やーっ! 僕だよ、巻き込まれ系ディアブロスだよ!
さて、さっそくだけど、聞いてみたい事があるんだ。
――――――ディアブロスって、何でこんなに重いの?
一応は飛竜種に分類されているにも関わらず、主な生息域が砂漠の地下だし、飛ぶと言っても短時間の滑空が精々だしで、徹底的に飛行する事に向いていない。同じく飛行が苦手なティガレックスだって、もう少しは頑張れるぞ。
多分あれだね、祖先からして地表棲だったんだろうね。どう考えても襟飾りより翼の方がディスプレイみたいなもんだし。
そのせいかは分からないけど、僕は今、絶賛大ピンチだ。何故かって?
『オボレェエエエエエッ!?』
……ここが「水没林」だからだよ!
鬱蒼としたジャングルと起伏の激しい地形が広がる、水浸しのフィールド。それが水没林。当然ながら、そこら中がぬかるんでおり、水棲系のモンスター以外は足を絡め取られ易い。
そして、飛竜種とは思えないくらいに重く、どう考えても湿地への適応性が低いディアブロスが、足を踏み入れればどうなるか?
答えは簡単、水没である。沈むのは林ではない、僕だッ!
では、何故そんな死地に赴いたのかというと――――――端的に言ってしまえば、迷い込んだのだ。西に何もないからって適当に東へ向かって歩いていたら、何時の間にか森に入り、気付けばジャングルの中だったでござる。何でやねん。
いやさぁ、今の砂原は食料に乏し過ぎるから、せめて水が欲しいと思って進み続けたからって、密林に辿り着くのはおかしくない?
そこで引き返して方向転換すれば良かったんだけど、何か長旅の疲れで意固地になっちゃってさ。「退かぬ、媚びぬ、省みぬ!」ってなっちゃったんだよね。僕は本当に馬鹿だなぁ。
いやいや、それよりも今はどうやってこの状況から抜け出せるかが重要なんだよ!
現状、僕は身体の半分くらいが深い泥濘に嵌まり、翼と頭しか出ていない、所謂“詰み”の状態に陥っている。土壌に踏ん張りがなさ過ぎる上に僕自身が重いから、外部からの手助けが無いと本当にどうしようもない。
さらに、最悪な事に、ボルボロスくんは食事の為に離席している。底なし沼に嵌まっているのに誰の助けも得られないという、完全に孤立した状態なのである。誰か助けて、助けてよぉ!
『キュェエエエエエエン!』
と、猛禽のように鋭く、それでいて何処かくぐもった、独特の鳴き声が響く。
振り向いてみれば、頚にバナナみたいな物を巻き付けた、水棲かつ爬虫類系の大型モンスターが、こちらへ向けて威嚇していた。何こいつ、見た事無いんだけど。見た目からして、水辺を棲み処にするモンスターだってのは分かるけど、それ以外は全然情報が無いぞ。砂漠に赴くハンターがネタ元なんだから当たり前だが。
うーん、これは勘だけど、物凄く水のブレスとか吐いて来そう。首の周りのバナナ、よく見ると気孔だらけで水をよく吸いそうだし。きっとあそこに水を蓄えて、口からそれをぶっ放して来るんだな。そうに違いない。
『ブバァッ!』『ギヴェエエエエッ!?』
だからって、本当に水鉄砲をぶっ放す奴があるかぁ!
こっちは沼に嵌まって動けない哀れな状態なんだから、せめて見逃してくれても良いじゃん。ふざけるなよ、ポン・デ・バナナ!
……それとも君、僕の事を獲物として見てる?
口の形状からして、どう考えても肉食だし、百歩譲っても雑食だろうしね。水草とかハミハミしつつ、お肉とか食べてそう。
クソッ、どうする!?
このままだと、何も出来ないまま水遊びの果てに美味しく頂かれる事に……!
『キチチ?』『キューキュー!』
『………………!』
あ、こいつは……野生の翔蟲じゃないか!
それも2匹。こいつは良い。興味本位で近付いてきたのだから、こちらも存分に利用させて貰うとしよう!
『グヴェイ!』
『キューッ!?』『キャーキャー!』
僕は彼女らを潰してしまわぬよう、そっと角で突っついた。
すると、翔蟲たちは青白い糸のような物を放ちながら離散しようとする。これぞ翔蟲の特技「鉄蟲糸」。文字通り鉄でも切れない意味不明な強度の糸を吐き、巣材を持ち上げたり、敵を拘束して逃げる為の時間稼ぎをしたりするのだ。その拘束力は大型モンスターでさえ抗えず、抜け出すのに何秒も必要とする程。当然、僕や目の前のポン・デ・バナナも例外ではない。
しかし、今回僕が期待している役割は拘束ではなく、手綱である。
そう……
食らえ! 今必殺の、カムラ文化アタック!
『キィヴェェエエエ!?』『グヴェァアアアアアッ!』
翔蟲たちは逃げてしまったが、小突いた先にバナナマンが居たので、結果的に僕と彼とを繋ぐロープとなり、壮絶な引っ張り合いと相成った。
とは言え、実際は逃げようと藻掻くバナナマンと、逃がすまいと引っ張る僕、という構図になっている。どう考えても体格差があり過ぎるし、真っ向勝負にでもなればボコボコにされると分かっているのだろう。腐っても僕、ディアブロスだしね。
しかも、皮肉な話だが、彼は体力だけは有り余っているようなので、逃げようと頑張れば頑張る程、僕を救い出す命綱になってしまっていた。
頑張れ、ポン・デ・バナナ! もっと熱くなれよ! 明らかに熱に弱い見た目してるけど!
『グヴェァヴォオオオオオッ!』
そして、遂にその時は来た!
涙目で暴れるバナナマンの10万馬力が、僕をぬかるみから引っこ抜いたのだ。喜びと嬉しさ、ついでに脱出した時の勢いで、命の恩人である彼をぶっ飛ばしてしまったけど、そこは許して欲しい。だって死ぬかと思ったんだもの。
あと、気のせいかは知らないけど、着弾と同時に黒いディアブロスみたいな爆発が起きたんだけど、大丈夫だよね、僕?
というか、死ぬなスポンジアトム!
恩を爆発で返すとか、寝覚めが悪いにも程があるんだよぉ!
『………………』
あっ、ボルボロスくんだ!
丁度良いから、ハチミツとか薬草を集めて来て!
それとさ……そんな冷めた目で僕を見るなよぉ!
僕は悪くない……だって僕は悪くないんだから!
◆ロアルドロス
海竜目海竜亜綿毛竜下目ロアル科に属する海竜種。別名は「水獣」。
ルドロスたちのα個体で、成長した雄個体の事を差す。彼を中心としたハーレムを形成する、社会性のあるモンスターである。
“綿毛”という分類通りスポンジ状の鬣を持っており、ここに水を溜め込み、保湿や攻撃に利用する。また、ゲリョスと同じく体内に狂走エキスを内包し、非常に高い体力を誇る。その分だけ肉質が柔らかいので、傷を負い易いのが弱点。
亜種も存在していて、そちらは「紫水獣」の異名を持つ。毒を吐き散らして水質を汚染する傍迷惑な亜種である。