闇の巨人は正義を語らない   作:頓西南北

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本番は三話から。


02少女達の概要

 

   ◆   ◆   ◆

 

 

 

 帰ってきた。

 

 アパートの窓から眺める第三新東京市には、使徒とエヴァンゲリオンとウルトラダークキラーという三体の怪物がぶつかり合ったせいで、直前までの厳密な都市計画に基づいた無機的な都市構造が信じられない程の破壊痕が刻まれていた。

 とはいえ、これでも怪獣クラス三体の激突の痕跡としては小さい方だろう。使徒もエヴァもダークキラーでほぼ瞬殺していたのだから当然だ。これが大出力の光線技が飛び交う激戦だったりすれば、今頃第三新東京市は原型を留めていなかった事は間違いない。

 

「そう考えると、案外原作よりも被害自体は抑えられてるかもしれん。実際、戦自がN2を使う前に使徒を仕留められたわけだし」

 

【ケムール人────イヴィルロード!】

 

 イヴィライザーのジャイロを回し、掌から放射するのは触れた物体を任意の場所に転送する転移光線。それを利用して異空間に存在しているはずの宇宙船の座標に、布団の上に散らばっている大量のルーブクリスタルを転送していく。後は宇宙船が保有する異空間にクリスタルが自動的に格納されて終了、らしい。

 

「じゃ、これで問題ないわけだ」

 

 腕を軽く振れば、その動きに合わせてイヴィライザーが紫電を散らす黒い靄に分解してその姿を散らす。これで後は僕の意志に応じて出したり消したりできるらしい。どういう仕組みになっているかは知らんが、ポケットを占有しないだけ便利。

 

「ふぅ……」

 

 山盛り大量のクリスタルが姿を消し、元通り何もなくなった布団の上に身体を投げ出すように寝転んだ。どっと疲れが押し寄せてくる、気がして、布団の上に大の字で手足を放り出した姿勢のまま、深々と溜息を吐き出した。

 ダークキラーへの変身。凄まじいエネルギーを消費するはずだが、僕自身への負荷はそこまででもないようだ。……少なくとも、肉体には。その一方で精神的には相当に消耗していたらしく、この様だ。沈着冷静のような各種スキルの補助があって戦闘中は何とかなっていたが、根本的なメンタルの絶対値だけはどうにもならないらしい。

 

「やれやれ、って感じだな。こんな程度でこうも疲れ果ててたんなら、この先この調子でどうなる事やら……」

 

 ま、その辺は回数を重ねれば何とかなりそうな気はするが。人間、何事も慣れる生き物だし。そんな風に考えて、もう一度溜息。これでも能力はチートスペックなのだ、戦いで苦戦する事はそう滅多にないだろうし。そんな楽観と共に、充電コードにも繋がずに枕元に放り出してあったスマホを取り出し、その画面をチェックする。

 充電の残量は23%。すぐに電池切れになるような分量ではないが、さっさと充電するべき、といった所か。アパートに引き篭もってひたすらスマホゲーを続けていたら御覧の有様だ。

 充電コードは……机か。うんざりするような感覚に首を振り、仕方なしに体を起こしながらメールの方をチェックすれば、着信履歴が一つ。SNSやLINEなどといったサービスが一般化している今の時代に電子メールで日常連絡など時代錯誤もいいところだが、その手のメッセージサービスにどうにも忌避感と面倒臭さを感じる僕はそれらを利用していないため、携帯で僕に連絡を付けたければメールか直接通話するかのどちらかしかない。

 

「……で、このメールは、と」

 

 アドレスを確認してみれば、半分だけ血が繋がった年子の姉からのもの。面倒臭い、という理由で電話帳すら使っていないため、アドレスを読んで記憶を辿るくらいしか、送り主を特定できない。それでも見覚えのあるアドレスだったから、かろうじて分かる。

