# moreover
おっす!俺の名前は愛生千晴!
どこにでもいるしがないプロヒーローだ!
いや……しがないというのは少し自分を低く見積もりすぎたか。これでも過去の戦いの英雄って呼ばれてるから、それなりに知名度はあるのかもしれないね。
ま、今までの俺はそりゃ大変な人生を歩んできたさ。記憶を失ったり、変な人に取り憑かれたり、やっとこさ記憶が戻ったと思ったらまた失ったり。
え?いま?ちゃんと記憶は戻ってきたよ。有能な友人のおかげでね。
そんなこんなでヒーローとして何とか生活している俺は、今日も今日とて街中の事件を解決中。おお、街の皆は今日も元気そうだね。
「きゃー!サイコォ!!こっち見てぇ!!」
黄色い声援が気持ちいいねぇ。これもヒーローやってるおかげだわ。鼻の下を伸ばしてるとカメラとマイクを持ったテレビ局の人が近付いてきた。
「サイコ、今日も素晴らしい働きでしたね」
「ありがとサンクス。あなたいつも俺にインタビューしてくれるよね?もしかしてファン?」
「ええ。過去の戦いであなたに救われた人が沢山います。私もそのうちの1人です」
「……そうか。捨てたもんじゃないね、俺も」
そう言い残してその場を去る。個性の使い方は記憶と一緒に思い出すことが出来た。だから今でも、サイコキネシスやらパイロキネシスやらも使うことが出来る。全盛期……とまではいかないけど、それに近い力もようやく引き出せるようになった。全盛期といっても、ナインの野郎を倒した時のことなんだけど。親父の栄光時代はいつだよ?と聞かれたら16の頃だよって言うよ。
事務所に戻って事務作業。事務所とは事務作業をするためにある。サポート員と協力して仕事を片付け、今日はノー残業デー。定時でさっさと皆を帰らせ、俺も事務所を閉める。
「……ケーキでも買って帰るか」
家で待つ人の喜ぶ顔を想像して、俺は帰路に着いた。
〇
「パパぁ!!帰ってきたぁ!!」
これは仕事の疲れが吹っ飛ぶ個性を持つ子の声だ。
玄関の扉を開けると飛び込んでくるのは、最愛の娘。名前は美佳。
何を隠そう、我が子である。
「よーっお姫様!今日も良い子にしてたかな?」
「うんーっ!良い子で戦いごっこしてたよ!」
「HAHAHA!!さすが俺の子だ!後で続きをしよう!」
片腕で美佳を持ち上げ、リビングの扉を開ける。すると鼻腔をくすぐる良い匂いが漂ってきた。
「うぃーす、帰ったぞとっくりゃあ〜」
「うぃーす」
「はいおかえり。てか辞めなよその言い方、ちゃんと美佳が真似してんじゃん」
そう言いながらご飯を作っているのが、旧姓拳藤、名は一佳。今の苗字はなんと愛生。
何を隠そう、我が妻である。
「良い成長をしているな、我が娘よ」
「ははーっ、かんしゃする」
「蛙の子は蛙だな」
なんだか美佳のノリが俺に似てきている。ま、教育しているのが俺だからそうなるのが必然なんだけど。この愛生節は継承されていかなければならないからね、そうあのOFAのように。
「2代目だもんな、美佳ちゃんは」
「うんーっ!ひのいしをつぐんだよ!」
「おいその"ひ"の漢字は大丈夫か?」
ワイワイガヤガヤしながら一佳の作った夕食をテーブルに運ぶ。仕事終わりのこの一家団欒の時間が何よりの幸福なのだ。
「ごちそうさまでした」
「いよっし、そしたらお風呂に入るか。一佳、美佳!今日は3人で行くぞォ!」
「そんなわけ」
「え〜、ママもいっしょにはいろうよ〜」
「そ〜だよママ〜。3人の方が楽しいよ〜」
「ガキ2人も産んだ覚えはねーぞ」
ちなみにこれはいつもの流れである。有難いことに一佳が家事をやってくれるので、その間に美佳をお風呂に入れる。まだ小さな体を洗ってやり、一緒に足の伸ばせる湯船に浸かるのだ。
「あしたはママとおふろする」
「お、そうだな。ならパパが2人を洗っちゃおっかな」
「ママおこるよ〜。かわりにおさらあらいしなさいっていわれるよ〜」
「HAHAHA!あんなの俺にかかりゃ2秒よ。ソッコーで終わらせて2人の入ってるお風呂に突撃ラブハートだね」
「とつげきらぶはーと?」
「ああ、皆の気力が一気に上がるんだ」
湯船から出て体を拭き、美佳の髪に櫛を通してやる。うん、一佳譲りのサラサラヘアだな。一生大切にしよ。
お風呂上がりの美佳が一佳の脚に抱きつきに行った。俺も倣って抱きつこうとしたらミドルキックが飛んできた。新築の家の壁がめり込むくらいの深さまで突き刺さった。
「パパいきてた」
