔力は、ただの魔力の塊だ。

 それを、『聖剣の概念』となったアルトリアが、自分の色に染め上げる。

 二人分の魔力。

 それでも足りない。

 ケルヌンノスを倒すには!

 まだ、まだだ!!

 

 アルトリアは贅沢にも、『楽園(アヴァロン)』からも魔力を引っ張り上げる。

 

 二人の身体が内側から弾ける。

 だが、モルガンは文句ひとつ言わない。

 アルトリアは、手を強く握り返した。

 

 霊脈閉塞型兵装(ロンゴミニアド)から、

 龍脈焼却型兵装(エクスカリバー)に変奏する。

 

 それが、アルトリアの選択。

 『聖槍』は、今『聖剣』へと姿を変えた。

 

 撃ち放たれる光。

 黄金色の、二人の命そのもの。

 

 それが、ケルヌンノスを──

 

 ブリテンの空を貫いた。

 

 

5.

 

 

 グロスターだった場所。

 

 ()()()()()()を終わらせたウッドワスは、ここを自らの死地と定めた。

 

 とはいえ、もはやモースすら死に絶えている。

 

 助かったとはいえない。

 振り下ろす爪はもうない。

 肘から先は、千切れていた。

 再生しない。

 足が崩れる。  

 物理的に、崩れていた。

 

 ──!

 

 顔も沈ませて、倒れ込もうとする時。

 ブリテンを貫くその力に、ウッドワスは空を見上げた。

 

 黄金色の光。

 その中に、彼女を見た。

 

 陛下──

 

 ゴローの言葉を思い出す。

 

『ウッドワス、全能の神として、予言しといてあげるねぇ』

 

 ウッドワスは、空を見上げている。

 その目に、涙が滲んでいた。

 視界がぼやけても、その光は星の如く、焼き付いている。

 

『おまえさんは、最期に、星を見るよ。星を見て、その輝きの下で、死ぬ』

 

 ──ああ、

 

「お、お……!」

 

 ウッドワスは、吠えた。

 怒りではない。

 悲しみではない。

 吐き出されるのは、ただ、それに対する愛であった。

 

「オオオオオオオオオオオッッ!!!!」

 

 身体が崩れゆく。

 

 しかし、炎に包まれて灰となるまで。

 ウッドワスは星を見上げていた。

 

 自らが愛した星。

 その光の下で。

 ウッドワスは、誇り高い戦士は──咆哮と共に逝ったのだった。

 

 

6.

 

 

 消え去った二人。

 露出した神の核。

 それを撃たんとするマシュ。

 

 ブラックバレルを渡して、全てを思い出して、ハベトロットはその代償で消えていく。

 

 だが、その顔は穏やかであった。

 

 ぶるっ、と、ケルヌンノスの核が震える。

 

 ──再生か!?

 

 と誰もが身構えた時、そこから出てきたものに驚いた。

 

「ご、ゴローさん!?」

「なにっ!? な、なぜ全能の神があそこから出てくるのだ!? も、もしや全ての黒幕は──」

「そんなわけでは無さそうです。Mr.ゴルドルフ」

 

 ゴローは、神核から『何か』を引きちぎった。

 

 そして、その体を呪いから解放させ、ボーダーのすぐ上に浮き立った。

 

 その手の中に、少女が抱かれていた。

 上半身しかない。

 身体は、半分溶けている。

 血のように赤い髪だった。

 バーゲストは、メリュジーヌは、それの正体を知っていた。

 

「バーヴァン・シー……!?」

 

 バーゲストの問いに、そうだ、とゴローは答えた。

 ゴローはそのまま、ホームズを呼ぶ。

 

「この子、()()()、英霊の座に登録されるかい?」

 

 ──!?

 

 バーゲストたちが疑問符を浮かべる中で、ホームズとダ・ヴィンチ。

 そして、キリシュタリアとペペロンチーノ。

 そして、藤丸立香とマシュ・キリエライトは、その言葉の真意を悟る。

 

「まさか──あなた、そのために……!?」

 

 そうだよ、ホームズ。

 

 ゴローは、神として、語る。

 

 この子は、モルガンやバーゲスト。

 メリュジーヌと違ってそのままだと英霊足りえない。

 トリスタンの着名(ギフト)でワンチャンあるかもしれねぇが、それだとカルデアとの縁が弱い。

 汎人類史にも、バーヴァン・シーはいる。

 だから、召喚されるとしても、そっちになりかねン。

 

「だから、あなたは彼女に、ケルヌンノスの神性を……?」

 

 そうさね、ホームズ。

 『神と混ざり合い、カルデアと敵対した』。

 その事実が今、深く世界に刻まれた。

 ……これで、バーヴァン・シーは、英霊に相応しい力と、カルデアとの縁を作れたハズだ。

 

「ゴロー、キミは最初から……」

 

 ひでぇハナシだろ、ダ・ヴィンチ。

 俺ァ、最初っから、バーヴァン・シーを殺すつもりだったンだ。

 もう、彼女の魂はすり減って、転生は出来なかった。

 俺の力を使っても、完璧に元通りにはできないほどに。

 キリシュタリアくんの時は、確固たる魂があったし、それが抜ける前に蘇生させたから間に合ったが、彼女はもう、手遅れだったンだ。

 

 だから、俺ァ時間超越点──英霊の座に、彼女の存在を昇華させるコトにした。

 英霊の座に登録されりゃあ、カルデアに召喚されりゃあ、彼女は、別の人生を送れる……ってね。

 

「し、しかしだね。サーヴァントは正確には本人ではない! あくまで再現した情報体だ!」

 

 そうかな?

