【完結】妖精國に落ちた超越者が、妖精騎士たちにほんの少しだけ救いを与えるお話【挿絵有り】   作:ロウシ

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幕間最終話です、次回からイベントその他本編に入ります
2/12 誤字修正 報告ありがとうございます


最終話:マシンガンのリズムだぜ 皆殺しのメロディだ

1.

 

 

 しゃなり、しゃなりと歩くものがいる。

 ノウム・カルデアの廊下、紫式部図書館への道を。

 それは、美しい存在であった。

 空よりは濃く、海よりは軽い蒼いドレスを着ている。

 宝石を散りばめて、その形を成しているような瞳。

 小ぶりの顔。

 おおよそ陽光の負の遺産である、染みや皺とは無縁の、陶器のように艶やかで色白の、張りと柔らかさの整った肌。

 絹のように細く、しなやかで、美しい腰の長さの銀色の髪。

 歩くたびにまとまっては細やかに散らばり、行く跡に光をまぶしているようだった。

 ふんふんと鼻歌を鳴らして機嫌よいその姿は、横切るものたちがつい、眼を向けてしまう愛らしさを振りまいている。

 凝りにこられた陶器人形(ビスク・ドール)が、生命の熱と柔らかさを備えて動いているようだった。

 

 この世の甘美を煮詰めたような少女。

 つまり、最も強く美しい妖精騎士、ランスロットである。

 つまり、原始竜アルビオンの分体竜。

 メリュジーヌであった。

 

 彼女は、ゴローに会いに行っていた。

 ゴローは、カルデアに来てからと言うもの、メリュジーヌが知る限り図書館にいる時間がやたらめったら長い。 

 ご飯どき、あるいはたまに、シミュレーターで他のサーヴァントと会話や稽古に興じる以外では、ひたすらに本を開いて現れる、活字の世界に夢中である。

 まさに『本の虫』──という言葉は、メリュジーヌの心に軽度な憤りを生むのでやめておこう。

 まあ、ゴローはブリテンにおいても滞在時間の半分は資料室に篭っていたと思われるので、さして不思議ではない。

 最強種たるメリュジーヌの視座においては、どこにいても、何をしていても、彼は彼である。 

 黒い色の、強い引力を持つ、大きな男だ。

 むしろ、その変わらなさが愛おしい。

 カルデアの召喚に応じたはいいものの、彼の運命が見えない。だから、半ばハラハラしたものの、無事ゴローと再会できた。

 そして、改めてその名を呼んだ時も。

 彼は、

 

「やあ──また逢えたね。小さなライバルさん」

 

 と、変わらぬ愛嬌を持って接してくれた。

 吐き出す言葉も、分厚くて優しい笑顔も。

 その存在感も、変わらぬ熱と大きさを持っていた。

 

 それが、とても嬉しい。

 

 曰く、彼は死なないのだと言う。

 それは生物的な死がないだとか、殺されない、と言う意味ではないらしく、生態が寿命そのものを超越しているため、殺されなければ少なくとも、星よりは長生きすると言っていた。

 

 それが、無性に嬉しい。

 

 これから何億、何十億と時が過ぎても、彼がこの惑星上にいる限り、僕は──私は、ひとりではないと言うことなのだから。

 バーゲストには悪いけれど、今のところ、それは事実だ。

 サーヴァントの身の上ではあるが、そもそもは本来、最後の最期まで彼に寄り添えるのは、自分しかいない。

 また、彼がこの惑星の上で、最後の最期まで寄り添えるのは、当然自分しかいないのだ。

 だから、カルデアにいるときはなるべく、バーゲストにその隣を譲ってあげている。

 未来への期待は想うだけで幸福だった。

 おかげで、「今ぐらいはいいよ」と胸を張って言える。

 そもそも、僕と彼は()()ライバルなのだから、僕は彼の前か、背中に立つべきだろう。

 

