ぶっちゃけこっからが本番、みたいなもの。
◆ ◆ ◆
で、翌日。
本来、学生であれば当たり前のように学校に行かなければならないわけだが。
「……学校、行きたくねえ」
五月病だとか、サボり魔だとか、そういう理由があったわけじゃない。ただ、それほど複雑ではない諸事情があって、ここしばらく自主的に休校していただけだ。具体的には、いじめ。
「町を守るウルトラマンも、いじめっ子を踏み潰しに来てくれるわけじゃないし……警察も弁護士も役に立たないし。相手がネルフの重役の子供だってだけで、どいつもこいつも自主的に話を隠蔽したがるとか……実に躾けが行き届いている事だ」
でもまあ、いいか、とも思う。警察や弁護士よりももっと頼りになる転生チートがあるわけで、アイツらと顔を合わせなくても生きていけるから問題ないのだ。チート、といえば反則やズルを意味する言葉であるわけだが、そうしないと生きていけない人間にとっては天の助けだ。
だからこのまま登校せず、一生受験も就職もできなくても、黄金律スキルがあれば十分以上に豪勢な生活を送っていけるわけで。
ただ、まあ。
「学校の様子も、気になるんだよなー……」
昨日の今日だし、ダークファウストと悪魔合体して傷が完治した綾波レイが学校に来ているかどうか微妙なところだが、それはそれとして原作で碇シンジが転校してくるはずのクラスだし、あるいは他転生者が紛れ込んだり、転校してきたり、なんて可能性もあるわけで。ネルフサイドの情報を仕入れるための情報源も欲しいので。
特に今。昨日の今日で他転生者、かどうかは知らんが出所不明のゴーバスターズと仮面ライダーフォーゼの存在を目の当たりにしたところだし。
「可能性だけなら、何でもありだしなー……気は進まないけど、行ってみるか」
と、いう事で、久しぶりに登校する事にした。
◆ ◆ ◆
幸いにも、朝から絡まれる事はなかった。いじめ主催者である爆豪ってヤツが遅刻してきたので。その辺、野郎が出てくるまではそれなりに羽を伸ばせたわけではあるのだが。
「────その頃、私は根府川に住んでいましてねぇ……」
などと板書しながら何やら云々言っている教師のセリフをスルーしながら、半ば上の空で黒板に書かれている内容をノートに書き写していく。ぶっちゃけ眠いしダルいし、授業内容の半分も頭に入っていないのだが、まあ仕方ない。はぁ、と溜息を吐きながら、授業に置いていかれないようにノートを取る手だけを半ば脊髄反射で動かしていく。
まあ、面倒臭い塾とか家庭教師とか無しでもこれだけやっていればテストでもそこそこの点は取れるので、中学生の学生生活というのも楽なものであるのだが。
「綾波は大事を取ってもう一日休み、鈴原トウジも戦闘に巻き込まれて死亡した妹の法事で休み、か……休み多いな」
裏事情を知っているどころか僕自身が仕掛け人である前者はともかく、後者は完全なイレギュラーだ。原作だと少なくともこの時点では、媒体によってナツミだかサクラだか名前が変わる鈴原妹の被害状況は、せいぜい負傷して入院止まりだったはずだが。実は僕がサキエルの死体を焼き払った時に一緒に焼却してしまった、とかいう話であり、それが本当であればまあ……鈴原妹の死は完全に僕のせいという事になるのだろうが。
使徒の死骸の回収を妨害する事は、S2機関搭載型エヴァシリーズ開発の妨害、ひいては人類補完計画の妨害に繋がるのでやらない選択肢はなかったし、そもそも僕はただ単に転生特典で力をもらっただけの普通の人であり、本物のヒーローでも何でもないので、巨大怪人に変身して街で大暴れしても人的被害がゼロで終わるなんて御都合主義は有り得ないわけで。ま、その辺はコラテラルダメージって事で一つ。
