怪物のバラード   作:ディヴァ子

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愛さえあれば許されるとでも思った?


最終話:怪物のバラード

 カムラの里、ギルド集会所。

 

「たった今、偵察のウツシから報告が入った。……遂にイブシマキヒコとナルハタタヒメの繁殖が間近となったらしい」

『「子々孫々、大地へあまねく」。共感したヒノエとミノトの言葉を信じるなら、このままだと新たな風神龍と雷神龍が生まれ、この地は蹂躙されるだろうね』

「もはや猶予は無い! カムラの里……いや、全ての人々の為、奴らとの決着はここで付ける! 気焔万丈! 我らを照らす猛き焔よ! 今こそ災禍を討ち果たすのだ!」

「「………………」」

 

 里中の皆が集まる中、何時になく迫力のある里長と、何時もの「ゲコ」を付け忘れたゴコク様から直々に、風神龍と雷神龍の討伐を依頼された。

 ――――――やぁ、私だ。只今、ハンター人生最大の佳境に差し掛かっているメラルだ。這う這うの体で帰って来たと思ったら、これである。ハンターに休息など無いのだ……。

 まぁ、辿り着いてから三人共しばらく寝込んでたんだけどね。それでも妊娠から出産までの時間が早過ぎるとは思うけど。

 ともかく、里長とゴコク様曰く、あの古龍夫婦が産卵間近であるらしい。それを見兼ねたハンターギルドの本部も討伐隊を派遣したそうだが壊滅の憂き目に遭い、報告したウツシ教官も瀕死の重体なんだとか。恐ろし過ぎる。

 そんな化け物共に、私たち2人で挑まねばならないのである。

 ……えっ、何の冗談?

 

『彼らの活性化に伴い、各地のモンスターたちが一斉に百竜夜行を起こし、今にも里へ雪崩れ込もうとしています。その数は、今までの比ではありません』

『ざっと見ても数千規模……「八百万(やおよろず)禍群(かむら)」とでも申しましょうか。我らはそれらへ対処致します』

『この戦い、かの古龍たちを討ち果たさねば、終わりは見えません』

『本部も増援を派遣し、共に戦ってくれるとの事です。……これは古龍と人類の生存競争。皆で力を合わせ、必ずや生き延びてやりましょう!』

「「「オオーッ!」」」

 

 ああ、なるほど、そういう事ね。ありがとうございます、ヒノエさん、ミノトさん、里の皆。完全に逃げ道が塞がれましたよ。

 これじゃあ、アイツと私でやるしかないじゃあないか!

 

「……怖いのか?」

 

 集会所が大いに燃え上がっている中で、アイツが静かに語り掛けて来る。

 

「当然だろ」

 

 あれらは生物じゃない。全てに死を齎す禍ツ神だ。とても生物の敵う相手では無いだろう。

 

「でも、やるしかない……」

 

 そう、やるしかない。こちらがどんなに泣こうが喚こうが、奴らが聞き入れる筈もない。

 

 ――――――蟻の言葉が、人間には分からないように。

 

 だから、殺られる前に殺る。たった1つのシンプルな答えである。

 

「……そうか」

 

 アイツはそれ以上、何も言わなかった。言葉など不要という事だろう。私たちは黙って装備を整え、皆とは別口の黄泉へと渡る船に乗り込み、龍宮砦跡へ赴いた。

 

 今、百竜夜行の佰話目が紡がれる……。

 

 ◆◆◆◆◆◆

 

 淵源……今こそ逢着せん……。

 

 対よ……対よ……大地を喰らう轟雷よ……。

 対よ……対よ……叢雲を薙ぐ烈風よ……。

 

 稲妻……狂飆……ほろに穿つ……。

 我ら楽土が……かぞいろは……。

 

 いざ眷属で以て……天地を治めん……!

 

 ◆◆◆◆◆◆

 

 龍宮砦跡。かつての英雄たちの夢の跡地。豪奢ながらも無骨な大砦と無数の珊瑚が組み合わさり、摩訶不思議な決戦の場と化した、海底より浮上した黄泉の比良坂。

 そんな死地に、俺たちは辿り着いた。

 やぁやぁ、俺だよ。メラルの相方、「   」だ。

 

『クルルル……』

 

 さて、見る限りはイブシマキヒコしか居ないようだが、きっと何処かにナルハタタヒメが居て、産気付いているのだろう。彼はその護衛役と言った所か。

 しかし、容赦はしない。お前らは明らかにやり過ぎた。あれだけ殺し回ったんだから、殺される覚悟も持ってもらわないとな。

 

