戦いは終わる。怒りに燃える黄泉の支配者と復讐に滾る地獄の体現者。最後に立っているのはどちらなのか。
我々は忘れない。本当の君の姿を。
いざ、FINALステージへ!
《怪物のバラード》
「海が見たい」
『「絆」:これが勝利の鍵だ!』
「お爺ちゃん、まさか私も……?」
「もちろんだ。孫なら、少しは役に立て」
「………………」
「皆、石になっていく……無理だよ、こんなの勝てっこない……!」
「嫌だ……私、まだ死にたくな――――――」
『奪ってやる……! 今度は私が……私だけが……ッ!』
◆◆◆◆◆◆
「はっ……!?」
私――――――メラルは目を覚ました。
何だ、今の夢は。そもそも、一体何がどうなった?
『グヴェアアアアヴォオオオッ!』
「ローン……?」
そして、目の前に居る、ヴェノブロスことローン。
しかし、その姿には違和感しかない。あの剽軽で間抜けな彼は、もう何処にも居なかった。目の前に、ちゃんと立っているのに。
もう何も見えていない。眼前の古龍を殺さんと、唸り声を上げるだけだ。
『ご主人、ローンが……』
「……分かってる」
もういい、言わなくとも、見れば分かる。
……ローン。お前は、復讐鬼になってしまったんだな。
『ガァァヴィイイァアアアッ!』
と、不届きな闖入者に、ナルハタタヒメが鉄槌を下す。ヌシオウガのような雷爪撃を二回も放ち、両手を合わせて横倒しの竜巻を食らわせ、最後に尻尾の先端から粒子ビームを撃つ。回避も防御も不可能な致命傷の嵐がローンを襲う。
『ガァァギィイイグヴウウン!』
『グヴァッ!?』
だが、ローンは倒れなかった。焼かれた筈の甲殻や穿たれた腹の風穴が逆再生の如く復元され、分子結合ごと袈裟に斬られた胸は開いた傍から塞がれていく。古龍も二重顎をあんぐりと開けてしまう程の異常な再生力である。
おそらく、体内のキノコ胞子が彼の怒りに反応して活性化し、この異常な再生力に貢献しているのだろう。あいつ、毎日のように食ってたからな、嫁の飯。
だけど、きっと今はもう、彼女は――――――、
『ギィグヴァアアヴォオオオヴヴヴヴッ!』
ナルハタタヒメが驚き硬直している隙に態勢を立て直し、攻撃を仕掛けるローン。
ビシュテンゴの如く尻尾で立ち上がったかと思うと、リオレウスのような足蹴り、リオレイアを思わせるサマーソルトを放ち、マガイマガド顔負けの爆炎を身に纏い、ボルボロスを彷彿とさせる頭突きを怒涛の三連打で食らわせ、角を突き刺したままロアルドロスばりのデスロールを敢行。
さらに、ラージャン並みの凄まじいブレスを傷口に浴びせ掛け、バゼルギウスの鱗よりも熱い爆破属性のパンチを、ライゼクスも仰天する程に乱暴なデンプシーロールで叩き込む。
『ブゲァアアアアッ!?』
黒いヘドロのような血を吹き出すナルハタタヒメ。重要な内臓器官が完全に破壊された証拠だ。どう見ても致命傷である。
『グヴェァヴォオオオオオッ!』
『……ガァアアギィイヴァッ!』
『グヴヴヴ……!』
しかし、そこは超大型の古龍。更なる追撃を受ける前に地面へ両手を叩き付け、埋まっていた撃龍槍の数々を磁力にて召喚、壁とした。
『グギャヴォオオオオッ!』
そして、今度は切っ先の全てをローンに向けたかと思うと、その背後で∞を描くように轟雷弾を生み出し、爆ぜる勢いを利用して、撃龍槍を超電磁加速で発射した。
『ゴギャアアアアアアッ!』
さらに、串刺しにしたローンへ、ムフェト・ジーヴァの「王の雫」とよく似たエネルギーの塊を、唾の如く直接吐き掛ける。
――――――ォォオン!
視界の全てが、紫電の波動で埋め尽くされる。私たちのようなハンターではなく、自分と同じ超大型古龍、もしくはそれさえ超越した禁忌の魔物たちを殲滅する為に編み出された、究極の一撃だ。
むろん、本来なら安全圏から地表に向けて放つ攻撃を、こんな至近距離でぶつければ自分自身にもダメージが入る。それも少なくない、致命的な物を。
そんな自爆技に近い攻撃を踏み切らせたローンの事を、ある意味で“強敵”として認めたのだろうが……。
――――――ゴヴォオオオオオッ!
『ガァアアヴィィイイァッ!?』
『ゴヴァアアアアヴォオオ!』
だが、ローンは死なない。両脚は丸ごと吹き飛び、飛膜も残らず消滅し、全身が溶岩のように焼け爛れた、ヴァルハザクなんか比べ物にならない程に悍ましい姿になろうとも。身体が内側から融解する事さえ厭わずに、全属性が乗ったブレスを浴びせ掛ける。
脚が無く両腕で這いずるその有様が、亡者となって蘇ったイブシマキヒコにも見えるのは、何の皮肉だろうか。
『ヒッ……』
そんなローンの姿に、ナルハタタヒメが震え上がる。
そう、数々の攻撃に晒されながらも、煩わしいとしか思っていなかった彼女が、今日この時、初めて恐怖という物を感じているのである。
――――――何故、どうしてそこまで出来る!?