ついでにいえば、鈴原トウジが原作中盤でフォースチルドレンに選定されてエヴァンゲリオン参号機のパイロットになったのは、ここで負傷した彼の妹が参号機のコアに溶かし込まれた結果だった、という説があるからして、それが正しかったならどのみち彼女はもうしばらくすればネルフに殺されているからして、せいぜい死期が少しばかり前後した程度の結果にしかならないから、そうそう思い悩む必要はない、はずだ。多分。というか、鈴原トウジが参号機に乗らなかった新劇場版で鈴原妹が生存したのって、まさか、な…………ははは。
はぁ、と溜息もう一つ。寝ても起きても、次から次へとやってくるイレギュラーが多過ぎる。これ以外にも、かなり問題点の多いイレギュラーが多発しているのだ。
まず昨日の戦闘。ゴメスを倒したのはゴーバスターズではなく、後から現れた別の存在、それもウルトラマンだった。特徴的なエックス字のカラータイマーからしてその正体は『ウルトラマンエックス』、多種多様な怪獣の力を鎧にして身に纏う、拡張性に優れたウルトラマンだ。
誰が変身しているのかは知らないし、あるいは変身者そのものが存在しないのかもしれない。変身者がいるとして、それはこの世界に普通に本物のウルトラマンがいたからか、普通に平行世界から飛んできたのか、それとも僕のように転生者が転生特典として持ち込んだのか。情報が少な過ぎて推測ができない。
何にせよウルトラマンが相手だ、使徒の始末や、人類補完計画関連の阻止といった僕の行動を邪魔される可能性もあるからして、これからは慎重に立ち回る必要があるだろう。まあ、その辺はゴーバスターズが出てきた時点で想定くらいはしている話であるし、割と今更だ。
むしろ何かと世界を守りたがるウルトラマンの性質を考えれば場合によっては共闘すらできる可能性もあるわけだが、その辺はダークキラーとウルトラマンの根本的な敵対関係を考慮に入れれば微妙だし、最初から期待していない。
それから二つ目、今日の朝にニュースや新聞で発表されたところによると、日本の戦略自衛隊の主導により、使徒殲滅のための新たな特務機関『ストレイジ』が発足したらしい。で、ゴメスに対応したゴーバスターズがストレイジの戦力であるらしい。ストレイジといえば『ウルトラマンZ』に登場する地球防衛組織だが、この世界のストレイジはそれと全く同じであるわけではなさそうだ。
本拠地をネルフがある第三新東京市に置く事ができなかったか、それともそもそもネルフを信用していないのかは知らんが、ともあれ近場の空に浮かべた空中巨大要塞エリアルベースであるらしい。
……もう一つの特務機関、というネタも、二次創作では相応に見覚えがあるネタだ。だいたいは原作主人公がメインパイロットとして所属していたりするのだが、この世界だとどうなんだろうか? 原作通りネルフに所属しているなら、今頃はネルフでエヴァ初号機を動かすための訓練漬けで、『目標をセンターに入れてスイッチ』とか念仏を唱えながら必死に訓練を続けているところなんだろうが、ストレイジの方にいるんなら分からんな。
で、最後にもう一つ、中学の僕が通っているクラス……つまりはその内に原作主人公である碇シンジが通う事になるクラスに転校生がやってきた。それも三人。ワイルド系イケメンの『ムサシ・リー・ストラスバーグ』、何か普通そうな顔でいまいちパッとしない見た目の『浅利ケイタ』、普通に美少女の『霧島マナ』の三人だ。
その名前くらいは憶えている。原作であるエヴァンゲリオンの本編では登場しないものの、ゲーム版の登場人物だとかで、よく二次創作で登場していた顔ぶれだ。確か戦略自衛隊だかどっかのスパイで、陸上戦艦トライデントとかいう欠陥機のパイロットだったっけ?
