【完結】妖精國に落ちた超越者が、妖精騎士たちにほんの少しだけ救いを与えるお話【挿絵有り】   作:ロウシ

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長くなりすぎたので分割しました


第五話:生きると言うことに、命をかけてみたい

 

0.

 

 

 異聞帯の集合世界。

 藤丸立香は、ツングースカをひと言で現すならば、それではないかと思った。

 

 森林、雪原、熱帯。

 隣り合うはずがないものが隣り合う。

 生命を保証されたものたちと、殺戮を義務付けられたものたちが分け隔てられている。

 釣り合うように見えて、釣り合わない。 

 混ざり合っているように見えて、そうではない。

 個々の命、個々の世界、個々のカタチがそのまま現れている。

 調和しているように見える。

 美しい世界のように見える。

 だが、その実態は不規則に組み立てられたパズルのようだ。

 

 ヤガ、巨人、虎戦車、カリ、モース。

 イヴァン雷帝に、氷炎のスルト。

 力とカタチのみを再現し、心あらざる彼らの存在は、この世界が見かけを取り繕っただけの、ハリボテの世界であることを象徴しているようであると感じられる。

 

 彼らだけではない。

 この世界で生まれたはずの動物たちにすら、悉く意志はない。

 進化と繁殖を忘れたのではなく、それを思いつくことさえ許されない命。

 かつて全地を支配下に置いた中国異聞帯の始皇帝ですら、臣民庶民には思考する自由と意思の決定権()()()()は持たせていたというのに。

 

 ツングースカを土地、地理、遺伝的に分析した、太公望の言葉は淡々としていた。

 それだけに、不気味な思いを拭えない。

 違和感やしこり、太公望自身が、おそらくは敢えて断言しない不自然さが心に疼く。

 美しい世界だとは思う。

 静かな世界だとは思う。

 けれども、不自然に思っている。

 それは、コヤンスカヤが裡に秘める、耐え難い苦悩と葛藤が浮き出ている……ような気もする。

 

 倒さなければならない。

 彼女は、人の世に愛を持って害を為す、獣となるのだから。

 しかし、目の前に霧がかり心に沈殿する矛盾を無視して、ただ彼女を倒すだけでいいのだろうか?

 ……いいや、これは矛盾とは違う。

 近い言葉ではあるけれど、矛盾ではない。

 コヤンスカヤの心象が描き出す美醜と傾倒には、もっと、ふさわしい言葉があるような気がする。

 それが何か、思いつくわけではないのだけれど……

 とにかく、矛盾とは違う気がしていた。

 

 彼女と戦うに当たって宣誓した、ゴルドルフ新所長の決意に疑問はない。

 藤丸がやりたいことは、それを論破するだとか、尊重したくないだとか、踏み倒すだとか、そういうことではない。

 なぜならゴルドルフ新所長でさえ、自らの言葉を紡ぐたびに、心を痛めているのが目に見えてわかったからだ。

 断腸の想いで語られる通り。

 彼女は、新所長のいう通りなのだろう。

 商談となれば真摯に取り組み、対価さえあれば分け隔てなく、他者に接してきたのだろう。

 公私を割り切りができる存在が、あえて生み出した世界が混ざり合って不自然に組み上がるツングースカだと言うのなら、やはりこの不全な光景には一考一助の価値はある……と思う。

 

 歩くたびに、いくつもの冒険を振り返る。

 いつも、だいたい、際の際において。

 争いの原因は知らないことだった。

 オレ()()は、特異点でも、異聞帯でも、出会ったばかりの全てのことは、お互いに知らない。

 その人の人生を。 

 その国の歴史を。

 不安、恐怖、信念、未来、尊厳を。

 本や歌に綴られているものと、実際に目にし、話した英霊たちに性格的な差異があることは、言うに及ばずだ。

 だから、何度もすれ違った。

 取り返しのつかないことを、何度もしてきた。

 今だって、オレは、太公望やニキチッチのことを深く知っているわけじゃない。

 なんなら、カルデアのサーヴァントである伊吹童子ですら測りきれない。

 

 オレは、コヤンスカヤの何を知っているんだろう?