 自分が社会不適合者だ、という自覚はあるが、まあ適合できないものは仕方ない。スマホなんてゲーム機として機能すればそれでいいのだ。とりあえずメールを開けば、内容自体は割と一般的な、こちらの安否を問う程度のもの。

 

「メールか……面倒臭い」

 

 眠気に抗えずにスマホを投げ出し、目を閉じる。自分でも大概だと思ってはいるが、それはそれとして社会不適合でも生活するだけなら黄金律スキルで何の問題もないし、わざわざ矯正する必要も感じない。人と交われない寂しさよりも、人と関わる鬱陶しさの方が辛く感じる性格なので。

 そうして、小一時間ほどウトウトと微睡んで目を覚ます。辺りを見回せば、相変わらず普段通りの僕の部屋だ。窓の外、半壊していたはずの第三新東京市の街並みをオレンジ色に燃える夕日が照らし出している。兵装ビルの大半は地下に引っ込んで、街並みは平時のものへと入れ替わっており戦闘痕は目立たないが、それでもところどころに紛れもない破壊の痕跡が刻まれており、その周辺では既に再建作業が始まっているようだ。

 

「あー……これからどうするか、だけど」

 

 ネルフの上位組織ゼーレ、そしてネルフ総司令碇ゲンドウ。それぞれが企む人類補完計画の阻止。そこまでは決まっている。だが、問題はそのために何をすればいいか、だ。補完計画の鍵になるのはエヴァンゲリオン、チルドレン、ロンギヌスの槍、アダム、リリス。

 

 エヴァ……どうせ量産できるものをいくら壊しても意味ナシ。

 チルドレン……操縦者の資質を持つ者を選出するマルドゥック機関は実体のないダミー企業であり、根本的なマッチポンプ。どうせ始末しても代わりはいくらでもいるので、あまり意味ナシ。

 ロンギヌスの槍……南極にあるらしい。いや、死海かもしれんが、媒体によって記述が違うのが面倒。まずは探すところから始めるか、それともゼーレが引き上げるのを待つか。

 アダム……どっかにあるのは間違いないが、どこにあるのか分からん。まあ敵が持ってきてくれるのを待とう。

 リリス……使徒を第三新東京市に引き寄せるための釣り餌になってくれているので、今の時点で処分するのは得策じゃない。やるとしたら、第十七使徒を片付けた後だ。

 

 いくら最強の力を持っていたとしても、やれる事が本当に少ない……いや、待てよ。それ以外にももう一つ……いや、もう一人、綾波レイというキーパーソンが────そう思った時、玄関口から扉を叩く音が聞こえて、僕は思考を中断した。遠慮がちに、しかし繰り返し叩かれるドアノックに、何事か、と思いながら玄関へと向かう。

 そういえばインターホンも故障していたか。どうせ客など来ないと思っていたから放置していたからこうなったわけだが、僕に来客なんて一体誰だ?

 

「はいよ、どちらさま?」

 

 がちゃり、ドアを開ける。開いたドアの向こうには夕暮れの赤い光に照らされた普段通りのアパートの二階通路が広がっており、見覚えのある少女が立っていた。僕と同じ市立第壱中学校の制服は、小学生にも見えるくらいに幼い身体にサイズが合っておらず、多少ながら袖や裾を余らせている。背中から腰の後ろまで伸びた綺麗な銀色の髪と、湖水のように透き通ったアイスブルーの瞳。ロシア系のクォーターとしての遺伝子を色濃く浮かび上がらせた彼女は、僕とは半分だけ血が繋がった姉『藍染ヒビキ』。さっきのメールの送り主だ。

 

「…………ヒビキ、か。久しぶり」

 

 再会の言葉は、そんな決まりの悪いものだった。久しぶり、と言っても問題ないくらいに、交流の少ない相手。こうして顔を見るのすら、二週間ぶりになるだろうか。少々複雑な事情があるせいで、それくらいに疎遠で、そして顔を合わせるのも決まり悪い相手だったが。

 

「あ、そう……だね。本当に久しぶりだ」

 