まあ、その辺はどうでもいい。だいたい、こいつらがゲームでもどの辺で出てきて、どんな活躍をしたとか分からんし。第一ゲーム版とか分かるわけがない。前世における最大の情報ソースである二次創作での立ち位置も、せいぜいが逆行したり強化されたりした碇シンジの便利な味方ポジションというだけだ。
その辺を考えると、もしかしたら人数的に考えてこの三人がゴーバスターズのメンバーであるのかもしれんが。だが、昨日のゴメス戦で出てきた、本来は存在しない四機目のバスターマシン、白いウサギヘリの事もあるし、メンバーがもう一人いるって事も考えられる。ネタ的に考えればその四人目が碇シンジだったりするのだろうが、その辺はどうなんだろうか。そもそもその手の二次創作であるなら碇シンジはウサギヘリよりも主人公機といえるゴーバスターエース辺りのカラバリに搭乗して出てきそうな気がするのだが。
「ま、どうでもいいか。情報が少な過ぎるし、考えてもムダ」
退屈そうにアクビを嚙み殺しつつ教科書に隠してスマホを弄っている霧島マナ、机の上に顔を突っ伏して完全に昼寝しているムサシ・リー、一人だけ真面目に授業を受けている浅利ケイタの三人を順番に観察していくが、これといって不審な点は見られない。
途中で僕の視線に気づいた霧島マナが軽くウィンクを送ってくるが、単に視線に反応した程度であるようで、他の男子生徒にも時折似たようなジェスチャーをしている辺り、特に目を付けられたという事はなさそうだ。だいたい、見た感じ割とこの程度のぶしつけな視線は周り中から飛んできているようだし。
ともあれ、そんな感じでとりあえずは何事もなくチャイムも鳴って授業も終わり。ちょうど昼休みなので、弁当代わりの総菜パンの包みを取り出して昼食と行こう。教室は割と人がいるし、屋上も転校生三人組が昼食に使うらしいので、校舎裏の日陰へと移動。
セカンドインパクト以来、今の日本は常夏の亜熱帯と化しており、外に出た途端に蒸し暑い夏の空気が全身を包んだ。そんな場所でゆっくりするつもりはないので、頭上から存分に降り注ぐ鬱陶しい真夏の日差しを振り払うように歩いて、校舎側面に伸びた非常階段が作り出す日陰へと避難する。
「ふぅ……平和だ」
めっちゃ穏やかだ。いじめグループは今は屋上でパーリナイしているところだからどうでもいいし、リア充グループに参加強制されているわけでもないから、煩わしい面倒もないし、こうして昼休みに一人静かにスマホを弄ってネット小説の鑑賞と洒落込んでいても邪魔が入らない。
メンチカツパンを齧りながら割とテンプレな内容のネット小説の文面を追っていく。最近のマイブームはアンチ悪役令嬢とかそんな感じだが、時代のニーズに先行し過ぎているのか、どうにも趣味に沿った小説は中々見つからない。テンプレ読者勢が悪役令嬢ものに飽きてくるまではまだまだ相応の時間が必要そうだが。
ともあれ。
「サキエルが片付いて、次はシャムシエル。……でもまあ、それ相応に時間はある、と」
確か、およそ三週間。新兵同然どころかそれ以下のパイロットの訓練、エヴァの整備やマトモな武器の開発、サキエル戦でぶっ壊れた第三新東京市の整備や再建なんかを行わなければならないネルフからすれば短い時間なんだろうが、普通の学生生活を営んでいればいい僕からすれば、割と長いインターバルだ。少なくとも、一週間に一度のペースで凶悪な怪獣や宇宙人が出現するウルトラマンの世界と比べればびっくりするほど平和な日々だ。
なら、その間に何をするか。もし僕が碇シンジとかであれば、使徒戦で負けないように鍛錬するとか色々あると思うのだが、生憎と僕はチート完備の転生者であるため、鍛える必要がない。どちらかといえば、情報収集の方が重要であるわけだが。
「……情報収集、ねぇ」
情報収集といえば、ネルフ側からの情報収集も進んでいない。綾波レイの胎内に植え付けたダークファウストが仕事をしてくれるようになれば、そっちに丸投げとはいえ、それなりにもう少し色々とやれるのだが……さて。少しでも乗っ取れるようになるまで、どれほど時間が必要なのか。
