【完結】妖精國に落ちた超越者が、妖精騎士たちにほんの少しだけ救いを与えるお話【挿絵有り】   作:ロウシ

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トラオムというか八犬伝編始まり〜
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青春(トラオム〜八犬伝編)
第一話:骨身をさらけ出したその後で 散文的に笑う


 

0.

 

 

 『異星の神』の襲撃を受け、からくも彷徨海を脱出したノウム・カルデア一行。

 日の当たらぬ生活から一変、陽光満ち満ちたる快晴の下にあるストーム・ボーダー内部での生活にも慣れ、落ち着いてきたこの頃。

 ゴルドルフはカルデア主要陣を集めて会議を開いた。

 

 誰からも異論はない。

 やることがいっぱいであったが、それ以上に話し合うことがたくさんであった。

 先行きの不安を整理し、未来へ指針を取るのは当たり前。

 やるべきことを定めるのは当然のこと。

 対『異星の神』用の聖剣のエッセンスは無事であり、製造段階に入っている。

 『異星の神』を倒すこと。

 『地球漂白化』の謎を解き、人理の姿を元に戻すこと。

 そこに至るために残った異聞帯は、あとひとつなのだから。

 逸る気持ちが少なからずあった。

 だからこそ協議は慎重に行われるべきである。申し合わせたように、皆、神妙な顔で集った。

 会議が開かれたことに対して、誰も異論は挟まなかった。

 

 だが、ゴルドルフは記念すべき初会議の題を、白紙化解決や異聞帯の切除。

 対『異星の神』への兵装備の進捗よりも先に、

 

「あの『神』は、どこに行ったと思うかね」

 

 といったことに費やした。

 

 

0-1.

 

 

「Mr.ゴルドルフ。私から、今の彼と我々の関係について語れることがあるとすれば、これもまた、『あるべき形』だということでしょうか」

 

 先陣を切ったのはホームズであった。

 真っ先に、いささか抽象的でありながらも、結論から彼は言葉にした。

 

「あるべき形……? どういうことかね、経営顧問?」

 

 対するゴルドルフの口調は、落ち着き払ったものであった。 

 星をも滅ぼせる『全能者』の失踪。

 文字通りの『超越者』の行方が知れぬ事実は、本来ならば彼の心締め上げて、そのふくよかなる身の内からか細い悲鳴をあげさせたことだろう。

 しかし、彼の者のおおらかな性分は、既に、ゴルドルフも知るところであった。 

 懐柔を試みて振る舞ったお手製のカルボナーラを、あの『神』は果たして何杯おかわりしたことか。

 

『こンなにウマいカルボナーラは、そうそう食べたことがないや。スゴいねぇ』

 

 と卵ソースを口の端につけたまま、太い指でそれを掻き取って舐めながら、笑って断言されたことはゴルドルフの脳裏にくすぐったくも、ひどく焼き付いている。

 つまり、ゴルドルフの心象から言えば、これは直接的な危機状況ではない現在ではあった。

 彼のものに対する恐怖心は、実のところあんまりない。

 ゴルドルフにとっては、彼によって起こされるかも知れない未来への危機さえも、()()()()()曖昧な現状ではあったのだった。

 よって、さしものゴルドルフも、まず否定ありきの論調を述べるほど切羽詰まっているわけではなかった。

 

 それでも──彼はカルデアの全責任を担う者である。

 自らの言葉と振る舞いで、平時戦時を問わず、カルデアスタッフにできる限りの安全安心を覚えさせる必要がある。

 だから、疑いがあれば、例えそれが自身で潔白だと思っていても、可能性が低くとも、

誰よりも先にそれを指摘し、穿ち、自身はもちろん他の者たちが理解と納得──『安心』を共有するまで追求せねばならない。

 

「言葉の通りです、Mr.ゴルドルフ」

 

 名探偵の視線は透き通るナイフのようであった。

 蒼真珠のような光が心を見透かすようで、強い。

 そこから、ホームズの説得が始まった。

 

 まず、彼は本来、我々とクリプター──すなわち『異星の神』との戦いには関係がない存在です。

 彼は、たまたまブリテン異聞帯に落ちて、たまたまそこで愛を与えられた。

 そして、彼も()()()()を愛し、結果として我々人理の側にも『人』として……あるいは『神』として接していたに過ぎません。

 彼からすれば、地球上の現実が汎人類史であるか異聞帯であるかは些事に他ならない。

 

「つまり──『神』にとっては、我々が勝とうが『異星の神』が勝とうが、もとよりどっちでもいい……やはりそういうことかね? 経営顧問」

 