 久しぶり過ぎて、何を話していいのか分からないのだが。というか、人との会話全般において何を話していいのか分からないのだが。共通する趣味なんかもあまりないし。ちなみに一番習得したい会話スキルは煽りと論破の二つ。この二つさえあれば、人との会話で負けた気分を味わう必要がなくなるので。他はいらん。

 

「それで、今度は何か用か? こんな場所に来るなんて、珍しいと思うけど」

 

 こんな場所。実際にこんな場所、と呼べるだけの場所である。第三新東京市でも辺境も辺境、大半が建設途中で廃棄された団地の一角であり、かろうじて屋根があって電気とガスと水道が通っているだけの、見た目ほとんど廃墟と区別がつかない辺り。もっと具体的に言えば、原作で最初に綾波レイが住んでいた辺り。

 

「うん、その……メール、返事来なかった、から……」

「あー……ごめん。そういえば返事するの忘れてた。悪い」

 

 言い辛そうに言葉を選んでいるヒビキに当り障りのない答えを返すと、ヒビキは透明な青い目をわずかに見開いて、表情の薄い顔にわずかに驚きの感情を乗せた。そういえば、そんな間柄……会話に対してマトモに返事を返す事すら驚かれるような仲だったか。返事の代わりに舌打ちか、無言でその場を立ち去るようなコミュニケーションしかした事がなかったから、な。

 

「……こんな場所で話すのも何だし、中、入る? 散らかってるけど」

「う、うん。そうだね、入らせてもらおう、かな」

 

 とりあえず部屋に招くと、ヒビキは少しの躊躇いを見せながらも僕の後に続いて部屋に入ってくる。幼い容姿の姉が戸惑いの中にどこか嬉しそうな表情を浮かべているように見えたのは、気のせいだろうか。実際散らかっていて、どう考えても女の子を迎えるような状況じゃないが、急な来客だから仕方ない。まあルーブクリスタルの転送は済んでいるし、エロ漫画とか見せたくないものは見えない場所に置いてあるので、問題ないだろう。

 

「……本、読むんだ」

「全部ラノベか漫画だから、そうそう高尚なものは置いてないけどね」

 

 アパートに入ったヒビキは、ネット、スマホゲー、ラノベ、漫画、というオタ趣味全開の部屋の壁を埋め尽くす本棚を眺めて溜息を吐く。その溜息に侮蔑の色がない事に素直に安堵した僕は、彼女を机とセットになった椅子に座ってもらい、自分はベッドに腰掛ける。

 それでもって、さあここからどうしようか、などと考えるが、何も思いつかないのが現状だ。部屋に招いた女の子との会話の方法なんて知らん。そんな僕の葛藤は伝わっていないのだろう、学校帰りなのだろう学生鞄と、買い物袋を抱えたヒビキは興味深そうに本棚に並んだラノベの背表紙を眺めている。

 

「あ、そ、そうだ。ご飯、作ろうか? ……その、こっちに来る時に食材、買ってきたから」

「作ってもらえるなら、是非。正直、代わり映えしない総菜パンには飽きてきたところなんだ」

「そうか。ま、まあ私もあまり大したものは作れないから期待されても困るけど」

 

 それだけ言うと、ヒビキは制服の上から買い物袋から取り出した可愛らしいエプロンを着てキッチンに向かう。そもそもほとんど使っていないため清掃もロクにしていないが、まあ電気も水道もガスも通っているからそれなりに普通のキッチンとしては使えるはずだ。

 とにかく、これでしばらく会話する必要がなくなった事に、僕は安堵の溜息を吐いた。とんとん、と軽くキッチンを動かす音が聞こえてくるが、匂いからしてどうやらカレーらしい。カレーとか本格的に作れば相当な時間が掛かるはずだが、まあ、そこは出来合いのカレールーなんかを使って時間短縮するようだ。

 

「……ねえ、アカツキ」

「何?」

 

