【完結】妖精國に落ちた超越者が、妖精騎士たちにほんの少しだけ救いを与えるお話【挿絵有り】   作:ロウシ

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第三章、はじまりはじまり


ロクデナシ
第一話:最低と人に言われて


 

 

0.

 

 

 トリスタンの気分が良い。

 

 それは、噂であった。

 ダーリントンの下級妖精はおろか、キャメロットの城下に住まうことを許された上級妖精たちの間でも、噂になっていた。

 

 ある日、キャメロットの道ゆくついでに談笑していた風の妖精たちが、どん、と何かにぶつかった。

 

 なんて失礼なやつだ。

 私たちはキャメロットの官司だぞ、道を譲りなさいよ。

 

 楽しい時間を邪魔された。

 どこの田舎妖精だ。

 なんて失礼なヤツだ。

 不機嫌を口に出しかけて、その姿を見て青ざめる。

 

 二人にぶつかったのは、妖精騎士のトリスタンであったからだ。

 妖精騎士トリスタン。

 残虐非道で冷酷無慈悲。

 女王の、分不相応な娘。

 妖精を遊び殺す殺戮者。

 

 殺される!

 ああ、見てごらんこの恐ろしい顔を。

 今にも糸の魔術を使いそうだよ。

 それで、首を刎ねてきそうだよ。

 私たちの命なんか、なんとも思ってない目だよ。

 手元のランプで洞穴を覗き込んだ、くすんだ色の眼をしているよ。

 本当に生きているんだろうか、気色悪いったらありゃしない!

 

 そう思って、頭がいっぱいになって、口籠もっていると、

 

「ちょっと、気をつけなさいよね」

 

 それだけ言われた。

 トリスタンは、それだけ言うと、フンフンと鼻歌を口ずさんで歩き去った。

 軽蔑の色もなかった。

 彼女の眼中に、自分達の存在はないようだった。

 

 助かった?

 なぜ? 

 気まぐれ?

 いや、きっとそうだろう。

 きっと、気まぐれだろう。

 自由奔放なトリスタン。

 血色を纏うトリスタン。

 その色のように、刺激を求める妖精だもの。

 二人はすごすごと立ち去った。

 

 結果として、トリスタンの機嫌を損ねたものの、無事生還した妖精がいる。

 というちょっと歪んだ事実だけが広まった。

 

 そんな話が、主にダーリントンとキャメロットの水面下で広がっていた。

 

 だから、その男の耳にも、それは届いた。

 わざわざ聞き出す必要もなく。

 聞き耳を立てる必要もなかった。

 街ゆくだけで、ゴロゴロと情報が飛び交っている。

 

 こいつは、急がなきゃな。

 

 男は口角を微妙に釣り上げると、くっくっと笑った。

 

 妖精國には不釣り合いな格好の男であった。

 その格好も、その笑みも。

 その頭の中も、その髪の毛も。

 その魔術も。

 あるいは、その趣向も。

 

 ベリル・ガットであった。

 

 

1.

 

 

 再会というには、幾分か短い。

 頻繁というには、幾分か長い。

 

 ベリル・ガットと顔を合わせる頻度は、いつもそれだった。

 

 妖精騎士トリスタン。

 キャメロットにおける自室。

 その前まできて、ため息をひとつ。

 

 今日は、あいつ、来なかったな。

 門の前で待っていた。

 ゴローを。

 彼は、未だに、キャメロットの資料室に、本を読みにきていた。

 ペースはだいぶ落ちたものの、まだ全ての本と資料に目を通せていないらしい。

 読めば読むほど、味が出るねぇ。

 そんなことを言っていた。

 いいねぇ。

 とも言っていた。

 口癖だな、と思う。

 変わり者だな、とトリスタンは思う。

 わかってたことだけど、と納得する。

 

 たまに、ガウェインがついてくる。

 それは、正直鬱陶しい。

 口さがないからだ。

 それはダメだの、あれはこうだの。

 いちいち口を出してくる。

 どんな本を読んでるのか気になって、ゴローの横から覗き込んだ時のこと。

 ちんぷんかんぷんな文章で、つまらなかった。

 他の本をひき出して、読んで見るけど、やっぱりちんぷんかんぷん。

 まるで面白くない。

 だから、本を戻さずにぽいと捨てると、ガウェインに怒鳴られた。

 あったまにきて、怒鳴り返した。

 なんだと! ガウェインが食い下がる。

 あぁん! トリスタンも食らいつく。

 その時、すっ、と、太い手が伸びる。

 