 そして、今日この瞬間、彼に会いに行っているのは気まぐれであった。

 会いたいから、会う。

 それでいい。

 それができるのが、嬉しい。

 ノウム・カルデアもそれなりに広いが、ブリテンに比べれば所詮、小さな街以下の面積しかない。

 ソールズベリーなどとは比べ物にならない。

 彼に会うための政治的な妨げなどもない。

 以前、彼を求めて図書館に乗り込んだときは、

 

「騒ぎ過ぎだよ」

 

 とゴロー自身に優しく退出を促され、結局ゴローも一緒に図書館から出てくれた。

 その後、なんとなしに話をした。

 彼は、私の話をちゃんと聞いてくれる。

 彼がたまにしてくれる過去話は、私からしても荒唐無稽なスケールの大きさで、面白かったりつまらなかったり意味がわからなかったりで、つい聞き入ってしまう。

 顔の傷。

 古傷にしては生々しいそれが、話のたびに、たまに疼くのが見てとれた。

 そういう仕草を見ていると、もう、なんだかたまらない気持ちになるのだった。

 

「やあ、僕だよ」

 

 思考に耽ると幸福で、幸福は時間を早める。

 メリュジーヌは図書館に、比較的静かに入室した。

 ぎょっとする紫式部に挨拶をして、やたら怯えている彼女に堂々と聞く。

 

「ゴローは……あれ?」

 

 彼は、いなかった。

 あの大きな身体を見逃したり見失うハズはない。

 気配もない。

 

「ねぇ、ゴローはどこ?」

 

 式部に聞く。

 彼女は、

 

「えっ、と……ゴロー様は、その。今日は来ておられませんよ」

「じゃあ、どこにいるか知ってるかい?」

 

 彼女は顔を左右に振った。

 なぜか頬を真っ赤に染めている。

 オーロラもびっくりなグラマラスでアダルティな身体のくせに、紫式部のこういう反応はあざとくあどけない。

 

「ゴロー様なら、今日はシミュレーターの方に行ってますよ」

 

 図書館の奥から足音と声が、式部に助け舟を出した。

 低い男の声だった。

 

「──なんだ、スプリガンか」

「なんだとは失礼ですね、ランスロット卿。……いえ、今はメリュジーヌ様とお呼びするべきですかね?」

 

 金髪長髪。

 尖った耳。  

 整えた髭。

 それなりの身長。

 

 ゴローが助けたことで、妖精國からノウム・カルデアに身を寄せているひとり。

 妖精國の元ノリッジ領主、スプリガン。

 妖精國にいた時と比べて、身だしなみがややざっくばらんで、言葉がぶっきらぼうである。

 これはおそらく、妖精の中で過ごすプレッシャーから解放されたためだろう。  

 ここもここで死と隣り合わせではあるが、文字通りのイタズラで殺されることもなければ、政治闘争のように企みをめぐらせる必要はない。

 言葉では汎人類史への執着などないと宣っていた彼だが、いざ戻ってみると、生への開放感は、やはり計り知れないのだろう。

 

「メリュジーヌでいいよ。今の僕は陛下の着名(ギフト)も授かっていないし」

「ではメリュジーヌ様。ゴロー様に会いたいのなら、シミュレータールームに行きなされ。彼、今日は拳法の達人の……ナントカとか言うサーヴァントと稽古の約束をしていましたので」

「…………」

「ん? どうされました?」

「いや、なんで君がゴローの約束を知ってるのかな、って思って」

「あの、若干表情が怖いのですが……背筋がヒヤリとするのでやめていただきたい。約束を知っているのは、彼とはだいたい、いつもここで本を読んでいるからですよ」

 

 たわいない雑談ぐらいしますよ、私だって……。

 と、スプリガンは恐々としながら言った。

 ふーん、とメリュジーヌはジト目であった。

 訝しむ眼である。

 

「まあいいけど。スプリガン」

「……なんでしょう?」

 

 メリュジーヌは、花のような笑顔になって、言った。

 

「今度から、そういう情報をゲットしたら、僕に教えてね!」

 

 スプリガンは苦い顔になっていた。

 片眉をひくひくと上下させ、やがてその表情が苦い色のまま、歪な笑顔に変わっていった。は、はは……と何かをいたわるような言葉をこぼしていた。

 

 メリュジーヌは踵を返し、シュミレータールームに向かった。

 

 

2.

