『グギャヴォオオオオッ!』
角を突き出しながら、怒りのままに向かって来る黒いディアブロス。目が完全にイッちゃっており、眼球どころか全身至る所に付いた傷までもが血走っている。その姿は悍ましくも痛々しい。
話し合いの余地は、無さそうだなぁ……。
『グヴェアアアアアアッ!』『ボルギャヴォッ!』
仕方がないので、僕らは隠れるのを止めて飛び出した。どっちも及び腰だけど、ビビるのも無理ないでしょ、これは。どう見ても正気じゃないもん、あのディアブロス。
しかし、キ○ガイとは言え、同族は何度も煙に巻いて来た。対策はバッチグーだ。先ずはこっそり広げていた落とし穴に嵌って貰おうか!
『グヴヴヴッ!』
――――――そないなバッカーノ!?
こいつ罠を飛び超えて来やがった! 散開、散開ィイイイイッ!
――――――ズワォオオオオオッ!
『グヴェアッ!?』『ボルガァッ!?』
さらに、着地と同時に水蒸気爆発を引き起こした。散っていなければ、僕らは汚い花火になっていたかもしれない。
いやいや、そんなの有りか。どうなっちゃってんのよ、君の身体は!?
うぬぬぬ、罠を見破られたとなると、対抗手段は限られてくる。とは言え、真っ向勝負はしたくない。だって痛いもん。
『グルルルル……!』
おっ、何だか知らんけど、黒いディアブロスの動きが止まってる。
しかも、さっきまでの威勢はどうしたのか、少しよたついているようにも見える。
……ははぁん、なるほどね。あいつ、傷口からわざと体液を漏らして、自身の熱と衝撃で爆発させたんだな。そんな自爆技を使えば、どうなるかくらい分かるだろうに。
いや、原理を理解しても、それを止める理性が無くなっているのかもしれない。正気を失っているからね。
そうと分かれば!
『グヴェァオン!』『ボルルルルルッ!』
僕はボルボロスくんに泥を撒くようジェスチャーで指示しつつ、彼の集めた物品の中から、目当ての物を口の中へ収める。
『グルァッ!』
『グギェヴァォッ!?』
そして、ようやく“脱水症状”から立ち直った黒いディアブロス目掛けて、それをぶっ放した。光蟲と泥玉ころがしに毒テングタケを唾液で一纏めにしたそれは、黒いディアブロスの動きを大幅に鈍らせ、追い掛ける体力を奪った。ついでにボルボロスくんの泥塊もあるので、真面に歩けやしまい。
――――――という事で、サラダバァーッ!
こうして、僕らは謎のヤバいディアブロスの魔の手から、命からがら逃げ果せたのだった。
◆◆◆◆◆◆
対は何処……対は何処……?
我は狂飆……並べて薙ぎ……楽土が辻の淵と成らん……!
◆◆◆◆◆◆
百竜たちの不気味な集団移動と、怖過ぎる暗黒のディアブロスとの邂逅より暫く。
『グェェェ……』
僕は飢えて死に掛けていた。
だって、本当はあそこで休憩するつもりだったんだもん。サボテンも無いし。結局、お腹が膨れたのはボルボロスくんだけである。
嗚呼、サボテン……サボテンは何処?
我はディアブロス……涙目で歩き……砂漠のど真ん中で干物と成らん……。誰か助けて。
「いやぁ、一時はどうなるかと思ったな」『死ぬかと思ったにゃー』『ガウガウ』
――――――うん?
「それもこれも翔蟲と、このサボテン様々だな」
『モンスターがいっぱい死んでたのを見た時はビックリしたけど、水と食料に困らなかったのは、正直助かったにゃー』
『バウワウ!』
あ、あれは……!
『グェヴァアアアアアアアアアアアアアッ!』
「何だぁ!?」『何事にゃ!?』『ワンダフル!?』
そのサボテンを寄こせぇえええええええ!
……既に限界が近かった僕は、サボテンの匂いに誘われるがまま、キャンプ中と思しきハンターグループを襲撃した。驚く彼らを角で突き飛ばし、一心不乱にサボテンを食い漁る。突然動き出した僕に驚いて硬直していたボルボロスくんが、今度はドン引きしているが、知った事じゃない。
サボテンうめぇえええええっ!
――――――って、これは流石にヤバい。
休憩中のハンターに奇襲を仕掛けるなど、狩猟の大義名分を与えるような物だ。
「あ、お前!」『あの時のディアブロスにゃ!?』『ガルルルルッ!』
その上、手を出した相手は、あの時のハンター御一行様だった。生きとったんかワレェ!?
何をどうやったら、あの神砂嵐に晒されて生き残れるというのか。ハンターこそが本当のモンスターなのかもしれない。
……いやいやいや、言うてる場合か。
「……クソッ、覚えてろ! 次に会う時こそ、お前の最後だ! 首を洗って、出来ればその笛もきちんと磨いて待ってやがれ!」
『バイバイキンにゃ!』『イヌヌワン!』
だが、向こうも丸腰だからか、今回は捨て台詞を吐いてそそくさと逃げ出した。正直有難いけど、こんな輩と袖振り合うのは嫌なんですけど。
しかし、どうしたもんかなぁ。飢え死にはギリギリで回避出来たけど、残り少ないサボテンはハンターたちが根こそぎ採ったんだろうし、かと言ってあの岩場に引き返すのも気が引ける。またあのヤバいディアブロスや百竜たちに遭うとも限らない。
――――――よし、砂漠を捨てよう!
逆に考えるんだ、捨てちゃっても良いと。サボテン……というか多肉植物さえあれば、豪雪地帯でもなければ暮らしては行けるので、ここはいっそ棲み処を完全に移した方が得策かもしれない。ボルボロスくんもそう考えているのか、僕について来るつもりみたいだし、行っちゃおうか。
『グヴェアアヴォッ!』『ボルフゥウゥゥッ!』
という事で、僕らは砂漠に別れを告げ、新天地を求めて歩き出すのだった。
◆ヌシ・ディアブロス
風神龍イブシマキヒコの婚活に巻き込まれて深手を負い、暴走状態に陥ったディアブロスの特殊個体。鏖魔ディアブロスのような動きを取り、怒りの突進三連打からの水蒸気爆発は軽く3回は死ねる威力を誇る。罠の類も効かず、操竜状態にも出来ないので、下手な古龍よりもよっぽど恐ろしい存在である。
ちなみに、主人公を襲った個体は、彼の父親だったりする。