君が好きだと叫びたい!   作:みかんフレーク

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#最終話 鼓動の答え合わせ

 ──目が覚めた時は自分の名前すら知らない、そんな訳の分からないこと状況にめちゃくちゃ戸惑っていた。

 

 ユウエイ……コウアン……テレビ局……色んな人が俺を囲んで心配してくれたり中には涙を流していた人もいたけど、正直なにが起きて俺はそこで何をしたのか皆目見当もつかない。

 

 聞かれたことに対しての回答は全て"知らない"もしくは"覚えていない"。

 そう発する度に、質問をした人たちは皆揃って悲しそうな目をしていた。

 たとえ知らない人だったとしても、目の前でそんな光景が繰り返されたらそりゃ気は滅入る。

 

 これから先の未来に不安しか無かった。

 

 それはそれとして大怪我を負っていたので、自由に動ける状態では無かった。

 最初は基本的にベッドで寝たきり。

 失い過ぎた血を戻すのと、衰弱した体を回復させるのに少しばかり時間がかかった。

 

 徐々に体力も戻ってきて1人で病室に居るのにも退屈してきた時、綺麗な黒髪の女の子が訪ねて来てくれた。

 名前はヒメノって言うらしい。

 その子が話し相手になってくれた。

 聞くと、俺達は公安の指揮のもと協力して仕事をしていたらしい。

 どうやら深い関係でもあったようだけど、残念ながら覚えていない。

 

 筒美火伊那(つつみかいな)という女性も1度だけ来た。

 ヒメノが言うに俺の上司的な存在とのこと。

 その人は俺を見るやギュッと力強く抱き締めてくれて、それからまだ会っていない。

 

 それから、俺が通っていたらしい高校のクラスメイトの子らも沢山来てくれた。

 皆で撮った写真や過去の話を何度も何度も聞かせてくれたけど、俺の中で引っかかるものは無かった。

 それでもめげずに何度も俺の所へ様子を見に来てくれるのは、素直に嬉しかった。

 記憶を失う前の自分の人となりが分かるような気がして。

 

「なかなか来ないですわね……。一体何を考えているのやら……」

 

 ヒメノは時々そのようなことを呟いていた。

 文脈から察するに誰か他人のことを指すんだろうけど、生憎俺には誰が該当するかなんてのは皆目検討もつかないのだ。

 そんなに親しい人なのだろうか……?

 

 体の傷も癒え、体力も回復し、俺は退院が出来るようになった。

 長らくお世話になった病院を後にし、これからの身の振り方を考えないといけなくなる。

 

 選択肢としては元々在籍していた雄英高校に戻るか、お世話になっていた公安に籍を置くのかだった。

 その択を前にして、俺はあっさりと公安の方を選んだ。

 理由は雄英に居てもやることがないから。

 ヒーロー科に所属していたようだけど、今の俺に個性なんて大層なものは使えない。

 前の大きな戦いの時の映像を見せてもらったけど、あんな超常現象を自分が起こせるとも思わない。

 そこには同じ顔の自分が映っていたけど、中々どうして信じることが出来なかった。

 クラスメイトの子らにはかなり引き止められたが、変に気を遣わせるのも申し訳ないし。

 

 そうして俺は雄英高校を後にした。

 

 それからは、公安でヒーローのサポートや今後の社会をより良くする為の手伝いをしていった。

 ホークスというNo.2ヒーローが目指す"ヒーローが暇を持て余す社会"を実現する為に、微量ながら出来ることを積み重ねていく。

 公安の人やヒメノとの日々を過ごしながら、少しづつ歳を重ねていく。

 元クラスメイト達が少しづつ台頭していく様をテレビや街の広告で眺めながら、俺には俺の舞台があるのだと仕事に従事する。

 何の変哲もない、安寧な日常。

 享受するべき平和を受け入れ、かけがえのない人生を謳歌する。

 それが今の俺の在り方なんだと、そう思うようにしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「愛生千晴さんですよね?」

 

 公安に入ってから10年が経った今でも、街でそう言われることは多々ある。

 ヴィラン連合と呼ばれる悪人達との決戦は、今でも人々の中で語り継がれているからだ。

 当時の映像は綺麗に残っているし、動画サイトでも大勢の人がアップロードをしている。

 言うところ過去の格闘技の試合を見ているような感覚で、今の人たちは10代の頃の俺の姿を見ているのだ。

 

「ヒーローにはならないんですか?」

 

 もう何度も言われてきたその言葉に、俺はいつものように返す。

 

「もう俺には力が無いから」

 

 そう言って笑顔を見せると、「そうですか……」と小さく呟いてその子は去って行った。

 その背中を見えなくなるまで見つめ続ける。

 

「年代を重ねても、貴方の勇姿は人様の心に刻まれていくんですね」

 

 隣にいる姫乃が小さく微笑む。

 

「もうただの一般人なんだけどな」

 

「あら?私にとってはヒーローのままですよ?」

 