「淑女諸君、図書館では……お静かにねぇ」

 

 目を細めて、流し目で二人を見て、ゴローは言った。

 すると、ごほんと咳き込んで、前のめりだったガウェインが姿勢を正す。

 なんだか、それに負けたくなくて、でも、なんか悔しいから、わざと強めに、椅子にぎしりともたれかかった。

 

 ゴローは面白いヤツだと思う。

 なんというか、空気をガラリと変えてしまう力を持っている。

 いや、そりゃ、あんだけデカいやつがいたら、いやでも目立つんだけど。 

 得だよな、と思う。

 ただ、本を読んでいる。

 手を、すっと出す。

 それだけで、存在感バツグンなんだもん。

 

 だからか、楽しかった。

 同じ空間にいるだけで、楽しかった。

 よくわからないけど、楽しかった。

 

 でも、今日は来なかったな。

 今日は別のことをしてるんだろうな。

 でも、ってことは、さ。

 今度来た時に、また面白い土産話をしてくれるってことだよな。

 それなら、悪くない。

 うん、ぜんぜん、悪くない。

 

 ふふ、と気分を良くして、扉を開いた。

 

 灯りをつけた部屋。

 ランプがその男をうつしだす。

 

 ベリル・ガットが、そこにいた。

 

「ベリル……レッドベリル……!」

「いよぅ! レディ・スピネル。調子良さそうだなぁ」

 

 安心したぜ。

 

 メガネの下の目が、ニコニコと笑っていた。 

 戸惑うトリスタンとは違って、良く通る健やかな声だった。

 

「ちょっと! 淑女の部屋に勝手に入り込むなんて、失礼じゃない!?」

「おっ! なんだなんだレディ・スピネル。ちょっと難しい言葉を使ってるじゃない。お勉強したんだなぁ! えらいぜ、とってもよ」

 

 トリスタンの戸惑いと怒りを飄々と躱す。

 こういうところ、ゴローと少し似ているかもしれない。

 

 それでよ。

 とベリル。

 

「俺さぁ、ほんっとに久々のブリテンなわけ! いや、寂しかったぜ。なんせ俺、外の世界だとマジでひとりぼっちだからな。自慢にもなりゃしないけどな。だから、なんだかんだブリテンの空気は、はー……落ち着くんだわ」

 

 しかし、ゴローと違うのは、その言葉になんの含みも重さもないことだ。

 文字通り、なんの裏表もないのだ。

 カラカラと乾燥した空気が、口を通して言葉になっているだけ。

 スプリガンや、ムリアンともまた違う。

 オーロラの言葉とも、また違う。

 そんな印象を、今なら受ける。

 

「そんでさ、久々のブリテンなワケだけど、なぁんか、違うじゃない? 空気ってヤツ? 俺さぁ、ビビっちまったよ。いや、街ゆく妖精の顔つきが違うとか、喋り方が違うとかじゃないんだけどさ。だから、最初はカンチガイってやつだと思ったんだけどな──」

 

 ぎらり、とその目が開かれた。

 毒蛇のような目であった。

 細く、鋭く、鈍色の輝きがトリスタンを睨んだ。

 

「おまえの様子を見て、勘違いじゃないって、わかっちまったよ」

 

 トリスタンは、ぞっとした。

 その言葉に、その目つきに。

 こんな目を、する男だったのか。

 こんな口で、喋る男だったのか。

 

 もう、ベリルの表情は飄々としたそれにもどっている。

 その佇まいが恐ろしい。

 その落差が恐ろしかった。

 

 トリスタンの魂の底の底。

 今なお渦巻く暗い感情を、炙り出されたようだった。

 

 トリスタンは言い知れぬ恐怖を、感じてしまっていた。

 

 

3.

 

 

「なンか、来たねぇ」

 

 ゴローが言った。

 釣りをしていた。

 と言っても、立派な釣具でではない。

 ほどほど長くて太い木の棒に、ちょっと頑丈な糸をまきつけて、針を通して餌を刺して、それだけのオンボロつりざおであった。

 

 当然というか、それに引っかかるサカナなどいるはずもない。

 

 同席するガウェインは、ただ過ぎ去っていく時間に、すっかり参ってしまっていた。

 いっそ、これはこういう精神修行なのでは?