「行こう!」「ああ!」

『容赦なしだみゃ!』『ぶっ殺してやるにゃ!』

『ウォンウォーン!』『ワンワンモノガタリ!』

 

 さぁ、始めよう。生か死か。この戦いで、全てが決まる。

 

『クァォオオオオン!』

 

 風神龍イブシマキヒコが吠える。ここから先には行かせない、と。

 だが、俺たちは無視して戦いを挑む。翔蟲で宙を舞い、イブシマキヒコの頭部を集中的に攻撃する。お前の弱点は、その角だ。そこを破壊してしまえば、古龍は己の力をコントロールし切れず、多大な隙を晒す事になる。

 しかし、それはイブシマキヒコも理解しているのか、龍属性の烈風弾や体勢の上下を入れ替える事で致命的な追撃を躱し、逆に殲滅してやらんとばかりに肉弾戦を仕掛けて来る。特に尻尾の叩き付けが強力である。大社跡では、その一撃でロンディーネさん共々キャンプ送りにしたらしいからな。

 ただ、攻撃が強力過ぎて余計な足場を浮かべてしまうのも相変わらずのようで、少しずつ少しずつ、イブシマキヒコの体力が削られていく。

 

「メラル!」「ほ~れ、粉塵粉塵!」

『回復のシャボン玉だみゃ~♪』『この素晴らしき笛の音を聞くにゃ~♪』

『『キャイィ~ンズ!』』

 

 もちろん、消耗を強いられているのはこちらも同様なので、ナベリウスに跨りながら砥石を使いつつ、メラルやナベシマたちの力を借りて体力を回復し、更なる激戦に備える。

 俺は片手剣だから、どうしても足元で戦わなければならないし、体力管理はとても大事だ。

 ……被弾率に関しては、何故かメラルの方が高いのだけれど。別段ガンガン前に出ている訳でもないのに、何でだろうね。もしかして、古龍たちも(・・・・・)察している(・・・・・)のだろうか?

 ま、今回は「陽動珠」を付けて来たから、基本的に俺が優先して狙われる筈だし、たぶん大丈夫でしょ。

 

『ガァァヴォオオオルァッ!』

 

 おっと、イブシマキヒコが怒り状態に移行した。今までの甲高い声がドスの利いた荒々しい物に変わり、眼が真紅に輝く。

 

『ガァヴォオオオォオオッ!』

「おわっ!?」「うひゃーっ!?」

 

 怒り狂ったイブシマキヒコが、両腕の風袋から、眼に見える程に濃密かつ切れ味抜群のカマイタチを放って来た。風を斬撃として飛ばすなよ。

 

『クォオオオ……!』

 

 さらに、俺たちが対処に追われている内に地面を捲り上げ、浮かべた大岩を次々と撃ち出して来る。流石は古龍。人知を超えた戦いを仕掛けて来る。

 

「メラル、あれを使え!」「分かってる!」

 

 とは言え、ここは過去の大砦。そこかしこに武器が埋まっている。

 むろん、イブシマキヒコが巻き上げた大岩や地盤にも、大砲や速射砲がくっ付いている。それを使えば、こちらも反撃が可能である。

 つーか、ぶっちゃけ大砲をガンガンぶち込む方がダメージを与えられるしね。

 

「オラオラオラァッ!」

 

 愉しそうですね、メラルさんや。

 

『……ギュァアアアアアッ!?』

 

 ――――――俺が囮になり、メラルが大砲をぶち込むというルーチンを繰り返していると、遂にイブシマキヒコへ致命傷を負わせる事が出来た。何だか思ったよりも、何なら百竜夜行の時よりもあっさり勝てたな。前回の傷が癒えてなかったのか、はたまた交尾で体力を消耗していたのか。

 ……仮に後者なのだとしたら、そのまま爆発しろ。死に晒せ。

 

『ギャァァァ……!』

 

 と、苦しみ悶えた挙句に墜落したイブシマキヒコが、地面に呑み込まれる。下は空洞だったのか。

 

「追うか」「そうだな」

 

 そういう事になった。

 

 ◆◆◆◆◆◆

 

「皆の者! いよいよ最後の戦いだ! この生存競争を制し、里の安寧を取り戻すぞ!」

 

 里長フゲン殿の激励に、里の住民が沸き立つ。

 やぁ、私だ。ロンディーネだ。

 此度は里の存亡を懸けた、史上最大の作戦に参加する事となった。その場の流れで。

 まぁ、言われずとも参戦していたし、この温かな人々が蹂躙される様を見るつもりも無い。今ではここを第二の故郷と思っているのだから。

 