 

 

 計器類に眼を通していたカルデアスタッフに軽く()()()して、メリュジーヌはシュミレートに割り込んだ。

 

 眼を開くと、自身の認識する世界がガラリと入れ替わる。

 都合何度目かのシュミレーターだが、こうして不可思議な現象を実感するたびに、カルデアの──人間の技術というものに、メリュジーヌはほとほと感心してしまう。

 

 仮想世界を作り上げる。

 おおよそ、幻想種などかやっと持ちうるべき能力を、電気と機械で簡単に再現してみせる。

 しかも、それは機械の扱いさえ理解していれば、誰でも作り出すことができて、誰でも作り上げた世界に行くことができるのだという。

 

 全く。たがたが数百万年から数万年の間に、これだけの神秘を普遍的な技術に落とし込むとは。

 人間の進歩というのは恐ろしい。 

 と、人類の歩みを認めつつも、

 

 まぁ、僕の方が恐ろしいし。

 僕の方が強いんだけどね!

 

 と、自らの鼓舞と自負は忘れないメリュジーヌであった。

 

 

3.

 

 

 ちょっと歩くと、広場に出た。

 砂地で、雑草が少し生えている、適当な作りの広間だった。

 ゴローは、その広場の中心で向かい合っていた。

 相手は、白髪の老人。

 上から下まですらっとした流れる灰色の服を着ている。

 当たり前だがゴローよりだいぶ小さい。

 けれど、その目つきが尋常のそれではなかった。

 刃物のように鋭い目つき。

 どこか、暗い光を帯びている。

 その老人の全身からは、見るものの心を貫きそうな、尖った迫力が伺える。

 ゴローは腰を落とし、足を前後に開いて立っている。肘を折り畳み、自らの側面にぴたりとつけて、右拳を腰に置いている。

 肘を曲げた左腕を前に出して、手のひらを自然な形で開いていた。

 力がほどほどに入り、ほどほどに力を抜いている手の開き方。

 視線と、左手の指先と、老人とが直線上に並ぶ位置にある。

 老人も、鏡合わせのように、全く同じポーズであった。

 

 二人の左手の甲が、微かに触れていた。

 皮一枚どころか、うぶ毛だけがかろうじて触れているほどの超至近距離。

 

 そこで、止まっている──

 いや、お互いに少し、動いている。

 ゴローが特に、肩や、腰や、足の位置を動かしている。

 触れている左手を起点に、少し前に出ようとしていたり、退がろうとしていたり、左右に身体を揺らしたり、摺り足で動いたりしている。

 何か、迷いが見える動きだった。

 試行錯誤を繰り返しているようだ。

 メリュジーヌにはそれが、どれもこれもうまくいっていないように見えた。

 どうにも窮屈な動きなのである。

 対する目つきの鋭い老人は、ほとんど動かない。

 微かに肩や、腰や手先が動いているが、ゴローほど動きが大きくない。

 また、よくよく見ていると、ゴローの動きに合わせるように動いているようだった。

 ただ、老人のその視線──意識とでも言うべきものが、ゴローを捉えて離さず、動きに合わせて大きくうねっているのがわかる。

 

 押し、

 引き、

 押されて、

 引き込まれて、

 回ろうとして、

 回されているようで、

 

 ──何をしているんだろう?

 

 というのが、メリュジーヌの素直な感想であった。

 眉を八の字に吊り上げる。

 これは、なんだろう?

 戦いなのか?

 舞踏なのか?

 それとも、こういう遊びなのか?

 ゴローの真剣な表情、老人の真摯な表情を見るに、おそらく戦いだ。

 だが、なぜこうもぎこちないのか。

 ゴローのパワーなら、身体を揺らす必要なんてない。

 パンチを打てばいい。

 多少相手が動作の邪魔をしてきても、そのまま打ち抜けばいいだけなのに。

 なんでやらないんだろう?