 と逞しい勘違いをしていた。

 

 だから、ゴローの言葉に花を咲かせたように喜んだ。

 

「ほんとか!? やっとか! どんなのですか!?」

「覗き込まない覗き込まない。落ちちゃうよ? こっちじゃァ、ないよ」

 

 ゴローの肩越しに水面を覗き込むが、変わらぬ静寂がそこにはあった。

 しょんぼりしつつ、ゴローの言葉に疑問を持つ。

 

「こっちじゃない、って……どういうことでしょう?」

「しらン」

 

 釣り糸を手繰り寄せて、先っぽを見る。

 餌だけなかった。

 

「でも、なンか……よくわからんけンどね。なンか、ナンかが、この世界に、入ってきたねぇ」

取り替え(チェンジリング)かしら?」

「あるいは、俺ンとこのバケモンが、俺のニオイを嗅ぎつけて、わざわざトドメ、刺しにきたかねぇ」

「えっ!? そ、それって……」

「冗談だよねぇ。もしそれなら、もう俺たち、死んでるモン」

 

 あるいは、今。

 死んだこと、わかってないだけかもねぇ。

 ケラケラと笑うゴローの背中を、ガウェインはばしりと叩いた。

 

「うあいってェ!? イタイなぁ、もう……冗談なのにねぇ」

「笑えませんわ。それは、そういうのは、冗談ではありません」

「おカタいねぇ、相変わらず」

 

 まぁ、とゴロー。

 

「ま、死んだら、また、それはそれで別の人生だよ」

「……? どういうことでしょう?」

 

 ガウェインが聞いた。

 言葉通りに受け取っても、それはブリテンの妖精の死生観にも当てはまる。

 だが、ガウェインは思った。

 意味合いは通じるものの、それはきっと、ブリテンの妖精のそれとは意味が違うと。

 ゴローはあっけらかんと答えた。

 

「ン、ああそうかぁ。俺とこの世界じゃ、死生観、だいぶ違うンだよねぇ」

「どんなものなんですか? ゴローの場合」

 

 そうだねぇ、と顎を掻く。

 

「俺たちの死は、人生の別側面なンだよねぇ。あの世ってぇヤツァ、それはそれで法があって、国があって、領土があって、食いモンもあって……」

「なんだか、普通……ですね」

「ウン。だって、ホラ。自由の女神の写真に、ちょんまげ侍の幽霊とか、絶対写らないじゃん? ピラミッドの写真に、ラジカセとキックボード担いだエメリカ人のモヒカンのヒッピーの幽霊、写らないじゃない?」

 

 自由の……めがみ?

 ぴらみっど……?

 ひっぴー?

 

「あ──そっか、この世界、ブリテン以外はないンだっけ? 要はブリテンの妖精の魂は、死んだって汎人類史とやらに自由に行けないでしょ? って言えばいいンかなぁ?」

「ああ、それなら、わかりますわ」

 

 汎人類史と、ブリテン。

 たまに、汎人類史からブリテンに物や人が流れ着くことはある。

 取り替え(チェンジリング)のことである。

 ガウェインがボロボロになるまで愛読している『アーサー王伝説』の本がこの賜物であり、何を隠そう土の氏族長のスプリガンこと、ナカムラ某が、この取り替えによってブリテンに流れ着いた汎人類史の人間である。

 ……まぁ、ガウェインがそれを知ったのは、つい最近なのだが。

 

 だが、それは本当にたまたまである。

 自然現象というよりは、怪奇現象に近い。

 モルガン陛下ですらコントロール不可能な現象。

 おそらくブリテンがブリテンである限り発生する、バグのようなものだった。

 

 だから、汎人類史とこの異聞世界ブリテンを自由に行き来できるものは、この世界にはない。

 おそらく、目の前の男を除いて。

 

 なるほど、と相づちひとつ。

 死は、別側面。

 別の、生の在り方。

 救われる考えだと思った。

 

「いや、この場合哲学とかじゃあなくって、経験者は語る! のパターンなンだけどねぇ」

「ん? 今、何かおっしゃいました?」

「なァんにも、言ってないよぉ〜っ」

 

 ケラケラと笑う。

 しかし、怒りも何も湧いてこない。

 すっかり、こういうやりとりに、慣れてしまったものだ。

 

 さて、とゴローは腰を上げた。

 

「そろそろ、帰ろうか。収穫、なかったなァ」

「魚を獲りたいのなら、川で直接、素手で取ればよろしかったのでは?」

「……」

 

 クマみたいだなぁ。

 とは、言わなかった。

 ただ、その目がなにかを訴えていることは伝わっていたようで、

 

「あ……! あなた、今、私のことクマみたいだとか思いましたでしょう!?」

 

 クマ、いンのか、この世界……

 

 顔を赤くするガウェインを見ながら、そんなことを思っていた。

 

 

4.