「斎田リコの場合だと、変身して戦闘できるくらいにダークファウストの主導権が確立されるまで約半年。それをボーダーラインだと仮定して……まあ最低、約束の日に碇ゲンドウを拒絶してくれるだけで十分なんだけど」
はぁ、と溜息を吐いていると、何やら屋上から妙な騒ぎが聞こえてくる。ストラスバーグ、浅利、霧島の転校生三人組が屋上に入ってきて、そのままクラスカーストトップを占めるいじめグループと遭遇、そのまま屋上の占有権を巡って小競り合いになったらしい。
ちなみに勝負は転校生グループの圧勝。まあ、そりゃそうだ。転校生グループの連中が原作設定どおりに戦時の少年兵だったら、どう考えてもその戦闘力は単なるチンピラ止まりのいじめグループの連中とは格が違う。トップである爆豪もいないしな。
とりあえず転校生組に焙り出されたいじめグループがこっちに逃げてくると面倒なので移動しようと立ち上がろうとした、そんな時。
「────よぉう夕霧くん、元気そうじゃねぇか!」
嘲笑を含んだ声と共に、スマホを握っていた右手が横合いから勢い良く蹴り飛ばされた。跳ね飛ばされたスマホが吹っ飛んで校舎裏の砂利の上を転がっていく。それを視線が追い掛けた瞬間、さらに追撃の拳が飛んできた。それを回避する事ができたのは心眼スキルの御陰だろう。
回避と同時に振り向けば、そこにいたのは髪の毛が逆立った三白眼の少年『爆豪カツキ』。要するにいじめグループの重役出勤なトップだった。
「爆豪……!」
「テメエ夕霧、一丁前に避けてんじゃねえよ!」
追撃の拳、振り下ろされてくる爆豪の手を捌いて受け流し回避する。魂に刻まれた『射殺す百頭・羅馬式』の徒手格闘が、各種スキルと連動して適切な戦闘行動を取らせてくれる。その動きはまるで歴戦の英雄そのものだ。小学生の頃から空手をやり込んでいて黒帯を取り全国大会にも出場する“程度”の実力じゃあ話にならない。
「チッ、このクソナードが! 死ね!」
「……知るか。お前が死ねよ」
「生意気言ってんじゃねえぞ格下ァ!」
拳、拳、拳、蹴り、拳。連続して放たれてくる攻撃を全てギリギリで回避する。こう見えてもコイツはネルフ重役の御曹司、反撃すれば権力に忖度した連中の手でこちらが悪い事にされてしまうから、いくらチートでも殴り返す事すらできない。
だからさっさと逃げたいところだが、その前に向こうに転がっているスマホを回収しておく必要があるし。
……というか、どうして僕がこんな目に合わなければならないのやら。今までされた事を一つ一つ思い出してみれば。
殴られた。
蹴られた。
笑いものにされた。
金を取られた。
毎度毎度ワンパターンな事ばかりだったが、だからといって恨みが消えるわけでもなく。
どうして被害者であるこっちが排斥されて、加害者ばかりが手厚く社会的に保護され、友達もたくさんいて、天才だと持て囃されながら前途洋々幸せな人生を送っているのを横目で見ながら惨めな人生を送らなければならないのか。
そうやって考え込んで動きが鈍ったのが悪かったのだろう。がぁん、と頭に衝撃。側頭部を殴られたのだ、と気づいたのは、殴り飛ばされて地面に転がってから。痛い。例えチートがあっても、自分の精神の弱さはカバーできない。それだけの話であり。
「クソナードがぁ、偉そうに抵抗してんじゃねえぞぉ! テメエはそうやって地面に這いつくばって、惨めに見上げてんのがお似合いなんだよぉおおおおおッ!!」
マウントポジションで圧し掛かられて、そのまま繰り返し顔面を殴られる。地面がコンクリートだから、ノックバックで衝撃が緩和される事もなくダイレクトに打撃のダメージが頭蓋に響く。幸いにもダークキラーの力で身体強度が上がっているから大事にはならない。そうでなかったら、死んでいても不思議じゃない。
僕の身体の上に乗っている爆豪は、怒りに任せて拳を振るいながらも楽しくてたまらないとばかりにその顔を笑みに歪めている。実際、楽しくて堪らないのだろう。コイツ、これだけやっても多分大した御咎めはないんだろうな。せいぜい、担任に仲良し握手を強要させられるくらいだろうか。気持ち悪い。