 

 と、二人の戦い(?)を眺めていると。

 

「む──境界竜か」

 

 声をかけられた。

 敵意がないので気にしていなかったが、この場にはメリュジーヌと老人の他に、サーヴァントたちがいたのだ。

 

 メリュジーヌに話しかけたのは、そのひとり。

 濃い紫色を基調とする、メリュジーヌの目にはある種、よく見覚えのあるボディスーツを着込んだ女戦士。

 その立ち姿だけで、禍々しい魔力を秘めたる槍を御し切る傑物。

 全身が黄金比で整えられたような完璧なプロポーション。

 メリュジーヌとは別種の逞しさと美しさを兼ね備え、血を煮込んだような色の瞳を持つ女性。

 ケルトのスカサハであった。

 

「ノクナレアの親戚っぽいヒト」

「ノク……? まあいい、おまえもあの二人の戦いを見にきたか」

「戦い? やっぱり、あれは戦いなのかい?」

「そうだとも。共に人界を超えし技量の持ち主……わたしにすら瞬きをゆるさぬ、恐ろしい腕比べよ」

 

 スカサハは、ヒリついた空気がたまらんな、とニヒル──可憐に笑う。

 ふうん、とメリュジーヌは退屈に返事をした。

 

 と、ざりり、とゴローが身を引いて、先に左手を離した。

 その手がきちんと臍下まで正され、ふ、と息を吐いて腰を上げた時、ようやく老人は構えを解き、直立ちとなった。

 腰が全く曲がっていない、身体の真ん中に鉄芯でも打ち込まれているような、堅牢な立ち姿であった。

 

「さすがです、李書文先師。まさかこの俺が、打ち込む先から(せん)を潰されるせいで、全く動けんとは……」

「いや、(ぬし)の気の練り、功夫(コンフー)の仕上がりは素晴らしいものよ。この儂が、まだ見ぬ先の青天井を……この歳になり、更なる神仙の域を仰ぎ見せられるとは思わなんだ」

「そう言われりゃア嬉しいモンです。でも、そりゃあ俺が、ヘタの横好きで師父より功夫を長く積み上げてるってだけですワ。要訣を掴む──というか、時間を基準に比較するなら、武侠の精髄に優れるのは師父の方だと思いますがねぇ……」

「今回儂が(ことごと)くの機先を制した要因は、儂の『観の目』と功夫が優れているというよりも、主の不調にあると見るが……」

「…………」

「動作の瞬間、ほんのわずかに呼吸が乱れ、筋骨が軋んでおる。内的な痛みによる心筋の硬直があったが故の動作の予兆と遅れ。そこにつけ込んだに過ぎんよ」

「それでも──それァ立ち会った以上、言い訳にゃァなりませんから」

「それはそうだ。しかし、惜しいのう。いつか、万全の主との比武に興じたいものよ」

「そ、そんときゃア、ほどほどにお願いしますね……」

 

 なにやら難しいことを話している。

 メリュジーヌにもよくわからないが、どうやら二人がやっていたのは単なる殴り合いではないらしいことはわかった。

 隣のスカサハは、「ふむ、確かに……おしいな」と二人の会話に妙明を得ている。

 

「話は終わったかい、ゴロー?」

 

 そして、爽やかな余韻に浸るゴローに近づいて、己の意見をまっすぐに伝えられるのがメリュジーヌという竜なのであった。

 ゴローと書文はちら、とメリュジーヌを見た。

 まだ、お互いの意識の半分は、お互いに向け合っている。

 メリュジーヌはちょっとムッとした。

 会いにきたんだから、ちゃんと、僕を見てよ!

