魔法少女『鳴海響花』は、自らを人でなしと定義する。   作:個人情報の流出

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「クレープは甘いから良いのよ」

 若者でごった返す原宿の街で、幸運にも空いたベンチに腰掛けながら。響花はげっそりとした顔で、手に持ったクレープにパクついた。……甘い、甘すぎる。生クリームの重めの甘さに、思わず顔をしかめてしまう。

 既に日が傾き、陽光が空を橙色に染め上げている。響花の座るベンチの両隣にはブティックの袋が6つ。響花の全身を襲う、かつてない疲労感。──どうしてこうなってしまったのか。甘ったるいクレープをちびちびと食べながら、響花は袋の向こうに座る哀歌を睨み付ける。幸せそうにクレープをかじる哀歌(げんきょう)の姿を見つつ、響花は今日遭った出来事(さいなん)を振り返ることにした。

 

 

 数時間前。昨日ぶりの魔法少女寮。響花が玄関から中に入ると、白のオーバーサイズパーカーにデニムのショートパンツといった出で立ちの哀歌が、茶革のソファーに座ってテレビを見ていた。

 

「……お。響花じゃない。あんた、体大丈夫なの?」

 

 玄関の扉が開いた音が聞こえたのか、背もたれに体を預けながら視線を玄関に寄越した哀歌が、響花に声をかけた。

 

「はい。お陰さまで」

 

「そ。それならよかったわ」

 

 哀歌は座ったまま手招きをして、こっちきなさいよと響花を中に呼ぶ。響花はコクりと頷くと、靴を脱いで中に入る。

 

「あんたさー、いくら春だからって、それ寒くないの? 検査着のままって」

 

「ああ……はい。ちょっと肌寒いです」

 

 といっても、響花には今着替える服がないのだから仕方がない。今回は制服も近くにおいてなかったし、自分が持っていた服は家ごとどこかへ吹き飛んだだろう。

 

「でしょーね。ってか、あおちゃんさんもあおちゃんさんよ。響花が起きたらあたしを呼べって言ったのに、なんで響花を検査着のままこっちに寄越してんだか……」

 

 ほんっとそういうところよね、と、大きなため息をつきながら、哀歌は今ここにいない葵への愚痴を言った。

 

「とりあえず着替えなさいよ。そっちにお風呂場あって、脱衣所に下着と服が置いてある。服はフリーサイズのやつらしいから、多分あんたの体格なら普通に着れると思うわ」

 

 そう言って、哀歌はロビーの奥を指差した。その先には、確かに『★お風呂場★』というプレートのかかった扉があった。

 

「下着……って、どうしたんですか? 私の下着、一つしかないと思うんですけど」

 

 今日響花の着替えが用意されてなかったのは、服の洗濯が理由なのではないかと、響花は推測していた。響花は衣服に頓着がない。だが、それでも同じ下着を三日も身に付けるというのはあまり好ましいことではなかった。

 

「あおちゃんさんが買ってきたみたいよ。あんた、検査受けてるでしょ? その時にサイズ測ってたんだって」

 

「ああ、そうなんですか」

 

「納得した? じゃあさっさと着替える!」

 

 筑波さんに後でお礼を言おう、と心に決めて。哀歌の言う通りに検査着から着替えるべく、ペタペタと足音をたてながら、響花は脱衣所へと向かった。

 

 

 

 

「着替えました」

 

 葵が響花のために用意していた服は、春物の白いワンピースだった。薄いピンクの花びら模様がアクセントになっていて、可愛らしい。

 

「へぇ~え、なかなか似合うじゃない」

 

 哀歌が感心したように言う。実際、響花のどことなく儚げな雰囲気にバッチリ合っていると言えるだろう。本人はよくわかっていない様子だが。

 

「服のことはよくわかりません。着られればなんでもいいので」

 

「興味ないってやつ? なんか勿体ないわね。あんた素材良いのに」

 

 響花にしてみれば、勿体ないとか、素材が良いとか言われてもなあ、といったところである。 

 