 無言のまま鍋を掻き混ぜていたヒビキが、キッチンから不意に声をかけてくる。僕が脊髄反射のような返事を返すと、少しだけ躊躇って間を置いて、ヒビキは言葉を続けた。

 

「その、ね。気を悪くしないで聞いて欲しいんだけど……今日のアカツキは、どうしてちゃんと話をしてくれるのかな? そう、まるで……」

「────まるで別人と入れ替わったみたい、か?」

「っ!? それは……」

 

 大した意味も込めずに質問に質問で返すような不誠実な返答は、しかし思いの外ヒビキの意図を見抜いていたのか、ヒビキは思わず言葉を詰まらせる。なるほど、流石は姉、というべきか、ちゃんと僕を見ていてくれる。それとも、僕が単純なだけか。

 

「ある意味では近いけど、違うよ。ただ少し、自分を見つめて冷静になる機会があっただけ。僕はちゃんと僕だから、その点は安心してくれ」

「そう、か。……それなら、いいんだ」

 

 正確には、少しだけ違う。転生して、前世の記憶を思い出した結果、“自分”という認識の主体が夕霧アカツキという名前を持つ今の自分から、かつては夕霧アカツキではなかった前世の自分に移り変わった。だから今までよりも一歩引いて、客観的かつ冷静に自分を取り巻く状況を認識する事ができている。

 それに加えて『沈着冷静』スキルなんてのを転生特典に持っているおかげで、状況分析だけは感情に左右されずに行えるから、という理由もある。スキルありきの冷静さ、という事自体が失笑ものの話ではあるのだが、まあそれは置いておくとして、しかしだからといって、僕が僕でなくなったわけではないからして、かつての自分も、今の自分も、合わせて自分自身と認識できているし、その感情も全て継続しているから、僕は僕自身だ。

 

 その辺の事情はヒビキに対しては説明のしようがないのだが、しかしそれでも彼女は納得してくれたようであり、だからそれでこの話は終わり、と相成った。

 

 

 

 ……カレー美味しかった。

 

 

 

   ◆   ◆   ◆

 

 

 

 そして、その夜。

 

 ヒビキを一人で帰らせるのは流石に良心が咎めたため、彼女が暮らしている割と大きな家の近くまで送っていった。最後は少し寂しげに見えたが、読み取ったその感情から敢えて目をそらし、立ち去る事にして。そこから人気のない物陰へと移動し、路地裏のアスファルトを強く蹴り飛ばして一気に頭上へと飛び上がる。地面を蹴り、電柱の側面を蹴り、街灯を蹴ってビル壁へと跳躍し、そのまま跳ね返るようにして隣のビルの屋上へと飛び上がる。ふわり、と心地いい夜風が頬を撫でた。

 

「……ふぅ」

 

 流石に、一っ飛びとまでは行かなかったか。ダークキラーの力がまだそこまで馴染んでいない証拠だが、それでもロクに鍛えられていない単なるモヤシだった僕の肉体はダークキラーの闇の力を取り込んで超人的な強度と出力を得るに至っていた。今なら腕力だけで鉄パイプも曲げられるだろう。

 ウルトラマンジャックの変身者である郷秀樹がその影響で超人的な身体能力を誇っていたように、僕の身体にも似たような恩恵が作用しているらしいが、まあスペックが上がって困る事はないので、素直に受け入れる事にして。

 スーパーコンピューターMAGIによる監視カメラ網で常に監視状態にある第三新東京市だが、この辺は昼間の戦闘に伴って送電網が破壊された影響でカメラ群が機能を停止しており、それが未だ復旧していない事は、ダークネスフィアのメインコンピュータによるナヴィで確認済みだから、少しばかり遊んでも問題なく、ネルフに僕の存在が露見する事もない。

 

「科学の要塞もインフラが壊れれば形無し、か。虚しいものだよね」

 