そう言いた気だな。
……馬鹿かお前は。こいつは獲物を求めて彷徨う餓竜じゃないんだぞ。
ローンには
そいつは、お前が死ぬまで殺すのを止めないぞ。
――――――ゴバァアアアアアアッ!
『ギャアアアッ!』
二発目のブレスが、ナルハタタヒメの右腕を吹き飛ばす。それでもローンは止まらない。止まる理由が無い。
――――――ドワォオオオオォォン!
『ガァァヴィイィイァアアアアアッ!』
さらに、三発目のブレスが腹の袋をズタズタに引き裂いた時、ナルハタタヒメの恐怖は頂点に達したのか、一目散に逃げだした。
《狂飆っ! 狂飆ぉおおおおおおっ!》
居もしない夫に助けを求めて藻掻く様は実に滑稽だが、まぁ無理もない。怖いもんな、今のローンは。
しかし、今更泣き喚いて赦しを求め、見逃して貰おうなど……そんな美味しい話があると思うのか、お前のような古龍に。
「逃がすな! 撃ち落とせぇ!」
「「「「気焔万丈ぉっ!」」」」
ほらね。ナルハタタヒメの心からの悲鳴が言葉になった時点で、確信していたよ。皆が百竜夜行を退け、ここへ駆け付けてくれたってな。
『ウギャォッ!』『コォルァッ!』『グヴォオオン!』
更には、激昂したラージャン、ボルボロス亜種、一度は逃げた筈のマガイマガドまでが現れ、闘気硬化した拳を、氷を纏った頭突きを、鬼火が燃え上がる十文字槍を、一斉に叩き込む。
『グガァアアアアッ!』
これにはナルハタタヒメも耐え切れず、黄泉の淵へ逆戻りする。
だが、まだ終わりじゃないぞ。そんな考えは甘い甘い。何故ならば、
「……どうだ、命を刈り取る形をしているだろう?」
とっておきの駄目押しという奴をしてやるからだッ!
どうだ、怖いだろう?
何せ今の私は、盾をサーフボード代わりにローンの最後のブレスに乗っかり、剣を吹き出し口に突き刺した狩猟笛を構えてるんだからな。ナルハタタヒメには、破滅の光をバックにした、大鎌を携えた死神に見えているに違いない。ローンと私、ついでにアイツからの贈り物だ。是非とも受け取ってくれ。
……さぁ、覚悟の用意は出来ているか? 私は出来ている!
「死ね! いや、私が殺してやる!
『ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!』
そして――――――、
◆◆◆◆◆◆
そして、俺は見た。
メラルの一撃がナルハタタヒメの胸殻を完全に撃ち砕き、ヴェノブロス……いや、ジェノブロスの最期のブレスが心臓を穿つのを。
当然、守りを失ったナルハタタヒメは胸を中心にバラバラとなり――――――ローンも、メラルも、何もかもが息絶えた。消え逝く命が金色の粒子となって、黄泉の淵源を鮮やかに彩る。
――――――ボタッ!
と、数瞬遅れて、俺の足元に何か落ちて来た。
「メラル……」
それは、僅かばかり残った、メラルの左手だった。
『ご主人……』『うにゃう……』『クゥン……』
「………………」
災禍こそ討ち払われたが、喜ぶ気にはなれない。ジェノブロス同様、俺もまた、大切な人を失ってしまったのだから……。
と、その時。
「……ぅうっ!?」
信じられない物を見た。洞窟内に漂う金の粒子がメラルの左手に集まったかと思うと、新たな肉体を形成したのである。流石に衣類や装備までは再現出来ないらしく、一糸纏わぬあられもない姿だったが。
「どうなったんだ?」
「覚えてないのか?」
「ああ……ローンが戦ってくれたのは、何となく分かるんだが……」
ついでに、頭が丸ごと吹っ飛んだ影響なのか、直前の記憶まで失っているようだ。
「――――――見事な戦いぶりだったぞ、メラル。ほら、これを貸そう」
そんな彼女に、颯爽と降りて来たロンディーネさんが上着を貸してあげた。
……本当は俺がやりたかったのに。
「……どうも」
と、一先ず大事な所は隠せたメラルが、ナルハタタヒメではなく、ジェノブロスから素材を剥ぎ取り始めた。皆のおかげとは言え、止めはお前が刺したのに。
「要らないのか?」
「そんな物は要らん。英雄の証ならアンタにくれてやる。私は、ローンを返して貰うだけで良い」
そう言って、メラルは唯一無事に残っていた、冥笛エンフォーラルを手に取った。
《海が見たい》
誰かの声が、聞こえた気がした。
「そうか……」
もはや、何も言うまい。それはメラルとローンの問題なのだから……。
◆◆◆◆◆◆
――――――それから暫く後、カムラの里、交易船の前にて。
「それじゃあ、行って来る」
「ああ。……メラルを頼みますよ、ロンディーネさん」
「もちろんだ」
アイツとオトモたちの見送りを背に、私はロンディーネさんの操る船に乗り込んだ。
やぁ、私だ。ちゃんと服を着ているメラルだ。ガルムの毛皮を編んで作った物だから、似合わないとか言ったら殺す。
さてこの度、私はロンディーネさんと一緒に世界を旅する事になった。王国とやらにはアイツが行くので、余った私は交易船の用心棒として雇われる事になったのである。ローン、まだ残ってるしね。
前々から広い世界を旅してみたいと思っていたし、何より相棒がロンディーネさんなんて、最高過ぎるじゃあないか。
ちなみに、里のハンターが誰も居なくなるんじゃないかと思って里長に確認を取ったのだが、心配ご無用と言われ、新たな猛き焔を紹介された。
先ずは上位ハンターのアヤメさん。
新しい武器を手に入れる筈が、何故かヨツワミドウを乗り熟すライダーに転職している。本当に何で?
