【完結】妖精國に落ちた超越者が、妖精騎士たちにほんの少しだけ救いを与えるお話【挿絵有り】 作:ロウシ
作品本編(妖救)と繋がってるかもしれないし、そうじゃないかもしれない世界です。
よろしくお願いします
2/21 挿絵追加
第一話:僕が生まれた所が世界の片隅なのか【挿絵追加】
0.
草原の上であった。
風が柔らかい。
降り注ぐ陽光がふくよかである。
近くの川のせせらぐ音が心地良い。
時間でさえ、ついつい耳を傾け心を預け、その居心地にたゆたうような世界であった。
そこに、彼らはいた。
意志を持つものたち。
命。
形を違える命たち。
ひとりは、獣。
ひとりは、人。
ひとりは、神。
彼らの大地は彼女が生み出した。
ひとつの世界が世界の上に寝転がっている。
そのまん中に、彼女はいた。
安らぎの中であった。
味わうように息をしていた。
目を、閉じていた。
瞼の裏の暗闇にすら、なんの恐怖もない。
ここは、いい世界だ。
怨嗟の声は届かない。
深淵はどこにもない。
祝福の音色が艶やかに命を包み込む。
明日に恵まれ、未来が満ちていた。
ひと握りの愛だけが、
張り巡らされるものに、底知れぬ奥行きと深みがある。
彼女の世界の片隅で、
彼女の世界のまん中であった。
1.
ノウム・カルデア。
地下図書館。
天高く並べられた本棚が順風満帆に揃っている。
威圧的で仰々しくも、規則正しく並ぶ場所。
切り取られたスペースに幾つかの机と椅子が並べてある。
配置が、間の取り方が良かった。
互いに、本を読んでいる者を邪魔しない距離感である。
匂い立ちそうなほど深い木色のそれは、本の世界への没入感を自然と高め、それを咀嚼する余裕と落ち着きを座すものに齎すのだ。
そこに、今、ごろりとした岩があった。
それは、大きな──太い、人間であった。
尾の長い白いバンダナを被り、上下無地の黒い服を着ていた。
黒い革靴をきっちり履きこなしている。
顔には、皮と肉の抉れた傷があった。
片耳の上半分が千切れている。
なめすような目つきの妖しい、黒目の大きな男である。
彼は、異界から来た神であり、ヒトであった。
この世界において『
あるいは、『
あるいは、『
名を、ゴローと言った。
机の上に、辞書もかくやという分厚い本を積み重ね、次々と消化していた。
自身の体重を支えるための、特殊な礼装を施した椅子に足を組んで座っている。
その手の中にも、やはり本があった。
紙の一枚一枚さえも分厚い、やはり、辞書もかくやという分厚い本である。
それは、カルデアが今日に至るまでを綴った
熱心であった。
食い入るように読んでいた。
時々に、字体の上にいじらしく指をなぞらせ、それが示す意味をさまざまに解きほぐす。
ゴローは活字の導く世界に意識を任せ、彼らの冒険を夢想し、身の内に沈み込ませんとしているかのようであった。
そこに、す、と差し出されるものがあった。
向かい側から、おずおずと。
どことなく申し訳なさそうに。
ゴローがすい、と顔を上げる。
そこに、貴婦人が立っていた。
少し控えめな微笑みを携えて、濃淡の強い紫色のゴシックドレスを着ている。
藤原香子──紫式部であった。
カルデアに、ほぼ常任するサーヴァントである。
数いる英霊英傑の中でも、ひときわ『書き物と物語』に造詣の深い彼女こそ、すなわちこの図書館の管理者であった。
ゴローさま、と彼女は言った。
「ひといき、入れませんか?」
彼女が差し出したものは、小さな白いティーカップ。
中に注がれているのは、単なる麦茶であった。
ふたつある氷が溶けて動き、からんと鳴っていた。
少々見た目にギャップのある組み合わせではあるが、読書のお供としては、冷たく爽やかなそれは、活字の世界に熱せられた喉と頭を潤すための、最適な飲み物である。
にこりと、ゴローは太く笑った。
「ありがとうね、香子さん」
言いながら、カップを受け取った。
そして、身体を丸めてちびちびと飲み始めた。
大きすぎる体躯のゴローが、指先で摘むように持ち上げながら、小さなカップに丁寧に口をつけている。
なんとも面白みのある絵面である。