ようやく抜け出せた時には既に、一佳もお風呂から上がっていた。明日業者呼ばなきゃ。
〇
「美佳寝たよ。今日もたっぷり遊んだからね、もうぐっすり」
寝室のドアがゆっくり開かれ、一佳が入ってきた。パジャマ姿で髪を下ろした一佳をいつ見ても、その美しさに惚れ惚れする。
のそのそとダブルベッドに入ってくる一佳。そのままベッドに横たわり、顔をこちらに向けてじーっと俺の顔を見てくる。
「ん?どした?」
「べっつに〜。いつも通りで安心するな〜って」
「そりゃよかった。逆にいつも通りじゃなかったらどうなるの?」
「う〜ん……いつもと違ったらかぁ……。浮気を疑うかな……」
「HAHAHA!冗談キツイぜ一佳さん。俺がいつ浮気すんだよ、こんな綺麗な奥さんいるのに」
「き……!──だって千晴、昔から結構モテてたから……」
頬を少し染める一佳。そのまま俺の左腕にしがみついてきて、顔を寄せてくる。
「デキる男には女が寄ってくんのよ。ま、悪い気はしないけどね〜」
「……横着してみな。すぐに分かるからね。匂いとかで」
「麻薬探知犬みてーだな」
「ばか」
低く唸る一佳の頭を撫でて、そのまま体を抱き寄せる。一佳の温もりが直に伝わってきた。
「ねぇ……私ってちゃんといい奥さんやれてるかな……?」
一佳が小さく漏らす。
「ハナマル100個あげたいくらいだよ。いつも助かってる、ありがと」
「ほんとに?」
「ほんとに」
「ぜったい?心からそう思ってる?」
「なーにを心配しとんだ。お前は世界一の奥さんだよ」
「……へへ、そっか」
腕の中の一佳を、より強く抱きしめる。
「ねぇ、千晴……」
さっきよりも小さな声で一佳が言う。
「うん」
「愛してる」
「俺も」
〇
振り返れば数奇な人生だったと、今でも思う。
"個性"なんて呼び方をされて、最初はてんで大したことなかったそれが、気付けば争いに使われるようにまで変貌してしまった。
そのせいで人生を壊されてしまった人も大勢いると思う。
だけどそれ以上に、個性があったから救われた人もいる。
個性があったから、大切な人達に出会うことが出来た人もいると思う。
辛い思いや痛い思いもしてきたけど、今はこうして家族と笑い合うことが出来ている。
思い描いていた未来を歩むことが出来ている。
光り輝くこの道を……いつまでも、ずっといつまでも進んでいくことができるなら……。
人はそれを"幸せ"と呼ぶことができるんだと、そう信じている──……。
「って内容で自伝小説的な物を書こうかと思ってるんだけど、売れるかな?」
「微妙だな……」
「論外」
「俺はいいと思うぞ。そうだ、親父に聞いて出版社にツテが無いか確認してみる」
三者三様な返答に思わず苦笑。デク、爆豪、轟はいつ会っても同じテンションで安心する。
「んだよ〜褒めてくれるの轟だけかよ〜。しゃーねぇ、まずはネット投稿サイトから始めてみるか〜」
「どんだけ自分の足跡残してーんだテメーは」
〇
二階建て4LDKの居室のひとつ。
6.5畳の部屋にいるのは、愛生千晴の一人娘。
愛生美佳は感覚が優れており、その部屋の違和感に唯一気付いていた。
誰もいないはずの部屋の隅を見て、美佳は口を開く。
「おねーちゃん、だれ?」
見つめる先の空間に対しての声かけ。何も無いその場所から、真っ黒なモヤが現れ始める。
『小娘……私が分かるのか……』
「こむすめじゃないよ、みかだよ。みかのみは美しいってかくんだよ」
一瞬空気がどよめいた。すぐにそれも落ち着き、黒いモヤはとある形を形成し始める。
真っ黒な長い髪に闇よりも暗い瞳。漆黒のワンピースを着た少女が、そこには現れた。
『……ふふ、そうか』
記憶と共にいなくなったはずの彼女が、美佳の頬を優しく撫でた。
『私も同じ……』
黒い少女は目の前の幼子に静かな笑みを施した。
最後にちょびっとだけ書きたくなったので、本編のmoreのような位置付けで書かせていただきました。
これにてこちらの作品は最後となります(たぶん)。
千晴の個性はちゃんと子どもに引き継がれていますが、形は若干変わっています。
美佳の傍には千晴と一佳だけじゃなく、もう1人だけ見守ってくれる存在がいるみたいです。
気付けば長くなりましたが、これにておしまいです。
ここまで付き合ってくださった方々、感想を沢山くれた方、評価を送ってくださった方、本当にありがとうございました!!
他の二次創作も書いてたりするので、よかったらみてってね。