「ま、いいわ。あんたが服に興味なくても、あたしが似合うやつをバッチリ選んであげるから」

 

「はい? 私の服ですか?」

 

「あおちゃんさんから聞いてるんじゃないの? お出かけよお出かけ。あんた、服がそれ一着じゃどうしようもないでしょ? スマホもないでしょうから買わなきゃなんないでしょうし。今回はあんたの入り用の物を買いに行くお出かけなんだから」

 

 哀歌が呆れたように溜め息をつく。対する響花の頭には、疑問符が大量に浮いていた。

 

「……そうなんですか?」

 

 なんだそれ、全然聞いてない。響花の率直な感想である。お出かけとは聞いていたが、まさか自分の用事が中心のお出かけとは思っていなかった。というかそれ、二人で一緒に行く必要はあるのだろうか。

 

「そうよ。あんたが起きるのをずーっと待ってたんだから。さ、早く行きましょ?」

 

 そう言いながら、哀歌はその綺麗な青髪を、緑色のキラキラした蝶の飾りがついたゴムで手早くポニーテールに纏めた。

 

「……はい。わかりましたけど」

 

 せめてどこに向かうかくらいは教えて欲しい。そう思いながら、響花は哀歌に着いて寮を出るのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 一歩駅から踏み出せば、立ち並ぶはビルの群れ。街は若者で溢れ、制服姿の女子高生たちが、クレープを片手に笑いながら通りすぎていく。

 

「クレープか……いいわね。すごくいい……」

 

 原宿。そこはファッションの街。服を買うならここしかなくない? とは哀歌の談である。

 

「人、多いですね……」

 

「日曜日だもの、多いに決まってるじゃない。原宿は厄災被害にも遭ってないしね。さ、行くわよ! モタモタしてたら日が暮れるわ。ショッピングを満喫して、食べ歩きもするんだからね!」

 

 哀歌が響花の手を引き、原宿の街に駆け出していく。響花はなんだかなあ、といった感じで、哀歌にされるがままになっていた。

 

「……私の入り用の物を買いに行くお出かけなんじゃなかったんですか?」

 

 なんだか、ダシにされた感じが否めない。私のためというのは、体のいい言い訳だったのではないだろうか。そんなことを考えて、人知れず溜め息をつきながら。響花は哀歌に引きずられて、原宿の街に消えていくのであった。

 

 その後の響花に待ち受けていた運命は、実に悲惨なものだった。服になんか興味ないのに、哀歌の着せかえ人形にされたのである。ガーリー、クール、ストリートスタイル、ボーイッシュ、カジュアル、フォーマル、キュートセクシーetc. 様々なブティックを回り、とにかく哀歌が思い付いたものを片っ端から着せられた。ゴスロリめちゃくちゃ似合うわね! と勝手に会計されそうになった時は、全力で拒否したものである。そんな着るのも面倒で、フリフリと動きづらそうなもの着てられるか、ってもんである。結局、私はパーカーとかで良いんですけど、という響花の意見は完全に無視されて。哀歌チョイスの『あんたに似合う服』をどっさり買わされたのであった。

 

「やー、案外楽しいもんね! 他人を服を選ぶのって!」

 

 哀歌の足取りは軽い。心なしか肌がつやつやしているように見える。2時間も着せかえ人形にされて心底疲れきっている響花とは、正反対の状態だ。6つの袋を両手に提げた響花は、哀歌の服も入っているというのになぜ荷物を持っているのは自分だけなのだろうか、という思いを乗せて、深々と溜め息をつく。

 

「ん、何よ。疲れたの?」

 

 もはや何か喋るのも億劫になった響花が哀歌をじとっと睨んでいると、視線に気づいた哀歌がそう言った。響花が頷くと、哀歌はニヤっと笑う。

 

「そう、疲れたの。疲労回復のためには甘いものを食べるのが一番なの、知ってる? ……丁度そこにある、クレープとかさ、食べない?」

 

「え……」

 

 哀歌が指差す先にあるのは、行列のできたクレープ屋さんである。響花とブティックを回る道すがら、哀歌が密かに目星をつけていた店だった。  

 

