やーっ! 僕だよ、迷える砂漠のディアブロスだよ。
『グルルルルルゥッ!』
……いきなりで済まない。僕は今、絶賛腹下し中だ。
そうだよね、よくよく考えれば、ここ暫く真面な食事してなかったのに、生水なんて飲めばこうなるよね。僕って元々乾燥地帯に適応した生物だから、水を直接飲んじゃアカンのよ。単にキノコが当たっただけかもしれんけど。
あーあ、せっかくサボテンを食べられたのに、どうしてこう、体力を回復する暇が無いんだよー。誰か助けて。
『ボルゥッ!』
サボテンじゃないけど、薬草と蜂蜜という分かり易く回復薬な食べ合わせを用意してくれる、ボルボロスくん。もう僕の介護役だねぇ、君ィ。食後の片手間とは思えないくらい集めてくれてるし。
おかげでそこそこ楽になって来た。僕の甲殻、水も吸い易いからロクに動けないし、正直凄く助かる。
『カロロロロ……』
ありがとうね、ロアルドロスくん。でも、水草は腹が下るから止めろ。
ちなみに、今の彼は群れを追われた一匹狼状態らしい。何でもロアルドロスは成長した雄個体で、彼を中心としたルドロス数匹によるハーレムを形成するんだとか。
そして、このロアルドロスくんは別の若い雄個体に負けて、リーダーの座を失ったんだって。群れで生きる種族は大変だね。
だから、彼としては水没林を後にして、何処かで静かに余生を過ごしたいらしい。あんまり長生きしなさそうだもんなぁ、この種族。食物連鎖じゃ精々が中位程度だろうし、同族同士で滅茶苦茶に潰し合いするし。後者に関しては僕らディアブロスも他竜の事を言えないけど。
余談だけど、僕らが今居座っているのは、水没林の一番奥地。周りを崖で囲まれた、丈の短い草木が繁茂する広場である。他の場所は足場が悪いか手狭過ぎるので、休憩するならここしかない。
ああそうだ、長々と水没林を歩いてみて分かったけど、ここの地面って頑丈な岩石が殆ど無くて、一見固そうな足場は複雑に絡まり合った支柱根に泥が纏わり付いた物っぽいんだよね。言うなれば、樹上を歩いてるようなものだ。今居る奥地も左右に岩壁がある以外は、全部木の根や泥の塊である。
本当に、何処まで行っても泥だらけの水浸しなフィールドだなぁ。このままじゃ弱る一方だ。早い所、歩けるくらいには体力を回復して、さっさと立ち去りたいね。風邪引いちゃうよー。
――――――ゴロゴロゴロ……ドザァアアアアアアッ!
『ヴェァッ!?』
嘘でしょ!? このタイミングで雨が降り始めるとか有りィ!? 濡れるッ///!
あーん、泣きっ面に蜂は止めちくれー。
『グルルル……!』
う~ん?
『ヴァォオオオオッ!』
『グヴェァアアアッ!?』
何、何、何、何ィ~ッ!? 何なんだよ、こいつはァ~っ!?
『グルヴォオオァッ!』
突如現れた、山の如く巨大なナニカ。全身に龍属性やられ状態の傷を負い、夜の闇よりも黒く染まっている。逆に腕は肥大化している上に赤く染まっており、その鋭い爪はどんなに大きな鮭も三枚おろしに出来るであろう。
そこだけ書き出すと丸っきり化け物だが、僕はこいつを見た事がある。あくまで同種の別個体だが。
――――――そう、僕の記憶に間違いが無ければ、こいつはアオアシラ。貪食な熊型の牙獣種である。
だが、おかしい。アオアシラはサイズで言えば大型モンスター内でも中くらい程度だし、何より見た目に反して臆病な性格の筈だ。明らかに自分より大きい相手に襲い掛かる事などあり得ない。
それに何だろう、この既視感。まるで砂漠で出遭った、あの黒いディアブロスとよく似た感じの、
『バヴォォオオオッ!』
……って、言うてる場合か!
