「待て待て。今日は別に狩猟に来たんじゃない。
漁夫の利を得ようとするなど、ハンターの鑑じゃないかと身構えたが、向こうにそのつもりはないらしい。身振り手振りも交えて、必死に「テキジャナイヨー」って言ってる。
……やーっ! 僕だよ、ロアルドロスくんの安眠は僕が守るとか言いつつ、ボルボロスくんがいなけりゃ黒いタマミツネに汚い花火にされていたであろう、突然変異しても弱々なディアブロスだよ。
さてさて、何だか知らないけど、例のハンターは僕に話しがあるみたいなんだ。寝起きドッキリで牙をへし折ってくれた前科のあるから、僕自身はあんまり話したくないんだけど。
――――――ああ、大丈夫大丈夫、別にボディランゲージしなくても話は通じるから。
僕は臆病者が故に陰から観察する事を覚え、長い間それを続ける事により、ハンターの言葉が分かるようになったのだ。初めは口の動きや仕草と表情を見比べて、何となく言いたい事が分かって来たら、相手がどれに対し何を言っているのかを暗記して、最終的にそれらを統合する事で“人語”を理解するに至ったのである。
ちなみに文字に関しても、ある程度は読める。ハンターってば、どいつもこいつも、こっちに理解出来ないと思ってベラベラ喋りながら依頼書を見てるんだもの。ずっと見聞きし続ければ嫌でも覚えるわ。
……何気に凄くない、僕?
ただ、流石に喉の構造上、人語を話すのは不可能なので、YES & NO、もしくは拙い文字で返答するしかない。僕の文字は汚いし書くのに時間が掛かるので、基本的に首振りで応えるのが現実的だろう。
とりあえず、オロオロオロミドロなボルボロスくんを下がらせ、話し合いの姿勢に入る。廃屋の傍でハンターと大型モンスターが面と向かって座ってるのは何かシュールだな。
それで、一体何の用だね。こっちは死闘の後で滅茶苦茶に疲れてるから、早く済ませて欲しいんだけど。
「まず、お前はあの時のディアブロスで間違いないんだな?」
肯定だ。……何か戦争ボケみたいになったな。
「よし、それじゃあ今日からお前の事は「ローン」と呼ぶわ」
いや、何でだよ!?
「私の50年間を歯に差してるからだ」
いやいやいや、それ殆ど自業自得じゃね?
余談だが、ハンターは今日も今日とて別の狩猟笛を携えている。それもローンなんだろうか。
「ああ、これが気になるのか?」
いや、別に……。
「「闇黒のテルプシコラ」と言ってな、巨戟龍ゴグマジオスから作る事が出来る、超レア物だよ」
こいつ、勝手に語り出したよ。まーたローンでもしたのか?
「いや、今までのローンも含めてチャラにする条件として、王国へ強制招待されたよ。……あのロンディーネさんが、ちゃんと仕事をするだなんてなぁ」
いやいや、それはお前がロンディーネさんとやらに仕事をさせただけだろ。たぶん、その人も困惑してたと思うぞ。どうせすぐに無くすんだし……使うの止めたら?
「そこは問題ない。腕にシルバーを巻いたからな」
ハンッ、この凡骨めが!
「まぁ、行くのは今回の一件にケリが着いたらだし、正直外の世界も見たいと思ってたから、別に良いんだけど。それはそうと……今ギルドでは、お前を亜種個体として認定しつつある。暫定的に「ヴェノブロス」と呼ぶつもりらしい」
えっ、何その俺たちは地球外生命体みたいな名前……。
「まぁ、私は絶対にローンと呼ぶがな!」
喧しいわ。絶対に返さんからな。一生ハンター稼業でもしてろ。
「それとも「リース」が良いか? ファーストネームはカイルだ」
早死にしそうだから止めて下さい。
……というか、そんな事を僕に話して何の意味があるんだ?