「響花は食べたことある? クレープ」

 

「いや、ないですけど、その」

 

「じゃ、今日が初クレープってことね!」

 

 先程から響花が微妙な反応をしている理由は、甘いものが苦手だからである。響花は食事に興味がないので、基本的には何を食べても変わらないと考えている。だが、甘ったるいものだけは苦手だ。自宅ではあまり甘いものが出なかったため、響花が自覚したのはついさっきだが。

 甘いものが苦手なら哀歌にそう伝えればいいというだけの話なのだが、さっきから哀歌の押しが強すぎるのと、疲れきっているせいで響花が話す隙がない。

 

「せっかくだからあたしが奢ったげるわよ」

 

「あ、じゃあメニュー決めるのでちょっと待っていただいて……」

 

「初めてなんでしょ? 最初はチョコバナナにしなさいよ。スタンダードが一番、決まり! あたしが並んで来るからあんたは近くで休んでていいわよ~!」

 

「あの、ちょっと……」

 

 結局。響花の話を一切聞かないまま、哀歌はクレープの列に並びに行ってしまった。

 

「……あんなにはしゃぐ人だったんだ、進藤さんって」

 

 そんな哀歌を呆然と見送りながら、響花は呟いた。もっと落ち着いているというか、気だるげな人だと思っていたのだ。だから、あんなに浮かれて、楽しそうにはしゃぐ哀歌の姿が意外だった。

 

「いくら楽しいからといって、人の服や注文を勝手に決めるのはどうかと思いますけど」

 

 そんなちょっぴりの苛立ちと共に。響花は休憩すべく、近くにベンチがないかを探すのであった。尚、哀歌が戻ってきたのはそれから約45分後である。

 

 

 

 と、いうことがあって。戻ってきた哀歌と共にクレープを食べている今に繋がる。響花にとってこの一日はハードだった。そもそも、響花は誰かとお出掛けなんてしたことがない。修学旅行や学校の遠足を含めれば話は別だが、それをお出掛けとは言わないだろう。

 響花の生きる毎日は、学校と家の往復だった。何かに興味を持っている時は寄り道くらいするのだが、そうでなければなにもしない。家に帰っても勉強くらいしかしないのだ。

 そんな響花だから、全くと言っていいほど体力が無かった。完全なる運動不足である。それなのに一日歩き回り、着せかえ人形になったのだから、その疲労具合は推して知るべしだ。

 んふふ、と声を漏らしながら幸せそうにクレープを頬張る哀歌をじとっと見ていたら、不意にこちらに響花の方を見た哀歌とバッチリ目があった。

 

「んー? あんた、ぜんぜん食べてないじゃないの。せっかく奢ったげたんだから、ちゃんと食べなさいよ」

 

 手についたクリームを舐め取った哀歌は、響花のクレープが全然減っていないのを見て、呆れたようにそう言った。

 

「ああ、その……これ、甘すぎて。私、甘いの苦手みたいなんです。むしろ、その……」

 

 響花は、哀歌の手に握られたごてごてのクレープに視線を移した。哀歌が頼んだそれは、バニラアイスチョコバナナの生クリーム増量だ。目に見える部分だけでもかなりのボリュームで、響花は見ているだけで胃もたれしてしまいそうだった。

 

「そんな甘そうなの、進藤さんはよく食べられるなって思います。そんな、幸せそうに……」

 

「んな……っ! な、なに言ってるのよ、別に幸せそうには食べてないし! それに、クレープは甘いから良いのよ。甘くなかったら食べる意味がないじゃない」

 

「しょっぱいのもメニューにあるのにですか?」

 

「ええ、もちろん。ツナだのエビだの、あんなの邪道よ、邪道!」

 

「……そんなものですか」

 

「そんなものよ」

 

 そう言って、哀歌はクレープを一口かじる。やはり、んふー! と幸せそうな声が漏れた。どうやら、哀歌はかなりの甘い物好きのようである。

 