 埃が積もったコンクリートを踏んで歩き、屋上の縁に立って外を隔てるフェンス越しに街を見下ろした。頭上から見下ろす第三新東京市の夜景には送電網の破壊により明かりが点いていない黒い闇が虫食いのように広がっており、復旧が未だ進んでいない事を示していた。

 これから繰り返し使徒の戦禍に晒されるこの要塞都市は、当分こういう状況が続くのだろう。

 

「さて、と。それじゃ、仕事の時間だ」

 

 仕事。僕の目的である、人類補完計画阻止のために活動する時間だ。そのために早速、必要な駒を取りに行くとしようか。

 

 心地いい夜風が吹くビルの屋上に佇んだ僕は、腕を掲げてイヴィライザーのパレットを展開する。内部に格納されていた八枚のクリスタルから転移用のケムール人を残し、ダークネスフィアのクリスタル収容用の亜空間へと転送されていく。そして、それと入れ替わりに亜空間から転送されてくる別のクリスタルが、残るパレットの空きを埋めていく。

 

「……本当に、いろんなクリスタルが揃っているわけだが」

 

 全てのクリスタルが入った事を確認すると、パレットに格納されたクリスタルの内容を確認した後、パレットから二枚のクリスタルを取り出してイヴィライザーへと装填、勢いをつけてジャイロを回転させた。

 

【ケムール人、ネロンガ────イヴィルロード!】

 

 テレポートと、透明化。二つの能力を起動して、僕はそのまま再びビル街から姿を消し、後にはただ、誰もいないビルの屋上だけが残されていた。

 

 

 

   ◆   ◆   ◆

 

 

 

 第三新東京市の片隅にある病院。ここもまた、特務機関ネルフに所属する施設の一つであるのだが、看板にそう書いてなければ、割と大きな規模はともかくとして、それ以外はどこからどう見ても普通の総合病院にしか見えない。

 時刻も既に十二時を回っており、病院もわずかな夜勤者を残して人の気配はほぼ消えており、死んだような静けさが院内を満たしていた。

 

 ダークネスフィアから飛ばしたプローブからの情報によれば、エヴァ初号機のコクピットから解放されたパイロット『綾波レイ』は最初から受けていた負傷と疲労、加えて前回の交戦で受けたダメージが相まってこの病院に緊急搬送され、つい数時間前に緊急治療室から出てきたところであるらしい。幸いにも命に別状はないようだが、未だ昏睡状態で予断は許さないのだとか。

 

 

 ……なら、助けてあげようじゃないか。御代は、まあ魂で結構だ。どうせ死んでも代わりのクローン体がいくらでも出てくる安い命なんだ、それならこの程度、安いものだろう?

 

 

 心の中では悪魔の契約じみたセリフでカッコつけまくりだが、実際にやっている事はコソ泥同然という、内心と現実の矛盾からは転生しても逃れられないようだ。実際に厨二病の夢を叶えたがごときスーパーパワーを手にしても、この様。まあ結局のところ、どこまで行っても僕はそういう人間なのだからその辺を受け入れて生きていくしかないのだろう。

 と、いうわけで巡回する警備員をやり過ごし、透明化と共に足音を忍ばせながら病院の白いリノリウムの廊下をコソコソと歩いていく。綾波レイが収容されている病室はあらかじめ確認済みだから、イヴィライザーから展開されるホロウインドウのナビ通りに進めば全く問題ない。

 

「はーい、検温に来ましたよー」

 

 誰にも聞こえないように小さく、囁くような声で嘯きながら病室のドアを開く。個室であるから他の患者はおらず、無駄に広い殺風景な病室の真ん中に置かれたベッドの中に一人の少女が横たわっている。

 人形のように整った顔立ちの少女が死んだように眠りについているその姿はまるで一枚の幻想絵画のような美しさだが、そんな事はどうでもいいから、とイヴィライザーのパレットから二枚のクリスタルをスロットに嵌め込んでジャイロを稼働させ。

 

【イヴィルライブ────ダークファウスト!】

 

