『………………』
何が起きた?
……やぁ、ようやく気絶から覚めたヴェノブロスだけど――――――これは一体、何だ?
捲れ上がり、ズタズタにされた花崗岩の大地。そこかしこの洞窟が崩落し、溶岩とは別の焼け焦げた臭いが立ち込めている。
『………………』
先ず目に付いたのは、バラバラの肉片になった草食竜たち。リオ夫婦や僕ら自身が何度も捌いてきた素材だから、見間違えようがない。甲殻や骨の欠片も散らばってるし。
さらに、リノプロスの物とは別の、血痕や肉片が溶岩洞の火山方面へ続いている。まるで、傷付いた何かが逃げ惑ったかのように。
……何か嫌な予感がする。この胸騒ぎは何だろう。僕は回復しきっていない重い身体を引きずるように、血の痕を辿り始めた。
そして、
『………………』
バサルモスちゃんが死んでいた。自慢の甲殻が無惨に引き裂かれ、片翼が千切れ飛び、内臓を垂れ流して息絶えている。這いずった跡を見るに、死ぬまで攻撃に晒されていたようだ。
『………………』
次にロアルドロスくんが死んでいた。こちらは更に酷く、スポンジ状の鬣が残らずひん剥かれており、尻尾は根元から切断され、全身がくまなく焼け焦げている。火か電気かは分からないが、相当な高熱に晒されたのは間違いない。
道中に何匹かのルドロスが消し炭の状態で転がっていたので、ハーレムを守ろうと抵抗したのだと思われる。
頭数からして全滅ではないようだが、それでもかなりのルドロスが死んでいた。彼女らが何故水場を離れたのかは不明だが、騒動を聞きつけて駆けつけたのかもしれない。
『………………』
その奥――――――ハンターで言う「エリア12」の付近で、リオレウスさんが死んでいた。彼もまたリオレイアさんや子供を逃がそうと奮闘し、殺されたのだろう。
そう、リオレウスさんには、とても見覚えのある傷が幾つも刻まれていた。ハンターたちがヌシと呼ぶ、身体が黒く染まった個体たちと同じ、赤い裂傷である。こんな物が自然に付く訳がない。
さらに、「エリア10」にある筈の彼らの巣も完全に破壊され、周りには何匹ものリオベビーたちがゴミのように転がっていた。こちらもまた何匹かは生き残ったようだが、近くに見当たらない辺り、望み薄だろう。
『ギュヴァアアアッ!』『ギャヴォオオオッ!』
と、「エリア9」の空洞広場から、リオレイアさんとイージャンさんの声が聞こえた。暴れ回るような轟音も。
『グヴヴゥ……』
『………………』
急いで駆けつけてみると、全ては終わっていて、ヌシ個体の如く漆黒に染まったリオレイアさんに、イージャンさんが止めを刺して立ち尽くしていた。リオレイアさんは相当に荒れていたようで、イージャンさんも全身が傷だらけであり、彼にしては珍しくゼェハァと肩で息をしている。もはや倒れて動かないリオレイアさんの眼には、血の涙が浮かんでいた。
『ウギャウ……』
『………………』
見かねて秘薬を作ろうとしたが、イージャンさんは静かに首を振るばかり。自分は良いから奥へ行け、と言いた気だった。彼の後ろに目をやると、すぐ近くの水溜りがドス黒く変色しているのが見える。泥や油ではない。底が見透かせない程の、大量の血液だ。
そして――――――、
『ゼルちゃん……』
ゼルちゃんが死んでいた。バサルモスちゃんやロアルドロスくんとは比較にならない程に、酷い有様で。
先ず、胴体が原型を留めていなかった。腹部を境目に胸部と腰部が千切れ、四肢と尻尾も1つ残らずもぎ取られている。雑巾を絞るように、身体の前後で逆回転に捩じ切られたのだろう。
さらに、全身の甲殻が乱雑に剥ぎ取られており、肉身が赤黒く焼け焦げていた。高圧の電流に晒されたに違いない。
そう言えば、頭は何処に行ったのかと思ったら、丁度古龍の化石が壁に埋まっている辺りに転がっていて、半分も残っていなかった。それでも苦痛と恐怖が滲み出た、凄惨な表情で時が止まっている。
『ゼルちゃん……』
おそらく、
理由は分からない。バサルモスちゃんが殺られたのを見て激昂したのか、
何れにしろ、高が飛竜如きが反撃するなど絶対に許せなかったようで、執拗に甚振り、嬲り殺しにした事だけは分かる。
ならば、何故奴らの姿が無いのかは不明であるが、たぶん化石を見てビビったのだろう。よくよく観察してみると、骨格がそっくりだからな。
――――――いや、理由などどうでもいい。僕にとって重要なのは、今の現実、存在する事実だけ。
そう、ゼルちゃんはもう、この世には居ないのである。
……そして、
『……ゥゥゥヴェアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアォォォアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!』
僕は叫んだ。
◆溶岩洞
カムラの里周辺にあるフィールドの1つ。熱気漂う火山岩の堆積した洞窟と、湿潤な水場が同居した不思議な場所で、生息するモンスターも火口付近に棲む種類と流水域に潜む種族が混在している。
ただし、水気が多過ぎるせいか、ウロコトルなど一部の小型モンスターは成体には至らず、そのまま繁殖している。おそらくネオテニーを発現しているのだと思われる。
ちなみに、とあるエリアに玉化したナルハタタヒメの骨格化石が壁に埋まっており、溶岩洞の特異な地質もこれが原因だと考えられる。もしくは手記帳に示唆されている“脈動するナニカ”のせいかもしれない。