殴られながら頭上を見上げれば、既にそれなりの騒ぎになっているらしく、校舎から顔を出してこちらを覗いているような野次馬も教師含めて結構いるようだが、その騒ぎの元がネルフ重役の息子の爆豪であるせいか、誰一人止めにくる様子もなく見物に徹している。全く不愉快だ、誰一人味方もいないとはこの事だ。
そう思った、その時。唐突に爆豪の体の重さが消えて、拳が止まる。
「やめろ! アカツキに手を出すんじゃない!」
見知った少女。半分しか血の繋がっていない姉。藍染ヒビキ。地面に倒れた僕を守るように抱き締めて、ヒビキに突き飛ばされて尻餅をついた体勢の爆豪を睨み付けていた。
「テメエ白髪、オレの邪魔ぁしてくれて、どうなるか分かってんだろうなぁ!」
怒りに身を震わせて立ち上がった爆豪が腕力に任せてヒビキを押し倒して、ヒビキの綺麗な髪を掴んで拳を振り上げる。
もしかしたら、この爆豪という男も数年すれば人を虐げるという“弱さ”を克服して心身共に立派なヒーローに相応しい立派な人間へと成長するのかもしれない。もしかしたら、今のこの関係を脱却して心の底から信じ合い支え合える親友といえる間柄になれたのかもしれない。
だが、そんなの知った事か。もう駄目だ。これ以上は社会的にコイツがどんな立場だろうが許さない。そういうラインを、コイツは越えた。それでも我慢しなければならないのがどうにもならない一般的な現実というもので、我慢すべき事を我慢しなければならず、大人しく、大人らしく耐えて、頑張って、苦労して、我慢する事ができるのが大人というモノなんだろうが。
こういう時のための、転生チートだろう? ヒビキの髪を掴んでいた屑の手を払い落とし、クズの顔面を快く殴り飛ばす。それに対して糞野郎が怒りの声を上げるよりも先に。
「────やれ、ガンQ」
ぎょろり、と巨大な眼が開く。夏空を引き裂くように開いた亀裂が瞼となって、その下から血走った巨大な眼球が姿を現した。そこから迸る赤黒い電光が、周囲に無数の小爆発を引き起こす。校舎のガラスが爆ぜ割れてガラス片が降り注ぐ前に、僕はヒビキの手を引いて安全圏に退避した。
現れた巨大な眼球を中心にして瞼が形成され、見開かれた単眼を頭部として、その下に無数の眼球を備えた胴体が形成され、触手状の腕と角が伸びてくる。
奇獣『ガンQ』。『ウルトラマンガイア』に登場する怪獣の一体であり、非実体化や念動力、エネルギーの吸収といった多彩かつ異様な技を持ち味とする怪奇現象そのもののような怪獣だ。姿を消す事ができ、消えている間は目立たずにいる事ができる上に基本的に科学的手段ではほぼ検知できないので、対転生者用の護衛役として召喚しておいた怪獣であるが、もうそんなの関係ない。元より負の思念を力に変える力を持つ怪獣、だからこそ殺意と敵意を漲らせた今の僕が操るガンQは限りなく強い。
「そこの屑、しっかり殺しておいて。任せたよ」
僕の殺意に応えるように、ガンQは哄笑に似た鳴き声を上げ、腕代わりの触手を振り上げた。降り注ぐガラスの破片と共にハンマーのように振り下ろされる触手のその下には、ガンQの威容を目の当たりにして腰を抜かしている爆豪の姿があり。
これで終わりだ、そう思った。
「────冗談、だろ?」
だが、そうはならなかった。唐突に割り込んだ黄金の輝きが、振り下ろされるガンQの触手を防ぎ止める。
「ふざけんな……!」
閃光、轟音。大地から噴き上がる黄金の輝きと、それに合わせて走るサイバーパターンの電光。コンテナ一杯の砲弾が直撃したかのような轟音と共に、眼球の頭部を構成する巨大な眼球の中心に直撃した大質量と共に、ガンQの異形が吹き飛ばされて背中からアスファルトの地面へと倒れ込んだ。
「ふざっけんな……!!」
細く引き締まった体躯。赤と黒で編まれ、その上から銀色を流した未来的な意匠の上から特徴的なエックス字のカラータイマーが青く澄んだ光を放つ、光の巨人────ウルトラマンエックス。出現した正義の味方は、青く輝くサイバーパターンの輝きで降り注ぐガラス片を弾き飛ばし、ガンQを蹴り飛ばして見事、怪獣に襲われていた少年を救い出していた。