「頑張ろうね、ロンディーネさん!」「僕たちの手で、里を守りましょう!」

「うむ、最善を尽くすと約束しよう!」

 

 ……本当に、善い人ばかりだな、ここは。

 そして、私たちは各々の配置に付いたのだが、

 

「「「いや、多過ぎィ!」」」

 

 受付嬢たちの言った通り、群れの規模がとんでもなかった。

 

「うひぃー、アンジャナフがウザいよー!」「何でバゼルギウスが居るんだぁ!」

 

 さらに、群れを構成するモンスターの質が前回とは比べ物にならないくらいに向上しており、ヨモギ殿やイオリ殿程ではないが、私も文句を言いたくなった。生物が爆撃なんかするんじゃないよ。

 

『ギャヴォオオッ!』『コォルァッ!』

 

 すると、更なる追加として、激昂したラージャンと氷砕竜ボルボロス亜種が現れた。真面目に勘弁して欲しい。早く百竜夜行を制して、メラルたちへ助太刀に行かねばならないと言うのに……!

 だがしかし、ラージャンとボルボロス亜種は私たちには目もくれず、モンスターばかりへ攻撃を仕掛けている。バッタバッタと薙ぎ倒し、逃げるモンスターは無視して。

 まるで、道を切り開いている(・・・・・・・・・)かのような……?

 

「「「………………!」」」

 

 そして、私たちは恐ろしい物を目撃する……。

 

 ◆◆◆◆◆◆

 

「まるであの世だな……」「黄泉の国だね」

 

 降りた先には死の世界が広がっていた。かつては避難する為の塹壕だったのだろうが、珊瑚やフジツボ、海綿などが付着した今は、おどろおどろしい淵源の世界と成り果てている。

 もちろん、そこにはナルハタタヒメも居たのだが、

 

『……ガヴッ!』『カァ……ッ!』

 

「「なっ……!?」」

『嘘だみゃ……』『く、食いやがったにゃ……』

『クゥゥン……』『ワィィン……』

 

 何と、弱ったイブシマキヒコにナルハタタヒメが食らい付き、その養分を根こそぎ奪い取ってしまったのだ。イブシマキヒコは覚悟が決まっていたようだし、ナルハタタヒメも最後まで悩んでいたようなので、苦渋の決断とも取れるが……。

 

『ガァァヴィイイイイァアアアアアッ!』

 

 さらに、吸収した風の力によって全身が極彩色に輝き、ナルハタタヒメは新たな形態へと変貌した。種の繁栄の為、それを害する外敵を徹底的に排除する為の、風雷が合一された完全生命体の誕生である。

 

◆『分類及び個体名称:百竜(ひゃくりゅう)淵源(えんげん)ナルハタタヒメ』

◆『弱点:風雷合一袋』

 

 

 ――――――キィイイイイイイイン!

 

 

「うおっ!?」

 

 俺のすぐ脇を、ナルハタタヒメのビームが薙いだ。ブレスではない。極限まで高まったエネルギーが濃縮された、完全なる粒子ビームである。

 

『も、木材が融けてる(・・・・)みゃ……』

 

 しかも、ただの高出力熱光線という訳でもなく、掠った瓦礫がドロドロに融解している。鉄ならまだしも、木材がゲル状に融けるなど、尋常ではない。

 おそらく、分子結合そのものが破壊されているのだろう。あんな物を喰らったら、一溜りも無い。

 

「散開! 散開しろ!」

 

 明確な死の気配を感じた俺は、全員に散開を指示したが――――――遅かった。

 

『ガァヴゥッ!』

「ぐはっ……!」

 

 俺の陽動スキルを完璧に無視して、ナルハタタヒメがメラルへ襲い掛かる。拳に雷を宿して叩き付け、更に龍属性の風で巻き上げて、口から轟雷弾を撃ち出した。この間、僅か数秒。明らかに動きが早くなっている。

 翔蟲を使う暇もない連撃により、メラルは瞬時に戦闘不能となった。

 だが、ナルハタタヒメは容赦なく粒子ビームを放つ。防ぐ手立てはない。幾らメラルの生命力が強くとも、跡形も無く消えてしまえば、どうしようもないだろう。

 

『キャィン……!』

「あ……」

 

 しかし、直撃する前にガルムが彼女を突き飛ばし、代わりに彼の下半身が抉られた。

 

「こっちだ! こっちを見ろ!」

『ガァヴィィイイァアアアッ!』

 

 今の俺に出来る事は、閃光玉で目を晦まし、ナルハタタヒメのヘイトをこちらに向ける事のみ。せめて、別れの時間を……!