 ジャイロから渦巻く赤い妖光と共に現れたのは、赤と黒の色彩を纏った魔人。僕が変身するダークキラー同様にその大まかな姿はウルトラマンに酷似している一方で、その両眼は禍々しくも虚ろな闇の色をしている。『ウルトラマンネクサス』においてウルトラマンと対を成す邪悪な闇の巨人“ウルティノイド”の一体。

 イヴィライザーの召喚能力によって具現化し、人間と同じサイズで顕現したソイツは、僕の命令を待つかのようにその場に無言で佇んでおり。

 

 僕はそれに構わずに再びイヴィライザーのジャイロを回し。

 

【ウルトラマンヒカリ、ダークザギ────イヴィルロード!】

 

 『ウルトラマンヒカリ』。ウルトラマンの世界における偉大な科学者であり、その最大の功績こそが“命の固形化に関する研究”だ。具体的には、初代ウルトラマンやウルトラマンゼットがそうであったように、瀕死の人間と瀕死のウルトラマンが融合する事でその命を長らえ、両者の完全復活を可能とする。

 『ダークザギ』。恐怖を喰らう怪獣スペースビースト達を統率し、ダークファウストを始めとするウルティノイド達の頂点に立つ最初にして最大最強の闇の巨人。そして『ウルトラマンネクサス』のラストを飾ったラスボスである。

 二つのクリスタルの能力を発動させたイヴィライザーからダークファウストに向けて細い光線が射出されると、それを浴びたダークファウストは血のような禍々しく赤い色合いの光球へと変化する。それを掴み取ってベッドの上で眠る綾波レイの胸に押し付けると、赤く明滅する粘液のようなエネルギー体へとその身を溶かしたダークファウストが綾波レイの身体へと溶け込むようにしてその体内へと侵入し、同化していく。後はダークファウストが内側から彼女を侵食し、彼女の身体を癒すと共に、彼女をこちらの忠実な傀儡へと仕立て上げれば作業は完了だ。

 

 要するに、『ウルトラマンネクサス』の主人公の恋人と同じ目に遭わせているわけだが。

 

 侵蝕完了までにはそれなりの期間が必要だろうが、結局のところ彼女に対しては人類補完計画の最終局面で碇ゲンドウを拒絶してくれさえすればいいので、ある程度時間が掛かっても問題はない。むしろ問題は、それまでに次の綾波レイに交代させられる可能性だろうが、それはそれで仕方ないので次の手段を試せばいい。できそうな事はできるだけやっておくべきだろう。

 

「……これでよし、と。じゃ、さっさと帰るとするかね」

 

 眠いし腹減った。ジャイロに嵌まっている転移用のケムール人クリスタルを確認し、とりあえずさっさと帰ろうか、などと考えながら、ふと直感が働いて窓際へと歩み寄り、そのカーテンの隙間から病院の外を覗いてみる。数本の街灯に照らされているだけの病院の前庭に人の姿はなく森閑と静まり返っているだけだが、そのベンチの傍に一台の大型バイクが停車しているのが見えた。そのバイクの正体を、僕は知っている。

 

「確か────ゴーバスターズ、だっけか。そのレッドのヤツのサポートユニット」

 

 チーターを象ったシャープな赤い外装が特徴的なそのバイクを、僕は前世の知識で覚えていた。同じ特撮とはいえウルトラマンとは別系統、スーパー戦隊シリーズの一作品『特命戦隊ゴーバスターズ』に登場する主人公ともいえるレッドバスターの専用バディロイドであるチダ・ニックの変形した姿だ。

 ……何でエヴァンゲリオンの世界にそんなものがあるのかは分からんが、もしかしたら僕以外の転生者がゴーバスターズの特典をもらってこの世界に来ている、とかそういうのかもしれん。というか、それしか理由が思いつかない。

 

 だが、仮にそんな転生者がいて、それがこんな時間にこんな場所まで来ている理由は、一体何なのか。

 