 繰り返す言葉は疑問ではなく確認のそれである。

 ホームズは皆にわかるように、静かに同意を示した。

 

「おっしゃる通りです。ゴルドルフ総司令」

 

 その上で、彼がなぜ我々の側についたのか。

 キリシュタリア・ヴォーダイムを助けたのかは言うまでもなく。

 前者は、彼は『人』として愛を与えられたから。

 後者は、彼が『神』として対価を捧げられたからに過ぎません。

 

「ある種の等価交換だね。今更言うまでもないけど、どんな神話にもある話だ。『神』に奇蹟の全能を願うなら、大切なモノなり命なりを捧げよ、って」

 

 ダ・ヴィンチが言う。

 正論である。

 ここで言う後者、キリシュタリア蘇生のために捧げられたモノは、ベリル・ガットの命であった。

 

 ブリテン異聞帯で己の死期と死地を悟ったベリルは、ゴローの語る『神々の世界』を垣間見た結果、己の愛に殉ずるために踏ん切りをつけて、それを果たすために、()()()自らの命を供物にキリシュタリアの生存を願った。

 

 ちいさな意地なのだろうか。

 見栄を張りたかったのか。

 それとも──……

 

 いや、ベリル・ガットの真意などわからない。

 『神』は彼を賢者と呼んでいた。

 人の世に生まれるには早過ぎた──あるいは、遅過ぎた賢者だと。

 ならばもう、死して永劫に口を閉ざしたその真意(心意)は、何者も知ることはできないだろう。

 その心を知る例外があるとすれば、それはやはり、その命と心を捧げられた『神』だけなのだろうと。

 そこは言葉にせずとも全会一致の満場一致。

 誰ひとり追及はしなかった。

 

「…………」

 

 しかし、その賢者の愛を、わからぬままに捧げられたマシュ・キリエライトの表情に、微かな影が差した。

 噛み砕ききれない想いがあるのだ。

 それに気づいたのは、藤丸立香とホームズである。

 だが、彼らは何も言わず、刹那の思考をマシュの溢す心情に費やし、察し、わずかに目をひそめた。

 その優しさから、何も言わなかった。

 

「しかし、経営顧問よ。私が真に諸君らに問いたいのは、かの『神』がキリシュタリア・ヴォーダイム、及びスカンジナビア・ペペロンチーノと共に行方をくらませたことについてだ」

 

 そう。

 彷徨海から脱出して僅か数日。

 まだ各所が忙しなく情報整理に動いている段階で、キリシュタリアとペペロンチーノは忽然と姿を消した。

 彼のサーヴァントであるカイニスと、ペペロンチーノと仮契約を結んでいたコーラルを含めて、だ。

 一応、『すまない』から始まる置き手紙の存在により、彼らが意図があってストームボーダーから離脱したことはわかっている。

 手紙はそこから、

 

『私たちは全能の君と、私たちのやるべきことをやる。南米で会おう! PS.ゴルドルフ新所長には戸棚のお菓子を勝手に貰って行ったことを謝っておいて欲しい』

     

 と続いていた。

 だから、キリシュタリアたちを連れ去ったのが『神』──すなわちゴローであり、彼らは彼らの目的を持って行動していることはなんとなくわかっていた。

 だが、それを隠して行動されていることは看過できない。

 言うまでもなく、キリシュタリアとペペロンチーノは元クリプターである。

 そして、南米は最後の異聞帯。

 最後のクリプター、デイビット・ゼム・ヴォイドが待ち受ける世界である。

 最悪のケースを想定するとして、キリシュタリアとペペロンチーノがデイビットと組み、やはりカルデアと敵対する可能性がゼロとは言い切れなかった。

 

「オレは……それはないと思いますけど……」

 

 とは藤丸立香の弁である。

 マシュ・キリエライトも賛意を示した。

 ダ・ヴィンチは賛寄りだが曖昧な返事を。

 シオンは「まあ、私はあの『神』にはこの間フラれたばかりですし」と少しズレた遺憾の意を示す。  

 

 唯一これに懸念を挟んだのは、意外(当然)なことに、ホームズであった。

 

「ええ、マスター。私もそう思います。キリシュタリアはオリュンポスにて既にカルデアに対し敗北を認めている。仮にこれを新たなチャンスを与えられたのだと仮定するなら、彼は『二度目』と言うことになります」

 

 一度目は言うまでもなく、『異星の神』による蘇生である。

 全く体系の違う存在とはいえ、二度も『神』に蘇生された人間などそうはいないだろう。

 

