チケタイバレンタインは1日で終わるほどあっさりしてないという持論のもとで1日遅れの投稿です。
決してサボりとか遅刻じゃない、これだけははっきりと真実を伝えたかった
PIXIVにもあげてます
ああ、つまらないバレンタインだった。
そう思いながら、アタシは学園のすみっこでスマホを弄る。
画面にはキラキラしたゲームの演出が流れて、でもそれはちっとも脳みそに入ってこなかった。
代わりに思い浮かぶのは昨日のこと。
バレンタイン。
ウマ娘ばっかりのトレセン学園でも、むしろだからこそ盛り上がるイベントだ。
アタシにはあんまり関係ない。
でもあんまりって言うからには、ゼロでもない。
(どうやって渡そう…)
カバンには、手作りチョコがひとつ。
義理とか友とかじゃない、渾身のひとつ。
それを渡したい相手はいつも呼んでないのにアタシのそばに来る。
なのに今日に限って彼女、ウイニングチケットはアタシのところに現れなかった。
正確には授業中とか、休み時間とかに顔は合わせてる。
でも、みんなの見てる前でチョコを渡すのは恥ずかしくって。
どうせそのうち絡んでくるでしょ、と思いながら放課後の屋上で一人。
でもいつまで経ってもチケットは来ない。
(…探しに行こうかな。)
そう思って立ち上がった瞬間、階段に続く扉が開いた。
「あ、タイシン居た~!」
待ち人来る、それは嬉しいことのはずなのに。
「…それ、なに。」
「チョコだよ!後輩からも貰っちゃったから数が多くって~!」
チケットが抱えてる小箱たちを見て、アタシの中にドス黒い気持ちが湧くのを感じた。
チケットは人気者だ。
…単に人気ってだけじゃない、要はモテる。
ダービーを取った実績、明るい性格。
加えて意外と論理的な面もあって、レースに関しての相談を後輩から受けることも多い。
アタシと真逆。
そんなチケットが好きで、でもチケットがアタシ以外の誰かに好かれてるのが嫌だった。
でも我慢できた。
チケットが、それを受け入れないなら。
けど、そんなことはなくって。
「みんな手作りで気合い入ってて…嬉しいよね!」
チケットは、当然のように向けられた好意を受け入れていた。
というか、そうあって然るべきだ。
好意を素直に受け取る、なんて人道的だろう。
おかしいのはアタシ。
勝手に嫉妬して、チケットがアタシのなんだっていうのさ。
それでもチケットの態度が許せなかったし、それが許せない自分が一番許せなかった。
結局アタシがとったのは、最悪の選択肢。
「…へえ、よかったね。」
そう言って、チケットの横をすり抜ける。
「えっ!?ちょ、タイシン?」
「帰る。」
「ちょ、待ってよ~!っと、ああっ!」
振り返らなくてもわかる、ドサドサって音。
チョコを落とした音だ。
この分だとしばらく追いかけてこないだろう。
アタシは階段を駆け下りて、寮に戻った。
そのまま一日が終わった。
これがアタシのバレンタイン。
最悪だよね。
「…はぁ。」
ため息が出る。
スマホの画面には、ゲームオーバーの文字。
どうせハイスコアを狙えるような感じじゃないし、と内心負け惜しみを言いながら電源を切る。
カバンにしまおうとして、昨日からいれっぱなしのチョコが目に入った。
(もう、意味ないし。)
クリークさんに教えてもらいながら作ったチョコ。
結構頑張ったけど、思いも込めたけど。
もうあとは、腐っていくだけのただのチョコ。
それならせめて蟻にでもくれてやろうか。
そうだ、ぐちゃぐちゃにして地面にでもばらまいてしまおう。
多分スカッとはしないけど、そんな気分だった。
包みのリボンに手をかけた、その時。
「あ、タイシン!探したよ!」
一番来てほしくないヤツが、来た。
「…何。」
「昨日、タイシンにチョコ渡せなかったから!はい、これ!」
そう言って差し出されたチョコは、きれいにラッピングされたいかにも手作りって感じのチョコ。
でも。
「…いらない。」
「えっ?」
「いらないっつってんの。」
それは、受け取りたくない。
「なんで…?アタシ、頑張って作ったんだけど…」
「それ、アタシにだけじゃないよね。」
ああ、言っちゃダメだ。
そう思っても口が止まってくれない。
