怪物のバラード   作:ディヴァ子

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閑話:心を和ませて

「大社跡にて、電竜ライゼクスの姿が確認された」

 

 それは里長の一言で始まった。

 

「ライゼクス、ですか? あれはこの辺りにはいない筈では?」

 

 隣に立つアイツが疑問を呈する。

 今朝方、集会所から緊急の呼び出しがあり、何だかんだと来てみれば、里長とゴコク様、それにロンディーネさんが難しい顔をして待っていたのだ。

 それで何事かと確認すると、先の里長の発言に繋がったのである。

 

(ライゼクスねぇ……)

 

 ライゼクスはココット村近辺の森丘などの密林地帯に生息し、カムラの里からは大分離れている。

 そのライゼクスが、わざわざ遠路遥々移動して来た理由とは何だろう。幾ら縄張りを追われたのだとしても距離があり過ぎる。これだけの大移動で新たな拠点を1つも見付けられないなど、ほぼあり得ない。

 

「……それについては、私から話そう」

 

 すると、意外な事にロンディーネさんが口を開いた。そんな神妙な顔付きでどうしたのだね。

 

「先ず言っておくと、私は商人ではない。実はとある王国より、女王陛下の密命を帯びてカムラの里へ来た「騎士」なのだ。別に偉くも何ともないのだがね。そして、その密命とは「里の鍛冶職人を我が国へ呼んで、技術を提供するよう交渉すべし」という物……つまり技術スパイのような物だ」

「「「それは何となく知ってた」」」「………………」

「そんなぁ……」

 

 えらく思い詰めてたようですけど、里中に知れ渡ってる既成事実なんです、はい……。

 私がそっとハンカチを渡してあげると、ロンディーネさんは顔を赤らめながら涙を拭いた。可愛いね。

 ――――――いや、あの、本当にすいません。話を続けて下さい。

 

「そちらに関しては、自ら学んで持ち帰る事にしたよ。こんな気の良い人たちを騙すような真似はしたくないからな」

 

 貴女も大概だと思いますけどね。全然隠せてないし。私に至っては前に聞いてたしな。

 

「……で、何故そんな密命を受けていたのかというと、王国の方で異変が起き始めているからだ。特に最近は王域からのモンスターの流出が激しく、此度の報告に上がったライゼクスも、おそらくはその1体だ」

 

 ロンディーネさん曰く、国の直轄領地に棲むモンスターを「王域生物」と呼称し、中でも強力なメル・ゼナ、ルナガロン、ガランゴルムの3体を「王域三公」と言うらしい。

 そして、その王域三公なるモンスターたちの動きが最近になって活発化しており、王国の本土まで脅かしかねない状況にあるのだという。件のライゼクスは、そのゴタゴタに追われる形で遠方からやって来た、という訳だ。

 

「まるで百竜夜行のようですね」

「その通り。だからこそ、私のような人間が遣わされたのだ」

 

 なるほどね。技術提供の他にも、参考資料としての価値もあったのか。カムラの里、大人気じゃん。

 

「……それだけではない。大社跡の近辺で、爆鱗竜バゼルギウスの目撃情報もあった」

 

 さらに、里長から新たな火種が語られる。

 バゼルギウスと言えば、最近になって新大陸で確認された、現大陸で言うイビルジョーみたいな乱入型のモンスターじゃないか。

 どう考えても厄ネタです、本当にありがとうございました。

 

「――――――であるからして、君たちに大社跡の調査をお願いしたい。もちろん、私も同行させてもらう。半分はこちらが蒔いた種だからね」

 

 案の定、ロンディーネさん直々の依頼で、大社跡の調査に赴く事になった。

 

 ……あそこ、あんまり好きじゃないんだけどなぁ。

 

 ◆◆◆◆◆◆

 

 やぁ、初めまして。俺の名は「   」。メラルからアイツ呼ばわりされてるハンターだよ。

 この度、重要な秘密(笑)を抱えていたロンディーネさんから調査を依頼され、共に大社跡へ訪れている。何でもいる筈のないライゼクスやバゼルギウスが現れたから、その動向を調べるんだそうな。

 ……本来は俺ではなく、前々から秘密を共有していたメラルを指定するつもりだったようだが、里長やゴコク様、そして俺とウツシ教官の強い反対意見により、3人組で行く事となった。

 ロンディーネさんは嘸かし驚いたとは思うが、仕方ない。これは里の――――――否、メラルと俺たちの問題である。

 

「ロンディーネさんは今後どうするんですか?」

「フゲン殿が許してくれるなら、このまま貿易商を続けたいと思っているよ」

「それが良いですよ。何だかんだで便利ですもん」

「そう言って貰えると有難いな」

 

 既に大社跡のキャンプエリアに到達したと言うのに、呑気な会話をするメラル。感情豊かで、ハンターとは思えないくらいに愛らしい。

 しかし、初めて出会った時、彼女は今とは真逆の存在だった。

 ……実を言うと、メラルは里の出身ではない。

 ある日、ウツシ教官とのハンター修行中に、大社跡の一番奥のエリアで出くわしたのだ。

 当時のメラルは、幼い女の子だと言うのに独りで、武器らしい武器もなく、ボロボロの衣類を身に纏っていた。おまけに死人のような顔色で、全身が泥と土塗れだった。

 