「……何よ。無表情でずっとこっち見るのやめてよね」

 

 心なしか、少し顔を赤くした哀歌が言った。甘いクレープを食べられて幸せなのを見抜かれて、少し恥ずかしいのだろう。

 

「すみません。なんでもないです」

 

「なんでもないことないでしょ。言いたいことがあるなら言いなさいよ。あんたがなに考えてるのか知らないけど、考えてることは言わなきゃ伝わらないんだから。なんでさっきからずっとあたしのこと見てるの?」

 

「……えっと」

 

 響花は言葉に詰まった。今までこういうことがあればトイレにでも逃げてうやむやにしていたのだ。どうせ、思っていることをどう取り繕って言葉にしようが、相手には理解されない。大したことは考えていないのに、悪意があると決めつけられるのはうんざりだった。だが、今の状況だと逃げ場がない。今回は2人でここに遊びに来ているわけだし、ここで逃げてもどうせ帰った先で顔を合わせることになってしまう。

 少しだけ悩んだが、今の響花に逃げるための上手い案は浮かばず。観念して、心のうちを少しだけ哀歌に打ち明けることにした。

 

「その、随分と楽しそうだな、と思って見ていました。進藤さんはもっと、落ち着いた人だと思っていたので。あんなにはしゃいでいるのは意外でした」

 

「……そんなにはしゃいでた? あたし」

 

「はい。随分と」

 

 哀歌は足を組み、そっぽを向いて大きな口で乱暴にクレープをかじった。

 

「……別に、楽しければはしゃぐわよ。あたしだって人間だし。……本当に、楽しかったしね。っていうか、あんたは楽しくなかったの?」

 

「私は……」

 

 その簡単な問いに、響花はすぐには答えられなかった。楽しくなかったと言うのは簡単だ。実際、ただ振り回されていたあの時間は、響花にとって楽しいと思える時間ではなかった。だが、それを口にするにはどこか引っ掛かりがあって、楽しくなかったとは言えなかった。

 

「わからない、です」

 

 結局。その曖昧な単語を、遠慮がちに口にした。

 

「そうなんだ」

 

 怒らせてしまっただろうか。哀歌が楽しいと思っていた時間を、侮辱してしまっただろうか。響花は俯いた。でも、本当にわからないのだ。今日、哀歌と過ごした時間が楽しかったのかどうか、響花は本当にわからない。そもそも彼女は、誰かと遊びに出掛けるということが初めてなのだから。

 

「じゃあ、また一緒に出掛けよう」

 

 しかし、哀歌から響花を責めるような言葉は出てこなかった。

 

「どうでもいいとか興味ないじゃなくて、わからないなんでしょ? じゃ、わかるまで何度でも出掛けようよ。その内、あんたに心から楽しかったって言わせてやるわ」

 

「……どうしてですか?」

 

「どうしてって……楽しかったからよ、あたしは。あんたと出掛けるの、悪くないって思ったよ」

 

「私、振り回されていただけだと思うんですけど」

 

「そうね。振り回してたわ。あんたと初めて会った時、散々あたしのこと振り回した意趣返しよ」

 

 響花は数日前、初めて哀歌と会った時のことを思い返して、首をかしげた。響花にとっては自分が好き放題やっていただけであって、哀歌を振り回していた自覚はないらしい。

 

「よくわからないんですけど。そもそも、どうして進藤さんは私と一緒に買い物に来たんですか? 私が私の入り用のものを買いに行くのに、進藤さんが一緒に来る必要はなかったじゃないですか」

 

「それはー……あたしが出掛けたかったから」

 

 やはり、響花の用事はだしにされていただけだったらしい。

 

「原宿ってさ、パーフェクトじゃない」

 

「パーフェクト?」

 

「うん。10年前に疫病の大厄災が出てから、厄災の出現数が多くなったって話は知ってる?」

 

「いえ……」

 

 響花の両親は、あまり家で話をしなかった。響花の母親も、響花とほとんど話をしていない。当時幼かったこともあって、それを響花が知ることはなかった。

 