 この世界は彼女の心象風景だという。

 その世界に、オレはずっと、疑問を持っている。

 美しい、けど違う。

 静かだ、けど違う。

 自然だ、けど、不自然だ。

 なら、戦う前に、それを聞かなきゃいけないんじゃないか。

 どうしてこんな世界なのか。

 なんで人類愛を持つのに、この世界に人類はいないのか。

 なんでコヤンスカヤがビーストになりたいのか。

 オレたちは知らなきゃいけないんじゃないか?

 

 正しさだけを選択して、ここまで辿り着いたつもりはない。

 ……いいや、違う。

 きっと、正しいことだけをやり続けていたら、どこかでオレは斃れていたと思う。

 だから、例えこの考え──ビーストとわかりあおうとすることが間違いだったとしても、それが未来に続くものだと賭けている。

 

 そう思って、ここまで歩いてきた。

 NFF本社ビルの前。

 かつてツングースカで起こったという大爆発の、凄まじい爪痕以外、何もない大地に立つガラス張りの建造物。

 

 この世界におおよそ相応しくない自動ドアの玄関を潜って、うさぎの獣人のPBに挨拶をされた。

 PBに案内されて、オレたちは吹き抜けのホールにたどり着いた。

 

 そこに待っていたのは、コヤンスカヤだけじゃあなかった。

 

「コヤンスカヤ……と……」

 

 コヤンスカヤの少し斜め後ろに立っていた。

 目立って大きな男だった。

 太い身体の男だった。 

 泰然とした態度で腕を組み、背筋を伸ばして立っている。

 遠近感が狂いそうになるぐらい大きくて

、熱を秘めた肉体だった。

 黒い、引力を秘めた眼がオレたちを見下ろしている。

 

 ゴローさん。

 

 この世界とは違った世界から来たっていう、全能の神さまだった。

 彼は笑って、オレたちを迎えた。

 新所長も、マシュも、ダ・ヴィンチちゃんも、ムニエルさんも驚いていた。

 ぺぺさんも、表面上は驚いていた。

 あらあらと目を丸くして、いかにもわざとらしい。

 伊吹童子はなんだかすごく喜んでいた。

 バーゲストはふぅ、と諦めのような息を吐いた。

 ニキチッチは疑問符を浮かべていた。

 太公望は……ほっ、と胸を撫で下ろすのがわかる。

 

 オレは、驚かなかった。

 この人のこともまた、測れてるわけではないけれど。

 この人の持つ超然性は、流石のオレでもわかる。

 オレがこう言うことをしてくるだろうと思えば、そうしてくるだろう。

 それを実現する力がある。

 だから、オレは驚かない。

 ただ、拳を握ると、手のひらにじわりと汗が滲んだ。

 

 彼の、そのまた少し後ろに、キリシュタリア・ヴォーダイムとプロフェッサーがいた。

 

 

1.

 

 NFF本社ビル。

 ホールから外れた個室。

 休憩所のようである。

 ソファがひとつと机がひとつ、置いてある。

 機能しているのかは謎だが、自販機もあった。

 部屋を区切る内壁以外はガラスに面する外壁であり、そこから外の様子が窺える。

 

 そこに、ゴローはいた。

 ソファには座っていない。

 自らの体重を考えてである。

 彼の自重では、このサイズのソファのバネはまず持たない。

 だから立って、外を見ていた。

 何かをしているわけではない。

 ただ、突っ立って、青空を見ていた。

 

 彼は、おおよそこの場に相応しい面々が揃ったのを見届けると、ホールを後にした。

 

 俺が必要なことは、もう話したよ。

 ちょっと、一服してくるね。

 

 ゴローは藤丸たちに、そう言った。

 次は、おまえさんたちの番だねぇ。

 とも。

 