 

 

「いやぁ、ダンナは話がわかるねぇ!」

 

 キャメロットの来賓室であった。

 机が、ひとつ。

 ソファが、三組。

 紅茶を片手に、男二人が談笑に花を咲かせていた。

 

 ひとりは、ベリル・ガット。

 ひとりは、ゴロー。

 

 二人とも、笑顔であった。

 対面する二人の横のソファに、ガウェインとトリスタンがちょこんと座っていた。

 話が弾む様子を、ぽかんと見ていた。

 

 マンチェスターに帰ろうとしたゴローたちを、キャメロットの使者が迎えた。

 詳しい理由も伝えられず、しかし、それを追求もせず、二人は馬車に乗った。

 

 キャメロットの来賓室で待ち受けていたのが、口を固く結んで緊張の面持ちのトリスタンと、

 それに相反するようににこやかな笑みを浮かべる、ベリル・ガットであった。

 

 ベリルのカンタンな自己紹介から話が始まった。

 クリプターのこと。

 汎人類史のこと。

 異聞帯のこと。

 『異星の神』のこと。

 空想樹に、それを刈り取るカルデアという組織のこと。

 

 当たり障りのない範囲で、ベリルは語った。

 時に面白く、時に淡々と、時にオーバーリアクションを添えて、身振り手振り、話に緩急をつけながら。

 上手い話し方であった。

 ゴローはへぇ、と何度も相づちを打って、大人しく聞いていた。

 

「生存競争ねぇ。なぁんだ、結局、俺たちと、やってるこたぁ大してカワランのね」

「いやいやいや、ダンナのスケールと比べたら、こっちは形なしだぜ? 宇宙をいくつも創っちまう神々との殺し合いだろ? さしもの『異星の神』も、ダンナの前ではかしこまっちまうよ」

「それは、単に、戦いの領分(スケール)の話だものねぇ。仮に、俺と、その『異星の神』とやらの生まれた世界が逆なら、力関係は逆だったりするかもねぇ。その程度の話で、自慢するようなモンでもないさね」

「ダンナは面白いなぁ。ヴォーダイムやマリスビリーに、ぜひ会ってみて欲しいモンだ。あいつら、目ん玉ひん剥いてぶっ倒れるんじゃねえかな?」

「取り澄ましたツラの皮ァ、ひん剥いてやるぜ、ってかい? コワいねぇ」

「そうそう! その綺麗な顔をフッ飛ばしてやるぜ! ってな」

 

 軽妙に会話が弾んでいた。

 飛び交う言葉は互いを褒め合い、尊重している。

 

 しかし、違和感があった。

 しかし、ほんの少し悪意があった。

 しかし、緊張感が薄く、気づかないほどに薄く、二人の間に膜を張っていた。

 

 どちらのそれかはわからない。

 どちらのトゲなのかはわからない。

 もしくは、二人とも、そうなのかもしれない。

 隙間と、隙間。

 共に要塞に立てこもってからの狙撃戦。

 言葉による、狙撃戦。

 早く、顔を出せよ、撃ち殺してやるぜ?

 だが、我慢している。 

 目の前に餌を撒く、

 食いつかない。

 目の前に美女を置く、

 食いつかない。

 目の前に母を置く、

 食いつかない。

 決して、顔を出さない。

 鋼鉄の心理戦。

 

 そういう戦い。

 会話の、空間の主導権の綱引きである。

 

 ガウェインとトリスタンの目前で行われているもの。

 それは、そういう、戦いであった。

 

 

5.

 

 

「苦労するんじゃない? おまえさんの性格だとさ」

「いやぁ〜バレちまうなぁ。そうなんだよ。なかなか、世の中うまくいかねぇ。まぁ、だから楽しいっていうヤツなんだけどな!」

 

 ベリルは、楽しんでいた。

 本当に、楽しんでいた。

 当人同士だからこそわかる、ひりつく空気。

 スリリングな空気。

 それでいて、会話は芳醇。

 それでいて、コミュニケートは良好。

 こちらの、何も嫌がらない。

 へぇ、そう。

 それで、終わらせる。

 嫌悪感も好奇心も、その実抱かない。

 だから、引っ掛かりが見えない。

 空間の主導権を握れない。

 絶妙な間の外し方。

 巧妙な、感情の機微。

 しかし、隙間をチラチラと見せつける。

 だから、ついつい話が弾む。

 