狩猟対象に選ばれているならまだしも、単なる亜種認定止まりみたいだし、積極的に生態系をぶっ壊した覚えも無いから(※ただしビシュテンゴは除く)、文句を言われる筋合いは無いのだけれど?
「お前、私のオトモンにならないか?」
すると、ハンターはとんでもない事を提案してきた。
オトモンって……確か“ライダー”って人たちが確立した、“オトモモンスター”の事だよな?
ライダーたちはハンターと違ってモンスターと助け合って生きる文化を築いていて、技術の詳しい内容は秘匿されてるけど、刷り込みに近い形でモンスターを手懐けているらしい。中にはイビルジョーを乗り回す強者もいるのだとか。
ヤバ過ぎるだろライダー。カムラの里で言うオトモガルクやオトモアイルーに近い存在なんだろうけど、イビルジョーってお前さん、そりゃ無いでしょうよ。「
まぁ、そんなライダーはさておいて、何で僕がこいつのオトモンにならなきゃいけないのか。
「いやぁ、だってお前が私のオトモンになれば、差し歯になった狩猟笛も活躍出来るじゃないか」
所有権はこちらにあると言わんばかりの顔だが、ふざけるなと言いたい。あれから何日経ったと思ってるんだよ。この差し歯はもう僕の物だ。
「まぁまぁ、お近付きの印に、このサボテンの盛り合わせでも――――――」
――――――ガブゥッ!
「私ごと食うなぁ!」『ご主人ーっ!』『ワオンセール!』
ちょっとムカついたので、ハンターごと行ってみた。安心しろ、ちゃんと吐き出すから。
「……お前、幾ら何でも酷過ぎるだろ。私を何だと思ってるんだ?」
「ルビがおかしい気がするが、まぁいい。ほんの冗談だ」
何時でも歓迎はするがね、とは言うが、笛が欲しいだけだろうが。論外だ論外。
「こちらとしては、モンスター目線での情報が欲しいだけだ。最近、「百竜夜行」が散発的に起き始めていてな。ゴコク様曰く数百年も前から謎は謎のままらしいし、ここらで真実に辿り着きたい訳だよ、私たちとしては」
なるほどね、本命はそっちか。
百竜夜行――――――モンスターの大群がカムラの里へ目掛けて押し寄せる怪現象、だっけ?
数十年~百年単位で起こり、その度に周辺地域に多大な被害を齎すんだとか。そんなに続いてるなら詳しく調査しろよと言いたくなるが、流石にそこまでの余裕は無いか。何せ百竜が雪崩れ込んで来るんだからね。
だけど、まだまだ若輩者の僕に、百竜夜行の情報を求められても困るんだけど。精々、黒いディアブロスがそれっぽい群れに混じっているのを目撃したくらいか。
「なぁに、別に今すぐというつもりはない。もしも百竜夜行に遭遇したら、その中の1匹で良いから、話を聞いて欲しいのさ。……
……ああ、薄々勘付いてはいるのか。僕の目線でもあれは恐慌状態による逃避行に見えたし。
ま、良いさ。僕としても無関係ではないし、努力はしよう。善処致します、程度にだけどね。
少なくとも、こいつのオトモンになるか、なんてトンデモ話を聞くよりかは断然マシである。
「――――――ああ、そうそう。話を聞いてくれたお礼って訳じゃないけど、ここを棲み処にするのは止めた方が良いぞ。大社跡はマガイマガドが縄張りにしてるからな」
こいつ、最後の最後でぶっ込んで来やがったぁ!
◆闇黒のテルプシコラ
巨戟龍ゴグマジオスを素材にして作られる狩猟笛。古龍を使っているだけあって凄まじい攻撃力を誇るが、会心率はマイナスで切れ味ゲージも紫と、殆ど脳筋兵器である。ささやかな睡眠属性もあるが、正直無属性武器と変わりない。
ちなみに、名前の由来はギリシャ神話における文芸の女神「テルプシコラ」。彼女の持ち物と言えば竪琴なのだが、何故にギャラルホルンみたいな物体にしてしまったのか……。