しかし、式部はそれに、口角を少し持ち上げた慎ましい笑みという、胸を撫で下ろすような仕草を残した。
次に、その少し先で同じく本を読むスプリガンにもお茶を差し出していた。
この世界においては、すっかり日常となった風景であった。
異聞帯としてのブリテンを乗り越え、ゴローたちはノウム・カルデアに降り立った。
ゴローがなぜ、異界たるここを現世から探し当て、君臨できたのかは問われなかった。
クリプターのリーダーであったキリシュタリア・ヴォーダイム。
同じく、スカンジナビア・ペペロンチーノ。
キリシュタリアのサーヴァントである神霊カイニス。
ペペロンチーノと使い魔契約を交わし、ゴローに基盤を整えられたことによって顕現している妖精のコーラル。
そして、もともと汎人類史の人間であったスプリガン。
彼らを伴ってである。
かくて、彼らは藤丸立香たちと、カルデアに召喚されていた妖精騎士たちとも再会を果たしたのであった。
その後、カルデア一行と入念な話し合いの席を設け、キリシュタリアとペペロンチーノは便宜上はカルデアに拘束、監視下に収まり、『異星の神』の討伐および汎人類史を取り戻すために協力する形で立場を落ち着かせた。
カイニスには一度退去を促し、カルデアの召喚器を通して再召喚ののち、再びキリシュタリアと契約を結んだ。
スプリガンとコーラルは汎人類史が元の姿を取り戻し、その後もカルデアに協力、世話になる/世話をすることを目的と誓った。
汎人類史を取り戻せたならば、どのみち、異界の妖精たるコーラルには適切な保護が必要であるとの判断でもある。
現在、ノウム・カルデアにおいてキリシュタリアたちには首輪をつけられている。
カルデア側のある種の魔力反応で即座に起爆する、単純だが強力な仕組みのものだ。
藤丸立香とマシュ・キリエライトは難色を示したものの、当のキリシュタリアたちが「当然の処置」と素直に受け入れ、またダ・ヴィンチとホームズも「建前として」と困り顔で念を押したことで納得した。
ゴルドルフは総司令官として最後まで懸念を口にしていたが、彼らがカルデアの機密事項──つまり、これまでの旅のログなどを検閲する際などには、必ず自身を同席させることを条件に渋々引き下がった。
これに関しては、当のゴローが、
「彼らが問題を起こしたら、俺が責任持って殺す(意訳)」
と真剣な顔で宣誓したことも後押ししていた。
ともあれ、カルデア一行は想定外の戦力増強に喜びと戸惑いを感じながらも、来る最後の戦いを直近に感じながら、束の間の穏やかな日々を過ごしていた。
ゴローとスプリガンは、ほぼ毎日、地下図書館に入り浸っていた。
ここにはジャンルを問わず世界中の本が存在するだけでなく、カルデアの記録から召喚された英霊たちの記録。
さらには彼らのルーツやマイナーな解釈に至るまでを記したレアものが集まっていた。
図書館は、『この世界』というものを知らない男二人には、なんとも刺激的でファンタスティックな遊び場に等しかった。
たまに、バーゲストやメリュジーヌやバーヴァン・シーらと共に訪れて、図書館の主である紫式部とも程々に親交を深め、式部も男二人と、彼女たちとはこうした「ひといき」を共に過ごす程度には慣れ親しんでいた。
紫式部も、最初は筋骨隆々として顔もコワモテなゴローと、あからさまにキナくさい顔のスプリガンに恐々とした態度であったのだが、二人が「本や芸術に囲まれていると落ちつく」性質であると知ると、安堵の息を吐いたのだった。
人たるゴローにとっても、ここはとても面白い場所であった。
蒐集家の神の備える書庫や、ワシントンのキャピトル・ヒル米国議会図書館も顔負けの、揃いに揃った本の数と質もだが、なにより常任する英霊たちや、たまに顕現する英霊たちもバラエティ豊かに訪れるために、彼らと話をするのが面白かったのだ。
基底観念として落ち着いた空気があり、ほどほとに騒がしい。
ゴローはその雰囲気や、本と本が重なり合って醸し出す、懐かしい匂いが好きであった。
「ここは、落ち着くねぇ」
カップから口を離し、ぼうっと天井を眺めながら、ゴローがふとこぼした言葉は多分に感嘆を孕んでいた。