 立ち去る前に、太公望にチラリと目配せをしていた。

 その視線が、一体いくつの意味を持つのかは、本人たちのみぞ知るところである。

 

 かちゃり、と扉が開いた。

 顔だけを、彼は振り返った。

 バーゲストであった。

 その姿を確認して、彼はにこりと、意味深な笑みを浮かべた。

 

「お疲れさん。ここまでくるの、結構タイヘンだったでしょ?」

「ええ。大気を魔力ごと食べられる私でも、今……こうやって存在を維持しているだけで、大変ですわ」

 

 汎人類史──というより、人類に属するものを、ツングースカは嫌う。

 元は異聞帯の妖精であり、その特性故に異なる土地でも存在維持までなら容易い彼女であっても、人理に沿う英霊の座を通している以上、避けられぬ抵抗感はあった。

 

「……藤丸くんたちは、どうだい?」

 

 コヤンスカヤは、とは言わなかった。

 彼女からの、いらぬ誤解を避けるためでもある。

 だが、その気遣いはバーゲストには察するところにあったのか、彼女は少々じとりと目を尖らせる。

 

「彼女から、話し合いを提案されて戸惑っていました……けれど、ことの他、穏やかな会合になっていますわ」

「だろうねぇ。おまえさんがこっちに来てるってこたァ、少なくともコヤンスカヤにゃ戦う意思はない……ってこったろうからねぇ」

「……彼女と、何を話していましたの?」

「ン──……いやぁ、特に、フツウのことだよ」

「…………」

「フツウに、仲良くしてみたら? って言っただけさね」

 

 ふっ、と微笑み、息を吐く。

 まあ、そういうことにしておきましょう。

 そう言った。

 彼女にしては、ニヒルな口調であった。

 さて、と続けた。

 

「アナタが、()()()()()()に、これだけ先んじて動いたんですもの。今回、代償を払うのはどなたなのですか?」

「バーゲスト、カン違いしちゃアいけないねぇ」

「?」

 

 彼は、のそりと振り返った。

 大きな山が動いたようだ。わ

 バーゲストの目を見て、その姿をがっちりと捉えた。

 どきりと、胸が高鳴って、バーゲストは動きを止めた。

 

「俺の、この世界での行いは、すべからくおまえさん(バーゲスト)のためだよ」

 

 前にも言わなかったっけ?

 俺ァ、おまえに泣いてほしくない。

 おまえに笑っていてほしい。

 おまえさんを失いたくない……

 それが全てだよ。

 だから、俺ァこの世界で動けるンだ。

 

 俺のやる行いは、全部そこに帰結するよ。

 例え、意味のなさそうなことであれ。

 そこから始まり、そこに戻ってくる。

 

 そこをカン違いしちゃアいけないねぇ。

 だから……

 

「だから……無事で良かった」

 

 ぽつりとこぼした。

 目を瞑り、か細い声で、まるで祈るようであった。

 開いた口が塞がらない。 

 バーゲストは、目も、口もポカンと丸めて広げていた。

 やがて、顔を伏せて口を揉んで、何か喋ろうとしたのだが、うまく言葉が出てこなかった。

 顔に、心に、込み上げる熱があった。

 愛おしさであった。

 同時に、万人の前ではまさに神の如く振る舞う彼が、実はこんなにも弱々しい顔を見せることがあると、知っているのは自分だけなのだという、妙な優越感が心に満ちる。

 

「……かじるかい?」

 

 一転して、太く、イタズラな笑みとなった。

 腕を伸ばし、差し出すようにしてゴローが言った。

 バーゲストがはっ、となると、口内が愛とは別の欲求にしたがって、熱と湿り気を帯びていることに気づく。

 

「す、すみません……」

「いやいや、責めてるワケじゃねぇよ。本能に根付く習性は、そうそう諌めるこたァできねぇさ」

 

 さっきとは別の意味で顔を赤らめる。

 ゴローはからころと笑っていた。

 

 仕方なく、と言った。

 小声で、仕方なくですよ……と念押しする。

 ゴローは愛しさに笑っていた。

 バーゲストはあーん、と口を開けた。

 と、

 