 ゴルドルフさん。

 俺にゃァ、汎人類史のトリスタンも、ガウェインも、ランスロットも、村正も、グリムも、生者と変わらンように見えるが?

 

「──!!」

 

 バーゲストは、トリスタンの今際の際を思い出す。

 彼は、死を意識していた。

 サーヴァントとはいえ、死は恐ろしいコトだと。

 自分達の消滅を、二度目の死だと、たしかに言っていた。

 

 ──そもそも、

 

 とゴローは続ける。

 

 それ言うなら、このブリテンのほぼ全妖精が、生きてねぇコトになるねぇ。

 だって、ブリテンの次代は、

 女王歴以降の妖精は、ほぼ全員、モルガンの『廉価版の英霊の座』を通して転生してるンだぜ?

 

「む、むむむ! た、たしかに……そ、そうなるのかね?」

 

 だから──

 

 と、ゴローの言葉が止まる。

 腕の中で、バーヴァン・シーが動いた。

 彼女は目を開けた。

 ゆっくりと、その灰色の瞳が、ゴローを見た。

 

 

7.

 

 

 ぜんぶ、こわしてください。

 おかあさまを、ころしたせかい。

 おかあさまを、ころしたこいつ。

 おかあさまを、すくえなかった、じぶん。

 

 ぜんぶ、ぜんぶ……

 

 ぜん、ぶ──

 

 

 そう願った。

 私は。

 腐り落ちる私の身体を、ゴローは抱き抱えた。

 そして、大穴の前まで歩いた。

 

 わたしのことばがとまったのは、おどろいたからだ。

 

 さいごにみえたものは、なみだだった。

 さいごにきいたものは、みっともなくなくこえだった。

 さいごにかんじたものは、わたしのほほにおちる、かれのなみだのあたたかさだった。

 

 かれは、ないていた。

 

 わたしのために。

 かれは、

 

 かれは──……

 

 

 めが覚めたとき、わたしは彼のうでの中。

 

 ゆめを、みていたの。

 わたしは、そういった。

 かれは、うなずいた。

 また、ないてた。

 なきむしだなぁ。

 ほんと、からだはおおきいくせに、なきむし。

 

 わたしはなぐさめてあげることにした。

 わたしのみた、ゆめをはなしてあげた。

 とくべつなんだ、から、ね。

 

 わたしがね、すてーじにあがってるの。

 わたしがね、みんなのちゅうもくをあびてるの。

 わたしがね、みんなに、あいされてるの。

 

 かんきゃくせきにね、おかあさまがいる。

 ばーげすと。

 めりゅじーぬ。

 うっどわす。  

 おーろらも、すぷりがんも、むりあんも。

 のくなれあも、べりるもいたの。

 

 みんな、わたしをあいしてくれた。

 わたし、じんせいの、さいこうちょう、なの。

 

 ──まあ、ぜんぶ、ゆめ、なんだけどね

 

 ごろーは、うん、うんとうなずいた。

 まだ、なきやまない。

 

 しようがない、なあ。

 

 わたしは、ほしをみたいな。

 いっしょに、あのときみたいに。

 

 ごろーは、そらに、とんだ。

 あたたかいひかりに、わたしはつつまれた。

 ごろーの、ちから。

 

 あっというまに、ほしぞらのした。

 

 そらと、そらのはざま。

 

 おほしさまは、あいかわらず。

 

 きれいだね。

 ごろー、

 ごろー?

 いる?

 

 ちゃんと、いる?

 

 いるよ、って、かれはいった。

 

 よかった。

 わたし、ねむくなっちゃったの。

 もう、ねむりたいの。

 つかれちゃった。

 

 かれは、うなずいたと、おもう。

 

 そして、いった。

 

 ──良い子は眠る時間だわな、そりゃあ

 

 あのときと、おなじことば。

 

 ああ、なら、だいじょうぶね。

 ごろーは、ちゃんと、べっどまで、はこんでくれるもの。

 おやすみなさい、ごろー。

 

 また、あいましょう。

 また、あした。

 

 ──ああ、また、逢おう

 

 わたしは、あんしんして、めをとじた。

 

 からだが、ふわりと、うかんだの。

 とても、しずかで、あったかい。

 

 おやすみなさい。

 

 そして、めを、とじた。

 

 

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8.

 

 

 バーヴァン・シーは、光となって消えた。

 

 ゴローは、彼女の存在の残滓を確かめるように、拳を握った。

 

 その身体が、小さく、震えていた。

 

 

 星が、綺麗だった。

 

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