 意地悪そうに言う姫乃に苦笑。

 止めていた足を再び動かし始める。

 今日は綺麗な桜の花びらがヒラヒラと鮮やかに舞っていた。

 

「綺麗ですね……」

 

「ホントにね……」

 

 他人と過ごす穏やかな日々は悪くなかった。

 たまに仕事が忙しくなる時もあるけど、社会人なんてそんなもんだ。

 働いて、休んで、また働いて。

 その繰り返し。

 

「見てください。千晴さんの昔のクラスメイトの方々、チャートの順位がまた上がっていますよ」

 

「え、どれどれ?」

 

 向けられたスマホの画面を見る。

 そこにはデクとダイナマイトという名前のヒーローが、ランキング上位に順位を上げたことが示されていた。

 それを見て小さく口角が上がる。

 

「爆豪ってこの前までもうちょっと下にいなかった?」

 

「緑谷さんが復帰したことで、気持ちが入ったのではないでしょうか?緑谷さんもめざましい活躍ですから」

 

「ライバルってやつね……轟は安定して調子良さげだし……」

 

 高校時代に1年だけ同じクラスメイトだった彼らの現状を見て、皆同じように頑張っているんだなと自覚する。

 俺は雄英に戻らなかったけど、元A組の皆との交流は継続してあった。

 特に緑谷と爆豪、轟は元々つるんでいたということから、今でもたまにご飯に行ったりしている。

 トップヒーローと一般人という立場の差が大きいが、3人はそんなこと気にせず良くしてくれている。

 

「想像したことはないですか?」

 

「え?」

 

 不意に聞かれたその問いに、思わずクエスチョンマークを掲げる。

 

「千晴さんが皆さんと同じように、トップヒーローとして活躍される姿を」

 

「ヒーローとして……?」

 

 ヒメノが小さく首を頷かせた。

 ヒーロー……記憶を失う前に目指していたもの……。

 力が無くなって、使い方を忘れてしまってからは自分には縁のない世界だと切り離してしまっていた。

 

「俺は……」

 

 自分がヒーローとして人々の為になることをする。

 動画サイトに上がっている高校生の頃の自分のように。

 

 ──だから俺は雄英に入って、ヒーローになれたらお前を守るよ。危なっかしい〇〇を傍で支え続ける。

 

 時折思い出す誰かの言葉。

 誰かが誰かに向けて伝えた言葉だと思うけど、そこまでは覚えていない。

 それでも確かに、俺の中に刻まれているものがある。

 失くしたハズの過去の記憶なのか……真相は俺にも分からない。

 

 ──だけど忘れるな。お前の歩いてきた道や私の教えは一生残り続ける。たとえ記憶を失ったとしてもだ

 

 これも誰かの言葉だ。

 なぜ今頃になってこんなのが頭に浮かんでくるかは分からない。

 分からないことだらけで嫌になるが、深層心理で思っていることなんだろうか。

 

 あの日……雄英に戻らないという選択をした日から……。

 

「ずっと何かが引っかかっていたんだ。記憶を失くす前に、心の中にしまっておいた何かが。見て見ぬフリをしていたんだけどな……どうやらずっと抱え込んでおくことを、俺が許しちゃくれないらしい……」

 

 大切な人との思い出があった。

 その人を守る為に記憶を代償にした。

 そのはずなのに……。

 

「俺がやるべきことは他にある、そんな気がする」

 

「──はい、仰る通りです」

 

 笑顔のヒメノがそこにいた。

 そんな彼女はゆっくりと俺に近づき、その小さな手で俺の手を包み込む。

 

「数年前……エリさんの個性を使って私は個性を取り戻しました。私の個性は触れた他人の記憶を奪う……千晴さんには10代の頃から何度も触れてきました」

 

 優しく手が握られる。

 

「個性の解釈の拡張。考え方や捉え方次第で物事の本質は変化します。ただの能力の延長です。ですが、いつか千晴さんの力になれると思って研鑽を重ねてきました」

 

「ヒメノ……」

 

 エリちゃんという少女の個性で、俺の記憶を巻き戻すという話は何度か出てきていた。

 しかし、本人への負荷が大きいことや過去の嫌な記憶が連想される、そもそも俺自身が求めていないということからその力を借りることはしていなかった。

 ただ、ヒメノは備えてくれていたんだ。

 俺の心のうちを理解し、その日が来た時の為に。

 

「貴方が英雄になった時の力までは戻せません。しかし、直ぐに勘は取り戻せるでしょう。また積み重ねていけば良いのです」

 

 小さく透明な欠片が、ヒメノの手のひらから俺の中へ浸透していく。

 すると、フラッシュバックのように脳内に映像が流れてきた。

 10代の頃の自分。

 クラスメイトの皆と過ごした日々。

 

 そして──。

 

「拳藤……一佳……。俺……1番大事なことを……」

 

「……そうですよ?貴方のことをずうっと待っている人がいるんです」

 

「ああ……。そうだ……そうだったな……。俺には……俺の命より大事な人が……」

 