 そう思ったのだ。

 

「おお、メリュジーヌか。……あちゃあ、こりゃ、かっこワリぃとこ見せちまったなァ」

「別に、そんなこと思ってないよ」

「ふふ、ありがとうねぇ」

「どうやら儂は邪魔のようだな、潔く立ち去るとしよう。良き組み手であった」

「ありがとうございました、李書文先師」

 

 ゴローは書文に向かい、丁寧に、敬意を込めて、ぺこりと頭を下げる。

 敬意を捧げていながら──やはり、その意識は少なからず警戒の意を巡らせていた。

 書文がふ、と笑みをこぼす。

 苦笑いに近かった。

 そのまま踵を返し、シュミレーターから退去した。

  

「いやァ、カルデアってのはすげェな! まさか武の全盛の李書文と組み手ができるたァ思わんかったぜ。こりゃア、ひょっとすると黄飛鴻(ウォン・フェイフォン)なんかも座にいたりするンじゃねェか!?」

「すごいヒトなの、()()

「モチロンさね。異界の地の彼になるが、李師父は俺に、武術を教えてくれたヒトでもある」

「ふーん……」

 

 なんだか語り口がいつもより激しい。

 興奮している。口調から少年のような憧れの情感が見て取れる。

 メリュジーヌにはなんだか面白くなく、つい、

 

「僕と、どっちが強い?」

 

 と聞いた。

 ゴローはんん〜と少し頭を捻らせて、

 

「強さの分類(ジャンル)が違うねぇ」

 

 と曖昧な答えを返した。

 

「なんで? 彼もサーヴァントでしょ?」

「そりゃあモチロンそうだが、おまえさんと書文先生を比べるのは、台風と核兵器のどっちが強いかを比べるようなモンさ」

 

 例えばよ、おまえさんが俺と殴り合って負けたとして──悔しいと思えるかい?

 

「え? 普通に悔しいけど……」

「……スマン、例えが悪かったわ」

 

 例えばよォ、蟻と象がケンカして、踏み潰されて負けたとして、蟻は象に、

 『くやしい! 次は勝つ!!』

 って思えるかってハナシよ。

 

「……うーん。僕は蟻じゃないし」

「そうさ、おまえさんは竜だ。竜よりか弱いのに竜に挑むものを、けちょんけちょんに負かして……おまえさん、嬉しいかい? 勝って当然の規格の差があるのに、それを我が名誉の勝利だと勝ち誇るかい?」

「……ううん、それはみっともないな」

「そういうことさね」

 

 書文先生には、書文先生の強さがある。

 メリュジーヌには、メリュジーヌの強さがある。

 

「それはよ、戦うもの同士でも、あんがい比較できるモンでもないのさ」

「…………そうかも」

 

 わかったような、わからないような。

 メリュジーヌは悩んで、悩んで。

 ちょっとわかったような気がしたので。

 とりあえず、花のような笑顔を咲かせた。

 

「ま、今すぐ理解(ワカ)りゃいいわけでもなし。ぼちぼち理解すりゃいいさ」

 

 と、ゴローは言った。

 ついで、あ、と間の抜けた声を出す。

 

「そういや、俺もメリュジーヌにゃァ用があったンだわ」

 

 ぐっと、強い目で目を射抜かれ、メリュジーヌはぴん! と口を結んで目を見開いた。

 どきりとして、一瞬で緊張が身体中を駆け抜けたのだった。

 

「付き合ってくンない?」

 

 そして、その緊張は耳に届いた言葉によって圧倒的破壊力に変換されて、メリュジーヌの体内で大爆発を起こしたのだった。

 

 

4.

