やーっ! 僕だよ、お腹の弱いディアブロスだよ。
黒いアオアシラとの死闘から、早数日。僕らは「大社跡」に到着していた。
大地に脈打つ崖の割れ目に広葉樹林が拡がる美しいフィールドで、その名の通り、かつてここで生活していたであろう人間たちの信仰の跡が散見される。
当然ながら今はモンスターの蔓延る危険地帯であり、主に鳥竜種や牙獣種が多く生息している。温暖な気候だからか、陸生の海竜種も居たりする。後は古龍種のオオナズチも根城にしている区域があるらしい。何それ、怖っ!
そんな和の風が吹き抜ける緑の谷間に僕らは来た訳だが、もしかしたらロアルドロスくんとはお別れになるかも。水も空気も奇麗で緑がいっぱいあるここなら、寝床にも食糧にも困らないだろう。ボルボロスくんは気候の問題があるから、何とも言えないけどね。それは僕にも言える事だけど。僕程環境に敏感な奴も居まい。
まぁ、それはそれとして、僕は最近、気になっている事があるんだ。
何か知らないけどね、常に喉の奥で何かが突っ掛かっている感じがするんだよ。
ついでに言うと、キノコを食っても腹を壊さなくなった。相変わらず大した栄養にならないし、何だったら毒テングタケやマヒダケによる状態異常には罹るけど、大声を出せば何故か治っちゃうから、そっちに関しては気にしない事にした。むしろ食べると一時的にパワーアップ出来るみたいだから、積極的に採集するようにしている。慣れとは恐ろしい物である。
だが、やはり主な栄養源はサボテンなのだ。
何となく水源を遡っていたら辿り着いた大社跡だけど、永住は出来そうも無いなぁ。砂原の植相はまだ回復してないだろうし、「灼熱サボテン」という珍種が生えているかもしれない「溶岩洞」を目指すのが良いのかもしれない。
とは言え、先ずはロアルドロスくんの棲み処探しだね。彼は見ての通り多量の水が必要だから、それっぽい所を見付けないと。
『キュァッ、ギュァッ!』『キューキュー!』『キィーッ!』
あ、オサイズチと精鋭イズチだ。
イズチ族は大社跡の生態系の大部分を占める鳥竜種の一種であり、細身の身体に朱色の羽毛を生やした姿をしている。武器は尻尾の鎌で、これを振り回して敵を切り裂くんだとか。
しかし、所詮は捕食者の中では底辺に位置する鳥竜種の中型モンスター。全身がスポンジ状のロアルドロスくんならまだしも、全身を岩より硬い装甲で覆っている僕やボルボロスくんに刃が立つ筈も無く、威嚇をするに留まっている……と言うより、見逃して貰おうと必死になっているようにしか見えない。
大丈夫だって。余計な事さえしなければ、こっちから何かしたりはしないから。じゃあね、バイバーイ。
『キャンキャン!』『キャキャウゥッ!』
おっと、今度はブンブジナの群れだね。
こいつらは体内に可燃性かつ揮発性が高い油を溜め込んでおり、普段はそれが気化したガスでパンパンに膨らんだ丸っこい姿をしているが、衝撃を与えると自爆して吹っ飛ぶというヤバい特性を持っている。ただし威力はそこまでは無いので、武器ではなく飛んで逃げる為の自衛能力と言えるだろう。
つまり、興味本位に突っついたりさえしなければ、基本的に無害な可愛らしい動物と言えるだろう。むしろ1匹飼ってみたいくらいである。草食が強い雑食性らしいから、管理も楽だろうし。
『きゅきゅん♪』
おや、幼体のブンブジナが近付いて来たぞ。群れの誰もが助けようともしないし、親から逸れた孤児の個体なのかもしれない。
……1匹くらい、良いよね?
『きゅんきゅ~ん♪』
僕が翼を地に着けると、ちびブンブジナは器用によじ登り、角と襟飾りの間にチョコンと収まった。か、可愛い……。
『『………………』』
な、何だよ、
――――――ヒュン、バコンッ!
あいたっ!
頭に何かぶつかったぞ!?
しかも、着弾点から察するに、僕と言うよりは、ちびブンブジナを狙ったようだ。当たった物を見てみれば馬鹿デカい柿だったし、こんな物が当たったら死んじゃうじゃないか。
ふざけやがって。誰だ、こんな悪戯をするのは!
『ギャヴォッ、ギャヴォッ♪』
近くにある天然の岩を積み上げた石鳥居を横目で見ると、天狗獣ビシュテンゴがギャハギャハと嗤っていた。
ビシュテンゴは牙獣種に分類される中型モンスターで、猿顔に嘴、羽の生えた腕、巨大な団扇を思わせる尻尾を持っている。この尻尾を起点としたアクロバティックな動きが特徴で、隠し持った柿の実を活かした嵌め技もしてくる、割と面倒な奴である。
うーむ、非常にムカつく野郎ではあるが、突進などをしようものなら、それこそちびブンブジナが死んでしまうし、どうした物か……。
――――――ヒュン、バチャッ!
『ギャッ、ギャッ、ギャッ♪』
こいつ、また……!
『グヴェアアアアアアアッ!』
あまりにも舐め腐った態度に、思わず大声を出してしまった、その時。
――――――ブシャァァアアアアアアッ!
声に乗じて、濃い紫色のブレスが発射された。
『ギェエエエエエッ!?』
効果は見た目通り猛毒だったようで、吹っ飛ばされたビシュテンゴは悶絶し、散々苦しみのた打ち回った挙句、パタリと死んでしまった。
……えぇ、なぁにこれぇ?
『『………………!』』
ちょっと引かないで、ボルボロスくん!
後退りしないでよ、ロアルドロスくん!
『きゃっきゃっ♪』
こんな状況で、僕の大声を聞いた後にも関わらず、きゃっきゃと笑うちびブンブジナは、案外と大物なのかもしれない。
……うん、考えるのは止めよう。
今日はもう疲れたし、何なら日も暮れそうだし、寝よ寝よ。
この後、僕らは廃屋近くの広場でグッスリと眠るのだった。
◆ブンブジナ
尖爪目堅爪亜目狸獣科に属する雑食性の牙獣種。
所謂“食われる側”の小型モンスターで、基本的には無害な存在だが、体内に揮発性が高く可燃性もある「引火液」という油を溜め込んでおり、普段は気化した引火液で身体がパンパンになっている。
そして、外的な刺激により自爆して吹っ飛ぶという、ぶっ飛んだ特性を持つ。
これは一種の自衛手段であり、爆発の勢いで遠くに逃げる為に用いられるが、ショックで文字通り“自爆”して死んでしまう事もある。可愛い。
ちなみに食用にも愛玩動物にもなるらしく、一部ではグッズも販売しているのだとか。