掌で保護した爆豪をそっと地面に下ろしたウルトラマンエックスは、そのまま振り返ると、ようやく体を起こしたガンQへと向き直る。だが、既にガンQと標的となった少年の間には正義のウルトラマンが立ち塞がり、絶望的な壁になって行く手を阻んでいた。
「アカツキ、逃げよう。ここは危ない」
「…………」
遠慮がちに袖を引っ張って退避を促すヒビキの手をそっと外すと、僕は前に出る。僕は間違いなく冷静さを失って、沈着冷静スキルですら追いつかない程に腹を立てていた。拳を握り締めた右腕に暗く燃え上がる闇が凝集し、円盤を象ってイヴィライザーが形成される。
ガンQが放った放電により、周囲の監視システムは電気系統ごとダウン済み。復旧には物理的に設備を取り換える必要があるし、ついでに周囲の人目も逃げるのに精一杯でこちらに向いてはいないから、変身しても問題なし。小気味いい音を立てて展開したそのパレットの一番上からダークキラーのクリスタルを掴み取り、ジャイロ中央のセントラルスロットに嵌め、腕を振り払うようにしてジャイロを回す。
「僕が殴られてる間は高みの見物で! ヒビキが殴られそうになっても狸寝入りで! いざ殴ったヤツがピンチになると正義面して助けに来るのかよ! ふざけんなよ、ウルトラマンエックスゥウウウウウウウウッ!!」
【イヴィルライズ────ダークキラー!!】
◆ ◆ ◆
黒く燃え上がる闇の塊が噴き上がる。地獄の業火と化した闇の力が空を覆って爆発し、その中心から地上に降り立つのは闇の巨人ウルトラダークキラー。頭部に備えた五本角と両腕の刃が特徴的な黒銀の威容。着地と同時に拳を固めたダークキラーは、インナースペースの中で同様に拳を握り込んだ僕の殺意に合わせてその両拳を繰り出した。
それを洗練された格闘技の動作で受け流しながら懐に飛び込んでくるエックスに対して、膝蹴りから直蹴り、回し蹴りと続く三段蹴りで迎撃し、跳躍して背後に回り、後ろ回し蹴りを叩き込む。それを躱してバク転で距離を取ったエックスに向かって右手から散弾のような炸裂光弾キラークラスターを発射。
それを防ごうとエックスが展開したエネルギー障壁に向かって一気に距離を詰めながら接近し、拳を振り上げて。
【ウルトラマンビクトリー、EXレッドキング────イヴィルロード!】
【ウルトランス────EXレッドキング、ナックル!!】
振り上げた右腕が、それこそ岩塊のように巨大な拳へと変容する。怪獣としても規格外なEXレッドキングの拳だ。人体とドラム缶のような対比のアンバランスなシルエットを描く巨拳を叩き込み、殴って、殴って、殴って、四発目でバリアが砕けて顔面に直撃、吹き飛びながらも倒れず、足元のアスファルトを足先で削りながらエックスは踏み留まるが。
【EXレッドキング、ウルトラマンメビウス、ウルトラマンタロウ────イヴィルロード!】
「死ね……アトミックレッドナックル」
EXレッドキングのそれを模した巨大な右拳から爆炎が噴き上がり、燃え滾る巨大な正拳直突きが無防備に立ちすくんだエックスの胸板に直撃。それすらもギリギリで踏み留まったエックスは、しかし追撃に放つキラークラスターの直撃を受け、両脇から展開し始めた兵装ビルを巻き込んで背後に倒れ込んだ。
それでも間を置かずに立ち上がってこちらに向かってくるエックスに、僕は思わず鼻を鳴らす。
「ガンQ、ヤツを止めろ」
インナースペースから僕が放った命令を受けて、巨大な眼球奇獣がエックスの前に立ち塞がる。ガンQ相手に光線技は通じづらい事を知っているのか中心の眼球に向かって拳を繰り出すエックスに対して、ガンQは左右に分裂するようにして二つに分身して回避、同時に頭部単眼の中心から放たれる赤い破壊光線をエックスは側転して回避、その身代わりとなった兵装ビルが二つほど巻き込まれ、崩落して地下ジオフロントへと落下していく。
「ここは、ビルを盾にしやがった、なんて下手糞な戦い方だ馬鹿野郎、とでも言ってやるべきかな、ネタ的に考えて」