 ああ、こりゃあ、ブリテンの連中じゃあ、歯が立たねぇワケだよ。

 こいつとまともに会話できるの、クリプターじゃあ、俺か、ペペか、キリシュタリア・ヴォーダイム……まぁ、半分もいないな。

 カドックやオフェリアなんかは、まぁ軽く丸め込まれるな。

 芥は、嫌がるだろうなぁ、こいつのこと。

 我関せずな風のデイビットも、まぁ行けるか。

 あいつは、そもそも会話を成り立たせねぇやり方、とるだろうけど。

 

 ああ、くそ。

 話がおもしれぇ。

 殺してぇな、こいつ。

 全能者。

 殺したら、楽しいだろうな。

 殺せたら、絶頂するんじゃないか。

 そしたら、オレ。カルデアどころか、魔術協会とか時計塔とかから、いっぱい報酬、貰えるんじゃね?

 銅像とか、建てられてさ。

 歴史書に、名前が刻まれるんだわな。

 それも、ごちゃりと鎖で封がされるヤツ。

 禁書を読みたい生意気盛りのやつが、地下とかで、その本、開いちまうんだ。

 『神殺しのベリル・ガット』。

 『根源に等しきベリル・ガット』。

 って感じでよ。

 ご丁寧に、カッコつけて、名前のトコだけ黒塗りにされててよ。

 もしかして、英霊の座もワンチャンあったりしてな。

 ああ、いや、あの辺の性悪どものことだから、そうなったら暗殺しにくるか、封印しに来るだろうな。

 英霊の座は……まぁちょっと楽しそうだけどよ、厳密にはサーヴァントはオレじゃない訳だし、やっぱつまんねえか、それは。

 

 ああ、クソッ。

 楽しいな、こいつ。

 殺してぇな、こいつ。

 

 

6.

 

 

 空が暗くなり始めていた。

 時間が早い。

 

「とと、話しすぎちまったな。悪いな、ダンナの話が面白すぎるもんでよ、ついつい、力入っちまったぜ」

「いンや、いいのいいの。こっちもねぇ、めちゃくちゃ楽しかったしねぇ」

「懐が太いじゃねぇの。ダンナはもうとことん、見た目通りだな」

「ふふ、褒め言葉だって、受け取っとくよねぇ」

 

 ベリルはカップの紅茶に口つける。

 ググっと飲み干した。

 すっかり冷たくなっていた。 

 喉が冷えて、潤う。

 体も、頭も、冷える。

 それで、ちょうどいい。

 

「ダンナ。最後にひとつだけ、いいかい?」

「なンだい、ベリル?」

「ダンナは、カルデアの連中がこの世界を滅ぼしにきたら、どうすんだい?」

「なンもせんよ」

 

 即答だった。 

 それには、トリスタンとガウェインが、動揺した。

 ベリルは静かに、へぇと言った。

 

「そりゃあ、薄情すぎやしないかい?」

「だって、それはブリテンとカルデアの戦争でしょう? よそモンの俺が、ブン殴るワケにゃあ、いかんでしょうよ」

「いいのかい? カルデアが勝っちまったら、トリスタンもガウェインも、死ぬんだぜ?」

「死は、所詮宇宙の循環の過程の、ひとつだよねぇ」

「消えるんだぜ?」

「俺が救っちまったら、それからも、なンかあるたびに、俺に頼っちまうだろ?」

「…………」

「それは、政治的にも、心の在りようとしても、良くないねぇ」

 

 ベリルはすっ、と立ち上がった。

 無言だった。

 緊張が、張り詰める。

 無言は、力だった。

 この場を支配する、強い力だった。

 

 にこり、いや、にかり、と言った感じだ。

 ベリルは笑った。

 

「いや悪い悪い。ダンナがあんまりにもかっこいいもんだからよ、つい意地悪しちまったぜ」

「ふふふ、それ、女の子にはしない方がいいよぉ? 普通は、嫌われちまうからねぇ」

「最後まで金言ありがとよ。じゃあ、お先に失礼するぜ。ちと、やらなきゃあ行けないことがあってよ……」

 

 陽気に手を振って、ベリルは出ていった。

 

 ゴローは残っていた紅茶を、ゆっくりと飲み干した。

 ふぅ、と一息。

 

「ふふふ、毒、入れてやがる」

 

 やるねぇ、ベリルくん。

 感心するように舌を転がす。

 ゴローの笑みは太く、そして、深かった。

 




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