「キリシュタリア・ヴォーダイムは諦めの悪い魔術師です。しかし、既に『異星の神』との決別は明確にしています。よって、彼が神の奇蹟を利用してまでクリプター(向こう側)に肩入れすることはない。ここにきて恥も外聞もなく、カルデアに敵対してまで既に敗した我欲を通すような人間ではないと、私は推察します」

 

 そして、『神』は──、

 

「人としての彼は、人の愛に絆される情緒に溢れている上、我々はもちろんキリシュタリア・ヴォーダイムたちすら『人間として』好んでいました」

「なら、ホームズは何が疑問なの?」

「……彼が、彼の場合は、『神』として供物を捧げられたのなら、その限りではないと言うことです」

 

 確認を取るように、ホームズは丁寧に言葉を紡いでいった。

 

「『神』として供物を捧げられたのなら、彼はどういう形であれ、その対価に報いるだけの奇蹟を起こさなければならない。彼が言う神のルールは、ダ・ヴィンチの言う等価交換の理念に近いようなのでね……もっとも、キリシュタリアが彼に供物を捧げたとして、それが『神』にとって奇蹟を起こすに相応しいかどうかの裁量権は、当然『()』にあります」

「ええい、まどろっこしいな! 経営顧問、そのいちいち喉に小骨が引っかかってるような物憂げな表情はやめたまえ! ……不安になるからね?」

 

 推論は見事。

 であるならば、なおのこと何が不安なのか?

 というゴルドルフの文句に、ホームズは一瞬ふ、と表情を弛ませた。

 が、すぐさま引き締めると、結論を述べる。

 

「我々が想定するべきは、キリシュタリアたちではなく、()()()()()()『神』に供物を差し出した場合です。いかんせん、デイビット・ゼム・ヴォイドの人間性──不透明すぎるそれが、『(ゴロー)』たるものを前にどう対応し、また『神』はそれをどう受け取るのか、現段階では予想が立たない」

 

 そこについては、ちょっといいかな?

 と口を差し込んだのはダ・ヴィンチであった。

 一貫して場を引き締める重々しい口調のホームズとは違い、楽観的な意気が言葉に乗っている。

 

「ゴローはノウム・カルデアに来てから、私たち──正確には、前のわたしがいた時からの、全ての記録(マテリアル)に繰り返し目を通してる」

 

 彼はカルデアの軌跡に興味を持っているよ。

 それこそ、わたしだって暇がある時には彼に質問攻めに合ってたぐらいだ。

 ゲーティアとの決戦と、異聞帯の記録には特に、強い興味を示していた。

 

「確かに我々はデイビットは特徴を掴めていない。わかっているのはキリシュタリアに並ぶ天才ということだけ。恐ろしい相手と言わざるを得ないね。何をしてくるか、何が待ち構えているか、予想ができないからね」

 

 でも──だからと言って、デイビットがわたしたちの旅に匹敵するものを彼に捧げられると思えないかな。

 わたしたちの旅は、カルデアの旅は数えきれないほどの奇蹟の集合体だ。

 どれかひとつでも取りこぼしていたら、きっとここまで辿り着けなかった程のギリギリのバランスで成り立っている。 

 そして、ゴローはそれを気に入っているし、だからこそ今、神として中立を謳いながらも少しだけ、彼はこちらに寄ってくれているのだと思う。

 

 『(ゴロー)』がデイビットに与し、デイビットを勝利に導くということは、わたしたちを倒すと言うこと。すなわちカルデアの積み上げた奇蹟を全て、無に帰す行為に他ならない。

 

「彼はそれを望まないだろうし、デイビットはわたしたちの旅を、全能者に奇蹟を使わせて、『なかったこと』にするほどの供物を用意できない……とわたしは考える」

「言い換えれば、結局彼の興味関心──良心次第ということか……」

 

 落ち込み気味に語られるゴルドルフの正論に、ダ・ヴィンチはまさに可憐な少女のような顔で向き合った。

 

「うん、そういうことさ! ……でも、わたしは私たちが歩んだカルデアの奇蹟と、愛のために血を流せるゴローの心を信じるよ」

 

 オレもそうだ、と藤丸は思った。

 ブリテン異聞帯──オベロンの手によって滅び去ったブリテン。

 運命に引き潰されるだけだったモルガンや妖精騎士たちに、彼は、ほんの少しだけ救いを与えた。

 自ら血を流し、自らの命を削ってまで。

 今はゴローと行動を共にするコヤンスカヤだって、彼女を従えるために、彼は言葉と誠意を費やしてゴルドルフに頭を下げている。

 