アタシの心の一番ドス黒い、嫉妬心なんてチケットに見せたくないのに。
「チケットはさ、みんなに優しいじゃん。アタシもその一人なんでしょ?」
「そんな、タイシンは…」
「そんな、何さ!!!」
声が荒くなる。
涙が出てくる。
「チケットは!みんながいるから!」
「…」
「アタシには、チケットしかいないのに…」
ボロボロと涙をこぼしながら、手に持ったモノを差し出す。
「これ、チケットの。チケットだけに、作ったの。」
「…アタシだけに?」
「他の誰にもあげてない。」
涙を袖で拭う。
棒立ちになってるチケットに向かって一歩、二歩。
手を取って、チョコを握らせた。
「チケットだけにあげる。アタシの気持ち。」
「…ありがとう、タイシン。」
「でもさ、チケットはアタシだけじゃないよね。」
チケットの顔が曇る、ちょっと意地悪だった。
困らせたいわけじゃない。
けど、アタシの気持ちを聞いたらチケットは困るだろうな。
でも伝えたくて仕方なかった。
「チケット、アタシだけのチケットでいてよ。」
「えっ…」
「つまり、そういうこと。アタシ、チケットが好き。」
チケットの目を見ながら、言った。
時間が止まったって言われても信じるくらい、長い一瞬が過ぎた。
チケットは固まって、それからその瞳に負けないくらい顔を真っ赤にして。
それから、真面目な顔になった。
「えっとね、タイシン。」
「何。」
「気持ちは、嬉しい。」
足から力が抜けそうになる。
これ、ダメなやつじゃん。
どうにか倒れないように、泣かないように。
さっき泣いたくせに、もうプライドなんて粉々になってるくせに。
それでも気丈でいたいと、精一杯のハッタリを効かせながら相槌を打った。
「そう。」
「でもね、タイシン。」
「っ…!」
辛い、聞きたくない。
この先を聞いたら、今まで通りの友達ですら居られなくなってしまう。
でも、耳を塞ぐための腕はいうことを聞いてくれなくって。
もう覚悟を決めるしかないんだ。
死刑宣告を聞くみたいな気持ちで、でも投げかけられた言葉は。
「ハヤヒデのことも考えるとタイシンだけっていうのは難しいかなって…」
「は?」
間抜けな声が出た。
「ほら、タイシンだけのアタシになったら、BNWはどうなるのかなって!」
「え?…あのさ、一応聞くけどチケット、ハヤヒデと付き合ってるとかじゃないよね?」
「うん、別に?」
「…???」
何を言ってるんだチケットは。
「えっと、あのさ。アタシ今告白したと思うんだけど。」
「あ、うん!アタシもタイシンのこと大好きだよ!でも、タイシンだけの物になるって思うと色々難しいなと思って…」
分かった。
チケットの中での好きって、LIKEの方なんだ。
がっくりと肩を落とす。
なーんだ、って感じ。
アタシの告白も、友達としての好きとして受け入れられてしまったということだろう。
でもとりあえず、アタシたちの関係が変わらなかったことに安堵して。
「…もういいよ、チケット。忘れて。」
「えっ、いいの?」
「うん、チケットが皆の人気者なのは止めようがないし。」
そう言って、手を出す。
「チョコ、くれるんでしょ?」
「あ、うん。はい、どうぞ!」
チケットらしい、キラキラと明るいラッピング。
量産されてても今はいい。
ただチケットの気持ちの、何分かの一がここにある事実を受け入れよう。
(でも、いつかは。いつかはアタシのモノになってもらうからね、チケット。)
そう誓った。
「…あ、でもタイシン、これだとみんなと一緒だから嫌だったんだよね?」
「…まあ、別にいいよ。」
「う~ん、じゃあ、追加でこれもあげちゃう!」
そう言ってチケットは、アタシの手に握られたチョコに口を近づけて。
ちゅっ。
「今はこれで、我慢して。それじゃ!」
顔を赤くして去っていくチケットの後ろ姿を、今度はアタシが棒立ちになって見送る。
前言撤回。
(アタシが、チケットのモノにされちゃいそう…!)
関係が変わらなかったなんてアタシの勘違いだ。
チケットは確かにアタシの気持ちを受け入れてくれていて。
その証が今、アタシの手のひらに握られているんだ。
「勿体無くて食べられないっつーの、バカ…!」
まだ食べてないけど、このチョコはとっても、とても甘い。