「考えるまでもない、僕と一緒、か。ま、そりゃそうだ。考える事は皆一緒かね」

 

 この病院に転生者が何か欲しがりそうなものなんて、一つしかない。ここに入院している綾波レイだ。治療するのか、それとも誘拐してあれやこれやを仕掛けるのか。前者を口実に、実質的には後者、なんていう面倒臭いパターンも割とあり得るか。まあ他人の事情なんてどうでもいいし、綾波レイの胎内に潜ませたダークファウストさえどうにかされなければ、ソイツが何をしようがどうという事もない。

 でもまあ、病院に潜入して今この場に向かっているであろうソイツと遭遇するのは避けたいので、さっさと移動した方が良さそうだ。だが、ただ帰るだけでは芸もない、か。ここは一つ情報収集の一つでもしておきたいところ、と。

 テレポートで直帰しようという考えを改めた僕はイヴィライザーを使ってダークネスフィアにプローブを飛ばしてバイクを追跡するように指令を飛ばすと、再び転移する。行き先はバイクのすぐ傍、ちょうど木立の影になって、街灯の光が届かない位置。

 そうしてそのまま木立の影に身を潜ませたままイヴィライザーのパレットを開き、新たなクリスタルを装填し。

 

「んじゃ、軽く強行偵察と行ってみようかね。ま、偵察するのは僕じゃないけど」

 

 囁くように呟いて、ぐるり、とジャイロを回す。

 

【イヴィルライブ────ゴメス!】

 

 怪獣召喚、現れるのはオーソドックスなゴジラタイプ、怪獣と聞いて誰もが想像するような、背筋を立てて直立した恐竜のような怪獣『ゴメス』だ。見た目はどう見ても爬虫類だが、実際は哺乳類なんだとか。特徴といえば頭頂部から伸びる三日月型の角くらいか。

 ウルトラ怪獣としては随分と小柄な全長二十メートルサイズであり、都市内では通常の怪獣よりも小回りが利いて動きやすい。元は警備員や警察に見つかった時の陽動のために持ってきたクリスタルだが、相手が仮面ライダーであるのなら小手調べには十分だろう。

 

「それじゃ、後は若い者同士、みたいな感じで頑張ってくれ」

 

 再びジャイロを回し、ケムール人クリスタルの力で転移を発動し、一旦ダークネスフィアに戻っておく事にする。

 

 

 

   ◆   ◆   ◆

 

 

 

 でもって。

 

「おーおー、格好いいねー。さっすがヒーロー、ってところか。まあ単なるヒーロー気取りって線も……いや、本来の目的であるはずの綾波レイへの接触を放り出してゴメスの排除に取り掛かっている以上、本物のヒーローと考えた方がいいかね?」

 

 などと嘯きながら、ダークネスフィアの荒野に取り残されたように置かれた玉座に腰掛けて、僕はのんびりと動画鑑賞に精を出していた。病院に配置したプローブから送信されてくる映像が虚空に投影されたホロモニターにリアルタイムで映し出されているのを、のんびりと眺めている。

 できれば画像鑑賞にはコーラとポップコーンが御供として望ましいところだが、残念ながらそういう持ち合わせはないので仕方ない、と。

 玉座に腰掛けたまま指を鳴らすと、玉座の脇の地面から黒紫色の輝きが溢れ、その中から姿を現す水盤にも似た円盤型の台座。その中心に設けられていたスロットに、イヴィライザーのジャイロから取り外したゴメスとダークファウストのルーブクリスタルを嵌め込むと。

 

【ライブ────ゴメス!】

 

 中心にクリスタルを受け入れた台座はひとりでに回転し、黒紫色に輝く闇の粒子を空に向かって立ち昇らせる。限定的にイヴィライザーと同様の機能を持つ召喚装置だ。これがあれば、イヴィライザーのスロットを消費する事なく、常時召喚状態を維持できる。