「ゴロー殿、話が纏まりま……これは失礼」

 

 キリシュタリアだった。

 彼は、扉を開いて二人の動きを見た途端、咳払いをして軽く微笑んだ。

 だらだらと、バーゲストの額に汗が湧いた。

 彼女は瞬く間に顔を真っ赤にして、古いブリキ人形のように関節を軋ませながら、キリシュタリアに振り返った。

 

「いや、本当に申し訳ない。お楽しみの最中に、とんだじゃまをしてしまいました」

「いや、違います! これは、そういうことでは……!!」

「そうだよォ、キリシュタリアくん! 蜜月のおじゃま虫は馬に蹴られて顎から吹っ飛んでもモンク言えないんだからねぇ?」

「ごっ、ごろっ……!! ……っ! 何をおっしゃいますの!? 怒りますわよ!! アナタも真に受けないでくださいまし!!」

「……ふっ。いや、仲睦まじくて羨ましい限りですよ」

 

 

2.

 

 

 キリシュタリアに先導されて、ゴローたちはホールに赴いた。

 ゴローはまず、真っ先に、ゴルドルフの顔を伺った。

 彼は、導き出された結論に、この世界の結末に、神妙な表情を浮かべていた。

 それは、結果を受け止めた責任者としての顔であるが、いまいち決まりきっていない。

 瞳に、嬉しさが滲んでいるからだ。

 その輝きが、彼を非情と責任の矢面から浮き上がらせている。

 

「やれやれ、どうなることかと思いましたよ」

 

 ゴローの隣に立って、そう言ったのは太公望であった。

 ゴローは軽く会釈をした。

 

「呂尚さまも、お疲れ様でした」

「あの、呼び名はまあいいとして……敬語、やめてもらえませんかね?」

 

 やたら距離感感じるんですが?

 僕、貴方にそんな、嫌われるようなことしました?

 

「流石に、初対面の人にタメ聞くのはどうかと思ってねぇ……まぁ、ご本人の希望ならそうすっけど」

「ええ、是非そうしてください。正直、神としてのきみに相対しているのは、僕もそれだけで中々に気を遣いますので」

「む、またよくわからない話をしているな! そっちのデカいもの、デカい身体のくせに企む顔が良く似ているぞ」

「これはこれは、かの勇士にお褒めに預かれるとは、光栄です」

「別に褒めてないぞ? 変なヤツだな」

「はは……」

 

 さらりと立ち寄ったニキチッチに対し、ゴローはにこりと笑って会釈した。

 太公望はまた、はは、と渇いた声をこぼした。

 

「藤丸くんもマシュちゃんも、お疲れサマ」

「はい! ゴローさんも……何をしていたのかは分かりませんが、お疲れ様です」

「アラ? ゴローちゃん、私に対して慰労の言葉はないのかしら?」

「いやァ、ペペさんに関してはぶっちゃけ、こういうジャングルジャングルしたトコ、慣れてるでしょ?」

「嫌だわ、何でもお見通し? ま、実際今回、私は活躍らしい活躍してないし、疲れてはいないんだけどね」

 

 そっちこそ、キリシュタリアたちと何をしてたの?

 私、ソッチの方が気になるんだけど。

 私はともかく、わざわざ後輩とマシュちゃんたちを差し置いて先回りしてたってことは、話せないけどカルデア(こっち)の利益になる企みがあった……ってことでいいのよね?