「ありがとうございます」
と、こちらもまた、カップから口を離して式部が言う。
ゴローは少し、いたずらに目を細めて。
でも、と。
「入り口の
かあっと、込み上げた気恥ずかしさに式部の視線が落ちる。
図書館の入り口に威風堂々と打たれた銘板には『偉大にして恐るべきされど可憐なる紫式部図書館』 と書いてあった。
なぜそんなことになったのか、ゴローたちには仔細は不明であった。
尋ねても、式部は口を尖らせて視線をずらし、顔を真っ赤にして、諸々の事情があったんです。とだけ言った。
なので、ゴローやスプリガンもそれ以上の追求はしなかった。
恥ずかしさを引き摺りながらも、しとやかに立ち去る彼女を見届け、再び本に目を移す。
今読んでいるのは、第七特異点の記録であった。
「あの、ゴローさま」
ページをめくらんと手を動かすのと同時。
戻ってきた式部はゴローを呼び止めた。
なンかな、とゴローが見ると、その手に簡素な封筒が握られていた。
「あの、これ、ゴローさま宛のものなのですが……」
「ん、封筒? 手紙かい? 宛名は誰ぞ?」
「いえ、それが、何も書かれていなくって……」
「……ン? てか、
ノウム・カルデアは彷徨海に位置する。
彷徨海とは文字通り、北欧の海を彷徨う山脈の形をした『異界』そのものである。
外界、現世とは隔絶した世界であるゆえに、早い話が外から郵便など届きようもないのである。
……普通は。
「カルデアの英霊の方からでしょうか?」
そんなバカなと思えるものの、式部の推測にも一理ある。
カルデアに限らず、サーヴァントというのはいかんせん、偉人変人の集まりでもあるためか、破天荒な性格のものが非常に多い。
それは記録を見るに明らかで、くだらない理由から特異点を作り出し、くだらないことで世界を危機に陥れる連中が割とザラであるのだ。
わざとらしく、いちいちもったいぶるのが大好きな者たちもいる。
これも、そんなくだらなさの一環ではないと言い切れない。
遠巻きなアプローチか、はたまた何かの事件のとっかかりとしたいのか……
いずれにせよ、不可解と言うには前科が多すぎるのであった。
そんなこんなで、どことなく嫌な予感に青ざめる式部に、まぁまァ香子さん。と柔らかく話しかけて、ゴローは手紙を受け取った。
「…………ほー」
端を綺麗に手で破り、手紙を読んだゴローは感心したようにひとりごちた。
手紙を丁寧に折りたたんで封筒に戻し、ゆったりと立ち上がる。
「すまンね、香子さん。ちと、出るワ」
お茶、ごっそさん。と合掌して微笑み、本をまとめて持ち上げて返却コーナーに戻し、ゴローは図書館から立ち去った。
巨体に反し、その歩みに音はなく。
しかし、その心は軽やかに弾んでいた。
2.
「あら、珍しいですわね」
声をかけたのはバーゲストであった。
剣を片手に、鎧を着ていた。
歩いてきた方向的に、シミュレーションルームでの訓練の後だろうか。
彼女の声は、するすると廊下を歩いてるゴローをいとも容易く捕まえた。
普段──自分と相席する以外には──お昼時にはまず間違いなく図書館に入り浸っている彼が、この時間にひとりで外に出ているのは珍しかった。
「ン? ああ。ちーとね。古い友人……ってワケでもねンだが。とにかくまあ、知り合いから便りが届いてねぇ」
「知人、ですか?」
「いやぁ、それが微妙なラインでねぇ。俺は向こうをアンマリ知らんのだが、向こうは俺ンこと知ってるパターンだろうかねぇ? これは。一応、
「なら、管制室までご一緒しません?」
「あら! 嬉しいお誘いだねェ。一緒に行ってくれるのかい?」
「ええ。私も訓練を終えたばかり。報告の
口ではツンとしつつ、口元に浮かべるのはお互いに柔らかな笑みであった。
隠しきれない愛情が浮かんでいる。
言葉を、せめてツンケンしなければ、途端に頬肉が崩れて解けてしまうほどであった。
わかった。とゴローは言う。
にっこりと、白い歯を見せて、爽やかに笑った。
「じゃあ、ちょっと、いこっか」
はい。
と微笑んで、伸ばされた手を取って。
バーゲストは隣に並び、二人は歩き出した。
3.