 まるで、何処かの地面から這い出して来たかのように。

 

 しかも、自身に関する事を一切覚えておらず、仕方なしに保護した末に、里長がメラルと名付けたのである。何でも、以前の百竜夜行の際に袂を分かった昔馴染みの孫娘に良く似ているらしい。言葉を濁しているが、どちらも既に故人なのだろう。

 まぁ、それに関しては個人の事情なので詮索しないが、メラルの問題はそれだけに留まらなかった。

 昔の彼女はとにかく残酷で、奪う事しか考えていなかった。里の物を盗む事から始まり、果ては“何となく”という理由でアイルーやガルクを殺そうとする程だった。

 その癖、蝋人形のように表情が乏しく、無機質に命を奪おうとする様は、まさに鬼か悪魔を思わせた。

 当然、里中から気味悪がられ、追い出そうとする動きもあった。

 だが、俺とウツシ教官がさせなかった。必死に周りを説得し、メラル本人とも根気良く向き合い、時に話し、時にぶん殴ってでも凶行を阻止し続けた。

 そのおかげなのか、メラルも少しずつ人間らしい感情を見せ始め、やがて奪うだけの考えを止めた。

 それでも発作的に何か(もしくは誰か)を殺そうとする為、捌け口としてハンターの修行に付き合わせ、結果的に今の彼女が形作られた。

 

 そう、ハンター稼業はメラルにとって天職であり、同時に死活問題でもあるのだ。

 

 だからこそ、ロンディーネさんとの会話を聞いていると、どうしても不安になる。メラルを解き放っても良いものかと。

 しかし、彼女も立派なハンターとなった事だし、何より大人になった。偶に馬鹿みたいな事もするが、それを含めてもメラルはしっかりとした“人間”だろう。あまり過保護なのも良くない。

 ただ、大社跡だけは、メラルが元に戻ってしまう可能性のある場所として、里の皆が警戒している。だから俺たちも同行したのである。新たな悲劇が起きないように。

 ――――――何故メラルにそこまで入れ込んでしまうのかは分からない。

 だが、俺は自分の気持ちに嘘は付きたくない。細かい事を考えるの、嫌いだしね。

 ……とまぁ、俺もまた益体も無い事を考えながら大社跡を進んでいたのだが、

 

『ギュァッ!』『ギャオギャオ!』『ギュィイイイッ!』

 

 突如、3匹のオサイズチに出くわした。俺とロンディーネさんは即座に武器を抜こうとしたのだが、

 

「……待て。向こうに戦う意思はないようだ」

 

 メラルに止められた。

 確かに、鳴き声こそ上げているものの、爪を振り翳したり、尾刃を擡げる様子は無い。それどころか、首をクイクイっと、まるで何処かへ案内したいかのように振っている。

 

「どう思う、メラル?」

「こいつら多分、前の百竜夜行の時に操竜した、あの3匹だ」

 

 ああ、そう言えば、そんな事もしてましたね。これ何の偶然?

 

『グヴヴヴ……』

「どうやら、のっぴきならない事態のようだな」

 

 唸るオサイズチたちを観て、そう評するメラル。

 ――――――人間どころか、モンスターの僅かな仕草から感情を読み取るなんて、成長したな。これもあのヴェノブロスとか言うヘンテコなディアブロスのおかげかな?

 

「どうする?」

「……俺は彼女を信じますよ、ロンディーネさん」

 

 というか、彼女の良い変化を妨げたくない。

 だから、悪いけど付き合ってもらうよ、ロンディーネさん。

 

「これは……!」

 

 そんなこんなで、イズチ三兄弟に導かれるまま、エリア11までやって来た俺たちを待っていたのは、

 

『グヴルルッ!』

 

 無残に兜角がへし折れた、傷だらけのマガイマガドだった。




◆メラル

 カムラの里における第二の「猛き焔」……だが、その正体は不明である。
 第一の猛き焔である主人公が正式なハンターとなる前の武者修行中、大社跡の奥地で彷徨っている所を発見され、同行していたウツシ教官の提案で保護された。
 着の身着のままな上に土塊だらけという墓場から這い出て来た亡者を思わせる出で立ちと、命を玩具としか思っていない無機質かつ冷酷な性格により、当初は里中から忌み嫌われていたが、主人公くんの根気強い対話と度重なる男女平等パンチによって更生、少しずつ人間らしい感情を芽生えさせるようになった。
 名付け親は里長のフゲンで、今は袂を分かった旧き友の孫娘を彷彿とさせる容姿をしている事から、そのまま名前を拝借したらしい。
 そんな恐ろしくも虚ろな過去を持つメラルだが、現在は愛すべきお馬鹿なハンターとして日夜狩りへ赴いている。
 ちなみに、昔の彼女が殺し損ねたアイルーとガルクの名前は、それぞれ「キンカ」と「ガルム」という。
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