魔法少女『鳴海響花』は、自らを人でなしと定義する。   作:個人情報の流出

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 大変お待たせいたしました。エルデンリングにはまった結果、執筆が大幅に遅れてしまいました。次はこのようなことがないようにしたいと思っております。


 ……無事に投稿できたので、私は狭間の地に行って参ります。



「重要なのは、私がいつまでここにいられるのかってことなんですよ」

「……んだよ。お前、おっかない笑い方すんだな」

 

 響花の不気味な笑みに恐怖を感じて、篝は一歩後ずさりをした。響花はしまった、というように目を丸くすると、未だににやける口許を隠すように手で覆った。

 

「……ごめんなさい。気持ち悪い笑い方をしてしまって。私、興味が湧くとどうしてもこの笑い方をしてしまうんです」

 

 すぐに謝罪をするも、にやけた口を隠しきれていない響花を見て、篝は複雑な表情をした。

 

「いや、別に謝るこたねえんだけどさ……で、何? 戦いに出ない理由なんて何度も言ったはずだろ? 何度聞かれても同じだ。オレが戦いに出ない理由は、めんどうだからだ」

 

「それ、嘘じゃないですか?」

 

 間髪入れずに響花が言う。だが、篝は動じなかった。

 

「はぁ? なんの根拠があってんなこと言ってんだ?」

 

 そう言って、響花の言うことを切って捨てた。篝の言う通りである。響花の言うことには根拠がない。だが、響花は自信満々であった。

 

「根拠はありません、これっぽっちも。ですけど……私、勘には自信があるんです」

 

「……はぁぁ? 勘だぁ?」

 

「はい。勘です。予感と言ってもいいですね。戦いに出ない理由を話す時の明日葉さんから、なんとなく、何かを隠しているような感じがしました」

 

「お前さぁ……」

 

 篝は呆れていた。呆れ果てていた。突然何を言い出すかと思えば、勘だなどと。馬鹿にしているのではないかとさえ思った。だが、そうではないらしい。

 

「私の勘はそうそう外れないんですよ。……ですから、教えてください。明日葉さんは、何を隠しているんですか?」

 

 響花の目。輝いていて、かつ貪欲に濁ってもいる。期待に満ちた目だ。篝にはわかった。こいつは本気だ。本気でこんなことを言っている。

 

「……残念だったな。隠してることなんかねぇよ。満足したか?」

 

「いいえ。本当のことを教えてくれるまで、満足は出来ません」

 

「……しつこいな。隠し事はねえよ」

 

「いいえ。あるはずです」

 

「ねえっていってんだろ!」

 

 篝が響花の胸ぐらを掴み、持ち上げる。しかし、自分の体が持ち上がっても、篝の射殺すような視線にさらされても、響花は怯まない。

 

「あるはず、です、隠し事。こんなことまでして、あなたは、何を、隠しているんですか? そんなに、言いたくない、ことなんですか?」

 

 響花が苦しげにそう言った。篝はしばらく無言で響花を睨み付けていたが、しばらくして響花から目をそらすと、響花の胸ぐらから手を離す。急に地面に落とされた響花は、軽く咳き込んだ。

 

「……忘れてたけどさ、お前も魔法少女になれるんだったよな。オレが行かない理由なんて聞く暇があったら戦いに出たらどうだよ」

 

「……残念です。どうしても教えてくれないんですね」

 

「ほんと、しつこいよお前。さっさと行きなよ。部屋は戻ってきたら案内してやるからさ」

 

「……明日葉さん。実は私、もう魔法少女として戦うつもりはなかったんです。孤児院に移るまでの間、ここに住むと言うお話でした」

 

「は、え、そーなの? ……なんだよ、オレそれ聞いてないぞ。……えーと、じゃあ、なんだ。部屋、案内するか?」

 

 篝は正直気まずかった。厄災の出現をだしにして、とりあえずここで一旦別れて、頭を冷やすつもりだったのだ。しかし、響花が戦わないとなれば話は別。篝の仕事は響花を部屋に案内することなので、これを放棄して別れるわけにはいかないのである。

 

「いいえ。私、戦いに行きます。魔法少女として」

 

 しかし、手のひらを返したのは響花であった。

 