初戦のウルトラマンメビウスが喰らった駄目出しではあるものの、ここでは当て嵌まらない、か。まあ、どうでもいい。鼻を鳴らした僕は足元を見て、そこに腰を抜かしたまま未だ避難していない爆豪がいる事を確認すると、地面にへたり込んだままの爆豪に向かって、躊躇なくその足を踏み下ろした。
最後まで呆然とこちらを見上げていた爆豪は逃げる事もできず、足の下で何かが潰れる感触。まるでゴキブリでも潰したような感触だ。もし万が一にも助かる事がないように足を地面に擦り付けて念入りに踏みにじると、それに気が付いたエックスが怒りの声を上げ、その全身がサイバーデータの輝きに包まれた。
【サイバーサキエル、ロードします】
蒼白く燃えるスパークがエックスの全身を彩り、その身を強化するサイバーパーツを形作っていく。両肩を覆いその肩幅を大きく広げてシルエットを変化させる大型のショルダーアーマー、両腕は巨大なパイルバンカーを内蔵したガントレットに覆われ、その先端から伸びる三本のネイルが金属音を上げて開閉する。最後に濃青色のアーマーが胸部を覆い、その表面に仮面状のパーツと、その中心を両断するSの字が青いクリスタルで刻印され、完成するのは『ウルトラマンエックス サキエルアーマー』。
【サイバーサキエルアーマー────アクティブ!】
第三使徒サキエルのサイバーデータから構築されたアーマーを身に纏い、その両腕を構え、時折胸部装甲から熱線を放ちながら、エックスは一直線に前進する。第三使徒サキエルの能力を宿したアーマーの能力は、その姿からも大雑把に推し量る事ができる。
両腕のパイルバンカーと、胸部から放たれる光線。つまりは第三使徒の能力を概ね忠実に模倣しており、その真骨頂はパイルが効果を発揮する近・中距離戦。
「近接戦がお望みか。……でも、ま、甘いんだよね。やれ、ガンQ」
【ウルトラマンタロウ────イヴィルロード!】
こちらに向かって踏み込んでくるエックスに向かって触手を伸ばしたガンQが、エックスを背後から羽交い絞めにして押さえつける。それに合わせてイヴィライザーの機能を稼働させると同時、ガンQの全身が瞬間的に膨れ上がり、膨大な炎を撒き散らして爆発した。
体内のウルトラ心臓さえ無事ならいくらでも復活できる、という特性を利用し、全身のエネルギーをオーバーロードさせ自爆するウルトラマンタロウの最大奥義ウルトラダイナマイトを、怪獣の身体で再現“させる”鬼畜技。ま、怪獣は基本的にウルトラマンとは違って、死んでも再生できないのだが。
「名付けて、怪獣ダイナマイト……うん、センス皆無だな」
しかも、それだけやってもエックスを倒し切れていない、というのが一番の問題だ。寸前で割り込んできたゴーバスターオーに疑似亜空間フィールドで防がれてしまった。それさえ無ければこちらの勝ちだったのだろうが、そんな事を言ってももう遅い、か。
一周回って冷静になった。もう鬱憤晴らしは終わったし、向こうはどうだか知らないが、もうこっちに戦う意味はない。二人肩を並べてこちらに向けて武器を構えるウルトラマンエックスとゴーバスターオーに背を向けると、そのまま空間転移を発動させて僕はその場から姿を消した。
◆ ◆ ◆
戻ってきた校舎裏には飛び散ったガラスの破片が散乱し、惨憺たる有様になっていた。擂り潰されてペースト状になった爆豪の死体がガラス片と一緒に土砂と入り混じって、気持ち悪い褐色の泥になって放置されているが、その位置を示すのはズタズタになった学生服の残骸くらいのものだろう。
遠目に見通せば校舎を囲う木立の合間からウルトラマンエックスとゴーバスターオーの姿が見えるが、そちらは完全放置だ。放っておけばその内に帰っていくだろう。そのまま、さっさと自分の星に帰って欲しい。そして二度と帰ってくるな、永遠にだ。
全身にまとわりつく怨念の炎を振り払い、我が身を隠す『巌窟王』の認識阻害の効果を切った。戻ってきた校舎裏を見回してみるが、人影はない。ヒビキもどこかに行ってしまったか、校舎の表の方は怪我人の運び出しなどでかなり騒がしいので、そちらの方にいるのかもしれない。