次におにぎり屋のセイハク。
彼もまた、どういう訳か特殊個体のプケプケと仲良くなっている。まだまだ垢抜けていないが、こっそりウツシ教官に鍛えて貰っていたようで、ご立派な太刀を背負っている。これならコミツちゃんにも告白出来るね。
最後に里の外から来たという、異形の装備に身を包んだ女ハンター。
様々なモンスターをごっちゃにしたような、もはや怪人と言っても差し支えない防具のせいで素顔は分からないが、バイザー越しに見える目は凛々しくも優しそう。噂では遺群嶺にて英雄と共にバルファルクを討ち倒したんだとか。こいつも化け物じゃん……。
そんなこんなで、里は安寧だから、気兼ねなく行って来いと背中をドワォと叩かれ、今に至る。滅茶苦茶痛かったですよ、里長。何時か復讐してやるからな。
「あ、すいません。ちょっと寄って欲しい所があるんですが」
おっと、忘れる所だった。旅立つなら、きちんと報告に行かないと。
――――――という事で、私は最後の寄り道として、溶岩洞に向かった。
「……少しはマシになったな」
あれから数ヵ月。溶岩洞の生態系も、少しずつ回復している。
古龍の災禍を生き延びたであろう、年若いリオ種やヤツカダキが上位を占め、水場の方では新たなロアルドロスを中心としたハーレムを形成している。
運が悪いとイージャンなラージャンや、焔の如く強くなり過ぎたマガイマガドと出くわす可能性もあるが、今日は見掛けなかった。何処かで呑気に惰眠を貪ってるのかもしれない。
さらに、ここには新種のモンスターが根付いている。
「よう」『ぐぇ~ん♪』
そう、ローンたちが残した、ヴェノブロスたちだ。蟲くらいしか入れないような小さな穴倉の中で、今やすっかり大人になったブンブジナが卵を保護し、温めていたのである。
結果、ヴェノブロスは新たな種族として確立し、溶岩洞だけでなく、砂原や大社跡にも分散して、それぞれが人生(竜生?)を謳歌している。
そして、目の前に居るこいつは、その中でもやたらと私に懐いた個体だ。
「そう言えば、お前に名前を付けて無かったな」
『ぐぅ~ん?』
「……今日からお前は「リース」だ」
『ぐきゅ~ん♪』
よろしくな、リース。これまでも、これからも。お前は私のオトモとして、一緒に世界を回るんだ。
「……借りていくぞ、ローン」
何時か必ず、ここへ返しに来るからさ。
「さぁ、行こうッ! 新大陸へ!」
『了解だにゃ~♪』『ぐぇ~ん♪』
そう、
――――――私たちの冒険は、これからだ!
◆ヴェノブロス
双角竜ディアブロスから派生した新種の飛竜。別名は「焔角竜」。
基本的な姿は派生基に準ずるが、体内にプケプケの物とよく似たキノコを蓄積する袋が存在し、自らの体液と混ぜ合わせる事でブレスに転用して攻撃したり、鎮静物質を生成して自他を無力化する事が出来る。このような能力を持つ為か、双角竜と違って非常に大人しく、夫婦間の絆もリオ種以上の強さを持つ。大好物はやっぱりサボテンだが、キノコも割と好きだったりする。
だが、普段が大人しい分、一度怒ると完全に手が付けられなくなり、活性化した菌糸による無限再生能力と全属性のブレスで、あらゆる敵を粉砕・玉砕・大爆砕する。
また、怒りが限界を超えてしまった個体はジェノブロスと呼ばれる完全破壊生物に変貌し、超巨大古龍すらも滅殺してしまう。
ちなみに、ローンが最後に食らった技は、風雷合一したナルハタタヒメが禁忌種の古龍を駆逐する為に編み出した技であり、合計で5万ものダメージを与える文字通りの即死技なのだが、彼の怒りの焔を消し去る事は出来なかった……。