「は? いやいやいや、今お前が戦わないって言ったんじゃねえか」

 

「戦うつもりはなかった、と言いました。最初から戦うつもりでここに来たと明日葉さんが勘違いしていたみたいなので、訂正を」

 

「それ、言う必要あったか……? つか、じゃあなんで戦おうとしてんのお前」

 

「私、興味を持ったらそれを確かめないと気がすまないんです」

 

「……なんだよ。さっきの問答、まだ続けるつもりなのか?」

 

 その問いに、響花はきっぱりと首を振った。先程の問答で、篝が本当に隠し事をしていたとしても、今ここで本当のことを聞くことは出来ないとわかったからだ。

 

「いいえ。今何度聞いたところで、明日葉さんは、戦わない理由を教えてはくれないでしょう。だから、一旦諦めます。……ですから重要なのは、私がいつまでここにいられるのかってことなんですよ」

 

「どういうことだよ」

 

「今教えてもらえなくても、最終的に教えてもらえれば問題はないんですけど……私がここにいられるのは、孤児院に移るまで。それまでにあなたから理由が聞けるとは到底思えません。でも、そんなのは絶対に……絶対に嫌なんです。だから、私は戦おうと思いました」

 

「……なるほどな」

 

 そこまで聞いて、篝にも響花が何を言いたいのかが理解できた。響花は篝から何を隠しているかを聞くために、魔法少女寮に居続けたい。魔法少女寮は本来、魔法少女として戦う者のために開かれた場所である。つまり。

 

「ここに居続けるために戦うって言ってるんだな。お前」

 

 魔法少女となれば、身寄りの無い響花はここに居続けることができるのだ。

 

「その通りです」

 

 鳴海響花には、魔法少女として戦いたくない理由がある。だが、それ以上に、彼女は自分の興味を優先させる人間である。だから、自分が魔法少女として戦いたくない理由なんて、今はどうでもいいのだ。ただ目の前の興味を満たすために、必要とあらば魔法少女として戦うだけである。

 

「ふぅん。ま、いいよ。気に入らないけど納得した。行きなよ、作戦室に」

 

「……咎めないんですか? こんな理由で戦いに行くこと」

 

「はぁ? どういうこと?」

 

 響花の言うことに、篝は首をかしげた。

 

「魔法少女って、もっと……正しい存在じゃないですか。人を守るためとか、世界を守るためとか、そういう理由で戦わない私を、咎めないんですか?」

 

「……別に、咎めることなんて無いだろ。人には人の戦う理由があって、戦う本人が納得してんならそれでいい。それに、お前が思うほど綺麗なもんじゃないよ、魔法少女なんて。オレみたいにめんどくさいから戦わないやつもいるくらいだしさ」

 

 篝はそれだけ言うと、壁に寄りかかって腕を組み、行った行ったと響花を追い払うように手を動かす。響花はそれを見て、いつも通りの綺麗な笑顔を返した。

 

「ところで、私作戦室がどこかわからないんですけど。案内してもらえますか?」

 

「お前さぁ! お前さぁぁ!」

 

 篝の絶叫が寮に響く。格好つけて響花を追い払い、頭を冷やす作戦が台無しになった瞬間であった。

 

 

 

 

 

 

「魔法少女アイカ。戦況はどうなっていますか?」

 

 魔法少女関東本部、作戦室。様々な計器で埋め尽くされたこの部屋の中で、オペレーターである筑波葵は、戦場の哀歌に報告を求めていた。

 

『かなりまずいわ。こいつ、さっきまでは落雷攻撃の際に必ず太鼓を叩いていたのに、今はそれをしなくなってる。ノーモーションで飛んでくる落雷を対処しながらの攻撃は、私にはむず……っ! かしい!』

 

 哀歌が対峙しているのは、赤色のモジャ髪に、上半身裸で虎柄のパンツを履き、太鼓を抱えたステレオタイプな雷様のような見た目をした厄災である。攻撃手段として太鼓を叩いて雷を落とす……そう思われていたのだが、それはブラフだったらしい。すでに太鼓を叩かずとも十数発の落雷攻撃をしており、哀歌は防戦一方になっていた。

 