向こうは最初からフルスロットルでこっちを殺しに来てるんだよ!
よし、ここは地面に潜って、
『アィェエエエエッ!?』
根っこが絡まったぁ! 完全に身動き取れなくなったよ、これぇ!
『グルァッ!』『ギョェエエエッ!』
メッチャ痛いよ、そのシャケクロー! 地味に捲り上げた岩で追撃して来るし!
うぇーん、痛過ぎるよぉ、顔もうろ覚えのお母ちゃーん!
『グヴェァヴォオオオオオオオオオァッ!』『………………!』
しかし、僕のあまりに情けない大絶叫で黒いアオアシラが怯んでくれた。黒い“アオ”アシラとは、これ如何に?
――――――ピィイイイイッ!
『ボルヴォオアアアァッ!』『バヴォォォッ!?』
さらに、ボルボロスくんの頭突きが炸裂。
しかも、何時もは単発の攻撃が何故か今回は三連打で、その上で通常の3倍は速い。一体何が起きたし。両牙の笛の音のせい?
『キュェアアアアアァン!』『ゴバァッ!』
そして、ロアルドロスくんの水鉄砲にて遂にダウン。水やられになった状態で藻掻き苦しみ出した。
この攻撃もまた何時もの水玉をぶつけるような物ではなく、野太い高圧水流というか、横向きの間欠泉のような威力であり、咄嗟にガードしたのであろう黒いアオアシラの両腕を部位破壊していた。
ただ、この異常な身体能力は、所謂“火事場の馬鹿力”のような物だったらしく、ボルボロスくんもロアルドロスくんも追撃する事が出来なくなっていた。
『グゥゥゥ……ゴギャヴォオオオオオッ!』『ブルァッ……!』
と、ここで何でか僕自身にも力が湧いて来た。よく分からん事の連続だが、こいつは良い。さっそく絡み付いた木の根を力尽くで引き千切り、脱出の勢いで黒いアオアシラを宙高く掬い上げる。
『グヴァッ、グルヴォッ!』『バヴヴヴヴッ!?』
さらに、両翼による左右の連打。一発毎に爆発が起きているように見えるけど、気にしている暇はない。一気に畳み掛ける。ここで休んでしまうと、ボルボロスくんたちの二の舞になってしまう。
『ブギャヴォオオアンッ!』『グブヴァアッ!』
次は振り上げた尻尾の叩き付け。黒いアオアシラの頭部が部位破壊された。
だが、このディアブロス、容赦はしない。小手先が通じず、正気を失った相手に尻込みしていたら、こっちが殺される。
死ぬのは、嫌なんじゃぁあああああああいっ!
『グヴェァヴォオオオッ!』『ガハァッ……!』
そして、地面にめり込んだ尻尾を起点に宙を舞い、本体によるヒップドロップを食らわせた。やっぱり爆発が起きて、黒いアオアシラは全身くまなく破壊され虫の息となる。ここまでされてもまだ死なないとは恐れ入るな。
いや、
クソッ、マジで狂ってやがる……付き合ってられるか!
『グヴヴヴッ!』『ボルゥッ!』『ロアァッ!』
これ以上の無理は明らかに命に関わるので、僕たちは黒いアオアシラが動けない内に、這う這うの体で逃げ出すのであった……。
◆◆◆◆◆◆
対よ……対よ……疾く参れ……!
典麗なる稲妻、此処に在り……!
八雲、ほろに踏みあだし……楽土が辻の源とならん!
◆ヌシ・アオアシラ
「青熊獣」とも呼ばれる牙獣種、アオアシラ……の特殊個体。ヌシ・ディアブロスと同じく、風神雷神の傍迷惑な婚活の犠牲者である。
漆黒の巨躯と赤熱化した剛腕から振るわれる“シャケクロー”は数々のハンターを三枚におろし、重大事変の個体に至っては一撃でマグロに変えてしまう破壊力を有する。何処となく「紅兜」という二つ名個体に近い動きをするのが特徴。