 

「あー……そりゃア、今はちょっと、まだ内緒さね」

「……わかったわ。じゃあ、アナタから話したくなったら、話してちょうだいね」

 

 ホールに集う彼らは、各々に話を咲かせていた。

 コヤンスカヤはいない。

 社長室に篭っている。

 ゴルドルフがひたすら心を虚空にやっているのも、これが一因でもあった。

 

 カルデアとの話し合いで、()()の決行は明日一番に決まった。

 だから、今日だけはNFF本社に泊まる運びとなっていた。

 ()()とはすなわち、コヤンスカヤの旅立ちである。

 

 コヤンスカヤへの処遇は、地球からの追放と決まった。

 いや、決まっていたと言うべきか。

 元々、太公望が用意していた術によって、固有結界そのものを揺籃と為し、来る『異星の神』との決着を終えたのち、この星からツングースカごとコヤンスカヤを離脱させる計画(プラン)である。

 

 コヤンスカヤがビーストになることは、もう止められない。

 だから、せめて外宇宙の、人類のいない場所で世界を広げ、羽化してもらおうという算段である。

 算段と言っても、これは打算の類ではない。

 太公望の気遣いと言った方がいいだろう。

 元々これは、太公望が『さる者』のために用意していた策であった。

 当初、彼はその者がこの世界(ツングースカ)にいるのだと思っていた。

 

「だけど、違いましたからね」

「そらァそうでしょう」

 

 太公望はソファに座って紅茶を飲んでいた。

 ゴローはその隣に立っている。

 藤丸たちと別れ、また二人で話したいことがあったと、太公望に誘われていた。  

 

「根拠は?」

 

 わかってるくせに、と視線を流す。

 

「だって、おまえさん冠位じゃねえじゃないの。対(ビースト)を想定されているなら、抑止力とやらはおまえさんを冠位(グランド)クラスとして招聘するんじゃねェかい?」

 

 当たっている。

 つまり、逆説的に言えば、太公望がライダークラスの通常霊基で存在すること自体が、ツングースカにおいてビーストが発生する可能性が()()()()()()限りなく低いことを意味していた。

 太公望は、かつてこの世界に存在した妲己は、ビーストであったと言う。

 そして、それを討伐せしめたからこそ、自身はここに召喚されたと思っていた。

 だが、そうではなかった。

 コヤンスカヤは妲己ではなく、ビーストにもならず。

 故に、発生(過去)から結末(未来)へと流れる因果関係を逆説的に唱えるならば、太公望の存在そのものが、コヤンスカヤとの決着において「殺し合い、滅し合う」以外の帰着を見出す可能性の立証であった。

 些か理論が飛躍しているが、あくまで神たるゴローからしてみれば、の話である。

 

「てか、そこに関しちゃア返信した()()に記載したじゃアないの。今聞き返すってなァ、自身に納得させるためかい?」

「ええ。あの文面を見た時はどひゃーってなりましたよ……ところで、あの手紙には妲己ではない根拠としてPBの存在も挙げていましたが、つまり、アレって未来()から過去の僕に送ってきてたんですかね?」

「その辺の解釈は、まァご勝手にどーぞ」

「……いいなァ、時間を行き来できる人は。時間運行術、僕も真面目に開発してみようかなァ」

「おまえさんだと本当に出来そうだからあえて言っとくケド、やめた方がいいよねぇ」

「そうかなァ」

「そうだねェ」

 

 冗談めいて笑う。

 お互いに。

 

「てか、そんなにコヤンスカヤに似てたの? この世界の妲己さま?」

「それはまあ、かなり似ていますよ。特にその魂、霊基の質は」

「……太公望さんて、もしかしなくても面食いかい?」

「……うーん、それはちょっと、否定しきれないなァ」

 

 何気ない会話であった。

 緊張感のかけらもない。

 お互いに、なんの探り合いもない、男二人のバカ話である。

 

「そういえば、手紙の話が本当なら、地球意志もここに招いていたのでしょう? 地球(ガイア)の化身。僕も会ってみたかったなー」

「ふふふ。いずれ、どっかで会うと思うから、焦る必要はないと思うケドねぇ」

「それは、未来を観た上での発言ですか?」

「さあねェ? 解釈は任せるよ」

 

 バカ話ではあるものの、やはり本質は掴めないもの同士の、掴みどころのない会話であった。

 ゴローは、こういう会話は嫌いではなかった。

 こうして話していると、纏う雰囲気の胡散臭さはともかくとして──やはり太公望は、根源的にはちゃん善性有りきのヒトであると、最低限理解できる。

 それも当然か、と自答する。

 彼は、元から人外のマーリンや半神半人のギルガメッシュと違い、元はひとりの、善深き人間であるのだから。

 

「そうそう、太公望さんよ。手紙に書けなかった分のハナシ、今からしてもいいかい?」

 

 さらりと、ゴローは言った。

 太公望は、ふふふ、と、それ楽しみですね、と顔を傾げた。

 

 

3.