 徐々に思い起こされていく記憶。

 そのどこにでも必ずいる1人の女の子。

 

 ずっと傍にいると誓った女の子。

 傍にいて守り抜くと決めていた女の子。

 

「ヒメノ……俺……休んでる場合じゃなかった……まだ走り続けないといけない……」

 

 俺の言葉にヒメノは、満面の笑みで応えてくれる。

 

「はい!背中は押して差し上げます!」

 

 気付けば体が勝手に動いていた。

 

 彼女がいま居る場所なんて分からない。

 

 だけど、精一杯走り切ったその先に居る気がする。

 

 そこで俺を待っていてくれている気がする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『さぁ今日紹介するヒーローはこの人、"サイコ・ナチュラル"!!数年前に起きた大規模戦闘、死柄木弔率いるヴィラン連合との戦いを見事生き抜いた英雄の1人!!』

 

 朝のニュースで流れている、アナウンサーの台本の言葉と共に当時の映像が映し出される。

 多分これは少し編集がされていると思う、だってあいつはいつも鼻血とか吹き出しながら戦っていたから。

 流石に朝から画面を鮮血で埋め尽くすのはよろしくないと、テレビ局が判断したんだろう。

 

『かの有名なデクやショート、ダイナマイトの級友とのことで。彼らのデビューとはかなり間を空けてからのプロヒーロー界への参戦となりました。噂によると一時期個性を失っていたとの情報もありますが、ご覧の通り今はかつての活躍を思い出させんばかりの働きぶり』

 

 高校生の時の映像から切り替わり、直近の人助けに勤しむ彼の映像が映される。

 相変わらず便利な個性で、高い所から降りられなくなった幼子を助けたり、まだ偶に発生するヴィランを傷付けずに無力化することができている。

 

『チャートの順位もぐんぐん伸ばしていますからね〜。今は引き継いだ事務所でサイドキックと連携しながら、ヒーロー活動を邁進的にしております。あの明るい性格も人々へのウケが良さそうです』

 

『私このまえ街でたまたま会って、たっくさんファンサしてもらいましたよ!なんと言うか凄く身近な人って感じで話しやすかったです』

 

「べた褒めだな」

 

 家事をしながら耳に入ってくるそれらの言葉にボソッと呟く。

 まぁヒーローで愛想が悪い人はあんまりいないから、当然の対応をしているとも言えるけど。

 いや、爆豪はこの前一般の人に怒鳴り散らかしてたな。

 それも善意だったんだろうけど。

 

「ママ、パパが映ってる!」

 

 最愛の一人娘が画面を指さしこちらに見てきた。

 私は家事の手を止めて、ソファに座ってニュースを見ていた娘の横に座る。

 

「パパ、人気者?」

 

 宝物が首を傾げてそう聞いてきた。

 

「そうだね、昔から周りに人が居たかな」

 

「女の人にもモテモテだった?」

 

「ああ……うん、まあ程々に……」

 

「ママはどうやってパパのハートを奪ったの?」

 

「どこで覚えたそんな言葉……」

 

 娘の発言に苦笑しながら、その小さな頭を優しく撫でる。

 あいつと私の愛の結晶が、可愛らしくニコニコしている。

 

「パパが私に最初からゾッコンだったんだよ」

 

「ゾッコン?」

 

「大好きだったってこと」

 

「あ〜、やっぱりぃ。だってパパ、ママがお風呂の時ずっとママのここが好きとか、ここが可愛いとかずっと話してくるよ〜」

 

「何してんのあいつ……本当に……」

 

 昔から変わらないその様子にもはや呆れ返る。

 

「でもねでもね〜、ちぃちゃんのことも同じくらい好きだと思うよ〜。だっていつもぎゅ〜ってしてくれるも」

 

「……ふふ、だね」

 

 愛は育まれている。

 色々あったけど、そのおかげで幸せなこの時間がある。

 そしてそれをくれたのは、紛れもなくこの子だ。

 

「ねぇねぇ、今日だっけ?おともだちが遊びにくるの」

 

「お、よく覚えてたね。ママの高校の時の友達がいっぱい来るよ」

 

 タイミングよく家のベルが鳴る。

 モニターを覗くと、懐かしの面々が玄関前に勢揃いしていた。

 

『一佳、来たよ。早くガキンチョの顔拝ませな』

 

「はいはい、すぐ開けるよ」

 

 記憶はその人を形づくる。

 記憶の積み重ねが物語になる。

 今までも、そしてこれからもずっと続いていく。

 その道をずっと一緒に歩いて行ける人がいる。

 

 それが私達にとっての幸せなんだと。

 

 今は胸を張ってそう言えるんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜END〜









ここまで読んで下さり、本当にありがとうございます!
訳の分からない展開やキャラ、投稿が遅くなったりと反省が沢山あります。
それでも最後まで書くことが出来たのは、紛れもなく読者の皆様の沢山のコメントや評価があったからです!
重ね重ねになりますが、ありがとうございます!
他の小説も執筆してますので、そちらもぜひ!
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