「やっぱり、一人で戦うのは厳しい……千葉からの応援はまだ!?」

 

「もう30分はかかるかと!」

 

「埼玉の他の魔法少女は!?」

 

「ダメです、都合つきません!」

 

「──っ! 綺羅々ちゃんは連絡つかないの!?」

 

「ダメです!」

 

 葵が次々と他のオペレーターに声を飛ばすが、厳しい返事が返ってくる。実は、哀歌一人の出撃となった際、すでに埼玉からの応援を頼んでいた。埼玉からやってきた二人の魔法少女はしかし、厄災の攻撃を喰らって負傷。撤退せざるを得なくなっている。彼女らも最初は善戦していたのだが、攻撃速度の速い落雷を何度も避けつつ戦うのは厳しかったようだ。戦況を聞いていた葵は千葉にも応援を頼んでいたものの、到着は遅い。

 

(まずい……まずいわぁ……厄災の出現間隔が短すぎるし、今日に限って付近の魔法少女も都合がつかない……! せめて、綺羅々ちゃんさえ居てくれたら……!)

 

 それは無い物ねだりだ。そんなことを考えていても、今の状況は打破できない。哀歌は頼りになる強い魔法少女だが、千葉からの応援到着まではもう持たないだろう。埼玉の魔法少女がこれからすぐ都合ついたとしても、到着は千葉より少し早いくらいにしかならない。

 駄目だ。葵がオペレーターとしての仕事をしている限り、哀歌に救援は間に合わない。──だから、葵は覚悟を決めた。

 

「……整備班に通達。至急、護送用バイクを用意してください。サイドカーは外して。バイクだけでいいわ」

 

『筑波さん、何をするつもりですか?』

 

「囮になるのよぉ。千葉からの応援が到着するまでの時間を、私が僅かでも稼ぎます」

 

 無茶だ、と整備班の若者が言った。葵がやろうとしているのは、生身のままでのバイクを使った特攻。誰がどう考えても無茶なプランだ。

 

「でも、もう魔法少女になれない私に出来ることはこれだけしかないの。魔法少女アイカは必要な存在よぉ。ここで死なせるわけにはいかない。私よりも、彼女が生き残る方が未来がある」

 

 葵は元魔法少女だが、今はもう変身することは出来ない。魔力は年齢と共に衰えていき、ほとんどの魔法少女は、20歳を越える頃には変身できるだけの魔力量を維持できなくなる。その中でも葵は特に魔力の衰えが早かった。現在28歳。19で変身できなくなり引退した彼女には、もうほとんど魔力が残っていないのだ。

 だが、それでも葵はやらなければならない。昨日暴れた大厄災『台風』は倒せていない。ここで哀歌を失えば、次にあれが出現した時、倒せるかどうか。倒せたとしてもきっと、関東地方が壊滅してしまうだろう。

 

「私は戦場に行きます。皆、後は任せたわ」

 

 葵がそう告げて、新宿へと向かうべく立ち上がったその時だった。

 

「その必要はねえよ」

 

 明日葉篝が、作戦室に現れた。

 

「えっ……篝ちゃん!?」

 

 篝の登場に、作戦室がざわついた。明日葉篝が最後に戦いに出たのは、5年前。大厄災『地震』討伐戦の時である。  

 5年もの間戦いに出なかった彼女が作戦室に現れたのだから、騒ぎにもなるというものだ。

 

「篝ちゃん、あなた……出られるの?」

 

 葵が困惑した様子で篝に声をかける。しかし、篝は首を横に振った。

 

「いや。オレは出ねぇ。出るのは……こいつだ」

 

 そう言って彼女は後ろに控えていた響花を前に押し出す。響花の姿を確認した葵は、驚きのあまりすっとんきょうな声を出した。

 

「はえぇ!? 響花ちゃん、あなた……だって、さっきもう魔法少女にはならないってぇ……」

 

「はい。先程はそう言いました。でも、今は違います。魔法少女になって、戦う理由ができましたので」

 

 響花はそう言うと、葵の元へつかつかと歩み寄り、何かを求めるように手を出した。

 

「魔石をください。すぐに現場に向かいますから」

 

「あなた……戦うの、怖かったんじゃないの?」

 