 

「ガルム!」『ガルム……』

『クゥ~ン……クゥゥ……』

 

 そして、メラルの腕の中で、キンカに見守られながら、ガルムは息絶えた。どんな重い命も、古龍たちは軽く刈り取る。百竜夜行と同じく。

 

「……私から、奪うなぁあああああっ!」

「……っ、よせメラル!」

 

 と、怒りに支配されたメラルが俺とナルハタタヒメの戦いに割り込んで来た。駄目だ、そのタイミングで入ったら――――――、

 

『ギャヴォオオオオァッ!』

「ぐがぁっ!?」「メラル!」

 

 案の定、メラルはナルハタタヒメの尻尾に叩き付けられた。

 さらに、落雷と烈風を浴びせられ今度こそ完全に気絶する。メラルはもう戦えないと見るべきだろう。

 しかし、もはや助ける余裕は無い。俺も自分の事で精一杯だった。あの粒子ビームを喰らったら、防具なんて関係なく殺されてしまう。

 

『グヴヴヴッ!』

 

 すると、虚空の天蓋から、マガイマガドが現れた。たぶん、溶岩洞の特殊個体だ。傷だらけだけど兜角は無事だし、最初から鬼火纏状態だし、殺る気満々である。

 

『ガァァヴィイイァッ!』『グルルル……!』

 

 だが、流石に限りなく禁忌に近い古龍を相手取るのは無理があったようで、そこそこのダメージは与えられたものの、すぐさま操竜待機状態となる。

 しかし、丁度良い。ここは乗っからせて貰う!

 

「行くぞ!」『グルヴォァアアッ!』

 

 マガイマガドを操竜し、ナルハタタヒメに攻撃を仕掛ける。攻撃を躱しつつ十文字槍と鬼火を叩き込み、臨界状態の鬼火を発射してから宙を舞い、最大級の大技を食らわせた。

 

『ガァァヴィイイァアアアヴォッ!』

 

 だが、ナルハタタヒメは倒れなかった。

 むしろ、更なる怒りに燃えて、稲妻と狂飆を撒き散らして来る。ガードが一切許されない、避けるだけで精一杯の怒涛かつ苛烈な攻めだ。

 ちなみに、マガイマガドは帰りました。これ以上やる事は無いと判断したのだろう。最後に「ニヤ」と嗤った気もするが、その意図は不明である。

 ……もうちょっとだけ手伝ってくれても良いじゃん!

 

『クルァアアアアアッ!』

「よ、よせ、止めろぉ!」

『うにゃー!?』

 

 と、またしても陽動スキルを無視して、未だ気絶から目覚めないメラルと、彼女を必死に物陰に運ぼうと引き摺るキンカ目掛けて、ナルハタタヒメが拳を振り下ろす。

 駄目だ、もう間に合わない……!

 

 ――――――その時だった。

 

『グヴェァアアアアッ!』『ギャヴォオオッ!?』

 

 拳が到達する前に、地面から何かがナルハタタヒメを突き上げ、吹き飛ばした。

 

「ヴェノブロス、か……?」

 

 それは全身が赤黒く染まり、至る所から毒々しい煙を吹き出す、悍ましい姿となったヴェノブロスだった。

 否、もはやヴェノブロスとは呼べない。怒りと憎しみに支配されたその有様は、まさしく破壊の権化。地獄の体現者であった。

 

◆『分類及び個体名称:啼鏖魔焔(だいおうまえん)ジェノブロス』

◆『弱点:ゼルエル(番となる雌個体)』

 

『ガァァヴィイイァアアアアッ!』

『グヴェァアアアアアアアォッ!』

 

 そして、黄泉の支配者と地獄の体現者の戦いが始まった……。




◆百竜ノ淵源ナルハタタヒメ

 雷神龍ナルハタタヒメが瀕死のイブシマキヒコを取り込む事で変貌した、特殊な形態。
 雌雄が分化する際に退化した風袋と鰓が復元し、雷と風の力を同時に操る事が可能となり、種の繁栄を脅かす外敵を全力で排除する。
 途中で舞い込むマガイマガドの操竜大技後には英雄の証が流れるのだが、その頃にはナルハタタヒメも完全にブチ切れているので、攻撃が殊更に激しくなり、多くのハンターたちが死して英雄となる破目になった。まさに処刑用BGMである。
 この能力が生来備わっている物なのか、危急に際しての特別な物なのかは、作中では語られていない……。
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