ストーム・ボーダーは空を行く。
眼下では、白紙の大地がすごいスピードで流れゆく。
目的地はロシアであった。
管制室に赴いたゴローとバーゲストは、そこで何やらコミカルに眉を顰めるシオンとかちあった。
シオンは、二人の到着を予想しているようであった。
要件を伝える前に、カルデアの主だった面子に連絡を届かせ、既に招集の準備を整えていたと言う。
かくて集まった者たち。
その中でも、ちらりとホームズに目配せした後、ゴルドルフと向かい合いゴローは言った。
「今、もしお手隙なら、ロシアに行ってもらえねェかい?」
ロシア。
そこは、第一異聞帯のあった土地。
もちろん、今は白紙の大地のはずである。
何があるというのか。
なぜ、今、ロシアなのか。
藤丸立香は苦々しく目を細め、ゴローに聞いた。
「残る異聞帯が、あとひとつなのは聞いてるケド。その前にホラ、カタしてない因縁、あるンじゃないの?」
白々しい態度である。
もったいぶって、答えを期待する態度であった。
ふい、と藤丸とマシュが頭をひねる。
だが、二人より半歩早く、ホームズが言った。
「タマモヴィッチ・コヤンスカヤですか」
流石は名探偵、断定していた声であった。
藤丸たちがうん、と頷き、ゴルドルフが大きく口を開いている。
「な──!? TVコヤンスカヤかね!? ま、まさか彼女の居場所が……」
「はいはいはーい! 大正解です! 流石はゴルドルフさん」
揚々と答えたのはゴローではなく、シオンであった。
その続きは、私から補完致しましょう。
と続けた。
「実は、結構前からロシアのある場所に、微細な魔力反応を検知していたのですよ」
「な、何と!? そんな報告、私は一度たりとも受けていないが!?」
「ええ。だって言ってませんでしたしー」
てへぺろとお茶目に笑うシオンに、ぐぬぬと顔を歪めるゴルドルフであった。
「報告をあげていない。ということは、これまでは、それは特に気を払う必要はなかったもの……ということかい?」
すかさず、半ば呆れ気味にダ・ヴィンチがフォローを入れる。
ええ、その通りです、とシオンは答えた。
「それが、今になってコヤンスカヤの本拠地だと分かった……そういうことですね、ミズ・シオン」
なぜ判明したのか。
どこで確信を得たのか。
お聞かせ願えますか?
とホームズはそこまで言った。
「便りがあったンだよねェ」
それに答えたのはゴローであった。
視線が集まる。
彼は、封筒を指先で摘み立てて、それを目立たせるようにゆらゆらと揺らした。
「俺の知人……というか、俺からすればほぼ知ってる
貴方の世界に属する者ですか?
とホームズが聞く。
ゴローはいいや、と答えた。
この世界に属する者だよ、と付け加える。
つまり、この世界の神霊の類か、英霊の類ということであるか。
「誰なんだい?」
とダ・ヴィンチが聞く。
少し、興奮気味であった。
ゴローは、
「呂尚さま」
と言った。
一同、その名を聞くにぽかんとする。
つまり、太公望のことである。
古代中国における──つまりは世界最古の軍師であり、道術・仙術の
そして、『封神演義』においてはかの金色白面たる『妲己』を退治した存在である。
ゴローは、別の次元──あるいは多世界においては、その世界のホームズやダ・ヴィンチと知古であると言う。
彼らを師と、父と、兄と、友としていたという。
それどころか、神たる存在としてオーディンやゼウス、かの『至高者』でさえ知る者として語る。
実際、ブリテン異聞帯では『
ならば、かの太公望ともまた、別の次元においては知古の仲であっても不思議ではない。
最も、それに関してはゴローは強く否定した。
「いやァ、俺ァあのヒトのことは、ほとんど知らンよ」
と苦々しい表情を浮かべ、その顔の前で手を振る。
とにかく、とシオンが言った。
「これから当艦はロシアに向かいます。具体的にはシベリア中央部、クラスノヤルスク地方」
ツングースカ川の森林域周辺です。
と、深みを持たせて言った。
4.