 葵が、響花のことを気遣うようにそう言った。だが、響花は、葵の口からなぜそのような言葉が出たのかわからず、ただ首をかしげるだけだ。

 

「どうしてですか?」

 

「キラキラした夢と希望を持っていたり、切羽詰まっていたり……魔法少女になる理由は様々あれど、戦って生き残った子の殆どは魔法少女をやめるわ。戦うのが怖くなって。だから、あなたもそうなんじゃないかと思って……」

 

 攻撃されたときの痛みと、間近にある死の恐怖。魔法少女に憧れて変身した少女たちは、その殆どが生々しい戦いに恐怖してここを去る。

 魔法少女ユウナ(堀宮優菜)が良い例だろう。間近で仲間の死を見て恐怖し、厄災の攻撃によって気絶して心が折れた。そして、彼女は魔法少女をやめたのだ。だが、響花はそうではない。

 

「……いいえ。先程も言いましたが、私は人でなしです。だから人並みに怖がるとか、そういうのも無いんです。私が戦わないことを選択したのは、魔法少女として戦うことに興味がなかったから。たったそれだけなんです」

 

 自分の命すらもどうでも良いと思っている彼女が、戦いに恐怖する訳がなく。響花は響花の理屈で魔法少女になるのを拒否しただけである。

 

「……そう。わかりました」

 

 十数秒の沈黙の後、葵は絞り出すようにそう言った。そして自分の座っていた席に戻ると、各所に通信を飛ばす。

 

「倉庫班に通達。至急、ペンダント型の魔石を一つ、作戦室に持ってきてください……ええ。鳴海響花が、魔法少女として出ます。……整備班に通達。先程護送用バイクのサイドカーを外すように指示しましたが、それは無視してサイドカー付きで用意してください。私が鳴海響花を護送します」

 

 一通り指示を出した後、葵は戦場にいる哀歌と通信を繋ぐ。

 

「魔法少女アイカ、聞こえますか? これより戦場に応援を送ります。鳴海響花が魔法少女として戦ってくれるそうです」

 

『あいつが!? ……わかった。こっちはなんとか耐えるから、さっさと来るように響花に伝えて』

 

「彼女を送り届けるのは私よぉ。すぐにでも現場に向かうから……死なないでね。哀歌ちゃん」

 

 葵が通信を切ると、立ち上がって響花の方を向いた。

 

「私は出撃の準備をするから、響花ちゃんは魔石を受けとり次第、篝ちゃんの案内に従って第三ガレージに来るように。いいわね?」

 

「了解しました。魔石を受け取り次第、明日葉さんの案内に従って第三ガレージに向かいます」

 

「よろしい。皆、後は頼んだわよぉ!」

 

 葵が作戦室に檄を飛ばし、オペレーターが各々返事を返すと、葵は満足そうに頷いて作戦室を後にした。

 

「……第三ガレージへの案内まで頼まれちまったか。今日は貧乏クジだなオレは」

 

「嫌なんですか?」

 

 やれやれと溜め息を吐く篝に、響花が直球を投げ込んだ。しかし、篝はまさかと首を振る。

 

「普段働いてねえからな。こういう時くらい、なんかの役に立たねえといけないだろ。だから嫌じゃないよ。だけど……なんだかな。この雰囲気が随分久々でさ……こう、なんとも言えない気分になっちまって」

 

「はあ、そうですか」

 

「自分から聞いといて随分と興味なさそうだなぁお前!? ……でもま、ガチガチに緊張してる訳じゃなさそうだから良いか。……見させてもらうぜ。大厄災を退けた立役者がどういう戦いをするのか」

 

 篝が響花の背中をバシンと叩き、響花は少しだけ嫌そうな顔をした。そんなことをしている間に、倉庫班の人物が作戦室にやって来て、響花に魔石を受け渡す。

 受け取った魔石は、昨日と違って活性化していない。濁った灰色をしたものだった。もちろん、魔石に触れただけで響花が魔法少女に変身することもない。

 篝に連れられて第三ガレージに向かう響花は、たった一つのことだけを考えていた。即ち。

 

──魔石の活性化って、どうやってやるんだろう。

 

 

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