「そっか。あたしたちその時まだ子供だったし、知らないのも無理ないわね。まあ、増えたらしいのよ、厄災が。それに、10年前より強くなったらしいの。規模が大きくなって、観光地とか、テーマパークとかが大きな被害を受けることが増えたの。ほら、千葉のテーマパークとかさ? まだ工事中で入れないじゃない」

 

「はあ……聞いたことは、あります」

 

「でも、原宿は珍しく厄災被害に遭ってない場所だからさ。パーフェクトなのよ。だからパーフェクトな内に、誰かと遊びに来たかったの」

 

「それ、一緒に来るの私でよかったんですか?」

 

「あんたが良かったのよ。あおちゃんさんはああ見えて忙しいし、今までの他の魔法少女は……どこか、あたしに遠慮しててね。なんか誘う気になれなかった。でも、響花はあんまりあたしに遠慮してる感じなかったし? あんたとなら、あたしも好き放題楽しめるかなって思ったの」

 

「……そんなこと、初めて言われました」

 

 響花の一言を聞いて、哀歌は何も言えなくなってしまった。響花の自己嫌悪的な発言から、なんとなく、響花は良くない環境に居たんだろうなと思っていた。だが、彼女は予想以上に酷い環境に居たのかもしれない。

 

「ごめんなさい。進藤さんが初めて誘おうと思ったのが、私で。いつかきっと期待を裏切るので、もう私と出掛けない方が……」

 

「ちょっと! なんでそうなるのよ!」

 

「なんで、って、私は人でなしなので……」

 

「あたしは楽しかったんだってば! あー、なんか、なんて言えば良いかわかんないけどさ……! あんたが、今までどんなこと言われて生きてきたか私は知らないけど! あたしは……あんたに感謝してんだからさ」

 

「感謝されることなんて、私は何も……」

 

「してるんだって! あたし……あんたがいなきゃ、死んでたじゃない……!」

 

 台風の時、響花がいなければ、哀歌は時間稼ぎの囮となって死んでいただろう。雷の時、響花が駆けつけなければ、哀歌は他の魔法少女が駆けつける前に死んでいたかもしれない。哀歌はチームを組めば強力な火力を放てる魔法少女であるが、1人で強敵に挑むのは苦手な魔法少女。哀歌にとって、響花は確かに自分の命を救った恩人なのだ。

 

「それは……」

 

「確かにあたしは、あんたのこと変なやつだと思うわよ。でも、あんたが昔誰に、どんなこと言われて来たかは知らないの。あんたと出会ってまだ数日しか経ってないけど、あたしがあんたをどう思うかはあたしが決めることなの! だから……また、遊びに行くのに付き合いなさいよ。わかった?」

 

「わかり、ません。私……ごめんなさい」

 

 哀歌は深々とため息をついた。本人に伝えたくない本心まで伝えて、それでもわからないとはどういうことなのか。だが、それほど響花に強い自己嫌悪を植え付けたなにかがあるのだろう。

 

「何に謝ってんだか……わからないならわからないでいいわよ。なにがわかんないかあたしは知らないけどさ。……でも、あたしはあんたのこと悪く思ってないからね。それだけ」

 

 哀歌は残ったクレープを食べようと、手に持つクレープを見て……叫んだ。

 

「あーっ! アイス溶けてる……」

 

 響花に対して自分の心を打ち明けたことに後悔はない哀歌だったが、話に夢中でアイスが溶けてしまったことには後悔するのであった。

 

 

 

 

「わかりません。わからない……わからない、な」

 

 その日の夜。ようやく自分のために用意された部屋に案内してもらった響花は、ベッドに転がりながら先刻哀歌に言われたことを思い返していた。

 初めて言われたことだった。悪く思ってないだなんて。一緒にいて楽しかっただなんて。だから、どうすれば良いのかわからなかった。

 

「……どうせ、いつか私のことを拒絶するのに」

 

 響花はどうしても、哀歌の言葉を信じることが出来なかった。だって。

 

「私は、人でなしだから」

 

 to be continued.

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