 

 

「あ、いや、言葉が足りんかったな。スマ……ごめん、離れて……いや、離れ、力強ェッッ!?」

「本当!? 嘘じゃないよね!? どどどどどうしよう!? とりあえず繋いだ手を離さないでおこうかな!?」

「ハナシ聞きなさいな。ち、ちょっとスカサハさん? 見てねぇで助けてくれよぅ!」

「……女心のわからんやつだ。第一わたしは男女の密愛を邪魔するほど野暮ではない」

「いや、蜜愛もクソもなんか引き摺り込まれそうなんだケド……」

 

 メリュジーヌを引き剥がし、落ち着かせ、説明を始めるまでにちょっとした力が必要であった。

 無論、『超越者(ビヨンダー)』の()()()()である。

 それだけで、溢れ出す熱量に当てられたシュミレーターが部屋ごと吹っ飛びかけたのは言うまでもない。

 

「南米まで付き合ってくンねぇかって聞いたのさ、俺ァよ」

「南米? そこでハネム……」

「いったん、そっから離れなさいな」

「う、うー! ずるいずるいよ! 期待させといて!!」

「むくれてもダメだかンね……いや本当にスマンかったけどさ」

 ほうほう、とスカサハが口を挟む。

 

「南米とは、確か最後の異聞帯がある地域ではなかったか?」

「そ。最後のクリプター、デイビット・ゼム・ヴォイドがいるトコだねぇ」

「ふむ、おまえならば今この瞬間にも行くことは可能だろうが……なぜだ?」

「キリシュタリアとペペロンチーノの要望さね」

 

 曰く、自分たちが生き残り、カルデアの側にいる以上、デイビットが異聞帯を維持する必要はないとのこと。  

 既に『異星の神』も顕現し、敵対している現状では異聞帯を存続させ空想樹を育てる必要はない。

 これは、ゴルドルフ主導の下行われた尋問においても、キリシュタリアがはっきりと断言したことであった。

 

「だが、カルデアはその前にカタつけなきゃいけない案件がそこそこあるでしょ? だから、今のペースだと南米に行くまでちょいと時間がかかっちまう」

「だから、先んじて説得に動くということか」

「そうさね、スカサハさん」

 

 南米異聞帯。

 デイビット・ゼム・ヴォイド。

 かのキリシュタリア・ヴォーダイムが、自らに比肩すると公言する異端にして天才。

 キリシュタリア曰く、自分とデイビットだけは、『異星の神』に対し有効な対抗手段を持っているという。

 

「ふむ……この会話、果たしてここでしていいものか」

「それについちゃア俺が、向こう側に届く文言をいじってるから無問題(モウマンタイ)

「それで、僕の力が必要ってこと?」

 

 そうさ、とゴロー。

 力強く言った。

 

「選り抜きの生え抜き。申し訳ねェが偉そうに何人か選抜してるとこなンだが……いのいちに声をかけるべきは、メリュジーヌだと思ってねェ」

「ふ、ふふふ! さすがの慧眼だね、ゴロー。もちろんOKさ」

「ありがとね」

 

 にこりと笑い合う。

 屈託ない大きな笑顔はどこまでも深く、純粋で、太い。

 

「なるほど、最後の異聞帯だものな。未知の地、先行隊として連れゆくならば、最強最大で揃えるのが吉か」

「いや、強すぎてもダメだねぇ。目立ちすぎちゃうし」

「ほうほう。ならばある種の魔術に精通し、極みにある、目立たぬ振る舞いにてこの世の強者の頂にある者の力も必要ではないだろうか?」

「…………スカサハさんも、来てくれるかい?」

「ふふ、もちろんだとも。ああ、腕が鳴る。常世全てを超越せし強者(つわもの)の目に、我が槍の真髄はどう映るものか……」

 

 スカサハは期待に胸躍らせ、ふん、と息を荒げた。

 もっとも、それすらも雄々しさで隠しきれぬ美を孕んでいる辺りに、ある種の極まったあざとさがあるのだった。

 

「なんかごめんねぇメリュジーヌ」

「? ……何が? ゴローが僕を必要としてくれるんだから、僕は嬉しいよ?」

 

 どことなーく、怖い言い草であった。

 それをまるっと受け止めて、大きな抱擁を混ぜた言葉で、

 

「ありがとうね」

 

 と笑って言った。

 メリュジーヌはたまらず、

 

「うん!」

 

 と、幼子のような甲高い声で返事をした。

 




幕間:皆殺しのメロディおわり
次章、おそらく八犬伝イベント時空開始
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