周囲を見回すと、最初に落としてそのまま地面に放り出されていたスマホが転がっていたので、軽く塵を払ってからポケットに仕舞う。そうして溜息一つ残してその場を立ち去ろうとした時、背後でがさりと木立が揺れた。振り返ると、立木の間から恐る恐る顔を出したヒビキの姿があった。どうやら、そちらに隠れていたらしい。
「ヒビキ、そこにいたんだ」
「……っ」
僕が手を伸ばすと、引き攣ったように喉を震わせたヒビキは一歩後ろに下がる。もう一歩、二歩とその分の距離を詰めようとすれば、同じようにしてヒビキも後ろに下がる。僕の体内を流れるダークキラーの闇の力が、彼女の心の裡の感情の流れを否応なしに理解させてくれる。
「…………そっか」
怖いのだ、どうしようもなく。ヒビキに向かって伸ばしたままだった手を、そのまま下ろしてまた、溜息。まあ、あれだ、仕方ない。闇の巨人、悪のウルトラマンなんて普通に考えてバケモノだからね。仕方ない。ちらり、と遠景を確認すると、ゴーバスターオーと頷きを交わしてエックスが空の彼方へと飛び去っていくのが見えた。御仲間達と仲がいい事で、実に素晴らしい事だ、
「……じゃあね、ヒビキ。縁が合ったら、また」
また、会おう。そんな縁、そんな可能性、どこにもないんだろうけど。
それでいい。僕にはその程度がお似合いだ。ヒビキに背を向ける。このまま帰って、荷物をまとめるとしよう。その内にヒビキの口からネルフかストレイジ辺りに情報が伝わるだろうから、そうなる前にさっさと避難する必要がある。まあ、ダークネスフィアという拠点があるから、一向に困らないわけだが。
そんな風に背中越しに手を振ってその場を立ち去ろうとしたその時。
背後から衝撃。驚いて足を止めてしまう。反射的に振るえた声帯から、息が詰まったような声が漏れた。
「────駄目。行っちゃ駄目。駄目だよ、アカツキ。……お願いだから、私を一人にしないで」
「………………そっか」
背中に感じる温もり。背後から、身体ごとぶつけるようにヒビキが抱き着いていた。そうか、と納得する。少なくとも、ヒビキは僕よりも強いらしい。力とか転生特典とかそういうアレじゃなくて、単純に、心が。それが、今はどうしようもなくありがたかった。
だから、立ち去るのはやめにしよう。もう少し、この世界にいよう。そんな事を考えた。
いじめ被害者にチート能力渡せば、そりゃこうなるよね、って話。
正義の味方は正義にしか味方できない。大衆の味方は個人に味方する事は出来ない。名前のない誰かの守り手は、名前を持つ大切な誰かを守れない。
~割とどうでもいい設定集~
・藍染ヒビキ
主人公である夕霧アカツキの半分血が繋がった姉。
実のところ、割といいところのお嬢さん。小学校上がった頃から全く伸びていない身長が悩みの種。
母親にはアカツキとは対照的に溺愛されているものの、そんな母親に対して恐怖心ばかりを抱いており、距離を取りたがっている。
アカツキの姉妹なら響だろ、という艦これ的な発想からこんな感じのキャラになった。
アカツキは強い女性だと信じているが、実はそんなに強くない。割と精神的に一杯一杯で依存度が高い感じの子。依存したいし依存してしまう。共依存すると一緒に堕ちるところまで堕ちてしまう。そんな感じ。
・爆豪カツキ
元ネタは『僕のヒーローアカデミア』。原作との違いは個性とかいう特殊能力がない普通の中学生で、ヒーローを目指してない部分くらいか。
つまり、主人公がデク君のように優しく、デク君みたいに器が大きくて、デク君みたいに友達思いで、デク君のように強い心を持ち、デク君のように自分を省みず、デク君のように人を恨まず、デク君のような本物の聖人だったら、もしかしたら普通に生き残って互いに信じ合い支え合う無二の親友に成れたかもしれない、そんな感じの人物。
当たり前だが、主人公はデク君のような聖人ではないので、というかそんな人間普通はいねぇよという話なので、あっさりガチギレされて死んだ。
デク君ならできたぞ! デク君ならできたぞ! デク君じゃないから無理だがな! そんな具合。
そういう具合でストーリー上の意味合いからすると、アカツキが主人公的な人間ではない、っていうキャラ付けとストーリーの方向付けみたいな感じの犠牲者第一号。