 それを、彼自身がいまさらなかったことにはしないと思う……思いたい。

 

 ホームズがゴルドルフに目配せした。

 議論はひと通り筋道を立てて行った。

 締めの音頭を乞う視線である。

 ゴルドルフはウホン、とわざとらしい咳をひとつ。

 

「では、『神』について、ひいてはクリプターやコヤンスカヤについては、様子見と結をくだす。なに、向こうが南米で会おうと言っているのだから、いずれ必ず、再会することになるだろう」

 

 心中に不安がないわけではない。

 それでも、彼は信じるに足る『ヒト』だと、藤丸は思っていた。

 

 そして、再会そのものは、案外近く訪れるのであった。

 

 

1.

 

 

 バーゲストは落ち込んでいた。

 ため息の数は日毎(ひごと)に増えている。

 朝日の数だけ──というのも言い過ぎではないかもしれない。

 控えめに言っても心はどんより曇り空。

 何をしていても、心中に被さるもやもやが晴れない。

 

 何も言わずに、彼は去った。

 それはまあ、百歩譲ってまだいいとしよう。

 だが、そのお供に、彼は自分を選ばなかった。

 キリシュタリアたち、コヤンスカヤを彼は選んだ。

 それが心に棘を刺している。

 おそらく、それが最善なのだろうと思う。

 彼にとって、先に行ったという南米異聞帯で活動するためには、彼らが必要で、私はそうではなかった。

 

 理屈ではわかっている。

 納得はさせようと頭は働いている。

 だが、到底理解しきれないし、納得しきれない。

 

「一緒にいようって、言いましたのに……」

 

 ボソリと呟く。

 彼の顔を想う。

 私のつぶやきに、彼はきっと。

 困ったように笑って、

 "ワルいねぇ"

 そう言うに違いない。

 人差し指を軽く曲げて、頬を掻きながら。

 申し訳なさそうに目線を少しずらしている。

 目に浮かぶ。

 その顔も、その言葉も。

 

 カルデアも、並々ならぬ状況になっている。

 数々の微小特異点の証明と修正。

 中にはモルガン陛下直々に赴かれたものまであった。

 クリプターのひとり、カドック・ゼムルプスの覚醒。

 同時期に発生した大規模特異点、トラオム。

 マスターたちがたどり着いた、エリア51に存在した『被検体:E』なる謎。

 誰もが、運命を廻す車輪が噛み合い、加速度的に足を早めているのを実感していた。

 マスターたちにとって、この数ヶ月は坂の上から転がり落ちているような、暗闇の中で不可逆の道を征く心地だろう。

 

 そこに文句ひとつこぼさないことに、強さと同時に不安を覚える。

 押し込めた感情が爆発した時の抗いようのない暴力性は、バーゲストだからこそよく知るところであった。

 

 ふと思い出す。

 彼は、以前妖精國でもこう言っていた。

 

 ──そう落ち込みなさんな。逢えぬ時間が、その熱をより、高めるものさね。

 ──こういうのは、在る時間より、無い時間に何を想うか、何をするかが大事なのさ。

 

 その通りだと思う。

 だから、私は私がやるべきことをやる。

 

 私は騎士だ。

 私はサーヴァントだ。

 私はマスターの剣だ。

 

 ならば、それに全力を。

 ならば、それに尽力を。

 

 異聞に生まれ、『もしも』に刻まれしものが、人理のために召喚された。

 空想を現実に根付かせたモルガン陛下のおかげであり、ひょっとすると、それにも彼が遠からず関わっているのかもしれないが、ならば尚更、私は使命を果たすべく動くことにしよう。

 

 そして、この日はたまたま道ゆく中で声をかけられ、ミス・クレーンとハベトロットに頼まれた。

 二人の手で出来上がった衣類礼装をとどけに、バーゲストは藤丸の元に向かった。

 

 

2.

 

 

 ──あれェ?