 

 

 夜。

 それぞれ個室に入り、眠りにつく時間である。

 人類にとっては悪路に等しいツングースカをさんざ歩いたためか、藤丸とマシュはぐっすりと眠っていた。

 ダ・ヴィンチとムニエルはビルに隣接させているシャドウ・ボーダーに戻っている。

 ゴルドルフは、まだ起きていた。

 

「ちょっといいかい?」

「うおっ!!? な、なな何だね!? いきなり!!?」

 

 天井から逆さにぬるっと這い出たものは、ゴローであった。

 彼はびっくらどっこいベッドから転げ落ちたゴルドルフ前に、音もなく着地する。

 もちろん天井には出入り口などない。

 

「ゴルドルフさん。夜にすまンね、ちょっと、付き合ってくれンか?」

「な、な──!? 何だと言うのだ! ま、まさかコヤンスカヤと、何かよからぬことを企んで……!?」

「まあまあ、ちょっとこっち来てくだされ」

「うおおおおおっ!? わ、私の身体が壁を突き抜けてる!?」

 

 ゴローはゴルドルフの腕を掴むとふわりと飛んで、そのまま天井に溶けいって部屋を後にした。

 

 

4.

 

 

 その場には、先着が四人いた。

 キリシュタリア・ヴォーダイム。

 ネモ・プロフェッサー。

 太公望。

 そして、コヤンスカヤ。

 

 ゴローとゴルドルフが入室し、全部で六人。

 

「ななななな、何が始まると言うのかね!?」

「ミスターゴルドルフ、落ち着いてください。別に戦争を始めるわけではありませんよ」

 

 キリシュタリアが言った。

 ゴローが一歩、前に出た。

 

「やはり鴉郎さんは無理でしたか……」

「まあ、しょうがあんめェ。大令呪(シリウスライト)が刻まれたまんまだもの。アレに傍聴機能なりなんなりが刻まれてる可能性が捨てきれン以上、コソコソ話に混ぜるワケにゃアいかねぇさ」

 

 キリシュタリアには、既に大令呪はなかった。

 魂が抜け切らなかったとはいえ、一度半身を砕かれ、肉体的な意味では完全に死亡したためだろうか、彼の身体からは既に露と消えていた。

 魔眼の持ち手であったとはいえ、命をとせばオフェリアですらスルトを弱体化させられるほどの秘めたるパワーが、果たしてどこに消えたのかは不明である。

 

 逆に、死亡していないカドックと、死ぬギリギリに救助されたペペロンチーノには、まだ大令呪は宿っていた。

 虞美人に関しては消えていてある意味当たり前である。

 

「それで」

 

 と切り出したのはコヤンスカヤであった。

 

「私たちを集めて、全能者はいったい、何をさせるおつもりなのでしょう?」

 

 つい、とゴローがコヤンスカヤを見る。

 彼女は、どこかムスっとしていた。

 ゴローは深く深く、笑っていた。

 

 

 

 

 

 

「俺と契約しねェかい?」

 

 

 ────はい?

 




第五話終了。
第六話:ヒトだって、歴史が始まる前はケダモノでしてよ? に続く

……今更ですけど当作は作劇に書く暇がない設定やらなんやらはばっさりカットしていますので、なにか設定や裏話など疑問がある方はメッセージを送ってくれたり感想のついでにお気軽に質問してください、是非に。
我ながら、妖精國本編から見直して、ちょっと説明しきれてなくてえらい不親切設計だと(ようやく)気づきましたので
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