解析の結果、ツングースカには今、特異点とも異聞帯とも異なる領域が存在していると確認が取れた。
白紙の大地に存在する森林地帯。
聞くだけで摩訶不思議の世界であった。
そこを、ホームズは仮定としてコヤンスカヤの本拠地……すなわち巣であると呼称した。
現状、コヤンスカヤはビーストⅣの幼体であり、オリュンポスにおいてとうとう本格的な戦闘も行ったことから成体化も近いことを予測する。
つまり、叩くなら今しかない。
決定権を翳す、ゴルドルフの決意と憂慮を秘めた言葉は、強かった。
『異星の神』との決戦。
『地球白紙化』の解決より優先して討伐することを宣言した。
誰も、文句などなかった。
それだけの迫力があった。
誰が行くのか、と言うことになった。
満場一致で、少なくとも第一陣は藤丸立香とマシュ・キリエライトに決まる。
副次的に強力なサーヴァントを控えさせ、ハベトロットの協力を得てブラックバレルを
二人の意気込みをよそに、キリシュタリアがゴソゴソと準備立てていた。
虫かごだの虫取り網など、どっから用意したんだと思うものを手に持っていた。
「……一応ツッコンどくケド」
とゴローが代弁する。
「キリシュタリアくんはお留守番だからね?」
「何っ!? 何故です神よ!? 森林地帯の冒険なんて……私はとても、心が躍っていたのですが!?」
「いや、テメェ……自分の身体のこと考えろよ……」
「……くっ! 反論できない!!」
呆れ顔のカイニスに説き伏せられて、キリシュタリアは苦虫を噛み潰す苦悶を浮かべて引き下がった。
「ということは、私が第二陣に控えることになるかしら?」
「まァーそういうことになるかね? ぺぺさんに出番が回るってなァ最悪の想定になるケドね」
向こうにゃたぶん呂尚さまがいるし、大丈夫だとは思うケドねぇ。
「ねぇ、気になっていたんだけど……アナタ、ホームズやダ・ヴィンチは呼び捨てなのに、太公望に対してはさま付けするのね」
「呼び捨てするほど親しくねェかんね。正直、なぁんで俺にピンボイントで便りが来たのかワカらん程度には他人なンだわ」
「まぁ、アナタの『
「悪目立ちしてンだねぇ、やっぱり」
ところで、と口を挟んだのは藤丸であった。
礼装を着込み、令呪も装填し、すっかり準備は整えていた。
慣れたものである。
ぺぺロンチーノは感心していた。
「ゴローさんは、一緒には……」
「行かないよ、俺ァね」
「あー……まあ、ですよね……」
そらァね、藤丸くん。
ふうと息を吐きながら、ゴローは言う。
そもそも俺ァ、コヤンスカヤとは縁深くねェモン。
ブリテンで、ひとつ貸し借り作った程度。
そらァ、ブリテンじゃあバーゲストを救うために、結果的におまえさんたちにゃァ色々手ェ貸しちまったよ? 俺ァさ。
でも、アレだって、オベロンが齎す終末に相乗りできたからこその行動と結果なワケよ。
コヤンスカヤと因縁深いのは、俺やぺぺさんより、藤丸くんやゴルドルフさんでしょ?
なら、しっかりの
藤丸はうん、うんと頷いた。
こういう、カラッとした割り切りは実にゴローらしい。
言われそうだと思ったことが、その通りに言われたのだった。
「じゃあ、俺ァ香子さんに図書館の世話を任されちまったから、見送りはここまでだけどよ。頑張りなさいな」
「……はい!」
5.
そして、ツングースカ上空。
空と大地を遮る障壁の上にたどり着く。
ダ・ヴィンチの計算とネモの指示により、ストーム・ボーダーに多重魔力結界を張り巡らせ突破せんとしていた時。
ゴローはホームズの横に立った。
意味深なタイミング、意味深な歩み方であった。
ホームズが目を顰めた。
「ホームズ」
呼んだ。
小声である。
呼ばれた当人にしか聞こえない音量であった。
「ちと、話したいことがあンだ」
その表情が、引き絞られていた。
真剣さを覗かせる、
『神』としての、ゴローの顔であった。