 

 と間抜けな声を出したのは、ゴローであった。

 うわずった響きが妙に世界に染みる。

 どうやら予定外のものを見つけてしまったらしい。

 彼は、中腰になって前傾になり、自らの手のひらに浮かべるビー玉ほどの大きさの光球を覗いていた。

 

 どうかされましたか、と尋ねたのはキリシュタリアである。

 背中越しに、ひょいと首を伸ばして光球に目をやった。

 キリシュタリアからは、それは真白い光を放つ、豆電球のようなものに見える。

 その中に、果たして何が在るのかまではわからない。

 

「──いや、マズったねぇ」

「ゴロー殿、もしかしてオヤツを持ち込みすぎましたか?」

「いやそれもあるンだけどねぇ。ポテチでしょ? チョコでしょ? キャンディと……って違わい! ノせないでおくれよ、もう!」

 

 光球に人差し指を入れて回すと、お菓子類の袋がどさどさと出てきた。

 質量保存の法則を無視する光景で在るが、そんな些細なことにツッコミを入れるキリシュタリアではない。

 

「これは失礼しました。では、何が──?」

「図書館返し忘れちまってる」

「……図書館、ですか? 本ではなく?」

「うん。紫式部図書館」

「ああ、そういえば、あなたが預かっていたのですね」

「うん。俺の内海に入れっぱなしにして忘れとったワ。あちゃあー……こりゃ、マズったなァ」

「確かに。あの図書館はカルデアの記録のほとんどを収めているものですし……紫式部殿も困っているでしょうね」

「うーん。泣きっ面のあン人、簡単に浮んじまうなア……返すべきだよねぇ」

「返すべきですねぇ」

「だよねぇ……」

「そうですねぇ」

 

「談笑中に敢えて水を差すが──」

 

 と、二人に声をかけたものがいる。

 荘厳な声が、半ば呆れと戸惑いを織り交ぜている。

 二人は声の主に振り返った。

 視線がぐい、と持ち上がる。

 その主は、玉座にいたからだ。

 

「私の世界はおまえたちの隠れ家ではないのだが……」

 

 ゲーティアであった。

 渋い顔をしていた。

 二人は顔を見合わせた。

 すっとぼけた表情であった。

 

「いーじゃねェかよ、ちょっとぐれぇ。基盤宇宙と時層を隔てる極小宇宙のここなら、しばらくはカルデアにゃア見つからねンだし」

「秘匿性で言うならば完全に閉ざされた世界で在るここ以上はそうはないでしょうね。それこそ彷徨海にも比肩するでしょう。流石は魔神王ゲーティア。人の身にある魔術師はもとより、かの超神ゼウスでも、こうまで見事な『我が世』を作ることは難しいと思われますが……」

「褒めているつもりかもしれんが、耳障りに他ならんぞキリシュタリア・ヴォーダイムよ。そもそもクリプターであろうとカルデアでなかろうと、人類たるおまえには『(ビースト)』たる私は依然敵対者であることを忘れるな……」

「まあ落ち着けよ魔神王。アイツの顔見りゃわかんだろーが、煽り半分ど天然半分だ。まともに受け取る分、損するだけだって」

「おまえはおまえで、なぜ私に気安く話しかけている、神霊カイニス……」

 

 彼らがいるのは時間神殿であった。

 もちろん連れてきたのはゴローとコヤンスカヤである。

 ゲーティアはらしくなく頭を抱える思いであった。

 

「うーん……南米で落ち合おうって残しといて、その前に再会ってのはカッコウつかねェよなァ……」

「いいんじゃないですか? アナタの情報通りなら、今カルデアはトラオムに入りエリア51に踏み込み、核心的な情報に近付いている」

「ああ、ついでにカドックくんとやらも目ェ覚ましてるしねぇ。いよいよ引き返せないトコだろうさ」

「カドック……そうか」

「よかったねぇ」

「結果論ですが、彼を生き永らえさせる決断をした皇女アナスタシアと、ラスプーチンには改めて御礼をしたい気持ちですよ」

「おっ、怖いねぇ。顔が()()()()に笑ってるゼ」

「ええ、笑ってますからね。良くも悪くも」

 

 しかしまあ、とゴロー。

 

「仕方ねェから、どっかで合流するかァ」

「直接ボーダーに行かれればいいのでは? ゴローなら造作もないでしょう?」

「おっ、呼び捨て! いいねェそう来なくっちゃ! ……あーと、ボーダーには行きたくねェなあ」

「なぜ?」

 

 ゴローは、少し顔を俯かせた。

 ほんのり視線をずらしていた。

 

「いや、だって……離れたくなくなっちまうし……」

「──カイニス!! カメラ持ってないかい!!?」

「ワリィ、今切らしてる!!」

「あ、こら! やめなさい! 見るなって! 撮らないでよ! 人の赤面ジロジロ見ないでよね、ハズカシイからよぅ」

 

 ハァーとため息が溢れた。

 誰が発したのかは言うまでもないのであった。

 

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