 これでよし、と見上げたホロウインドウの中ではゴーバスターズ────レッドバスターに変身した青年とそのパートナーのバディロイドが、自身の十倍ほどの体躯を持つ怪獣を相手にして激戦を繰り広げている。バイク形態に変形したバディロイドに乗り、巧みなバイクテクと銃撃でゴメスを誘導、どうにか市民から引き離すべく悪戦苦闘中。

 

「で、レッドがいるなら残りもいるよな。とりあえずはブルーとイエローだけ、か。ゴールドとシルバーはいないのかな?」

 

 それでも最低二人、仲間がいる、というのも羨ましい話だが。ともあれレッドの仲間が駆け付けてきたらしい。イエローが操縦しているであろうヘリコプター型のビークル『RH-03 ラビット』がゴメスに向かってバルカンを叩き込んでレッドを援護、同時にその機体からバイクに乗ったままのブルーが搭乗したバイクごとアスファルトの地面に豪快に着地する。

 

「って、パワータイプのブルーが? 高速機動戦で? いや、あー……ゴーバスターズ以外にも能力持ってるのか。っていうかあのバイク……」

 

 ブルーバスターが搭乗しているのは、スペースシャトルを象った白い外装が特徴的なバイク『マシンマッシグラー』。前世で見た特撮作品の一つで見たヤツだが、同じ特撮とはいえウルトラマンとは別系統、仮面ライダーシリーズの一作品『仮面ライダーフォーゼ』に登場する主人公の専用バイクだ。

 ……何でエヴァンゲリオンの世界にそんなものがあるのかは分からんが、もしかしたら僕以外の転生者がフォーゼの特典をもらってこの世界に来ている、とかそういうのかもしれん。というか、それしか理由が思いつかない。

 

「……で、バイクがあるならベルトもあるよなー」

 

 半世紀前のレトロ映画に出てくるような宇宙船の操縦盤にも似た、大型のベルトバックル。それを腰に装着したブルーバスターは、バックルに四つ並んだソケットに装着されたスイッチを順番に押し込み、最後にバックル脇のレバーを引いてシステムを起動、白いロケットかオニギリのようなユーモラスな顔立ちの、宇宙服を模した装甲強化服を装着した『仮面ライダーフォーゼ』へと変身する。

 

 となると、他のレッドやイエローも同様に何らかの追加能力を有している可能性が高いが、しかしこの様子では解析し切れないだろう。加えて、イエローが乗っているであろうヘリ型バスターマシンと同型の白いヘリコプター型までが彼らを援護するようにして登場してきたからして、その辺の未確認機体の情報も欲しいところだ。

 もう一押し試してみてもいいかもしれないが、どうしたものか。もう夜も遅いし、本音を言えばいい加減寝たいのだが。というか、これでも原作主人公が転入してくるであろうクラスで中学生やっているので、これ以上起きてると明日の授業に差支えが出てくるかもしれないから本当にさっさと寝たい。

 

「……っても、情報は大事だし。せめて最後のもう一押しを試してから、さっさと寝よう」

 

 イヴィライザーのジャイロにもう一枚新たなクリスタルをセットして、ジャイロを回す。セットするクリスタルは第三新東京市で戦っているゴメスの強化を目的としたものであり。

 

「ダークサンダーエナジーを喰らえ! 盛大に暴れろ、ゴメス!」

 

【グリーザ────イヴィルロード!】

 

 イヴィライザーが帯びる黒紫色の輝きに、黒く燃える稲妻のような光が混ざり込む。同時にモニターの向こうでも、ゴメスの全身が黒い稲妻の輝きに包み込まれ、せいぜい全長二十メートル止まりだったその体躯を大きく膨張させて、通常のウルトラ怪獣と同程度の全長四十メートルほどにまで成長させる。

 とりあえずはこれでよし。もういい加減眠気も限界なので、映像については録画しておいて後で検証。もう、寝る!

 

 

 

 




バトルよりも寝る事を優先する主人公。
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